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あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへレビュー数26件
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昭和四十年代初め、一ノ瀬真理子は十七歳、花の女子校二年生だった。
ある雨の夕方、真理子は家の八畳間で一人レコードをかけ目を閉じた。 目覚めた世界は二十五年後。 一ノ瀬真理子は桜木真理子となり、自分と同じ歳、十七歳の娘がいた。 受験、都会での生活、異性との付き合い、そうしたこれから送るはずだった青春の日々。 恋愛、結婚、出産、育児というこれから送るはずだった幸せな日々。 そうした日々は非情にも、持ち得た記憶も経験もないまま、過ぎ去ったという。 一体どうなってしまったのか。 世界に独りぼっちだ。 しかし、悩み立ち止まっている暇はない。 桜木真理子は高校三年生を受け持つ国語教師だったのだ。 真理子は自尊心を持って「今」を生きる―・・・ とても綺麗な物語です。 真理子の紡ぐ言葉や情景はとても清々しく綺麗です。 時間ミステリといっても、ミステリ要素は薄いです。 確かにミステリな設定ですが、メインは非情な時の悪戯に遭った真理子の生き方だと思います。 前半は昭和四十年代から平成へと跳んだ真理子の戸惑いと今後の指針です。 急な時代の進化はもちろん、十七歳の心に四十二歳の身体という切なさや桜木家での過ごし方など。 後半は桜木真理子が高校教師であることから、舞台が家庭から高校へ移ります。 真理子が送れず、今となっては混ざることもできない、青春あふれる高校生活です。 しかし、真理子はそれを悲しむばかりではありません。 ラストは完全にハッピーエンドとは言えませんが、それでも真理子は強く美しく、そして前向きです。 このラストに至るまでの、要所要所の真理子の心情や生徒たちへ向ける言葉はとても美しいです。 もちろん、この世界観が合わない人はいると思います。 真理子は混乱し醜態をさらすことはあまりありません。 そういった真理子の強さは彼女の綺麗さに繋がりますが、そこがリアリティにかけると思う人もいると思います。 しかし、私は真理子の感性や言葉の美しさが好ましく思います。 個人的にはとても綺麗で素敵な物語だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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英都大学推理研究会にアリスが入部して一年。
推理研に初の女子部員、有馬マリアが入部した。 マリアの亡き祖父は大そうなパズル好きで、孤島・嘉敷島に宝を隠したらしく、推理研は大いに盛り上がった。 その夏、江神さんとアリスはマリアの誘いを受け、宝探しに島へ向かった。 島には十三名の男女が集まり、各々世俗と離れ、思い思いに過ごしていた。 その夜、折悪しく台風が接近し、暴風雨の音に紛れて殺人が行われた。 無線機は壊され、船も三日は来ない絶海の孤島で、更に事件は続く。 果たして犯人は誰なのか―・・・ 学生アリスシリーズ第二弾です。 フーダニット、ハウダニット、更に宝探し(暗号)と、ミステリ要素盛り沢山です。 正直、多くの人がトリックはわからなくても犯人は予想できると思います。 しかし、前作に比べ犯人の動機は重く、ストーリーもより洗練されている印象です。 途中の謎や伏線等々は上手く回収され、かつトリックやストーリーに組み込まれています。 いかにも本格らしく、また割とフェアだと思います。 江神さんが論理的に謎を解き明かし、アリスを通して読者に割合わかりやすく説明してくれます。 その過程で江神さんの人となりもうかがえます。 江神さんは探偵役ながらも、むやみに人の罪を暴こうとはしません。 しかし、真相を理解した上で放置はできないという苦悩がしのばれます。 江神さんについては解説で光原百合氏がファンレターを綴っています。 かなり熱烈なので、それはそれで一読すると面白いと思います。 アリスとマリア、二人の距離感は若者らしく青臭くて良いです。 凄惨な事件の中に青春の爽やかさを少し漂わせます。 前作に比べ非常に洗練され、面白いです。 捉えどころのない江神さんの謎、アリスとマリアの今後を含め、次作が楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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全六編の歴史物短編集です。
