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あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへ書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点6.75pt |
レビュー数119件
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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富裕層が集う別荘地帯に樫間高之は向かっていた。
亡き恋人・森崎朋美の両親の別荘である。 久々の再会に喜び、また、朋美の死を悼む男女八人。 そこに逃亡中の銀行強盗が侵入した。 強盗の監視下、何とか外部との接触を試みるも、ことごとく失敗に終わる。 それも強盗以外の者が妨害しているらしい。 内の者への疑惑が強まるなか、ついに一人殺された。 状況から見て犯人は強盗ではない。 さらに朋美の死も殺人の可能性が浮かびだし、皆疑心暗鬼にかられる。 はたして犯人は誰なのか―・・・ 個人的に東野圭吾氏はあまり相性がよくないようです。 舞台設定は面白そうで、読んでみたくなります。 強盗の監視下という緊迫した状況。 さらに密室殺人。 しかも犯人は強盗ではない。 この舞台設定は面白そうですし、ページ数もほど良いです。 しかし、登場人物に魅力がないのか、メインの仕掛けがわかりやすいからなのか。 可もなく不可もなく、あまり印象に残らない作品だと感じます。 仕掛けが三つとしたら、一つは本人他作品、もう一つは別作家作品で既に見た覚えがあります。 目新しいのは強盗の存在ですが、あまり緊張感がなく、展開も読めてしまいます。 ラストは個人的には、あまり好きではありません。 内容もページ数も良くも悪くも無難で、軽くミステリを読むには良いのだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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昭和四十年代初め、一ノ瀬真理子は十七歳、花の女子校二年生だった。
ある雨の夕方、真理子は家の八畳間で一人レコードをかけ目を閉じた。 目覚めた世界は二十五年後。 一ノ瀬真理子は桜木真理子となり、自分と同じ歳、十七歳の娘がいた。 受験、都会での生活、異性との付き合い、そうしたこれから送るはずだった青春の日々。 恋愛、結婚、出産、育児というこれから送るはずだった幸せな日々。 そうした日々は非情にも、持ち得た記憶も経験もないまま、過ぎ去ったという。 一体どうなってしまったのか。 世界に独りぼっちだ。 しかし、悩み立ち止まっている暇はない。 桜木真理子は高校三年生を受け持つ国語教師だったのだ。 真理子は自尊心を持って「今」を生きる―・・・ とても綺麗な物語です。 真理子の紡ぐ言葉や情景はとても清々しく綺麗です。 時間ミステリといっても、ミステリ要素は薄いです。 確かにミステリな設定ですが、メインは非情な時の悪戯に遭った真理子の生き方だと思います。 前半は昭和四十年代から平成へと跳んだ真理子の戸惑いと今後の指針です。 急な時代の進化はもちろん、十七歳の心に四十二歳の身体という切なさや桜木家での過ごし方など。 後半は桜木真理子が高校教師であることから、舞台が家庭から高校へ移ります。 真理子が送れず、今となっては混ざることもできない、青春あふれる高校生活です。 しかし、真理子はそれを悲しむばかりではありません。 ラストは完全にハッピーエンドとは言えませんが、それでも真理子は強く美しく、そして前向きです。 このラストに至るまでの、要所要所の真理子の心情や生徒たちへ向ける言葉はとても美しいです。 もちろん、この世界観が合わない人はいると思います。 真理子は混乱し醜態をさらすことはあまりありません。 そういった真理子の強さは彼女の綺麗さに繋がりますが、そこがリアリティにかけると思う人もいると思います。 しかし、私は真理子の感性や言葉の美しさが好ましく思います。 個人的にはとても綺麗で素敵な物語だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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東北地方の小さな町谷津。
男子校二校、女子校二校の四つの高校が居並び、各々意識し合っていた。 そんな垣根を越え、各校の生徒が集う部活動「地歴研」。 彼らは谷津の歴史等を調査していた。 ある日、四校同時にとある奇妙な噂が広がった。 その噂のキーワードは「五月十七日」「エンドウさん」。 彼らは噂の出所を突き止めようと、四校同時にアンケートを実施した。 中々出所を突き止められないまま、噂の日、遠藤という少女が姿を消した。 まさかの事態に生徒たちは恐れ慄くと同時に、何かが起こることに期待した。 その後金平糖やカセットテープを使った奇妙なまじないが流行り、さらに新たな噂が広まった。 一体何が起きているのか―・・・ あらすじにはモダンホラーとありますが、ホラーというよりミステリアスな小説です。 高校生たちの主観で語られますが、高校生らしい青春の爽やかさはあまりありません。 執筆した時代的に、高校生に古さも感じます。 しかし、高校生たちの将来や個性に対する焦燥感や不安。 何かが起ころうとしていることへの恐れや罪悪感、そして期待感。 そうした思いは共感できると思います。 設定や導入はとても面白く、続きが気になります。 しかし、ラストは少々消化不良です。 本作は明確な回答はあまり合わないとは思います。 それにしても、あと五十頁くらいほしいところです。 そこが前半面白かっただけに残念です。 推理要素、スピード感といったものはあまりなく、ラストも消化不良感があります。 しかし、設定や世界観が合う人には面白いと思います。 個人的には本当にあと五十頁分くらい伏線を消化してくれたら、より面白かったのにと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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生命保険会社の査定主任を務める若槻慎二。
