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たこやき さんのレビュー一覧

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レビュー数63

全63件 21~40 2/4ページ

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No.43: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

スケアクロウの感想

ハリーボッシュの物語にいまいちなじめなかったので、どんな話だろうと思っていましたが、こちらの方はなかなか読みごたえのあるミステリーでした。報酬がそれなりに高額であるがゆえにリストラされてしまう新聞記者のジャック・マカヴォイが主人公です。

犯人はネット世界を自在にあやつれるある種の天才で、犯人側の一人称が何章かごとに出てくるので読者には早いうちに犯人がわかってしまうのですが、それでも少しずつ犯人に近づいていく様子は非常に面白いです。サブキャラとしてFBIの捜査官であるレイチェルが唐突に出てくるものの、前作を読んでいなくても全く違和感なく読み進められます。

サイコな犯人を追いつめていく内容もさることながら、何よりもアメリカにおける新聞業界の苦境がけっこうリアルに伝わってきます。日本のような販売店からの宅配制度のないアメリカでは紙媒体の後退は相当深刻なものだと感じられます。経営がなりたたずグローバル企業に買収されることで本当のジャーナリズムから遠ざかってしまうと言う悪循環。

権力に都合のいい情報だけがテレビや新聞で大量に流されると言うのは日本も全く同じ状況で、物語のなかで『究極のジャーナリズムは大統領を引きずりおろす事』と言うようなことが書かれていましたが、グーグルやマイクロソフト、アップルなどがこの犯人にように、国に協力して他人のプライバシーを提供するような時代に、そんなことは現実には起こりえないのではないかと思えます。

シリーズではないのでしょうが、ジャーナリストであるマカヴォイが殺人犯ではなく巨悪の権力に対抗してくれるような続きがあればいいなと思いました。


スケアクロウ(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリースケアクロウ についてのレビュー
No.42:
(8pt)

サクリファイスの感想

10歳にも満たない男の子が自分の弟や里親の子どもを殺してしまうと言うショッキングな事件。
しかし男の子は自分のした事を全く覚えておらず、バークの仲間や精神科医にゆだねられ守られて、虐待の被害者でもあると言うことがわかってくる。
それにしてもフィクションだとわかっていても目を背けたくなるほどの凄まじいほどの虐待の描写。
しかし、日本の10倍以上はあると言われる虐待件数を考えた時、あながち嘘ではないのではないかと思える。また虐待された子どもを守るため実際に弁護士をしている作者の事を考えると、どれだけ奔走してもいっこうに減っていかない現実に作者の願望が含まれているのではと思えてしまう。

虐待された子どもがやがて怪物へと変っていく連鎖はとぎれることなく悪循環となって続いていくことの現実を作者は誰よりも実感しているのではないだろうか。

同じように子どもの虐待をテーマにした天童荒太氏の『永遠の仔』も凄まじいものがあったが、結末にはまだいくらか救いがあったような気がする。しかしバークの物語には救いがない。ルークと同じようなバーク自身の救い難い子ども時代を考えると、そう言った悪人を狩り続けることでしか生きられない悲哀を感じてしまう。それでも兄弟と呼ぶ信頼できる仲間達が存在することで、なんとか自分を保っているのではないだろうか。

日本でも最近は頻繁に虐待死のニュースを見るが、少子化を憂えているくせに福祉を切り捨てようとする政治家達や世間の風潮を見ていると、そう遠くない将来アメリカと同じような現実がやってくるのではないかと思えてならない。
サクリファイス (Hayakawa Novels)
アンドリュー・ヴァクスサクリファイス についてのレビュー
No.41: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ハード・キャンディの感想

シリーズを順に読んでくると独立した物語と言うよりはかなり続き物の雰囲気が漂います。
劇画的なところは相変わらずですが、ついつい読んでしまうと言うよな中毒的な作品かもしれません。
まっとうな方法でなくアウトローな存在が悪を葬ると言うのは非常にアメリカ的と言うか、司法機関や国そのものを全く信頼できないと言ったあたりは、案外現実のものではないかとさえ思えます。
あらゆることがお金でしか解決できないような現実は、今の世界を反映しているとしか思えなくなります。

