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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数247

全247件 41~60 3/13ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.207:
(6pt)

ミリは猫の瞳のなかに住んでいるの感想

要素盛り沢山な所が面白くもあり、複雑に感じる所でもありというのが率直な感想でした。
情報量が多いというか詰め込み過ぎというか、読書が夢中になり辛かった為かもしれません。とはいえ面白い作品でした。

作品傾向は青春SFミステリー。
主人公は過去視。ヒロインは未来視。猫の瞳を通じてその二人が出会い、主人公が遭遇した銃殺事件を調査していくという流れ。事件はミステリパート。
2人の恋愛模様はパソコン画面でのリモート会話のような過去と未来で猫の瞳を通して接続される設定であり、今風の遠距離恋愛の物語を感じました。時間軸と猫の組み合わせなどSFの小ネタを感じる所が豊富。ミステリの小ネタも盛り沢山です。キャラクターの良さを描いた演劇部の活動内容も面白く読めました。

ただもどかしいのはどれも話のメインになるような設定のエピソードを300P台の本書に詰め込んでいる為か把握し辛い。密度が凄いとポジティブに捉える事もできますが読書のリズムと情報量が合わないと感じました。話が急展開になったり、感情移入する前に結果がでてきてしまったりと、凄い面白い事をしているのに味わい辛かったです。これは著者が好きな設定や展開をとにかく盛り込んだようにも感じて必然性が感じられなかったのも要因です。特に第四幕からは大事な魅せ所なのに驚きや感動を味わう間もなく次々と進めているような駆け足を感じます。間や演出があればもっと読者の心を掴めそうなのにと勿体なさを感じました。

一方、序盤の学園エピソードは惹きこまれます。キャラの濃い阿望先輩登場や演劇のエチュードは惹きこまれました。序盤は丁寧に描かれている為か学園箇所面白かったです。
表紙やヒロインも可愛くて絵柄や意味深なタイトルも好み。あと文章中で登場人物にすべてルビがふってあるのは読み易くて良かったです。この人なんて読むんだっけ?という煩わしさがありません。最初の登場シーンだけルビを振るのではなく、全ページで人物名のルビがあるので物凄く読み易い作りは好感です。最近の電撃文庫はこういうフォーマットにしたのかな。

と、良い所もそうではない所もいっぱい感じた作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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ミリは猫の瞳のなかに住んでいる (電撃文庫)
No.206: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

クローズドサスペンスヘブンの感想

良い意味で個性的な作品でした。
あまり味わった事がない雰囲気で楽しかったです。表紙の雰囲気も新鮮。

まず特徴的な要素は全員既に死んでいる事。
何らかの事件に巻き込まれた者達が記憶を失った状態で天国屋敷に集ったシチュエーションです。
自分は誰なのか。何故殺されたのか。集まった人々の中に犯人はいるのか。というミステリーなのですが、本書は事件の殺伐さを描くのではなく、集まった者同士の交流をコミカルに描かれているのが印象的でした。既に死んでしまっているからか死の恐怖はありません。一緒に捜査して悩んだり、食事したり、息抜きに遊んだり、という和やかな雰囲気なので気軽に楽しめる読書でした。

新潮ミステリー大賞の候補作品ですが、この賞の候補作品が出版される事は珍しいです。そのまま埋もれさせてしまうのは勿体ないという気持ちを感じた次第でした。
ミステリーではありますが謎解きに期待するものではなく、ミステリー要素を用いた1つの映画やドラマ作品を体験するぐらいの気持ちで手に取ると楽しめると思います。読後感も良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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クローズドサスペンスヘブン
五条紀夫クローズドサスペンスヘブン についてのレビュー
No.205:
(6pt)

仕掛島の感想

タイトルと表紙の雰囲気に釣られて手に取りました。
『仕掛け』『島』というミステリ好きが好む直球タイトルです。既刊本に『館島』がありますが関連性は特にないので本書から楽しめます。

奇妙な館。孤島。プロローグで描かれる非現実な不思議な現象。新本格時代の要素がたっぷりのミステリは好感でした。
そこに著者の持ち味となるユーモアが加えられた作品です。ただこのユーモアについては好みに合いませんでした。

