負けくらべ
- 認知症 (79)
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シミタツ健在はとてもうれしいニュースだったけれど、かつて夢中になって読んだ『飢えて狼』『尋ねて雪か』などの作品群ほどの切れ味はなかったような……。やや冗漫さを感じてしまった。 もっともこちらの感性もこの40年でかなり鈍くなっているわけで、つまらない・おもしろいといったことのすべてを作家に押しつけるのはどうかとも思っているが……。 | ||||
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小説としての出来自体は悪くない。この小説の主題はタイトルが示唆するように誰も勝者がいない現代社会の虚ろさ(経済的には成功しているように見える人物も角度を変えれば「負けている」というメッセージ)――だと思いますが、きわめて今日的。また本作はハードボイルド小説に分類されると思いますが、紡がれている世界は至って静か。しかし、それがいい。ホラーにはquiet horrorとloud horrorの2種類があるとされますが、それはハードボイルドにも当てはまるはずで、『負けくらべ』はあきらかに前者のタイプ。こういうハードボイルド小説だってあっていい。 で、こうした美点も多々あるのですが、疑問に感じる点も少なくない。まず、IT業界を舞台としたのはどうか? そつなく書けているとは思いますが、御当人は御歳87歳という斯界の大長老。やれ量子コンピューターだのGAFAだのビットコインだの。ムリしてそんなもの持ち出さなくても、という気はいたします。また主人公の年齢設定が65歳というのもどうか? 『負けくらべ』からちょうど40年前となる1983年に書かれた『裂けて海峡』の主人公・長尾は45歳。『裂けて海峡』と『負けくらべ』の間には40年という時が横たわっているわけですが、ある意味、40年経って主人公が20歳しか年を取っていない、とも言えるわけで……それはどうなんだ? と、そんな気もいたします。 しかし、こうしたことよりももっと疑問に感じる点がこの小説にはあって。それは、主人公が介護福祉士であるとされながら、介護士のことも介護現場のことも何も書かれていないこと。主人公・三谷は「三谷ホームサービス」なる介護事業所を経営しているものの、65歳を機に事業所は娘夫婦に任せ、自分自身は個人資格で訪問介護をしているという設定。しかし、一般的な訪問介護でやるような食事や入浴の介助、おむつ交換、口腔ケアとかは一切やらない(そういう描写がない)。代って利用者(作中では「クライアント」と呼ばれている。しかし、介護事業の分野で利用者を「クライアント」と呼ぶことってあるんだろうか?)をそっと見守っている。そうかと思うと庭にツツジ、アザミ、アブラナなどを植えたり。それによって利用者の心を癒そうとしているわけだけれど、やっていることはセラピーとかに近い。また、いささかスピリチュアルな匂いも感じられる。三谷はいわゆる「ギフテッド」とされており、このことは東大の細田という脳神経外科医の「詳細で緻密な調査」によって明らかにされている。細田の調査によれば、三谷の知的能力、いわゆる頭のよさは平均レベルをやや上回る程度にとどまるものの、「知力や才能の分野とはちがう本能的能力、察知感覚、それを形成していると思われる記憶力、判断力といったものになると、常軌を逸したレベルにあることがわかった」。で、三谷の「介護」なるものもこの三谷に先天的に備わった能力をフルに活用したものとなっているわけですが、はたしてそれが介護と言えるのだろうか? 私はこの2月に母を亡くしました。母はアルツハイマー型認知症を患っており、そんな母を私は4年間に渡って介護しました。この間には多くの介護士さんのお世話になりました。彼ら・彼女らの助けなくしてこの4年間はなかったと言っていい。そんな私からするならば、『負けくらべ』に描かれた「介護」なるものには若干の腹立たしさを覚えないでもない。もし私がお世話になった介護士さんが介護士が主人公ということに惹かれてこの小説を読んだとしたらガッカリすると思います。だって、介護士のことも介護現場のことも本当に何も書かれていないもの。そんなんだったら、介護士を主人公になんかするなよ、と……。 | ||||
