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ハーモニー



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ハーモニーの評価: 4.15/5点 レビュー 253件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.15pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全198件 181~198 10/10ページ
No.18:
(5pt)

どの要素を採り上げても一級品!

暗黒の『虐殺器官』の時代の後に来た、染みの無い、
真っ白な世界を装った時代を舞台としたディストピア小説。

『虐殺器官』の主人公のように「感情感覚を統御され」ている、
というギミックに頼ることなく、真正面から生命と死、
人間の自意識といった難問に挑んでいる。
(無論、答えが出ているわけではない)

PC画面や翻訳小説など様々な叙述形式を嵌め込んだ
スタイリッシュな文体・用語、
前作にも増して緻密に組み立てられた世界観、
様々なイズムを並列してみせる社会観、
どの要素を採り上げても一級品である。

閉じ急ぎすぎのラストに批判もあろうが、他の要素が補って余りある。
この小説家の進化のステップを、今後一緒に踏んで行けぬことが
返す返す残念でならない。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.17:
(5pt)

21世紀のユートピア/ディストピア小説

今年の2月に文庫本で出た『虐殺器官』に続き、こちらの文庫版で読んだ。どちらもものの見事な傑作。この文庫化で著者の作品に初めて触れた読者はかなり多いと思うので、私情と思い込みの混じりすぎた倒錯的な表現になるが、2010年の最も優れたエンターテイメント小説がこの2冊であり、最も注目された作家の一人が著者である、などとも言えるのではないか。
人間とは何か。特に現代の社会に生きる人間とは何か。この問いをめぐりここまで思考を刺激してくれる作品にめぐり合える喜びは、滅多にない。前著では国民・国家の存立を言葉の次元で揺るがす「虐殺の言語(文法)」、本書では国家・国民の身体を公的に保護・管理するウルトラ医療社会の「生命主義」と、なんとも壮大な理論を中核に置きつつ、だが緻密な記述の妙によって説得力高く架空のありえそうな世界を描き出しながら、人間存在の意味を探求する。しかも、そのさなかで生きる「ぼく」や「わたし」の宿命を、読者の感情移入を巧みに誘い出しつつ提示していくのだ。面白すぎるではないか。
文庫のカバーだが、『虐殺』は真っ黒、本書は真っ白。ごく素朴に考えれば、それぞれ「死」と「生」をあらわしているだろうか。もっとも、どちらの作品も、人間の生死の極限と交点を示唆深く書いている。いずれにせよ、明らかに対をなす書物。繰り返しの再読に耐える本だから、是非二つ並べて本棚に。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.16:
(5pt)

伊藤さんの描く近未来はリアル過ぎて、背筋が

私見ですが「虐殺器官」において具体的に描写されることのなかった言語学の生成文法を究極的に発展させたものと思われる「虐殺の文法」の機構の一旦が本書において詳らかにされているように読みまして肝を冷やし続けています。言語中枢が解明された暁には、伊藤さんが3篇の長篇で描かれた世界へ段階的に以降していくのだろうと信じてやみません。その是非は本書の「宣言」を突きつけられるように返答に困るものですが。科学の発展が幸せとイコールにならない世知辛い21世紀だとつくづく思います。今のところ資本主義と民主主義が政体として謳歌していますが、歴史というものは諸行無常なのだから、現状の逼塞状況を打破するこれまでにない新たな政体が生み出されるだろうけれど、それはいったいどういう機構になるのか・・・何度考えても全く想像もつかなかったのですが、伊藤さんの文章を通じて、その予見を目の当たりにし、さらに想像を絶する思いに翻弄されています。略歴を見て同い年であったことを知りました。もっともっと伊藤さんから世界の理を教えてもらいたかった。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.15:
(5pt)

最大の弱点にして、いとおしい「意識」

人類が地球上で生態系の頂点に君臨した要因は何か?体力的には虚弱な人類が文明を築き繁栄しているのは、まさしく巨大な大脳がつかさどる意識による選択の結果によるものだと思います。もう古典とさえいえる映画マトリックス [Blu-ray]でサーバにつないだ脳に送り込んだユートピアが実現されました。本書で提示されているひとつのユートピアの選択肢のうちの意識なきハーモナイズされた世界はまさにこのような世界になるのでしょう。ちなみにマトリックスが作ったユートピアの住人は選択のない世界に絶望し、そのユートピアは失敗に終わりました。

