おじさんのトランク 幻燈小劇場
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数か月前に「奇譚を売る店」を読んでいたのですが同じシリーズだとは気がつきませんでした。まだこの作家さんの本格推理ものは読んだことがなく、横溝正史の金田一耕助や乱歩の明智小五郎関係も書いていらっしゃるところを見ると、むしろ怪奇幻想味の強い作品が本領という気がします。 結論から言うと、「奇譚を売る店」はとても気に入ったのですが、こちらはちょっといまいちでした。不思議な雰囲気が魅力のとても凝ったお話なんですが、凝りすぎてその構成にやや無理があるように思いました。 主人公は正確な年齢は書いてありませんが50歳前後か?すでに盛りを過ぎて情熱を失いつつある俳優です。そんな彼にプロデューサーから「次の公演をすべてまかせたい」という夢のような話が降ってきます。謎めいた存在である主人公のおじさんをテーマにしたらどうか?というのです。 そこからおじさんの探索が始まるのですが、彼のものらしい古いトランクが偶然手に入ります。 そこに入っていた好奇心をそそられる風変りなものからわかってきたのは、2次大戦中、日本に潜伏していた反ナチのフランス人レジスタンスを助けたらしいおじさん、旧オランダ領東インドで、博物学者の侯爵様と共に幻の蝶を採取しに行ったおじさん、昔走っていた敦賀ーシベリアーヨーロッパを結ぶ欧亜連絡国際列車で、追われていたドイツ婦人を救ったおじさん・・と、まるでひと昔前のヨーロッパ活劇映画のヒーローのような活躍ぶり。いったい彼は何者だったのか? おじさんの謎、主人公の出生、そしてまかされた1人芝居の公演、それらの結びつけ方がちょっと強引な感じで、それだけが残念でした。 ジャンルは違いますが、サマセット・モームの「アシェンデン」とか井上雅彦の「遠い遠い街角」、古いスパイ映画なんかが好きな人はこの雰囲気は気に入ると思います。 挿絵の怪しい雰囲気がこの小説にぴったりですね。私はたまたま単行本で買ったのですが、持っていること自体が楽しい凝った装丁の本でした。 | ||||
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作者である芦辺拓氏の作品はこれが初読なのだけれども「トランク」というどこかノスタルジックな響きに妙に惹かれる物を感じて拝読。 物語の方はベテラン俳優である「私」が顔馴染みの劇団プロデューサーに呼び出される場面から始まる。やたら苦いコーヒーを飲ませる喫茶店でプロデューサーは脇役人生を歩み続けた「私」に自分の為の舞台を企画してみないかと持ち掛けてくるが、その題材としていつか彼に話した風変わりな「おじさん」を主役に据えてはどうかと薦めてくる。 幼少期に嘘か本当か分からない冒険譚を語って聞かせてくれた「おじさん」を題材にしないかと持ち掛けられて困惑した「私」だが、記憶も朧げな「おじさん」の実像を掴まない事には話にならない。どうしたものかと悩んでいたある日旧友の葬儀に参列した「私」は何かに誘われたかの様に列車を降りて山頂にある遊園地へと向かうケーブルカーへ乗り込む。 途中の住宅地で下車した「私」はある古い家の前に辿り着くが、その家の管理を任されているという男に誘われその家の持ち主であったという人物・鍛治町清輝のトランクを渡されるが…… 非常に不思議な読書体験をさせて頂いた。読んでいる間ずっと現実と虚構の被膜が揺らぎ続けているような、まるで幻術でも掛けられている様な気分を味わう事になった。ある種のSFやファンタジー系作品などでこういった感覚を得る事はたまにあるけれども終始現実感が揺らぐ読書と言うのは中々に珍しい。 物語の方は主人公である老俳優「私」が幼き日に出会った「おじさん」こと鍛治町清輝なる人物の実像を探り当てようと、彼の遺品ともいえるトランクとその中に収められた様々な品物をヒントに方々を訪ね歩くというのが主な筋書き。構成の方は6章からなる連作短編形式。 「私」は鍛治町清輝なる人物の像へと迫ろうとするのだけど、この「おじさん」は近付けば近づく程その像が虚構の様に思えて来るほど怪しげな人物なのである。ある時は軽井沢でドイツに占領された祖国を開放しようとするフランス人レジスタンスの闘士を助け、またある時は日本軍が占領したインドネシアで博物学に取り憑かれた華族のお殿様と蝶を追い求め、またある時はシベリア横断鉄道で反ナチ運動を繰り広げる女性の危機を救う……なんだか大昔のスパイ映画の主人公の様ではないかと。 これが単純に訳の分からん怪人物の人生を見せ付けられるだけの話なら事は単純なのだけど、鍛治町清輝の像に迫ろうとその足跡を追う「私」が毎回毎回奇妙な幻想的体験に巻き込まれる所に本作の面白さはある。