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あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへレビュー数32件
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東北地方の小さな町谷津。
男子校二校、女子校二校の四つの高校が居並び、各々意識し合っていた。 そんな垣根を越え、各校の生徒が集う部活動「地歴研」。 彼らは谷津の歴史等を調査していた。 ある日、四校同時にとある奇妙な噂が広がった。 その噂のキーワードは「五月十七日」「エンドウさん」。 彼らは噂の出所を突き止めようと、四校同時にアンケートを実施した。 中々出所を突き止められないまま、噂の日、遠藤という少女が姿を消した。 まさかの事態に生徒たちは恐れ慄くと同時に、何かが起こることに期待した。 その後金平糖やカセットテープを使った奇妙なまじないが流行り、さらに新たな噂が広まった。 一体何が起きているのか―・・・ あらすじにはモダンホラーとありますが、ホラーというよりミステリアスな小説です。 高校生たちの主観で語られますが、高校生らしい青春の爽やかさはあまりありません。 執筆した時代的に、高校生に古さも感じます。 しかし、高校生たちの将来や個性に対する焦燥感や不安。 何かが起ころうとしていることへの恐れや罪悪感、そして期待感。 そうした思いは共感できると思います。 設定や導入はとても面白く、続きが気になります。 しかし、ラストは少々消化不良です。 本作は明確な回答はあまり合わないとは思います。 それにしても、あと五十頁くらいほしいところです。 そこが前半面白かっただけに残念です。 推理要素、スピード感といったものはあまりなく、ラストも消化不良感があります。 しかし、設定や世界観が合う人には面白いと思います。 個人的には本当にあと五十頁分くらい伏線を消化してくれたら、より面白かったのにと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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生命保険会社の査定主任を務める若槻慎二。
彼は日々死に関する書類を見、様々な人種に対応していた。 怒鳴りこみ、泣き落とし等々の荒事に麻痺していく中、一本の電話が来た。 相手は自殺を考えている様子で、若槻はつい自身の体験談を持ち出し、自殺を止めるよう促した。 数日後、見知らぬ客が苦情を入れ、わざわざ若槻を指名してきた。 若槻が不可解ながらも苦情処理にあたろうと訪ねた先は「黒い家」。 異様な家、異様な雰囲気、異様な臭気、そして異様な住人。 住人が開けるよう勧めた襖の先には子どもの首つり遺体があった。 自殺と認定されたが、若槻には他殺と思えてならない。 そして、この事件を機に若槻の日常が侵食されていく―・・・ 皆さんが感想で書かれているように、人間が一番恐いと思い知らされる小説です。 恐ろしいのはずる賢い人間でも、暴力的な人間でもありません。 一見無力な、それでいて道徳心に欠けている人間の方がよほど恐い。 規則正しく迫られると、それが日常の一部へとなり、日々意識せざるを得なくなります。 静かに、しかし着実に日常が壊れていく恐怖が遺憾なく描かれています。 ミステリよりホラーサスペンス色の濃い作品です。 個人的には、すごく恐いという評判に期待しすぎたかなという感じです。 早々に犯人の予想がつくため、そこに至るまでが少し冗長だと感じます。 途中に挟まれる生命保険業界のトラブルや裏事情はリアルで面白いですが。 また、私は人間の心理や行動、そして凄惨な遺体の内容より、虫の比喩が良い意味で非常に気持ち悪かったです。 貴志作品のホラーの中でも、人間が恐い作品とSF的に恐い作品とがあると思います。 人間が恐い作品が好きな方は本作や「悪の教典」。 SF的に恐い作品が好きな方は「天使の囀り」や「クリムゾンの迷宮」。 前者のタイプが好きな方はとても楽しめると思います。 私は割と後者のタイプが好きなので、後者の例にあげた作品の方が面白かったです。 しかし、若槻が「悪の教典」のハスミンほどハイスペックではないため、まだ多少は感情移入できます。 「悪の教典」ほど好き嫌いはないと思います。 期待のしすぎ、および個人的な好みで評価はあまり高くありませんが、新人とは思えないディティールだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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アジアの果ての荒野に、鉄条網のような植物に守られた白い矩形の建物が存在していた。
