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egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数239件
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図書室を主な舞台とした青春ミステリ。
著者初期の古典部や小市民シリーズを感じさせる新たな学園もののビブリオミステリーです。 短編集なのでサクサク読み易い。“図書本"の特徴を用いた日常の謎。各話はミステリとして暗号やアリバイ、意外な〇〇ものなどバラエティを兼ね備えており楽しめました。 ただ個人的な好みとして、日常の謎の短編で青春小説というのは特に刺激もなく何か心に残るようなものが得られ辛かったのが正直な気持ちです。 短編集の中では『ない本』が好み。ビブリオミステリとして推理のとっかかりが巧く、学園ミステリとして登場人物の背景に至るまでよい塩梅でした。 |
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著者の作品は毎回違ったテーマを用いており、本作も新しい種類の物語を世に出してきたのが凄い。本作は現代のコロナ禍を舞台としており、かつ自殺をテーマにした作品。
自殺の肯定派と反対派の若者がネットメディアにて討論会を行う。この討論会の終盤から徐々に参加者の思惑が見え隠れしていき、その不明瞭な謎がミステリーとして展開していく。 ただ謎を追いかける話ではなく、自殺の考え方から、残るもの・残されるもの・残すものなど、登場人物達を通して著者の考え方に触れた読書。 人にオススメするようなエンタメ小説ではなく、自殺をテーマとした著者の創作物としての作品。好みとは違うものでしたが、著者の本は読み易いので自分にはない考え方に面白く触れさせてもらったような読書として楽しめました。 |
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2021年度のメフィスト賞受賞作。メフィスト賞らしく変わった趣向の作品で楽しめました。
高額なアルバイトの内容はスマホにインストールしたスイッチを押しても押さなくても毎日1万円が手に入り、1カ月後にはさらに100万円が支給されるというもの。誰かがスイッチを押したら報酬がなくなるわけではない。ただしスイッチを押すとある家族が破滅するという内容。"悪意"の存在についての実験です。 あらすじがデスゲームのような内容だったので興味を引かれて手に取りましたが、中盤からは違った物語が展開された印象でした。世の中の多くのレビューの声にある通り、心理学から善悪や宗教に関する考え方が作品内に色濃くでてきます。個人的には思っていた作品と違うイメージでしたが本書の個性として面白く読めました。読み易い文章であり、考え方や説明が理解しやすかったのも好感でした。 メフィスト賞らしい広義のミステリーの物語として味わいました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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多くの人に知られている赤ずきんを主人公&探偵役としたシリーズ2作目(著者の童話シリーズとしては4作目)。シリーズ順序は関係ないので本作から読んでも大丈夫です。
皆の知っているキャラクターを用いる事で読者を得やすくなっている作りを感じました。 今回扱われる題材は『白雪姫』『ハーメルンの笛吹き男』『三匹の子豚』。そしてタイトルにある『赤ずきん』『ピノキオ』。これらのキャラクターを混ぜ込んで作られた著者流の童話となります。個人的にはミステリというより大人向けに再構築されたオリジナル童話という印象でした。 木でできた人形の右腕を拾った事から始まり、赤ずきんはピノキオの部品探しをする先々で各童話の世界に入りそこで事件に遭遇するという流れです。 元の童話とは全然違う話でありキャラクターも多く出てくる為か、話がわかりやすそうで分り辛いという変な気持ちの読書でした。キャラクターは分かるけど、キャラがどこで何をしているのか情景が浮かび辛い物語だったのが正直な気持ちです。各物語の事件概要が把握し辛いのですが、結末側は読み易く描かれているので何が起きていたのかが後でわかるという読後感でした。 良かった点として各物語は前作よりもちゃんと童話をモチーフとした仕掛けがあるミステリーとなっていたのが好感でした。ただ童話の世界なので魔法のような現象で何でもありな世界になっていて、ミステリとしてはルール説明不足な気がするのが難点に感じました。 話の構造として『ハーメルンの最終審判』が好み。物語の背景や各人の行動の意味が明かされる物語として面白かったです。 |
