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高い城の男
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高い城の男の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.85pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全61件 41~60 3/4ページ
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いま49歳です。 最初のこの本を読んだのは、高校生の頃。ざっくり35年まえです。 この作品ではもはやSFではなく、文学的な境地まで達していると思います。 この本を読む前に、「ユービック」、「ヴァリス」、「火星のタイムスリップ」、「去年を待ちながら」、「時は乱れて」を読みましたが、この作品はとても完成度が高いと思います。 | ||||
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とにかく、原点となる設定がすごいし、びっくり! 色んな意味で考えさせられる本でした。 | ||||
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この本は、歴史改変小説の一種である。この小説の世界では、連合国は、枢軸陣営に敗北し、支配されているのだ。 ここまでなら、よくある歴史改変小説であるかもしれない。だが、この小説の面白いことは、入れ子の構造になっていることだ。この小説の登場人物たちもまた、「連合国が枢軸国に勝利していたら?」という小説『イナゴ身重く横たわる』を読んでいるのだ。劇中では聖書から付けられた名前と言っていたが、意味はよくわからない。ともかくも、ナチスドイツでは、そのような本は発禁本となっていたが、舞台となる太平洋岸連邦では普通に書店で買えるものになっている。その小説を中心に物語が進んでいく。 作中で何度も、日本人は、完璧なコピーを作る。ある種、皮肉を込めてそう語られていた。この小説でのアメリカもそうで、全ての工芸品は日本人が好むように作られた、模造品であった。訳者も言っているが、この小説は、模造品やコピー、偽名などが、一種の「偽物」ということをキーワード含んでいて、それをテーマにしているかのように感じる。仮初めの世界の、仮初に生きる登場人物が、本物になるまでの話。そう思えばいいのではないだろうか。 例えば、チルダンというキャラも、アメリカ人として、本当に生きていくため、模造品ではなく、オリジナルを売ろうとするし、フリンクもオリジナル製品の作成を目ざす。そして、最後に、歴史改変という嘘(フィクション)の小説も、実は真実であったと展開する。この小説の凄いところは、偽物→本物への大転換を、登場人物だけではなく、世界観そのものにまで広げたことにあるのかもしれない。 | ||||
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文学的SFと言うか、哲学的SFと言うか多面性をもった興味深い読み物。 | ||||
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この本は翻訳で読むのが正解でした。易経を英語で読んでも歯応えありすぎで挫折したと思います。(^-^; もしも枢軸国が第二次大戦で勝利したら?の世界って種々の作品群が有りますが、ディックの描く世界も興味深く、楽しみました。易経の入門書を買おうかな?(^-^) | ||||
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冒頭は抜群に面白い。 おすすめです だけどやはりディックの作品らしく最後にちょっと失速します | ||||
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ギリギリ、お話が破綻しそうなところを、なんとか、こらえた、ディックの有名な小説。 ストーリー自体は、他のレビュアーが書かれているとおり、IFの世界で、IFの世界の小説が 世間に出回って・・というだけ。しかし、このアイデアだけで、ここまでの長編ができた のも、ディックお得意の、たくさんのガジェットをふんだんに盛り込んだのに加えて、 易経だの、日本の軍人だの、ナチだの、古物商だの、偽物だの、なんだのと おもちゃ箱をひっくりかえした、強引な描写の連続で、あたかも、そんな世界に 読者が迷い込んだような錯覚を感じるような、独自の世界観のたまもの。 