いったい誰が何のために作ったのかはまったく不明なうえ、いったん中に入ると戻らない人間が数多くいるという。 そのため、地元民には「存在しない場所」「有り得ぬ場所」と伝えられ、恐れられていた。 時枝満は旧い知人・神原恵弥に、七日間を期限に白い建物、恵弥いわく「豆腐」の「人間消失のルール」を捜し出す安楽椅子探偵を依頼された。 満に恵弥、それから軍人のスコットと地元民のセリムの四人は、「人間消失のルール」を導き出し、「豆腐」の謎を解き明かすことができるのか―・・・ 一見、神殿のようでいかなる宗教とも結びつかない「豆腐」。 読み始めは人間消失の謎も「豆腐」の神秘的魅力の一つのように思えます。 それが、「人間消失のルール」が見えてきて、異変を感じ始めると、その神秘的魅力は得体の知れない恐怖へと変わっていきます。 淡々とした考察は深く考えると恐ろしく、段々ゾワゾワするというか、心臓がキュッとなるというか。 そのため、ミステリというより、幻想的ホラーの色が強いと思います。 本作は色濃い幻想的ホラーの中に、「現実的な問題」も絡めています。 しかし、この「現実的な問題」や、それに伴う終盤の流れは好みがあると思います。 終盤は急展開ですし、恐らくわざと曖昧にした箇所もまた、好みがあると思います。 明確ではない方が余韻や考察箇所が残り良いこともあります。 本作に関しては、個人的に説明不足でせっかく中盤恐く面白かったのに、少し尻すぼみしたなと感じます。 しかし、面白くないわけでは決してありません。 幻想的ホラーシーンはビックリというか、心底ゾッとする恐さがあります。 本格ミステリを求めている方や推理を楽しみたい方向けではないかもしれません。 幻想的ホラーの色が強くても構わない方は、全体的には面白く、ページ数も少ないのでオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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岩手が生んだ偉大な童話作家であり詩人である宮沢賢治。
時はケンジが稗貫農学校で教鞭をとっていた頃。 ケンジは論理的思考と科学的分析力を持つ一方、非常に好奇心旺盛で行動力がある変わり者でもある。 そんなケンジには花巻高等女学校で教鞭をとる藤原嘉藤治という親友がいる。 カトジのもとには奇妙な相談がまい込み、カトジはケンジを頼る。 こうしてケンジとカトジのコンビが、さながらホームズとワトソンのように奇妙奇天烈な事件を解き明かしていく―・・・ 全四編の短編集です。 「ながれながれにながれたり」「マコトノ草ノ種マケリ」「かれ草の雪とけたれば」「馬が一疋」。 各題は賢治の作品から名付けられています。。 作中の時期は賢治が稗貫農学校教師で、かつ妹のトシが花巻高等女学校教師を辞め療養している頃になります。 賢治を探偵役に据えているだけあって、賢治へのリスペクトが感じられます。 各題だけでなく、作中諸所に賢治の作品を思わせる箇所があります。 事件は賢治の作品へ影響している形になっており、その辺りにも著者の賢治でミステリを書こうという意欲を感じます。 また、賢治の生涯や思想、人物像も掘り下げています。 有名な信仰に関する親子の衝突や科学への興味云々のエピソードだけではなく、賢治の生家やレコード収集についても触れています。 この辺りは賢治に詳しい方はニヤニヤものかもしれません。 事件の背景には、当時の花巻の深刻な貧困問題がえがかれ、それに対する賢治の苦悩も上手く浮かばせ取り上げています。 探偵役には時に天才だが、極端に強引で配慮に欠け、人の心に土足で踏み込むようなキャラクターもいます。 ケンジは確かに天才で強引なところもありますが、話の落としどころというか、諸所に信仰深い賢治らしさや優しさが感じられます。 カトジとの関係も互いに信頼し合っていて、片方をあまりないがしろにしないので、読んでいて苛々はしません。 しかし、本作はすごく好みが分かれる作品だと思います。 まず、賢治が好きか否かで大きく分かれると思います。 更に、賢治好きでも、好きだからこそ楽しめる人と、好きだからこそ苦手な人がいると思います。 あと、賢治が探偵役なので仕方ないのですが、岩手訛りが結構読みにくいです。 賢治の作品には彼の死生観に満ちているものや、登場キャラクターがあっさり死んでしまうものもあります。 しかし、個人的に賢治は素朴なイメージがあります。 そのため所謂「人の死なないミステリ」と想定していたのですが、本作は予想に反し、大掛かりなトリックを用いた人死にもあるミステリです。 賢治を探偵役にした意欲作だとは思うのですが、私はどうにもそこに違和感が有ります。 また、賢治を取り扱った作品としては印象深いのですが、ミステリとしてはあまり印象に残らないかなとも思います。 好みがある作品だとは思いますが、続編も出ていますし、賢治もミステリも好きな方は一読してみるといいと思います。 |
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御手洗潔シリーズ第三弾。
そしてシリーズ初の短編集です。 「数字錠」「疾走する死者」「紫電改研究保存会」「ギリシャの犬」の四作品になります。 短編集なので、長編に比べると物足りないかもしれません。 しかし、他作家さんの短編集と比べれば、十分濃い内容だと思います。 密室ものや誘拐もの、そして御手洗潔シリーズらしい奇想天外トリックと、バラエティに富んでいます。 他の方の感想を読むと、「数字錠」と「疾走する死者」が人気のようですが、他二作も面白いです。 個人的には「紫電改研究保存会」が短いながらスッキリ推理され、読後感が良く好きです。 ミステリ短編集として十分良作なのですが、本作はそれより、御手洗潔の人となりがメインと感じます。 御手洗潔はどのような人種にどのように接するのか。 他者から見て御手洗潔とはいかなる人物か。 そして、著者は御手洗潔をどのように生み出し、想いを託しているか。 最後に「新・御手洗潔の志」が記されています。 著者の日本人論、特に日本人男性論が語られており、それに対する御手洗潔を通した反骨精神が語られています。 日本人論自体も面白いし、そのような考えの末に生み出されたキャラクターなのかと感心します。 その日本人論も昭和を生きた人と、現代を生きる人とでは違った見方をしそうです。 現在は上司のあり方や部下のあり方等々、様々な関係性がネット普及等に伴い変化しているので。 ミステリ短編集として十分に質が高く、面白い作品です。 しかし、本作は御手洗潔という人物の補完がメインだと思います。 そのため、あくまで御手洗潔シリーズファン向けの作品だと思います。 |
