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ダーク・タワー2 運命の三人



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ダーク・タワー2 運命の三人の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

なんとも奇妙な運命の三人衆

ダークタワーシリーズ2作目。<暗黒の塔>を目指すガンスリンガーの旅路は彼と運命を共にする仲間を見つける物語だ。

この物語はどこか我々の世界との共通項を持つ不思議な世界を舞台、特に西部劇に触発されただけに西部開拓時代のアメリカを彷彿とさせるファンタジー色が強かったが、本書ではなんと我々の住む現実世界へガンスリンガーは現れる。

つまり単純なダークファンタジーに終わらず、本書の全般では<西方の海>に辿り着き、北へと向かったガンスリンガーが出くわす奇妙な扉を開けて、我々の住む現実世界の住民たちを<暗黒の塔>を目指す旅の仲間に選び、引き込むのだ。

彼の前に立ち塞がる黒衣の男ことウォルター・オディム、またの名を魔導師マーテン。この敵に立ち向かうために3人の仲間を集める。
なんというベタな展開か。少年バトルマンガの王道とも云うべきプロットである。

しかしそこはキング。この仲間が非常に個性的。いや通常の物語ならば恐らくは厄介過ぎて仲間になんかしたくない、清廉潔白とは程遠い素性の人物ばかりが登場する。

まず最初にガンスリンガーが引き入れるのは現代社会のニューヨークで麻薬の運び屋をやっているエディ・ディーン。彼は自身もヘロイン中毒者である。

次の仲間はケネディ大統領がダラスで暗殺されたのが3ヶ月前という1964年のニューヨークで当時としては珍しい裕福な育ちの黒人女性オデッタ・ホームズ。しかし彼女は地下鉄の事故で両足を切断し車椅子生活を強いられており、なおかつデッタ・ウォーカーという別人格を宿している。

3人目も実に曲者だ。成功した公認会計士でありながら、無差別殺人愛好者、つまりシリアルキラーのジャック・モート。そして彼の時代はオデッタがまだ幼い頃の時代に遡る。

ヘロイン中毒者でヤクの運び屋、両足を失くした二重人格の黒人女性、そして社会的に成功したシリアルキラー。どう考えても旅の仲間にはふさわしくない、いや寧ろ避けたいか、敵の配下にいるような人物たちがローランドが我々現代世界から選び出すことのできる仲間なのだ。
こんなことを考えつくのがキングが凡百の作家を凌駕する、突出した才能の持ち主であることの証左であるのだが、果たしてこんなまとまりのないメンバーを伴にしてどうやってこの先長大な作品を描くのかと読んでいる最中はモヤモヤさせられた。

しかしキングはこのあり得ない仲間たちを引き入れる結末を実に鮮やかに結ぶ。

このなんとも扱いにくい輩、もとい仲間たちの引き入れ方が実に変わっている。

この現実世界の対象人物たちがガンスリンガーの仲間になっていくそれぞれのエピソードがまた実に濃い。

例えば一番手のエディ・ディーンのエピソードはさながらギャング小説のようだ。

次のオデッタ・ホームズの場合はまだ黒人差別が顕著な60年代のアメリカで、両親の事業―歯科医療の技術開発事業―で裕福な生活を送る黒人女性の日常と、裏に隠された白人の黒人たちへの蔑視、更には陰険な嫌がらせがされる社会の様子が描かれる。

但しその嫌がらせの対象となっているオデッタが、デッタ・ウォーカーという悪意の塊のような性格のもう1つの人格を備えた二重人格者であるところがミソ。

そして白眉は最後の1人ジャック・モート。彼のエピソードではローランドが彼の身体を借りて1940、50年代のニューヨークを縦横無尽に駆け抜ける。

とまあ、三者三様の毛色の異なる短編が収められたような内容はまさに自由奔放なファンタジー。どんな方向へ物語が進むのか全く予断を許さない。
キングは頭の中に浮かぶ物語を思いつくままに紙面に書き落としているかのようだ。そしてそれを見事に<暗黒の塔>という大きな幹を持つ物語へと繋げる。

冒頭私はこのダークタワーシリーズを少年バトルマンガの王道のような作品だと述べた。
しかし読後の今はそのコメントがいかに浅はかなものだったと気付かされた。

この何ともミスマッチな仲間が最終的に強い絆を備えた3人の仲間へと着陸する物語運びには脱帽。
これがキングであり、やはり並の作家ではなく、少年バトルマンガの王道と断じようとした私の想像を遥かに超えてくれた。

そしてそれは人それぞれに生きている意味や役割があることを示しているようにも感じた。

さてこの<ダークタワー>シリーズはキングの小説世界の根幹をなす作品と云われているが、本書でも他作品とのリンクが見られる。

まずニューヨークのイタリア・マフィアのボス、エンリコ・バラザーと双璧を成すマフィアとしてジネッリの名が出てくるが、これはキングがリチャード・バックマン名義で刊行した『痩せゆく男』に登場した、主人公の手助けをするリチャード・ジネリ(同書表記)だろう。

私が今回気付いたのはこれだけだが、これからキング作品を読んでいけば、いやもしくは既に読んだ作品の中で私が見落としたキャラクターやリンクが既に盛り込まれているのかもしれない。特に気になったのはジャック・モートの章でローランドが押し入った銃火器店のオーナー、ジャスティン・クレメンツの存在だ。

また本書で覚えておかねばならないのはダークタワーの世界で使われる<カ>の定義だ。義務とか運命、人が行かねばならない場所を指す言葉だ。つまり人生における「決して避けては通れぬ」ものの意味だろう。

1巻目はイントロダクションとも云うべき内容で正直このダークタワーの世界の片鱗の中の片鱗が垣間見れただけで正直展開が想像もつかなかったが、本書においてようやくその世界観や道筋が見えてきた。そうなるとやはりキングが描くダークファンタジーは実に面白い。

これから<暗黒の塔>へ共に旅する運命の三人。彼らの運命がハッピーエンドに終わらないであろうことを示唆して物語は閉じられる。
絆は強まったが盤石の結束を持った三人ではない。そんな危うさを秘めた3人の旅はようやく始まったばかりだ。


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