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特殊設定もの作品で薔薇の表紙に惹かれて手に取りました。
あらすじや帯に記されているのですが、"ミステリ"ではなく"ミステリー"と書かれており、これはあえて表記していると感じる読後感。謎解きものではなく、個人的に感じたジャンルはSFの医療小説です。 物語は「オスロ昏睡病」と呼ばれる難病にかかると昏睡状態になり記憶を失ってしまうという病気がある世界。ただ本書は冒頭で既にその病気の解決策が見つかっていて、その治療の副作用として身体に薔薇のような腫瘍が生まれるという設定。その腫瘍を持った人々が次々に襲われるという事件が起き、それの調査からミステリーが始まります。 まずこの世界の設定を序盤で読み易く展開されるのが良かったです。どういうルールが適用されているのか説明が巧いので苦なく読み進められました。著者は物語の説明がとても巧いです。複雑な世界を分かりやすく伝えていると感じる所が多々ありました。 先程医療小説と挙げた理由は、事件の謎よりも腫瘍を基点とした物語をメインに感じた為です。腫瘍の謎もありますが、治療方法や腫瘍を持った人々の交流など、空想要素を取り除けば身近にないめずらしい病気の医療物語の印象です。薔薇や腫瘍などの設定がミステリとして必須アイテムというわけではなく物語の表現や演出寄りに感じた次第。 SFの医療小説+青春ものの物語として手に取ると良いと思います。 著者の作品は初めてだったのですが、読みやすく物語の世界が独特で気になる為、他の作品も手に取って見ようと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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2016年度の江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞は新人の賞ではありますが、著者はペンネームを変えての再デビューなので他の乱歩賞のような初々しさはなく、個性的な作品でありかつ異質を放っている作品だと感じました。 猟奇殺人鬼の一家に生まれた主人公。自身も父も母も兄も殺人鬼。ある日部屋で兄の惨殺死体が発見され、しばらくすると消失する謎が発生する。殺人鬼として狙う加害者側から一変、主人公は被害者側となり、死体消失の謎によるミステリ模様が始まるする流れ。 本書を手に取る前のイメージは、猟奇殺人ものなのでドロドロなグロなものを想像していましたが、そういう気分にさせるのは序盤ぐらい。主人公の家族に何が起きたのか?という謎を追う流れで、本筋は"殺人"について、歴史、考察、哲学などの思考を巡らす物語。 なんとなく読んでいて、内容は違いますが夢野久作の『ドグラ・マグラ』を感じました。「ゴオォゥン――ゴオォゥン……」とか、現実の話なのか虚構や幻想の話なのかごちゃごちゃになるような展開。奇書と感じるのも分かります。 本書は個性的な作品。一つの物語として完成されています。 ただそれが好みかどうかは人それぞれでありまして、個人的にはあまり楽しめなかった作品でした。 |
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『いけない2』が話題なので1作目を予備知識なしで手に取りました。
普通のミステリとは違う為、これは少しどういう本か予め知ったうえで手に取るとよいです。 ネタバレなしであらすじの範囲で説明しますと、各短編の最後の1ページに写真があり、その写真を見ると真相が推理できるという仕掛け本です。注意点としては写真を見れば全てが理解できてあっと驚くような快感が得られるわけではなく、あくまで【最後に推理のヒントが得られる】作り。最後の得られたヒントを元に、もう一度読み直しながらセリフや状況を分析して真相を自分で解き明かす構造です。ひと昔前のゲームブックを思い出しました。 個人的な難点は、最後にヒントが得られる構成の為に初読では叙述トリック作品のように何かが隠された物語の描き方で内容の把握が難しく、かつ読みづらく感じたのが本音です。 本書は自分で推理をしたい&問題を解きたいという人にオススメな本。 真相は分からずモヤモヤする人には不向きです。この点を踏まえて手に取ると良いでしょう。 物語の雰囲気は初期の頃の道尾秀介の作風で、ちょっと暗く嫌な気持ちにさせられました。真相がわかっても気持ちが晴れるわけではなく、むしろ気分はどんよりと沈むような気持です。 