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ゴッチ、ウガッコ、ユーレイ、Cちゃん、ココア、魔女、そしてぼく。
ぼくらは不思議な男OGの館に足しげく通ったメンバーだった。 街には殺人鬼出没の噂があり、得体の知れないOGを訪ねることに、大人はいい顔をしなかった。 しかし、ぼくらは普通やって悪いことを面白ければ平然とやってしまうOGに憧れのようなものを持っていた。 そんな夏のある日、ぼくらはOGの別荘に出かけた。 大人に黙って宝物を隠すという冒険に出たのだ。 しかし、そんなドキドキ感は地下室で「あれ」を発見したことで消失した。 その一件以来疎遠になって二十五年。 突如OGから招待状を受け取ったぼくらは集まった。 惨劇が待ち受けているとは知らないで―・・・ 勇嶺薫氏初の大人向けミステリ。 普段ははやみねかおる名義で児童向けミステリを書かれているようです。 所謂クローズド・サークルものになります。 普段児童向けで書かれている方だからなのか、非常に読みやすい作品です。 とはいえ、大人向けミステリということで、なかなか歪んだ闇や毒があります。 オープニング 第一幕 昔―二十五年前 幕間 それぞれの歴史 第二幕 現在 終幕 エンディング このような目次になっています。 第一幕で登場人物の子ども時代が記され、幕間で再会までの各自の変遷が記されます。 第二幕で所謂クローズド・サークルとなり、終幕で種明かしという流れです。 第一幕と幕間を読むと、皆子ども時代の純粋さを失い、社会の荒波に揉まれてどこか歪み荒んでいます。 その様が妙にリアルで時の残酷さを感じます。 ただ、せっかく幕間で人物像を多少掘り下げたのに、第二幕で特段それを活かしているわけでもない気がします。 一人ひとりの死があまりページをさかれることなく、あっさりしています。 せっかくのクローズド・サークルなのに疑心暗鬼に陥ったり、殺伐としたりはあまりしません。 クローズド・サークルを期待して読むと、少しガッカリするかもしれません。 決してページ数が少ないわけではないのですが、サラッとしている印象です。 エンディングのオチは好みと解釈が割れると思います。 個人的にはどこかおどろおどろしいオチで好きです。 良くも悪くも読みやすく、サラッと読める分、あまり印象に残らない作品かなと思います。 けれど、単純にクローズド・サークルの犯人探しではなく、そこは一工夫されています。 個人的には時の流れの残酷さの方が印象に残る作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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夏合宿のために矢吹山へキャンプに訪れた英都大学推理小説研究会の四人組。
そこで雄林大学の二組と神南学院短期大学の一組とに知り合った。 四組は出会って間もないながらも、若者らしく楽しく青春していた。 しかし、そんな四組を予想だにしない事態が襲った。 休火山だった矢吹山が突如噴火し、キャンプ場は開けた場から閉ざされた場へ様変わりした。 下山は難しく救助を待つしかない中、さらに殺人事件が勃発。 死体の傍には「Y」のダイイング・メッセージ。 いつ噴火するかわからない極限下でマーダー・ゲームが始まった―・・・ 有栖川有栖先生のデビュー作であり、有栖シリーズ一作目です。 いわゆるクローズド・サークルもの。 クローズド・サークルというと雪や嵐といった自然現象、または恣意的に閉ざされた建物内といった舞台が多い印象です。 しかし、本作は噴火によって閉ざされたキャンプ場あり、この設定は作中上手く使われています。 正直、後半は推理より無事下山できるかが緊迫し、面白かったです。 また、探偵役は良心的で、推理自体も論理的です。 探偵役は推理にうずうずして、どこか非常識な面が見られることがあります。 その特徴的なキャラクターは面白いこともありますが、不愉快なこともあります。 今作の探偵役は積極的には推理せず、冷静で他人へ気配りできるキャラクターです。 そのため、読んでいて苛々することはあまりないと思います。 しかし、不満点もあります。 まず、ダイイング・メッセージが単純に「Y」は示さないことはミステリ好きな方々は容易に予想できると思います。 しかし、今作のダイイング・メッセージは作中のダイイング・メッセージに対する意見が的を射ていると思います。 まさに「恣意的に自分が一番気に入った面白い解釈を人に押し付ける」。 また、登場人物が多いです。 クローズド・サークルものならばある程度仕方ないとは思うのですが、登場人物の役割等にかなり濃淡があると思います。 個人的には例えば女性が六人いますが、設定を混ぜて四人くらいにしてもよかったのではないかと思います。 そして、犯人の動機が非常に弱いです。 もちろん、ミステリにおいて動機や人間性を重視するかは人それぞれだと思います。 私はそれほど重視しませんが、それでも動機が弱いと思います。 正直、すごく光るものがある作品ではないと思いましたが、今作がデビュー作となると光っているのかと思います。 まず、「学生アリスシリーズ」から読んでいきたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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北鎌倉の片隅で、栞子と五浦が営む「ビブリア古書堂」。
