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あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへレビュー数40件
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風ケ丘高校の旧体育館で放課後、放送部部長・朝島友樹が刺殺された。
朝島が殺されたのは旧体育館の舞台上。 舞台は幕が下ろされており、密室状態。 警察は唯一一人の時間があった女子卓球部部長・佐川奈緒を犯人と決めつけた。 部員・袴田柚乃は何とか佐川を救えないかと悩んだ。 そんな中、柚乃は部室に住んでいると噂の、全教科満点を出した天才・裏染天馬の存在に行きついた。 噂の部室を訪ねると、そこはアニメグッズの山だった。 天馬は天才的頭脳を持つ、どうしようもない駄目人間だったのだ―・・・ 「体育館の殺人」という一見地味な題です。 他の方も指摘しているとおり、実際は「体育“館の殺人”」であり、綾辻行人氏のパロディになっているようです。 ライトノベルのような表紙。 探偵役はアニメオタクでやる気ゼロの天才駄目人間。 個性的な登場人物。 諸所に挟まれるオタクネタ。 その辺りがとても軽く、ライトノベルっぽいです。 特に探偵役のやる気のなさはいかにもな感じがします。 登場人物の「個性的」も、例えば綾辻行人氏の描く「個性的」とは大分違います。 そのライトノベルっぽさは好き嫌いがあると思います。 ミステリの敷居を低くした初心者向けととる人もいれば、オタクネタが煩わしいととる人もいると思います。 しかし、推理自体は正統派というか、本格らしいです。 「平成のクイーン」は言い過ぎかわかりませんが、展開の仕方は面白いです。 探偵役が動機ではなく、あくまで証拠品、遺留品、現場、アリバイ等々から犯人を指摘する流れは良いです。 割合フェアなのではないでしょうか。 体育館は一見広く開放的な印象です。 そこで密室を作るという発想、そして密室をどうやって作るかはとても面白かったです。 犯人の動機は正直残念ですが、その後もうひと山あり、ただでは話は終わりません。 才能を感じるデビュー作だと思います。 平成生まれの作家による本格とはこうなるのかという意味でも楽しめます。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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ある日、中央競馬場に一通の脅迫状が届いた。
指定するレースの一番の馬を勝たせろ。 要求が受け入れられなかった場合、馬伝染性貧血(伝貧)の感染馬が出るだろう。 八百長レースなど受け入れられないと、中央競馬会は脅迫状を一蹴した。 すると数日後、予告通りに伝貧馬が発生した。 事態を重く見た中央競馬会の理事・江戸川は、保安課の八坂に調査を厳命した。 八坂が感染馬の発生した北海道へ向かうと、そこには思いがけず見合い相手の堀佳奈子がいた。 しかも佳奈子は八坂の行動を先回りしていた。 迷った末、八坂は佳奈子と互いの情報を交換し、事件を追ううち、七年前の伝貧発生に辿りついた。 はたして七年前に何があったのか―・・・ 岡嶋二人氏の競馬三部作の一つです。 「焦げ茶色のパステル」「七年目の脅迫状」「あした天気にしておくれ」。 全て競馬ミステリですが、メインは各々異なります。 「焦げ茶色のパステル」は生産システム。 「七年目の脅迫状」は保険システム。 「あした天気にしておくれ」は馬券システム。 そのため、競馬ミステリでも内容は異なり、マンネリ感もありません。 競馬や保険の知識がなくても問題なく読めます。 八坂と堀も終始冷静で、読者を苛立たせることなく、着実に真相に迫っていきます。 まず、どうやって伝貧ウイルスを手に入れたのか。 七年前の伝貧発生時に誰がどう関わり何をしたのか。 今回の脅迫状の目的は何か。 そして、犯人は誰か。 一つひとつ、しっかり拾い、調べていくので読みやすいです。 脅迫状の目的は予想外で面白いです。 しかし、保険の存在が大きく、他二作に比べて馬の印象が薄いです。 他二作の方が、「競馬ミステリを読んでいる」感があったと思います。 しかし、これは好みの問題かもしれません。 良質なミステリですし、ハッピーエンド好きな方にオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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東北の牧場で、牧場長と競馬評論家・大友隆一、サラブレットの母子モンパレットとパステルの二人と二頭が撃ち殺された。
数日前、隆一が訪ねた農大講師も殺され、警察は隆一を疑った。 しかし、隆一の妻・香苗には納得いかなかった。 香苗は競馬の知識はないが、隆一の性格はよく知っていた。 隆一は冷たい人間だが、人を殺せる人間ではない。 競馬新聞社に勤める親友・芙美子と共に、隆一の行動を辿った。 すると、どうやら隆一はパステルについて調べていたらしい。 はたして隆一はパステルの何に疑問を持ち、調べ、そして殺されたのか。 事件は思いがけず、競馬会を揺るがす恐るべき秘密へと繋がっていく―・・・ 岡嶋二人氏のデビュー作であり、氏の競馬三部作の一つです。 デビュー作にも関わらずかなり完成度が高いです。 競馬知識がなくとも、わかりやすく、かつ、くどうないように説明されていて苦になりません。 その辺りは、香苗に競馬知識がないという設定が上手く活きています。 競馬ミステリといっても、舞台はいろいろです。 本作は競馬の生産業界が主な舞台となります。 競馬生産業界の特殊で、ときに不条理で非情な面が見えます。 それに対する一般人と競馬関係者の認識の温度差は興味深いです。 ○○ミステリとあっても、脇道に逸れるミステリもありますが、本作は終始競馬について書かれており、それにも関わらず飽きさせません。 本作の謎は複数あり、どんでん返しもあります。 それらが一見競馬と無関係でも、最後にはしっかり競馬に繋がるのは見事です。 ただ、個人的には「明日天気にしておくれ」の方が好きです。 好みの問題かと思いますが、純粋に「明日天気にしておくれ」の方が読んでいて続きが気になったなと思います。 しかし、本作も十分面白く、良質です。 競馬三部作残りの一作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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駒形祥一は目覚めると見知らぬ部屋にいた。