真相がわかないとモヤモヤする為、何度か本を読みなおしました。2章がスッキリしませんが最終章および1,3章はこういう話だなと理解できたような読後感です。個人的には手に取る気持ちの準備不足とタイミングが悪かったのもありますが、謎も物語もスッキリしない気持ちが少し好みに合わずでした。 著者作品をみると『いけない2』や『N』のような、本として意味がある事や読者を楽しませる仕掛けを考えた作品でしてとても好感でした。自分で謎を解きたくなったら『いけない2』を手に取って見ようと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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メフィスト賞受賞作。コンビニを舞台としたミステリ。
先に2作目の『謎を買うならコンビニで』を読んでからの読書でした。その感覚だと2作目は大分読み易く物語も把握しやすくなっていたという印象でして、1作目の本書は物語が"複雑"という表現ではなく"粗削り"で書きたい事が雑然している印象でした。ただ良い所は沢山あり、本書はコンビニを舞台としてコンビニで働く者を主題とした本書ならではの個性的な作品で好感です。 著者自身が高校生からずっとコンビニ店員である実体験が活かされております。店員からの視点、バイト仲間、お客さん、起こり得る事件の範囲、レジやらお金の扱いなど、これらを活用したミステリであるのは面白く読めました。ただちょっと把握し辛いのは難かもしれません。 個人的にはミステリよりもコンビニ店員である事の感情の描き方が印象的でした。著者の想いが噴出しているのかもしれませんが、社会との距離、フリーター&バイトである事の後ろめたさと言った負の感情がリアルに感じました。いわゆる青春小説として同じ年代の仲間との交流や恋愛などの物語を学園で行わず、バイト先のコンビニを舞台で描いている様は、学園や社会人を遠い存在の憧れ(?)の様な距離で一線が引かれており、でも体験したい、自分もそうなりたいという感情によって本書の物語が生み出されているように感じました。 ネタバレではなく関係ない要素なのでここで書きますが、6章辺りの人を信じられない主人公の疑心暗鬼の様子も中二病やこじらせ系と言えばそれまでですが、でもそんな単純な言葉ではおさまらず、表向きでは他人との距離感を放ち、でも内面では仲間を信じたい気持ちもあるという反発する感情が描かれていたのが印象的。ミステリよりこの感情を溢す様が強く心に残る作品でした。 |
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やり直しがきかない裁判とタイムリープを組み合わせた異色作。
"タイムリープ"を扱う作品の印象から軽めの法廷作品かと思って手に取ったのですが、中身はどっぷりと法律を扱う社会派小説でした。 予想と違う本でしたが読み辛さはなく、日常で馴染みのない法律について確かな知識を物語を通して学べて為になったというのが読後にまず思った感想です。 有罪判決のあとに冤罪の可能性がでてもやりなおす事ができない日本の法。裁判官という仕事の特性。普段馴染みのない法曹の話がリアルに描かれており楽しめました。事件内容や捜査模様、推理の流れといった小説の展開がミステリとも警察小説とも違ってリアルな法律にそっているのが特徴的。これは著者の持ち味だと感じます。 著者のデビュー作『法廷遊戯』より読み易く楽しめたのが好感。中身の法律を主軸にした話展開は同じなのですが、登場する人物の心情が多く描かれているので法律知識だけではなく物語としてちゃんと楽しめました。 "タイムリープ"という言葉に目が行きますが、読んだ感覚としてはアドベンチャーゲームでした。 1つの物語を違う選択肢から眺めて手がかりとなる情報を得て最後にトゥルーエンドへ向かう。ゲーム系と違うのは中身がリアルな法律と事件を扱う事。小説の構造はライトで事件内容が重い。これは悪い印象ではなく、今後もこうした形で難しいと感じる法律のイメージを物語を通して払拭し学べるならいいなと思いました。 |
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特殊な能力を持った名探偵達が「聖遺物」をかけたゲームに参加するという話。