彼は日々死に関する書類を見、様々な人種に対応していた。 怒鳴りこみ、泣き落とし等々の荒事に麻痺していく中、一本の電話が来た。 相手は自殺を考えている様子で、若槻はつい自身の体験談を持ち出し、自殺を止めるよう促した。 数日後、見知らぬ客が苦情を入れ、わざわざ若槻を指名してきた。 若槻が不可解ながらも苦情処理にあたろうと訪ねた先は「黒い家」。 異様な家、異様な雰囲気、異様な臭気、そして異様な住人。 住人が開けるよう勧めた襖の先には子どもの首つり遺体があった。 自殺と認定されたが、若槻には他殺と思えてならない。 そして、この事件を機に若槻の日常が侵食されていく―・・・ 皆さんが感想で書かれているように、人間が一番恐いと思い知らされる小説です。 恐ろしいのはずる賢い人間でも、暴力的な人間でもありません。 一見無力な、それでいて道徳心に欠けている人間の方がよほど恐い。 規則正しく迫られると、それが日常の一部へとなり、日々意識せざるを得なくなります。 静かに、しかし着実に日常が壊れていく恐怖が遺憾なく描かれています。 ミステリよりホラーサスペンス色の濃い作品です。 個人的には、すごく恐いという評判に期待しすぎたかなという感じです。 早々に犯人の予想がつくため、そこに至るまでが少し冗長だと感じます。 途中に挟まれる生命保険業界のトラブルや裏事情はリアルで面白いですが。 また、私は人間の心理や行動、そして凄惨な遺体の内容より、虫の比喩が良い意味で非常に気持ち悪かったです。 貴志作品のホラーの中でも、人間が恐い作品とSF的に恐い作品とがあると思います。 人間が恐い作品が好きな方は本作や「悪の教典」。 SF的に恐い作品が好きな方は「天使の囀り」や「クリムゾンの迷宮」。 前者のタイプが好きな方はとても楽しめると思います。 私は割と後者のタイプが好きなので、後者の例にあげた作品の方が面白かったです。 しかし、若槻が「悪の教典」のハスミンほどハイスペックではないため、まだ多少は感情移入できます。 「悪の教典」ほど好き嫌いはないと思います。 期待のしすぎ、および個人的な好みで評価はあまり高くありませんが、新人とは思えないディティールだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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アジアの果ての荒野に、鉄条網のような植物に守られた白い矩形の建物が存在していた。
いったい誰が何のために作ったのかはまったく不明なうえ、いったん中に入ると戻らない人間が数多くいるという。 そのため、地元民には「存在しない場所」「有り得ぬ場所」と伝えられ、恐れられていた。 時枝満は旧い知人・神原恵弥に、七日間を期限に白い建物、恵弥いわく「豆腐」の「人間消失のルール」を捜し出す安楽椅子探偵を依頼された。 満に恵弥、それから軍人のスコットと地元民のセリムの四人は、「人間消失のルール」を導き出し、「豆腐」の謎を解き明かすことができるのか―・・・ 一見、神殿のようでいかなる宗教とも結びつかない「豆腐」。 読み始めは人間消失の謎も「豆腐」の神秘的魅力の一つのように思えます。 それが、「人間消失のルール」が見えてきて、異変を感じ始めると、その神秘的魅力は得体の知れない恐怖へと変わっていきます。 淡々とした考察は深く考えると恐ろしく、段々ゾワゾワするというか、心臓がキュッとなるというか。 そのため、ミステリというより、幻想的ホラーの色が強いと思います。 本作は色濃い幻想的ホラーの中に、「現実的な問題」も絡めています。 しかし、この「現実的な問題」や、それに伴う終盤の流れは好みがあると思います。 終盤は急展開ですし、恐らくわざと曖昧にした箇所もまた、好みがあると思います。 明確ではない方が余韻や考察箇所が残り良いこともあります。 本作に関しては、個人的に説明不足でせっかく中盤恐く面白かったのに、少し尻すぼみしたなと感じます。 しかし、面白くないわけでは決してありません。 幻想的ホラーシーンはビックリというか、心底ゾッとする恐さがあります。 本格ミステリを求めている方や推理を楽しみたい方向けではないかもしれません。 幻想的ホラーの色が強くても構わない方は、全体的には面白く、ページ数も少ないのでオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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風ケ丘高校の旧体育館で放課後、放送部部長・朝島友樹が刺殺された。