そこは窓が一切なく、妙に蒸し暑い館の一室。 自身と見知らぬ六名分のネームプレートが付けられた部屋とPC室、そして広場。 案の定七名の男女は誰一人顔見知りではなく、訳が分からない状況に険悪な雰囲気が漂った。 そんな中、PC室のパトランプが点滅し、唐突に「主催者」が告げた。 「夏と冬、二つの館が存在し、同条件下でそれぞれ殺人事件が起きる。 自身の館ともう一方の館の殺人事件の犯人を当て、生き残った勝者には賞金を差し上げよう。 ただし、相手の館が先に二つの館の殺人事件の犯人を当てた場合、敗者に待つのは死である。」 つまり、自身の館の殺人事件を推理するだけではなく、相手の館と交渉し、出し抜かなければならない。 はたして駒形は犯人を当て、生き残ることができるのか―・・・ いわゆるデス・ゲームものですが、設定が少し工夫されていて面白いです。 デス・ゲームにもう一つの館を容易することで、上手く囚人のジレンマを取り入れています。 自身の館は館で、正直誰かが死ななければ推理し難い一方で、その被害者は自分になるかもしれない。 みんなで推理したいが、誰かが犯人かと思うと、誰を信用していいのかわからない。 しかし、相手の館を考えると、協力して出し抜く必要がある。 いかに自身の側の情報を伝えず、相手の情報を得るか。 一日一人のペースで死んでいきますが、相手の館では誰が死に誰が生き残っているのかわかりません。 この情報は犯人候補を絞るには非常に重要であり、どのタイミングで嘘をつくかが鍵となります。 個人的にはひとひねりされた設定で、犯人も予想外だったので、面白かったです。 しかし、他の方の感想を読むに、なかなか手厳しい評価を受けています。 そして、そうした評価はある程度的を射ていると思います。 正直、せっかくの設定を活かしきれていない感はあります。 相手の館の情報があまりになく、せっかくもう一方でもデス・ゲームが起きているのに勿体ない気がします。 また、登場人物に感情移入できない、緊張感が足りないという意見も見られます。 デス・ゲームでは多少の疑心暗鬼や空気を乱す存在はわかりますが、それにしてもまるで協調性がありません。 ある程度団結して相手の館を出し抜く必要があるにも関わらず。 主人公は団結する必要性を自覚しながら、推理はしてもそちらには積極的に動かないので、登場人物の背景や心理がまるで掴めず、死んでもどうとも思えません。 本作の設定ならば、もっと相手の館との交渉における心理戦の模様や、犯人がいるかもしれない面子での団結という矛盾への葛藤が書き込まれれば、より緊張感が生まれ面白くなったのではないかと思います。 私は犯人が予想外だったのですが、トリックを見破れたらかなり面白味が半減すると思います。 正直、大して推理したわけではなく、消去法と運の要素も大きい印象です。 それでも、私個人としては面白かったです。 そして勿体ない作品だとも思います。 メフィスト賞受賞作と期待しすぎなければ、楽しめるのではないでしょうか。 粗削り感があるのも、デビュー作と知り納得できます。 最後はTo be continuedとあるので、ぜひ同設定のデス・ゲームを書いてほしいと思います。 |
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「ハコちゃん」こと浜口美緒は超箱入り娘であった。
親に生活を徹底的に管理され、大学生にもなって尚門限六時を厳守させられていた。 そんな生活に嫌気がさしていたハコちゃんは一年越しで両親を説得し、米国留学を勝ち取った。 そんな旅立ち前日、急な訃報で両親は終日出かけることとなった。 それを知った友人知人は壮行会を開き、ハコちゃんは初の飲み会に浮かれながら深夜に帰宅した。 しかし、リビングには見知らぬ女の死体。 一気に酔いが冷めるとともに、ハコちゃんはとあることに気付いた。 ここで警察や救急車を呼ぶと、米国留学できなくなってしまう。 そこでハコちゃんは、自分に気がある男に死体の始末を頼んだ。 しかし、思いがけず居合わせることとなったタックとボアン先輩は乗ってくれない。 思い通りにことが進まず苛立つハコちゃんは「こうなったら死んでやる」と脅迫しだした。 こうしてタックとボアン先輩は事件に巻き込まれてしまった。 はたして死んだ女は誰なのか。 何故ハコちゃん宅で死んでいたのか―・・・ 匠千暁シリーズ第二弾のようですが、時系列的には第一弾になります。 そのため、シリーズ物ですが、本作から読んでもあまり問題ないと思います。 前作は西澤氏のデビュー作であり、登場人物が社会人になっています。 本作は前作の登場人物のうち、匠千暁ことタック、辺見祐輔ことボアン先輩、高瀬千帆ことタカチの学生時代になります。 安楽椅子探偵ものは、探偵役が奇人という場合があります。 本作の探偵役であるタックもなかなか浮世離れしていますが、タカチも独特な雰囲気があるし、ボアン先輩に至ってはかなり強烈なキャラクターです。 