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死神の浮力



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【この小説が収録されている参考書籍】
死神の浮力
死神の浮力 (文春文庫)

死神の浮力の評価: 3.97/5点 レビュー 139件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.97pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全139件 121~139 7/7ページ
No.19:
(4pt)

「死神の浮力」/伊坂幸太郎

48時間程、仕事の合間ながらあっという間に読み終わりました。
もっとこの世界にゆっくりと浸っていたい、という思いの反面、展開に引っ張られ夢中でページをめくっていました。
まず、名作と感じずにはいられなかったバラエティ豊富なサスペンスでありファンタジーなキャラクターが痛快な連作短編集「死神の精度」
その後、千葉という主人公が登場すると宣伝文句の添えられた「魔王」
しかし「魔王」ではほとんど千葉の活躍はなく、申し訳なさ程度に登場しただけであり「千葉ファン」の自分としてはちょっとがっかりしていたらなんと長編「死神の浮力」の発売。2013-7/30
「精度」では275ページあっとものが「浮力」では436ページとその厚みにも期待せずにはいられず読み出したらもう止まりませんでした。これは「精度」をもう一度読み直すしかない。
あらすじとしては(死神の設定については省略)、娘を殺された山野辺夫妻と容疑者である本城と死神の千葉の三人が主な登場人物である「復讐劇」
死神の設定を省略したのにも関わらず、まず死神ネタの配置の仕方が見事だと言っておきます。ここはファンタジーとして楽しむもの。
「参勤交代」や「ロミオとジュリエット」など普通の日本人としてこの物語にのめり込んでいた俺は、中盤まではニヤニヤしっぱなし。もちろん本筋はダークな復讐劇ではありますが、それとは別物として割り切れるのが死神シリーズのすごいところ。
そしてサスペンス苦手な俺でも分かりやすく単純明快にニヤッとしてしまうように爽快に拾われていく伏線と淡々と伝わってくる緊迫した空気。判り辛さはほとんどありません。犯人像などに関してなどは短編なら割愛出来た登場人物の掘り下げ部分も長編となると少々置いていかれる感じはあったものの醍醐味として味わえるものであると俺は思いました。 死神に生き方を教わるというのもおかしな話しかもしれないけれどある種の啓発としても心に残るのが死神シリーズの良さだと思っています。
単純ながら迷った時は千葉の仕事の仕方を思い出そうと思うくらいです。心がグラっと来たときは千葉です。

なんだかレビューでないようなレビューになっていますがまだ発売して一ヶ月ちょっとなのでこれから読む人もいるだろうとネタバレにならないように感想を書くのが大変です。俺としては最後の最後まで目を離してほしくないので、あまりレビューなんかは見ないことをおすすめします。というか死神シリーズ童貞処女の方達は、まずは「死神の精度」を手に取り大体の設定と世界観と千葉の魅力をグッと感じ取ってから、大いに「死神の浮力」で脳内旅行を満喫するといいですよ。子を持つ親に、親を持つ子に見てほしい「復讐劇」自分の向く方向に迷ってしまっている人間に感じてほしい「死神の千葉」
ネタバレありきのレビューならこの5倍の量の文章になるところでしたが、そうもならないことにある意味助かりました。
名作「死神の浮力」是非手にとってみてください。「精度」から「浮力」のコンボで読めば三日は退屈しません。おすすめです。
死神の浮力Amazon書評・レビュー:死神の浮力より
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No.18:
(2pt)

死神対サイコパスが読みたかった

話の随所に盛り込まれた千葉の言動は
クスリとさせられる部分もあるが、
長編だと単調になりがちで残念に感じた。
著者の魅力の一つである伏線の回収では
「ほう」と感心する意外性が今作では少ないように思えた。
さらにサイコパス対死神の構図を期待させながらも
結局はサイコパスは人間の方しか見ていなかった点も惜しまれる。
前作「死神の精度」が記憶に残る素晴らしい出来だっただけに
今作に期待を大きく持ちすぎたのがいけなかったかもしれない。
でも前作と同じ金城武主演で映画化されたら映画館に観に行きたい。
そう思わせる終盤での盛り上がりはよかった。
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No.17:
(5pt)