朝島が殺されたのは旧体育館の舞台上。 舞台は幕が下ろされており、密室状態。 警察は唯一一人の時間があった女子卓球部部長・佐川奈緒を犯人と決めつけた。 部員・袴田柚乃は何とか佐川を救えないかと悩んだ。 そんな中、柚乃は部室に住んでいると噂の、全教科満点を出した天才・裏染天馬の存在に行きついた。 噂の部室を訪ねると、そこはアニメグッズの山だった。 天馬は天才的頭脳を持つ、どうしようもない駄目人間だったのだ―・・・ 「体育館の殺人」という一見地味な題です。 他の方も指摘しているとおり、実際は「体育“館の殺人”」であり、綾辻行人氏のパロディになっているようです。 ライトノベルのような表紙。 探偵役はアニメオタクでやる気ゼロの天才駄目人間。 個性的な登場人物。 諸所に挟まれるオタクネタ。 その辺りがとても軽く、ライトノベルっぽいです。 特に探偵役のやる気のなさはいかにもな感じがします。 登場人物の「個性的」も、例えば綾辻行人氏の描く「個性的」とは大分違います。 そのライトノベルっぽさは好き嫌いがあると思います。 ミステリの敷居を低くした初心者向けととる人もいれば、オタクネタが煩わしいととる人もいると思います。 しかし、推理自体は正統派というか、本格らしいです。 「平成のクイーン」は言い過ぎかわかりませんが、展開の仕方は面白いです。 探偵役が動機ではなく、あくまで証拠品、遺留品、現場、アリバイ等々から犯人を指摘する流れは良いです。 割合フェアなのではないでしょうか。 体育館は一見広く開放的な印象です。 そこで密室を作るという発想、そして密室をどうやって作るかはとても面白かったです。 犯人の動機は正直残念ですが、その後もうひと山あり、ただでは話は終わりません。 才能を感じるデビュー作だと思います。 平成生まれの作家による本格とはこうなるのかという意味でも楽しめます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ある日、中央競馬場に一通の脅迫状が届いた。
指定するレースの一番の馬を勝たせろ。 要求が受け入れられなかった場合、馬伝染性貧血(伝貧)の感染馬が出るだろう。 八百長レースなど受け入れられないと、中央競馬会は脅迫状を一蹴した。 すると数日後、予告通りに伝貧馬が発生した。 事態を重く見た中央競馬会の理事・江戸川は、保安課の八坂に調査を厳命した。 八坂が感染馬の発生した北海道へ向かうと、そこには思いがけず見合い相手の堀佳奈子がいた。 しかも佳奈子は八坂の行動を先回りしていた。 迷った末、八坂は佳奈子と互いの情報を交換し、事件を追ううち、七年前の伝貧発生に辿りついた。 はたして七年前に何があったのか―・・・ 岡嶋二人氏の競馬三部作の一つです。 「焦げ茶色のパステル」「七年目の脅迫状」「あした天気にしておくれ」。 全て競馬ミステリですが、メインは各々異なります。 「焦げ茶色のパステル」は生産システム。 「七年目の脅迫状」は保険システム。 「あした天気にしておくれ」は馬券システム。 そのため、競馬ミステリでも内容は異なり、マンネリ感もありません。 競馬や保険の知識がなくても問題なく読めます。 八坂と堀も終始冷静で、読者を苛立たせることなく、着実に真相に迫っていきます。 まず、どうやって伝貧ウイルスを手に入れたのか。 七年前の伝貧発生時に誰がどう関わり何をしたのか。 今回の脅迫状の目的は何か。 そして、犯人は誰か。 一つひとつ、しっかり拾い、調べていくので読みやすいです。 脅迫状の目的は予想外で面白いです。 しかし、保険の存在が大きく、他二作に比べて馬の印象が薄いです。 他二作の方が、「競馬ミステリを読んでいる」感があったと思います。 しかし、これは好みの問題かもしれません。 良質なミステリですし、ハッピーエンド好きな方にオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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東北の牧場で、牧場長と競馬評論家・大友隆一、サラブレットの母子モンパレットとパステルの二人と二頭が撃ち殺された。
数日前、隆一が訪ねた農大講師も殺され、警察は隆一を疑った。 しかし、隆一の妻・香苗には納得いかなかった。 香苗は競馬の知識はないが、隆一の性格はよく知っていた。 隆一は冷たい人間だが、人を殺せる人間ではない。 競馬新聞社に勤める親友・芙美子と共に、隆一の行動を辿った。 すると、どうやら隆一はパステルについて調べていたらしい。 はたして隆一はパステルの何に疑問を持ち、調べ、そして殺されたのか。 事件は思いがけず、競馬会を揺るがす恐るべき秘密へと繋がっていく―・・・ 岡嶋二人氏のデビュー作であり、氏の競馬三部作の一つです。 デビュー作にも関わらずかなり完成度が高いです。 競馬知識がなくとも、わかりやすく、かつ、くどうないように説明されていて苦になりません。 その辺りは、香苗に競馬知識がないという設定が上手く活きています。 競馬ミステリといっても、舞台はいろいろです。 本作は競馬の生産業界が主な舞台となります。 競馬生産業界の特殊で、ときに不条理で非情な面が見えます。 それに対する一般人と競馬関係者の認識の温度差は興味深いです。 ○○ミステリとあっても、脇道に逸れるミステリもありますが、本作は終始競馬について書かれており、それにも関わらず飽きさせません。 本作の謎は複数あり、どんでん返しもあります。 それらが一見競馬と無関係でも、最後にはしっかり競馬に繋がるのは見事です。 ただ、個人的には「明日天気にしておくれ」の方が好きです。 好みの問題かと思いますが、純粋に「明日天気にしておくれ」の方が読んでいて続きが気になったなと思います。 しかし、本作も十分面白く、良質です。 競馬三部作残りの一作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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駒形祥一は目覚めると見知らぬ部屋にいた。