前作の方がタックはより仙人ぽく、タカチは雰囲気が柔らかく、ボアン先輩は社会人らしいので、その辺りのギャップも面白いです。 探偵役=タックと書きましたが、タカチもボアン先輩もまったく探偵役ではないわけではありません。 というか、推理というより酒飲みがてら推理という名の妄想を繰り広げている感じです。 そのため、どことなくコミカルな雰囲気で、良くも悪くも緊張感にかけます。 しかし、ラストは悪は罰されると言えなくはないものの、結構救われません。 飲みながらなされる会話も、ときに暗く、歪んだものを思わせる箇所があります。 推理自体はある程度論理があり、二転三転もします。 しかし、論理的根拠がない、偶然や咄嗟の思い付きなどもあります。 また、途中あまり必要性がなさそうなエロ妄想があります。 本作は、個人的には面白く読めましたし、続編も読みたいと思います。 しかし、キャラクターの濃さ、論理と偶然、エロ描写のバランスは結構難しく、好みがあると思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
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北海道の最北端、人里離れた高台にハマー・ディーゼル会長である浜本幸三郎がある館を建てた。
「流水館」と名付けられた館はなんと斜めに傾けて建てられていた。 わざわざ奇妙な館を建てた浜本は、客人を招き、クリスマスパーティを開いた。 その夜、奇怪な密室殺人が起きた。 どうやって密室殺人を起こしたのか。 しかし、問題はそれだけではなかった。 誰一人として動機がなかった。 困惑する警察に不安に陥る客人。 彼らをあざ笑うかのように次の惨劇が起きた―・・・ 御手洗潔シリーズ第二弾。 本作は二つの大きな問題があります。 まず、「どうやって」殺したのか。 メイントリックは現実的かは別として、とても大胆で斜め屋敷の構造を上手く使っています。 もう一つは「なぜ」殺したのか。 登場人物はみな社会的地位云々以前に、面識自体があまりない状況です。 そのため、わざわざ手の込んだ殺人を犯す動機が全く見えません。 正直、「なぜ」も「どうやって」もわからなくても、犯人の予想はつきます。 しかし、最終的にこの「なぜ」が「どうやって」に繋がる辺りは面白いです。 また、御手洗の空気をまったく読まない動きが面白いです。 前作では独特なホームズ評をしていましたが、今回のワーグナー評も独特で面白いです。 しかし、不満点もいくつかあります。 まず、「読者への挑戦」が少々アンフェアな気がします。 何がアンフェアと感じるかはネタバレになってしまうのですが。 次に、御手洗の登場までが長すぎます。 無能な警察のだらだらしたパートが長く、御手洗の登場は2/3~3/4読み終えてからです。 御手洗が登場してからはハイスピードで面白いのですが、それまでが冗長です。 そして、これは島田荘司氏に非はないのですが、本作の関口苑生氏による解説に不満があります。 解説を先に読むか、後に読むかは人それぞれなのでしょうが、私は後に読みます。 本作を楽しみ、その余韻に浸ったまま、島田荘司氏や本作の解説を読みたいと思います。 しかし、本作の解説は最終的に「新本格」というか、実名を伏せているものの、綾辻行人氏への批判で締められています。 それは是非とも解説ではなく、自書でやっていただきたいです。 個人的に「なぜ」殺したのかが大きな問題となっているのが非常に面白いです。 トリックも前作に比べてしまうとつい地味な気がしますが、面白いです。 次作も読みたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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西澤保彦氏のデビュー作にして、匠千暁シリーズ一作目。
全九話の連作短編集です。 一見、解体にこだわっただけで大した繋がりのない、短編集のように思えます。 登場人物も、第一因でAとB、第二因でBとCが知り合い、第三因でAとCが出会うが、AとCは互いがBと面識があることを知らない、という程度の繋がりです。 しかし、第八因の作中作を踏まえた第九因でそれまでの短編が繋がってきます。 そこが面白いのですが、間が空いてしまうと忘れてしまうので、あまり間をおかず読むことをおすすめします。 全話「解体○○」という題で、○○はその話の一応キーワードになっています。 人体をメインに、とにかく解体しまくります! 解体するには当然時間・労力等々リスクがあります。 それでもやるからにはどんな論理的根拠があるのか!にとことんこだわります。 現実にはそんな理由では解体どころか殺害もしないだろうとか、トリックに無理があるとか、難点はあります。 現実には論理的根拠などなく、狂気の沙汰によるものかもしれません。 でも、極端に言ってしまうと、そんなことはどうでもいいとこの本に限っては思えます。 そもそも作中の事件は、作中の時系列でも過去のものです。 安楽椅子探偵自身、事件の真相に興味はありません。 事実は狂気の沙汰でも、その解体に論理的根拠を求めてみて、解が出ればいいのです。 安楽椅子探偵が推理した結果、別の真相が見えたとしても、一度警察が出した結論を覆す気は全くありません。 遺体は当然解体されているので猟奇的なはずなのですが、まるでパズルのピースのようで凄惨さは感じません。 この解体と論理的根拠へのこだわりっぷりは、一歩間違えればギャグです。 また、話そのものも面白いのですが、事件には関係ない諸所の会話や思想も面白いです。 個人的にはなぜ自己投影できない成人向け雑誌を男性は見るのかについての答えが特に面白いです。 本書の執筆に至る発端があらすじで書かれていますが、それがまた面白いです。 首なし死体さえ転がしておけばミステリなんて簡単に書けるという、ミステリに対する不当評価。 首なし死体がひとつだと安易ならば、いっそ無闇やたらにゴロゴロ出してやろう! この反発から発想し、執筆してしまうのはすごいと思います。 また、若かりし頃は肢体切断といったグロテスクに対する嫌悪感云々とあり、この人がいずれ謝肉祭を執筆したのかと思うと面白いです。 西澤保彦氏の作品の中では『七回死んだ男』には及ばないし、楽しみ方が純粋とはいえないかもしれませんが、面白い一冊です。 時系列的には過去になるようですが、匠千暁シリーズを読んでいきたいと思います。 |
