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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数359件
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なんというか粗がなく完成度が高い作品。点数はジャンル的な好みから。
第二次世界大戦中のアメリカ後方支援部隊の視点で描く日常の謎。 戦争という非日常が舞台なので、戦火の中では当たり前の出来事が盲点的に刺激となりました。 読書前はミステリと料理が絡むのかな?と思ってましたが料理の話は少な目。というか他の戦場の様子の密度が濃いゆえの感覚。ミステリというより青春小説の印象です。 戦争中の悲惨な様子も描かれていますが、陰鬱な気持ちにならなず冒険物として読める文章の爽やかさは良かったです。 日常の謎ジャンルのミステリは刺激が弱くあまり好みではないのが影響して本作もミステリを読んでいる気分ではありませんでした。ここは好みの問題です。ですが終盤のまとめ方は、ミステリ、青春物、戦争の社会的メッセージなどがうまくまとまった瞬間で楽しめました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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凄い書物に触れてしまいました。内容の密度がとても濃く読み終わるまで1か月要しました。ただ、この期間は難しくて挫折の意味ではなく、数多く現れる内容から興味を持ったものを脱線して調べながらの読書だったためです。それでも正直わからない事だらけで、拾えるものが微々たるものでした。本書の凄まじさは読者が持っている知識に呼応して魅力が増す作品になっている所です。
いきなり本書に触れると返り討ちに合いそうなので、先人に習って以下の手順で自分は触れました。 ■個人的なオススメの作品の触れ方 ▽映画を見る(ショーン・コネリー主演、ジャン=ジャック・アノー監督) ↓ ▽下巻の解説を読む ↓ ▽本書を読む。 まず映画の出来がとてもよいです。本書のミステリ部分が強調された作品となっており、難しい知識が必要なく楽しめます。 1327年の修道院で発生した連続怪死事件をバスカヴィルのウィリアムとメルクのアドソの探偵&助手(書記)の2人が体験します。ピンと来ると思いますが、シャーロックホームズの設定を活用しています。ウィリアムの圧倒的な知識と洞察力で、修道士達の発言や行動、黙示録に見立てられたような事件現場や占星術や神学等、見習いアドソ&読者に教える先生のように推理と解説をしていきます。ミステリの面白さを十分に楽しみながら全体像を映像として把握できるので映画はオススメです。 次に下巻の解説を読みました。ストーリーは映画で把握済みなので、ネタバレ気にせず翻訳者の解説にて本書の背景がどういうもので、歴史や書物、著者専門の記号論がどのように扱われているかが感じ取れます。 この手順であれば、登場人物のカタカナ名に悩まされる事も場面混乱も回避でき、最大の魅力であるミステリを模した書物の迷宮を集中して体験できるでしょう。 個人的な感覚ですが、昔に体験した三大奇書の黒死館の衒学やドグラマグラの作中作の面白い意味でのパニック感を、数年経った今、学術的な要素で再体験した気持ちです。難しくて好みが分かれるかもしれないですが、そういう圧倒的なものに触れるのが好きな方にはささる作品です。 拙い知識でどう書いたらよいか悩むのですが、設定の数々である、時代や現場や言語体系やミステリ要素や書物に関する事、どれもこれもが外せずに絡んでいて、こうじゃなきゃ成立しない凄まじいバランスの妙の作品ですね。何かに気付いてもそれが必然になっている事に気づかされる。。。。うーむ、、、すごい。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個人的な著者の作品イメージは、ほんわか・あったかな日常の謎なのですが、本作はそのイメージを払拭して、かつ、やりきった感じをうける程、悪意に満ちていました。