そこは窓が一切なく、妙に蒸し暑い館の一室。 自身と見知らぬ六名分のネームプレートが付けられた部屋とPC室、そして広場。 案の定七名の男女は誰一人顔見知りではなく、訳が分からない状況に険悪な雰囲気が漂った。 そんな中、PC室のパトランプが点滅し、唐突に「主催者」が告げた。 「夏と冬、二つの館が存在し、同条件下でそれぞれ殺人事件が起きる。 自身の館ともう一方の館の殺人事件の犯人を当て、生き残った勝者には賞金を差し上げよう。 ただし、相手の館が先に二つの館の殺人事件の犯人を当てた場合、敗者に待つのは死である。」 つまり、自身の館の殺人事件を推理するだけではなく、相手の館と交渉し、出し抜かなければならない。 はたして駒形は犯人を当て、生き残ることができるのか―・・・ いわゆるデス・ゲームものですが、設定が少し工夫されていて面白いです。 デス・ゲームにもう一つの館を容易することで、上手く囚人のジレンマを取り入れています。 自身の館は館で、正直誰かが死ななければ推理し難い一方で、その被害者は自分になるかもしれない。 みんなで推理したいが、誰かが犯人かと思うと、誰を信用していいのかわからない。 しかし、相手の館を考えると、協力して出し抜く必要がある。 いかに自身の側の情報を伝えず、相手の情報を得るか。 一日一人のペースで死んでいきますが、相手の館では誰が死に誰が生き残っているのかわかりません。 この情報は犯人候補を絞るには非常に重要であり、どのタイミングで嘘をつくかが鍵となります。 個人的にはひとひねりされた設定で、犯人も予想外だったので、面白かったです。 しかし、他の方の感想を読むに、なかなか手厳しい評価を受けています。 そして、そうした評価はある程度的を射ていると思います。 正直、せっかくの設定を活かしきれていない感はあります。 相手の館の情報があまりになく、せっかくもう一方でもデス・ゲームが起きているのに勿体ない気がします。 また、登場人物に感情移入できない、緊張感が足りないという意見も見られます。 デス・ゲームでは多少の疑心暗鬼や空気を乱す存在はわかりますが、それにしてもまるで協調性がありません。 ある程度団結して相手の館を出し抜く必要があるにも関わらず。 主人公は団結する必要性を自覚しながら、推理はしてもそちらには積極的に動かないので、登場人物の背景や心理がまるで掴めず、死んでもどうとも思えません。 本作の設定ならば、もっと相手の館との交渉における心理戦の模様や、犯人がいるかもしれない面子での団結という矛盾への葛藤が書き込まれれば、より緊張感が生まれ面白くなったのではないかと思います。 私は犯人が予想外だったのですが、トリックを見破れたらかなり面白味が半減すると思います。 正直、大して推理したわけではなく、消去法と運の要素も大きい印象です。 それでも、私個人としては面白かったです。 そして勿体ない作品だとも思います。 メフィスト賞受賞作と期待しすぎなければ、楽しめるのではないでしょうか。 粗削り感があるのも、デビュー作と知り納得できます。 最後はTo be continuedとあるので、ぜひ同設定のデス・ゲームを書いてほしいと思います。 |
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英都大学推理研究会にアリスが入部して一年。
推理研に初の女子部員、有馬マリアが入部した。 マリアの亡き祖父は大そうなパズル好きで、孤島・嘉敷島に宝を隠したらしく、推理研は大いに盛り上がった。 その夏、江神さんとアリスはマリアの誘いを受け、宝探しに島へ向かった。 島には十三名の男女が集まり、各々世俗と離れ、思い思いに過ごしていた。 その夜、折悪しく台風が接近し、暴風雨の音に紛れて殺人が行われた。 無線機は壊され、船も三日は来ない絶海の孤島で、更に事件は続く。 果たして犯人は誰なのか―・・・ 学生アリスシリーズ第二弾です。 フーダニット、ハウダニット、更に宝探し(暗号)と、ミステリ要素盛り沢山です。 正直、多くの人がトリックはわからなくても犯人は予想できると思います。 しかし、前作に比べ犯人の動機は重く、ストーリーもより洗練されている印象です。 途中の謎や伏線等々は上手く回収され、かつトリックやストーリーに組み込まれています。 いかにも本格らしく、また割とフェアだと思います。 江神さんが論理的に謎を解き明かし、アリスを通して読者に割合わかりやすく説明してくれます。 その過程で江神さんの人となりもうかがえます。 江神さんは探偵役ながらも、むやみに人の罪を暴こうとはしません。 しかし、真相を理解した上で放置はできないという苦悩がしのばれます。 江神さんについては解説で光原百合氏がファンレターを綴っています。 かなり熱烈なので、それはそれで一読すると面白いと思います。 アリスとマリア、二人の距離感は若者らしく青臭くて良いです。 凄惨な事件の中に青春の爽やかさを少し漂わせます。 前作に比べ非常に洗練され、面白いです。 捉えどころのない江神さんの謎、アリスとマリアの今後を含め、次作が楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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岩手が生んだ偉大な童話作家であり詩人である宮沢賢治。
時はケンジが稗貫農学校で教鞭をとっていた頃。 ケンジは論理的思考と科学的分析力を持つ一方、非常に好奇心旺盛で行動力がある変わり者でもある。 そんなケンジには花巻高等女学校で教鞭をとる藤原嘉藤治という親友がいる。 カトジのもとには奇妙な相談がまい込み、カトジはケンジを頼る。 こうしてケンジとカトジのコンビが、さながらホームズとワトソンのように奇妙奇天烈な事件を解き明かしていく―・・・ 全四編の短編集です。 「ながれながれにながれたり」「マコトノ草ノ種マケリ」「かれ草の雪とけたれば」「馬が一疋」。 各題は賢治の作品から名付けられています。。 作中の時期は賢治が稗貫農学校教師で、かつ妹のトシが花巻高等女学校教師を辞め療養している頃になります。 賢治を探偵役に据えているだけあって、賢治へのリスペクトが感じられます。 各題だけでなく、作中諸所に賢治の作品を思わせる箇所があります。 