好みのお話ですが、ミステリはある程度のドキドキ・ハラハラや恐怖というか不安な雰囲気があってこそ解決時において開放感が得られ、読後スッキリとした味付けになると思うのです。本書の場合は雰囲気を和ませるボケやギャグが多く事件の緊張感がないので、なんというか場を眺めているような読書感覚でした。タイトルに掲げる通り仕掛けある物語ですが、その仕掛けが明かされた時も驚きではなくそうなんだ程度の感触しか得られなかった次第。完全に好みのお話で恐縮です。
いや、ちゃんと補足すると仕掛けは壮大かつ奇想なもので良かったのです。ギャグやユーモアも単体で見るとキャラが笑えて面白いのです。ただこの2つを組み合わせた本書のユーモアとミステリにおいてはそれぞれの良さが打ち消してしまい、ごちゃごちゃになってしまっているような印象でした。

▼以下、ネタバレ感想
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仕掛島 (創元推理文庫)
東川篤哉仕掛島 についてのレビュー
No.204:
(4pt)

はるかの感想

前作の『ルビンの壺が割れた』が面白く、帯にはそれに続く『大どんでん返し』というPRに釣られて手に取りました。

過度な期待が出てしまったのもありますが、本書の後半で感じた印象は「どんでん返し」ではなく「打ち切り」の表現が正しい部類です。著者が飽きてしまったのか版元とトラブルがあったのかわかりませんが、膨らませていた内容を突然切り上げて話を終わらせてしまったと感じる結末でした。

内容はあらすじにある通り、恋愛小説+人工知能を用いた作品です。
ディープラーニングや学習モデルなど、近年の人工知能の事がよく描かれており、人工知能HAL-CAがどのように生まれるのか物語中のスタッフと同様に期待を膨らませた読書でした。
海岸のエピソード、AI開発にかける想い、序盤の少女の出会いから人工知能の開発までの物語は本当に面白かったです。
それだけに、こんな締め方で終わらせてしまうのかと残念な気持ちでいっぱいでした。

▼以下、ネタバレ感想
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はるか (新潮文庫)
宿野かほるはるか についてのレビュー
No.203: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

星くずの殺人の感想

民間宇宙旅行が実現した近未来。
宇宙ホテルにて発見された無重力での首吊り状態の死体。
あらすじのキャッチが魅力的なので手に取りました。

まず正直な感想として、SFミステリーとして期待して手に取りましたがミステリーとしてはあまり面白くありませんでした。謎の説明不足や順序立てされた解説ではない為、おそらく突然の科学知識の紹介を読んだような気分になるのではないでしょうか。扱われている科学知識についてはそんなに難しいものではない所が選ばれているのは良いのですが、伏線なく突然出てくるような印象な為、「そうだったのか!」という驚きではなく「そうなんだ。」という感想。
登場人物表や舞台の見取り図も欲しかったです。状況がイメージし辛い読書でして、ミステリーとしては楽しめなかった次第。
ただ人情ものといいますか、登場人物の過去のエピソードを語り合う所は良かったですし、何故こんな事件を起こしたのかという思想的な話は納得できました。最後のセリフも〇。

なんとなく前作の『老虎残夢』の時も感じたのですが、謎や仕掛けのミステリより、キャラクター達の会話や物語の全体像が面白いなと感じました。
星くずの殺人 (講談社文庫)
桃野雑派星くずの殺人 についてのレビュー
No.202:
(4pt)

昭和少女探偵團の感想

昭和初期を舞台とした女学校の学園ミステリ。
連作短編集のようなスタイルで各話の物語ごとに謎解きがある構成です。
レトロなお嬢様学校の雰囲気が良く殺伐さがないのが好感。挨拶も「おはよう」ではなく「ごきげんよう」というやりとりが時代を良い意味で感じさせてくれます。

設定や雰囲気はとても好感だったのですが、点数が良くないのは内容の把握のし辛さ。文章の相性が悪かった為か、事件や謎解きや学園風景や友達とのやり取りなどなど、よくわからない読書でした。物語が頭に入ってこなかった為、雰囲気は良さそうなんだけどどんな話だったのか把握できなかったのが正直な気持ち。
最終話の『満月を撃ち落とした男』については「だからこの時代でこの設定にしたんだろうな」と感じられたのは良かったです。この物語がアイディアの始まりなんだろうなと思いました。雰囲気やキャラクターは良いのでシリーズ化すると楽しそうです。ただ自分にはもう少し把握しやすい文章になるか漫画化して画が見えないと楽しめないなという感想を得た次第でした。
昭和少女探偵團 (新潮文庫)
彩藤アザミ昭和少女探偵團 についてのレビュー
No.201:
(6pt)