大きく分けて二部構成で、前半は名探偵達の紹介エピソード。後半があらすじにある物語。 個人的には前半がとても面白かったです。 超人的な名探偵達は、AIを駆使する者、思考速度が常人の数倍ある者、五感が優れている者。という具合に驚異の能力を用いて瞬時に事件を解決する者達。短編集の様な短いエピソードの中で、それぞれの名探偵達の活躍が読めるのは贅沢な作りで良かったです。 一番印象的なのは思考速度が速いボグダンというキャラ。思考速度が速いという事を文章で表現する為に括弧書きを駆使した文章となっており、この表現は小説らしさがあってよかったです。 後半についてはあらすじにある事件が起きるのですが、これだけ凄い名探偵達が集まっているにも関わらず、話や推理の進展が悪い為に超人感が薄れてしまったのが残念。超人たちを集めている状況がミステリに活用されているかというと必然的には感じませんでした。 なんとなく読んでいて感じたのは作者が好きで自由に描いた作品である事。悪い表現で恐縮ですが読者からするとちょっと読み辛いし、不必要なギャグパートや大阪弁のノリが作品の雰囲気を崩して身内ネタに走っている傾向を感じました。そういうのを気にせず、好きな事、好きな要素、思いついた文章をどんどん描いて楽しんでいるのを感じた次第です。 それぞれの名探偵は個性的なので、スピンオフ作品などで舞台を変えてまた皆に会えたら面白いだろうなと思いました。 |
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近未来警察小説。
警察小説によくある組織や立場の対立など描かれているのは前提とし、そこに近未来というフィクションを織り交ぜる事で、警察が雇う傭兵という新たな対立要素、搭乗兵器によるロボットアクションなどが新鮮に映った作品でした。 ハヤカワ・ミステリワールドに属する推理小説のシリーズに含まれる作品であったので、本書の設定ならではのミステリ的な仕掛けを期待してしまった所があり、そこは期待と違いました。推理小説というより新たな警察小説というニュアンスが正しく、その系統が好きな方はとても楽しめる作品です。 第一章の事件開始の導入はパニック感やスピード感があり抜群に面白かったです。中盤以降は雰囲気が変わり、人間模様、組織、事件の捜査、などがどっしりとした歩みで展開され、少し好みとは違いました。 シリーズを見越した作品であるので、本書単体だけですべてが丸く収まり解決するという事はありませんでした。各キャラクターの過去や組織の物語に謎を秘めたまま終わる為、悪い意味ではスッキリせず、良い意味では続巻が楽しみになる作りは好みの別れ所です。 個人的に重厚な作品で内容は好きなのですが、時間をかけて読み終わってもスッキリしない点が多いのは楽しかったよりも疲労を感じてしまい、続巻を手に取るのを躊躇してしまう気持ちが残りました。 |
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ミステリ・フロンティアに属する作品ですが、ミステリというよりファンタジーを用いた青春小説でした。
物語は社会人となった主人公が、駅のホームで高校時代の同級生の女性を目撃する所から始まります。 ただし違和感がある所は、その女性は高校生の姿のままである事。他人の空似、見た目が若い、姉妹、というわけではなく、言葉通り18歳の高校生のままという事。本作品はこの状況を現実的な解釈を用いるのではなく、こういう世界であるとファンタジーな事象を日常の1コマのように捉えているのが面白いです。 ミステリとして見るなら「何故彼女は18歳の高校生のまま変わらないのだろうか?」という謎を起点とした物語となります。 ただ読書して感じた事は、ミステリを描いたのではなく"年齢"に着目したテーマや想いが主要である事。年齢という呪縛。同世代や異なる世代のずれ、年齢と共に忘れてしまった思いなどを強く感じました。 印象的な一文は「年齢というものは、その人間の性格よりも、能力よりも、本質よりもずっと手前に陣取っている憎いやつだ。」というもの。社会人となった主人公の悩み同様に、年功序列、能力社会といった社会的なテーマを感じた一幕でした。 当時のままの同級生という設定からくる物語は、姿だけでなく高校生の頃の想いを思い出させます。大人へのあこがれや希望、やりたい事の夢、そういった光に対して現実の闇を対比させて考えさせるテーマ性を帯びている為、本作品を読む読者の年代によって響く所が異なるのではないかと感じました。 一昔前ならタイムトラベルもの作品で同様なテーマが描かれそうですが、今の時代に合わせた内容や不思議な世界の描き方は現代的な作品となっていました。この描き方は著者の持ち味で面白いなと思います。 |
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シリーズ1作目『ナキメサマ』がホラーとミステリの見事な融合だったので続けて読書。ただ2作目の本書は少し期待し過ぎてしまった気持ちです。