「坊主の壺」「お文の影」「博打眼」「討債鬼」「ばんば憑き」「野槌の墓」の六編です。 書籍版の題は「ばんば憑き」ですが、文庫版の題は「お文の影」になります。 江戸人情話であり、妖による不思議談でもあります。 ミステリ色は薄いですが、全話上質で面白いです。 歴史物ですが読みやすく、単純な勧善懲悪にせず一捻りされています。 怪談ですが、恐い話や妖が退治される話ばかりではありません。 妖自体が勿論悪いものもありますが、性根の良いものや、生まれが哀しいものもいます。 妖よりも、その背景にある人間の業や欲、それに頼らざるを得ない無慈悲な実情の方が恐く辛いです。 そうした深みを、くどさを感じさせることなく読ませてくれます。 また、本作は「ぼんくら」シリーズと「三島屋」シリーズのスピンオフでもあります。 「お文の影」は「ぼんくら」シリーズの政五郎親分とおでこが活躍します。 「討債鬼」では「三島屋」シリーズの青木利一郎、悪童三人組、行然坊が活躍します。 私は「ぼんくら」「おそろし」「あんじゅう」しか読んでいません。 それらを読んだところ、本作はどちらかというと「三島屋」シリーズ寄りの雰囲気だと思います。 「ぼんくら」シリーズはあくまで人の業や欲に因るイメージで、「三島屋」シリーズの方が妖の存在感があるイメージなので。 スピンオフとしても、政五郎親分は主役として一つ事件を解決するのに対し、利一郎の方は主役なだけでなく、ある程度過去が判明するなど盛り沢山です。 とはいえ、二作を知らなければ本作を読めないわけではありません。 二作を未読でもまったく問題ないです。 個人的には「坊主の壺」が一番好きな作品ですが、他の方々の感想を見ると好きな作品はバラけているようです。 それだけ、どの話も上質なのだと思います。 宮部みゆき氏の歴史物が好きな方は勿論、歴史初心者の方も楽しめる一冊だと思います。 |
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都市近郊の大型商業施設で重大死傷事故が発生した。
施設内でパニックに陥った人々により押しつぶされ、死者69名、負傷者116名に達した。 事故は何故起きたのか。 異臭を放つ紙袋を投げ捨てた男。 異様な雰囲気の老夫婦 一人にも関わらず無傷で生還した少女。 奇妙な点は複数あるが、客が一斉にパニックに陥る直接的な原因は見当たらなかった。 Q&A方式で事件の真相を探るが―・・・ 全編Q&A方式で進行します。 質問者も回答者も複数います。 当初は「何故事件が起きたか」にスポットを当てています。 そこから段々と関係者・一般人の心理経過や濃淡、情報社会の歪みが浮かび上がります。 そのため、メインは事件原因やパニックより、事件に対する人々の捉え方やその温度差、現実感の薄さなどだと思います。 情報が大量消費されている中でのリアリティとは何かを考えさせられます。 事件の原因より、情報が消費され風化する速度に怖さを感じます。 Q&A方式は初でしたが、読みにくいことも、飽きることもありません。 回答者に一部共感する箇所もあります。 社会ミステリでもあり、パニック小説でもあるのでしょうが、ホラー小説のようなゾッとする怖さもります。 事件の真相については結局推測の域を出ません。 個人的にはある程度予測はつくし、良い意味でゾッとする怖さが残る後味の悪さかなと思います。 しかし、人によってはQ&A方式に慣れなかったり、結末にモヤモヤしたりすると思います。 恩田陸氏は初読みですが、とても面白く、他作品も読んでみたいと思います。 現実社会でこのような事故が発生し、数十年後テレビで集団パニックや施設の窓の数などを問題として再現ドラマをしそうです。 そう思う程度にはありえそうだし、その後の人々の動きもありえそうで怖く、面白いです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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江戸の袋物屋「三島屋」はひとつ妙な趣向を凝らしている。
主人の伊兵衛が百物語の語り手を求めているのだが、それがまた妙なのである。 語って語り捨て、聞いて聞き捨て。 夜半ではなく昼間、一度にひとりずつ。 しかも聞き手は主人の姪・おちかである。 おちかはある事件を境に心を閉ざし、三島屋に行儀見習として身を寄せている娘である。 おちかは様々な不思議談を聞くうち、世間知を得、自身の不幸を見つめ直す。 ある日の語り手は番頭と丁稚という奇妙な組み合わせ。 はたしていかなる不思議談か―・・・ 全4話の連作短編集。 単品でも読めますが、前作「おそろし」から読むことを奨めます。 前作はおちかの不思議談を通じて心を溶かす過程がメインかと思います。 今作のおちかは、前作の経験を経たためか、若干明るくなった気がします。 おちかが心を溶かし、多少打ち解けたためか、三島屋の面々の様子が前作より語られています。 三島屋の仲良い雰囲気や、叔父夫婦の人格者ぶり、奉公人の茶目っ気などが伺え、読んでいて楽しいです。 また、次作以降も関わりそうな新たな人物も出てきます。 彼らとおちかや三島屋の面々との会話は面白く微笑ましいです。 百物語そのものはもちろん、おちかの変化や周りの面々との関わりは面白いです。 次作はどうなるのか、楽しみにしています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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おちかは旧い旅籠の娘であった。
