■スポンサードリンク
あんみつ さんのレビュー一覧
あんみつさんのページへレビュー数119件
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
あと6時間。
25歳の誕生日を目前に控えた原田美緒。 上京して数年間、自分は何と無為に過ごしたことか。 孤独感、無力感にさいなまれる中、江戸川圭史と名乗る青年に声をかけられる。 6時間後に君は死ぬ。 圭史は他人の非日常的な未来が見えるという。 美緒は半信半疑だったが、段々信じざるを得ない状況になる。 生き残るには犯人を捜し出すしかない。 誰に殺されるのか。 なぜ殺されるのか。 圭史は信じていいのか。 はたして美緒は無事誕生日を迎えることができるのか―・・・ 全5話+エピソードの連作短編集。 全話1人共通人物が登場しますが、明確に繋がっているのは1話と5話のみ。 中3話では脇役に徹しています。 ミステリというより、未来予知というファンタジー要素を加えた人生ドラマといった感じです。 衝撃的なタイトルですが凄惨な事件はなく、ほろ苦くも心暖まるストーリー達です。 しかし、ミステリとしてはイマイチ。 どの話も割と展開が先読みできるし、そんなに綿密な伏線もありません。 1話と5話はドラマ化しただけあって、小説よりドラマ向きな作品だと思います。 1話と5話は比較的ミステリ要素がありますが、中3話はミステリよりメッセージ重視な作品だと思います。 今何か壁にぶつかり、ため息ばかりという人に響く作品かもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
中学2年生の終業式。
担任の女性教師はホームルームで最後の挨拶をする。 なぜなら彼女は今日限りで教員を辞職するから。 「辞めるのはあれが原因か?」 彼女の4歳になる娘が学校のプールに転落し、事故死したのである。 しかし、彼女は娘が事故死したならば、それは自身の保護者監督不届であり、悲しみを紛らわすため、教員を続けるという。 ではなぜか。 「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」 彼女は淡々と衝撃的な真相を告白する―・・・ 全6章構成で、各章語り手が「担任」「級友」「犯人」「犯人の母親」と変わります。 語り手が変わることで、事件前から担任の告白後までの流れだけではなく、事件の全体像とそれぞれがその間何を考えていたかがわかります。 しかし、語り手が真実を語っているとは限りません。 意識的、無意識的に自分に都合よく解釈することがあります。 どちらにしろ、「イヤミス」らしく徐々に浮かび上がる真相は不快なものばかりです。 関わった者はみんな不幸の連鎖状態で、結末までまったく救いがありません。 中には因果応報と爽快な人もいるかもしれませんが、本作は傍観者が因果応報と笑っていいのか、そんな権利があるのか考えさせられます。 「問題作」と言われれば、確かに考えさせられる問題が多いです。 中でも「母親」について考えさせられます。 被害者の母親、犯人の母親、そして犯人にとっての母親が語られています。 本作と世間一般的意見としては、母親は子どもの人格形成に大きく影響します。 男性より感情的なことが多く、その愛情深さから執着心も強いことがあります。 期待と押しつけや洗脳誘導は紙一重です。 多くの母親は被害者と犯人どちらの母親の気持ちも、多かれ少なかれ当てはまるところがあるのではないのでしょうか。 社会問題として考えさせられるうえ、救いもないため、読後感は良いとは言えません。 語り手は何人かいますが、一部当てはまるところがあっても、あまり共感はできません。 当てはまると感じるところも、大抵目をそらしたいところです。 一方で当事者以外が安易に共感など言ってはいけないとも考えさせられます。 エピローグもないので読者は問題を残したままぶつ切られてしまいます。 しかし、懺悔してそれぞれ生きていくなんて軽く救われていいのか。 一方で、より救いなくどん底に落ちる様を見て因果応報と思っていいのか。 エピローグが欲しいという意見も見受けられますが、想像の余白がある方がいいと思います。 イヤミスらしく読後感は決して良くなく、すぐ再読したいとも思いません。 しかし、一読して良かったと思える問題作なので、オススメします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
学生時代、1つの謎と共に失恋した〈僕〉。
社会人となり、その謎は解けたが、その真相は〈僕〉に苦い思いを抱かせる。 孤独ややるせなさを感じながらパーティーに参加すると、そこには真っ赤なワンピースの天使が。 〈彼女〉と連れだって入った店は〈エッグスタンド〉。 女性バーテンダーが切り盛りする、カクテルリストの充実した小粋な店である。 若いカップルは〈エッグスタンド〉を舞台に、些細な日常の謎と共に距離を縮めていくー・・・ 全5話からなる連作短編集。 〈エッグスタンド〉を舞台に、春から冬にかけ、若いカップルが距離を縮めていく様子が日常の謎と共に描かれています。 ミステリというより恋愛小説の印象が強いです。 女性作家らしく、女性の描写か上手です。 特に感情的で弱いようで、したたかなところがある、魅力的な女性。 文体も柔らかく、情景描写や比喩表現は美しいです。 例えば、〈エッグスタンド〉に飾られる季節の花々、カクテルの名前や色、そしてモザイクな街とビビッドで真っ赤なワンピースなど。 読後は爽やかで、恋愛っていいなと思えます。 恋愛は面倒で見苦しいこともありますが、そこがいいと思える作品です。 ただ、個人的にはミステリとしても恋愛小説としても、駒子シリーズの方が好みです。 今作のヒロインと駒子は大分タイプが異なります。 私はどちらかというと駒子寄りの性格なのか、駒子の方が共感できます。 私は駒子の初々しさが好きなのですが、今作は大人の恋愛なため、どこかスマートです。 そのためか、よくも悪くもさらっと軽めに読めます。 それにしても、結局人というか、女性の心が一番の謎かもしれません。 そして恋愛は先に惚れた側が負けとはよくいったものだと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ある日、ミステリ作家の鹿谷門美は怪奇幻想系の新人作家・日向京助から呼び出された。
