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美神解体



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【この小説が収録されている参考書籍】
美神解体 (角川ホラー文庫)
美神解体 (角川文庫)

美神解体の評価: 5.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.50pt

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全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

貴方にとっての美とは?美人とは?

篠田節子氏の初期のホラー作品で第8作目に当たる本書は完璧な美を手に入れた整形美人と完璧な美を愛でるデザイナーの異常な関わり合いを語った作品だ。

登場人物はわずかに2人というまさにぜい肉をそぎ落とした作品で僅か220ページにも満たない中編とも云える作品だが、なかなか読み応えがあった。

まず主人公の名は麗子。苗字はない。幼い頃から器量が悪いために恋人はおろか、実の親からも疎まれてきた女性。

自分を生んだことで心臓病を患い、寝たきりの生活を強いられるようになった母親。それによって独立の夢を捨てた大手建設会社に勤めていた父からは「お前さえ生まれてこなかったら」と呟かれる。

高校2年の時に美術科教員に恋し、友人の一人がモデルをして抱きしめられたと聞き、自分も同じようにしてもらおうと教員の許を訪ねるが碌に見られもせずに相手にされなかったこと。

30を目の前にしてバンド仲間から求婚されるがその時の言葉が「俺もぜいたく言っていられない歳になった」だったこと。

そんな誰からも相手にされず、相手にされても常に見下されていた存在だった彼女は一念発起して大整形に踏み切り、完璧な美人顔を獲得する。

しかしそれがあまりに完璧すぎたため、人間味がなく、逆に畏怖と困惑の表情で迎えられてきた。とにかく何をしても裏目に出てしまう幸運に恵まれない女性、それが麗子だ。

その麗子を初めてまともに見てその美しさを礼讃したのが平田一向。新進気鋭の若手デザイナーで世間の注目を集めている彼は医学部を中退し、工学部に入り直し、在学中にイタリアのデザインコンクールで入選したことをきっかけに工学部も中退してデザイン事務所に就職し、今は独立して仕事を直接受けている。

彼はしかし完璧な美を愛でる男性だが、彼にはそこに生命の美しさを求めない。彼にとって人間の血や涙と云ったものは汚らわしいものであるため、即物的な美を常に求めるのだ。それには幼い頃に伯父がベネチアで買ってきた『解体できるヴィーナス』と呼ばれる完璧な美女を模した医学用の人体模型に魅せられたからだ。

それはまるで生きているかのように精巧かつこの世の中で最も美しいと思われる顔と姿を持ち、しかも人体模型であるから肌が外れ、その中にはきちんと内臓も備わっており、更に子宮と胎児すら収まっているという代物だ。それは血も膿も流さず、全く綺麗にその中身をも手で触れ、愛でることができるため、いつしか平田はそんな完璧で汚れなき美の存在だけを愛でるようになった。

しかし彼の前に現れたのが整形された麗子だった。彼は今まで人形だったその人体模型がリアルな人間として現れたと感じ、彼女に興味を持つ。

一方で麗子はそれまで畏怖と困惑でしか自分を見てくれなかった人たちばかりの中で初めて自分を見つめ、愛でる平田こそ自分が求めていた男だと思い、全てを擲ってまでも彼と一緒にいることを決意する。

平田はしかし麗子を求めはするが、求められると冷たく突き放す。
それは平田にとって麗子は完璧な美の存在であり、生きた人形であっていたかったからだ。彼にとって麗子が自分を愛すると云う感情は不要だった。彼は麗子の美に興味があり、そして金髪の腎臓模型のようにその中身に興味があったのだ。こんな完璧に美しい女性の中身をどうしても見たくて堪らなかったのだ。

はっきり云って平田は大いなる矛盾を抱えた存在である。
完璧な美を追求し、そんな人間を見つけて興味を覚え、その中身を見たいと熱望するが、そうすることで人体から出血し、生臭い臓物が出て、しかも食べた物が発する悪臭を最も嫌悪するのだから。

それはつまり好きな物は欲しくて、好きなことはやりたいが、汚れるのはいやという実に子供じみた我儘と大差ないと云える。

一方麗子もただ屈辱に甘んじていた女性ではない。
高校の時に全く相手にもされなかった美術科教員を逆恨みし、その教員と身体の関係を持ったと嘘をつき、その噂がもとでその美術科教員は転勤を余儀なくされ、その後もその噂が消えず、とうとう教員を辞め、婚約破棄になり、アルコール中毒で入院することになる。

また平田が夢中になっている人形に嫉妬し、平田を自分の物にするために地下室でその人形の服をはぎ取り、配管工事に来た人間にわざと見させ、平田の評判を貶めさせることを企むが、修理屋はそれをダッチワイフか何かと勘違いして性行為にまで及ぶのだ。

そう麗子もまた独占欲の強い人間なのだ。彼女は自分の手に入らないと思ったら嘘を平気でつき、更に運命と思えた男を手中に入れるためにはどんな手を使ってでも自分の方に目を向けさせるために罠を企むことをする。

それは彼女が平田一向との出逢いに運命を感じ、彼を最初で最後の男性だと強く思っているからだ。従って彼と世を捨てて2人だけで暮すことや、もしくはこのまま雪の中の山荘で2人で死ぬことも厭わない女性だ。
つまり彼女もまた盲目的に1人の男性を愛してしまう、ストーカー気質の危ない女性であるのだ。

この正常から逸脱した男女2人の出逢いはしかし最後価値観の違いからすれ違ってしまう。

ところで不気味の谷というのを御存じだろうか。

人型ロボットやCGアニメなどの技術が発展し、より人間に近い造形にしていくと人は徐々に好感を増していくが、あるところに達すると嫌悪感を覚えるようになる。その領域のことを不気味の谷と云うが、麗子の容姿はまさにその不気味の谷に位置する領域にあった。

それは彼女が単に外面的な美しさに囚われ、内面を磨かなかったからだ。いつも劣等感を抱き、時に強い嫉妬を抱いて復讐行為をする彼女は云わば心の無い人形に過ぎなかった。

人は見た目が9割だと云う。そして現実に美人の方が得するようになっている。
従って人は自分の容姿をできるだけよく見せることに努力をする。恵まれた容姿を持つ人の、自分の容姿に対する思いは様々だが、容姿に恵まれない人の思いは常に一緒で、より美しく、より端正になりたいと願う。だからこそ美容産業は衰退せず、今なお隆盛であり、毎年新たな化粧テクが生まれ、今や男性用の化粧品も市場が拡大してきていると聞く。

斯く云う私も美人が好きであることは正直に認めよう。
だがやはり人が惹かれるのは性格である。その人が纏う雰囲気こそが一緒にいたいと思わせるファクターであり、それが愛なのだ。容姿は出来れば美人であることに越したことがないという程度の方がいい。

とはいえ毎年世界各所ではミスコンテストが行われ、美を競い合う。また芸能界でも次から次へその世代を代表する美しい女性たちが現れ、世を魅了する。歴史の中でも1人の美人によって滅んだ国や美人によって身持ちを崩した偉人も数多くいる。

美の追求、それは永遠に終わらない世の理だ。
ただ幸いにして私は自分の人生を擲ってでも一緒にいたいと思った美人に逢ったことがない。それこそが幸せなことなのかもしれない。それほどまでに美は人を狂わせるのだから。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(4pt)

美神解体の感想

予想通りというか、そうなるしかない展開と、序盤のピークからズルズル落ちていくだけの作品でした。篠田氏の艶のあるしなやかな表現や描写はありましたが、いかんせん話がつまらな過ぎましたね。

カミーテル
MCFS6K6O

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