他の動物に比べ明らかに優れているが、弱点にもなりうる人間の「意識による選択」は、唯一他者と差別化できる優位点であり、弱点があるので排除するというのは、自分の持っている唯一の強みを封印して生きるようなものだと思います。私自身は強みを含んだ弱点を封印して生きる人生より、時として自滅への道を踏み出すかもしれないが自分の持つ強みを活かして生きていくことを選ぶように思います。それがたとえ全体の解に反するとしても個の意思は人間の生の原動力になるのだと思います。作中でも、それぞれがそれぞれの立場で意識による選択を行った末の行動であることも偶然ではないと思います。

作品は必ずしも個人の価値観にふさわしい結末が用意されているとは限りませんが、だからといって作者の提示した問題提起や作品の価値が損なわれるものではないと思います。あなたが誰であれ、一読に値する作品であることは間違いありませんので、ぜひ手にとってみて下さい。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.14:
(5pt)

私たちに「意識による選択」は不要なのか必要なのか?

人類が地球上で生態系の頂点に君臨した要因は何か?体力的には虚弱な人類が文明を築き繁栄しているのは、まさしく巨大な大脳がつかさどる意識による選択の結果によるものだと思います。もう古典とさえいえるマトリックス [Blu-ray]でサーバにつないだ脳に送り込んだユートピアが実現されました。本書で提示されているひとつのユートピアの選択肢のうちの意識なきハーモナイズされた世界はまさにこのような世界になるのでしょう。ちなみに「マトリックス」の作ったユートピアの住人は選択のない世界に絶望しマトリックスの作ったユートピアは失敗に終わりました。

他の動物に比べ明らかに優れているが、弱点にもなりうる人間の「意識による選択」は、唯一他者と差別化できる優位点であり、弱点があるので排除するというのは、自分の持っている唯一の強みを封印して生きるようなものだと思います。私自身は強みを含んだ弱点を封印して生きる人生より、時として自滅への道を踏み出すかもしれないが自分の持つ強みを活かして生きていくことを選ぶように思います。それがたとえ全体の解に反するとしても個の意思は人間の生の原動力になるのだと思います。作中でも、それぞれがそれぞれの立場で意識による選択を行った末の行動であることも偶然ではないと思います。

作品は必ずしも読者それぞれの価値観にふさわしい普遍的な結末が用意されているとは限りませんが、だからといって作者の提示した問題提起や作品の価値が損なわれるものではないと思います。あなたが誰であれ、一読に値する作品であることは間違いありませんので、ぜひ手にとってみて下さい。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.13:
(5pt)

ユートピア&ディストピア

素晴らしい作品だった。
世界観がまず繊細で、ほんの少しだけ匂わせるように「虐殺器官」とリンクしているのも、読者としては好ましかった。
SF的な面白さも、素晴らしい。満点を付けたいくらいだ。
中心人物となるトァンとミァハも魅力的で、キャラクター的にも読んでいて楽しい。
特に、そのキャラクターが独特の……ユートピアとディストピアが表裏となりないまぜになったような世界観(あるいはSF的設定群)と絡み合うようにして話が展開していく様は、芸術的でさえあったと思う。
虐殺器官と同じように、途中で様々な哲学的問いかけがあり、読者を悩ませる。
そして科学的(主に生理学、進化論)アプローチでその問いかけへのある種の回答案を提示してあるのも、いちいちものすごく興味深く、関心をひかれる。
この作品を執筆中、作者が大病を患い死の淵にあったことを想えば、そのあたりはさらに興味深く読めるだろう。
まず、読んで損はない作品だと思う。

だが、唯一気になったのは、ラスト最終局面での展開であった。
(他のレビュワーの方が散々書いている通り)展開がキッチリと纏まり、読者の方々の胸の内にピッタリと収まるような、誰しもが納得できるような最後では到底なかったように思う。
もっとも残念なのは、詳細はネタバレになるのて勿論語らないが、問題のラストが物語全体を通してのエッセンスとも言うべき核心的な部分をボヤけたものにしてしまっていることだ。
そこをキッチリ書ききれていれば、この作品は不朽の名作として語られることになっただろう。と思われるだけに、残念である。

ラストに対してかなり辛辣な批判をしたが、それでも★5をつけたのは、
ラスト以外のところが十分面白く、★6を付けたいほど素晴らしい作品だったからだ。
早世した故人を偲んで★5を付けるとかではなく、僕はこの作品に★4を付けたいとは思えなかった。
ラストに問題(あえて「多少の問題がある」などと言葉を濁すことはしないでおこう)はあるにしても、凡百のSF小説より頭何個分も飛びぬけて面白い。
そういった作品であった。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.12:
(4pt)