17歳で器量よしなのだが、ある事件を境に心を閉ざし、他人とのふれあいを避けるようになってしまった。 そのため、江戸で袋物屋『三島屋』を営む叔父夫婦のもとへ一度身を寄せることとした。 おちかは主人の姪という立場ながらも、忙しい方が気がまぎれると女中同様に働いた。 ある日、叔父・伊兵衛はおちかに頼んだ。 得意先で大事のこしらえができた。 そういう次第なので、これから来る客の対応を任せた。 おちかは気が重いながらも、客に対し約束を反故にする非礼を詫びた。 しかし、どういうわけかそれで終わらず、客の不思議な話を聞くことに。 それを機に、おちかは自身の事件を改めて考えた。 そんなおちかを見た伊兵衛は、ある“荒療治”を思いついた―・・・ 全5話の連作短編集です。 ミステリというより、江戸人情物です。 解説の「やさしい怪談」という言葉が非常にしっくりきます。 百物語ということで、奇怪な話ではあります。 しかし、そこで語られるものは妖や呪いの恐ろしさばかりではありません。 人間の弱さ故の咎が、時に恐ろしく、哀しく、そして切なく語られています。 人間誰しも大小後ろめたいことや不幸があります。 それにどう向き合い、時に割り切るか。 読者はおちかと共に話を聞き、考えます。 初歴史物でしたが、堅苦しさなどは感じず楽しめました。 ワクワクドキドキといったことはないのですが、何となく続きが気になり、いつの間にか読了していました。 まさに話に引き込まれる一冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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中学2年生の終業式。
担任の女性教師はホームルームで最後の挨拶をする。 なぜなら彼女は今日限りで教員を辞職するから。 「辞めるのはあれが原因か?」 彼女の4歳になる娘が学校のプールに転落し、事故死したのである。 しかし、彼女は娘が事故死したならば、それは自身の保護者監督不届であり、悲しみを紛らわすため、教員を続けるという。 ではなぜか。 「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」 彼女は淡々と衝撃的な真相を告白する―・・・ 全6章構成で、各章語り手が「担任」「級友」「犯人」「犯人の母親」と変わります。 語り手が変わることで、事件前から担任の告白後までの流れだけではなく、事件の全体像とそれぞれがその間何を考えていたかがわかります。 しかし、語り手が真実を語っているとは限りません。 意識的、無意識的に自分に都合よく解釈することがあります。 どちらにしろ、「イヤミス」らしく徐々に浮かび上がる真相は不快なものばかりです。 関わった者はみんな不幸の連鎖状態で、結末までまったく救いがありません。 中には因果応報と爽快な人もいるかもしれませんが、本作は傍観者が因果応報と笑っていいのか、そんな権利があるのか考えさせられます。 「問題作」と言われれば、確かに考えさせられる問題が多いです。 中でも「母親」について考えさせられます。 被害者の母親、犯人の母親、そして犯人にとっての母親が語られています。 本作と世間一般的意見としては、母親は子どもの人格形成に大きく影響します。 男性より感情的なことが多く、その愛情深さから執着心も強いことがあります。 期待と押しつけや洗脳誘導は紙一重です。 多くの母親は被害者と犯人どちらの母親の気持ちも、多かれ少なかれ当てはまるところがあるのではないのでしょうか。 社会問題として考えさせられるうえ、救いもないため、読後感は良いとは言えません。 語り手は何人かいますが、一部当てはまるところがあっても、あまり共感はできません。 当てはまると感じるところも、大抵目をそらしたいところです。 一方で当事者以外が安易に共感など言ってはいけないとも考えさせられます。 エピローグもないので読者は問題を残したままぶつ切られてしまいます。 しかし、懺悔してそれぞれ生きていくなんて軽く救われていいのか。 一方で、より救いなくどん底に落ちる様を見て因果応報と思っていいのか。 エピローグが欲しいという意見も見受けられますが、想像の余白がある方がいいと思います。 イヤミスらしく読後感は決して良くなく、すぐ再読したいとも思いません。 しかし、一読して良かったと思える問題作なので、オススメします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ある日、ミステリ作家の鹿谷門美は怪奇幻想系の新人作家・日向京助から呼び出された。