アメリカの子どもの5人に1人が精神疾患と言うようなニュースを見ていたりすると、ヴァクスの作品が多くの人たちに受け入れられているのもわかるような気がしました。
ハード・キャンディ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.40:
(8pt)

あどけない殺人の感想

現実にも何度も起こっている学校での銃の乱射事件を題材に、違った視点で描かれたミステリーです。
犯人として捕まってしまった保安官の息子。主人公で保安官補のレイニーと似たような学校での事件を追いかけているFBIプロファイラーのクインシーは、調べていくうちに別の真犯人の存在を考え始めます。

現実の世界では別の犯人などはあまりありえないのですが、そこに至る過程や、心に傷を持つメインキャストの心理描写が実に巧みで、特に子ども時代に虐待を受けていたレイニーが、自分自身を信じることができなかったり、自己評価が異常に低かったりと言うあたりはとても上手く描かれているように思います。

事件そのものとは別に登場人物の人間関係にかなり重点がおかれていて、レイニーとクインシーが今後どうなっていくのか気になるところです。
あどけない殺人 (ヴィレッジブックス)
リサ・ガードナーあどけない殺人 についてのレビュー
No.39:
(8pt)

自白の感想

設定としては似たような物語や映画がありますが、それにしても考えさせられる話でした。
冤罪なのに死刑の執行か、と言うあまりにも理不尽な内容なのですがテキサスと言う土地柄を考えても現実にあったのではないかとさえ思えます。しかし似たような自白の強要と言うのは日本でも当たり前のようになっていてあまり人事ではないとさえ思えました。
世界的にも批判されている死刑制度ですが日本ではいっこうに聞く耳を持たず、アメリカと違って執行日も何も知らされないシステムゆえに意識の違いがアメリカとではかなり違うような気がしました。
知らされていない事が制度への鈍感さに繋がっているのではないかと。
牧師の元を訪れる真犯人は確かにろくでもない人間であり擁護できる存在ではありませんが、それでも彼が語る言葉を聞いていると、犯罪者を生み出すシステムが見えてきて厳罰を与えることが犯罪の抑止になるとは思えません。

某政治家は最近立て続けに執行しているようですが、人権感覚の希薄な日本でももう少しまともな議論ができないものなのかと考えずにはいられませんでした。


自白(上) (新潮文庫)
ジョン・グリシャム自白 についてのレビュー
No.38: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

アクロイド殺しの感想

何十年か前の高校生の頃むさぼるように読んでいたクリスティーでしたが、現代ものを読んでいるうちにポワロの芝居がかったところに飽きて全く読まなくなってしまっていましたが、内容を忘れてしまっているので久しぶりに手にとってみました。
今改めて読むと100年近く前の作品でありながらなんと斬新なミステリーだろうと思わずにはいられません。結末に対しての賛否論があったと言うことですが、現在のようにミステリーも多様化し色んなスタイルで書かれていることを考えると、クリスティーと言う偉大な作家がどれほど柔軟な発想を持っていたかよくわかります。

ちなみに私は犯人もすっかり忘れていたので、最後まで読んで2回も楽しませてもらいました。
最近のミステリーはカテゴリーも色々だし、背景やリアリティー、犯人が最初からわかっているものとさまざまですが、読みながら犯人は誰だろうと、登場人物とともに犯人探しができる良作ばかりではないかと思います。

科学捜査全盛の今と違って推理がメインとなるのですが、ポワロと言うキャラクターと彼に都合よく進展していくところに飽きて唐突に読まなくなってしまっていたのですが、これを機会にまた手にとってみたいと思います。

アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティアクロイド殺し についてのレビュー
No.37: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

喪失の感想

エドガー賞を『容疑者Xの献身』に勝った作品と言うことで、期待度も高く読みました。
順番としてはシリーズの5作目だそうですが、人物描写は巧みで緊迫感もあり非常に面白かったと思います。

