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四つの凶器



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四つの凶器の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

悪魔も年取れば丸くなり、そして神の領域に達する…のか?

カー初期のシリーズ探偵アンリ・バンコランのシリーズ最終作が本書。悪魔的な風貌と犯罪者に対して容赦ない仕打ちを行う冷酷非情振りに皆が恐れた予審判事も本書では既に引退した身であり、温厚な性格になり、しかも洒落者とまで云われた服装は鳴りを潜めてくたびれた服を着ている。

しかし名探偵の最終巻とはなぜこのように似通っているのだろうか。
私は引退し、かつての切れ味鋭さが鳴りを潜めてくたびれた隠居然―地元警官からは「かかし」のような男とまで呼ばれる―としたアンリ・バンコランの描写を読んでホームズやドルリー・レーンを想起した。それらに共通するのは全盛期ほどのオーラは感じられないものの、腐っても鯛とも云うべき明敏さが残っている。つまり老いてなお名探偵健在を知らしめるための演出なのだろうか。

さて死んだ高級娼婦は短剣で刺殺されたはずなのに、事件現場には短剣以外にもカミソリ、ピストル、睡眠薬と3つの異なる凶器が残されている。本書はその題名からもこの奇妙な状況が取り沙汰されているが、もちろん本書の謎はそれだけではない。殺害された高級娼婦を取り巻く人々や背景事情も複雑に絡んでいるのだ。

事件はどんどん色んな方向へと展開し、そして迷走していく。

さてそんな1人の遺体の周囲に4つもの異なる凶器が転がる不可解な状況の真相はまさにカーの特徴であるインプロヴィゼーションの極致とも云うべきアクロバティックな内容だった。

そしてこんな偶然と即興の産物による奇妙な状況をバンコランが名探偵とは解き明かすのはいささか無理を感じずにはいられない。ほとんど神の領域の全知全能ぶりである。

そんな複雑な事件を考案したことを誇らしげに語り、そして作品として発表するカーの当時の本格ミステリ作家としての矜持と野心と、そして気負いぶりが行間からにじみ出ている。

私の中で疑問に残っているのは本書の結末の意味だ。

本書には事件の真相を自分の中に落とし込むための解きほぐす作業と最後の件の意味を考える、読んだ後にも尾を引く要素がある。

あと最後に触れたいのは今やディーヴァーのリンカーン・ライムシリーズでお馴染みとなったロカールの法則が本書に出てくることだ。
恐らくディーヴァー作品を読む前に本書を読んでいたらスルーしていた内容だが、逆にその後だからこそカーの時代からこの法則が有名だったことが判ったのが収穫だ。

バンコランシリーズは本書で最後になり、私もカー読者になって約四半世紀でこのシリーズを全て読んだことになった。
とはいえ、ジョン・ディクスン・カー及びカーター・ディクスン作品読破にはまだ至っていない。

東京創元社にはこれからも長らく絶版となっているカーの諸作の新訳刊行を続けてもらいたい。大いに期待する。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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