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absinthe さんのレビュー一覧

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レビュー数79

全79件 21~40 2/4ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.59: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

SAS/ソマリア人質奪回作戦の感想

SAS プリンスマルコのシリーズです。
シリーズの解説はこちらを参考に・・・
http://osudame.com/novel/N22646

本作は人質救出作戦です。ソマリアでアメリカの外交官一家が誘拐されました。犯人側の要求はアメリカ外交関係者の全面撤収ですが、本国の大統領の決断は「一切の譲歩を禁ず」という非情なものでした。そんな中、CIAは犯人との交渉役にプリンスマルコを選ぼうとします。そのときプリンスマルコはリーツェン城(自宅)で恋人のアレクサンドラと週末を過ごしていました。交渉期限が目前に迫る中、CIA本部からプリンスマルコに依頼の電話がかかります。緊迫の一瞬。
受話器を取るマルコ「もしもし、こちらプリンスマルコ」
電話の最中にも恋人といちゃつくマルコ。彼女に覆いかぶさって、中を行きつ戻りつしながら、官能の陶酔に身を任せ話半分で依頼を聞きます。たまらずにアレクサンドラが叫びます「イッヒ・コンメ」。
CIA政策部副部長「私の話を聞いているのかね!マルコ」
プリンスマルコ「ソマリアへ行けばいいんでしょ?」

どんな境遇でもやる気満々なマルコ、怒涛のハイテンションの中での活躍、はじまり始まり……

本作に登場する美女紹介
★フッシャ  ソマリア人女性 現地レストラン経営者でイタリア人と黒人のミックス
 流れるような青い、長いチュニックをぴっちりと着込み、銀と金のブレスレットの金属的な音をたてながら進んできた。
 ポニーテイルにして纏めた、ふくらませていない、金の思いヘアピンで留められた髪が、信じられないほど反り返った腰のわれ目まで落ちていた。
 女王然とした物腰で、たおやかで同時に官能的な、自分の美しさと磁力に自身のある態度。

本書に登場するソマリアは社会主義体制が強力で、当時強大だったソビエト連邦の事実上の支配下にありました。当時はまだ、東アフリカ大旱魃も国家が三つに分裂したあの内戦もまだ起きていません。そんなわけで、本作のご当地ではCIAはKGBに大きな後れをとっています。
モガジシオ(ソマリアの首都)に着くやいなや、誘拐の黒幕はソマリア政府そのものかもしれない、あらゆる部屋が盗聴されていると警告されます。そうだとすると、敵はソマリア全国民!なんという絶望的な状況でしょう。現地警察の対応ものらりくらり、まったく要領を得ません。

最後の最後までスリルとサスペンス、バイオレンスの連続。死人もいっぱい出るし、××もいっぱい。
なぜ今回の誘拐が仕組まれたのか、最後に謎が明かされます。
底抜けの痛快アクションでもなく、最後は少し物悲しい・・・・
でもとっても面白いですよ!凄いですよ本作も。

SAS/ソマリア人質奪回作戦 (創元推理文庫 197-4 プリンス・マルコ・シリーズ)
No.58:
(2pt)

妻の女友達の感想

つまらなかったです。
本書は「女は怖い」をテーマにした短編集です。
外見が可愛らしい純真そうな女性が実は腹黒いというのは、それほど意外なネタなのでしょうか。
トリックもなんだかチャチですぐ解ってしまうし、人物も何か良く書けているという気もしません。
賞も取ったみたいなのに、どうしてなんだろうと思ってしまいました。absintheが男性だからですかね?
うーん・・・・女性が読んだら違う感想を持つとも、思えないんですけどね。


妻の女友達 (集英社文庫)
小池真理子妻の女友達 についてのレビュー
No.57:
(4pt)

アルカトラズ幻想の感想

普通に面白いです。ですが、万人に勧められるという本ではないかな・・と思います。新境地に挑戦した意欲作だとは思います。全部で4章からなる作品ですが、それぞれが、まるで違うお話のようで、全く異なるテーマで書かれたかのように見えながら、最後にはばらばらの伏線が一気にまとまっていきます。登場人物の一人だけがかろうじて全体を支えており、読んでいる間は目が点になります。しかも、第二章は小説ですらなく全体が一つの論文です。
第一章はある殺人事件
第二章「重力論文」という名前の論文
第三章アルカトラズ島
第四章・・・はネタバレで
最後の最後でばらばらな伏線が一つながりにまとまっていく快感は特別で、何だか銃弾で撃たれて飛び散っていくガラス瓶を、フィルム逆回しで観察しているかのようです。
残念なことに、最後のオチのための仕掛けに凝りすぎてしまった感が強く、進め方が強引過ぎる気がしました。

何か、新境地に挑戦した変わったものが読んでみたい方にはお勧めかもしれません。

▼以下、ネタバレ感想
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アルカトラズ幻想
島田荘司アルカトラズ幻想 についてのレビュー
No.56: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

SAS/イスタンブール潜水艦消失の感想

SAS プリンスマルコのシリーズです。
シリーズの解説はこちらを参考に・・・

====本書ではなくて、SAS プリンスマルコシリーズの解説です====
著者はフランスの作家でルポライターでもあるジェラール・ド・ヴィリエ。
主人公はソン・ナルテス・セルニシーム=プリンス・マルコ・リンゲ。王族に因んでプリンスマルコと呼ばれています。むさくるしいマッチョと違って小奇麗でオシャレな優男風のところがあります。SAS は、殿下という意味だそうでマルコはオーストリア出身の神聖ローマ帝国皇帝の末裔という設定で、城を改築する費用を工面するために危険な任務を引き受けるCIAの手先です。プリンスマルコは昔堅気で義理堅く、8カ国語を操る語学の達人で頭脳明晰でプレイボーイでちょっと悪、そして登場する女性たちにモテまくるのです。
ここまで女を思い通りに動かせたらabsintheも人生違ってたろうな・・・と考えたりもします。