好き

伊坂幸太郎の作品に現実感(リアル)…生活感と言い換えても良いが

を求めてはいけない
寓話的なもの“お話”なのだ
伝記でもなければ ルポタージュでもない
フィクション 完全なるフィクションなのだ
面白いか 面白くないか
『〇〇の部分は 普通ではありえないので残念』とか
『登場人物の〇〇の人物像があまりに浅く、描写がされてなくて不満』とか 感想に書く人は 伊坂作品の楽しみ方がわかってないみたいで 可哀相だなぁ…
ジャックと豆の木 を読んで あんなに豆が育つ訳がない!興ざめです! って言ったり
浅見光彦シリーズを読んで 一人のルポライターの身の回りで あんなに殺人が起きますか? ありえません!! と言い出したり
映画の寅さんを観て あんな毎回 毎回 片想いばっかでフられるなんてオカシイ!! と怒るのと近くて ナンセンスだと思う
私は この死神シリーズ初の長編も 細かな伏線や 洒落た会話、スカッとする敵役の結末
ホロッとする ラストの描写etc…
大いに楽しめました♪
やっぱ 私は伊坂幸太郎の作る“お話”が大好きみたい(*'艸`*)シアワセ
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No.16:
(3pt)

千葉が仕事をすると、いつも雨・・

主な登場人物は、娘を殺された山野辺夫妻。
娘を殺した犯人の本城。
そして死神の千葉。

裁判に無罪になった本城に、山野辺夫妻が復讐しようとする。
千葉は夫の山野辺遼の「死」を判定するために、「仕事」として同行することとなる。

ストーリー展開は、運任せであり、山野辺夫妻の危機感のなさには腹が立つほどであった。
本来、千葉は脇役であるはずだが、全てが千葉の能力任せの展開には呆れてしまった。
「死」の判定のために静かに寄り添う千葉が見たかった。
また、もっと、山野辺夫妻の努力を期待していた・・。

最後の本城の結末については、全く納得がいかない。

涙あり笑いありの、伊坂ワールドはいつも通り。
その中でも、千葉の真面目のようでおとぼけぶりは一読の価値あり。
娘を失った筆舌に尽くしがたい絶望感の中で、一応、復讐が達成されたことは痛快だった。
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No.15:
(4pt)

会話の妙

小説。死神の浮力(伊坂幸太郎・文芸春秋・1650円+消費税)。

「死神の精度」の続編。伊坂小説は僕の中で3種類に大きく分けていて、1つは明るく楽しい、1つは暗くて話がよくわからない(読み手の力量次第か)、1つは「その中間」。

今回の小説は「その中間」。ストーリーはある出来事に対する復讐(被害者→加害者)へのプロセスを描いたもので、被害者への共感を伴いつつ読み進める流れ。

ただし、話は憎悪復讐系のダークなニュアンスに染まりきらない。ブレンドされるのは「笑い」。状況が真剣であればあるほど、本人に笑わせる自覚が微塵もないときであるほど、会話の解釈ずれで起きる笑いの威力にはすさまじいものがある(漫才でいうボケとツッコミもこの構造ですね)。

その「ずれ」の源が主人公。緊張と弛緩、意外かつ軽快に進む展開、会話のリアル感(平成の人物像を口調で感じさせる力量のすごさ)、などなど、伊坂さんならではの味がしみじみ。
死神の浮力Amazon書評・レビュー:死神の浮力より
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No.14:
(4pt)

死神の精度の、続編。でも、単なる続編とは違う。むしろ、死神、千葉氏シリーズかな。

「死神の精度」は、短編集でしたが、この「死神の浮力」は、長編です。
憎らしいほど、運の良い悪役には、むっとします。
娘を奪われた夫婦には、おのずと肩入れしてしまいます。
かなり、戯曲的な話なので、ぜひ、ドラマ化、もしくは、舞台化してほしいと思います。
千葉氏が、いい味出してますよね。
あの、無関心そうな、でも、きちんと観察している感じ、仕事人って感じでいいです。

