■スポンサードリンク


(短編集)

ポーカー・レッスン



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
【この小説が収録されている参考書籍】
ポーカー・レッスン (文春文庫)

ポーカー・レッスンの評価: 8.00/10点 レビュー 3件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

どんでん返しが多すぎて

どんでん返しの宝箱と評される傑作短編集『クリスマス・プレゼント』。本書はその第2弾。

まずは「章と節」。
本格ミステリの代表的なトリックにダイイング・メッセージがあるが、本作はそれを逆手に取った物。
死の間際に遺されたメッセージがパソコンのウェブサイトで調べないと解らないくらい複雑な物であるはずがなく、夜を徹して苦闘する刑事の姿が実に滑稽だ。しかも周囲の人物の意見で襲撃者の計画を鵜呑みにする刑事の主体性の無さ。左遷で証人保護プラグラム担当になったという設定の刑事だが、確かにそれだけのことはある。

続く「通勤電車」はある男が直面する転落を描いた話。
さりげないエピソードが主人公を悪夢へ叩きのめすという展開はディーヴァーお得意の物。ただミスディレクションとまでは行かず、これは先が読めた。主人公を傲慢で鼻持ちならない人物にしたことでその破滅ぶりにカタルシスを覚えるのが上手い。

時代物の短編「ウェストファーレンの指輪」ではニヤリとする演出が成されている。
1892年のロンドンを舞台にした窃盗犯と警察との丁々発止のやり取りを描いた作品、と書けば案外普通に思えるが、これにはディーヴァーならではのファン・サービスが詰まった作品だ。
まずこの時代はスコットランド・ヤードが科学の手法を警察捜査に取り入れた頃であり、現場に残された証拠から犯人を特定する高度な捜査が繰り広げられる。しかし敵もさるもので警察が嗅ぎ取るであろう痕跡を巧みに利用し、街の悪党を逮捕する方向へ見事に誘導する。

「監視」も味わいは「ウェストファーレンの指輪」に似ている。
本作におけるオンライン情報の監視はディーヴァー作品では『青い虚空』や『ソウル・コレクター』で見られた手法だが、本作はそれらから生み出された副産物のような作品だ。ミュラーの狡猾な犯人による捜査の誤導は面白いのだが、すでに前に挙げた作品を読んだ身にしてみればさほどの驚きはなかったかな。

「生まれついての悪人」は実に皮肉。
これもディーヴァーならではの反転。しかしこれも案外見え見えの展開だ。
そして裁縫が得意なリズは自分の服に色んな隠しポケットを仕込んでいるが、これはやはり『魔術師』と同類だろう。

「動機」はそのものズバリ、犯人が殺人を犯した動機を探る物語。
先の「通勤電車」と同じ手法の作品。

次の短編「恐怖」の舞台は珍しくイタリアのフィレンツェ。
至極単純なサイコ・ホラーと見せかけて予想外の結末に導く。女性が殺人鬼と思われた男性から逃げるために籠った部屋を予め男性が予想していたのはちょっと出来過ぎだろうと思ってしまうが、この展開は見事。

「一事不再理」は前回の短編集でも収められていた法廷物の1編。
絶対不利と云われた裁判で無実を勝ち取るというのは法廷小説の一種の醍醐味で本書も実に巧妙な切り口で弁護士ポールが四面楚歌状態から優勢に持っていく素晴らしい弁護の過程が存分に楽しめる。
しかし本書では法廷の逆転劇が読書のカタルシスではなく、さらにもう一捻り加えてあるのがミソ。
強引とも云える辣腕弁護士による無実というどこかアンフェアな読後感を一掃する被害者の一手がその不満を浄化してくれる。しかし一事不再理というアメリカ独特の裁判制度は色んな作家が題材にしているということは誰しもがその裁定に納得のいかないことを潜在的に感じているのだろう。

「トンネル・ガール」は老朽化したビルの地下室に閉じ込められた女子高生の救出劇を描いたもの。
テレビの実況中継を髣髴するライヴ感に富んだ作品だが、本書の結末は実に奇抜。