沢山映画化されているディックの作品の中で、有名な作品なのにもかかわらず いまだに映画化されていない。その理由は、多分、ストーリーがビジュアル的でなく 精神的、哲学的な要素が多いところにあるのではないか。そんなことを思ってしまいます。 それにしても、骨格はアイデアベースなのに、その小説手法のなんと複雑なことか。 登場人物相関図を書きながら読まないと、迷いの森のい入ってしまう。 ところで、ネタバレはいけないですが、その発禁本、『イナゴ身重く横たわる』の 作者、『高い城の男』の本当の姿が、最後の最後で明らかになるのですが、これがまた 絶望的なほど、どうしようもないラストで・・・・。 | ||||
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2012年7月7日の朝日新聞bfの“再読”欄で池井戸潤「民王」、高村薫「新リア王」、伊坂幸太郎「ゴールデンスランパー」と並んで“絵空ごとのまつりごと”小説の代表と推された作品。第二次世界大戦でナチスドイツと大日本帝国が勝利し分割支配されたアメリカ人が主人公の架空世界だ。一時流行したIf戦史でも日本がアメリカを支配する想定は寡聞にして知らないから、それだけでも読む価値はある。 しかしながら、本書に登場する日本人には、設定も造形も不満が残る。「易経」に振り回される太平洋岸第一通商代表の田上氏、駐在員の若い夫婦、スウェーデン語ができる田上氏の部下、駐米大使鎌倉男爵ほかの外務官僚、実力者とされる謎の矢田部氏こと元参謀総長手崎将軍。ドイツ側ではボルマン、ゲッペルス、ゲーリングなど実在した人物が登場するのに対し、いかにも役不足。先達の評者も指摘しているが、神・国家元首・大元帥の天皇は別格としても実権を握っているはずの首相以下の政府・軍部の高官が姿を見せない。さらに宗教と心理学にまぶされた人物表現はいささか鼻につく。別の魅力かもしれないけれども。いずれにしても、想像力にも賞味期限あるらしい。現実ははるかに絶望的ではあるまいか。 | ||||
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レビューのタイトルを見て、私がナチスドイツや大日本帝国などの枢軸国に支配された世界に対して生理的な嫌悪感や恐怖感を覚えていると思われる方もいるかもしれないが、そのことを意図してはいない。私が恐ろしいほどの現実感とのタイトルにしたのは、本書で描かれる登場人物たちの日々の生活や思い、そして、それらの人物たちが織りなす世界があまりにも現実的に感じたためである。 本書は、枢軸国が連合国に勝利し、ナチスドイツと大日本帝国が世界を二分した世界を舞台にしたものである。その世界では、連合国が枢軸国に勝利する世界を描いた「イナゴ身重たく横たわる」という小説が大ベストセラーとなっている(ちなみにこの小説ではアメリカとイギリスが世界を二分しており我々のいる現実とは状況が異なる)。登場人物たちは枢軸国が支配する世界の現実を受け入れながらも、「イナゴ身重たく横たわる」という小説にそれぞれの仕方で関わり、影響を受けることになる。 本書の特異な特徴としては、登場人物たちが何らかの選択を迫られた際に、易経を利用する点が挙げられる。著者のフィリップ・K・ディック本人も日常的に易経を利用しており、本書を書く際にも利用したとのことだから、非常に易経と縁の深い小説とも言える。易経は簡単に言うと君子が取るべき行動の規範を人間に示したものだが、その意味では、本書の登場人物たちは不条理な現実の中で、必死に道(タオ)を踏み誤らないように易経に頼っていることになるだろう。 ところで、最初に恐ろしいほどの現実感と書いたが、私がそれほどの現実感を感じたのは、もしかしたら易経のせいかもしれない。易を立てる登場人物たちから、なんとかこの現実を切り抜けたい。これから我々はどうなるんだろうか。という切実な願いとも叫びともとれないものを感じてしまうのは、私だけだろうか。 | ||||
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大雑把に言うと次の3つのストーリーライン 1.ビジネスノベル脱サラ独立系 2.国際政治ノベル諜報活動系 3.恋愛ノベル道行きロード系 1はユダヤ人の身分を隠して西海岸の工場で日本人を 相手に記念品贋作を作っていた腕の良い機械工が仲間一人と 共に脱サラして独立する話。例に寄って例の如く本物と 偽物とではドチラにカチ?のディック節です。 お好きな方はソコソコ楽しめます。多分。 2は1の機械工の作った品を小売商から買ってコレクションしてる 日本人の偉いサンが国際的な陰謀に巻き込まれる話。最後は思い切り ヴァイオレンスです。