全身骨が砕かれる死体の発見という怪異を扱う物語。 前作同様に地方の村を舞台としたホラーは雰囲気抜群で大変好み。前作から共通キャラクターとして参加の怪異譚蒐集家の那々木悠志郎は良い味を出しています。「作家の私を知らないのか?」という登場シーンが最高に好みです。 物語の中盤まではワクワクで楽しかったです。ただ今回好みに合わなかったのは、前作のようなミステリ仕掛けを施そうとした為か謎に関する要素は都合の良い展開が多かった事。そして怪異の現象が非現実的過ぎてしまい、ホラー&ファンタジーに感じてしまった事でした。 ホラーの要素が前作のように必然ではなく、過剰な演出なだけに感じられて好みに合わなかったのが正直な気持ちです。特に主人公以外はちょっとね。。。という感覚。 3作目も購入済みなので次に期待です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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見立て殺人がメインの本格ミステリもの。クローズド・サークル、館もの、次々に殺される招待客、絵画に見立てられた殺人。といった具合で設定は抜群に面白い。ですが好みにそぐわない理由として、雰囲気や情景が浮かび辛く読んでいて面白くなかったからです。
ミステリの仕掛けや見立て殺人をテーマとした中で、犯人が見立て殺人ができないように環境を破壊してしまいましょうといった偏屈した展開は楽しめました。探偵役のシズカの発言や行動は、連続殺人は100%起きるという前提の元に行われており、物語の中の人物というより外側のメタ視点で本書を眺めていると感じます。本書の面白かった所はこの探偵役の思考と行動でして、他のミステリでは味わえない新鮮さを感じました。 読み終えてから、以前シリーズ2作目にあたる『首無館の殺人』を読んでいる事を思い出しました。 2作目は切断される首がテーマで、犯人が首を切ろうとするなら切れないように対策しましょうと言った展開がなされるので、本シリーズの探偵の特徴が1作目から構築されていると感じます。ロジカルに推理するのではなく、連続殺人が前提の中で犯人の行動を抑制していくスタイルです。 シリーズ他本も気になる所ですが、評判の理由が同じ傾向なので少し様子見かな。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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虚実混交による怪談ミステリ。
著者が小説新潮から怪談小説の執筆依頼を受けた所から物語が始まります。 新潮社がある神楽坂。そこから始まる怪談物語。 短編集の構造で、それぞれの短編は実際に2016年から『小説新潮』に掲載された短編たち。時系列や各人達の関り方が活用されており、現実と虚構を曖昧にしているのが面白い。 いつから企画構成が練られていたのかはわからないですが、実際の日常と共に怪奇に遭遇していく話の展開は面白く、巧い企画の作品だと思いました。 当時、著者のTwitterにて怪奇に悩む投稿があるなど演出が凝っています。 それぞれの物語は非現実的な怪談を扱ってはいるものの、起きている事象を論理的に解釈すると、怪奇とはいえどういった部類の怪奇現象なのかが導かれる為、その展開はミステリを感じました。謎と結末が怪談要素というのも良かったです。 これって本当の話?あの人やこの現象はどうなるの?といった一昔前のオカルト体験が楽しめます。ホラーにしてはサクサク読めるのも好感でした。 |
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あらすじ通り2度読み系の恋愛小説でした。
"宝石病"という体内に結晶を溜め込んでしまう難病を患った女の子の、残された時間の青春物語です。 恋がしたい女の子の恋愛小説を起点としますが、読んだ印象としては自己犠牲や相手を想う気持ちを表した作品だと感じました。 難病ものなので何となく結末は予感させつつも、あらすじには"ハッピーエンド"と書かれているので、どのような結末になるか楽しみでした。読者の期待する結末と沿うかどうかが好みの別れ所になるかと思われます。 個人的には期待するものとは違った作品でした。ただもう一度読む楽しみがある本ではあるので、ライトミステリとしての面白さは備わっています。そこに惹かれる人もいると思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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女探偵葉村晶シリーズの短編集。