案外近い将来実現しそうで怖い

これまで人類は,文明の進歩と共に,大地や海などの外なる自然を征服し管理し,また様々な病気や病原菌との戦いにも勝利してきた。それによって人類は繁栄と幸福を手にしてきた。これをさらに推し進めた,「残された最後の自然」である自分の肉体と精神に対しても「合理的な」外部からの管理を行う社会とはどのようなものになるだろうか。

・自分の身体・健康の管理も外部に委託した,健康で平穏であらざるを得ない生府社会
・さらに進んで,結局悩みや争いが起こるのは個人の意志と意識によるのだから,これも手放してしまい,個人は意志・意識を失うが,完全に個人と社会が調和し,全き平和の支配する社会

のような社会を作ってしまったらどうなるだろうか?という問題提起の小説として私は読んだ。急進派と保守派の代表として,主人公の親友(御冷ミァハ)と父親(霧慧ヌァザ)を登場させている。どちらが良い,という意見は著者は特に述べていない。

 難しい問題で,簡単には答えられない。古い人間としては昔のままの,ガタピシと個人個人がエゴをぶつけ合っている社会も悪くないと思うのだが,人類の大きな「進化」の方向としてはこのような「超高度管理社会」に進むのであろうか。案外近い将来実現しそうで怖い。考えさせられる,良い問題提起だと思った。

 ただ,生府社会の偽善,気味の悪さの説明が少々観念的だと思った。「優しさと倫理が真綿で首を絞めるような世界」と言った説明は何度も出てくるが,もっと具体的な事件・エピソードを入れて,「確かにこんな社会は嫌だ,やりきれない,息が詰まる」と読者に生々しく体感させて欲しかった。アルコールやカフェインの話は出てくるが,もっと読んでいて気が重くなるような,嫌ったらしい,息苦しいエピソードを入れて欲しかった。これがうまく書けていれば,逆ユートピア小説としては大成功だったと思う。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.11:
(5pt)

楽園への郷愁

話は『虐殺器官』のその後、世界はどうなったか?という内容だった。
 私は楽園の住人だったミァハがこの世の地獄に引きづりだされ、自意識の檻であるこの世からコーカサスの故郷へ舞い戻ろうとした話とも読んだ。現代人は脳や精神を特別視するきらいがあるが、脳もまた内蔵や手足の一部の様に身体を構成するパーツの一部にすぎないのだ。この本を読んで自分の自意識というモノを考える。さして人の尊厳となる様な大した事は考えていな。腹がへったとか眠いとか仕事はつまらないけどもっと金持ちになりたいとかそんなレベルだ。身の危険や飢餓の心配が無ければ、自分や周囲を意識し続ける魂はすでに「いらない機能」であってもおかしくない。事実、自意識のなかった少女ミァハの自意識は人間の野蛮のるつぼから産まれたものではなかったか?自殺しようとしていたミァハは自分の中に産まれてしまった自意識が面倒て重くてたまらなかったのだろう。アダムもイブも「裸体である」事を意識して楽園を追放されたのだ。
 人間は真実よりも幸福を選ぶ。パレーシア。ミシュル・フーコーはどんな感想をもつだろう?
 自意識を研ぎすませた作者が導きだした一つの答えは「自意識はなくてもいいのではないか?」。皮肉なものだ。自意識は逆境の中でこそ意味を持ち、すべての生活を保障された日本の様な社会ではただの個人の欲望に墮する。そんな事を思った。
 ただこの作品の決着、エヴァンゲリオンと一緒じゃないから。エヴァは「俺を傷つける世界なんか無くなっちゃえ」という臆病な個人の内面描写だし。
 最後にこの話を読んでいた時、GBMはハチャトリアンの『ガヤーヌ』が合うと思った。冒頭のミァハ、トアン、キアンの三人の女の子達の場面は「ばらの娘達の踊り」、ミァハの死には「子守唄」。または川井憲次氏ならぴったりの曲を作ってくれると思う。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.10:
(5pt)

祝!米国「フィリップ・K・ディック賞」特別賞(事実上の次点)小説世界に、イデオロギーを創出したすぐれたSF

作者、伊藤計劃は、小説世界にイデオロギーを創出した。
王政、
ファシズム、
社会主義
資本主義、
その次に、核戦争と言う大災禍が勃発した世界を覆ったのは
『生命主義』と言うイデオロギーだった。