とうとう五浦は栞子に自身の想いを告げたが、栞子の答えは「今はただ待ってほしい」。 ついギクシャクする二人を取り持つのはやはり古書。 古書を通じて、残す者・残される者の想いや繋がりを知る。 そして栞子は、五浦の想いに答えるため、母・智恵子と対峙することに。 なぜ栞子は智恵子と会わなければならないのか。 栞子の出す答えとは―・・・ 今作は連作短編集になります。 これまでしのぶさん、井上さんの過去が明らかになってきました。 今作は志田さんの過去が少し明るみになります。 さらに、これまで名前のみ登場していたリュウちゃんが登場します。 第一話は面白いです。 古書の折り目や印付けから、持ち主の個性を読み取り、そこから謎を紐解きます。 何だか原点回帰っぽいというか、あまりエスパーな推理じゃない気がしてよかったです。 一方で第二・三話はあまり印象に残らなかったです。 話の好みや登場人物の好みの問題かもしれませんが。 でも今作で一番気になっていたのは、古書の謎でも智恵子の謎でもなく、栞子さんの答えです。 個人的に前作ほどは面白く感じませんでしたが、それを知るだけでも読んでよかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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東京ドームでの巨人阪神戦。
5万6千人の観衆がひしめく中、一人の観客が殺された。 大勢の人がいながら、誰も試合終了まで殺人に気付かなかった。 その後もドーム側は試合を中止せず、観客も減らず、被害者は増えていった。 いったい犯人はどうやって警察と観衆の目をかいくぐり、殺害したのか―・・・ 先のあらすじでは犯人はどうやって云々述べましたが、犯人視点が割合多いです。 そのため、殺害方法や動機は序盤でわかります。 サイコサスペンスというか、とにかくミステリー色は薄い気がします。 観衆下での殺害にあたり、どんな緻密な計画・計算がなされるのか期待しましたが、そのあたりもあまり。 犯人以外の思惑が絡みだし、これから面白くなるかもというところで割合あっさり終わってしまいます。 岡嶋二人氏にしては、正直可もなく不可もなく、サラッと読む作品かなと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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江戸深川の鉄瓶長屋。
「ぼんくら」な小役人・井筒平四郎は今日もお徳の煮売屋で舌鼓。 鉄瓶長屋は何の変哲のない、平和な長屋である。 しかし、ある夜八百富の太助が何者かに殺害されてしまう。 目撃者である妹・お露は「殺し屋が来て兄を殺した」と言う。 これを機に鉄瓶長屋では事件が相次ぎ、次々と店子が離れてしまう。 どうやら事件には裏があうようで―・・・ 一見連作短編集のようで、実は一つの長編になります。 短編部分は物語の伏線・序章であり、真相へ向けて集結いていきます。 また、短編部分は江戸人情物のようですが、全編読むと時代ミステリーとなります。 江戸時代の暮らし・長屋・役人のシステム等々についても長ったらしくない程度に説明されており、勉強になります。 主要人物はどこか個性的で面白く、魅力的です。 子どもたちはとても可愛らしいです。 個人的には佐吉が好きです。 個性的な面々の中、普通に一生懸命なイイ奴だと思いましたが、烏を飼っているあたり、彼も個性的かもしれません(笑) しかし、結末は好みではありません。 いまいち救われず、すっきりもしない結末を平四郎のように呑み込めません。 結末は好みがあると思います。 そもそも宮部みゆき氏の「三島屋シリーズ」を読み、スピンオフ作品「お文の影」に「ぼんくらシリーズ」の人物も関わると知り、本作を読了。 ミステリー色は「ぼんくらシリーズ」の方が強いと思いますが、個人的には「三島屋シリーズ」の方が好きです。 しかし、主要人物のその後は気になるので、続編も読もうかと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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プロデビューを目指す若き音楽家の千秋と要之助。
