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夜は千の目をもつ



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夜は千の目をもつの評価: 4.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

題名が詩的なだけに勿体ない

アイリッシュ=ウールリッチの詩的で叙情的な文体はタイムリミット物のサスペンスに緊迫感だけではなく、美酒を片手に飲みながら物語を読んでいるような陶酔感を与え、豊穣な気分をもたらしてくれるのだが、それが曖昧模糊とした雰囲気を纏っているせいもあり、時には物語の進行を妨げるファクターにも成り得る。
本作はそれを実証したかのような作品だ。

今回アイリッシュが用意した設定はこのようなものだ。
仕事の帰り道で偶然出くわした自殺間際の女性を刑事ショーンは間一髪で助ける。事情を聴くと、父が死に直面しているのだという。父はひょんなことからある予言者と出逢い、彼の信望者となっていた。その預言者トムキンズは人智では説明できないような力を持っており、彼の予言は全て当たった。ある日、トムキンズは女性の父親ハーラン・リードに3週間後に獅子に喰われて死ぬという予言をする。その娘ジーンは夜が来るたびに死に近づく父に絶望し、川に身を投げようとしたというのだった。ショーンは上司マクマナスと共にハーラン・リードを予言から守ることを決意する。予言を阻止すべく必死の捜査、護衛が始まった。

どうだろう?
通常であればアイリッシュならではの独創的なプロットだと感嘆するのだが、今回は物語を構成するそれぞれの材料に無理を感じてしまうのだ。
まずジーンが川に身投げする動機があまりにも浅薄で頼りない。この自殺未遂がきっかけで警察に助けてもらうようになるのだから、結構重要な因子であるのだが、純文学的といおうか、何とも摑みどころのない動機ではないか。
次に“予言を阻止すべく警察が捜査・護衛に当たる”。実はここで私はかなり引いてしまった。
通常、警察とは事件が起きてから捜査に乗り出すものである。事件を未然に防ぐための予備捜査・予備護衛は警備会社とか小説では私立探偵の仕事になるだろう。ここのリアリティの無さでこの小説の内容には没頭する興味を80%は失ってしまった。

これ以降、物語は退屈を極めてしまった。アイリッシュのいつもの文体が事件の確信を直接に触れず、婉曲的に周囲を撫でつけているように感じ、もどかしくなり、また予言が現実となるその時までの主人公と親子3人の重圧感ある心理的駆け引きの模様は単純に暑苦しいだけである。

恐らく今まで読んだアイリッシュ=ウールリッチ作品の中にもこのように設定それ自体にリアリティが欠如していたものがあったかもしれない。しかし今までの作品にはその瑕疵を感じさせない「説得力」があったように思う。
今回はそれが無かった。詩的な題名も読後の今はもはや虚しく響くだけである。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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