WatchMeと言う健康管理ソフトが全世界の8割の人間にインストールされ、
老衰と外部からの物理的破壊によってしか、死ぬことのない世界。
この世界は、人類に何をもたらすのか。
しかし、WatchMeには、脳までは管理できないという弱点があった。
そして、

果たして、脳は、人間の体のすべての上部機構なのだろうか。

伊藤計劃は、生命主義と言う一つの優れたアイデアで、物語全部を紡いでいく。
SFは、ひとつのアイデアで、全体を貫き通さねばならない。
そこに、他の種類のSF 的アイデアを持ち込んではならない。
なぜならば、それは、現実を描いた小説で、話の展開を偶然の出来事の委ねるのと同じ
おろかで安易なことだからである。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.9:
(4pt)

人類の未来と内なる問題

『虐殺器官』に続いて読みました。

高度に発達した医療によって成り立つ社会の息苦しさを描いている本作。
「医療の発達が新たな問題を作り出す」、というのはあまり人前で大きな声では言えないけど、
無視できなくなってくるであろう問題に真正面から向かっていく点に凄く価値があると思いますが、
最も重要なのは「人間の存在、その意識」について、ではないでしょうか。

外的要因によって人類の未来が左右される話はよくありますが、こういった
人間の内側から出てくる問題によってどうにかなってしまう話はあまり無いですよね?
僕が知らないだけかもしれませんが。

読みやすい作品ですが人物の名前が発音し難かったり、ある仕掛けが組み込まれた文章によって
敬遠する人もいるかもしれませんが、普段、目を向けない問題を考えさせてくれる作品
なので、できるだけ多くの人に読んでもらいたいです。

ただ、終盤の主人公を動かす動機が全体のテーマと比較すると、単純な気がするのと
医療社会のシステムを受け入れた人達とそうでない人達の関わり合いの部分が
あんまりはっきりとしない点が気になります。

僕が『虐殺器官』と本作を読んだ理由は、正直、作者にあるのですが
作者の身に起こった事を思うと客観的な評価が出来ない気がします。
そういった風に考える事に意味があるのか分かりませんが、この2作を読んでみると
きっと作者は作者自身のことを前提として読まれる事は望んでいないんじゃないかと感じました。
あくまで個人的にそう思うだけですが。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.8:
(5pt)

ユートピアの可能性を堪能できる一冊

虐殺器官より完成度が高く、個人的には争いの無い世界の実現というユートピアテーマ的にも感心のあるところで満足のいく一冊でした。ひとつ難点としては主人公の人間的魅力・存在感がいまいちで感情移入がときどき阻害されました。もう少し人物もうまく描けていたらパーフェクトだったと思います。SFでは人間の争いの解決方法について様々な作品として提示されてきました。昔の作品ですが、他の生き物に危害を加えると、加害者に同じ効果が現れるウィルスを作り世界に撒くもの、最近ではガンダムシードディスティニイーのデュランデルの遺伝子に手を加えるという企て、SF大賞の「新世界より」のなかの人を殺すことを禁忌として刷り込まれた世界。その系譜における最新の成果だと思います。でもまだ完璧なユートピアでは無いはずです。この世界でも外部から衝撃があった場合、ミァハのように意識のようなものがエミュレートされる可能性を残しており再びハーモニーの世界が崩れる可能性が残っていると思われます。今後さらに完成されたユートピアが誰かによって描かれんことを期待します。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.7:
(4pt)

ディスユートピアのかたち

生府という高度医療福祉社会の中で、人は己が何者であるかを公開されて、お互いの位置を確かめながら、温和に寿命を全うして暮らすことができる。その一方で、戦乱や劣悪な環境の中、明日をも知れぬ生き方を余儀なくされる者が残されている。
 現代社会の実相を、拡現、医療分子、等々SF的な小物で色づけて少し違う世界の物語を展開している。その(ディス)ユートピア社会の構想力は面白く読み進めていたものの、人物に生気を感じきれなかったため、違和感が残りました。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.6:
(4pt)

2009年の日本SF大賞受賞作品

体内に埋め込まれた医療分子が個々人の健康状態を常にモニターし、病気をいち早く発見してくれる社会。酒やタバコといった健康被害に結びつく物質も既に排され、人々は健全で長命でいる世界を実現した。そうした社会システムに悪影響を及ぼす恐れがないかどうかを監視するWHOの生命監察機関に勤める霧慧トァンは、少女時代に幼なじみ二人と共に自殺未遂を起こした過去がある。
 あれから13年、ともに生き残った友人キアンが目の前で自殺を遂げる。あのとき一人逝ったミァハの影がちらつき始めたトァンは、医療経済の中心都市となったバグダッドへ向かうのだが…。