日向のもとに奇面舘主人・影山逸史から招待状が届いたのだ。 参加の謝礼金は200万円。 駆け出しの新人作家にとっては魅力的だが、日向は突発性難聴で体調不良だった。 そこで、日向は自身と似ている鹿谷に、“日向京助”として参加してほしいと打診した。 鹿谷は当初断るつもりだったが、何と奇面舘はかの“中村青司”の舘だった。 鹿谷は“日向京助”として集いに参加した。 当日は季節外れの大雪で舘は孤立した。 集いは主人も客人も鍵つきの仮面をつけるという奇妙なものだった。 鹿谷は舘や仮面に興味を惹かれながらも、“日向京助”として無事集いを終えた。 しかし、その夜人知れず血みどろの惨劇が起きた。 翌日発見された死体は頭部と両手の指が切断されていた。 主人・客人ともに仮面があるため、本人かわからない。 被害者・犯人は誰なのか。 今回の舘はどんな仕掛けがあるのか。 鹿谷は真相を探るー・・・ 綾辻氏自身があとがき等で語るように、原点回帰的作品です。 舞台は舘シリーズお馴染み“中村青司”の舘“奇面舘”。 同じく舘シリーズお馴染みいわく付きの代物や奇妙で儀式的な集い。 そしてミステリお馴染みの雪の山荘。 舘シリーズらしい妖しく魅力的な要素が盛り沢山です。 こてこてっぷりにワクワクします。 これらの要素は伏線であり、ミスリードでもあり、作中上手く活かされています。 綾辻氏らしくお得意の叙述トリックも舘の仕掛けもあります。 ただ、初期作に比べたら“驚き”は少ないかもしれません。 そのため、“驚き”重視の人には物足りないかもしれません。 しかし、その代わりといっては何ですが、伏線はしっかり提示されていて、割合フェアだと思います。 ミステリらしいミステリであり、舘シリーズらしい舘シリーズです。 そのため、個人的にはとてと面白かったです。 一応次回作が最後の舘シリーズとのことなので、名残惜しみつつ、楽しみにしています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ドイツ様式の旧めかしい館。
約80年前、田宮弥三郎がドイツから娶った美女エリザベートのために建てたものである。 その後、館は不可解で凄惨な事件に見舞われる。 エリザベートは2年足らずで夫子を捨て帰国。 70年前には管理人一家が無理心中。 そして昨年のクリスマスには管理人含め一族6人殺しが起きた。 それもグリム童話「おおかみと、7ひきの子やぎ」に見立てて。 1人目の被害者には2人目の被害者の指紋が。 2人目の被害者には3人目の被害者の指紋が。 まるで6人が順番に殺し合った様子。 では6人目が最終的な加害者かというと、6人目は自殺とは思えない死に様だった。 いったいおおかみは誰なのか? なぜ子やぎは殺されたのか? やはり館の呪いなのか? 残された一族は真相を探るべく館へ訪れたが―・・・ 旧い洋館。 不可解で凄惨な過去。 幻想的な肖像画。 お金持ちの一族。 異国から嫁いできた美女。 密室状況。 見立て殺人。 これらのキーワードからわかるように、ミステリの要素満載です。 こてこての館ミステリ好きにはたまらないと思います。 時系列は少し複雑で、物語は1999年の「序章という名の終章」から始まります。 主となる時代は1990年で1989年の一族6人殺しの真相を探ります。 その際、70年前の管理人一家無理心中事件、さらにエリザベート帰国の真相へとリンクしていきます。 登場人物も時系列も多いですが、著者の文才か、意外と混乱せず読みやすいです。 事件は二転三転し、どんでん返しがあります。 最も古い事件は次に古い事件へ、次に古い事件はその後の事件へと、事件はすべて関連しています。 また、密室のトリックは明確にされるし、見立てにも意味があります。 そのうえで推理に必要な伏線はしっかり提示されているので、フェアな作品だと思います。 しかし、こてこてで要素満載と記したように、少し盛り込みすぎ感があります。 館ミステリらしい館ミステリです。 こてこてながら質は高くて面白く、文章事態も読みやすかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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前作「ななつのこ」の待望の続編第二弾。
前作で主人公・入江駒子は作家・佐伯綾乃に人生初のファンレターを送る。 ついで、自身の身の回りで起きたミステリについても綴ったところ、まさかの返事と解答が。 そして紆余曲折を経て、駒子は瀬尾さんと出会い交流を持つ。 今作では、駒子は日常のミステリを自分なりに物語にして瀬尾さんに送ることに。 瀬尾さんから物語の感想とミステリに対する解答の手紙をもらい、また駒子の物語を送り―・・・そんな二人だけのやり取りのはずだった。 ところが第一作を瀬尾さんに送った後、名無しの第三者から手紙が来た。 彼(彼女)は駒子の物語だけではなく、駒子自身についてもよく知っている様子。 一体全体どういうことなのか―・・・ 前作「ななつのこ」は駒子と綾乃さんによる手紙のやりとりという形式でした。 駒子の日常ミステリと作中の「ななつのこ」のミステリ、綾乃さんからの返事兼解答。 そして前六話の伏線が最終話でまとまるといった展開でした。 今作「魔法飛行」は駒子と瀬尾さんの手紙のやりとりですが、前作との違いがあります。 駒子の日常ミステリを、彼女自身が彼女の言葉で物語として書いています。 その物語を瀬尾さんに送り、瀬尾さんが物語の感想とミステリの解答を駒子に送るという形式です。 