事件は賢治の作品へ影響している形になっており、その辺りにも著者の賢治でミステリを書こうという意欲を感じます。 また、賢治の生涯や思想、人物像も掘り下げています。 有名な信仰に関する親子の衝突や科学への興味云々のエピソードだけではなく、賢治の生家やレコード収集についても触れています。 この辺りは賢治に詳しい方はニヤニヤものかもしれません。 事件の背景には、当時の花巻の深刻な貧困問題がえがかれ、それに対する賢治の苦悩も上手く浮かばせ取り上げています。 探偵役には時に天才だが、極端に強引で配慮に欠け、人の心に土足で踏み込むようなキャラクターもいます。 ケンジは確かに天才で強引なところもありますが、話の落としどころというか、諸所に信仰深い賢治らしさや優しさが感じられます。 カトジとの関係も互いに信頼し合っていて、片方をあまりないがしろにしないので、読んでいて苛々はしません。 しかし、本作はすごく好みが分かれる作品だと思います。 まず、賢治が好きか否かで大きく分かれると思います。 更に、賢治好きでも、好きだからこそ楽しめる人と、好きだからこそ苦手な人がいると思います。 あと、賢治が探偵役なので仕方ないのですが、岩手訛りが結構読みにくいです。 賢治の作品には彼の死生観に満ちているものや、登場キャラクターがあっさり死んでしまうものもあります。 しかし、個人的に賢治は素朴なイメージがあります。 そのため所謂「人の死なないミステリ」と想定していたのですが、本作は予想に反し、大掛かりなトリックを用いた人死にもあるミステリです。 賢治を探偵役にした意欲作だとは思うのですが、私はどうにもそこに違和感が有ります。 また、賢治を取り扱った作品としては印象深いのですが、ミステリとしてはあまり印象に残らないかなとも思います。 好みがある作品だとは思いますが、続編も出ていますし、賢治もミステリも好きな方は一読してみるといいと思います。 |
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全六編の歴史物短編集です。
「坊主の壺」「お文の影」「博打眼」「討債鬼」「ばんば憑き」「野槌の墓」の六編です。 書籍版の題は「ばんば憑き」ですが、文庫版の題は「お文の影」になります。 江戸人情話であり、妖による不思議談でもあります。 ミステリ色は薄いですが、全話上質で面白いです。 歴史物ですが読みやすく、単純な勧善懲悪にせず一捻りされています。 怪談ですが、恐い話や妖が退治される話ばかりではありません。 妖自体が勿論悪いものもありますが、性根の良いものや、生まれが哀しいものもいます。 妖よりも、その背景にある人間の業や欲、それに頼らざるを得ない無慈悲な実情の方が恐く辛いです。 そうした深みを、くどさを感じさせることなく読ませてくれます。 また、本作は「ぼんくら」シリーズと「三島屋」シリーズのスピンオフでもあります。 「お文の影」は「ぼんくら」シリーズの政五郎親分とおでこが活躍します。 「討債鬼」では「三島屋」シリーズの青木利一郎、悪童三人組、行然坊が活躍します。 私は「ぼんくら」「おそろし」「あんじゅう」しか読んでいません。 それらを読んだところ、本作はどちらかというと「三島屋」シリーズ寄りの雰囲気だと思います。 「ぼんくら」シリーズはあくまで人の業や欲に因るイメージで、「三島屋」シリーズの方が妖の存在感があるイメージなので。 スピンオフとしても、政五郎親分は主役として一つ事件を解決するのに対し、利一郎の方は主役なだけでなく、ある程度過去が判明するなど盛り沢山です。 とはいえ、二作を知らなければ本作を読めないわけではありません。 二作を未読でもまったく問題ないです。 個人的には「坊主の壺」が一番好きな作品ですが、他の方々の感想を見ると好きな作品はバラけているようです。 それだけ、どの話も上質なのだと思います。 宮部みゆき氏の歴史物が好きな方は勿論、歴史初心者の方も楽しめる一冊だと思います。 |
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御手洗潔シリーズ第三弾。
そしてシリーズ初の短編集です。 「数字錠」「疾走する死者」「紫電改研究保存会」「ギリシャの犬」の四作品になります。 短編集なので、長編に比べると物足りないかもしれません。 しかし、他作家さんの短編集と比べれば、十分濃い内容だと思います。 密室ものや誘拐もの、そして御手洗潔シリーズらしい奇想天外トリックと、バラエティに富んでいます。 他の方の感想を読むと、「数字錠」と「疾走する死者」が人気のようですが、他二作も面白いです。 個人的には「紫電改研究保存会」が短いながらスッキリ推理され、読後感が良く好きです。 ミステリ短編集として十分良作なのですが、本作はそれより、御手洗潔の人となりがメインと感じます。 御手洗潔はどのような人種にどのように接するのか。 他者から見て御手洗潔とはいかなる人物か。 そして、著者は御手洗潔をどのように生み出し、想いを託しているか。 最後に「新・御手洗潔の志」が記されています。 著者の日本人論、特に日本人男性論が語られており、それに対する御手洗潔を通した反骨精神が語られています。 日本人論自体も面白いし、そのような考えの末に生み出されたキャラクターなのかと感心します。 その日本人論も昭和を生きた人と、現代を生きる人とでは違った見方をしそうです。 現在は上司のあり方や部下のあり方等々、様々な関係性がネット普及等に伴い変化しているので。 ミステリ短編集として十分に質が高く、面白い作品です。 しかし、本作は御手洗潔という人物の補完がメインだと思います。 そのため、あくまで御手洗潔シリーズファン向けの作品だと思います。 |
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都市近郊の大型商業施設で重大死傷事故が発生した。