西洋の作品を読んでいると、警察の組織の違いとかがわかって面白いと同時に違和感もありますね。日本なら速攻で誘拐事件となり一気に大掛かりな捜査になるだろうと言うような始まりなのですが、イギリスでは違うのでしょうね。最初はなかなか進展もなく警部の苛立ちがそのまま伝わってきます。容疑者が浮上したあたりからは読むのをやめることができなくなりました。

惜しむらくはできることなら1作目から順番に出版して欲しかったなと。これだけ読んでもキャフェリー警部の過去やなんかはある程度わかるのですが、フリー・マーリーやウォーキングマンとの関係が少し唐突過ぎて分かりづらい。1,2作目は出版されているそうですが、3,4を飛ばしての『喪失』なので、できれば出そろった時にもう一度読んでみたいと思います。
シリーズ物は、主人公がどんな変化をしていくのかと言うのも楽しみの一つだと思うので。

喪失〔ハヤカワ・ミステリ1866〕
モー・ヘイダー喪失 についてのレビュー
No.36:
(8pt)

バースデイ・ブルーの感想

私立探偵ヴィクの8作目。もうすぐ40歳と言う時にトラブルに巻き込まれ、トカゲの尻尾と思ったら毒蛇だったと言うようないつものパターンですが、相変わらず猪突猛進、意固地で妥協をしらないゆえにまたもや周りも含めて危険の中に飛び込んでゆくのです。
良心的な警察官や恋人であるコンラッドは慰めにはなってくれるものの、突っ走っていく彼女にだんだんついて行けなくなってきます。彼女の言葉を信じようとしない2人ですが、ここは小説ですから男性と女性の違いを際立たせるために書かれているのであって、まっとうな警察官ならあそこまで敵対しないだろうしもう少し優秀だろうとは思うものの、現実には世の中の些細なことすべてに感じる理不尽さは、ものすごく伝わってきます。

それはヴィクが誰かとの会話の中でいつも言い返す「女の子じゃなくて・・・・」と言う言葉に象徴されているような気がします。決して悪気があって言っているのではないにしろ、大半の男性はやはり女性を対等の存在だと認めていないのではないか?と言う悶々とした気持ちが伝わってきます。
これはアメリカだけではなく日本でも同じで、あれこれと法律ができても現実が程遠いのは誰もが知っていることです。

若くもないし、後先考えずに動く彼女にハラハラもしますがこれからも活躍してもらいたいですね。
バースデイ・ブルー (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ・パレツキーバースデイ・ブルー についてのレビュー
No.35:
(8pt)

ダウンタウン・シスターの感想

順を追ってヴィクの物語を読んできましたが、時代から考えると団塊世代なんでしょうか、ウーマンリブとか学生運動をやってた世代の人で女性ならきっとはまってしまう主人公だと思います。
些細なことから始まる話が、いつも最後には巨悪に一矢を報いると言う意味では爽快な物語ですが、今回は少し中途半端な形で終ってしまったのではないかなあと。

しかしあまりにも突っ張りすぎと言うか、引かなさすぎと言うかそこがまた彼女の魅力なんでしょうけど、かなり意固地で感情的な性格だなと感じます。
自由の国と言いながら、アメリカと言う国はとても保守的であり男尊女卑の考え方もある意味日本より徹底しているのではないかとさえ思えます。
それでもヴィクと言うキャラクターが生まれるあたり、逆にバイタリティもすごくあって日本ではあまり登場しないような存在でもあり、勧善懲悪とまではいかないかもしれませんが読後はやはりスカっとします。
それと脇役の存在がとてもいいですね。

ダウンタウン・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.34:
(8pt)

大鴉の啼く冬の感想

白と灰色しか思い浮かばないようなイギリス本土から北にあるシェトランド諸島。人工2万人ほどで島中が顔見知りで、なんでもすぐ噂になり秘密を持てないような、そんな島で殺人事件が起こる。同じ島ではないものの、この諸島の出身であるペレス警部が捜査にあたるのだが、8年前に起こった少女の失踪事件と重ね合わせて1人の老人が疑われる。