なので、冒頭に著者コメントで注意書きがあるように、作者買いで安らかな心を得たい方には不向きな作品です。 『盤上の敵』というタイトル通り、チェスをモチーフにしており、登場人物や、その背景、動機などは作品を作る上での駒と感じました。並べた駒(要素)の巧みさを本格ミステリとして楽しむ方、作品内の悪意の感情に気分を害される方、どの視点で見るかで評価が分かれるかなと思います。今でいう『イヤミス』のカテゴリに該当する作品です。当時はイヤミスなんて言葉は無かったので、より話題になったと思われます。 著者コメントにより、イヤミス前程で読めた為、悪意の影響は軽減され、仕掛けの面白さで楽しむ事ができまして、終盤は何度も驚かされました。この話を構築する為に悪意は必要な要素として配置されていると読後に感じた次第です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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記憶を保持したまま過去に戻れたら……。人生をもう一度やり直したい、あの時別の行動をしていたらと、やり直しは誰もが一度は思う。
競馬や投資で大金持ちになる事や、恋人を変えて別の家庭を築いたり、膨大な知識や経験で作品を残したりと、率直な感想としては羨ましい限りであります。と、同時に43歳の命日に来ると必ず死んでしまい、それまで築きあげたものが無になる虚無感も物凄く伝わって来ました。 小説で物語で読むという行為は他人の人生を経験する事でもあります。現実的な人の夢を繰り返し体験する主人公の姿が1冊に収まっており、読者が読む時期によって作品から感受する点が異なる事でしょう。 作品の難をいうと、60年代のアメリカが舞台という事で、社会的な内容の理解と共感が得づらかったです。また、この手のテーマは読み慣れている事もあり、想像しうる内容に収まっていて大きな驚きなどのドキドキ感がなかったです。作品をしんみり味わう系の物語でした。 あとは身も蓋もないですが、仕事や恋人など、人生がうまくいく為には、まずお金が大事だという事が強調された印象でした。人・物・金・情報・時間という言葉がありますが、人の繋がりや物ではなく、金と行動が大事なように感じました。読む人によって違う心理学要素かも。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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雪の山荘もの。シチュエーションは最高です。
同窓会のお知らせが届いた数名が恩師の住まいである深雪荘へ訪れる。久々に再開した恩師は事故で障害となっており、下半身不随の車椅子生活。そして言葉も発せず仮面を着けて過ごす有様だった。天候が荒れる中集まったのはよいが、同窓会の招待状は誰も送っていない事がわかる。何かがおかしいと、疑惑から始まる雪の山荘のクローズド・サークルものです。 思いつくガジェットは満載で、この雰囲気だけでも結構満足でした。 が、あまり評判が良くないのは終盤の真相の釈然としない気持ちでしょうか。雰囲気が真面目なのですが、バカミス作家が描けば失笑トリックな仕掛けが一部あるので、驚いたというよりモヤモヤ晴れない気持ちです。 先生や篤の過剰な行動がちょっとギャグに感じていましたが、2000年ごろはまだオカルトネタが多かったので時代を感じる作品なのかなぁと、思う所があった次第です。 あと2冊、類似本があるので追っかけて読んでみようと思います。こういうコテコテは好み。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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好きな作家さんなので点数は好み補正。
シリーズ化を検討しているらしく、本作に"1"がナンバリングされていますが、本作だけでも楽しめます。 過去作を読んでいるうえで本作に触れた印象は、現実的で少し落ち着いている作品に感じました。 今までは読者が想像しない世界観を変わった方法で描き驚かせてくれたのですが、それが本作ではなかったのです。地道な捜査をコツコツ行う警察小説を読んでいるようで、野﨑まど作品なのかな?という印象です。 違う出版社なので、新レーベルの意向なのかもしれません。 ただ、後半は作者らしさが出ました。取り調べ辺りから、不気味な何かに触れてしまった感じがとても出てきてワクワクしました。 この設定のまま次作がどうなるのか気になる所ではありますが、正直な気持ちとしてこのシリーズ作品を描くなら別の物語を読みたいなと思った次第でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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地下に監禁され、出してほしければ過去に起きた事を示せと閉じ込められるパート。ネットで知り合った2人が交換殺人を行うパート。大きくはこの2つが同時進行するお話です。