十二月、君は青いパズルだったの感想

記憶喪失ものの恋愛小説。
この手の組み合わせは昔から多くありますが、好みなのでついつい手に取ってしまう次第。

本書の特徴は“パズル病”という病。勉強や趣味で好きな事がジグソーパズルのピースのように剥がれ落ちて記憶を失っていく症状。

あらすじや帯にある通りキャッチフレーズとなる「私、先輩のことが世界で一番……嫌いです!」という妙な導入が面白い。好きなものを忘れる奇病。だから嫌いな先輩を頼るという可笑しさ。ライトノベル作品としての掴みはバッチリでした。

今風の作品として面白く、会話の砕け方やボケなどクスッとさせられましたし、イラストもオタク臭くなく丁度良くいい感じです。ラノベ好きな読者層には好感に映る要素が豊富でした。ミステリ好きの読者としては何がどういう風な結末を迎えるか予想できてしまう構成かと。気軽にサクッと読めるという意味では良かったです。

欲をいうと終盤はもっと丁寧に描いて欲しかったです。中盤以降は話が駆け足なのが気になりました。全てが良い方向でどんどん繋がるので、話が繋がるというより、描きたいシーンだけ並べましたというブツ切り感をとても感じてしまった次第。
話や真相は面白かったので、もう少し丁寧かつ話に惹きこまれる展開や演出があればもっと感動しただろうなと思います。最終章の4章は特にそうで、大事な話や展開が30ページだけで描くのは急過ぎです。商品として300ページ以内に収めたと思われますが、これにより味わい感動する間がなく終わってしまったのが勿体なく感じました。綺麗に終わる物語としては良かったです。
十二月、君は青いパズルだった (講談社ラノベ文庫)
神鍵裕貴十二月、君は青いパズルだった についてのレビュー
No.200:
(6pt)

邪宗館の惨劇の感想

大雨の中、バス事故で避難した先の廃墟にて発生する怪死事件。
スプラッターホラー映画のように惨殺されていく乗客たち。何が起きているのか理解不能のまま恋人を助けたいと渇望する主人公の身に起きたのはバス事故前を基点としたループ現象だった。

本書は怪異が存在するという事が前提状況にあるホラーミステリーのシリーズ4作目。
今作は怪異+SFお馴染みのループ現象という事で冒頭からのワクワク感が良かったです。バッドエンドを繰り返す序盤のテンポも〇。ループ現象での絶望の先でシリーズお馴染みの那々木悠志郎が登場と、気持ちがあがる展開が良かったです。
中盤は怪異説明の伏線なのか仏像の蘊蓄が多く語られるのですが、それも楽しく読ました。仏像話はとても参考になります。

さて、中盤までは凄く楽しかったのですが後半はちょっと低迷。
怪異や物語の真相はよく考えられており、読み終わってみればシリーズの中では一番凝った造りだと思われました。

ただ、個人的な気持ちとしてもどかしいのは伏線から論理的に探偵役が真相を導くのではなくて、なんというか突然の解説のように全部説明されてしまう事。ミステリで萎える展開の一つに犯人が全部解説するというのがありますがそんな感覚。色々と面白くなるはずの終盤が残念だった印象でした。勿体ない気持ちで終わりました。

▼以下、ネタバレ感想
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邪宗館の惨劇 (角川ホラー文庫)
阿泉来堂邪宗館の惨劇 についてのレビュー
No.199: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

本と鍵の季節の感想

図書室を主な舞台とした青春ミステリ。
著者初期の古典部や小市民シリーズを感じさせる新たな学園もののビブリオミステリーです。

短編集なのでサクサク読み易い。“図書本"の特徴を用いた日常の謎。各話はミステリとして暗号やアリバイ、意外な〇〇ものなどバラエティを兼ね備えており楽しめました。

ただ個人的な好みとして、日常の謎の短編で青春小説というのは特に刺激もなく何か心に残るようなものが得られ辛かったのが正直な気持ちです。
短編集の中では『ない本』が好み。ビブリオミステリとして推理のとっかかりが巧く、学園ミステリとして登場人物の背景に至るまでよい塩梅でした。
本と鍵の季節
米澤穂信本と鍵の季節 についてのレビュー
No.198: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

