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またの名をグレイス
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またの名をグレイスの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.60pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全5件 1~5 1/1ページ
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(上下巻通してのレビューです) 「女殺人者」グレイス・マークスは、冷静、率直、賢明、善良、強靭、ときどき辛辣。だが、記憶が失われている(と彼女自身は言っている)ことで、彼女が本当のことを語っているのかどうかは結局分からない。他人が自分について語る言葉、根拠もなく、意識的・無意識的に歪められた言葉が事実とされていくのだとすると、自分自身もそれに抗う記憶が無いのだとすると、事実とはいったい何なのだろう? | ||||
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19世紀のカナダである女性を巡る殺人事件が起こり・・・というお話。 実際にあったという19世紀のカナダで起こった殺人事件を軸に展開する小説。ただ、あまり娯楽化、ミステリ風にはしていないで、この事件が実際はどうゆう事象だったのかを考察した感じの小説でした(この辺は似た様な設定のマキャモン氏の「魔女は夜ささやく」と比較するとよく判ると思います)。 最後に割と長い著者アトウッド氏のあとがきがあるので、それを読みながら考えた事を記すと、過去を現在の視点で読み解いて、現在に照射したのかと思いました。時間が経つにつれて様々な尾鰭がついて事実と違う事が語り伝わってしまう人間社会への警鐘、当時の裁判や精神病の治療のあり方への疑義、そして、この女性が本当はどうゆう人物だったのかを出来るだけ正確に再現して、現代人のあり方等を探った作品に思えました。そういう意味では歴史メタフィクションの体裁を持った小説に思えました。現代文庫という枠で出版されているのもそういう事だと思います。 もちろん、良く出来た歴史小説としても面白く読めるので、上記の様な事を抜きにしても読み応えのある小説でした。通俗ではないけど品格のある文章、精彩のあるキャラクター、史実を踏まえながら自由に解釈した当時のカナダの状況等、リーダビリティ溢れる一級の小説だと思います。 何でもノーベル賞の候補にも挙がっているとかで、いつか獲るのかもしれませんが、この小説がその流れに竿をさす役割を果たすかも。アトウッド氏の作品はこれが二作目ですが、やはり相当な力量の作家だと思います。 現代を読み解く為に過去を探ったと思われる小説。是非ご一読を。 | ||||
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作者の作品を読むのは、代表作「侍女の物語」、出世作「浮かびあがる」、集大成「昏き目の暗殺者」に続いて本作で四作目。作者の作品の特徴は、監視(管理)世界への警鐘、フェミニズム、ミステリ・タッチ、文学的嗜好の横溢、木目細かい心理描写等だと思うが、本作は、これらの特徴を凝縮した上で、カナダで実際に起きた殺人事件の共犯として告発・拘置されたグレイスという女性を巡る(一見)ドキュメンタリ風の骨太の大作である。 作者はこの殺人事件の真相やグレイス本人について一応関心を持っていただろうが、勿論、文学的企てがある。まずは、「昏き目の暗殺者」にも似た巧緻な全体構成である。グレイスの一人称の章、数々の記事・書簡、古典からの引用、グレイスの担当精神科医サイモンを主体とした三人称の章等をカットバックで多視点で描く事によって、人間の心の揺らぎ、記憶の曖昧性、性的暴力による人格分裂といった人間心理の闇を巧みに炙り出している。中心となるグレイスの一人称は、当然ながら、語られている内容の虚実が不明なので、読者を迷宮へと誘う作者の筆力が冴え渡っている。一方、三人称の章は本作に客観性を与えると共に、グレイス(スコットランドからの移民)の身の上話と併せて、アイルランドからの移民であるサイモンの体験を通した一種のカナダ史ともなっていて、本作に奥行きを与えている。こうして見ると、移民国家であるカナダの歴史小説の趣きをも呈していて、作者の懐の広さを改めて感じた。また、グレイスの一人称中のベッドで見る<夢>と性的行為の話が印象的であると同時に、"りんご"に関する話題が多く、容易に「アダムとイブ」の寓話を想起させる。即ち、罪と宗教との関係という本質的問題にも迫っているのだ。 降霊会を初めとする神秘的雰囲気を漂わせている点も作者の特徴の1つであるが、伏線を巧みに張っているとは言え、表題の真の意味が突如として浮かび上がるサイモンに纏わる驚愕のラストはまさに圧巻だった。多彩かつ豊饒な内容に満ちた、まさに集大成と呼ぶべき傑作だと思った。 | ||||
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19世紀半ば、16歳で殺人容疑者として投獄された実在の女性、グレイス・マークスを著者が丹念に調べあげ、不明な部分を付け足して作り上げたフィクション。前半は主にグレイスの不幸な生い立ちおよびメアリー・ウィットニーとの関係が語られる。後半はグレイスは殺人者か無実か、ファム・ファタールか純潔かという謎が医師ジョーダンとの関係を軸として展開する。 結論からいうとひとつの物語としてのオーガニックなまとまりにかける。ページターナーとして提示される数々の謎はがあっけないほど地味に落ち着き、グレイスとジョーダンはどうなるのかというサスペンスは尻切れトンボ的に放置される。カタルシスとしての「感動」の欠落が史実に忠実であることに由来するならまだしも、フィクションの部分なのでがっかりしてしまう。特にジョーダンには第二の主人公といえるほどウェイトが置かれいて、彼の視点で語られる部分も多いのに、まるで著者が彼の処分に困ってしまい、当時の歴史的な背景を考えるとこんな感じかと深く考えずメインのプロットから消してしまったかのよう。 当時のカナダでの貧しい召使としてグレイスの生活の描写は面白い。お茶ひとついれるにも外で井戸から水をくまないといけないし、薪で火をおこさないといけない。電気やガスが来る前の昔の家事の描写は真剣に面白かったけどプロットとは関係薄いんだなぁ。悩み、迷いだらけのジョーダンの心中も面白い。若い男の性的苦悩、自己嫌悪、欺瞞の鋭い描写は著者ならでは。しかし、そうした部分では著者の力量が全開なのに全体になるとそのパワーがガス漏れのように消えてしまってちぐはぐな印象だけが残る。史実を元に描くことで却って著者の想像力に歯止めがかかったか。事実は小説より奇なり、ではなく逆でなくてはならない!でないと小説読む意味ないからね。 | ||||
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テーマからして重そうで、女性であるが故の不幸がこれでもかと描かれていそうで敬遠されるかもしれませんが、驚くほど読みやすい、ページを繰る手が止まらない本です。 殺人の容疑者であるグレイスと若い精神科医との対話が大部分を占めています。読みやすさは語り手と聞き手がいる形式のせいかもしれません。 グレイスが正気なのか、どういった人間なのかを明らかにするために、生い立ちから事件後の収監所での生活にいたるまで細部にわたって描かれているのですがまったく冗長にならず、19世紀のカナダの社会や生活の細かな描写は女性が語り手なので衣服や食べ物にまで及んでいて、楽しめました。不幸をアピールしたりせず、センチメンタルにならない、欠点の見つからない小説でした。 | ||||
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