更にその後、この日本人のエライさんが 中年期危機みたく戦闘ヴァイオレンスのトラウマに悩まされてる シーンがエンエンと続いて例によって例の如くディック節。 お好きな方は相当楽しめると思います。多分。 3はアラサーアメリカ人女子がロッキーの麓にある 田舎町で出会ったイケメン伊太利亜人男子と一緒に デンヴァー方面を目指して旅するロードムーヴィー風の カントリー道路小説。耳をすませばお好きな方には相当 楽しめるでしょう。多分。てかアラサーのクセに 余り考えてないし女子中学生レベルなのは60年代アメリカ人女子を 戯画化してるのかしら?こんな女、今いねーよ!のセカイ? ちなみにこのアラサー女子は1のユダヤ人男子機械工の 元彼女だったりしまーす。 対比的に考えると、1と2は宗教的な素朴な信仰心の 必要性を提示して物質的豊かさよりもココロの豊かさ みたいな事を言ってるようでいて、日本人殲滅計画の ように物理攻撃をされたら精神文明も何も・・・と 多少ヒニクめいてます。しかし、3は家付きカー付き ババア抜きで、カラーテレビ・カー・クーラーの 物質的豊かさが地球上の全人類の福祉に貢献する 姿を「イナゴ」の中で訴えて、アラサー女子がソコいら辺を 読んで目とかウルウルさせてます。物質文明が駄目 科学が駄目じゃなくてソレを使う人間次第・・って 在り来たりな印象。 さーて、肝心のラストですが「魚豚の如き」者にわ 分らない様になってます。多分、参考になりそうなのが 例によってボルヘス「八岐の園」です。 | ||||
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もし、第2次世界大戦で枢軸国側が勝利し、アメリカを日本とドイツが占領したら という着想で書かれた作品である。 当然ナチは完膚なき叩き方、大悪として描かれる。 ところが日本にはものすごく好意的なのである。 書かれたのが1963年(昭和38年)東京オリンピックの直前ということもあろうか。 日本人はここで書かれた精神性の高さなどを忘れて2012年のいま、 持っているのだろうか。 | ||||
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わたしは中学校のころアシモフやクラークを読んでいて、高校生になってからディックにはまりました。 『高い城の男』は数あるディック作品のなかでも屈指の出来を誇る大傑作です。私事ながら高校生のころは熱にうかされたようでした。ああ、懐かしい。 いつものディック作品らしく、現実という現実があやふやになっていくのですが、そこに至るまでの物語が面白い。ある種のミステリですな。 これも私事ですが高校生のころは学業の出来が悪くわたし自身も当時の現実を現実だと認めたくありませんでした。だからこんな本読んでいたのですな。 読み応えはいいのか、わるいのかはこれはひとによりますな。けったいなSFなので(吾妻ひでお氏のそれと似ているかも)……ともかく面白いですよ。 | ||||
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第二次世界大戦でドイツと日本が勝利したアナザーワールドが舞台のサイエンスフィクション。 暴力の気配に満ちた不安な世界を描くストーリーも抜群に面白いが、なんといっても最大のポイントは、 この世界で、ドイツと日本が負けた世界を舞台にした小説がベストセラーになっている、という、 一種の入れ子構造を作り出したこと。 主人公の女性は小説の作者に出会うためにドイツと日本に分割統治されたアメリカを旅する。 終盤に作者に出会い、小説の真意を確かめるべく、易経で卦を立てる。 そこで明らかになる驚くべき真実とは。。 ここで読者は、まるでフィクション中の人物がこちらの現実世界に浸透してくるような、驚くべき 感覚を感じることであろう。これまで積み重ねられてきたストーリーがすべてこの感覚に集約される。 一種の文学的特異点と読んで差支えない。 この不思議な感触、活字ならではのものであろうし、本を愛するすべての人に味わってほしい。 なお本書は易経を使って書かれた、と、まことしやかな説明がつく。とはいえこれほど高い完成度の小説が、 偶然の積み重ねで出来上がるとは思えない。作者P・K・ディックの韜晦であろう。 だが、現実と小説世界、さらに小説の中の小説の世界、という三重の世界を繋ぐ普遍的真実として、 易経はなくてはならないアイテムであることがよくわかる。そしてその真実は我々の現実世界の 存在すら危うく感じさせてしまうほどの、恐るべき問いを投げかけてくる。 このような構造を考えだした作者の才能にただ慄然とする。 P・K・ディックの小説はどれも文学性が高いが、本書は手法とテーマが見事な融合を見せ、 とりわけ完成度の高いものだと感じる。サイエンスフィクションの範疇でくくってしまうのは あまりにもったいない、小説史上に残る傑作だと思う。 | ||||