狭く閉ざされた島での生き辛さのようなものがとても強く伝わってきます。一度偏見にさらされると孤立し孤独から抜け出せなくなり、しかも狭い島であるがゆえにそこから逃げ出す事もできないと言う、田舎ではありがちな話が4人の人間の視点で語られます。

真相がわかってしまえばそれほど複雑なものではないのですが、最後まで犯人は全くわかりませんでした。人々の鬱屈した思いなどが丁寧に描かれていてとても良かったです。
同じ島国である日本人の感覚とは共通するものがあるのではと感じました。

大鴉の啼く冬 (創元推理文庫)
アン・クリーヴス大鴉の啼く冬 についてのレビュー
No.33: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

犬の力の感想

冒頭からの凄まじい暴力描写。この手の話は好みが分かれるところだとは思いますが、タイトルにマッチした追う者、追われる者の執念のようなものを感じました。
フィクションでありながら、これはこのままメキシコの現実であり、大河ドラマのような重みのある30年間の物語です。

これでもか・・・と言わんばかりの権力・暴力・欲望。
人間の愚かさはとどまるところを知らないのかとさえ思えます。
そしてアメリカやメキシコにとどまらず、何よりも国家そのものが犯罪者なのではないかと。
ギャング、マフィアとの癒着や汚職は、現実世界で実際に起こっていることでもあるし、それにからむ中南米に対するアメリカの立ち位置についても書かれていることそのままなのではないかと思います。

読み応えがありましたが、読んだ後相当疲れました。
犬の力 上 (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ犬の力 についてのレビュー
No.32: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ジェノサイドの感想

何というか、すごいお話でした。
大統領はブッシュをイメージして書かれたのかと思いますが、相当極悪人の扱いでしたね。
9・11につていはスルーでしたが、それ以外の部分については現実との違いをあまり感じることがありませんでした。

多くの文献や取材をされたのだと思いますが、いつの時代になっても戦争がなくならない事実は作者が描いている通りなのではないかと思いました。

3つの国で同時に進行していく緊迫感のある話で、理系にはうとい私は専門用語がわかりづらいところもありましたが、知性や技術が人類を滅ぼすのでなく人格の問題だとヘイズマンが語る言葉に、まさにそれにつきるのではと思いました。

ジェノサイド
高野和明ジェノサイド についてのレビュー
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(8pt)

ボビーZの気怠く優雅な人生の感想

主人公のティムは強盗の罪で服役中。その刑務所の中で暴走族?のボスのような存在に脅され、正当防衛?で殺してしまうのですが、このままでは刑務所内でのリンチは避けられない上に泥棒で何度か服役している彼に終身刑もしくは死刑の判決・・・と脅されて今度は麻薬取締官に協力せざるをえない状況になってしまい、伝説の男『ボビーZ』になりすますはめになります。

これが不運の始まりなのですが、出てくる人出てくる人みんなろくでなしの悪人で、麻薬王、ティムに仲間を殺された暴走族、途中で亡くなってしまった麻薬取締官の身内のギャング、残っている取締官と全ての人間に命を狙われる羽目になってしまいます。

内容的にはB級バイオレンス映画さながらなのですが、この作者のセンスの良さなのか、同じくろくでなしでありながら憎めないお人よしであるティムの人柄なのか、色々とユーモアがちりばめられているようで何故かあまり暗い雰囲気がなく読みすすめられます。
暴力的な話はどちらかと言うとあまり好きな方ではないのですが、楽しく読ませる作者の筆力を感じました。

▼以下、ネタバレ感想
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ボビーZの気怠く優雅な人生 (角川文庫)
No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

高く孤独な道を行けの感想

事件は解決したものの、まともな国交もない国に取り残されたニールがどうなったのか気になり、続けて3作目を読みました。さすがにどんな環境にもなじんでしまう彼ですが、3年か・・・そしてやはり解決の道はお金しかないのかと思いましが、いったいどれくらいだのか私も聞いてみたいです。