 誰もが健康で天寿を全うできる社会。その夢の世界が実現した21世紀半ばに、その社会に矢を放つ組織の存在が見え隠れするという物語です。
 読者の眼前に広がるのは誰もがハーモニーを保って生きるユートピアなのか、それとも自殺する自由と意志が抑圧されたディストピアなのか。頁を繰るにつけ、眼前の世界に対して自分の判断が大きく振幅するのが手に取れるのです。

 オルダス・ハックスリーの「すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)」でも、知的で“進化”した文明人と、“野蛮人”とが対極に置かれたディストピアの世界が展開していましたが、あの小説を読むと“野蛮人”に心寄せる自分が見えてきたものです。まさにあの、理屈では処理しきれない不思議な感覚がこの「ハーモニー」によって私の中に引き起こされたのでした。

 書き下ろしであるというこの作品の最終頁に「私の困難な時にあって支えてくれた両親、叔父母に。」という作者の謝辞が置かれています。
 新聞報道で知ったところによれば、作者は今年(2009年)3月に肺がんで亡くなるまで病室のベッドでこの作品を書いていたとのこと。享年34歳という若さの彼が、病気が消滅して天寿を全うできる社会を独特の否定的な視点で描いたということを思って、心震える思いがしました。
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415031019X
No.5:
(5pt)

2008年度ベストSF!

文句なしの2008年度SFベスト1。
前作『虐殺器官』もすごかったけど、徹底した生府による健康管理社会(生命管理社会って言った方がいいかもしれない)の下、安全で幸福な人間社会を襲うテロを描いたこの作品は、斬新な形式も含めて、現代社会における人間性を深く洞察していて、ほかに並ぶもののないぐらいの小説だ。
良くある単純な管理社会批判の小説ではない。
暴力描写は前作に比べれば大人しくなったが、その作品の異端性、タブーを恐れない記述は、SF作品と呼ぶにはもったいないような小説だ。いや、むしろSFでしか書けない作品なのかもしれない。
ありうべき近未来がこのように暗いものなのか、人間が生きている意味とは何なのか、単純な善悪を超えた人間のあり方。
深くものを考えさせられた1冊だった。
日本の作家でもこれぐらいの作品を書けるんだってことを英訳して海外に知らせて欲しい。
いやぁ、すごい小説だった。ただ、エンディングは別な書き方もできたかもしれない。あの後の世界がどうなったかが知りたい。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.4:
(5pt)

筆力に感心

虐殺器官、ハーモニーの二冊だけでの読者ですが、世界観の構築といい、ストーリーの展開といい、会話文の妙といい、実力のある作家でした。
次も次も楽しみにしていましたが残念です。

良い本ですのでご一読をお勧めします。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.3:
(4pt)

ディストピアの限界

環境管理型権力或いはフーコー的生権力が前面に押し出された高福祉近未来の絶望感を描いた作品。古典的ユートピア(≒ディストピア)がビッグブラザー的規律訓練を描いていたのに対して、世相を反映してか高福祉型社会の究極の息苦しさというものをひとつのテーマにしている。

その点に関して問うならば、生まれるべくして生まれた作品ともいえるが「何を今更」という感もなくはない。

ただし相変わらずのSFガジェットの描写の面白さや著者本人が闘病中という背景情報を頭の片隅に置いておくと楽しめる。

ただし、途中からプロットがまんま「パトレイバー2」になるのはいかがなものかと思った。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.2:
(4pt)

「虐殺器官」の続編

著者の前作「虐殺器官」の続編(少なくとも世界観的に矛盾しない)。
ストーリー展開は,新世紀エヴァンゲリオンやアップルシードを思い起こさせる。
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X
No.1:
(4pt)

圧倒的なラストに驚愕!!!!!

デビュー作『虐殺器官』で

かの「PLAYBOYミステリー大賞」を受賞した

奇才・伊藤計劃さんの最新刊『ハーモニー』。

脳に埋め込まれたチップによって

完全な「平穏、安全、平和」が実現した世界を舞台に

それに抗う者と守る者

かつて、ともに死のうとした二人の女性の運命が交錯し

世界に真の「ハーモニー(調和)」をもたらす―

前作をはるかに凌駕する独創的な舞台設定と

スピーディーなストーリー展開

特にラスト数ページはまさに圧巻!!!!

物語上級者にこそ手に取っていただきたい作品です☆☆
ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)より
415031019X

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