しかし、名無しの第三者から駒子に手紙が届きます。 三通届くのですが、段々と送り主が追いつめられている様子が見て取れ、さすがの駒子も楽観視できなくなってしまいます。 全四話ですが、前三話の伏線や手紙の謎が、最終話でまとまるといった展開です。 前作が好きな方は、今作も好きだと思います。 前作同様の駒子ワールドです。 駒子独特の感性や比喩表現で物語は綴られています。 物語から、どこか不器用で図太くて、でも繊細で可愛らしさがうかがえます。 十九歳のこどもと大人の境目にいる女の子の、ふとした悩みや不安、傷ついたことは、年が違うにもかかわらず、自分にも思い当たることがあります。 駒子の悩みに思い当たる人、懐かしい人はいると思います。 なぜこんなに心に響くのか、愛おしい気持ちになるのか。 駒子というか、加納朋子氏の言葉はすんなりと心に入って共感してしまいます。 今作も前作同様、駒子の友達の魅力的な女の子たちが出てきます。 みんな欠点も、小生意気なところもありますが、一方で少女らしい繊細さもうかがえ、可愛らしいです。 前作同様、誰かが亡くなるといったことはありません。 人によっては歯牙にもかけない、駒子の日常で起きたささやかな事件が主体です。 しかし、いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにある。 本当に大切な謎はいくらでも日常にあふれていて、答えを待ってる。 あまりミステリらしくないようで、しっかりミステリの要素は備えています。 とても穏やかで、ロマンティックな気持ちになれるミステリです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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車に轢かれ引きずられ、瀕死のところをさらに殴打。
そんな惨殺死体が見つかった。 被害者の名前は森元隆一。 「私」は「あるじ」と共に現場へ向かうも調べるうちに不可思議な点が。 妻・森元法子の不審な行動。 八千万の保険金。 ネクタイピンの消失。 しかし法子にはアリバイがあり、「私」と「あるじ」は行き詰ってしまう。 一方、別の「彼ら」はそれぞれの「持ち主」とともに塚田和彦に関わっていく。 背後に別の女の影。 妻にかけられた高額の保険金。 しかし、彼も法子同様、状況的に「黒」でも物的証拠がなく「白」。 そんな二人が一本の線で繋がる。 彼らは保険金交換殺人を行ったのか。 それとも真犯人は別にいるのか。 マスコミは連日彼らを報道し、二人は時代の寵児へ。 刑事・探偵・目撃者など、十人の「財布」の視点から事件を読み解いていく―・・・。 財布視点という設定が非常に面白いです。 所謂「神の視点」とは異なり、あくまで財布なので見たり、財布に入れられたお札以外の物を確認したりすることは出来ません。 持ち歩かれた財布が、内ポケットやバッグの中から聞いた話という形になります。 財布を通して事件の真相を見ていくわけですが、それだけではなく、持ち主・財布の個性も綴られています。 財布の個性は工夫されており、形状・一人称・持ち主の呼び方などがそれぞれ異なります。 そのため、読み手だけではなく、財布自体も事件を気にしていたり、持ち主を心配していたりする様子が面白いです。 無機物だけれど上手く擬人化されており、財布の持ち主への愛情や思い入れには、感情移入できると思います。 いくつか不満点もあります。 犯人については、少々急展開すぎる気がします。 動機についてもあまり納得できません。 十人の財布が出てきますが、あまり必要なかったのではと思う財布もあります。 また、財布は「神の視点」でも「当事者」でもないので、スピード感はないかもしれません。 しかし、全編通して非常に面白かったです。 財布視点という設定だけでなく、財布・持ち主のキャラクターも活きていると思います。 事件そのものの真相も気になりますが、財布の持ち主は事件にどう関わるのか、持ち主はどんな人で事件のどこが明るみになるのか。 事件・財布・持ち主それぞれが気になって、一気に読み進めてしまいました。 とても面白い一冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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かつて虹の童子という誘拐犯がいた。
