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三つの眼



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三つの眼の評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
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No.1:
(4pt)

ルブランのSF

ルブランと云えばやはり怪盗紳士ルパンシリーズが最も有名だが、本書はノンシリーズ。しかもSF長編だ。

ある時突然発明家の研究室の壁に現れた3つの目のような三角円。まるで生身の目のように脈動するそれは歴史上の有名な出来事を映画のように映しだす。

この3つの目を巡って金儲けを企む輩が現れ、博士は殺害され、彼の代子の女性もさらわれてしまう。
この不思議な現象は博士の長年の太陽熱に関する研究の副産物でありながらも金を生む卵となりえたのだが、同時に悪党どもの群がる餌にもなってしまったことを考えると災いの種でしかないように思える。

この歴史上のシーンを再現する3つの目の正体はある若き技師の手によって暴かれる。
しかしこの荒唐無稽さも21世紀の今に照らし合わせてみるとあながち人智を超えた発想ではないことが分る。
こんな理論を1920年に想像していたルブランに驚愕せざるを得ない。そして本書が訳出された1987年当時でも本書の突飛な発想に読者や書評家は理解する頭を持っていなかったのではないだろうか?そんなことを考えると本書は実に早すぎた書なのだと云える。

本書の物語はこの3つの目を核にしてその秘密を乗っ取ろうとする悪党どもと発明した博士の代子である娘と主人公である東洋学者がせめぎ合う冒険活劇となっている。やはりルブランはルパンの手法をSFでも用いているのだ。

しかしだからいわゆる一般的なSFとはどこか味わいが違う。ルブラン作品には欠かせない主人公とヒロインの恋物語も盛り込まれており、それがバランスよく溶け合っていればいいのだが、どうもごった煮のような印象しか残らなかった。

この物語を語るにはどうしても奇異な3つの目に興味が行きがちだが、一方でその目が映し出す歴史上の出来事や過去の世紀に生きた人々の営みが実にリアルに、生き生きと活写されていることにも注目しておきたい。ルブランはSFの手法を用いて、歴史をリアルに映し出すことに挑戦しているのだ。

しかしドイルも数々のSF長短編を著しているが、ホームズシリーズに匹敵する人気を誇り、今なお読み継がれているルパンシリーズを著したルブランもまた同様にこのようなSF作品を残していたのは決して驚くべきことではないだろう。
しかしドイルのSF作品は未知なる存在との戦いや恐怖を描いた作品が多く、至極単純な構図であるのに対し、本書は上にも書いたようにルブランならではの創作手法を取り入れたことでもやもやとした読書感が残ってしまう。特に3つの目の謎を解き明かす手法として技師の研究論文という体裁で15ページも亘って説明しているのは小説としてのバランスの悪さを感じてしまう。

ルブランの描く物語は単純なジャンル小説に留まらず、恋あり冒険あり活劇ありと読者を愉しませる要素を惜しげもなく投入するところに魅力があるのだが、本書は逆にそれが仇になってしまったようだ。

しかし21世紀の今でこそ解るルブランの先見性も垣間見られ、なかなか捨て難い作品だ。


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Tetchy
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