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新しいカバーの版が出ていたので、改めて買いました。昔はオチがよく理解できなかったのですが、我々の生きる現実の世界に、自己認識と世界(世間)とのずれを感じるようになって来て、この小説の言わんとするところが(恐ろしいことに)解かってきたように思います。フィリップ.K.ディックは常にそうした不安感を抱えて生きていたのでしょうか?精神病的なのは自分自身なのか世界なのか...まるでディックの描く悪夢のような現世界に私も不安で一杯ですが、"高い城の男"が言うように"それ"(ネタバレ秘匿)はあり得ることなのでしょう。ミリタリーテイストのカバーが示すように日独の対立構造が基本の"この世界"なのですが、その手のマニア諸氏の感性をくすぐるような小道具(メッサーシュミットE9ロケット船、航空母艦翔鶴、エルアラメインの戦い)なども出てきて読むにつれて"この世界"に引き込まれて行きます。「流れよわが涙・・・」や、「電気羊・・・」も同傾向の作品ですが、この作品が一番の大仕掛けで読み応えがあると思います。「逆回りの世界」も改版/カバー替え(できれば新訳/改訳)して再販して欲しいですね☆ | ||||
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本小説は、日本・ドイツ・イタリアの枢軸同盟が勝利した仮想世界を描く。その作中において重要な役割を果たす『イナゴ身重く横たわる』は「もし英米が勝利したら〜」という仮定に基づいて書かれた小説である。 幾つかの流れが、この小説を彩っている。政権交代に伴うドイツ国内の政治的混乱が高まる中、どうにか政治的破局を回避しようとする良識的ドイツ人、新しいアメリカ的価値を作り出そうとするユダヤ人、その価値を広める重要性に気づくアメリカ人男性、『イナゴ身重く横たわる』の作者に危険を知らせようとするアメリカ人女性、そして人間として大きく成長しようとする日本人。 作者ディックは作中、『イナゴ身重く横たわる』には「真理」が含まれていると、登場人物に語らせる。その「真理」に触れた登場人物たちは、自らの信念に基づいて自分の信じる道を歩んでいく。破滅的な世界の中(ディックの描くナチス支配下のアフリカやソヴィエト・ロシア)で、ディックは(ナチズムを信じる人々以外の)人間の良識を信じようとする。 SF作品は数多くあるけれども、反実仮想をその小説の現実として描き、現実に起こった出来事を「仮想世界」としてその小説の中で描いた書籍を、私は初めて読んだ。そういう意味で私はそのコンセプト自体がユニークだと考えている。 | ||||
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もし第2次世界大戦で枢軸国側が勝っていたらという設定のパラレル・ワールドを舞台にしたP.K.ディックの代表作。設定はどうであれ、作者の関心は常に社会のあり方、その中での人間模様、表面的な欺瞞の裏に隠された真実にあり、本作ではそれらが遺憾なく描かれている。作中で、「もし連合国側が勝っていたら」という設定(史実に近いが微妙に異なる)の小説が登場し、「高い城」はその小説家が立て篭もっている場所を指す。レビュー・タイトルはその小説の名前である(聖書からの引用)。 作中作で描かれる世界もかなり醜いもので、戦争にどちらが勝とうが、作者が物質中心の世界に希望を見い出せないでいる事が分かる。その代わり精神性を重視している点が目立つ。戦勝国のドイツと日本の描写を比較すると、ドイツの政治家が醜悪に描かれるのに対し、日本人の精神性の高さが評価されている。面映い程である。特に領事の田上の武士道的精神性は殊更強調されており、作者をして「私の願いは田上氏がいつまでも記憶に残ることだ」と言わしめている。作者が、易経、禅、伊万里焼など日本、中国の研究を良くしているのにも驚かされる。そして、ユダヤ人が作ったオリジナルの装飾品に新しい世界の創造の光を見る辺り印象的である。それにしても、作中に出て来る次の短歌は英語でどうやって表現したのだろうか ? 「ホトトギス鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる」 もう"SF"という冠がいらない程の、物質社会への批判と精神性・創造性の重要さを説いた傑作。 | ||||