この2つがどんなミステリ模様となるのかは、なんとなく想像出来てしまいますが、ちゃんと複数のひねりがある本格ものになっており楽しめました。 作中に出てくる作家の言葉より 『ミステリマニアが読めばネタが割れてしまうような分かりやすい伏線の方が、普通の読者にはウケがいいと思うんで、』に始まり、気になる所はわかっていて書いているんだよと伝えられた点は好感でした。 短い小説の中で、巧いストーリーになっているのが見事でした。 終始、どよ~んとした重い空気な所は合わず。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個人的な乱歩賞のイメージ通りの作品。メッセージ性の強い社会派でありながら、あれやこれらが伏線として繋がり、終盤は綺麗に回収されている事に驚きました。
盲目の老人が主人公。白杖を携え街を歩く事、対人との表情の見えない会話、点字の学習、孫に何か残してやれないかといった家族への想いと葛藤が描かれます。そしてテーマはこれだけではなく、盲目作品といえば疑心暗鬼もの。本書も目の前の兄は本当に自分の兄なのだろうか?と疑問が生まれ、生い立ちの回想から戦時の中国残留孤児に関するテーマが追加され、さらなる話へ移っていきます。 テーマが多いのは人それぞれの好みかと思いますが、個人的にはお腹いっぱい。説教ではないけどメッセージが強くて堅い小説を読んだ印象でした。主人公も何だかネガティブで口うるさくて共感できない。老害と呼ばれてしまうぞ。。という思いであまり気乗りしない読書です。小説を読んで情景を想像する事は盲目の老人と同じ印象を得た気持ちでありましたが、1点どうも想像できないのが、主人公や年上の方々がアクティブ過ぎる事。70歳超えてますよね?老人には無理でしょと思うアクションシーンや、あの時よく生きてられたね。という非現実感が好みではなかったです。 とはいえ、終盤は様々なエピソードが綺麗に繋がる幕引きで加点です。 読書中は辛いけど、最後は面白いものだった。と、個人的にいつも思う乱歩賞の作品でした。 あと余談ですが、審査員の作家の方々が、元のタイトル『無縁の常闇に嘘は香る』に難色を示す話が面白かったです。そこまで悪くは感じませんでしたが、出版された本書の『闇に香る嘘』の方が確かに素晴らしいので、審査した作家の指摘と編集の技術を感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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個人的な事ですが、昔を思い出しながらの読書体験でした。
ネットで知り合う。となると今では出会い系、SNS、といった単語が返されるのですが、15年以上前の90年代では、パソコン通信やniftyフォーラムとか、ネットができる一部の人がテーマを掲げて交流していました。なんというか誰でもネットが出来たわけではないので、ネットが出来る人同士の不思議な仲間意識があった気がします。 本書のように個人サイトがあり、管理人にメールして交流するというのは自然と行われてました。相手の年齢・性別・容姿などは分からないまま、というより気にせず、ただ興味が近い人同士でメールで交流したものです。オフ会も何度もしました。本書の登場人物の方も、私生活では閉じこもり人と会わないけれど、オフ会だけは出てくる人もいました。 そんな経験があるもので、本書の出会い方やメールでのやり取りは微笑ましいものを感じました。他人のメールのやりとりを覗いているようで、くすぐったかったです。 今の世の中ではこういう出会いはし辛くなっていて、実名制のFacebook等、内面だけでなく、人柄、姿、所属など情報量が増えた条件で出会う事になっているのかなー?とか考えました。なので、本書のやり取りは、個人的には昔を思い出すのですが、現代の子達にはピュアに映るんではないかと感じます。 ところで正直な所、伸の発言や行動に共感できない事が多かったです。。。いろんな恋愛観があるんだなと感じました。結局な所、伸は第一印象重視で、ナルシストな印象でした。たまたま好きな本で繋がった、ひとみの内面から惹かれるわけですが、、出会ってみてうまく行かないだけで怒るシーンがありますが、もう失礼極まりない。もともとこういう性格なのかな。事前に出会っているナナコも最初の印象が悪かっただけで、相談してみるとその子の本質が少し見えて、実はいい子かと考えを改めたりと、性格が悪く感じてしまうのが凄く気になりました。うまくいえませんが、伸との性格の不一致でモヤモヤしてました。 作品テーマの障害を伝える事に対して、恋愛物に創り上げているのはとても巧いなと思いました。ページ数も手ごろで、映画化もされるので、若い世代にも見られる事でしょう。 こういうエンターテイメントの構築はこの作家さん凄くうまいと改めて感じました。 |