ディーヴァーを語る上で外せないのがリンカーン・ライム。今回も「ロカールの原理」で登場する。
トム、アメリアはもとより、セリットーにデルレイ、そしてクーパーとオールスターキャストで飾る贅沢な1編。そして本作も「トンネル・ガール」に勝るとも劣らない強烈な展開を見せる。
そしてライムの推理がミスリードされるように手掛かりを残しておく周到さも見せるが、さすがはライム。犯人よりも一歩上を行く。
しかしこの偽の手掛かりというのは最近ディーヴァーはよっぽどお気に入りなのだろう。どんでん返しが強烈に決まるからかもしれないが、あざとすぎて少々食傷気味だ。

「冷めてこそ美味」はひょんなことからある陰謀が発覚するという魅力的な導入部から始まる。
一風変わった題名は英語圏独特の云い回しだろうか、“復讐とは冷めてこそ美味い料理である”という慣用句に由来する。
何の繋がりもない人物から命を狙われている可能性があると聞いたら人は疑心暗鬼に陥るのではないだろうか?通常ならば気にも留めない物音や人影も全てが疑わしく思え、あらゆる可能性が自分の死に直結すると考えてしまう。
本作の狙いはそんな疑心暗鬼に陥った人の過剰反応を滑稽に描くところにあるのだろうが、ディーヴァーはそこを逆手に取って、人の恨みの恐ろしさを描く。
確かにトロッターのように犯罪にならない程度の悪戯を施して悦に浸る人ほどたちの悪いものはない。

スティーヴン・キングやクーンツの作品を想起させるのが「コピーキャット」だ。
本に書かれた事件の通りに殺人事件が起こる。
この題材は古くから使われていた手だが、ディーヴァーはそこにメタフィクションの要素を入れた結末を一味加えた。
しかし個人的には犯人を作者と特定せず、リドル・ストーリーのように終える方がよかったかなと思う。まあ、これは好みの問題だが。

女性の縁のない男が出逢った絶世の美女。誰しもそんな女性とはお近づきになりたいと思うだろう。「のぞき」はそんな冴えない中年男の物語。
ストーカーというのはそれ自体非常に恐ろしい物だが、これはそれを逆手に取ったコメディだ。

ギャンブルの世界は実に奥深いが表題作「ポーカー・レッスン」はそんなギャンブラーの思考を垣間見せてくれる好編だ。
映画「ハスラー」を髣髴させるような若い青年とベテランギャンブラーとの交流と勝負を描いた傑作。勝負師ケラーを出し抜いた青年の意外なトリックとさらにその上を行く老人ギャンブラーの狡猾な仕掛けというディーヴァーならではのどんでん返しも楽しいが、たった一夜の物語の中に百戦錬磨のギャンブラーが駆け出しの青年ギャンブラーに大人のギャンブルの世界のルールとマナーを教える様子、そして大勝負の緊張感と勝負師の精密機械張りの読みとフェイクの数々が実に読み応えがある。
長編のクライマックス場面を凝縮したような非常に贅沢な作品だ。これが個人的ベスト。

「36.6度」はこれまた実にディーヴァーらしい作品だ。
あちらが脱獄囚と見せかけて実はこちらが…と見せかけてさらに意外な展開を見せる。しかしやはりあざといな…。

最後の「遊びに行くには最高の街」は先行きの見えないクライム・ストーリーだ。
ニューヨークのダウンタウンを舞台にした悪徳の街のクライムノヴェルと思いきややはり最後はディーヴァー印のどんでん返しが待っている。
しかし本作の文体はそれまでの彼の作品とは違い、安っぽい悪が横行するエルモア・レナード張りのクライムノヴェルとなっている。実は最後に明かされる大仕掛けの種明かしはいらないかもと思ってしまうほど、クライムノヴェルとして面白かった。
これだけ大掛かりじゃなくても少しばかりの引掛けでよかったのになぁと思った作品。


これほど長く待たされたと思わせられる訳出も珍しい。前作『クリスマス・プレゼント』の刊行が2005年。原書刊行が2006年。
だからいつ出るのかいつ出るのかと心待ちにしていたが、これが一向に出ない。
そして2013年。8年の月日を経てようやくの刊行。今や現代アメリカミステリの巨匠となったディーヴァーの超絶技巧が詰まったどんでん返しの宝石箱だ。