ある日、二人は富豪の後妻となった友人・須磨子に呼び出された。 何と先妻の息子・国彦と弟・和巳が誘拐されたという。 犯人は身代金2000万円を須磨子自身が持ってくるよう指示した。 もし警察などに知らせれば命はないという。 須磨子は千秋が警察署長の娘であったため、相談を持ち掛けたのだった。 しかし、須磨子は相談したことで決心がついたのか、犯人の指示通り単身出発してしまう。 二人は須磨子を追いかけ、タイミングをみて警察へも連絡した。 犯人が指示した受け渡し場所は湘南の小島。 島への通路も海上も警察が張り込み、一見犯人に逃げ場はなかった。 しかし、事件は思わぬ展開を迎えた―・・・ 受け渡し場所が逃げ場のない小島ということで、誘拐ミステリでありながら、密室ミステリの要素もかねています。 ただの誘拐ミステリで終わらないあたり、さすが岡嶋二人氏。 誘拐ミステリを期待したのに、密室ミステリで当て外れ。 どちらでとるかは人それぞれだと思います。 犯人の予想は容易です。 しかし、密室のトリックが難しいです。 密室自体も屋内・屋外と二重になっており、工夫されています。 登場人物にはあまり共感できません。 人間性に問題がある人物の登場は、「人間性に問題があるから」で片付いてしまうことがあるため、少し興ざめしてしまいます。 また、千秋がたまに見せる、自分に気があるのを利用する様子などは、性格が悪いと感じます。 しかし、にわか探偵の二人がでしゃばりすぎず、適宜警察に連絡する点は良いと思います。 面白くないわけではありませんが、岡嶋二人氏の誘拐ミステリならば、『あした天気にしておくれ』や『99%の誘拐』の方が面白いです。 しかし、クオリティが低いわけではないので、他作家さんの誘拐ミステリに比べれば面白いのかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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本間菊代は回廊亭へ訪れた。
亡き夫の親友、一ケ原高顕が死去したためだった。 高顕は一代で莫大な財を成したが、妻子がいなかった。 そのため、遺産は一族に相続されることとなり、回廊亭にて遺言書を公開することとなった。 その場に菊代は関係者として招待された。 しかし、菊代の目的は別にあった。 半年前、回廊亭にて高顕の女性秘書が恋人に無理心中を図られ、火事が起きた。 秘書は一命を取りとめたが、その後自殺した。 警察はあっさり捜査を打ち切ったが、不可解な点がある事件だった。 菊代は心中事件の真相を探りに来た。 また、菊代にはもう一つ重大な秘密があった。 莫大な遺産相続にあたり、一族誰もが白にも黒にも思えた。 その夜、新たな殺人事件が起きた。 はたして菊代は自身の秘密を隠したまま、真相に辿りつけるのか―・・・ 主人公の設定は面白いです。 秘密がばれる危険を抱えつつ、真相究明のため一族と接する展開は緊張感があります。 犯人が二転三転する展開や、少しずつ心中事件と遺産相続の問題が明かされる展開も面白いです。 しかし、わざわざ回廊亭という舞台を用意した割に、回廊亭自体には面白味はありません。 また、終わり方は微妙です。 途中緊張感があって面白いだけに、最後の急な駆け足展開は残念で、興奮も冷めてしまいます。 そのため、作品の印象が面白いミステリから、通俗的なドラマのようになってしまいます。 東野圭吾氏の作品は読みやすく、そこそこ面白いです。 しかし、私には微妙に合わないのか、すごく印象に残るものでもないかなと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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あと6時間。
25歳の誕生日を目前に控えた原田美緒。 上京して数年間、自分は何と無為に過ごしたことか。 孤独感、無力感にさいなまれる中、江戸川圭史と名乗る青年に声をかけられる。 6時間後に君は死ぬ。 圭史は他人の非日常的な未来が見えるという。 美緒は半信半疑だったが、段々信じざるを得ない状況になる。 生き残るには犯人を捜し出すしかない。 誰に殺されるのか。 なぜ殺されるのか。 圭史は信じていいのか。 はたして美緒は無事誕生日を迎えることができるのか―・・・ 全5話+エピソードの連作短編集。 全話1人共通人物が登場しますが、明確に繋がっているのは1話と5話のみ。 中3話では脇役に徹しています。 ミステリというより、未来予知というファンタジー要素を加えた人生ドラマといった感じです。 衝撃的なタイトルですが凄惨な事件はなく、ほろ苦くも心暖まるストーリー達です。 しかし、ミステリとしてはイマイチ。 どの話も割と展開が先読みできるし、そんなに綿密な伏線もありません。 1話と5話はドラマ化しただけあって、小説よりドラマ向きな作品だと思います。 1話と5話は比較的ミステリ要素がありますが、中3話はミステリよりメッセージ重視な作品だと思います。 今何か壁にぶつかり、ため息ばかりという人に響く作品かもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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学生時代、1つの謎と共に失恋した〈僕〉。