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文学少女×ミステリというと、ビブリア古書堂シリーズが思い浮かびましたが、それよりも古くそしてライトノベルな作品。ただし中身はシリアスで結構重い。読書前と読後でイメージが異なった作品でした。
シリアスな雰囲気の中、文学少女の遠子先輩が総じて明るいキャラクターなのが良いです。よく喋る文学少女って意外とない設定かも。明るく博学で熱い想いがあるのが魅力的。 ただ、キャラ設定として拒絶反応が出そうなのが1点。この文学少女、本を食べるんですよね。びりっとページを破って食べる。甘い甘いお話が食べたいとか、悲しい話で変な味~とか。これだけはちょっと合わなかったです。 そんな訳なので、この本をどう読んでよいか序盤迷いました。真面目に読むか、不思議現象も考慮する作品なのか?と。お伝えしておきますと、本を食べるエピソード以外は真面目に読んで大丈夫です。 物語は太宰治の人間失格を活用した学園ミステリが進行します。 太宰治の作品は暗いとか、合う人合わない人がいるのは共感の度合いとか、落ち込んでいる時に読むと取り込まれるとか、何気ない太宰治作品の解説が読後に全体像と巧く結びついてくるのが見事です。 結末も予想していなかった展開で、シリアスだけど最後は爽やかに終わる、意外な作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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舞台は東京駅。保険の契約ノルマで奮闘する人、俳句仲間のオフ会、男女のもつれ、オーディンションを受ける子役、爆弾犯、etc...
総勢28キャラが交差する物語。 サウンドノベルゲームの『街』『428』が好きなのですが、これに似た小説が読みたいと探した所、見つけたのが本書の『ドミノ』でした。ゲームを知っているなら同じ雰囲気を楽しめます。 本書の凄い所は、28もの登場キャラがいるのに混乱がない事です。 ゲームのように音や写真・イラストはなく、文章だけで書き分けて混乱させないのは凄いです。そして、それぞれのキャラ達は自身の物語が存在し、それぞれの主人公なのです。個々のストーリーを楽しみ、東京の舞台でそれぞれが交差し、あれがここで影響して、あの人の行動がこっちで影響して。。。という楽しさが最高でした。 サウンドノベルゲームの場合、プレイヤーが物語に介入して失敗すればバッドエンドが起きますので、誰かが死んじゃったり、悲惨な結末が起きる刺激がありますが、小説による偶像劇の場合はエンディングに向けて1本道を進むので、刺激的なアクセントが付け辛い難しさがあると思っていました。が、本書は爆弾事件や保険契約処理のノルマなど、タイムリミット系のハラハラ内容を複数設置することで、飽きさせない作りにしている点で成功しています。 悲惨な事件や複雑な仕掛けはなくて、サラッとしていますが、気軽に楽しみ充実できる良い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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書物が駆逐され、水没しつつある世界が舞台の『少年検閲官シリーズ』第2弾。