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読み終わった後もいつまでも残る作品だ。熾火のようなものが心に残り、その後しばらくしても存在を示してゆく。もしかしたら、こちら読者側の思い入れかもしれない。志水辰夫の現代小説にかつて夢中になり、作品を貪り、全作を熱い想いで読んできた自分史ということから来る極めて個人的なほとぼりのようなものなのかもしれない。 ぼくは1990年代を軸にインターネットの前身でもあるパソコン通信Nifty-Serveで冒険小説&ハードボイルドフォーラムを主宰していた。国産小説では、特に冒険小説が多く書かれ、読まれた時代で、船戸与一、佐々木譲などとともに、志水辰夫は代表的な冒険小説作家でもあった。とにかく途轍もない人気を誇る作家で、名うての読書子たちからの尊敬を勝ち得て止まなかった。一つには確かな文章力と日本語による国産ハードボイルドという文学性でも勝負できる作家であった。数ある賞をいくつももぎ取った作家である。 21世紀に入ってからは時代小説に活躍の場を移したが、およそ20年ぶりに我らのジャンルにこの作家が還ってきてくれた。記録によれば1936年生まれだから今現在、88歳の年齢のはずである。それなのに本書を読むと、古びたところなどいささかもなく、現代ならではの状況をこれでもかとばかりに用意し、現代のスマホ、ネット、また株式、会社経営などのバックボーンを取り揃えて驚くほどリアルに作品を展開させている。志水辰夫がいささかも錆びることなく現在に輝き続けていることをこの作品で確認してどれほど驚かされたことだろうか。 しかもスケール感も一層膨れ上がっている。作品から類推される志水辰夫の過ごした時間の濃密さは、驚愕に値する。序章で、主人公三谷の表と裏の職業が驚くべき事件とともに記述される。一気に読者を引き寄せる小手調べのようなトラップ。継いで、舞台は自然の豊かな里山に移る。ここで偶然、ある会社の敷地に迷い来み、財団のトップである大河内と出会うことになる。本作のストーリーは、この出会いからスタートすると言って良い。 大きな企業グループの中での権力闘争に巻き込まれた主人公三谷は、多くの心理的特殊性を持ち、企業側からその特殊能力を買われ、 本業である介護職に従事しながら危険な都市での国際的企業戦争に巻き込まれることになる。スケールも大きいが一介の介護職員である初老の主人公というところが、シミタツらしく今も変わらない。 シミタツの主人公は大抵、大変な闘争や暴力に巻き込まれては、追いつめられる状況を、気力の強さとなけなしの体力とで覆してゆく。そして意志の強さとぼろぼろの肉体で最後に独り戦場に残る。その構図が、今も変わらないだろうかと冷や冷やさせられながら手に汗握りページを繰る時間。ああ、これがシミタツ節なんだよ。わかっていながらページを繰る手に力が入る。 あの幸せな時間がまた戻ってきたのだ。信じ難いが御年88歳にならんとする作家の手で、こんな作品がしっかりと現代の読者たちのもとに戻って来たのだ。耐えて耐えて、また耐えて、最後に爆発するこの構図に何度心を揺すられただろうか。そして今も、この作家は凡百の推理作家などではなく、ヒューマンな冒険小説のタフな書き手であるのだ。シミタツよ、未だ行ける。もう一作。そして可能ならばさらにもう一作を! | ||||
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久しぶりのハードボイルドで面白く読みました。 | ||||
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軽いエッセイは書けても、御年86歳で、こんな長編のハードボイルド小説を書ける作家が他にいるだろうか。しかも空元気ではない、静かで熱い命の漲りさえ感じる。現代小説は19年ぶりだと言うが、そのブランクを感じさせない文章力と静かな躍動感に乗せられて、一気に最後まで読んでしまった。ハードボイルド小説の主人公が介護士というのも面白い。こんなかっこいい介護士がいるなら、年を取るのも悪くない。 | ||||
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