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北鎌倉で栞子と五浦がひっそり営む「ビブリア古書堂」。
以前、田中敏雄は太宰治『晩年』の初版版をめぐり、栞子を階段から突き落とした。 田中の執念を危惧した栞子は、偽物を本物に見立てて燃やすことで田中を出し抜き、本物を死守した。 その田中が仮出所した途端、栞子に田中名義の脅迫状が届く。 しかし、田中に会うと脅迫状など知らず、そのうえ奇妙な依頼まで。 依頼は栞子のものとは別の、祖父・田中嘉雄が所有していた『晩年』の捜索。 署名がないにも関わらず、太宰のものとわかる書き込みがある珍本らしい。 本を追ううち、二人は四七年前の稀覯本盗難事件に辿り着く。 そこには田中の祖父・嘉雄だけでなく、五浦の祖母・絹子、そして栞子の祖父・聖司まで関わっていた。 これは何かの因縁なのか。 はたして四七年前の真相は。 そして今回の事件の真相は―・・・ 今回は長編古書ミステリです。 メインは太宰治『晩年』。 一巻の田中敏雄の事件の延長になります。 一巻は五浦絹子サイドが明らかになりましたが、今回は田中嘉雄サイドが明らかになります。 五浦家と田村家の繋がりはともかく、今回はそこに篠川家も関わり、巡り合わせというか、因縁めいたものを感じます。 これまでシリーズ通して五浦くん、栞子さん、そして周りの人々の過去や謎が判明してきました。 今回は嘉雄だけではなく、篠川聖司、そして「ビブリア古書堂」の過去が少し判明します。 さらに、四七年前の事件の因縁が、どうやら智恵子の過去に繋がりそうな気配です。 五浦くんと敏雄はやはり気が合うようですが、それはどちらも嘉雄の孫だからなのでしょうか。 それとも絹子と嘉雄の気が合ったからなのか。 五浦くんは栞子さんしかり、敏雄しかり、業が深い本の虫と気が合う気質なんでしょうか。 栞子さんと五浦くんがお付き合いして、文香ちゃんとしては嬉しかったんでしょう。 それにしても口が軽すぎですが(笑) まさかの昴くん登場に、五浦くんが来てからの「ビブリア古書堂」の人の輪の広がりを改めて感じます。 各々の家の過去や因縁、智恵子の真意もですが、何といっても二人の行く末が楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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北鎌倉の片隅で、栞子と五浦がひっそり営む「ビブリア古書店」。
二人は最近、古書取引だけでなく、古書にまつわる謎解きも請け負うように。 ある日、二人に謎めいた依頼が来る。 依頼主は江戸川乱歩の貴重かつ膨大なコレクションを譲る代わりに、金庫を開けてほしいという。 金庫を開けるには持ち主の、そして江戸川乱歩の謎を紐解かなければならない。 難航する中、母・篠川智恵子が現れた。 智恵子は栞子に対し、乱歩のコレクションが欲しいならば、自分より先に謎を解けと煽る。 思いがけず、栞子と智恵子の知恵比べの様相を帯びてくるが、智恵子の真意は何なのか。 そして、乱歩のコレクションを手放してでも開けたい金庫の中身とはいったい何なのか―・・・ シリーズ初の長編ミステリです。 メインとなる作家は日本の推理小説の礎である江戸川乱歩! 乱歩を取り扱うだけあって、シリーズ一ミステリ色が強いです。 「金庫解錠」自体がミステリらしいですが、解錠のための手がかり探し、隠し場所、暗号、どんでん返しと、ミステリ要素が結構あります。 そこに乱歩に対する敬意、説明、蘊蓄が上手く織り混ぜられています。 シリーズの謎も、新事実が判明する一方で、また深まっています。 本作ではとうとう母・智恵子が登場します。 ヒトリ書房の井上さんも登場し、智恵子との過去の因縁が明らかになります。 また、シリーズ通して読んでいる方は、栞子さんと五浦くんの進展も気になるでしょう。 本作で五浦くんがとうとう一歩踏み込みます。 それが正直、一番の驚きです(笑) うつし世はゆめ よるの夢こそまこと 乱歩のこの言葉は、本作の印象そのものかもしれません。 栞子さんの想いと智恵子の意図、次作が楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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北鎌倉の片隅でひっそり営む古本屋「ビブリア古書堂」。