日向のもとに奇面舘主人・影山逸史から招待状が届いたのだ。 参加の謝礼金は200万円。 駆け出しの新人作家にとっては魅力的だが、日向は突発性難聴で体調不良だった。 そこで、日向は自身と似ている鹿谷に、“日向京助”として参加してほしいと打診した。 鹿谷は当初断るつもりだったが、何と奇面舘はかの“中村青司”の舘だった。 鹿谷は“日向京助”として集いに参加した。 当日は季節外れの大雪で舘は孤立した。 集いは主人も客人も鍵つきの仮面をつけるという奇妙なものだった。 鹿谷は舘や仮面に興味を惹かれながらも、“日向京助”として無事集いを終えた。 しかし、その夜人知れず血みどろの惨劇が起きた。 翌日発見された死体は頭部と両手の指が切断されていた。 主人・客人ともに仮面があるため、本人かわからない。 被害者・犯人は誰なのか。 今回の舘はどんな仕掛けがあるのか。 鹿谷は真相を探るー・・・ 綾辻氏自身があとがき等で語るように、原点回帰的作品です。 舞台は舘シリーズお馴染み“中村青司”の舘“奇面舘”。 同じく舘シリーズお馴染みいわく付きの代物や奇妙で儀式的な集い。 そしてミステリお馴染みの雪の山荘。 舘シリーズらしい妖しく魅力的な要素が盛り沢山です。 こてこてっぷりにワクワクします。 これらの要素は伏線であり、ミスリードでもあり、作中上手く活かされています。 綾辻氏らしくお得意の叙述トリックも舘の仕掛けもあります。 ただ、初期作に比べたら“驚き”は少ないかもしれません。 そのため、“驚き”重視の人には物足りないかもしれません。 しかし、その代わりといっては何ですが、伏線はしっかり提示されていて、割合フェアだと思います。 ミステリらしいミステリであり、舘シリーズらしい舘シリーズです。 そのため、個人的にはとてと面白かったです。 一応次回作が最後の舘シリーズとのことなので、名残惜しみつつ、楽しみにしています。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ドイツ様式の旧めかしい館。
約80年前、田宮弥三郎がドイツから娶った美女エリザベートのために建てたものである。 その後、館は不可解で凄惨な事件に見舞われる。 エリザベートは2年足らずで夫子を捨て帰国。 70年前には管理人一家が無理心中。 そして昨年のクリスマスには管理人含め一族6人殺しが起きた。 それもグリム童話「おおかみと、7ひきの子やぎ」に見立てて。 1人目の被害者には2人目の被害者の指紋が。 2人目の被害者には3人目の被害者の指紋が。 まるで6人が順番に殺し合った様子。 では6人目が最終的な加害者かというと、6人目は自殺とは思えない死に様だった。 いったいおおかみは誰なのか? なぜ子やぎは殺されたのか? やはり館の呪いなのか? 残された一族は真相を探るべく館へ訪れたが―・・・ 旧い洋館。 不可解で凄惨な過去。 幻想的な肖像画。 お金持ちの一族。 異国から嫁いできた美女。 密室状況。 見立て殺人。 これらのキーワードからわかるように、ミステリの要素満載です。 こてこての館ミステリ好きにはたまらないと思います。 時系列は少し複雑で、物語は1999年の「序章という名の終章」から始まります。 主となる時代は1990年で1989年の一族6人殺しの真相を探ります。 その際、70年前の管理人一家無理心中事件、さらにエリザベート帰国の真相へとリンクしていきます。 登場人物も時系列も多いですが、著者の文才か、意外と混乱せず読みやすいです。 事件は二転三転し、どんでん返しがあります。 最も古い事件は次に古い事件へ、次に古い事件はその後の事件へと、事件はすべて関連しています。 また、密室のトリックは明確にされるし、見立てにも意味があります。 そのうえで推理に必要な伏線はしっかり提示されているので、フェアな作品だと思います。 しかし、こてこてで要素満載と記したように、少し盛り込みすぎ感があります。 館ミステリらしい館ミステリです。 こてこてながら質は高くて面白く、文章事態も読みやすかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
バーテンダーの松永にはここ最近楽しみにしていることがある。
常連客3人による歴史検証バトルだ。 珍説を提唱する宮田。 批判する美貌の才媛静香。 静かに聞き入る三谷教授。 松永はヒートアップするバトルをフォローしたり、逆に煽ったり。 適度に酒肴を提供して、このバトルを楽しんでいる。 今宵はどんな珍説が飛び出すのかー・・・ 6つの短編ですが、全て同じ設定条件下で、流れがあります。 1 悟りを開いたのはいつですか? 2 邪馬台国はどこですか? 3 聖徳太子はだれですか? 4 謀反の動機はなんですか? 5 維新が起きたのはなぜですか? 6 奇蹟はどのようになされたのですか? 各話一見与太話のようでありながら、しっかり検証されていて、説得力があります。 それほど敷居は高くなく、歴史知識がなくとも楽しめると思います。 作中の「その説がどんなに荒唐無稽に見えようとも、それが事態を最も矛盾なく説明できるのであれば、それが真実」という台詞が、本作をよく表していると思います。 しかし、歴史ミステリなのかはわかりません。 謎があり、それを解き明かすことがミステリならば、ミステリかもしれません。 ですが、本作は仕掛けも証拠もあるとは言えません。 ごくストレートに珍説を提唱し、経典や書状から引用・検証しています。 また、各話斬新な珍説ぶりが面白いですが、続けて読むとパターン化して少し飽きます。 登場人物も珍説提唱用キャラ、噛ませ犬用キャラと、話のための役割分担みたいな感じがあり、あまり感情移入したり親しみを感じたりはしません。 ただ、元々本作2話は創元推理短編賞応募作品であること、さらに5話追加した本作がデビュー作であることを踏まえると、十分面白く、作者の才能も感じます。 何と言っても応募作品だけあって2話は面白く、かつ、検証も力が入っている気がしますが、他の5話もしっかり調べられていると思います。 各話のタイトルに興味を抱いた方はオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