前作は読んでおいた方が良いです。 デビュー作からファンタジー×ミステリの作風でしたが、その作風を着実に進化させた本シリーズはとても面白いです。城シリーズ序盤あたりの、ラノベファンタジー模様は、あまり好みではなかったのですが、ここまで来ると世界観に浸れて楽しめます。 また、思い返せば『瑠璃城殺人事件』でも図書館を舞台とした密室がありましたが、当時から作者の本とミステリに対する思いがずっと続いているのだと感じました。 ネタバレ以外での話として、このファンタジーの世界観を十分に活用した事件を行なっている点が凄く評価です。本作は前作以上の出来でしょう。 序盤のオルゴール職人が少女をオルゴールにするエピソードについても、残酷性はなく、ゆったりと静かな情景の中でひっそりと聞こえるオルゴールの音色のように悲しく神秘的な雰囲気に惹き込まれました。 オルゴール職人の集う孤島での連続殺人。 物理トリックや多重解釈といった本格ミステリ要素をファンタジーの世界観で包み、独自の個性を生み出しています。本作は十分に堪能できました。 その他余談として、 スピンオフ作品『ダンガンロンパシリーズ』における、事前に本書の仕掛けを匂わせる『黒の挑戦』の設定と、『少年検閲官シリーズ』の『ガジェット』の扱いが似ています。事件模様も解決模様も似ているので、この2つのシリーズ間は互いに刺激を与えあっていると感じました。 発売時期としては少年検閲官のガジェットが先で、その後、知名度が高いダンガンロンパを描いていく中で、ミステリ×キャラ×ファンタジーの描き方が培われて、オリジナル作品の少年検閲官シリーズである本書『オルゴーリェンヌ』へ昇華したと感じました。 シリーズ作品として次作を楽しみにしています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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タイムトラベルもの。
一見、ただのライトノベルなんだけど、真相が明らかになった所でSFミステリに変容し、評価が凄くあがった作品です。 読書中の率直な感想としては面白くなったです。情景・状況が分かり辛い。表紙の印象からなのですが、どこまで現実的でアニメ設定なのかが把握し辛かった為、夢中になれませんでした。 ただ、ラストのまとめ方は凄いです。複雑なシナリオで見事。 アドベンチャーゲーム系の仕掛けで使われそうなネタを小説で体験したのは初めてかも。よくできていて驚きました。 タイムトラベル作品において、本書の個性的な設定は『肉体』と『精神』を別に考え、過去に戻る際『精神が他人の肉体へ宿れる』事です。 過去に何かしらの過ちを犯してしまった『僕』が、死後の世界で"案内人"と呼ばれる存在の力を借りて過去に戻ります。『僕』はいったいどの人物で、どんな後悔する罪を犯したのか?過去の他人の肉体に宿り、自分の犯行を止めようと試みる、"しなおし"の物語です。 読書中、もっと惹き込まれる何かがあれば、凄くおすすめしたくなる作品だと感じた、ちょっともどかしい作品。 かなりややこしい構造なので、ネタバレで解説を記述しておきます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『これは推理小説を模った魔術師の物語』
事件や謎が生まれて、魔術師や魔法が存在する世界なのですが、ミステリやファンタジーと区別ができない物語。ただ『本格ミステリ・ディケイド300』に掲載されていますのでミステリとして認識されている本ですね。当時ミステリとして不思議な影響を与えた作品なのだと思います。あまり見かけない特殊設定本です。 最初の事件は、学園の屋上で行われた顔を潰された被害者の謎。屋上へ向かった犯人の姿は監視カメラになく、被害者も一命を取り留めた。視線の密室や、何故とどめを刺さなかったのか?といった犯行理由の推測などミステリ模様は豊富。 読者は魔術が存在する世界の為、魔法で何かできるのではないか?と考えようとします。 ですが、その魔術が一体何なのか全貌が説明されていません。その為、魔術で出来る事・出来ない事が不明で、論理的に事件を考える事ができず、傍観者の気分になってしまうのが残念。 ただ、このモヤモヤした感覚は、終盤のある事柄に対して効果的なので、まったく悪いわけでは無いですね。ややこしい事をしているのに、雰囲気が軽いから、なんとも不思議な作品に仕上がってます。 文章は読みやすく、学園もので明るい作風は楽しめました。佐杏先生や主人公のキャラが特出していて良かったです。反面、他のゼミの子達の区別が分かり辛かったのが難点ではありますが。。。 変わり種で楽しめたので、続編も読んで見ようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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好みの本でした。