エンドロールの感想

著者の作品は毎回違ったテーマを用いており、本作も新しい種類の物語を世に出してきたのが凄い。本作は現代のコロナ禍を舞台としており、かつ自殺をテーマにした作品。

自殺の肯定派と反対派の若者がネットメディアにて討論会を行う。この討論会の終盤から徐々に参加者の思惑が見え隠れしていき、その不明瞭な謎がミステリーとして展開していく。
ただ謎を追いかける話ではなく、自殺の考え方から、残るもの・残されるもの・残すものなど、登場人物達を通して著者の考え方に触れた読書。
人にオススメするようなエンタメ小説ではなく、自殺をテーマとした著者の創作物としての作品。好みとは違うものでしたが、著者の本は読み易いので自分にはない考え方に面白く触れさせてもらったような読書として楽しめました。
エンドロール (講談社文庫)
潮谷験エンドロール についてのレビュー
No.197: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

スイッチ 悪意の実験の感想

2021年度のメフィスト賞受賞作。メフィスト賞らしく変わった趣向の作品で楽しめました。

高額なアルバイトの内容はスマホにインストールしたスイッチを押しても押さなくても毎日1万円が手に入り、1カ月後にはさらに100万円が支給されるというもの。誰かがスイッチを押したら報酬がなくなるわけではない。ただしスイッチを押すとある家族が破滅するという内容。"悪意"の存在についての実験です。

あらすじがデスゲームのような内容だったので興味を引かれて手に取りましたが、中盤からは違った物語が展開された印象でした。世の中の多くのレビューの声にある通り、心理学から善悪や宗教に関する考え方が作品内に色濃くでてきます。個人的には思っていた作品と違うイメージでしたが本書の個性として面白く読めました。読み易い文章であり、考え方や説明が理解しやすかったのも好感でした。

メフィスト賞らしい広義のミステリーの物語として味わいました。

▼以下、ネタバレ感想
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スイッチ 悪意の実験 (講談社文庫)
潮谷験スイッチ 悪意の実験 についてのレビュー
No.196: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。の感想

多くの人に知られている赤ずきんを主人公&探偵役としたシリーズ2作目(著者の童話シリーズとしては4作目)。シリーズ順序は関係ないので本作から読んでも大丈夫です。

皆の知っているキャラクターを用いる事で読者を得やすくなっている作りを感じました。
今回扱われる題材は『白雪姫』『ハーメルンの笛吹き男』『三匹の子豚』。そしてタイトルにある『赤ずきん』『ピノキオ』。これらのキャラクターを混ぜ込んで作られた著者流の童話となります。個人的にはミステリというより大人向けに再構築されたオリジナル童話という印象でした。
木でできた人形の右腕を拾った事から始まり、赤ずきんはピノキオの部品探しをする先々で各童話の世界に入りそこで事件に遭遇するという流れです。

元の童話とは全然違う話でありキャラクターも多く出てくる為か、話がわかりやすそうで分り辛いという変な気持ちの読書でした。キャラクターは分かるけど、キャラがどこで何をしているのか情景が浮かび辛い物語だったのが正直な気持ちです。各物語の事件概要が把握し辛いのですが、結末側は読み易く描かれているので何が起きていたのかが後でわかるという読後感でした。
良かった点として各物語は前作よりもちゃんと童話をモチーフとした仕掛けがあるミステリーとなっていたのが好感でした。ただ童話の世界なので魔法のような現象で何でもありな世界になっていて、ミステリとしてはルール説明不足な気がするのが難点に感じました。

話の構造として『ハーメルンの最終審判』が好み。物語の背景や各人の行動の意味が明かされる物語として面白かったです。
赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。
No.195: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

あらゆる薔薇のためにの感想

特殊設定もの作品で薔薇の表紙に惹かれて手に取りました。

あらすじや帯に記されているのですが、"ミステリ"ではなく"ミステリー"と書かれており、これはあえて表記していると感じる読後感。謎解きものではなく、個人的に感じたジャンルはSFの医療小説です。

物語は「オスロ昏睡病」と呼ばれる難病にかかると昏睡状態になり記憶を失ってしまうという病気がある世界。ただ本書は冒頭で既にその病気の解決策が見つかっていて、その治療の副作用として身体に薔薇のような腫瘍が生まれるという設定。その腫瘍を持った人々が次々に襲われるという事件が起き、それの調査からミステリーが始まります。