店主は美人だが非常に人見知りな本の虫・篠川栞子。 店員は本が好きだが読めない体質・五浦大輔。 栞子は本に関してだけ饒舌で、そんな栞子の話を大輔も興味深く聞き入り、二人は上手く店をまわしていた。 前作で父娘を捨て、出奔した母・篠川智恵子の存在が明らかになった。 大輔は少しずつ栞子と距離を縮め、栞子の母親への複雑な想いを知った。 そんな中、二人はまた古書に秘められた謎を紐解いていく。 何の因果か、持ち込まれる古書は母親について考えさせるもの。 母親はなぜ出て行ったのか。 栞子は古書を通して何を想うのか。 そして大輔には何が出来るのか―・・・ 前作同様、古書ミステリの連作短編集です。 前作で栞子と母親との因縁に少し触れ、母親のフラグ立てをしています。 今作ではフラグ回収にまでは至りません。 しかし、謎を解き明かす過程で、母親の存在が見え隠れし、母親について考えさせられます。 また、栞子だけではなく、父親や文香の母親への想いも少しうかがえます。 これまではどちらかというと、古書を通して間接的に栞子の謎を追っていましたが、今作は母親の謎を追っていきます。 3巻から読む人はそうそういないとは思います。 1巻の時点ではあまりシリーズ化を考慮していなかったのか、2巻へのフラグや流れはあまりありません。 2巻には前作の流れなどが割合丁寧に記されており、2巻からでも読めなくはないです。 しかし、2巻から3巻にかけてはシリーズ化され、2巻から継続の謎や流れがあります。 栞子の母親の謎に迫るため、母親を知る新キャラも登場しますが、1巻からのキャラも結構出ます。 是非、順番通りに読んでください。 やはりミステリというより、青春小説、古書雑学小説の印象が強いです。 今作は古書そのもの雑学だけでなく、古書の流通システムについても触れており、勉強になります。 前作ではあまりミステリにおける人の業のようなものはあまり感じません。 しかし、今作では心温まる話と、人の業を思わせる話とが混在しています。 人々は古書を通して失くしたものや、寂しい想いを埋めようとしています。 篠川家の場合はそこに母親が大きく影響します。 母親に関しては仲良し姉妹でも、というか、姉妹だからこそ折り合えないことがあるようです。 また、母親を知る人は、安易にその話題に触れることがきません。 そんな中、母親について知らず、本の世界に引きこもる栞子に知らず影響を与える大輔がどのような役割を果たすのか、次作が楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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北鎌倉の片隅でひっそり営む古本屋「ビブリア古書堂」。
店主は美人だが本の虫・篠川栞子。 店員は本が好きだが読めない体質・五浦大輔。 栞子は非常に人見知りな性質だが、大輔は本に関して素人ながらも無骨で優しく、そんな大輔とは良好な関係を築くことができた。 今回も持ち込まれた古書と持ち主をめぐる想いと謎を紐解き、そのなかで二人はまた一歩近付いたと思われた。 しかし、どうやら栞子には複雑な事情があるようで―・・・ 1巻同様、連作短編集。 所謂「人の死なないミステリ」であり、そのなかでも古書に関するミステリです。 1巻同様文章は読みやすく、古書に関してもよく調べられていて、丁寧に作り上げられたことが感じられます。 ただ、正直ミステリという印象はあまりありません。 栞子の推理はもはやエスパーのいきではないかという気がします。 ミステリというより、栞子と大輔の青春小説、または古書雑学小説の印象が強いです。 青春小説としては、二人とも二十歳を過ぎた大人ですが、中高生の初心な恋愛のようで微笑ましくなります。 古書雑学小説としては、純粋に勉強になり、面白いです。 1巻を未読でも読めなくはないです。 しかし、1巻の知識がないと、なぜ人見知りが激しい栞子と大輔が共に働けているのかわかりにくいです。 また、1巻の登場人物が結構出てきますが、その人物とビブリア古書堂との関係もわかりにくいです。 そのため、1巻から読むことをおすすめします。 ただ、難点をあげれば、栞子が少々あざとい気がします。 また、巨乳情報が少々しつこい気もします。 軽くサラッと読める小説です。 あまりミステリ感はないですが、青春小説・古書雑学小説として面白いです。 個人的には青春小説として、続きも読みたいと思います。 |
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オーストラリア日本語学校のグループは、千年岳へヘリスキーを楽しみに訪れた。
その千年岳スキー場では、“ワームホール”によるタイムスリップ現象が噂されていた。 ヘリスキーに興じる一行は、ある人物の企みにより、“ワームホール”がある方へコースを外れてしまった。 憤るなか、突然一人が不可解な死を遂げ、一行は憤るどころではなくなってしまった。 さらに、吹雪を避けるため避難した山小屋には、一行の凄惨な最期を記した“未来手帳”があった。 手帳の主は、“ワームホール”を抜けてきた未来の一向の誰からしかった。 一方、東京ではラブホテルでホテトル嬢が惨殺されるという、連続殺人事件が起きていた。 犯人は通称“キラーエックス”。 一体一行を狙う犯人は誰なのか。 一行の中の誰かなのか。 それとも“ワームホール”を抜けてきた未来人か。 はたまた“キラーエックス”なのか。 そもそも“ワームホール”は存在するのだろうか―・・・ 長編推理小説で、スキー一行・行方不明の友人を心配するグループ・キラーエックス・警察の4つの視点で展開します。 いわゆるクローズド・サークルものですが、上手く“ワームホール”を活用し、一工夫しています。 一行は“ワームホール”なんてありえないと思いつつ、そうなると仲間内に犯人がいることになってしまう。 どうにか外部に犯人を求めたいと葛藤します。 また、“未来手帳”は“ワームホール”に信憑性をもたせつつ、一行の不安を煽ります。 手帳を読めば、後の展開を予測し、対策を練れるかもしれない。 けれど、そこに自分の死が記されているかもしれないと恐れます。 一行が遭難し、手帳通りに殺害されていく展開はハラハラし、面白いです。 しかし、ラストは少しいただけないかなと思います。 トリックに無理があるというのは、他のミステリでもあるので、まぁ話が面白ければいいかなと思えます。 ただ、“ワームホール”というタイムスリップものを扱うならば、時系列は整然とあってほしいです。 正直、時系列がわかりにくいです。 途中はとても面白いのですが、ラストで少々粗っぽい印象になってしまいます。 ミステリ好きの方の中には、トリックやラストに納得できず、好まないかもしれません。 しかし、個人的にはクローズド・サークル特有のハラハラ感もあり、“ワームホール”や“未来手帳”でさらに不安が煽られ、面白かったです。 本作がキラーエックスシリーズの2作目と知らず、先に読んでしまったので、次は1作目を読みたいと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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25の推理短編集です。