その1人、戸並健次は3度目の刑期を終え、社会復帰を目指していた。 しかし、彼は刑余者に対する世間の厳しさを十分に自覚していた。 社会復帰するには元手が必要である。 ではその元手をどうやって得るか。 彼は誘拐による身代金を元手に社会復帰しようと計画した。 雑居房で知り合った秋葉正義、三宅平太を仲間にし、標的は紀伊半島の大富豪柳川家、齢82の当主柳川とし子刀自とした。 入念な準備と失敗を重ね、念願叶って計画の第一段階、としの誘拐に成功する。 完璧な計画と思いきや、計画の第二段階であるアジトへの移送中、としに肝心のアジトについて計画の穴を指摘されてしまう。 ではどうするかと途方に暮れる中、何と誘拐されたとし自身がアイデアを出す。 としのアイデアに助けられ、誘拐犯と標的どちらが主従かわからなくなる中、ついに身代金の話へ。 健次たちの要求金額は5000万円。 しかし、その時それまで従順だったとしが初めて怒る。 何と柳川家当主の身代金が5000万円では安すぎる、100億円要求しろと譲らない。 結果、身代金100億円という前代未聞の金額となり、日本のみならず世界規模の大事件へ。 はたして一連の誘拐事件は無事成功するのか。 虹の童子の運命は―・・・ という展開です。 とてもユーモラスで面白い作品でした。 誘拐ものですが、誘拐ものにつきものな要素はあまりありません。 理由や背景に暗い負の感情がない。 誰も死なないどころか血なまぐさい展開もない。 仲間割れなどややこしい人間関係もない。 登場人物はそこそこ多めですが、皆性根の良いキャラクターです。 それぞれキャラクターが立っており、憎めない愛らしさもあります。 金額だけでなく、やることなすこととにかくスケールが大きく、いっそ清々しいです。 個人の身代金が100億円なんて、現在でもあり得ない金額です。 交渉や引き渡しもやることが大胆で、天晴れという気持ちになります。 一方で、地理や距離、所要時間、資金繰りや税金などについては、解説を読む限りある程度現実に即しているようで、作者の文才と緻密さに感嘆させられます。 1978年に執筆された作品とのことで、社会背景や一部文章などに時代を感じさせる箇所はあります。 しかし、あまり古さは感じず、今なお斬新でユーモラスと思えます。 人情味あふれる作品で、読了後は爽やかかつ心温まる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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都会に住む根っからの文系女子短大生てある、入江駒子はある日一冊の本に出会う。
表紙に描かれた麦わら帽子の少年とノスタルジックな田舎風景にどうにも惹かれる。 録に土を踏んだこともないのに、どこか懐かしさを感じ、一目惚れでその本を購入してしまう。 その本こそ「ななつのこ」。 「ななつのこ」は7つの短編で、主人公の「はやて」少年の日常の些細な謎を、〈あやめさん〉が解決するストーリ。 そんな「ななつのこ」の第1話は「すいかのお化け」で、たまたま駒子の日常ではスイカジュース事件が起きた。 血痕かと思ったらスイカジュースだったという軽い話を、駒子は「ななつのこ」の作者である、佐伯綾乃へのファンレターに書き記した。 すると、後日作者から返事が来たうえ、スイカジュース事件への思わぬ考察が書き添えられていた。 そして、駒子の日常の謎に、作者が答える手紙の往復が始まる-… という展開になります。 とても穏やかな気持ちになれる一冊です。 ミステリというと、つい殺人事件、複雑な謎解き、緊張感やスピード感をイメージしがちです。 しかし、本作では誰かが亡くなるようなことはなく、解く謎も些細な日常に起きた、人によっては謎とも言わないものです。 しかし、作中駒子は最初のファンレターで書き記しています(ネタバレに含まれたらすいません)。 いつから疑問に思うことをやめてしまうのか 色々な全てに納得してしまうようになったのか いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにある 本当に大切な謎はいくらでも日常にあふれていて、答えを待ってる これがこの作品のスタンスをよく物語っていると思います。 ミステリ=殺人事件など日常から解離したイメージだった私にはハッとさせられる言葉でした。 7つの短編で、先述の通り駒子の日常の些細な謎を、「ななつのこ」の作者である佐伯綾乃が解決します。 この駒子の謎が、作中作の「ななつのこ」のはやて少年の謎とリンクしています。 そのため、作中作の「ななつのこ」と2つの謎を楽しめる入れ子構成になっています。 どちらの謎もほのぼのとしつつ、どこか切なさもあって面白いです。 上手く言えませんが、ミステリを読んだというより、心地よく美しい作品に触れたという感じです。 優しい気持ちになりたい人におすすめします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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三億二千万円のサラブレッド「セシア」。