こういうのが読みたかったと思えた作品。ミステリを読み始めた頃の懐かしさと新しさのバランスがうまく取れていて好みでした。 期待させると落胆させてしまいそうなのですが、ミステリの驚きや濃さとか人間味とか、そういうのを求めると浅いと感じられてしまうかもしれません。ただ、楽しいミステリってこういうのだよ。と改めて認識できた作品でした。 星読館という天体を観測する館。そこに住まう博士。孤島に集められた7名の男女。 好みのシチュエーションの中で起きる事件。何故事件が起きたのか。理由や動機は?これらミステリ模様は読んでいて楽しいです。ライトノベルの作者なのでキャラクターは軽めなのですが、おっさんやヒロインなど定番だけど分かりやすくてよい感じ。 読書前と後で印象が変わりました。ミステリ・フロンティアのレーベルだったこともあり、読書前は重いコテコテのミステリを想像していたらライトで違う。でも、これはこれで面白くて、最後は納得で綺麗にまとまるのが見事。 個々の要素は見知った定番ネタなのに、使い方と整え方が凄く綺麗です。天体観測や流れ星や願い事などの雰囲気もロマンチックで楽しめました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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犯人は○○だよ。冒頭1ページに神様からの指摘で始まる連作短編小説。
ミステリ世界の中で絶対的な真相を提示する名探偵の枠を超えた神様と言う存在が凄まじいです。 通常ミステリで『偶然こんな事が起きたから、犯人は○○』と言われても納得できないのですが、『犯人は○○で確定。その為にはあの時偶然にもこんな事が起きなければならない』と、通常だと考えないような偶然をも考察するのが、本書ならではで面白かったです。 そんな展開で進む中の4作目『バレンタイン昔語り』は、本書の設定を活かした作品で一番好みです。この4作目以降は、設定に意味がある話作りで凄いなと思います。 小学生らしくない子供たちですが、サンタクロースを信じるように神様を信じさせる為には小学生の設定は必要なのでしょう。この辺りも最後まで読むとちゃんと作者の意図を感じられる為、特殊設定ミステリとして斬新で細部まで考えられた素晴らしい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ミステリの手法を使ったSFの名作という事で読書。
SFだからと言って難しい言葉はないですし、登場人物も少ない為、把握しやすいのが良い。 50年以上前の古典作品に分類されていますが、今読んでも分かりやすく楽しめました。 人々はドーム型のシティの中で生活しており、外気や日光は直接浴びず、食糧危機の影響により子供の出生数や食事の内容と量まで制限を受けている窮屈な世界。知能・技術に優れた宇宙人との交流や、ロボットの発達により人間の仕事が奪われてロボットが憎まれているなど、現代でも少し感じる所があり、SF作品として興味深かったです。 人々は皆、懐古主義者で、地球が唯一の世界であった時代を思い出すさまに哀愁を感じました。 これらの世界観を土台に宇宙人が何者かに殺された事件が起きます。 ロボット工学三原則により、ロボットは人に危害を与えられない。地球人も心理的理由から殺人を犯せない。本書のSF世界観ならではの謎で、作品を読んだ時に感じるテーマに沿ったミステリ要素が見事でした。 ミステリとして期待してしまうと斬新な驚きはないのですが、世界を味わう感じで読むと楽しめます。 希望に満ちた未来を感じる読後感も良かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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不思議な読後感を得る作品です。重くもなく軽くもなく、何が心に残ったのかうまく言えないのですが、タイトル文を借りると謎の弾丸で撃たれた気持ちであるわけで、何かを受けた気持ちになっています。
結末は冒頭にて明かされており、その内容は単語としては悲劇なのですが、本書を読んだ後だと単純な悲劇だけでなく救済とも感じられます。が、この感覚は読者によって見え方が変わるでしょう。 他者の感想によって、本書の感じ方が影響を受けるわけでも無いと思います。何となくですが、作中にでてきた心理テスト同様に本書を読んでどんな感想を描くのかで心理面が覗かれそうな気持ちになりました。 私自身、作品を読んでどう思ったかと言うと、主人公の山田なぎさや、海野藻屑ともどもには、何とも思わずそういう世界に触れたのかなとか、義務教育を終えるまでは誰かに依存する事になり、自己や自由を手にする事ができない為、設定された環境の中でどう生きるか考える必要があるな。とか思っている次第でして、これは無関心や他人事のような心理を分析されたような気持ちになりました。 読む時期によって得られるものに変化が起きそうです。 同世代の学生なら、子からの視点で選択肢のない無力感を味わい、大人の視点では手段の知識を得ていても実現できない無力感を感じるのでしょうか。と、これも人それぞれの感想だと思います。 なんとも不思議な文学作品を味わいました。 |