1つひとつが10頁以内で、問題編・解答編で構成されています。 問題編はただ問題設定・謎の呈示ではなく、ショート・ショートとして楽しめるようになっています。 登場人物の名前などに、作者の遊び心もあらわれています。 解答編に進む前に「読み進める前に、ちょっと考えて見てください」と間を置き、解答は頁をめくらなければ読めないよう、謎解きを楽しむ「探偵」に親切なつくりになっています。 「フーダニット(犯人探し)」「手がかり探し」「ハウダニット(方法探し)」「暗号」「倒叙」。 ミステリはだいたい先の5パターンに分類されますが、本作は全て網羅しています。 解答編はえっと思うものもありますが、割合良質なオチばかりだと思います。 さらに解説では神保博久氏が25のミステリを5パターンのどれにあたるか分類し、独自の難易度を示しています。 自分の得手不得手がわかるかもしれません。 例えば私は難易度に関わらず、「暗号」に弱いようです。 期待以上に面白かったです。 気軽に、かつ楽しく頭の体操ができるといった感じです。 ショート・ショート、ミステリとして楽しみ、解説で自己分析して楽しむと、2度楽しめた作品です。 |
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北島早苗はホスピスで働く精神科医。
恋人の高梨は作家兼投資家で、生活に余裕がある裕福な男性であった。 しかし、余裕故に考える時間が有り余る高梨は、死恐怖症を抱えていた。 早苗はそんな高梨の影に魅かれる一方、支えたいと考えていた。 そんな中、高梨は新聞社主催のアマゾン調査隊へ参加することになった。 早苗はこの参加が高梨の精神に良い変容をもたらすことを期待していた。 しかし、帰国後の高梨は別人の如く、死恐怖症から死愛好症へと人格変容していた。 しかも、高梨は時折「天使の囀り」が聞こえると言い出した。 早苗は高梨の精神分裂症を疑うも、微妙に当てはまらなかった。 そんな最中、とうとう高梨は自殺してしまった。 それも異常さを遺して。 調べるうち、他の調査隊メンバーも異常な自殺をしていることがわかった。 さらに調査隊ではないにも関わらず、異常な自殺者が出てきた。 いったい何が起きているのか―・・・ とても面白く、そして恐い小説です。 ミステリーかホラーか、サスペンスか。 ジャンル分けが難しい小説でもあります。 しいて分ければコレというものはあります。 しかし、それはネタバレに直結しますし、それ故に筆者も参考文献等を詳しく載せていません。 心霊怪奇的恐さでも人間心理的恐さでもありません。 似たような事態が絶対に起こりえないとはいえない恐さがあります。 先にジャンル分けが難しいと述べましたが、ホラー的恐さやミステリ的ドキドキ感がないわけではありません。 しかし、それ以上に生理的嫌悪感を覚え慄きます。 異常な自殺というだけあって、死に方は非常に凄惨です。 遺体の有様は勿論、心理描写、情景描写、原因・核全て想像すると非常に気持ち悪いです。 一見普通の主張のようでどこか支離滅裂な文章は、気持ち悪い一方で、筆者の文才を感じます。 話が進むにつれ自殺者も増え、当然ながら凄惨な描写も増えますが、続きが気になってしまい、つい読み進めてしまいます。 ただ、説明文が少々難しいうえ長いので、だれてしまいます。 ある程度必要な説明なのは理解できます。 しかし、話が大きく展開する中盤辺りまでは、だれて読む手が止まりがちになります。 また、最後の展開は何となく予想出来てしまいました。 嫌いなラストというわけではありませんが、他の方のレビューを見る限り、筆者の小説を多数読んでいる方はラストの予想が容易かもしれません。 とても面白く、そして恐い小説です。 心臓がキリキリ、身体がゾワゾワする不安や嫌悪感満載です。 凄惨な描写が大丈夫という方にはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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北鎌倉の片隅でひっそり営む古本屋「ビブリア古書堂」。
店主は篠川栞子。 栞子は淑やかな美人だが、非常に人見知りでとても接客向きではない。 しかし、古書への愛と知識は並大抵ではない。 栞子は古書に関することとなると、人が変わったように堂々と、情熱的に語りだすのである。 一方、五浦大輔は「本が好きだが読めない体質」。 祖母の遺品を整理していると、夏目漱石全集の一冊にサインらしきものが。 そこで、五浦はビブリア古書堂へ鑑定を依頼することに。 すると、栞子は持ち込まれた古書を見、五浦の話を聞いただけで、古書と祖母にまつわる謎を解き明かしてしまう。 「人見知りな本の虫」篠川栞子と、「本が好きだが読めない体質」五浦大輔。 この一件を機に、二人は古書の秘密に触れ、解き明かしていく―・・・ 所謂「人の死なないミステリ」形式の連作短編集です。 古書にまつわるミステリです。 古書には本の著書や内容だけでなく、数多の持ち主を経た歴史、そしてそれに伴う秘密という魅力があります。 また、栞子と五浦の青春小説でもあります。 面白い小説だと思います。 人物は割合魅力的ですし、文章も読みやすいです。 各話も全編通しても、伏線等々、綺麗にまとまっています。 