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SFから見た第二次世界大戦後の物語。 ちまたに溢れるお馬鹿なシュミレーション物とは訳が違う。 こういう設定を考え、ここまで書き込めるのはさすがにF・K・ディックだと思う。 「If」という事からSFが発想するとすれば、ここまでの作品ができるというお手本。 途中で何度もこれはSF、これは虚構と言い聞かせなければ、 どんどんディックの世界にはまり込みそうになる自分が怖くなった。 そんな事に興味はないという人は結構です。 勝手にお馬鹿で低レベルな「If戦記もの」を読んで憂さ晴らしして下さい。 | ||||
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第2次世界大戦で枢軸国側が勝利した世界。世界は日本とドイツによって二分され、アメリカ合衆国も両国に分割支配された。太平洋沿岸諸州は日本に、東岸諸州はドイツに。 日本が支配する太平洋沿岸諸州では、アメリカ人は日本人に媚びへつらい、尊敬の念すら感じており、日本人は古き良きアメリカの文化に感傷的な憧憬を抱き、その生活様式を模倣していた。 かつての尊厳と誇りを失ったかに思えたアメリカ人だったが、彼らの間で或る小説がはやっていた。その名は『蝗(いなご)身重く横たわる』。『高い城』と呼ばれる要塞のような邸宅に住むといわれるアベンゼンという作家が書いた作品で、第2次世界大戦で日本とドイツが敗れ、アメリカとイギリスが世界を二分するというその小説は、ドイツ側で発禁本とされ、日本側で大ベストセラーとなっていた。 そして、世界情勢は、再び悪化しつつあった。かつての同盟国である日本とドイツが、対立を深めつつあったのだ。平和な世界の水面下で進行していく陰謀・・・・・・ この作品では、ディックのよく用いる「本物/贋物」のテーマが頻繁に現れる。アメリカ美術工芸品のイミテーション、人種・経歴を偽る登場人物たち、偽の歴史を書く『蝗』、そして枢軸側が勝つ虚構の世界・・・・・・ そして不確実な現実を象徴する易経。ディック作品全てに言えることだが、作品の裏に隠されたメタファーを読み解くと、より興味深く読めるだろう。 眩暈にも似た強烈な現実崩壊の感覚を堪能できる傑作。1963年、ヒューゴー最優秀長篇賞受賞。ディックの作品の中では比較的読みやすく、入門としては最適だと思う。 | ||||
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まず物語の構成がすばらしい。 舞台は日本とドイツが勝利した第二次大戦後の世界。その世界では骨董品が流行っているが“偽物”も出回っていて。。。更に連合国が勝った“偽の”歴史を書いている『高い城の男』がいて。。。主人公達は取るに足らない一般市民達。みなそれぞれに悩みを抱えて生きている。彼らが別々の場所でちょっと勇気を出して他人の為に行動する事でバタン!バタン!と世界が良い方向へ。。。そして最後にはナチスの水爆の使用中止を予感させるところまで。。。読み終わって現実に戻っても物語の続きのような気がして前向きな気持ちにさせてくれます。 ディックの作品は“SF”という形をとってはいるがどれも普遍性を備えたものであり、これこそが他のSF作家と一線を画すところだと思う。本書では我々の“認識(精神)”と“物質”のどちらに本質があるのか?がテーマになっている。例えば同一成分のライターでもチャーチルが使ったものとそうでないものに価値の違いを見出す人間の精神って何なんだ?という疑問。 | ||||
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「ナチが第二次大戦に勝利した世界」というのはSFとしては格好のテーマで、何冊も類似本は 出ていますが、ナチを理解した上で作った虚構の世界としては、この作品はかなり高級なレベル。 ナチが勝利して占領された合衆国で、ある作家が書いた小説は、現実社会で起きた第2次大戦の 顛末そのもので……。っていう悪夢に現実を入れ子にした構造も、妙な味わいです。 ネタばれになるのであまり書けませんが、“ナチが勝ったらそうなるだろうな…”というディテールの 悪夢っぷりが、さすがディックです。易が象徴する、東洋的なものを加えている辺りもおもしろい。 “悪魔のような奴が、真理を見抜く力や美を理解する心を持つ” “悪を倒すために、別の悪と手を組まざるをえないジレンマ” 『電気羊』や『流れよ我が涙~』などで出てきたディック的なテーマも健在。 物語の破綻も少なく、読みやすいので、意外とファンには評価が低いのかが、疑問なんですけど…。 | ||||
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