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散る花もあり



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【この小説が収録されている参考書籍】
散る花もあり (講談社ノベルス)
散る花もあり (講談社文庫)

散る花もありの評価: 8.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

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No.1:
(8pt)

タイトルの先に続く言葉は

勤めていた水産会社を辞め、田舎で隠遁し、農業で生活する越智省二の許に警察が現れる。越智が前の会社でフィリピンに勤めていたときに一緒に働いていた青年ヒラリオが現地のゲリラの密命を帯び日本に潜入し、水産会社各社を脅迫して大金をせしめているという。
越智にはヒラリオに貸しがあった。命を助けてもらいながら、姉ベラを匿う事が出来ずにフィリピン兵士に捕らえられ、獄中死させたことを悔やんでいたのだ。さらに亡き妻恭子の敵、印南の存在。越智は過去を清算するため、東京へ向かう。

不器用な昭和の男の話である。今の平成の世になかなかいない自分の戒律に忠実に生きる男、越智。彼は常に安直な道よりも茨の道を進む。

久々のシミタツの筆致に酔わせていただいた。ビシビシと胸に残るフレーズ、そして愚直なまでの男と女を書かせたら、抜群に巧い。
苦難の末、印南を捕らえ、亡き妻の墓前で打ちのめす彼の、妻とその両親との話。単なる興味本位で付き合う男女、弘美とヒラリオとの関係に関する述懐―「夢だけ残して気持ちよく別れるには、深く結びつき過ぎているような気がする」は名言だなぁ―。好きな女と結ばれるのにも、過去のしこりを残したままではふんぎれない越智のやるせなさ。これらの越智の台詞にはもうたまらないものがある。平成の現代に忘れられようとしている信義とか仁義がここにある。

とにかく老人と一途な愛、忍ぶ愛に生きる女、そして不器用で決して富裕でないストイックな男がシミタツ作品には極上のスパイスとなっているのだ。
そして携帯電話が無い時代であるがゆえに生まれるサスペンス。こういう不便さが熱い物語を生み出すのだなあとも思った。

そして主人公の視点から見せる訪れるであろう危機に対する客観的な描写も健在。周辺に停まった車、自分が顔を向けると同時に顔を背ける女、よそよそしい管理人の態度などでこれから起こるであろう危機の予兆を見せ、主人公同様の鬱屈とした不安感を誘う筆致を久々に堪能した。

タイトルの『散る花もあり』。散った花は思いの外、大きかった。通常ならばこの言葉は反語表現として使われ、その前には「咲く花もあれば」となるだろう。しかし、ここではあえて逆にしてこう云いたい。
「散る花もあり。やがて咲く花もあり。」
越智は旅立つ。その先にきっと咲く花、美世が待っているはずだ。


Tetchy
WHOKS60S

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