難点を上げれば、何となく展開が読めてしまう点でしょうか。 また、ミステリらしく、人間の業がないわけではないのですが、あまり深みを感じません。 良くも悪くも綺麗で軽い気がします。 そのため、深く印象に残る一冊ではないかなと思います。 決して面白くないわけではありません。 古書に着目している点も面白いです。 著者の古書への想いや、本作を丁寧に作り上げたことが感じられます。 重厚なミステリではないですが、軽くサラッと読むミステリとしては良いと思います。 個人的にはミステリとしてより、青春小説として続きが気になります。 軽いミステリを求めている方、ほのぼのとした青春小説を求めている方にオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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売り出し中の新人歌手・結城ちひろ。
彼女はゼネラル・フィルムの新商品『パチリコ』のイメージキャラクター。 その日はテレビ局でCM曲を唄う予定だった。 同日、警察に結城ちひろ誘拐の匿名電話がかかった。 多くの人が出入りするテレビ局で、人目をひくタレントの誘拐などありえない。 そう思った矢先、結城ちひろが誘拐された。 彼女を心配する両親やマネージャー。 被害者保護と犯人確保を狙う警察。 しかし、被害者がタレント故に、関係者はそれだけではすまなかった。 芸能プロ・広告業界・スポンサーそれぞれの思惑と駆け引き。 そしてそれに踊らされる大衆によって捜査は混乱した。 はたして犯人はどうやって白昼堂々、タレントを誘拐し身代金を得たのか。 そのトリックは、そして犯人は―・・・ あらすじにある通り、誘拐ミステリです。 今回の舞台はコンピュータでも競馬でもなく、テレビ・広告業界。 本作は誘拐トリックだけが主軸ではないと思います。 「何故」犯人は人目をひくタレントを誘拐したのか。 「何故」犯人はこのようなトリックを用いたのか。 それも勿論重要なポイントです。 しかし、それと同じくらい、テレビ・広告業界の危うさやえげつなさがえがかれています。 関係者はなかなかに下種で、人命・人権より宣伝・視聴率が重要な様子も結構本作の幅を占めています。 関係者の思惑に邪魔され、警察はストレートに犯人追跡が出来ません。 しかし、そういった駆け引き・思惑は犯人・トリック推理の目くらましだけではなく、鍵にもなっています。 ただ、二点ほど気になることがあります。 まず、犯人の動機が弱い気がします。 次に、犯人の狙いやトリックは緻密なのに、狙い通りに人が動くかは運であり、その運の要素がかなり重要な点です。 緻密な割に運要素が強いというのは矛盾している気がします。 とはいえ、関係者の思惑により事件は二転三転し、非常に面白いです。 トリックの面白さは勿論、テレビ・広告業界の裏側も緻密にえがかれています。 さすが「人さらいの岡嶋」だと思える作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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某日、画家・梅沢平吉がアトリエで自殺した。
彼は死に際し、奇妙な手記を遺した。 ―六人の処女から肉体の一部をとり、星座に合わせて組み入れ、完全な人体“アゾート”を生成する。 幸い自身の側に六人の娘がいるため、“アゾート”の生贄として殺害しなければならない― 平吉の死から一ヵ月後、六人の娘は行方不明となり、その後バラバラ死体が見つかった。 平吉以外に動機はないが、その平吉は既に死んでおり、事件は迷宮入りした。 世に言う梅沢家占星術殺人事件。 事件から四十数年後、一人の女性が亡き父親の手記を持ち、とある占星術師を尋ねた。 手記にはなんと、梅沢家占星術殺人事件の知られざる情報が語られていた。 女性は事件の真相究明を占星術師に依頼した。 かくして、御手洗潔は日本のにわか探偵たちが四十数年間挑み敗れてきた謎に挑むこととなった。 正直、起承転結の結部分までは、すごく面白いというほどでもありませんでした。 冒頭の手記は御手洗潔が言うとおり、まるで電話帳を読んでいるようでした。 登場人物・星座・鉱物・土地等々、情報が多すぎて読みにくかったです。 石岡君の推理も、彼の役割やご都合主義的解釈の多さから、外れると予想できてしまいました。 御手洗による解説が気になるため、石岡君パートは少々長いと思ってしまいました。 とはいえ、段々と面白くなってはいきました。 冒頭の手記を乗り越え、少しずつ事件について情報が集まるにつれ、続きが気になっていきました。 結部分でトリックが判明したときは、その大胆さと盲点とに興奮しました。 事件が戦前であること、それ故に事件現場や関係者がどんどん失われている点も上手く使われていると思いました。 綾辻行人氏の“島田潔”の名が本作の作者・探偵名からきていると知り、いつか読みたいと思っていた一冊でした。 “御手洗潔シリーズ”も、作品数が多いですが、読んでいきたいと思いました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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一年前の冬、兄・公一が死んだ。