施設内でパニックに陥った人々により押しつぶされ、死者69名、負傷者116名に達した。 事故は何故起きたのか。 異臭を放つ紙袋を投げ捨てた男。 異様な雰囲気の老夫婦 一人にも関わらず無傷で生還した少女。 奇妙な点は複数あるが、客が一斉にパニックに陥る直接的な原因は見当たらなかった。 Q&A方式で事件の真相を探るが―・・・ 全編Q&A方式で進行します。 質問者も回答者も複数います。 当初は「何故事件が起きたか」にスポットを当てています。 そこから段々と関係者・一般人の心理経過や濃淡、情報社会の歪みが浮かび上がります。 そのため、メインは事件原因やパニックより、事件に対する人々の捉え方やその温度差、現実感の薄さなどだと思います。 情報が大量消費されている中でのリアリティとは何かを考えさせられます。 事件の原因より、情報が消費され風化する速度に怖さを感じます。 Q&A方式は初でしたが、読みにくいことも、飽きることもありません。 回答者に一部共感する箇所もあります。 社会ミステリでもあり、パニック小説でもあるのでしょうが、ホラー小説のようなゾッとする怖さもります。 事件の真相については結局推測の域を出ません。 個人的にはある程度予測はつくし、良い意味でゾッとする怖さが残る後味の悪さかなと思います。 しかし、人によってはQ&A方式に慣れなかったり、結末にモヤモヤしたりすると思います。 恩田陸氏は初読みですが、とても面白く、他作品も読んでみたいと思います。 現実社会でこのような事故が発生し、数十年後テレビで集団パニックや施設の窓の数などを問題として再現ドラマをしそうです。 そう思う程度にはありえそうだし、その後の人々の動きもありえそうで怖く、面白いです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「ハコちゃん」こと浜口美緒は超箱入り娘であった。
親に生活を徹底的に管理され、大学生にもなって尚門限六時を厳守させられていた。 そんな生活に嫌気がさしていたハコちゃんは一年越しで両親を説得し、米国留学を勝ち取った。 そんな旅立ち前日、急な訃報で両親は終日出かけることとなった。 それを知った友人知人は壮行会を開き、ハコちゃんは初の飲み会に浮かれながら深夜に帰宅した。 しかし、リビングには見知らぬ女の死体。 一気に酔いが冷めるとともに、ハコちゃんはとあることに気付いた。 ここで警察や救急車を呼ぶと、米国留学できなくなってしまう。 そこでハコちゃんは、自分に気がある男に死体の始末を頼んだ。 しかし、思いがけず居合わせることとなったタックとボアン先輩は乗ってくれない。 思い通りにことが進まず苛立つハコちゃんは「こうなったら死んでやる」と脅迫しだした。 こうしてタックとボアン先輩は事件に巻き込まれてしまった。 はたして死んだ女は誰なのか。 何故ハコちゃん宅で死んでいたのか―・・・ 匠千暁シリーズ第二弾のようですが、時系列的には第一弾になります。 そのため、シリーズ物ですが、本作から読んでもあまり問題ないと思います。 前作は西澤氏のデビュー作であり、登場人物が社会人になっています。 本作は前作の登場人物のうち、匠千暁ことタック、辺見祐輔ことボアン先輩、高瀬千帆ことタカチの学生時代になります。 安楽椅子探偵ものは、探偵役が奇人という場合があります。 本作の探偵役であるタックもなかなか浮世離れしていますが、タカチも独特な雰囲気があるし、ボアン先輩に至ってはかなり強烈なキャラクターです。 前作の方がタックはより仙人ぽく、タカチは雰囲気が柔らかく、ボアン先輩は社会人らしいので、その辺りのギャップも面白いです。 探偵役=タックと書きましたが、タカチもボアン先輩もまったく探偵役ではないわけではありません。 というか、推理というより酒飲みがてら推理という名の妄想を繰り広げている感じです。 そのため、どことなくコミカルな雰囲気で、良くも悪くも緊張感にかけます。 しかし、ラストは悪は罰されると言えなくはないものの、結構救われません。 飲みながらなされる会話も、ときに暗く、歪んだものを思わせる箇所があります。 推理自体はある程度論理があり、二転三転もします。 しかし、論理的根拠がない、偶然や咄嗟の思い付きなどもあります。 また、途中あまり必要性がなさそうなエロ妄想があります。 本作は、個人的には面白く読めましたし、続編も読みたいと思います。 しかし、キャラクターの濃さ、論理と偶然、エロ描写のバランスは結構難しく、好みがあると思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ゴッチ、ウガッコ、ユーレイ、Cちゃん、ココア、魔女、そしてぼく。
ぼくらは不思議な男OGの館に足しげく通ったメンバーだった。 街には殺人鬼出没の噂があり、得体の知れないOGを訪ねることに、大人はいい顔をしなかった。 しかし、ぼくらは普通やって悪いことを面白ければ平然とやってしまうOGに憧れのようなものを持っていた。 そんな夏のある日、ぼくらはOGの別荘に出かけた。 大人に黙って宝物を隠すという冒険に出たのだ。 しかし、そんなドキドキ感は地下室で「あれ」を発見したことで消失した。 その一件以来疎遠になって二十五年。 突如OGから招待状を受け取ったぼくらは集まった。 惨劇が待ち受けているとは知らないで―・・・ 勇嶺薫氏初の大人向けミステリ。 普段ははやみねかおる名義で児童向けミステリを書かれているようです。 所謂クローズド・サークルものになります。 普段児童向けで書かれている方だからなのか、非常に読みやすい作品です。 とはいえ、大人向けミステリということで、なかなか歪んだ闇や毒があります。 オープニング 第一幕 昔―二十五年前 幕間 それぞれの歴史 第二幕 現在 終幕 エンディング このような目次になっています。 