第一章で「私」にトランクを渡した生駒山の男をはじめ、手掛かりを与えてくれそうな人物に出会うと現実感がグラグラと頼りなくなっていくのである。 在りし日の鍛治町清輝の像に触れる度に「私」が「おじさん」と融合し、彼の生きた鮮烈な人生の中に取り込まれていく……そんな奇妙な、自他の境界線が溶けていく様な感覚。そして読んでいる方も「私」に取り込まれていく様な、ここにいる自分は唯の読者なのか、老俳優の「私」なのか、冒険活劇の主人公である「おじさん」なのか判別が付かなくなる様なまことに妖しい感覚に襲われ続ける。 そしてある瞬間で催眠術師が指を鳴らしたり、手を叩いたかの様に「ハッ」と我に返るのだけれども取り込まれた瞬間が分からないので本当に催眠術を仕掛けられている様な気分にさせられた。 思うにこの作品、この自他の境界線を朧気にする為に「名前」を敢えて避けている様な節すらある。まずもって主人公に名が無く「私」で押し通している事で本を手にしている読者が主人公として鍛治町清輝を追っている様な気にさせられるし、その探索の中で出会う人々も殆どの場合名が無いので逆光の中で顔のよく見えない人物と対話している様な雰囲気が漂い続けている。 主人公も彼を取り巻く人々も顔が見えないので読者は自分の想像の世界に取り込まれて気が付けば現実と虚構の境目があやふやになっていく……各章そんな不思議な感覚に陥るのが途中から麻薬的な快楽に変わって来るのである。人は自分や世界の輪郭から解放される事を渇望しているんじゃないか、そんな気にすらさせられてしまった。 終盤で明かされる鍛治町清輝と「私」の関係が妙に現実臭くて、そこに関してのみ「どうかなあ」という気にもさせられたが、全体からみれば些細な事かもしれない。 現実と虚構の被膜が曖昧になった状態で「揺らぎ」を愉しみたいという方には是非一度お手に取って頂きたいと思わされた一冊であった。 | ||||
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「奇譚を売る店」「楽譜と旅する男」に続く第三弾。雑誌連載の作品を一冊の本にまとめた物。著者はミステリー作家ではあるがその一方で江戸川乱歩のような幻想奇譚小説も得意としていて本作品もその一つ。なので本格推理物を期待するとガッカリします。(笑) 万人受けするものではありませんがこの手の幻想奇譚を好む人は満足感が高いかも知れません。本作の中でも作者はいろいろ趣向を凝らしております。 実はこの本を読んだ後、大宮鉄道博物館に行った時に本作品の中で出てきた欧亜連絡列車の展示を見て「ああ・・ 小説の中の世界が今ここにある」と何やら因縁めいた物を感じました。まったくの偶然ですがこういう不思議感覚も読書の楽しみだな~と。 | ||||
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『奇蹟を売る店』『楽譜と旅する男』と繋がりはないものの、同趣向の装丁+奇譚路線の連作物。 子供の頃に憧れた「おじさん」の遺品が思いがけず手に入り、老俳優が遺品の出自を辿るうち、戦前戦中のミステリアスなエピソードが明らかになる……という構成。ホテルで消失事件に関与したり、幻の蝶を探しにジャングルへ乗り込んだり、「おじさん」はまんま冒険小説の主人公。 各エピソードは30ページ少々のボリュームでして、幻想小説風の味つけだったり、あまりに都合がよく情報に行き当たったりで、推理の要素はいたって薄味であります。主人公が真相を推理するというよりも、調べていくうちに関係者がほとんど真相に近い情報を教えてくれるといったパターン。終盤になって主人公の出生の疑惑が持ち上がり、「おじさん」の真実が明かされるものの、ひねりはあっても物語全体をひっくり返す大仕掛けとまではいかず、奇譚は奇譚のままであってほしかったような。もっとも、それが著者の狙いだったのかもしれませんけれども。 物語とは別に本書で一番感銘を受けたのが、友人の放送作家が語る「付け焼刃のにわか勉強」の秘訣。 「とにかく初心者向けの入門書……それもプライドなんて投げ捨てて、子供向けの本から読むんだ。ほら、図鑑とか読み物とか、いろいろあるだろう。学習漫画とかも、絵の一コマ一コマに考証が行き届いていて侮れないぞ」 ああ、基礎を押さえておかないで壮大な論に走るから、大衆はトンデモ歴史や陰謀論にひっかかっちゃうのね。納得。 | ||||
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