セシアは四人の馬主が権利を共有していた。 セシアを馬主の一人てある鞍峰の牧場へ移送する最中、思わぬ事故が起きてしまう。 セシアが骨折し、競走馬としての選手生命を失ってしまった。 鞍峰はセシアの売り主、それて他の馬主への賠償から逃れるため、セシアの偽装誘拐を持ち出す。 鞍峰の下で実質的に馬の管理をしている朝倉は反対するも、結局牧場関係者のため、偽装誘拐計画をたてる。 かくしてセシア誘拐事件か起きたはずだった。 しかし、全く別の第三者からセシア誘拐、そして身代金二億円の脅迫状が。 一体脅迫主は誰か? セシアの骨折は露見してるのか? 脅迫主が逮捕されれば鞍峰牧場の偽装誘拐も露見するのでは? 計画主だったはずの朝倉は脅迫主を探すー・・・ といった展開になります。 とても面白い作品でした。 競馬場を舞台にしていますが、それが存分に活かされてます。 誘拐対象、換金方法、受け渡し場所などなど。 普通の誘拐事件の場合、人質の安全が最優先ですが、今回は馬。 そのため警察はもとより、馬主間にも温度差があります。 特殊な舞台設定がとても活かされていて、面白いです。 偽装誘拐のはずが、それを手助けするような脅迫状が届くという、ある種誘拐事件ののっとり。 犯人がわかっていて、犯人側視点で読むかと思いきや違うのは、それはそれで緊張感があり面白いです。 ネタバレに配慮したつもりですが、ネタバレしていた場合申し訳ありません。 とても面白い作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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広告代理店・東京エージェンシーの加藤と西崎は、ミリエル社の香水宣伝に際し、コムサイト社のカリスマ女社長・杖村にアドバイスを求める。
彼女はWORD OF MOUTH(WOM)、つまり口コミによる宣伝を奨める。 ファッションやトレンドに敏感そうな10代の女子をモニターとして集め、高額なバイト料を餌に、人為的に香水の噂を広めた。 その噂の一つこそ「レインマン」。 ニューヨークの黒いレインコートを着た殺人鬼で、若い娘の足首を切断していく。 しかし、ミリエルの香水をつけてると助かるー・・・ ただの杖村たちが作った噂のはずが、実際に足首を切断された女子高生の遺体が発見される。 「レインマン」は誰なのか。 所轄の小暮と本庁警部補の名島コンビが事件を追うー・・・ といった展開の話です。 どんでん返しと言われるラストについては、好みが別れるようですが、個人的にはとても面白かったです。 題名通り「噂」というか「口コミ」の威力が終始重要で活躍している作品でした。 噂なんて曖昧なものという一方で、火のないところに煙は立たぬとも言います。 それがレインマンの噂に限らないあたりが面白いです。 杖村が語るネガティブ情報の伝播力や攻撃力は相当なもので、匿名かつ実体もないため防ぎようがないのに、悪質かつ大量。 「噂」一つからの物語の展開が非常に面白いです。 小暮・名島コンビも良かったです。 どちらもあまり嫌味のないキャラクターで、無駄な軋轢も恋愛もないのが良かったです。 本庁と所轄ということで、ゴタゴタしないため、キャラクターに共感しつつ、スラスラ読めました。 しかし、小暮と名島以外の捜査本部が若干読んでいて疲れました。 本庁の課同士の軋轢、神奈川県警との軋轢等々は、警察の内部構造の話てはないので、あまり必要性を感じませんでした。 また、レインマンの犯行動機等々が思ったよりサラッと書かれている気がしました。 もう少し掘り下げられていると、より不気味さが出たのてはないかなとも思いました。 不満点も書きましたが、題名の「噂」が終始重要なアクターとなり、尚且どんでん返しもあり、文章も読みやすいため、おすすめできる一冊だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ある日、平凡な男子大学生・毛利圭介のもとに一本の電話が入ります。
電話の主は地震予知をし、見事に時刻・震度・震源地を当てます。 本来は不可能な地震予知を行った電話主は風間と名乗り、とある会合に誘います。 半信半疑で参加した毛利の他9人に、風間は驚くべき現象『リピート』について説明します。 『リピート』とは未来の記憶を持ったまま、約10カ月前の過去の身体に戻る、一方通行の時間旅行。 皆半信半疑ながら、ホストの風間を含めた10人は『リピート』します。 しかし、僅か10カ月分の得をどう活かすかを考える間もなく、次々リピーターが死んでいく。 毛利の僅かな行動の違いで前の世界の過去と環境も変わり始める。 一見関連のないリピーター各々の死。 しかし、『リピート』を知る者にとっては関連がある。 いったい誰が犯人か? どこから『リピート』の秘密は漏れたのか? ・・・といった感じの展開です。 とても面白い小説でした。 まず設定が非常に面白かったです。 『リピート』期間が僅か10カ月足らずで、大それた行動は身の危険を招くため、小さく儲ける程度のことしか出来ない。 誰かを救うにも、それが近しけらば近しい程未来が変わり、『リピート』の特権がなくなるため、見捨てる方が吉という薄情さ。 そういう意味では10カ月というのは人生を変えるには期間が短い! しかしそれでも『リピート』の権利をちらつかされると、手放したくない! このあたりの設定や心理は非常に上手いと思いました。 『リピート』に至るまでが少し長いですが、半信半疑の面々をいかに企画に乗せるか、物語の根幹に関わる『リピート』を説明する必要性などを考慮すると、仕方ない気もします。 『リピート』後は割りとスラスラ。 悪く言えば『リピート』仲間が死んでいき、SFから一気にミステリっぽくなります。 まず設定が面白く、その多少複雑な設定も丁寧に説明されており、読みやすかったです。 面白く、おすすめできる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白い作品でした。