この表現は全く以て偽りなし。16編全てにどんでん返しが織り込まれている。そして本書におけるどんでん返しはリンカーン・ライムシリーズで培った技法が大いに下敷きになっている。

特に多いのはわざと状況証拠を並べて警察の捜査をミスリードさせるもの。
しかしこれも行き過ぎれば作り物めいた作品になってしまい、それほど先読み出来るものかと疑ってしまって、存分に愉しめなくなっているのは確か。どんでん返しが高度になり過ぎてもはや訳が分からなくなってしまっている。

そんな中、本書における個人的ベストは表題作。本作ではディーヴァー特有の予想の斜め上を行くどんでん返しも面白いが、何よりも物語の中身が実に濃密。若い駆け出しのギャンブラーと百戦錬磨のギャンブラーの交流と息をつかせぬ大勝負の描写が実に面白い。
そしてディーヴァーはこんなギャンブル小説も書けるのかと脱帽。ディーヴァーの新たな才能の片鱗を見せてくれた。

他には「恐怖」も捨て難い。

逆にどんでん返しが邪魔になったのは最後の「遊びに行くには最高の街」だ。これは逆にクライムストーリーのままで進み、最後にちょっとした仕掛けを施すプロットの方が楽しめたように感じた。

しかし今回は歪んだ社会に潜むどんでん返しというのが目立ったように思う。特に一見普通の市民がその裏では変態的な犯罪者の側面も持っているという隣人に心を許すなかれというメッセージが含まれた作品が多い。
しかし地域交流もこんな話を読むと恐ろしくて気軽に出来ないなぁ。

しかし今回のどんでん返しにはあまり納得がいかない物も多く、正直云って前作より出来は劣る。これだけ物語やシチュエーションにヴァラエティを持ちながら、落ち着くところはどんでん返しという所が設定を変えただけという風に思えてしまうからだ。

前作は語り口でものの見事に騙されたというような鮮やかなどんでん返しがあり、どんでん返しそのものにヴァリエーションがあったように思えた。
今回はほとんどが説明的などんでん返しだったとでも云おうか。

私が好きなどんでん返しはすなわち価値観の逆転。正と思った方が負であり、善が悪に反転するというものだ。
本書にもその趣向に該当する物があるが、前述のようにそれらが非常に説明的だったのが残念。
この辺は語り口の好みの問題なのだろうが、やはり小説を読むのであれば説明的な文は避け、物語の中でさりげなく語り、読者に悟らせるべきだろう。そういう意味では小説の一歩手前のような印象を受けた。

とはいえ、現代気鋭の物語巧者であるディーヴァー、先ほど述べたようにそのシチュエーションのヴァリエーションは実に多彩。さらに一つ一つのディテールが濃く、本当にこの人は何でも書けるという思いを強くした。
特に感心したのはギャンブラーの世界を描いた表題作と最後にクライムノヴェルを読ませてくれた「遊びに行くには最高の街」だ。

更に上に書いたどんでん返しのあざとさはいわばディーヴァー作品を読み慣れた読者の私にとって感じることであり、それはすなわち期待値の高さによる。

ある意味本書は読書の功罪を孕んだ作品集と云えよう。
短編集では全ての短編にどんでん返しが盛り込まれており、特に初めてディーヴァー作品を読む人は読書の至福を感じるだろう。
しかし逆にこれが基準となればその後の読書に多大なる影響を与えることになりかねない。

さて彼ほど読者の期待を一身に受けている作者はいないだろう。次の短編集ではどんな奇手を見せてくれるか、実に楽しみだ。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S
No.1:4人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ポーカー・レッスンの感想

10作品以上の短編小説が収録されており、どんでん返しのオンパレードです。
どんでん返しがあると分かりつつ、読んでいましたが、先が読めた作品は1割ぐらいで、後は驚きの連続でした。
ぜひ、皆さんも読んで下さい。そして、騙される快感を味わって下さい。

松千代
5ZZMYCZT

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!