死因は毒薬。 場所は密室。 遺書はなく、不可解な点はあったが、警察は自殺として処理した。 しかし、妹・ナオコは納得出来なかった。 公一は死の直前、ナオコにメッセージを遺した。 「マリア様はいつ帰るのか?」 これから死のうという人間が、はたしてこんなメッセージを遺すだろうか。 ナオコは親友・マコトと共に、公一が死んだペンション『まざあぐうす』を訪ねた。 くしくも宿泊客は一年前と同じくだった。 各室にはマザーグースの歌が飾られていた。 マザーグースの歌に秘められた謎。 ペンションに隠された過去。 一昨年の不可解な事故。 公一はいったい何に興味を抱き、何を知ったのか。 調べる程謎が生じ、全てが怪しく思えた。 そんな中、新たな死者がー・・・ 雪の山荘・密室・暗号と古典的ミステリの要素満載です。 古典的ながらもひとひねり工夫されています。 伏線もしっかり回収されています。 東野圭吾氏の作品は綺麗にまとまりすぎて通俗的な印象を受けるものもあります。 本作はまとまっているものの、二重三重の真実は残酷さがあり、良い意味で後味の悪さもあり、良かったです。 しかし、きもち強引と感じる箇所、くどく感じる箇所があります。 マザーグースが本作の鍵ですが、マザーグースに馴染めない方もいると思います。 マザーグース自体が奇妙で、かつ、英文も関わります。 そのため暗号解読は難しく、だれる方もいると思います。 私は古典的ミステリの要素を押さえつつ、ひとひねりされていたため、面白かったです。 犯人の予測はそれほど難しくはありませんが、真相は一つではありません。 そのため、どんでん返しとまでは言いませんが、真相解明かと思いきや、更なる真相が浮かび、飽きることなく読めます。 ミステリ初心者も中堅者も楽しめる作品だと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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デブで不細工なノラ猫が我が物顔でぼくの家に鎮座していた。
お母さんは怒り心頭で、ぼくとお父さんは猫を遠くに捨て置いた。 ところが、後日また猫は我が物顔で鎮座していた。 なかったはずの首輪付きで。 誰がこんな猫を飼うのか興味を持ったぼくは、猫の首輪に手紙をはさんでみた。 すると、後日猫の首輪に返事がはさまっていた。 それから猫を通じた文通が始まった。 文通相手はタカキという別学区の同級生。 首輪は飼っているからではなく、保健所対策。 猫の名前はモノレールねこ。 文通が楽しくなってきたところで、猫は車に轢かれて死んでしまった。 これで文通は途絶えたが―・・・。 ほろ苦くも、じんわり心温かくなるような短編8本です。 加納氏は日常の些細な謎を優しいメッセージと共に記すのが上手な作家というイメージですが、本作においてはミステリ要素はほぼないと思います。 当然ながら好き嫌いもある一冊だと思います。 素直に感動する人もいれば、共感できずつまらないと感じる人もいるでしょう。 正直、良い話と思うものもあれば、良い話っぽくまとめすぎと思うものもあります。 カバーのあらすじには「大切な人との絆」とありますが、絆は言い過ぎかなと思います。 あまり難しいことを考えず、ちょっと軽めで穏やかな気持ちになれる本を読みたい人にオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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『メルヘン小人地獄』
とあるわるい博士は世とびきりすごい毒薬を作ろうとしました。 毒薬の材料は小人でした。 博士は小人の村へ行き、小人壺を投げては小人の首を捻切りました。 小人の村は血に染まりました。 小人は博士に復讐をちかいますが、博士はぽっくり死んでしまいました。 この恨みをどうしてはらそうか。 ハンナは吊るそう ニコラスは煮よう フローラは剥こう 復讐が成されて小人は大喜びしました。 「小人地獄」はご存知か。 三橋荘一郎は突然薄気味悪い男にそう声をかけられた。 男は三橋の家庭教師先の母親である恵子にそう伝えろと言ってきた。 恵子に伝えると、恵子は心なし嬉しそうな様子で、三橋に他言しないよう求めた。 不可解に思うこと数日、恵子が遺体で発見された。 全裸で逆さ吊り状態にされ、血は滴り肉は弛んでいた。 現場には小人の足跡のスタンプと「ハンナは吊るそう」というメッセージがあった。 猟奇的な殺人事件。 はたして犯人は誰なのか。 「小人地獄」とはいったい何なのかー・・・ 第一部「メルヘン小人地獄」第二部「毒杯パズル」の二部構成です。 第一部は一つのミステリであり、かつ、第二部のための前置きでもあります。 人物像や人間関係、そして本作の鍵である「小人地獄」についてなど。 警察は無能だったり傲慢だったり苛立たせる人物像のパターンも割合ありますが、本作では柔軟で苛立つことはありません。 また、とても面白いミステリですが、凄惨な描写が多いので、注意が必要です。 第二部は第一部の前置きがあるからこそ不可解な謎になります。 第二部の犯人は割りとすぐにわかりますが、メインは犯人当てではなく、名探偵の宿命です。 第一部が「どうやって」事件が起きたか、ならば第二部は「なぜ」事件が起きたかが、謎解きになります。 そこで、名探偵が真相を「暴く」ということについて、考えさせられます。 第二部は第一部と異なり凄惨な描写はありませんが、第一部より心が痛みます。 探偵によるミステリとしても十分面白いです。 叙述トリックでもないのに、ミスリードに引っ掛かり、物語が二転三転します。 推理して大団円ではなく、二部構成にすることで、名探偵の孤独にスポットライトを当てている点がまたいいです。 読了すると、タイトルにも意味があるように思われます(深読みかもしれませんが)。 しいていえば個人的に第一部の方が面白いと感じたのと、少し登場人物が人間離れしている気がします。 しかし、十分面白いミステリなので、凄惨な描写が大丈夫という方にはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
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