第一幕で登場人物の子ども時代が記され、幕間で再会までの各自の変遷が記されます。 第二幕で所謂クローズド・サークルとなり、終幕で種明かしという流れです。 第一幕と幕間を読むと、皆子ども時代の純粋さを失い、社会の荒波に揉まれてどこか歪み荒んでいます。 その様が妙にリアルで時の残酷さを感じます。 ただ、せっかく幕間で人物像を多少掘り下げたのに、第二幕で特段それを活かしているわけでもない気がします。 一人ひとりの死があまりページをさかれることなく、あっさりしています。 せっかくのクローズド・サークルなのに疑心暗鬼に陥ったり、殺伐としたりはあまりしません。 クローズド・サークルを期待して読むと、少しガッカリするかもしれません。 決してページ数が少ないわけではないのですが、サラッとしている印象です。 エンディングのオチは好みと解釈が割れると思います。 個人的にはどこかおどろおどろしいオチで好きです。 良くも悪くも読みやすく、サラッと読める分、あまり印象に残らない作品かなと思います。 けれど、単純にクローズド・サークルの犯人探しではなく、そこは一工夫されています。 個人的には時の流れの残酷さの方が印象に残る作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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夏合宿のために矢吹山へキャンプに訪れた英都大学推理小説研究会の四人組。
そこで雄林大学の二組と神南学院短期大学の一組とに知り合った。 四組は出会って間もないながらも、若者らしく楽しく青春していた。 しかし、そんな四組を予想だにしない事態が襲った。 休火山だった矢吹山が突如噴火し、キャンプ場は開けた場から閉ざされた場へ様変わりした。 下山は難しく救助を待つしかない中、さらに殺人事件が勃発。 死体の傍には「Y」のダイイング・メッセージ。 いつ噴火するかわからない極限下でマーダー・ゲームが始まった―・・・ 有栖川有栖先生のデビュー作であり、有栖シリーズ一作目です。 いわゆるクローズド・サークルもの。 クローズド・サークルというと雪や嵐といった自然現象、または恣意的に閉ざされた建物内といった舞台が多い印象です。 しかし、本作は噴火によって閉ざされたキャンプ場あり、この設定は作中上手く使われています。 正直、後半は推理より無事下山できるかが緊迫し、面白かったです。 また、探偵役は良心的で、推理自体も論理的です。 探偵役は推理にうずうずして、どこか非常識な面が見られることがあります。 その特徴的なキャラクターは面白いこともありますが、不愉快なこともあります。 今作の探偵役は積極的には推理せず、冷静で他人へ気配りできるキャラクターです。 そのため、読んでいて苛々することはあまりないと思います。 しかし、不満点もあります。 まず、ダイイング・メッセージが単純に「Y」は示さないことはミステリ好きな方々は容易に予想できると思います。 しかし、今作のダイイング・メッセージは作中のダイイング・メッセージに対する意見が的を射ていると思います。 まさに「恣意的に自分が一番気に入った面白い解釈を人に押し付ける」。 また、登場人物が多いです。 クローズド・サークルものならばある程度仕方ないとは思うのですが、登場人物の役割等にかなり濃淡があると思います。 個人的には例えば女性が六人いますが、設定を混ぜて四人くらいにしてもよかったのではないかと思います。 そして、犯人の動機が非常に弱いです。 もちろん、ミステリにおいて動機や人間性を重視するかは人それぞれだと思います。 私はそれほど重視しませんが、それでも動機が弱いと思います。 正直、すごく光るものがある作品ではないと思いましたが、今作がデビュー作となると光っているのかと思います。 まず、「学生アリスシリーズ」から読んでいきたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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北海道の最北端、人里離れた高台にハマー・ディーゼル会長である浜本幸三郎がある館を建てた。
「流水館」と名付けられた館はなんと斜めに傾けて建てられていた。 わざわざ奇妙な館を建てた浜本は、客人を招き、クリスマスパーティを開いた。 その夜、奇怪な密室殺人が起きた。 どうやって密室殺人を起こしたのか。 しかし、問題はそれだけではなかった。 誰一人として動機がなかった。 困惑する警察に不安に陥る客人。 彼らをあざ笑うかのように次の惨劇が起きた―・・・ 御手洗潔シリーズ第二弾。 本作は二つの大きな問題があります。 まず、「どうやって」殺したのか。 メイントリックは現実的かは別として、とても大胆で斜め屋敷の構造を上手く使っています。 もう一つは「なぜ」殺したのか。 登場人物はみな社会的地位云々以前に、面識自体があまりない状況です。 そのため、わざわざ手の込んだ殺人を犯す動機が全く見えません。 正直、「なぜ」も「どうやって」もわからなくても、犯人の予想はつきます。 しかし、最終的にこの「なぜ」が「どうやって」に繋がる辺りは面白いです。 また、御手洗の空気をまったく読まない動きが面白いです。 前作では独特なホームズ評をしていましたが、今回のワーグナー評も独特で面白いです。 しかし、不満点もいくつかあります。 まず、「読者への挑戦」が少々アンフェアな気がします。 何がアンフェアと感じるかはネタバレになってしまうのですが。 次に、御手洗の登場までが長すぎます。 無能な警察のだらだらしたパートが長く、御手洗の登場は2/3~3/4読み終えてからです。 御手洗が登場してからはハイスピードで面白いのですが、それまでが冗長です。 