『メルヘン小人地獄』
とあるわるい博士は世とびきりすごい毒薬を作ろうとしました。 毒薬の材料は小人でした。 博士は小人の村へ行き、小人壺を投げては小人の首を捻切りました。 小人の村は血に染まりました。 小人は博士に復讐をちかいますが、博士はぽっくり死んでしまいました。 この恨みをどうしてはらそうか。 ハンナは吊るそう ニコラスは煮よう フローラは剥こう 復讐が成されて小人は大喜びしました。 「小人地獄」はご存知か。 三橋荘一郎は突然薄気味悪い男にそう声をかけられた。 男は三橋の家庭教師先の母親である恵子にそう伝えろと言ってきた。 恵子に伝えると、恵子は心なし嬉しそうな様子で、三橋に他言しないよう求めた。 不可解に思うこと数日、恵子が遺体で発見された。 全裸で逆さ吊り状態にされ、血は滴り肉は弛んでいた。 現場には小人の足跡のスタンプと「ハンナは吊るそう」というメッセージがあった。 猟奇的な殺人事件。 はたして犯人は誰なのか。 「小人地獄」とはいったい何なのかー・・・ 第一部「メルヘン小人地獄」第二部「毒杯パズル」の二部構成です。 第一部は一つのミステリであり、かつ、第二部のための前置きでもあります。 人物像や人間関係、そして本作の鍵である「小人地獄」についてなど。 警察は無能だったり傲慢だったり苛立たせる人物像のパターンも割合ありますが、本作では柔軟で苛立つことはありません。 また、とても面白いミステリですが、凄惨な描写が多いので、注意が必要です。 第二部は第一部の前置きがあるからこそ不可解な謎になります。 第二部の犯人は割りとすぐにわかりますが、メインは犯人当てではなく、名探偵の宿命です。 第一部が「どうやって」事件が起きたか、ならば第二部は「なぜ」事件が起きたかが、謎解きになります。 そこで、名探偵が真相を「暴く」ということについて、考えさせられます。 第二部は第一部と異なり凄惨な描写はありませんが、第一部より心が痛みます。 探偵によるミステリとしても十分面白いです。 叙述トリックでもないのに、ミスリードに引っ掛かり、物語が二転三転します。 推理して大団円ではなく、二部構成にすることで、名探偵の孤独にスポットライトを当てている点がまたいいです。 読了すると、タイトルにも意味があるように思われます(深読みかもしれませんが)。 しいていえば個人的に第一部の方が面白いと感じたのと、少し登場人物が人間離れしている気がします。 しかし、十分面白いミステリなので、凄惨な描写が大丈夫という方にはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
竹宮水穂はオーストラリアから帰国し、約1年半ぶりに十字屋敷を訪れた。
十字屋敷では数ヵ月前に竹宮グループ社長であり、水穂の伯母の頼子がバルコニーから飛び降り自殺した。 水穂の来訪は頼子の一人娘で、生まれつき足の不自由な佳織を心配してのことだった。 佳織は水穂の予想に反して着丈だったが、1年半ぶりの十字屋敷は微妙に様相を変えていた。 新たな人間の出入りと浮かび上がる歪み。 そして新たな美術品。 その一つがピエロの人形だった。 ある日悟浄と名乗る人形師が訪ねてきた。 悟浄いわくそのピエロの人形の持ち主は悲劇に見回れるというジンクスがあり、それ故に悲劇のピエロと呼ばれていた。 同じく人形師だった悟浄の父は生涯ピエロの人形を気にかけ、しかるべく処分をと言い遺した。 そのため、悟浄はピエロの人形を買値に上乗せするので譲り受けたいと申し出た。 実際、ピエロの人形は頼子が自殺した日に限って廊下に飾られており、頼子が最期に触れた物だった。 故に気味が悪いと仕舞われているばかりで譲り渡すのに抵抗はないが、一応頼子亡き今竹宮グループ社長であり、佳織の父である宗彦の許可を取って、後日引き渡しということで落ち着いた。 しかし、その晩宗彦が何者かに殺害された。 現場にはまたもやピエロの人形が置かれていた。 いったい誰が犯人なのか。 どのようなトリックが使われたのか。 水穂が思索する一方で、ピエロの人形は読者にだけ見たままの事実を語る。 はたして事件の真相はー・・・ 王道の舘ミステリです。 特殊な構造の舘。 不可解な過去の事件。 いわく付の品物。 どこか歪な人間関係。 まさに王道中の王道です。 途中余計な人間関係などで話が横道に逸れることもなく、文章も読みやすいです。 しかも、ただの王道の舘ミステリで終わらせてはいません。 そこにピエロの人形の視点を上手く組み入れています。 水穂の思索がメインですが、ピエロの人形は人と異なり思い入れなどなく、見たままの事実を語ります。 推理の伏線もミスリードも、両者を使って上手く構成しています。 ミステリにも「警察物」や「ハイテク物」など様々なジャンルがありますが、久々に王道ミステリを読みたいという方などにはとてもオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
夏村絵里子は結婚相談所エム・システムのシステムオペレーター。