監査役の死神さんたちの名前が県名なのが、また、いいですね。
ぜひ、ほかの死神さんたちも、新たなキャラで登場してほしいものです。
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No.13:
(5pt)

徹夜してしまった

前作同様ラストにやられました。 数多の辛い出来事を一瞬にして浄化するような清々しさを感じましたね。 あの死神にあのセリフはずるい。無垢で無自覚な最大級のツンデレじゃないか。
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No.12:
(2pt)

死神の精度の方をお勧めします

待ちに待った『死神の精度』の続編。千葉、再び降臨である。

前作の登場人物などもリンクするので、ファンの方なら楽しむことが出来ると思います。

今回の作品は前回と違い、叙述トリックが無い長編です。メッセージ性は大変強いが、エンターテイメント性に欠けると言わざるを得ません。
連作短編集であった前作の心が晴れ上がるようなラストは感じられず。
オチはオチで予想外のオチだったのですが、すんなり納得いかず。これでどんでん返しのつもりならば、どんでん返しの定義を変更せねばなりませんね。

色々と文句を言ってきましたが、エピローグは雰囲気があり良かったと思います。
次回作に期待します。
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No.11:
(4pt)

千葉の朴訥した魅力が堪能できる一作

前作未読の状態で読みました。

そのためだと思いますが、手袋をしていない状態で千葉の手に触れると何故気絶するのか?とか、何故音楽をあれほど聴きたがるのか?など一部意味が分からないところはあるものの最後まで非常に楽しく読めました。

この作品の魅力は主人公である死神・千葉のキャラクターの受け取り方で大きく変わると思います。参勤交代の話をはじめ、至って真面目に話しているにも関わらず周りからはギャグ扱いされ憤慨する描写や、全く危機意識がない(死神だから死なないし苦痛もないので当然ですが)にも関わらずポロッともらした一言で結果的に周囲の人間を救ってしまったり、その重要性をあまり意識しないまま人間離れした(死神だから当たり前ですが)身体能力を発揮しピンチを切り抜けていく姿など、どちらかというと死神というより非好戦的なターミネーターという印象で、稀有な魅力に溢れたキャラクターだと思います。

物語は章(日)ごとに千葉と、千葉のターゲットである山野辺との視点が交互に綴られていきますが、やはり千葉視点の章が面白いです。

最後まで楽しく読む事が出来たとはいうもののやや難点もあり、山野辺視点の章はいまひとつ臨場感にかけ作品世界への没頭を妨げています。これは恐らく殺された娘の日常的な描写や魅力のクローズアップと、犯人である本城の悪質さや許し難さを演出する部分が足りない事が原因ではないかと思います。

山野辺の章は愛する娘を無残に殺害された両親が、その殺害犯である本城に復讐する事だけを目的に行動するパートであり、ここで演出すべきは

1)殺された娘の愛らしさ 
2)娘を失った両親の哀しみ 
3)司法の手に委ねるのでなく、自ら手を下す事を決意するまでの経緯とその丁寧な描写 
4)両親の想いをあざ笑うがの如く、山野辺夫妻を翻弄し追い詰める本城の脅威

の4つのポイントだと思いますが、残念ながらその4つのポイントのうち1)〜3)に関しては作中での描写が非常にあっさり(娘が殺されるシーンの直接的な描写すらない)としており、両親の哀しみや怒りという感情にシンクロ出来ないまま物語が進行してしまうので非常にもったいない限りです。更に4)のポイントを描く上で不可欠な「本城という人間の姿をした悪魔」の描写も少なく、倒したくても倒せない強大な悪という本来の位置づけまで持っていけてません。キャラの優秀さを演出しようと思ったら、それと比較する為のレベルの低い存在が必要ですが、この作品ではその立ち位置に本城を追い詰めようとする山野辺を持ってきてしまっており、結果的に本城が優秀というより山野辺が馬鹿にしか見えないという状況になってしまっているのも難点。そのため「何でそうなんだよ!」とついつい山野辺に突っ込まざるを得ず、作家というどちらかというと知的なイメージのキャラにはそぐわない見せ方になってしまったのが残念です。