そして、これは島田荘司氏に非はないのですが、本作の関口苑生氏による解説に不満があります。 解説を先に読むか、後に読むかは人それぞれなのでしょうが、私は後に読みます。 本作を楽しみ、その余韻に浸ったまま、島田荘司氏や本作の解説を読みたいと思います。 しかし、本作の解説は最終的に「新本格」というか、実名を伏せているものの、綾辻行人氏への批判で締められています。 それは是非とも解説ではなく、自書でやっていただきたいです。 個人的に「なぜ」殺したのかが大きな問題となっているのが非常に面白いです。 トリックも前作に比べてしまうとつい地味な気がしますが、面白いです。 次作も読みたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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人生を自暴自棄気味に過ごすオオバカナコ。
カナコは時給30万に惹かれて闇サイトのバイトを請け負い、その結果凄惨な拷問に遭遇し、殺されかけた。 咄嗟の機転で生き延びるも、行き先は殺し屋が集う会員制の“ダイナー(定食屋)”。 彼女は“使い捨てのウェイトレス”として雇われたに過ぎず、既に8人ものウェイトレスが使い捨てられていた。 殺し屋に気に入られなくて殺されるかもしれない。 それとも、殺し屋に気に入られて殺されるかもしれない。 “生と死”が隣り合わせの“ダイナー”で、はたしてカナコは生き残れるのか―・・・ 大藪春彦賞を受賞し、多くの方が高評価している作品なので、面白いと思う方が多いのでしょう。 しかし、残念ながら私には合わなかったです。 本作をミステリと期待して読んだためかもしれません。 私はオスダメミステリを参考に本作を購入したため、“ダイナー”や殺し屋のもたらす事件や過去に謎があるのかと思ったのです。 ですが、読んでみると、バンバン撃ち合ったり拷問したりして、バンバン人が死ぬ洋物映画を観ているような気分。 ハードボイルドやノワールというジャンルになるようですね。 そういったものが好きな方は面白いのだと思います。 読んでいてよくわからなかったり、納得し難かったりする箇所もあいます。 まず、舞台は日本なのでしょうか。 スタート地点は日本でしょうが、“ダイナー”に来てからは場所も人種もさっぱりわかりません。 そして、だれにも感情移入ができず、殺し屋のトラウマ云々を抜きにしても、行動が理解しがたいです。 カナコにはまったく感情移入できない上に、成長するわけでもない。 それなのに妙な恋愛要素が足され、爽やかというか安易というかな結末。 “死”を意味する凄惨かつ執拗な拷問シーンと、“生”を意味する魅力的かつ美味しそうな食事シーンの対比がメインなのかもしれません。 しかし、個人的には作者が何を伝えたいのか読み取れず、あまり中身があると感じることができない一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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西澤保彦氏のデビュー作にして、匠千暁シリーズ一作目。
全九話の連作短編集です。 一見、解体にこだわっただけで大した繋がりのない、短編集のように思えます。 登場人物も、第一因でAとB、第二因でBとCが知り合い、第三因でAとCが出会うが、AとCは互いがBと面識があることを知らない、という程度の繋がりです。 しかし、第八因の作中作を踏まえた第九因でそれまでの短編が繋がってきます。 そこが面白いのですが、間が空いてしまうと忘れてしまうので、あまり間をおかず読むことをおすすめします。 全話「解体○○」という題で、○○はその話の一応キーワードになっています。 人体をメインに、とにかく解体しまくります! 解体するには当然時間・労力等々リスクがあります。 それでもやるからにはどんな論理的根拠があるのか!にとことんこだわります。 現実にはそんな理由では解体どころか殺害もしないだろうとか、トリックに無理があるとか、難点はあります。 現実には論理的根拠などなく、狂気の沙汰によるものかもしれません。 でも、極端に言ってしまうと、そんなことはどうでもいいとこの本に限っては思えます。 そもそも作中の事件は、作中の時系列でも過去のものです。 安楽椅子探偵自身、事件の真相に興味はありません。 事実は狂気の沙汰でも、その解体に論理的根拠を求めてみて、解が出ればいいのです。 安楽椅子探偵が推理した結果、別の真相が見えたとしても、一度警察が出した結論を覆す気は全くありません。 遺体は当然解体されているので猟奇的なはずなのですが、まるでパズルのピースのようで凄惨さは感じません。 この解体と論理的根拠へのこだわりっぷりは、一歩間違えればギャグです。 また、話そのものも面白いのですが、事件には関係ない諸所の会話や思想も面白いです。 個人的にはなぜ自己投影できない成人向け雑誌を男性は見るのかについての答えが特に面白いです。 本書の執筆に至る発端があらすじで書かれていますが、それがまた面白いです。 首なし死体さえ転がしておけばミステリなんて簡単に書けるという、ミステリに対する不当評価。 首なし死体がひとつだと安易ならば、いっそ無闇やたらにゴロゴロ出してやろう! この反発から発想し、執筆してしまうのはすごいと思います。 また、若かりし頃は肢体切断といったグロテスクに対する嫌悪感云々とあり、この人がいずれ謝肉祭を執筆したのかと思うと面白いです。 西澤保彦氏の作品の中では『七回死んだ男』には及ばないし、楽しみ方が純粋とはいえないかもしれませんが、面白い一冊です。 時系列的には過去になるようですが、匠千暁シリーズを読んでいきたいと思います。 |
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