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(短編集)

まどろみ消去



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まどろみ消去の評価: 6.67/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.67pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全3件 1~3 1/1ページ
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

理系教授の文学風味満載

S&Mシリーズもまずは5作目を経て一休みと云ったところか。本書はノンシリーズの連作短編集。

冒頭を飾る「虚空の黙禱者」は夫に突然失踪された1人息子を抱えた女性に纏わる物語。
夫の失踪の謎が最後に明かされる。残酷な行為はしかし田舎の牧歌的な風景でゆったりとした時間の中、明かされる。

詩のように紡がれる物語「純白の女」は一日に電車が一本しか止まらない田舎にある白い建物を訪れた一人の女性の物語。
ファンタジーのような世界観を乙女チックな詩のような文章で綴られる本作は物語の最後でサイコの様相を成す。90年代に流行したサイコ物の森ヴァージョンといった作品。

敏腕女性刑事物と思いきやそれが作中作であることが解る「彼女の迷宮」もまたサイコ物の変奏曲である。

「真夜中の悲鳴」では大学内での事件を扱ったオーソドックスなミステリ。
まず大学での実験風景が実に懐かしい。私は理論研究だったので実験室に籠っての卒業論文の作成を経験をしていないのだが、それでも大学の授業で体験した実験の匂いが漂ってくる。しかも主人公のスピカたちがしているのは深夜の実験。実に魅力的ではないか。
そんな中で発生している学内での連続暴行事件と実験で発見される奇妙な現象。それらが連続暴行事件の犯人に繋がる展開は実にオーソドックスで、主人公のスピカが犯人によってピンチに陥るのも定型と云えば定型。しかし最後の数行が効いている。

次の「優しい恋人へ僕から」は漫画同人誌仲間であるスバル氏と篠原素数が出逢った2日間を描いた作品。この内容は森氏の奥方が佐々木スバル氏であることを考えると半自伝的な小説だろうか。最後のオチは作者が見せた照れ隠しと取っておこう。

続く2編「ミステリィ対戦の前夜」と「誰もいなくなった」は本編ではあまり語られることのない西之園萌絵のミステリ研究会での活動を描いた作品。
前者はミス研の合宿に初参加し、そこでなんと殺人事件に巻き込まれる、と見せかけて…、といった話。
後者はミス研が学校でのイベントで仕掛けたある謎を巡る物語。学校の記念講堂で突如現れた焚火の周りで踊る30人のインディアンがどこから現れ、どこに消えたのかという謎をミス研が仕掛ける。しかし10組の参加者は誰も解らなかったのだが、犀川がその話を聞いた途端に謎を解き明かすという物。犀川の天才性を再認識させる短編だ。

ジャンル的には幻想小説になるだろうか。「何をするためにきたのか」は退屈な大学生活を送る甲斐田フガクが主人公。
因果律の物語。一見何の関係のない人間と事象が次々と連なることで運命の扉が開けるという一種人生の構図を表したような物語だ。
S&Mシリーズの『冷たい密室と博士たち』で犀川が云う、「役に立たないものだからこそ面白い」ことを突き詰めた作品だ。

「悩める刑事」は意外な結末が面白い作品だ。
どんでん返しが鮮やかに決まった作品。これは上手さを素直に認めよう。

「心の法則」は教授である森氏ならではの思弁的な小説と思わせてこれまた意外な展開を見せる。
幻想的な物語だ。どこまでが夢でどこまでが真か、その境界線があいまいになっていく。

最後の「キシマ先生の静かな生活」は大学の異端児であったキシマ先生と主人公の想い出を語った物語だ。
これはミステリではなく、回顧録といった方が正確だろう。その天才性故に大学で孤立した存在であったキシマ先生と彼が助手として所属していた研究室の院生だった私だけが知るキシマ先生の人物像。彼の我が道を進む人生は誰も侵すことのできない世界を形成している。最後はそこはかとない寂しさが過ぎる作品だ。


S&Mシリーズでデビューし、その後連続して『封印再度』の5作まで全て同シリーズを著してきた著者による初めての短編集、となるとてっきりS&Mシリーズの連作短編集かと思いきや、なんとシリーズとは離れたノンシリーズの短編集だった。全く人を食った作風の森氏らしい計らいだ。

しかしこれほどまでに短編を書き溜めていたとは思わなかった。その作風は実にヴァラエティに富んでいる。

景色を丹念に書き綴った田舎風景が印象的な作品もあれば、一転してファンタジックな詩を思わせる作品もある。そして奇妙な味のような作品もあれば、S&Mシリーズを髣髴させる大学を舞台にしたサスペンス物もあり、半自伝的な恋愛物もあったり、作中作に幻想小説と物語のエッセンスがふんだんに盛り込まれている。

森氏の作品の特徴である現役教授ならではの大学風景の瑞々しいまでの描写が本書でも見事に活かされている。
「真夜中の悲鳴」、「ミステリィ大戦の前夜」、「誰もいなくなった」、「何をするためにきたのか」、「キシマ先生の静かな生活」など11作品中5作品と約半分がそれらに該当する。
またそれまでのS&Mシリーズでもその片鱗が見られる幻想的な趣向が短編では全面に押し出されており、作者の自由奔放さが溢れている。「純白の女」、「何をするためにきたのか」、「心の法則」がそれらにあたるだろう。

そしてさらには理系の教授ならではの学問に特化した内容が実に専門的に語られているのも特徴的だ。その内容はもう理解できない者は置き去りにすることも厭わないほど容赦がない。しかしそれを理解できる自分がいるのがどこか誇らしくも思えたりする。

しかし一番面白いのは森博嗣という作家そのものだろう。なんせ現役の建築学科の教授、つまり理系の教授がこれほどまでに色んな物語を書いていることだ。特に1作目の「虚空の黙禱者」の匂い立つような田舎の風景描写には驚かされてしまった。

正直に話せばS&Mシリーズは大きな謎1つで400~500ページの長編を引っ張る構成に冗長さを覚えていたが、短編では森氏独特の奇抜なワンアイデアを中だるみなく楽しめることが出来、この作家は短編向きではないかと思った。
さて次からはS&Mシリーズ後半戦に突入する。とにもかくにも西之園萌絵の存在が私にはシリーズに没入する障害となっているので、今後の変化に期待したい。それとも私が萌絵に馴れるべきなのだろうか?

さて本書のタイトルは『まどろみ消去』。
私は本書を読むことで眠気も覚めるという作者の自信を森氏ならではの文体で表現した物だと理解していたが、英題は“Missing Under The Mistletoe”、直訳になるが『寄生木の下での消失』といささか幻想めいたタイトルである。この英題から想起させられるのは明るい日差しの中、寄生木の下で読んでいるといつの間にか異世界に連れて行かれた、そんなイメージだ。どちらにせよ、実に森氏らしいタイトルである。
さて貴方の眠気は覚めるだろうか?


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.2:
(6pt)

筆者は長編向きか?

S&Mシリーズから、Vシリーズの途中まで読んで森博嗣初の短編集。
結論、短編としてはどれも、あまり切れ味が良いとは言えない出来だった。
筆者曰く、この短編集は一番森らしい作品らしいが、スカイ・クロラといい、これといい、筆者の本質に近ければ近いほど自分の琴線に触れないのかもしれない。
6点。

かいん
AGLSXFF0
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まどろみ消去の感想

森博嗣、初の短編集!粒揃いの短編の中でのおすすめは犀川&萌絵も登場する「誰もいなくなった」!

ジャム
RXFFIEA1

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