しかし、そういった点を差し引いても尚、7日目の山野辺の最後のセリフ、そしてエピローグにおける千葉の最後のセリフに込められた想いとか、それがもたらす余韻は非常に心地よく素晴らしい読後感を生み出してくれており、読んで良かったと思える一作でした。
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No.10:
(4pt)

じっくり読み終えて初めて感じる平穏なきもち

娘を無残に殺された夫婦。
犯人は人の心を持たない青年。
彼は夫婦の怨念をあざ笑うだけでなく、
彼らをさらに苦しめることに
無上の喜びを見出しているようで・・・・・・
読んでいてとてもつらかったです。

いつもならあっという間に読み終えるところ、
この物語は心で声を出しながら、
話すときと同じスピードになっていました。

章(1日)ごとに、死神の千葉と
娘を殺された主人公の山野辺の一人称で
交互に語られるためか、
千葉のパートではとぼけた受け答えにクスリとしつつも
シーンによってはいら立ちを覚え、
山野辺のパートでは無力感と使命感のないまぜになった
モノローグに息が詰まるようでした。

7日間は決して死なないという安堵があったにもかかわらず、
5日目の後半に明らかになった事実に愕然とし、
その後はページをめくる手を中断できず。

伊坂さんがこれまでに描いてきた悪意は、
オーデュボンの城山といいマリアビートルの王子といい
最後はスパッとフェイドアウトさせられましたが、
これまで以上に深い闇に対し、
今回は結末をちゃんと描くのか。

そんな不安に駆られながら最後まで読みましたが、
本を閉じたいまは、平穏な気持ちになっています。
そして、途中冗長に感じ、正直焦れた山野辺と父親との
エピソードや死についてのさまざまな表現を、
もう一度ゆっくり読み返してみようと思えています。

急いで読んではいけない話。
「ゴールデンスランバー」のようでも、
「バイバイ、ブラックバード」のようでもあり、
なんとも味わい深い物語でした。
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No.9:
(4pt)

死神を主人公にした非常に奥の深い作品

「死神」が主人公となると、こういうストーリーになるのか、と、妙に納得してしまいました。人間の運命が、こう定めれているのかもしれない、と、問いかけられているようにも思いました。
 
宗教的、哲学的な色合いも強い作品だと思います。
 
主人公の死神・千葉は、小説家の「山野辺」を「担当」することになります。
(つまり、山野辺の運命に、死神が舞い降りたことになります)

山野辺は、彼のファンを名乗る近所の男、本城に娘を殺されたという過去を持ちます。その本城が無罪釈放とされてしまうことになり、山野辺は夫婦で本城への復讐を企てます。
 
山野辺を担当する千葉は、本城への復讐に、行動を共にすることになります。
対して、本城は、山野辺からの復讐を予見し、返り討ちを企みますが。。。彼自身にも死神・香川が「担当」としてつきまとうのです。

殺人事件の遺族夫婦の夫と、加害者の両方に死神が。。。生き延び、また、命を終えるのはどちらなのか。。。読み手としては、山野辺に肩入れをしてしまいますが、果たして、彼らがそれぞれどのような運命を迎えるのか、非常に読ませます。
 
死神「千葉」のキャラクターは非常に特異ですが、それでいて、大変魅力的です。
 
普通の人間にとっての一生は、千葉にとっては一瞬の出来事でしかありません。山野辺夫妻は本城への復讐に怨念を燃やしますが、千葉は死神としての役割を果たすため、彼らとは淡々接します。
 
この山野辺夫妻と死神・千葉の振る舞いのギャップがストーリの魅力を引き立てます。そして、千葉が死神として備えている超常的な能力が、結果として山野辺夫妻の復讐の力添えとなっていくことも、大きな読み応えとなるところです。
 
山野辺夫婦と死神・千葉の会話がストーリーに味わいを添えます。一見かみ合わないようでいて、文芸に秀でる小説家と、幾代にもわたって人の最後を見届けてきた死神との会話だけに、非常に奥深い意味合いを滲ませていると思います。
 
死神に付きまとわれることになった人間にもたらされる宿命はいかなるものか、謎解きやサスペンス作品とは、異なる別種の緊迫感を感じながら楽しむことができたと思います。
 
読み終えて、「人間はいつか死ぬ」ことの寂寥感を覚えつつ、今、普通に生きていられることのありがたさをしみじみと実感しました。
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No.8:
(5pt)