謎解きミステリというより、主人公のキャラクターの魅力と、全体を通してのハードボイルドな文芸を楽しむ作品。葉村晶の境遇は今でいうイヤミスのようで読んでいて辛い心境になりました。ここは好みの別れどころでした。見様によってはブラックコメディ。 6編ある短編はどれも曲者ぞろいであり、ストレートな進行ではなく新たな事実により二転三転する。飽きさせない面白さはあるのですが、短編では場面転換が速すぎて好みに合わなかったのが正直な気持ちでした。全ての結末が描かれていない物語もあり、スッキリしない事が多かったです。そういうのが好きな時もあるのですが、今回は読むタイミングが悪かったかもしれません。 |
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青春ミステリ模様が現代的で面白かったです。
まず、主人公である女子高生のピップは性格も行動力もよく読者の視点となる探偵役として読んでいて気持ちがよかったです。犯罪にぐいぐい足を突っ込む行動力は危なさで不安になりますが、物語の主人公としてはアリかと思う。携帯の履歴、SNSのフォロワー、パソコンの操作など、時代に合わせた捜査力は中々ナイス。コツコツ地道に自身の考えを読者に提示していくので謎解き小説として楽しめる構造になっていました。 ただ、個人的な心境として期待し過ぎてしまったのと、内容が好みではなかったのが正直な気持ち。読書が長く感じました。 驚きの真相や派手な仕掛けがあるタイプではなく、ティーンエイジャー視点での犯罪と捜査模様が展開される作品です。2022年度のミステリ各誌にランクインしていたのもあり余計な期待を抱いてしまっていました。 謎解きミステリとして街で起きた過去の事件が明かされる様子はスッキリするのですが、一方、明かされた事により人間関係の闇や若者の社会的犯罪を見せられるのはあまり気持ちよくないもの。 学生を読者ターゲットとしてその年代の犯罪と解決が描かれているので、そういう意図の作品としてはアリ。そんな感想でした。 |
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西洋童話をモチーフとして、著者が再構築したオリジナルの物語です。
前作の時も感じましたが、昔話の内容について新解釈を述べるものではなく、キャラクターや世界観を活用した創作となっており、題材となる昔話の設定に必然性がないミステリなのが好みと違いました。 『ヘンゼルとグレーテル』に関してはお菓子の家ならではの仕掛けがあり、この短編はミステリとして楽しめました。 それ以外は人物や世界観の設定を用いたファンタジーを読んだ程度の印象で特に何か印象に残るものはなく、普通に楽しめた読書でした。 物語やミステリの仕掛けに対して、童話の世界観にする必然性が弱いのが物足りないです。逆にそこが補完されて、だから赤ずきんなのか!だからシンデレラを採用したのか!という驚きと納得の気持ちになれれば今以上に良い作品に化けると思いました。 幅広い層に読ませる商業的な商品戦略としては巧い商品という印象です。 |
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著者の作品は好みに合わないのだけど、今度は面白くなっているかも?と期待して手に取る。他にはない個性が好みではある次第。
エログロ系+ミステリの作風なのですが、んー……正直な気持ちとしては今回も好みに合わず。 "そして誰も〇〇〇"という名作タイトルをもじり、表紙もとても良いのですが、それに対する内容が期待にそわず名前負けかなと。 エロも艶やかなエロではなくただの下品。グロも感情を掻き立てるグロではなく文字の羅列。前半は☆3ぐらいな感想。 ただ、後半からミステリへちゃんと変容しているのは見事。 舞台設定やグロを用いて特殊な世界観でちゃんと新しいミステリを作っている。この雰囲気もそうだし本書ならではの仕掛けは個性があるのでそこは好感でした。 後半のミステリ模様は☆8ぐらい。なので、半分で☆5かなという感覚。 2017年の某特殊設定ミステリを著者風にしたらどうなるか。本書の企画アイディアはそんな基点から生まれたのだろうと感じる読書でした。貴志祐介の某作の影響を受けてそうだと感じます。新しいミステリを生み出そうという気持ちは〇。注目はし続ける作家さんです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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