まずこの世界の設定を序盤で読み易く展開されるのが良かったです。どういうルールが適用されているのか説明が巧いので苦なく読み進められました。著者は物語の説明がとても巧いです。複雑な世界を分かりやすく伝えていると感じる所が多々ありました。

先程医療小説と挙げた理由は、事件の謎よりも腫瘍を基点とした物語をメインに感じた為です。腫瘍の謎もありますが、治療方法や腫瘍を持った人々の交流など、空想要素を取り除けば身近にないめずらしい病気の医療物語の印象です。薔薇や腫瘍などの設定がミステリとして必須アイテムというわけではなく物語の表現や演出寄りに感じた次第。

SFの医療小説+青春ものの物語として手に取ると良いと思います。
著者の作品は初めてだったのですが、読みやすく物語の世界が独特で気になる為、他の作品も手に取って見ようと思いました。

▼以下、ネタバレ感想
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あらゆる薔薇のために (講談社文庫)
潮谷験あらゆる薔薇のために についてのレビュー

No.194:

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ

佐藤究

No.194: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

QJKJQの感想

2016年度の江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞は新人の賞ではありますが、著者はペンネームを変えての再デビューなので他の乱歩賞のような初々しさはなく、個性的な作品でありかつ異質を放っている作品だと感じました。

猟奇殺人鬼の一家に生まれた主人公。自身も父も母も兄も殺人鬼。ある日部屋で兄の惨殺死体が発見され、しばらくすると消失する謎が発生する。殺人鬼として狙う加害者側から一変、主人公は被害者側となり、死体消失の謎によるミステリ模様が始まるする流れ。
本書を手に取る前のイメージは、猟奇殺人ものなのでドロドロなグロなものを想像していましたが、そういう気分にさせるのは序盤ぐらい。主人公の家族に何が起きたのか?という謎を追う流れで、本筋は"殺人"について、歴史、考察、哲学などの思考を巡らす物語。

なんとなく読んでいて、内容は違いますが夢野久作の『ドグラ・マグラ』を感じました。「ゴオォゥン――ゴオォゥン……」とか、現実の話なのか虚構や幻想の話なのかごちゃごちゃになるような展開。奇書と感じるのも分かります。

本書は個性的な作品。一つの物語として完成されています。
ただそれが好みかどうかは人それぞれでありまして、個人的にはあまり楽しめなかった作品でした。
QJKJQ (講談社文庫)
佐藤究QJKJQ についてのレビュー
No.193: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

真相は読者が考えて解く仕掛け本

『いけない2』が話題なので1作目を予備知識なしで手に取りました。
普通のミステリとは違う為、これは少しどういう本か予め知ったうえで手に取るとよいです。

ネタバレなしであらすじの範囲で説明しますと、各短編の最後の1ページに写真があり、その写真を見ると真相が推理できるという仕掛け本です。注意点としては写真を見れば全てが理解できてあっと驚くような快感が得られるわけではなく、あくまで【最後に推理のヒントが得られる】作り。最後の得られたヒントを元に、もう一度読み直しながらセリフや状況を分析して真相を自分で解き明かす構造です。ひと昔前のゲームブックを思い出しました。
個人的な難点は、最後にヒントが得られる構成の為に初読では叙述トリック作品のように何かが隠された物語の描き方で内容の把握が難しく、かつ読みづらく感じたのが本音です。

本書は自分で推理をしたい&問題を解きたいという人にオススメな本。
真相は分からずモヤモヤする人には不向きです。この点を踏まえて手に取ると良いでしょう。

物語の雰囲気は初期の頃の道尾秀介の作風で、ちょっと暗く嫌な気持ちにさせられました。真相がわかっても気持ちが晴れるわけではなく、むしろ気分はどんよりと沈むような気持です。

真相がわかないとモヤモヤする為、何度か本を読みなおしました。2章がスッキリしませんが最終章および1,3章はこういう話だなと理解できたような読後感です。個人的には手に取る気持ちの準備不足とタイミングが悪かったのもありますが、謎も物語もスッキリしない気持ちが少し好みに合わずでした。
著者作品をみると『いけない2』や『N』のような、本として意味がある事や読者を楽しませる仕掛けを考えた作品でしてとても好感でした。自分で謎を解きたくなったら『いけない2』を手に取って見ようと思います。