死神千葉の冷たい暖かさが心にしみる小説

伊坂さんは東日本大震災以降、少し変わったように感じます。
作品の根底に「明るさ」をより感じるようになった気がします。
この小説の設定は、これ以上ないくらい、哀しいものになっています。
それでも、読み終わったときに、心があたたかくなります。
それは死神千葉の、滑稽なまでに真面目な言動によって、より一層深まります。
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No.7:
(3pt)

ちょっと残念

私もそうですが、千葉を中心とした前作の世界観を楽しみにしていた方には十分楽しめると思います。周りの同僚が手を抜く中、独特のこだわりで仕事を続ける千葉はハードボイルドの主人公に通じる所がありますし、人間とのずれたやり取りもハードボイルドっぽさをうまく増していると思います。
一方でストーリーラインについては犯人側の人物像の掘り下げがほとんどないので、物足りなさを感じました。犯人のタイプはマリアビートルの少年に近い設定ですが、あの少年と比較しても動機が全く伝わってきません。いくら良心がないという設定にしても、ちょっと入り込めないなあ、と。
又、前作は苦境に単独でチャレンジする人物の姿・物語を千葉がクールに観察するスタイルが多かったのに対して、今回の被害者はかなり千葉に頼ってくるので、必死な人間とクールな死神というコントラストが弱まっている印象も持ちました。
期待が大きかっただけにちょっと残念です。
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No.6:
(3pt)

『死』への漠然とした恐怖に共感,惹かれる

『死神の精度』に続く二作目.前作は連作短篇集でしたが,本作は長編となっています.

娘を殺された夫婦の復讐劇…の体を取りつつ,『死』に対し深く迫る作品という印象で,
同じく『生』へも強く意識を向けさせられ,著者らしい言い回しでの父と息子との回想は,
時に格好よく,時に重く,死はもちろん,そこへ向かう『今』を生きる描写は強く残ります.
中でも,不意にわき起こる漠然とした死への恐怖は,大きく共感,惹かれるものがありました.

また,もう一つの物語となる復讐劇は,いささか流れが鈍く感じる部分はありましたが,
標的となる男,そこから放たれる悪意の数々は,分かりやすい『悪者』のそれとは異なり,
静かにねばねばと絡みつくようで,その不快感や苛立ちは,言葉にしがたいものがあります.

とはいえ,決して折れない執念を見せる中,どこか明るささえも漂わせる夫婦のやり取り,
さらには,本人の意思はさておき,するりと間へ滑り込んでいく死神の男の立ち振る舞いは,
置かれた状況ほどの重たさはなく,こちらもそのスマートな文章が読みやすさとなっています.

その結末は,一種の痛快さは確かにあるものの,笑うに笑えないブラック風味が強いもの.
さらには,エピローグでも別の悲しく残酷とも言える『その後』が語られ,閉じられますが,
こちらは,わずかかもしれませんが救いが残され,あの男が漏らした思いがけない『一言』は,
作中では絶対にあり得ない,雨模様の空に覗く日の光のようで,穏やかな余韻となって残ります.

ただ,世界観の説明が中盤ごろまでなく,初めての人には途中まで分かりづらいかもしれず,
このほか,それまでの小さなあれこれを後々に引っ張り出す,伏線とその回収といった演出が,
その都度,巧さやおもしろさはあるのですが,少しばかり目立ち過ぎのようにも感じられました.
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No.5:
(5pt)

何とも穏やかな読後感。。。

まさかの「死神」続編!楽しみにしてました。
 愛娘を殺された作家・山野辺遼とその妻が犯人を追い、その犯人の本城は知能が高くシッポを掴ませない冷酷なサイコパス…が、そこに任務を遂行すべく千葉さんが絡み、どこか可笑しい言動でクスリとさせてくれます。
 (のっけから「参勤交代」を長々と話しだすんだからニヤニヤしてしまいました。前作でも「年貢制度がまだあるのか?」などトンデモなことを言っていたと思いますが、本作はもっと全開です)
 山野辺の敵討ちは成功するのか、山野辺は生きるか死ぬか、本城はまんまと逃げるのか、と胸中穏やかで無かったですが、読後は不思議に穏やかな気持ちになりました。
 「映画でも本でも、彼らのその後を想像できる話って良いなぁ」と常々思うのですが、これもそんな話でした。私も「死神の精度」再読しようと思います。
 