絵里子はデータの入力中、交際相手である市丸輝雄がエム・システムに登録したことを知った。 腹立たしい中、土肥綾子という中年女性が会員データを見せてほしいと頼み込んできた。 綾子は兄の西浦勇がエム・システム経由で結婚した“勢津子”に殺されたと主張してきた。 綾子いわく兄は新婚旅行先のフィリピンで溺れ死んだ。 “勢津子”は兄との思い出の地フィリピンへもう一度行くと言ったきり戻って来ず行方不明。 綾子は“勢津子”のデータを見せてほしいと頼むが、絵里子は断った。 翌日新聞を読むと、何と綾子は殺されていた。 絵里子は心中複雑ながらも、輝雄になぜ会員登録したのか尋ねた。 すると輝雄は悪びれた様子もなく、単にサクラ要員として独身社員全員が入会させられたと言ってきた。 輝雄いわく特段審査などなく、簡易なアンケートのようなものに答えただけだった。 しかし、絵里子が後日データを見ると、輝雄が答えたとは思えない個人データが登録されていた。 データが勝手に増強されていた。 システム上でいったい何が起こっているのか―・・・ 1980年代後半に執筆されたため、フロッピーやカプラーといった古い箇所もあります。 しかし、この著書で記されている情報化社会への警鐘は、現実に大きな問題となっています。 正直登場人物が少ないため、犯人の予想はつきます。 ハイテク・ミステリですが、コンピュータの暴走や意思といったSFではありません。 あくまで情報化社会が今後抱えていくだろう問題をベースにしたミステリです。 そのため、殺人事件の恐さより、情報化社会の恐さがよく出ています。 本人の意図しないうちに別々で登録したデータが一か所に集積され、個人情報が埋められていく恐さ。 そしてそれに気づかないうちに関わっている恐さ。 その先見の明はさすが岡嶋二人氏です。 ハイテク・ミステリでもコンピュータに関して説明ぽくなく、グングン読めます。 ただ、メインが情報化社会への警鐘のためか、犯人の人物像や背景描写はあまりありません。 また、同じハイテク・ミステリならば『99%の誘拐』『クラインの壺』の方が上かなと思います。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
前作『六の宮の姫君』で卒論に芥川龍之介を選んだ<私>は無事書き上げ、学舎を卒業した。
アルバイト先だったみさき書房に就職し、新人編集者としてついに社会人へ。 新たな環境、新たな人間関係、そして新たな謎。 お馴染みの円紫師匠と共に謎を解いていく。 シリーズ初の学生ではなく社会人となった<私>。 今作ではどんな日常の謎が、<私>に何を与えるのか。 シリーズ通じて<私>は何を受け入れて成長し、今作ではどう受け入れて成長するのか。 多忙な日々の中、変わるものも変わらないものもある。 今作は学生時代の懐かしさや切なさ、そして新たな出発への希望を内包。 前シリーズの伏線や引用もふんだんに散りばめられた、ファンには嬉しい一冊。 <私>と円紫師匠シリーズ第五作目。 シリーズ久々の短編集です。 『山眠る』『走り来るもの』『朝霧』の三編構成。 所謂日常の謎を取り扱う「死なないミステリ」で、一見初期作のようですが、違いもあります。 前シリーズまで<私>は学生で、各巻の時間の流れは一年以内です。 しかし今作の<私>は社会人であり、次編との間に数年経過していることもあります。 学生は進級などから一年単位がハッキリしていますが、社会人となると異なり、時の流れが早いということかもしれません。 構成が初期作を思い起こさせるだけに、学生の<私>と社会人の<私>の違いが際立ちます。 前シリーズの登場人物のその後だけではなく、前シリーズの出来事や引用が再登場しています。 ここでも月日の流れや<私>の成長がうかがえます。 また、前シリーズ同様文学作品の引用が多いです。 ただ、初期は謎がメインで引用は謎解きやそこに込められたメッセージのためのサブだったのに対し、最近は引用が増え、サブと言えなくなってきた気がします。 個人的には勉強になりますが、初期の程度の方が好きです。 円紫師匠も<私>と食事しながら謎解きするか、落語をするかとパターン化してきた気がします。 <私>も謎に直面すると円紫師匠に頼るという考えにすぐ至ってしまいます。 初期の円紫師匠は変装したり山登りしていたり、人間味や面白みがあります。 シリーズ物の宿命かもしれませんが、そのあたりが少し残念です。 今作のテーマは「結婚」さらには「男と女のつながり」かなと思います。 これは第一作『空飛ぶ馬』から続くテーマだと思います。 第一作では「男と女のつながり」に抵抗があった<私>ですが、今作の<私>の反応は異なります。 今作は社会人の<私>の成長が見れる、ファンには懐かしく、切ないながらも嬉しい一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
季節は春。
<私>は最終学年を迎え、卒論に取り組みはじめる。 卒論は芥川龍之介。 そんなある日、近世文学の加茂先生にアルバイトを打診される。 先生には二年生のときのある出来事がご縁で、以来名前を覚えてもらっている。 卒論執筆のためワープロが欲しい<私>は、人生初のアルバイトをすることに。 アルバイト先はみさき書房。 水を飲むように本を読む<私>には嬉しいアルバイト先である。 指導係の天城さんに、図らずしも文壇の長老である田崎信先生と引き合わせてもらう。 田崎先生は芥川と出会っているため、芥川の人となりを聞けるかもと、機会を設けてくれたのである。 さっそく芥川について尋ねると、『六の宮の姫君』について芥川が呟いたという。 《あれは玉突きだね。・・・いや、というよりはキャッチボールだ》 ただ今昔物語の『六の宮の姫君』を元に、新たな芥川の『六の宮の姫君』が出来たというわけはないようである。 <私>は『六の宮の姫君』について調べていく。 調べるうちに、用語の出典元、芥川、そして菊池寛と『六の宮の姫君』執筆の謎は複雑に広がっていく。 はたして、芥川の言葉の意味はなんだろうか―・・・ <私>と円紫師匠シリーズ第四作目。 第三作『秋の花』同様長編です。 しかし、今作はこれまでのシリーズに比べ異色作だと思います。 前作までは基本的に日常の謎を取り扱う、いわゆる「死なないミステリ」です。 『秋の花』は死を取り扱っていますが、死そのものより真相を探る過程にある成長やメッセージに重きがおかれていると思います。 シリーズ通してそうした成長やメッセージが見られ、<私>は見守られています。 今作は解説の佐藤夕子氏の言葉を借りれば、「人となりをめぐるミステリ」です。 しかし、正直に申し上げるとミステリという印象はありません。 