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デイン家の呪



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デイン家の呪の評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

ハメット=ハードボイルドとして読んではいけない!

本作は3部で構成されているが、それぞれ別の事件が起き、一応解決し、完結している。そしてそれら3つの事件を貫くのは“運命の女(ファム・ファタール)”ともいうべきゲイブリエル・レゲットだ。

そしてさらにこれら3つの事件の真相はかなり複雑だ。

まず事の起こりである第一部ダイアモンド盗難事件。
これだけでほとんど短編1本分の分量がある。

そこからまた第2部は宗教団体の神殿に住み込んだゲイブリエルの不可解な行動と彼女の周囲に続発する怪事について語られる。

そして第3部ではゲイブリエルに夫となったエリック・コリントン殺害の容疑が掛かる。

このゲイブリエルという女を中心に実に9人が殺される。正に死の連鎖であり、彼女こそ死の女神で、タイトル通りデイン家という血に呪われているとしか思えない不可解な事柄が起きる。
つまり本書はハードボイルドの意匠を借りたホラーであり、それに合理的な説明が付けられる本格ミステリでもあるのだ。

いや“運命の女(ファム・ファタール)”という観点から云えば、これはウールリッチのようなサスペンスの色合いが強いのかもしれない。
しかしウールリッチと違い、ハメットはこのゲイブリエルという女をさほど印象的に描かない。探偵の私の視点で紡がれるこの物語において、私は常に依頼された仕事をやり遂げるためにゲイブリエルに連れ添っているだけだからだ。周囲の人間が次々と死んでいく境遇に家系の呪いを感じる女性ゲイブリエルは薬物依存の弱い女としか描かれない。
このような作品を読むと、やはり作品の好き嫌いは登場人物に共感もしくは好感を持てるかが大きいのだというのが解る。

そういった意味で云えばハメットはあまりにドライすぎる。単純に仕事として関わっている私よりもやはり自分が納得したいがために仕事を超えて動くマーロウやアーチャーの方が私は好みである。
やはり私にはハメットは合わないのかもしれない。

そして各部で一応の解決を見た事件は最後の最後に意外な黒幕が暴かれ、また別の一面が曝されることになる。
また各部で明かされた真相が最後の最後でまた別の様相を呈すという趣向は現代の本格ミステリにも通ずる複雑な技巧である。
繰り返しになるが、本書はハードボイルドとして読むのではなく、呪われた家系をモチーフにした本格ミステリとして読むのが正しいだろう。

さらに本書が書かれたのは1929年と、まだクイーンが活躍する本格ミステリ盛況の頃。そして後年クイーンもこの示唆殺人を自作で扱っており、またクイーンはハメットらハードボイルド作家をライバル視していたので、この作品に何らかの影響は受けていたのではないだろうか。

しかし重ね重ね云うが事件の構造は複雑である。一読だけでは十分に理解できたとは云えないだろう。
なぜならば関係者がそれぞれ自身が犯罪者だと告白し、それぞれのストーリーを組み立てるのだから、真相が幾重にも折り重なり、何がなんだか解らなくなってくる。そういう意味ではコリン・デクスターの作風にも一脈通じる物があるのかもしれない。

作品としての出来は個人的にはあまり好みではないが、ミステリ史における本書の位置付けを考えると非常に意義深いものがあると読後の今、このように振り返ると思えてくる。
ただ歴史的価値のみで本書を勧められるかといえば、ちょっと頭を抱えてしまうのだが。


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Tetchy
WHOKS60S

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