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No.4:
(5pt)

前作は読んでから

死神の精度が好きだったので凄く良かったです!
ただ、前作を読んでない人にはちょっと不親切かも。
なぜかというと、主人公(千葉さん)の紹介とか、死神の仕事がどんなもの(「可」「見送り」とか)か、雨が降るとか音楽好きみたいな基本設定の説明がほぼないからです。
読みながら「そういやこういう設定あったな」とか思い出してワクワクしたけど、読んでない人は、ん?ってなるような気が。。。

というわけで、前作のファンとして星5つです。
ノリはあんまり変わらないので、前作を読んだ人は前作の評価とそのままになると思います。
読んでない人は評価辛くなるんじゃないかなぁ。
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No.3:
(4pt)

理不尽な出来事と必然の死

一年前、小説家・山野辺遼の娘である菜摘が殺された。そして今、容疑者には無罪判決が下った。容疑者逮捕に至るまでの数々の有益な証拠は、裁判が始まった途端に次々と翻った。その不自然な現象の裏には、ある人物の大いなる決意が込められていた。無罪判決を受けて、山野辺宅にマスコミが大挙として押し寄せるなか、一人の男が現れた。その男は「千葉」と名乗った。というあらすじです。

これまでの伊坂幸太郎さんの著作は全て読んでいて、本書の発売が決定した際には脱臼しそうになる程嬉しかった記憶があります。あの死神・千葉の物語をまた読むことが出来るという感動に打ち震えていました。その震えはやがてゆっくりと止まりました。本書の発売日に脱兎の如く書店に馳せ参じ、脱走兵の勢いで自宅に戻り、一心不乱に読み耽りました。本当に不躾な表現ですが、「伊坂さんも大人になったなぁ」という感慨が起こりました。がっしりと地面に根を下ろして、物語の浮沈による揺れを最小限に抑え込むような、心地よい「平常心」をもって安心して読み進めることが出来ました。

「大人になったなぁ」と感じた要因としては、自らの娘(小学生)を殺害された山野辺夫妻の、憤り、詠嘆、絶望が克明かつ丁寧に描かれているところです。私は20代前半で独身なのですが、この物語に描かれている、子を持つ親の心理・行動には、すんなりと同調することが出来ました。娘が殺害されてからの一年間、感情そのものが消滅したと思いきや、ふとした瞬間に娘の「生」を感じてしまった時に滂沱する様子には、胸が締め付けられる思いでした。

本書の容疑者は、サイコパスであるとされています。確率としては、25人に1人いる「冷淡な脳を持つ人間」です。「あいつは〜だから、〜だ」と、ある定義の中にその対象を押しこめて、その枠内だけで判断することは非常に危険です。しかし、そう判断せざるを得ない程の人間が現実の世界にも一定数存在することは、厳然たる事実です。そのような「通じない」相手になんらかの危害を加えられた場合にどうするのか、本書を通して自らが考えなければならないことです。

余談ですが、死神・千葉の名前の由来は単なる地名の他に、「千」年以上生きていることも含まれていると思います。「葉」はなんでしょうかねぇ。う〜ん、葉っぱを忌み嫌っているとかそんなところでしょうか。

作品の中でとりわけ印象に残ったセリフは、「幸せになるためには、死については考えちゃいけないんです」というものです。確かに、死について長時間考えていると鬱々としてきます。私は就寝前によく、死について考えています。世人が羊の数を数えて眠りにつこうとする段に、私は死神の持つ、鎌の数をひたすらにそして冷静に数えています。一カマ、二カマ・・・といった塩梅です。是非に。