出来るだけ小説に寄せた論文という印象です。 佐藤氏は学問も謎を発見し、答えを見つけるある種のミステリと続けていますが、娯楽と学問とでは違うのではないでしょうか(私のような不勉強で読書家でもない者が言うのはおこがましいのですが)。 私はやはりミステリ小説ではなく、小説風の『六の宮の姫君』から読みとく芥川及び菊池の人物像と執筆の背景という論文を読んだというのが、正直な感想です。 一読では理解が難しいです。 論文のようで、小説でもあります。 論文ならば引用文の出典は脚注をつけたり、一覧の添付資料をつけたりします。 しかし、著者の意向で出典も文中に挿入されています。 それが私には読みにくく、会話文としても少々不自然と感じます。 また、<私>が調べるうちに、繋がりが見え、調べる対象が増えていきます。 論文ならばシンプルに章立てし副題をつけるところですが、あくまで小説なので書き方が異なります。 <私>の心情や『六の宮の姫君』と直接関係ない場面もあるため、整理しにくいです。 否定的なことを書きましたが、面白くないわけではないです。 芥川・菊池についてはもとより、論文執筆の姿勢や取り組み方という意味でも、勉強になります。 あくまで、私はミステリ小説を読んだというより、小説風論文を読んだという印象なだけです。 そういう意味で異色作であり、好みがあると思います。 読書家で芥川・菊池が好きな方はとても楽しめると思います。 しかし、芥川らに興味がない方や、一般的なイメージのミステリを求める方は合わないかもしれません。 本シリーズのファンは読むべきですが、人を選ぶ一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
季節は秋。
20歳の「私」は卒論を芥川に決め、取り組みはじめた。 卒業まで残り一年半。 「時」の流れを感じる「私」であった。 ところで、最近「私」の周りに時が止まってしまった人がいた。 津田真理子。 「私」が小学生の頃から顔見知りの、3歳下の後輩。 彼女は文化祭準備の合宿の夜、屋上から転落死した。 「私」にはもう一人、顔見知りの後輩がいた。 和泉理恵。 津田さんの葬式の際の彼女は、まるで影のようであった。 「私」はというと、悲しみよりも驚きがまさった。 「私」より年下の少女の一生が「私」の人生の中にすっぽり収まってしまうという不思議な感覚。 ある日、「私」の郵便受けに奇妙な封筒が入っていた。 中身は多少落書きのある教科書見開きのコピー一枚。 そこでは何故かアダム・スミスの「見えざる手」にマーカーが引かれていた。 また別のある日、和泉さんが学校にも行かず、ぼんやりと痛ましく座っていた。 「私」の家から見える場所で、見つけてといわんばかりに。 彼女によると、コピーは津田さんの教科書のものだが、津田さんの政経の教科書は棺に入れ火葬した。 存在しないはずの教科書のコピーがなぜ存在するのか。 そもそもなぜそれが「私」のもとに送られてきたのか。 「私」と円紫さんシリーズ第3作目。 シリーズ初の長編であり、初の死者。 はたして事故の真相は。 「私」は何を思うのか―・・・ 前2作は「私」の日常の謎を取り扱う、いわゆる「死なないミステリ」です。 短編集ですが一連の流れがあり、その中で「私」が「大人」になるため清濁受け入れていきます。 ミステリであり、「私」の成長記でもあります。 メッセージ性が強く、推理に関しては伏線ももちろんありますが、正直想像力で補う箇所も多いと思います。 今作はシリーズ初の長編であり、一人の少女の「死」からはじまるミステリです。 全2作と異なり「死」にまつわるため、前2作よりミステリの印象が強いです。 推理も割合前2作より想像力で補う箇所が少なく、しっかり伏線を回収し組み立てていけると思います。 犯人当てというより、事故の真相について考え、その流れで著者のメッセージが浮かんでくる感じです。 今作も前2作同様文学作品からの引用があります。 推理のための伏線であり、今作を理解するためのヒントやメッセージでもあります。 長編だからか、前2作より引用や語りがより多く感じます。 私が教養不足なだけかもしれませんが、馴染みがない作品の引用や語りが多いです。 文学少女な「私」はもとより、友だちとの文学談義。 前2作までは一つ賢くなった程度にしか思いませんでしたが、今作は諸所で評論を読んでるようで、少し疲れます。 友だちとの会話も高尚すぎて、女子大生の会話としては違和感があります。 今作はただの事故の真相を考えるミステリではありません。 明日を迎えることができなくなった少女の人物像。 残された者の苦しみ。 日常において転落死は身近ではありませんが、「死」に伴う喪失感や欠落感は誰しもが抱くものです。 「死」を通じて、「生きる」ことについて考えさせられます。 今作は死者がいるため、前2作のように甘酸っぱくとか、爽やかに締めるわけにはいきません。 生きること、そして救いについて考えさせられる、切ない一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
季節は春、「私」は20歳になり所謂「大人」の仲間入りをしたが、相変わらずお洒落より読書を愛する文学少女である。