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書物が駆逐された特殊な世界でのミステリ。
書籍がなく情報規制がされており、メディアは耳で聞くラジオが主。『殺人』や『探偵』とはどういう事なのか?そもそも言葉の意味もわからないような空間での物語です。箱庭の世界の中で首なし死体が発見されても『殺人』と言う意味が存在しないため、『自然死』として処理されてしまうような常識が異なる村の中で、どういうミステリになるのか全く予想できずでした。 文庫版解説にもありましたが、序盤で感じたのはシャマラン映画の『ヴィレッジ』の雰囲気そのものでした。 ファンタジーだから何でもありなのかなと思いきや、ある1つの事が明らかになった瞬間、不可解な謎が一斉に解決する終盤は本格ミステリ模様で見事でした。 童話的な物語は、デビュー時の城シリーズから比較すると、意味があり面白くなっているのがとても感じます。 また、特殊設定の中で、ガジェットと呼ばれる結晶の設定が面白いです。 昔の人が、ミステリをこっそり世に残そうと、細分化された要素(『密室』『首切り』など)をガジェットという結晶に詰め込み装飾品として世に散らばっているエピソードなのですが、どの結晶が今回の事件に影響しているのか?と考える楽しさもありました。 その他、深読みですが、メディアの情報規制や電子書籍に代わる出版業界の今後も感じ取れました。 得られる情報を規制して与えた内容が正しいと刷り込まれた人々の姿は、自分から調べないTVやラジオの話に見えますし、書籍がない空間は電子書籍への暗示にも感じます。 結局の所、どこまでの情報が得られた世界なのかが分かり辛い為、整合性や現実的な事を気にする場合は好みに合わなくなると思います。細かい事は気にせず不思議な童話を読んでいたら実はミステリだった、ぐらいの感覚がとても楽しめる読書だと思います。 著者の作品で、ミステリ要素以上に世界観が楽しめたのって初かもしれません。次作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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最近、特殊設定ミステリを好んで読んでます。本書もその1冊でファンタジー×ミステリ。
魔人復活を阻止すべく運命の神に選ばれし6名の『六花の勇者』。ただ、約束の地に集まった勇者は7名だった。 何故7名いるのか?世界の法則がおかしいのか?偽物が紛れ込んでいるのか?という疑心暗鬼もの。 現実的なミステリならスパイ小説辺りになる内容に、勇者の能力(魔法)要素を足してファンタジー世界での特殊設定ミステリに変貌させているのが面白いです。 本書はシリーズで数冊出ていますが、1巻で区切りがついていますので本書だけで楽しめます。あと補足ですが、2巻目のあらすじが1巻のネタバレなので閲覧は注意です。 閉ざされた神殿内部で結界魔法が発動された謎は、密室問題として扱っていたり、真相究明の推理場面が存在してはいますが、ミステリ要素は低めです。ただ、誰か1人が裏切り者かも?という疑心暗鬼が効果的で、勇者同士の戦闘も誰と共闘するか、誰が味方か、負傷者と犯人かもしれないあいつとを一緒にいさせてよいのか?といった戦略が楽しめました。キャラクターも良く、各人の抱えている過去だったり、主人公アドレットの熱い信じる心だったりと、物語が面白かったです。 序盤、何の能力も持たないアドレットが地上最強の男だと自称するあたりは痛い勇者で、ラノベ雰囲気抜群でしたが、後半になると良い味になるのも良いです。 シリーズは続いているみたいですが完結していないのですね。 2作目以降は様子見。1巻だけで終わらせても勇者の戦いは続いているんだなと、その後の期待感を読者の想像にお任せとして楽しめます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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