社会人となり、その謎は解けたが、その真相は〈僕〉に苦い思いを抱かせる。 孤独ややるせなさを感じながらパーティーに参加すると、そこには真っ赤なワンピースの天使が。 〈彼女〉と連れだって入った店は〈エッグスタンド〉。 女性バーテンダーが切り盛りする、カクテルリストの充実した小粋な店である。 若いカップルは〈エッグスタンド〉を舞台に、些細な日常の謎と共に距離を縮めていくー・・・ 全5話からなる連作短編集。 〈エッグスタンド〉を舞台に、春から冬にかけ、若いカップルが距離を縮めていく様子が日常の謎と共に描かれています。 ミステリというより恋愛小説の印象が強いです。 女性作家らしく、女性の描写か上手です。 特に感情的で弱いようで、したたかなところがある、魅力的な女性。 文体も柔らかく、情景描写や比喩表現は美しいです。 例えば、〈エッグスタンド〉に飾られる季節の花々、カクテルの名前や色、そしてモザイクな街とビビッドで真っ赤なワンピースなど。 読後は爽やかで、恋愛っていいなと思えます。 恋愛は面倒で見苦しいこともありますが、そこがいいと思える作品です。 ただ、個人的にはミステリとしても恋愛小説としても、駒子シリーズの方が好みです。 今作のヒロインと駒子は大分タイプが異なります。 私はどちらかというと駒子寄りの性格なのか、駒子の方が共感できます。 私は駒子の初々しさが好きなのですが、今作は大人の恋愛なため、どこかスマートです。 そのためか、よくも悪くもさらっと軽めに読めます。 それにしても、結局人というか、女性の心が一番の謎かもしれません。 そして恋愛は先に惚れた側が負けとはよくいったものだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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バーテンダーの松永にはここ最近楽しみにしていることがある。
常連客3人による歴史検証バトルだ。 珍説を提唱する宮田。 批判する美貌の才媛静香。 静かに聞き入る三谷教授。 松永はヒートアップするバトルをフォローしたり、逆に煽ったり。 適度に酒肴を提供して、このバトルを楽しんでいる。 今宵はどんな珍説が飛び出すのかー・・・ 6つの短編ですが、全て同じ設定条件下で、流れがあります。 1 悟りを開いたのはいつですか? 2 邪馬台国はどこですか? 3 聖徳太子はだれですか? 4 謀反の動機はなんですか? 5 維新が起きたのはなぜですか? 6 奇蹟はどのようになされたのですか? 各話一見与太話のようでありながら、しっかり検証されていて、説得力があります。 それほど敷居は高くなく、歴史知識がなくとも楽しめると思います。 作中の「その説がどんなに荒唐無稽に見えようとも、それが事態を最も矛盾なく説明できるのであれば、それが真実」という台詞が、本作をよく表していると思います。 しかし、歴史ミステリなのかはわかりません。 謎があり、それを解き明かすことがミステリならば、ミステリかもしれません。 ですが、本作は仕掛けも証拠もあるとは言えません。 ごくストレートに珍説を提唱し、経典や書状から引用・検証しています。 また、各話斬新な珍説ぶりが面白いですが、続けて読むとパターン化して少し飽きます。 登場人物も珍説提唱用キャラ、噛ませ犬用キャラと、話のための役割分担みたいな感じがあり、あまり感情移入したり親しみを感じたりはしません。 ただ、元々本作2話は創元推理短編賞応募作品であること、さらに5話追加した本作がデビュー作であることを踏まえると、十分面白く、作者の才能も感じます。 何と言っても応募作品だけあって2話は面白く、かつ、検証も力が入っている気がしますが、他の5話もしっかり調べられていると思います。 各話のタイトルに興味を抱いた方はオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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季節は春。
<私>は最終学年を迎え、卒論に取り組みはじめる。 卒論は芥川龍之介。 そんなある日、近世文学の加茂先生にアルバイトを打診される。 先生には二年生のときのある出来事がご縁で、以来名前を覚えてもらっている。 卒論執筆のためワープロが欲しい<私>は、人生初のアルバイトをすることに。 アルバイト先はみさき書房。 水を飲むように本を読む<私>には嬉しいアルバイト先である。 指導係の天城さんに、図らずしも文壇の長老である田崎信先生と引き合わせてもらう。 田崎先生は芥川と出会っているため、芥川の人となりを聞けるかもと、機会を設けてくれたのである。 さっそく芥川について尋ねると、『六の宮の姫君』について芥川が呟いたという。 《あれは玉突きだね。・・・いや、というよりはキャッチボールだ》 ただ今昔物語の『六の宮の姫君』を元に、新たな芥川の『六の宮の姫君』が出来たというわけはないようである。 <私>は『六の宮の姫君』について調べていく。 調べるうちに、用語の出典元、芥川、そして菊池寛と『六の宮の姫君』執筆の謎は複雑に広がっていく。 はたして、芥川の言葉の意味はなんだろうか―・・・ <私>と円紫師匠シリーズ第四作目。 第三作『秋の花』同様長編です。 しかし、今作はこれまでのシリーズに比べ異色作だと思います。 前作までは基本的に日常の謎を取り扱う、いわゆる「死なないミステリ」です。 『秋の花』は死を取り扱っていますが、死そのものより真相を探る過程にある成長やメッセージに重きがおかれていると思います。 シリーズ通してそうした成長やメッセージが見られ、<私>は見守られています。 今作は解説の佐藤夕子氏の言葉を借りれば、「人となりをめぐるミステリ」です。 しかし、正直に申し上げるとミステリという印象はありません。 出来るだけ小説に寄せた論文という印象です。 