ある日、友だちの正ちゃんがアルバイトをしている本屋へ出掛ける。 正ちゃんを冷やかしがてら国文コーナーを見ると、本が数冊逆向きに置かれている。 これはただのイタズラなのだろうか。 何故こんなイタズラをするのか。 またまた円紫さんと会う機会を得た「私」はさっそくことの次第を話す。 今作も「私」と円紫さんが日常の謎を解いていくが、そこで語られるものは人間の悪意だけではない。 「女」であること、「男と女のつながり」、そして「姉」との関係。 「大人」になるにつれ、受け入れていかなければいけないことが多くなる。 「私」もまた少しずつ受け入れ、成長していく。 「私」と円紫さんシリーズ第2作目。 今作も「私」を取り巻く日常の謎を、「私」の成長と共に解いていくー・・・ 「朧夜の底」「六月の花嫁」「夜の蝉」の全三編です。 構成は前作と同じで、やはり文学作品からの引用や、落語の噺も多いです。 さらに今作は俳句といった詩の引用も多いです。 軽い説明はあるため、私のような教養不足な者でも、わからないなりに楽しめます。 ひとつ賢くなった気分になれます。 しかし一方で、吉田利子氏の解説を読むと、その詩の意味、なぜその落語や詩が使われたか、それが結末にどう繋がるかなど、より作品の理解や北村薫氏の話の巧みさがわかるのだと思います。 それを思うと教養不足が口惜しいです。 前作の「私」は円紫さんと出会い、彼との謎解きを通じて「大人」の美しさも汚さも噛みしめ、成長します。 今作は前作でいう「女」や「男と女のつなかり」といった恋愛面が多目です。 「恋愛」もまた美しいだけでなく、汚い面もあります。 「私」は「恋愛」の甘さもほろ苦さも噛みしめますが、今作は前作よりほろ苦さが残る印象です。 また、今作は前作から少し見え隠れしていた「姉」へのコンプレックスについても語られています。 そこではよくある微妙な姉妹間の確執(実際は確執というほど重いものではないが)と、それぞれの思いが穏やかに語られています。 「大人」になるとほろ苦い思いをすることが多くなります。 しかし、すでに「大人」である「姉」との会話はほろ苦さだけでなく、人生の先輩として、そして「姉」としての優しさにあふれています。 そのため、ほろ苦くも優しい気持ちになれる一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「私」は19歳の女子大生。
文学部所属で読書を愛する典型的な文学少女である。 落語も好きで、機会があれば見に行っていた。 梅雨のある日、「私」はたまたま早起きし登校するも、講義はあいにく休講。 思わず欠伸をした瞬間、タイミング悪く、近世文学概論の加茂先生に見られてしまう。 少し気まずく思いつつも、加茂先生に誘われ、彼の研究室でコーヒーをいただくことに。 そこで「私」は雑誌「卒業生と語る」の聞き手役を打診される。 卒業生は「私」が追い掛けている噺家春桜亭円紫。 勿論「私」は引き受け、無事雑誌用の座談会を終えた。 その後「私」、加茂先生、円紫師匠の3人で打ち上げをすることに。 ほどよく酔いもまわる中、加茂先生が幼少期の謎「織部の霊」について話し出す。 さっぱりわからない「私」。 しかし、円紫師匠には真相がわかった様子。 北村薫氏デビュー作にして、「私」と円紫師匠シリーズ第一作目。 「私」を取り巻く日常の謎を、「私」の成長と共に解いていく―・・・。 「私」の19歳から20歳にかけての成長を全5編の日常ミステリと共に見守る構成です。 5編はそれぞれ異なる独立した日常の謎である一方、梅雨から冬にかけての一連の流れもあります。 何気ない話の中にしっかり伏線があるといえばありますが、少し想像力も必要かと思います。 日常を「私」の視点で辿りますが、彼女は物事への感想や気付きを、文学作品の引用で表現することが多いです。 探偵役も噺家なので、落語の引用も多々あります。 引用の多さが鼻につくような文体ではないのですが、私自身の教養不足から、想像や共感がしにくいときがあります。 また、「私」は1980年代の昭和の女子大生なので、時代の違いを感じる箇所が多々あります。 女性の社会進出の過渡期なのか、現代より「女のあり方」についての認識や理解が複雑な様子がうかがえます。 「私」は社会に大人と認められる20歳を目前とした19歳の少女です。 知識は豊富でも経験は少なく、初心なところがあります。 大人は子どもと違い、甘くもなければ汚いところも多々あります。 しかし、そればかりでもありません。 5編はそれぞれ異なる色があり、酸いも甘いもあります。 「私」は5編を通じてそれらを噛みしめ成長していきます。 ミステリとしても「私」の成長記としても面白く、「私」の成長を円紫さんと見守りたい一冊です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
興信所への依頼というのは後ろめたいものらしい。
ある日、平林貴子と名乗る女性が興信所へ訪れた。 彼女はおよそ事件とは思われない奇妙な依頼をしていく。 平林貴子は恐らく偽名。 彼女自身の最低限の情報も、彼女と依頼内容との関係も一切秘匿。 彼女は次々と興信所を訪れては、同条件で異なる奇妙な依頼をしていく。 いったい何が目的なのか。 一見事件とは思われない奇妙な依頼だが、各々の調査報告は思わぬ大事件と繋がっていく。 彼女はいったい何者なのか。 大事件の真相は。 犯人は誰なのか―・・・ 第1章 WHO? 第2章 WHERE? 第3章 WHY? 第4章 HOW? 第5章 WHEN? 終章 WHAT? タイトルに「5W1H殺人事件」とあるように、全6章で構成されています。 第1章から第5章はそれぞれ異なる興信所なので、依頼内容は勿論のこと、各章の探偵(主人公)も異なります。 各章の依頼内容は、その章のタイトルとリンクしています。 例えば第1章 WHO?の依頼内容は端的に言えば持ち主探しです。 章のタイトルの疑問詞が調査経過で判明し、各章の調査報告を繋げるていくと、終章で真相へと至るメドレー・ミステリーです。 コンセプトは非常に面白いです。 依頼内容は本当に奇妙で、一見殺人事件とは無関係です。 依頼内容自体が面白いですし、各章のタイトルと依頼内容のリンクは上手いと思います。 読み進むにつれ、段々と真相が明らかになるだけではなく、事件も大事になっていくためワクワクします。 各章の主人公が異なる点も良かったです。 今回の主人公はどんな人物かなと楽しみながら読みました。 その時合わない主人公も次章では違う人物になりますし、誰かしらには感情移入できるかと思います。 各主人公の捜査方法も、なるほどそうやって調べるのかと感心しました。 コンピュータ関連の箇所はさすが岡嶋二人氏です。 しかし、肝心の真相解明は非常にあっさりしています。 犯人も意外といえば意外な人物なのですが「えぇ!この人が!?」というより「あぁそうでなの」という感じです。 そこに至るまでがとても緻密で、外堀を埋めていく感じだっただけに残念です。 少しアンフェアな気もしますが、しっかりとしたミステリーで面白くないわけではないです。 岡嶋二人氏だから期待値が高かったためこの点数になりましたが、他の作家さんならばもう少し高得点にしたかもしれません。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「ななつのこ」「魔法飛行」に続く、駒子シリーズ待望の第3弾。