唐突に迎えにきたグレアムとともに帰国し、自由を満喫する間もなく仕事にかりだされます。
監護権がからむ子どもを取り戻すだけのはずだったのが、その裏には狂信的な人種差別主義者たちの結社があって、非常に困難な状況になっていきます。

今回の舞台はまさに西部劇。グレアム、エドに加えてミルズ一家という心強く温かい家族や一人の女性との出会いがあり、それぞれの人間が個々の思いをかかえながら、結社と対決することになります。
これまでと違いアクション満載で、まさに西部劇での決闘のように物語が進んでいくのですが、またひとつ大人の階段を上っていくニールの成長物語でもあるのではないかと思います。

それにしても、差別主義者というのはどの国にもいるとは思うのですが、銃器の氾濫するアメリカでは本当にこんなことが起こってもおかしくないだろうとさえ思えてしまいます。

高く孤独な道を行け (創元推理文庫)
ドン・ウィンズロウ高く孤独な道を行け についてのレビュー
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(8pt)

仏陀の鏡への道の感想

探偵ニールのシリーズの2作目。
中国人の美しい女性に心を奪われ、会社の契約を放棄して戻ってこない化学者を連れ戻す依頼を受けて、イギリスでの隠遁生活から呼び戻されたニールですが、簡単にすむはずだった仕事なのにその女性に心を奪われてしまい、よせばいいのに香港まで追いかけてしってしまうのですが、その裏には2つの大国がからむ複雑な事情があって、どんどん深みにはまっていってしまいます。

それにしても文革直後の中国へ・・・と言うのがちょっと現実離れしているのですが、繊細でナイーブ、だけど思い込んだら納得できるまで突き進まなければ止まることができないニールの青臭さが上手く話と噛み合っていて面白いです。

あの当時の香港や中国は、そこにいた人間にしかわからない悲劇だと思いますが、そこはすごくよく調べられているので、フィクションでありながら結構リアリティを感じました。

いわゆるタフで渋い定番のような探偵とは全く違い、技術はあるものの暴力にはとんと縁がなく、銃もまともに扱えないようなニールですが、ストリートキッズ出身ゆえか、極端な環境の変化にもたくましくなじんでいってしまうところが若者らしくていいですね。

やっかいな仕事を押し付け、いつも憎まれ口をたたきながらも、グレアムもエドもニールをすごく大切に思っているのだなと改めて感じました。

仏陀の鏡への道 (創元推理文庫)
ドン・ウィンズロウ仏陀の鏡への道 についてのレビュー
No.28: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ストリート・キッズの感想

アメリカの探偵小説でありながらハードボイルドではなく、またドンパチもあまり出てこない物語で落ち着いて読めました。
主人公のニールは、保守的な銀行家が私的に持っている調査機関の調査員であり、顧客の依頼に応じて上からの指示で動くのですが、本人は元ストリートキッズでありかなり過酷な生い立ちのもとで成長するのですが、その過程で義手の探偵に拾われることで今の立場となります。

薬漬けになり荒れた生活の果てに家出してしまった、上院議員の娘を探し出して連れ戻すと言う依頼がきて、目撃情報をもとにイギリスへ飛ぶのですが、娘の家出の真相には複雑な問題がからむ上、薬から離れることができないということもあって難航します。

それにしても、政治家の汚さと言う点においてはなかなかリアリティがあると思いました。
探偵小説というよりも若いニールの成長物語と言ってもいいのではないかと思います。
謎解きのようなミステリーではありませんが、読み応えがあり青春小説として読んでも面白いのではないかと思います。
ストリート・キッズ (創元推理文庫)
ドン・ウィンズロウストリート・キッズ についてのレビュー
No.27:
(8pt)