話は戻りますが、人間は自由な時間をなるべく少なくして、あれやこれや考える時間を減らした方が良いのでしょう。小説家の場合、芥川龍之介は「ぼんやりした不安」で自殺していますし、太宰治の場合は自殺がライフワークでした。この二人に共通する点は、「自由業であること」と「幾多の名作を残した天才作家」であることです。一見、時間を自由に使える身分であり、多くの人に評価され、承認欲が満たされている状態というのは、人間が幸福を感じる際に大きなウエイトを占めていると思いますが、二人は自らの意思で命を絶つことを選びました。他人が思いを巡らせても結句、当人達にしかわからないものです。

物語の後半に、山野辺遼の父親が、小学生の山野辺遼のすこやかな寝顔を見て、「あぁ、この子も必ず死ぬんだ」と思い、得も言われぬ恐怖に駆られるという場面があります。「産む」ということは、「殺す」ということでもあります。一方的に生命を与えて、自然のままにその生命を終結させます。そこまで明確な思いを山野辺遼の父親が意識したかどうかはわかりませんが、一つの生命を現出させることに加担した人間として、不安感、背徳感に苛まれたことは確かです。まぁ、あまり深く考えこまないほうがいいのでしょう。幸せになりたいですし。私の場合は小説を読むことが最上の幸せです(恥)。

長々と書いてきましたが、伊坂幸太郎さんは「逃げない」作家だと思います。今作も、人間が生きていく上であやふやなままにしておきたいものに対して、真摯に捉え、丁寧に描き切っています。著者の作品は生涯、読み続けることでしょう。

追記 それにしても作家には映画好きが多いですね。本作もいくつかの映画について触れています。映画は殆ど見ていないので、勝手に想像して補っています。私事ですが、「ポニョ」を最後に、それ以降全く観ていません。ジブリの宣伝ではないので、あしからず。風立ちぬ。
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No.2:
(5pt)

7日目まで死なないことに安心するし、焦る

本書では「死神の精度」の音楽を愛する死神、千葉さんと再会できます。
設定については本書でも説明がありますので「死神の精度」未読でも楽しめるかと。
伊坂先生の本に手をつけたことのない人にもおすすめしたい。(ちなみにわたしも死神の精度以外の伊坂先生の著作は未読です。)

1年前に小説家の山野辺遼の娘(菜摘)が殺される。容疑者の本城は無罪判決で釈放。それは、山野辺遼と
その妻の美樹の、復讐のはじまりでもあった。
そこに千葉が現れ、一週間、山野辺夫婦と千葉は本城を追うことになる…というのがだいたいのあらすじでしょうか。

話が進むにつれ、本城がなかなか死なない不安感と、山野辺夫婦が(千葉さんが監査中なので)死ぬことがないという安心感に、興奮させられます。
三時間、夕食もとらずに読了してしまいました。

一部痛そうだったりハラハラしたりする場面がありますが、千葉さんの人間離れをした(だって死神ですからね)愛嬌ある言葉や仕草によりだいぶ緩和されています。
ミステリーものが苦手な私でも千葉さんがいるとどんなピンチも安心して読めました。
また千葉さんに会いたくなり、「死神の精度」を棚から出す人は少なくないでしょう。
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No.1:
(5pt)

死神の恩寵、って感じました。不思議ですネ。

伊坂さんの物語には、いつも、作家としての挑戦があり、それがまた面白いからほんとうに好きです。

この作品もそうでした。

エンターテイメントのサスペンスでありながら気楽に読めるファンタジー。

第一級の文学作品を思わせる描写を見せながら、会話は、くすりと笑わせる上品な漫才や落語のよう。

それでいて、生きるために大切なメッセージを、われわれ読者は勝手に読み取ることができる。

で、また、この物語の読了感。わたしには、はじめての体験でした。

死神って、浮力より重力のほうが似合ってますよね。

でもこの作品を読むと、それとは正反対の印象。

まるで死神の恩寵です。冷たいけれども温かい。そんな「救い」があるんですね。不思議です。

いつも楽しいお話をありがとうございます。
貴方の挑戦を、ずっと読み続けていきたいです。

あぁ、これレビューじゃないですね。
ごめんなさい。いちファンからの敬意と、心からのお礼です。
死神の浮力Amazon書評・レビュー:死神の浮力より
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