主人公・上杉彰彦が考えたゲームシナリオを、イプシロン・プロジェクトという企業が購入します。 上杉のシナリオはゲーム機器「K-Ⅱ」のモデルシナリオへ。 「K-Ⅱ」はプレイヤーを完全バーチャルリアリティの世界へ誘う最新機器。 システムに穴がないか、上杉は美少女・高石梨紗と共にモデルプレイヤーへ。 しかし、ゲームを進めていくうち、上杉はゲーム内・外で不可解な出来事に遭遇していく。 イプシロンを信用していいものか迷う中、突然梨紗が消えてしまいー・・・ といった展開です。 1980~90年代に書かれたことを考えると、作者の発想や才能は本当に素晴らしいと思います。 現在の携帯電話といった通信機器の発達を考えると、古い部分はもちろんあります。 しかし、一方で現在のネット対戦や3D化を考えると、この作品はありえなくもないと感じますし、斬新で未来的です。 「どんでん返し」ももちろんですが、読みやすさや設定等々含め、とても魅力的な作品です。 ぜひ読んでみてほしいです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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とても面白い小説でした。
岡嶋二人三大ミステリの一作であり、オスダメミステリのランクでは三作品中、唯一のAランク作品ですが、私は本作が最も面白かったです。 余命短い生駒洋一郎の息子である生駒慎吾誘拐事件の回想手記から物語は始まります。 その後、当時の身代金が発見されたことに端を発し、過去の誘拐事件をなぞったような誘拐事件が起きるという展開です。 犯人視点での展開もあるため、読者は事前に犯人をわかったうえで読み進めます。 しかし、犯人が警察につかまるのか~といったハラハラ感はあまりなく、どちらかというとワクワクしながら読めると思います。 トリックについては実現不可能という批判はあるかと思いますが、あくまでミステリ小説であるということと、1980年代にここまでハイテク機器を用いたトリックを考え、尚且つそれを説明ぽくなく飽きさせずに読ませる作者の手腕は素晴らしいと思います。 身代金の換金方法、誘拐方法、身代金の運ばせ方、そしてトリック等々は、過去の誘拐事件と比較して時代の進歩が見てとれます。 一方、捜査方法はさして進歩がない様子も見て取れます。 あまり詳しく書くとネタバレになってしまいますが、ただの誘拐小説ではなく、そこに犯人のある想いがあることで、さらに面白い作品だと感じました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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隔離された環境下で監視される代わりに高額自給という、明らかに怪しい環境設定です。
当然、殺人を誘発する環境下に置かれ、連続殺人に発展という、ある種王道の作品です。 登場人物は多めですが、それぞれ個性はたってます。 あと、言い方が悪いですが、非常にテンポよく退場していくので、あまり問題ないと感じました。 常に主人公・結城くんの視点で展開しますが、あまり自己主張が強い主人公ではないため、読みやすかったです。 ただ、特殊設定なのでそれが合う合わない、飄々とした主人公が合うか合わないといった問題はあるかもしれません。 私はテンポが良いと感じましたが、登場人物や殺人についてひとつひとつじっくり考えたいタイプの人には合わないかもしれません。 そのテンポの良さでサクッと読めるのですが、そのあたりは好みがあると思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ミステリー作品としての完成度も高いですが、それ以上に社会に対する問題提起作品として、素晴らしいと思いました。
ある死刑囚に冤罪の可能性があり、刑務官と仮釈放中の青年が、事件について調査します。 調査を進めるうちに、死刑囚の事件だけではなく、仮釈放の青年の事件についても、謎めいた点が出てきて、グングン話に引き込まれます。 死刑囚の冤罪ということから、死刑制度はもちろん、日本の刑法や服役後の加害者の生活、そしてその家族について深く考えさせられました。 最後はどんでん返しもあり・・・と言えるかわかりませんが、驚きの事実はあります。 冤罪の可能性がある死刑囚の調査は終わりますが、死刑の問題自体は当然解決しませんし、最後はほろ苦いものがあります。 ちょっとミステリーより社会問題提起の色を強く感じるかもしれませんが、おすすめの作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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