希望の記憶の感想

前作と合わせて一つの物語となっていますが、事件そのものは別々になっていると言う巧みな構成になっています。
前作でいきなり狙撃され、同僚が重傷を負い、保安官に戻ってしまった事を心のどこかでは後悔しているようなコーク。それに引き続いて殺人事件が起こるのですが、被害者の身内はかつて妻であるジョーが付き合っていた男性であり、なおかつシカゴでは裏の権力にも通じる一家。
真相は前作でほぼ解明するのですが、理不尽な思い込みにより追われる立場になったコークが、重傷を負い逃げていった先で起こる、全く別の事件。

今回は動けないコークに代わって他の人たちが事件解決に動き回るのですが、オーロラの人達や家族があまり出てこないので、そう言った意味ではこのシリーズの良さが少しトーンダウンした感じがします。
最後になってオーロラでの事件も完結するのですが、あっけないと言うか、スケールの大きな話になったわりには、えらくすんなり終ってしまったのがちょっと物足りない感じがしました。




希望の記憶 (講談社文庫)
ウィリアム・K・クルーガー希望の記憶 についてのレビュー
No.26:
(8pt)

泥棒は図書室で推理するの感想

今回はニューヨークではなく、山奥のイギリス風ロッジでの出来事。日本でもよくあるような雪に閉ざされた一軒家で、誰もそこから出ることができなくなる中で連続殺人が起こる・・・と言う非常によくありがちな設定なのですが、やっぱり面白いです。泥棒であるバーニイの目的は有名なあのレイモンド・チャンドラーの献辞付きの初版本。もともとは恋人と行く予定だったのですが振られてしまい、親友のキャロリンと出かける事になるのですが、このレズのキャロリンとの会話がいつも本当に楽しくて、異性の親友って本当にいいもんだなと感じます。

探偵物はいまいち苦手なところもあるのですが、酔っ払ってしまって予定外の行動になったりとか、かなりすっとぼけたヒーローなのですが、トイレを我慢できなくなるあたりは最高に面白かったです。
訳者の方が非常に上手い表現をされているのだと思いますが、推理とかよりもパロディとか会話とかを存分に楽しめる作品なので、1作目から読まれることをお薦めします。
泥棒は図書室で推理する―泥棒バーニイ・シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

No.25:

新装版 窓 (講談社文庫)

乃南アサ

No.25: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

窓の感想

『鍵』の続編になる本書は、前作から半年後くらいでしょうか。
高校3年になり、耳が聞こえないと言う障害ゆえに進路や将来のことで塞ぎこんでいく主人公の麻里子。
自分の思うことの半分も伝えられないと感じるジレンマから、親友とも憧れの兄の友人とも少しギクシャクしてしまいます。
物語は最初から読者には犯人がわかっていて、その犯人の心理描写も絶妙と言うか、最近の悲惨な事件に共通するものがあるのではと思わずにはいられません。
また犯人を目撃し、容疑者と疑われてしまう同じ聴覚障害を持つ少年と出会うことで、少しずつ前向きに考え方が変っていくあたりは、同じような障害を持つ人にとっても素晴らしいエールになっているのではないでしょうか。最後の方で一皮向けたお兄ちゃんが少年に語る言葉がいいですね。


▼以下、ネタバレ感想
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新装版 窓 (講談社文庫)
乃南アサ についてのレビュー
No.24: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

泥棒は詩を口ずさむの感想

バーニイシリーズの3作目です。
何故か古本屋を言う正業を始めているところがいいですね・・・泥棒はやめてないけど。
物語は、特別なアクションやハードボイルドはなく、予定調和のようにうまく解決するところがいいですね。いつもピンチになると必ず助けてくれるキュートな女性が出てきてくれるし(これもバーニイの人柄ゆえか?)チョイ悪だけど、なんだかんだ言いながら助けてくれるレイとか。登場人物の人間らしい暖かさを感じます。
決してほめられた仕事ではないのに、本当に憎めないバーニイ。
行きががかり上で、たまたま泥棒に入られたブリン夫妻がまたなんともいえずいいですね。
ホっとしたい時にはお勧めです。

泥棒は詩を口ずさむ (ハヤカワ・ミステリ 1369)