佐藤氏は学問も謎を発見し、答えを見つけるある種のミステリと続けていますが、娯楽と学問とでは違うのではないでしょうか(私のような不勉強で読書家でもない者が言うのはおこがましいのですが)。 私はやはりミステリ小説ではなく、小説風の『六の宮の姫君』から読みとく芥川及び菊池の人物像と執筆の背景という論文を読んだというのが、正直な感想です。 一読では理解が難しいです。 論文のようで、小説でもあります。 論文ならば引用文の出典は脚注をつけたり、一覧の添付資料をつけたりします。 しかし、著者の意向で出典も文中に挿入されています。 それが私には読みにくく、会話文としても少々不自然と感じます。 また、<私>が調べるうちに、繋がりが見え、調べる対象が増えていきます。 論文ならばシンプルに章立てし副題をつけるところですが、あくまで小説なので書き方が異なります。 <私>の心情や『六の宮の姫君』と直接関係ない場面もあるため、整理しにくいです。 否定的なことを書きましたが、面白くないわけではないです。 芥川・菊池についてはもとより、論文執筆の姿勢や取り組み方という意味でも、勉強になります。 あくまで、私はミステリ小説を読んだというより、小説風論文を読んだという印象なだけです。 そういう意味で異色作であり、好みがあると思います。 読書家で芥川・菊池が好きな方はとても楽しめると思います。 しかし、芥川らに興味がない方や、一般的なイメージのミステリを求める方は合わないかもしれません。 本シリーズのファンは読むべきですが、人を選ぶ一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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興信所への依頼というのは後ろめたいものらしい。
ある日、平林貴子と名乗る女性が興信所へ訪れた。 彼女はおよそ事件とは思われない奇妙な依頼をしていく。 平林貴子は恐らく偽名。 彼女自身の最低限の情報も、彼女と依頼内容との関係も一切秘匿。 彼女は次々と興信所を訪れては、同条件で異なる奇妙な依頼をしていく。 いったい何が目的なのか。 一見事件とは思われない奇妙な依頼だが、各々の調査報告は思わぬ大事件と繋がっていく。 彼女はいったい何者なのか。 大事件の真相は。 犯人は誰なのか―・・・ 第1章 WHO? 第2章 WHERE? 第3章 WHY? 第4章 HOW? 第5章 WHEN? 終章 WHAT? タイトルに「5W1H殺人事件」とあるように、全6章で構成されています。 第1章から第5章はそれぞれ異なる興信所なので、依頼内容は勿論のこと、各章の探偵(主人公)も異なります。 各章の依頼内容は、その章のタイトルとリンクしています。 例えば第1章 WHO?の依頼内容は端的に言えば持ち主探しです。 章のタイトルの疑問詞が調査経過で判明し、各章の調査報告を繋げるていくと、終章で真相へと至るメドレー・ミステリーです。 コンセプトは非常に面白いです。 依頼内容は本当に奇妙で、一見殺人事件とは無関係です。 依頼内容自体が面白いですし、各章のタイトルと依頼内容のリンクは上手いと思います。 読み進むにつれ、段々と真相が明らかになるだけではなく、事件も大事になっていくためワクワクします。 各章の主人公が異なる点も良かったです。 今回の主人公はどんな人物かなと楽しみながら読みました。 その時合わない主人公も次章では違う人物になりますし、誰かしらには感情移入できるかと思います。 各主人公の捜査方法も、なるほどそうやって調べるのかと感心しました。 コンピュータ関連の箇所はさすが岡嶋二人氏です。 しかし、肝心の真相解明は非常にあっさりしています。 犯人も意外といえば意外な人物なのですが「えぇ!この人が!?」というより「あぁそうでなの」という感じです。 そこに至るまでがとても緻密で、外堀を埋めていく感じだっただけに残念です。 少しアンフェアな気もしますが、しっかりとしたミステリーで面白くないわけではないです。 岡嶋二人氏だから期待値が高かったためこの点数になりましたが、他の作家さんならばもう少し高得点にしたかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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頭狂人、ザンギャ君、aXe、伴道全教授、044APD。
例の五人がかえってきた。 自身が考えた密室トリックを自慢したい! 被害者に恨みがあるわけでも、人を殺したいわけでもない。 トリックを自慢したい、ただそれだけ。 そのために、彼らは実際に密室殺人を実行し、さぁ解いてみろと出題する。 密室殺人ゲームシリーズ第三弾。 今回はどんな密室トリックが出題されるのか。 五人の所謂「中の人」はどんな人間なのか―・・・ 本作は外伝的作品ということもあり、前二作を読了済みであることが前提です。 しかし、外伝的作品とはいっても、短編集ではなく一つの長編です(終始一人の出題というわけではありませんが)。 過去作の登場人物を掘り下げるわけでもありません。 そのため、前二作に比べページ数は少ないですが、今までのシリーズと形式は同じです。 本シリーズは五人による推理ゲームですが、トリックの質は前二作に比べ少々劣ると思います。 劣るというか、「そんなのありか」という印象を抱くかと思います。 トリックの解答も前二作に比べスッキリ提示されたとは言い難いです。 しかし、本作は作者の実験的要素を含んでいる気もするので、その辺りはあくまで外伝的作品だからと割り切りました。 密室殺人ゲームがネット社会でどのような事態になっているのか。 本作の場合はどのようにネット社会と結びつき、影響しているのか。 その辺りを楽しんでいるシリーズのファンの方や、五人の「中の人」を知りたい方にはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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「見知らぬあなた」「ささやく鏡」「茉莉花」「時を重ねて」「ハーフ・アンド・ハーフ」「双頭の影」「家に着くまで」「夢の中へ……」「穴二つ」「遠い窓」「生まれ変わり」「よもつひらさか」の全十二話の短編集です。