▼以下、ネタバレ感想
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いけない (文春文庫)
道尾秀介いけない についてのレビュー
No.192:
(6pt)

コンビニなしでは生きられないの感想

メフィスト賞受賞作。コンビニを舞台としたミステリ。
先に2作目の『謎を買うならコンビニで』を読んでからの読書でした。その感覚だと2作目は大分読み易く物語も把握しやすくなっていたという印象でして、1作目の本書は物語が"複雑"という表現ではなく"粗削り"で書きたい事が雑然している印象でした。ただ良い所は沢山あり、本書はコンビニを舞台としてコンビニで働く者を主題とした本書ならではの個性的な作品で好感です。

著者自身が高校生からずっとコンビニ店員である実体験が活かされております。店員からの視点、バイト仲間、お客さん、起こり得る事件の範囲、レジやらお金の扱いなど、これらを活用したミステリであるのは面白く読めました。ただちょっと把握し辛いのは難かもしれません。

個人的にはミステリよりもコンビニ店員である事の感情の描き方が印象的でした。著者の想いが噴出しているのかもしれませんが、社会との距離、フリーター&バイトである事の後ろめたさと言った負の感情がリアルに感じました。いわゆる青春小説として同じ年代の仲間との交流や恋愛などの物語を学園で行わず、バイト先のコンビニを舞台で描いている様は、学園や社会人を遠い存在の憧れ(?)の様な距離で一線が引かれており、でも体験したい、自分もそうなりたいという感情によって本書の物語が生み出されているように感じました。

ネタバレではなく関係ない要素なのでここで書きますが、6章辺りの人を信じられない主人公の疑心暗鬼の様子も中二病やこじらせ系と言えばそれまでですが、でもそんな単純な言葉ではおさまらず、表向きでは他人との距離感を放ち、でも内面では仲間を信じたい気持ちもあるという反発する感情が描かれていたのが印象的。ミステリよりこの感情を溢す様が強く心に残る作品でした。
コンビニなしでは生きられない (講談社文庫)
秋保水菓コンビニなしでは生きられない についてのレビュー
No.191: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

幻告の感想

やり直しがきかない裁判とタイムリープを組み合わせた異色作。
"タイムリープ"を扱う作品の印象から軽めの法廷作品かと思って手に取ったのですが、中身はどっぷりと法律を扱う社会派小説でした。
予想と違う本でしたが読み辛さはなく、日常で馴染みのない法律について確かな知識を物語を通して学べて為になったというのが読後にまず思った感想です。

有罪判決のあとに冤罪の可能性がでてもやりなおす事ができない日本の法。裁判官という仕事の特性。普段馴染みのない法曹の話がリアルに描かれており楽しめました。事件内容や捜査模様、推理の流れといった小説の展開がミステリとも警察小説とも違ってリアルな法律にそっているのが特徴的。これは著者の持ち味だと感じます。

著者のデビュー作『法廷遊戯』より読み易く楽しめたのが好感。中身の法律を主軸にした話展開は同じなのですが、登場する人物の心情が多く描かれているので法律知識だけではなく物語としてちゃんと楽しめました。

"タイムリープ"という言葉に目が行きますが、読んだ感覚としてはアドベンチャーゲームでした。
1つの物語を違う選択肢から眺めて手がかりとなる情報を得て最後にトゥルーエンドへ向かう。ゲーム系と違うのは中身がリアルな法律と事件を扱う事。小説の構造はライトで事件内容が重い。これは悪い印象ではなく、今後もこうした形で難しいと感じる法律のイメージを物語を通して払拭し学べるならいいなと思いました。
幻告 (講談社文庫)
五十嵐律人幻告 についてのレビュー
No.190: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

推理大戦の感想

特殊な能力を持った名探偵達が「聖遺物」をかけたゲームに参加するという話。
大きく分けて二部構成で、前半は名探偵達の紹介エピソード。後半があらすじにある物語。

個人的には前半がとても面白かったです。
超人的な名探偵達は、AIを駆使する者、思考速度が常人の数倍ある者、五感が優れている者。という具合に驚異の能力を用いて瞬時に事件を解決する者達。短編集の様な短いエピソードの中で、それぞれの名探偵達の活躍が読めるのは贅沢な作りで良かったです。
一番印象的なのは思考速度が速いボグダンというキャラ。思考速度が速いという事を文章で表現する為に括弧書きを駆使した文章となっており、この表現は小説らしさがあってよかったです。