クリスマスにみぞれが降る中大疾走した駒子は風邪をひいてしまう。 駒子いわく日頃の行いが良いということで、幸い2~3日で軽快し、大晦日へ。 入江家はお節作りで忙しく、普段料理をしない駒子と末妹もこの日ばかりはお手伝い。 そんな中、駒子は母親から買い物とあるお使いを命じられた。 お使い内容は、お節に飾る松の葉を公園から「分けていただいてくる」こと。 駒子はしぶしぶデパートに来たものの、これから公園へ確実にあるかもわからない松の葉を取りに行くのは面倒くさい。 そんなとき、デパートに大きな門松が。 <魔がさす>とは誰にでもあること。 こっそり手を伸ばし折ろうと四苦八苦していると、思いがけない人に声をかけられる。 息が止まりそうなほどびっくりした駒子の後ろには、警備員のアルバイト中の瀬尾さんが。 瀬尾さんからクリスマスに貰った羊のぬいぐるみのお返しをしていない駒子。 お返ししようにも、必要最低限のものしか持たない人に何を送ればいいのか。 「瀬尾さんにまた、読んでいただきたい手紙があるんです。」 駒子は瀬尾さんに「謎」をお返しすることにした―・・・ 「ななつのこ」は全7話、「魔法飛行」は全4話。 どちらも駒子が日常の謎を手紙にしたため、瀬尾さんが返事で解答する形式でした。 全て異なる短編でありながらしっかり伏線が散りばめられており、最終話でそれらの伏線が回収されます。 しかし、今作は<スペース><バックスペース>の2部構成に、おまけ的にエピローグという形式です。 従来の手紙のやりとりや、最終話でまとめる形式とは全く異なるとはいわないですが、全く同じでもないです。 <スペース>の謎は<スペース>内で明らかになり、<バックスペース>で更に裏側がわかるという形式です。 そのため、今作は駒子の感性や比喩表現は少な目です。 駒子シリーズは全4作の予定とのことなので、今作は登場人物の肉付けをし、関係性を明確にすることで、最終巻への布石としたのかと思います。 前2作と同じものを期待すると、少し違和感があるかもしれません。 駒子シリーズが好きな方、駒子と瀬尾さんの関係が気になる方などにはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
前作「ななつのこ」の待望の続編第二弾。
前作で主人公・入江駒子は作家・佐伯綾乃に人生初のファンレターを送る。 ついで、自身の身の回りで起きたミステリについても綴ったところ、まさかの返事と解答が。 そして紆余曲折を経て、駒子は瀬尾さんと出会い交流を持つ。 今作では、駒子は日常のミステリを自分なりに物語にして瀬尾さんに送ることに。 瀬尾さんから物語の感想とミステリに対する解答の手紙をもらい、また駒子の物語を送り―・・・そんな二人だけのやり取りのはずだった。 ところが第一作を瀬尾さんに送った後、名無しの第三者から手紙が来た。 彼(彼女)は駒子の物語だけではなく、駒子自身についてもよく知っている様子。 一体全体どういうことなのか―・・・ 前作「ななつのこ」は駒子と綾乃さんによる手紙のやりとりという形式でした。 駒子の日常ミステリと作中の「ななつのこ」のミステリ、綾乃さんからの返事兼解答。 そして前六話の伏線が最終話でまとまるといった展開でした。 今作「魔法飛行」は駒子と瀬尾さんの手紙のやりとりですが、前作との違いがあります。 駒子の日常ミステリを、彼女自身が彼女の言葉で物語として書いています。 その物語を瀬尾さんに送り、瀬尾さんが物語の感想とミステリの解答を駒子に送るという形式です。 しかし、名無しの第三者から駒子に手紙が届きます。 三通届くのですが、段々と送り主が追いつめられている様子が見て取れ、さすがの駒子も楽観視できなくなってしまいます。 全四話ですが、前三話の伏線や手紙の謎が、最終話でまとまるといった展開です。 前作が好きな方は、今作も好きだと思います。 前作同様の駒子ワールドです。 駒子独特の感性や比喩表現で物語は綴られています。 物語から、どこか不器用で図太くて、でも繊細で可愛らしさがうかがえます。 十九歳のこどもと大人の境目にいる女の子の、ふとした悩みや不安、傷ついたことは、年が違うにもかかわらず、自分にも思い当たることがあります。 駒子の悩みに思い当たる人、懐かしい人はいると思います。 なぜこんなに心に響くのか、愛おしい気持ちになるのか。 駒子というか、加納朋子氏の言葉はすんなりと心に入って共感してしまいます。 今作も前作同様、駒子の友達の魅力的な女の子たちが出てきます。 みんな欠点も、小生意気なところもありますが、一方で少女らしい繊細さもうかがえ、可愛らしいです。 前作同様、誰かが亡くなるといったことはありません。 人によっては歯牙にもかけない、駒子の日常で起きたささやかな事件が主体です。 しかし、いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにある。 本当に大切な謎はいくらでも日常にあふれていて、答えを待ってる。 あまりミステリらしくないようで、しっかりミステリの要素は備えています。 とても穏やかで、ロマンティックな気持ちになれるミステリです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
車に轢かれ引きずられ、瀕死のところをさらに殴打。