ミステリというよりもホラーファンタジーのテイストが強いです。 ブラックな結末でゾクっとするタイプの短編で、世にも奇妙な物語のような雰囲気です。 実際、「家に着くまで」「穴二つ」の二作は世にも奇妙な物語で映像化されています。 短編ながら全十二話もあるので、ボリューム感があります。 話数があるので好みの話が一つは必ずあるのではないかと思います。 しかし、ミステリやホラーをある程度読み慣れた人はオチが読めてしまうと思います。 数話読むことで傾向を掴み、オチが先読みできるようになる人もいそうな気がします。 また、確かにゾクっとするタイプではあるのですが、少し軽めな気がします。 ゾクっとする怖さの方を求めている方は、オチが読めてしまうと当然ながら怖さが軽減されてしまうので、面白味が半減してしまうでしょう。 私は帯の謳い文句のおかげで期待が高かったので、少し残念でした。 世にも奇妙な物語のような雰囲気満載で、ブラックなオチだとは思います。 どんでん返しはあります。 しかしある程度先が読めてしまうため、更なるどんでん返しを期待してしまいます。 スッキリしたオチで綺麗にまとまっているのですが、つい物足りなく感じてしまいます。 ただ、先読みできるといってもオチの質やレベルはある程度保障されており、ある種安心感があります。 先述の通りボリュームはありますし、文章も読みやすく、質は高めの話ばかりです。 そのため、少し怖いブラックな話をサクッと読みたい人にオススメです。 個人的に世にも奇妙な物語のような雰囲気の短編集ならば、道尾秀介氏の「鬼の足音」の方がゾクっとしました。 ブラックなオチの短編集で、結末に読者の想像の余地があるもの。 悪く言えばあまりスッキリしないオチの方が好みならば道尾氏。 オチを先読みできなくもないが、割合軽めでオチがスッキリしている方が好みならば今邑氏かなと思いました。 十二話の中では表題となっているだけあって、「よもつひらさか」が一番面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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演出家・東郷陣平の舞台オーディションに選ばれた面々は、東郷の指示により、とあるペンションを訪れた。
メンバーは元々東郷の劇団所属の男女各3人と、部外者の男性1人の計7人。 そこへ東郷から新たな指示が。 舞台はある閉ざされた雪の山荘。 関係は現実通り芝居に出る若者。 外部と接触した場合は合格取り消し。 それらを踏まえて今後起きることに対処せよ。 これは作品の一部となる。 7人は東郷ならあり得ると気楽に構えるが、翌日1人消失し、設定として死体についての指示が。 はたして何処へ消えたのか。 どのタイミングで殺され役になるのか。 さらに翌日に2人目の消失と死体についての指示が。 残る役者の面々は、役者として、早々に殺され役になり舞台から降りるのは避けたいため、探偵役を目指す。 しかし、凶器についての指示とは別に、実際に使われたと思われる凶器が見つかる。 さらに、急に襲われたが故に放置されたと思われる小物も。 これは舞台のための東郷の仕掛けなのか。 それとも現実に殺人事件が起きてるのか。 残る役者は現実の殺人事件かもしれないと恐れつつも、東郷の仕掛けの可能性があるため、外部に連絡出来ない。 今の状況ははたしてどちらなのかー… といった展開になります。 東野圭吾ファンには申し訳ないのですが、あまり印象に残らない作品でした。 暇潰しにさらっと読むにはいいと思います。 設定は非常に面白いです。 本当に閉ざされた雪の山荘なのではなく、閉ざされた雪の山荘という設定の山荘という二重構造です。 連絡手段はあるのに、現実の殺人事件か東郷の仕掛けかわからない故に、連絡が取れないというのも面白いです。 この辺りの設定はただのクローズド・サークルから進化していて、非常に上手いと思いました。 文章も読みやすく、叙述トリックも自然です。 しかし、それにも関わらず、いまいち印象には残らない作品でした。 登場人物についてあまり掘り下げた説明がなく、共感や魅力を感じないからかもしれません。 叙述トリックには驚きましたが、かといって犯人が予想外なわけてはなく、ラストも好みではありませんでした。 少し東野圭吾という名前に期待しすぎたせいもあるかもしれません。 300頁足らずなので、さらっと読むにはいいと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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