後半についてはあらすじにある事件が起きるのですが、これだけ凄い名探偵達が集まっているにも関わらず、話や推理の進展が悪い為に超人感が薄れてしまったのが残念。超人たちを集めている状況がミステリに活用されているかというと必然的には感じませんでした。

なんとなく読んでいて感じたのは作者が好きで自由に描いた作品である事。悪い表現で恐縮ですが読者からするとちょっと読み辛いし、不必要なギャグパートや大阪弁のノリが作品の雰囲気を崩して身内ネタに走っている傾向を感じました。そういうのを気にせず、好きな事、好きな要素、思いついた文章をどんどん描いて楽しんでいるのを感じた次第です。

それぞれの名探偵は個性的なので、スピンオフ作品などで舞台を変えてまた皆に会えたら面白いだろうなと思いました。
推理大戦 (講談社文庫)
似鳥鶏推理大戦 についてのレビュー
No.189: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

機龍警察の感想

近未来警察小説。
警察小説によくある組織や立場の対立など描かれているのは前提とし、そこに近未来というフィクションを織り交ぜる事で、警察が雇う傭兵という新たな対立要素、搭乗兵器によるロボットアクションなどが新鮮に映った作品でした。

ハヤカワ・ミステリワールドに属する推理小説のシリーズに含まれる作品であったので、本書の設定ならではのミステリ的な仕掛けを期待してしまった所があり、そこは期待と違いました。推理小説というより新たな警察小説というニュアンスが正しく、その系統が好きな方はとても楽しめる作品です。

第一章の事件開始の導入はパニック感やスピード感があり抜群に面白かったです。中盤以降は雰囲気が変わり、人間模様、組織、事件の捜査、などがどっしりとした歩みで展開され、少し好みとは違いました。

シリーズを見越した作品であるので、本書単体だけですべてが丸く収まり解決するという事はありませんでした。各キャラクターの過去や組織の物語に謎を秘めたまま終わる為、悪い意味ではスッキリせず、良い意味では続巻が楽しみになる作りは好みの別れ所です。
個人的に重厚な作品で内容は好きなのですが、時間をかけて読み終わってもスッキリしない点が多いのは楽しかったよりも疲労を感じてしまい、続巻を手に取るのを躊躇してしまう気持ちが残りました。
機龍警察〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
月村了衛機龍警察 についてのレビュー
No.188: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

九度目の十八歳を迎えた君との感想

ミステリ・フロンティアに属する作品ですが、ミステリというよりファンタジーを用いた青春小説でした。

物語は社会人となった主人公が、駅のホームで高校時代の同級生の女性を目撃する所から始まります。
ただし違和感がある所は、その女性は高校生の姿のままである事。他人の空似、見た目が若い、姉妹、というわけではなく、言葉通り18歳の高校生のままという事。本作品はこの状況を現実的な解釈を用いるのではなく、こういう世界であるとファンタジーな事象を日常の1コマのように捉えているのが面白いです。
ミステリとして見るなら「何故彼女は18歳の高校生のまま変わらないのだろうか?」という謎を起点とした物語となります。

ただ読書して感じた事は、ミステリを描いたのではなく"年齢"に着目したテーマや想いが主要である事。年齢という呪縛。同世代や異なる世代のずれ、年齢と共に忘れてしまった思いなどを強く感じました。
印象的な一文は「年齢というものは、その人間の性格よりも、能力よりも、本質よりもずっと手前に陣取っている憎いやつだ。」というもの。社会人となった主人公の悩み同様に、年功序列、能力社会といった社会的なテーマを感じた一幕でした。
当時のままの同級生という設定からくる物語は、姿だけでなく高校生の頃の想いを思い出させます。大人へのあこがれや希望、やりたい事の夢、そういった光に対して現実の闇を対比させて考えさせるテーマ性を帯びている為、本作品を読む読者の年代によって響く所が異なるのではないかと感じました。

一昔前ならタイムトラベルもの作品で同様なテーマが描かれそうですが、今の時代に合わせた内容や不思議な世界の描き方は現代的な作品となっていました。この描き方は著者の持ち味で面白いなと思います。
九度目の十八歳を迎えた君と (創元推理文庫)
浅倉秋成九度目の十八歳を迎えた君と についてのレビュー