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オッド・トーマスの予知夢



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【この小説が収録されている参考書籍】
オッド・トーマスの予知夢 (ハヤカワ文庫NV)

オッド・トーマスの予知夢の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

オッドは何処へ

オッド・トーマスシリーズ4作目の本書はなんとエスピオナージュ。
田舎町を牛耳る警察署長と港湾局の職員との軋轢。閉鎖されたムラ社会における一人のストレンジャーという図式に、来たるべき災厄を予知夢で察したオッドが奮闘する。その来たるべき災厄とは町の警察ぐるみで仕組まれた核実験用核爆弾の密輸の支援という、実に意外なものだ。
前回はスーパーナチュラルな怪物が相手だったが、今回は人間の悪意と欲が敵だ。

このためオッドはハリー・ライムと名乗って、核爆弾密輸を独りで阻止しようとタグボートに乗り込み、悪漢どもをやっつける。このオッドが名乗る偽名が映画『第三の男』の主人公であることからも本書の狙いが明らかである。

そしてそのためオッドは自ら課していた銃を使わないという禁忌を破り、密輸団の一味である港湾局の職員を銃殺する。これは本当に意外だった。
そして最後に現れる若き女性の悪党の仲間をオッドは迷いながらも国の平和を守るために撃ち殺す。この場面なんかはもろスパイ映画のワンシーンを切り取ったようだ。

このシリーズの売りはオッドの霊が見える能力で、いつも早いページの段階で霊が登場していたのだが、今回は181ページ目でようやく出てくる。しかも定番の災厄の象徴ボダッハは一切現れないという異色さ。
予知夢で大惨事が起こりうることを知りながら、なぜボダッハが現れないのか不思議でならなかったが、その理由についても作者はすでに準備済みだった。その内容については本書を当たられたい。

しかしこのシリーズには欠かせない存在、霊も新しい相棒フランク・シナトラ以外はこの181ページで現れた港湾局の一味の一人である死者となったサミュエル・オリヴァー・ウィトルのみ。
先に書いたように今回はオッドが未曾有の危機を救うため、そして自らと仲間を守るために銃を手に取り、人を殺めるのにも関らず、霊の存在は希薄だ。

しかし今回それを補うのは、第1巻からサブキャラクターとしてオッドに付き添っていたエルヴィス・プレスリーに代わって、連れ合いとなったフランク・シナトラ。
エルヴィス・プレスリーは彼に纏わる薀蓄を語るための道化師のような役割に過ぎなかったのに対し、シナトラはなんとオッドの窮地を救う活躍を見せる。彼は怒りが頂点に達すると周囲の物を動かし、嵐のように吹き飛ばすポルター・ガイストになるのだ。
この性質を上手く利用してオッドは彼をけなし、貶め、怒りを助長させて不当逮捕された警察署から逃げ出す。この展開は全く予想外であり、また霊を利用してピンチを脱するという新機軸の試みは大いに愉しめた。

ピコ・ムンドでは恋人ストーミー、オッドのよき理解者であるミステリ作家のリトル・オジーにワイアット・ポーター保安官を筆頭に魅力あるキャラクターがいたが、本書でもクーンツのキャラクター造形力は健在。

オッドが運命的な出会いを感じる女性アンナマリア。彼女は全てを知るが如く、物事を受け入れ、オッドの問いに明確な答えを出さず、「何事にもしかるべき時がある」と諭すミステリアスな女性だ。

そして幼少の頃に親にごみを燃やしていたドラム缶に落とされ、不具者となったブロッサム・ローズデイルも忘れがたい印象を残す。彼女は人生を悲嘆することなく、明るく生きるヴァイタリティに満ちている。
『対決の刻』のレイラニといい、クーンツは身障者の女性を実に魅力的に描く。

しかし何といっても今回のベストキャラクターはオッドが新たに雇われることになった元映画俳優のハッチことローレンス・ハッチスン。
齢80を超え、隠居の身である彼は独自の世界に閉じこもっているが、時折俳優時代のことを思い出してはオッドに語る。特に面白かったのはオッドがアンナマリアを助けに行く為に港湾局の男達が訪ねてきたら、嘘の芝居でどうにかごまかして欲しいと頼むと、役作りから始めるところだ。それがいささか過剰演出になってオッドに窘められて肩を落とすシーンで一気にこのキャラクターが好きになった。
それ故にハッチとの別れのシーンが胸を打つ。自分を大きく見せることが上手かった元俳優が抱擁した時に実に脆かった、なんて読まされると思わずホロリとしてしまう。

ただ非常に癖のある文体で語られるこのシリーズはクーンツ読者でないと好んで読まないのではないかと思う。
クーンツ作品にしては珍しく一人称なのはオッドが自身の体験を著すことでセラピーの役割を果たしているからだ。そのため内容はオッドの心の有り様と移り変わりを饒舌に語るようになっており、そのため物語の進行は亀の歩みのように遅い。短い時間の出来事をオッドの心情を交えてものすごく濃く語るので、読んでも全く読んでもストーリーが進まないという感を得てしまう。
これはクーンツ好きではない読者にとっては苦痛だろう。私でさえもっと刈り込んでページ数を減らし、コストパフォーマンスに貢献して欲しいと思う時があるくらいだ。

そしてエスピオナージュを装いながら、それらのジャンルの小説と違うのは最後オッドが人を自分が殺めてしまった罪の意識に苛まれ、縮こまってしまうところだ。
幼少の頃、一晩中母親に銃を突きつけられて一言も泣き声を漏らすこと許されなかった過酷な経験をしたこの男が非情に徹しきれないところにオッドの魅力があり、だから読者はこのキャラを愛してしまうのだろう。

オッドが向かう先は育った町ピコ・ムンドなのか。それともまた霊的磁力に誘われて、地図にもない町に行くのか。
そしてアンナマリアはストーミーに代わるオッドの魂の安らぐ場所になるのか。
解説の瀬名氏によれば本書以降、オッドシリーズは書かれていないとのこと。このまま棚上げにするにはなんとも割り切れなさが残る。いつかまたクーンツがシリーズ再開することを切に願おう。


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