そんな惨殺死体が見つかった。 被害者の名前は森元隆一。 「私」は「あるじ」と共に現場へ向かうも調べるうちに不可思議な点が。 妻・森元法子の不審な行動。 八千万の保険金。 ネクタイピンの消失。 しかし法子にはアリバイがあり、「私」と「あるじ」は行き詰ってしまう。 一方、別の「彼ら」はそれぞれの「持ち主」とともに塚田和彦に関わっていく。 背後に別の女の影。 妻にかけられた高額の保険金。 しかし、彼も法子同様、状況的に「黒」でも物的証拠がなく「白」。 そんな二人が一本の線で繋がる。 彼らは保険金交換殺人を行ったのか。 それとも真犯人は別にいるのか。 マスコミは連日彼らを報道し、二人は時代の寵児へ。 刑事・探偵・目撃者など、十人の「財布」の視点から事件を読み解いていく―・・・。 財布視点という設定が非常に面白いです。 所謂「神の視点」とは異なり、あくまで財布なので見たり、財布に入れられたお札以外の物を確認したりすることは出来ません。 持ち歩かれた財布が、内ポケットやバッグの中から聞いた話という形になります。 財布を通して事件の真相を見ていくわけですが、それだけではなく、持ち主・財布の個性も綴られています。 財布の個性は工夫されており、形状・一人称・持ち主の呼び方などがそれぞれ異なります。 そのため、読み手だけではなく、財布自体も事件を気にしていたり、持ち主を心配していたりする様子が面白いです。 無機物だけれど上手く擬人化されており、財布の持ち主への愛情や思い入れには、感情移入できると思います。 いくつか不満点もあります。 犯人については、少々急展開すぎる気がします。 動機についてもあまり納得できません。 十人の財布が出てきますが、あまり必要なかったのではと思う財布もあります。 また、財布は「神の視点」でも「当事者」でもないので、スピード感はないかもしれません。 しかし、全編通して非常に面白かったです。 財布視点という設定だけでなく、財布・持ち主のキャラクターも活きていると思います。 事件そのものの真相も気になりますが、財布の持ち主は事件にどう関わるのか、持ち主はどんな人で事件のどこが明るみになるのか。 事件・財布・持ち主それぞれが気になって、一気に読み進めてしまいました。 とても面白い一冊でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
頭狂人、ザンギャ君、aXe、伴道全教授、044APD。
例の五人がかえってきた。 自身が考えた密室トリックを自慢したい! 被害者に恨みがあるわけでも、人を殺したいわけでもない。 トリックを自慢したい、ただそれだけ。 そのために、彼らは実際に密室殺人を実行し、さぁ解いてみろと出題する。 密室殺人ゲームシリーズ第三弾。 今回はどんな密室トリックが出題されるのか。 五人の所謂「中の人」はどんな人間なのか―・・・ 本作は外伝的作品ということもあり、前二作を読了済みであることが前提です。 しかし、外伝的作品とはいっても、短編集ではなく一つの長編です(終始一人の出題というわけではありませんが)。 過去作の登場人物を掘り下げるわけでもありません。 そのため、前二作に比べページ数は少ないですが、今までのシリーズと形式は同じです。 本シリーズは五人による推理ゲームですが、トリックの質は前二作に比べ少々劣ると思います。 劣るというか、「そんなのありか」という印象を抱くかと思います。 トリックの解答も前二作に比べスッキリ提示されたとは言い難いです。 しかし、本作は作者の実験的要素を含んでいる気もするので、その辺りはあくまで外伝的作品だからと割り切りました。 密室殺人ゲームがネット社会でどのような事態になっているのか。 本作の場合はどのようにネット社会と結びつき、影響しているのか。 その辺りを楽しんでいるシリーズのファンの方や、五人の「中の人」を知りたい方にはオススメです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「見知らぬあなた」「ささやく鏡」「茉莉花」「時を重ねて」「ハーフ・アンド・ハーフ」「双頭の影」「家に着くまで」「夢の中へ……」「穴二つ」「遠い窓」「生まれ変わり」「よもつひらさか」の全十二話の短編集です。
ミステリというよりもホラーファンタジーのテイストが強いです。 ブラックな結末でゾクっとするタイプの短編で、世にも奇妙な物語のような雰囲気です。 実際、「家に着くまで」「穴二つ」の二作は世にも奇妙な物語で映像化されています。 短編ながら全十二話もあるので、ボリューム感があります。 話数があるので好みの話が一つは必ずあるのではないかと思います。 しかし、ミステリやホラーをある程度読み慣れた人はオチが読めてしまうと思います。 数話読むことで傾向を掴み、オチが先読みできるようになる人もいそうな気がします。 また、確かにゾクっとするタイプではあるのですが、少し軽めな気がします。 ゾクっとする怖さの方を求めている方は、オチが読めてしまうと当然ながら怖さが軽減されてしまうので、面白味が半減してしまうでしょう。 私は帯の謳い文句のおかげで期待が高かったので、少し残念でした。 世にも奇妙な物語のような雰囲気満載で、ブラックなオチだとは思います。 どんでん返しはあります。 しかしある程度先が読めてしまうため、更なるどんでん返しを期待してしまいます。 スッキリしたオチで綺麗にまとまっているのですが、つい物足りなく感じてしまいます。 ただ、先読みできるといってもオチの質やレベルはある程度保障されており、ある種安心感があります。 先述の通りボリュームはありますし、文章も読みやすく、質は高めの話ばかりです。 そのため、少し怖いブラックな話をサクッと読みたい人にオススメです。 個人的に世にも奇妙な物語のような雰囲気の短編集ならば、道尾秀介氏の「鬼の足音」の方がゾクっとしました。 ブラックなオチの短編集で、結末に読者の想像の余地があるもの。 悪く言えばあまりスッキリしないオチの方が好みならば道尾氏。 オチを先読みできなくもないが、割合軽めでオチがスッキリしている方が好みならば今邑氏かなと思いました。 十二話の中では表題となっているだけあって、「よもつひらさか」が一番面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|