著者は世界の(あくまで当時の)情勢に詳しいようです。どこまで事実かは知りませんが小説にはかなりのリアリティと説得力が感じられます。200巻にも及ぶのか?という長いシリーズなのですが、どの小説も異なる地域が舞台となって、そういったところがインディジョーンズや007を彷彿とさせます。
国家への忠誠心から動くスパイ等と違って自分のために行動していますから、プリンスマルコは普通に危険を怖がります。そういったところがジェイソンボーン等と違って人間味を感じさせ、本作の魅力になっています。危険なカーチェイスを切り抜けた後、「危なかった。死ぬところだった・・・」とハンドルに突っ伏してしばらく呆然としていたり、そういうことは最近の冷静なエージェントはあまりやりません。
時代は小説が書かれたころと同じ1970年代です。この手の最新の世界情勢をふんだんに盛り込んだ小説の例に倣って、本作でも時代に取り残された感があります。
当時ならば世界中が舞台であるというだけで大きな魅力にもなったのでしょうが、今時のスパイ物は1週間でも3か国ぐらいまわるのが普通なので、そういう意味でも時代を感じます。最近のエージェントは全ての行動をそれこそ分刻みで無駄なく行動するのに対し、本作はどことなくのんびり時間が進み、主人公にどこかゆとりを感じさせています。
ところで、さすがはフランス作家というべきか著者は男性読者のツボは心得ているようで、そういう意味でのサービスは満載です。
敵の女工作員をホテルのエレベータで裸にしたうえで、
「協力者になれ、さもないとドアを開けるぞ」(--メ)と脅し、
「そんな事はやめて、恥ずかしい」と懇願されても、
「三つ数える・・・」と非情に迫り、最後には
「何でもあなたの言うことを聞きます。」(#^^#)といわせてしまいます。
場面が目に浮かぶようでしょう?どの作品もこんな調子なのです。さすがは人気作家なだけあって、読者が何を読みたいか知り尽くしているようです。武器を物色している緊迫した場面でさえ、ドンペリニョンを見つけると「あの美人を口説くのに使えそうだ」などと考えていたり・・・
読者がピコピコハンマーを手にしていたら「頭の中はそれだけかい」と、10ページに一回は主人公の頭を叩いていることでしょう。

ハードボイルドの主人公は、武器には並々ならぬこだわりを見せるのが普通です。もし、フォーサイス等の登場人物だったら手入れのために銃を分解して組み立てるのに2-3ページ使っているところでしょうが、プリンスマルコは武器にほとんどこだわりを見せません。それどころか自宅(オーストリアの古城)に置きっぱなしで携帯すらしていない場合が多く、そういう意味でハードボイルドにあるまじき性格といえます。ためらわずに使うのは男の武器♂ばかりという始末……。しかもこっちは乱れ射ち。(*/ω\*)

まぁ、イマドキの若い読者には向かないかもしれませんね。absintheは創元の文庫をもっているのですが、古い本で字も小さくそういった意味でも読みにくくなっています。
女性の描写はあからさまに胸やお尻の大きさや肌の張り具合や顔の皺の様子とか、もう作者が女性をどういう目で見ているか知れてしまうというもので、感性豊かな女性の読者を引き付けるにはやや難があるといえましょう。個人的な主観ではどの作品も★9~10でも良いのですが、さすがに今ならもっと良書があるんじゃないでしょうか。

こういう良質?シリーズが、だれの目にもつかないまま埋もれてしまうのはさびしいと思っています。だから手元に残っている分だけでも再読して記録として残しますね。
====シリーズ解説ここまで====

本書は、本国で出版されたシリーズでの第一作にあたります。
シリーズ全体のお色気やバイオレンスは、本作に限って控えめです。

SAS/イスタンブール潜水艦消失 (創元推理文庫 197-2 プリンス・マルコ・シリーズ)
No.55:
(8pt)

死にゆく者への祈りの感想

20年前に読んだ作品なのに、印象がまったく消えません。
主人公のキャラクターも立っているのですが、悪人の親玉がすごいのです。
この大悪人は、非情で冷酷で病的なまでに完璧主義で、部下に厳しい一面を見せながら、弱い善人には優しい面も持っている・・・のですが、矛盾して見えるそれら性格が本作の中でまったく不自然さを感じさせない纏まりを見せています。神父や盲目の女性などもそれぞれに魅力的な個性と役割があり、こういった人物たちが、息遣いが聞こえてくるほどリアルに描写されるのです。まったく凄い作家がいたものです。
absinthe は同作家では「鷲は舞い降りた」をベストと思いますが、本作の方を同作家のベストに推す方の方が多いようです。この完成度の作品であればそれも納得できます。

読み終わって、ああ楽しかったという作品ではないです。読み終わった後、極度の緊張からやっと解放されたときの安堵感が楽しみたい方はご一読をどうぞ。

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映像化はされているらしいのですが、absintheは未見です。

死にゆく者への祈り (ハヤカワ文庫 NV 266)
ジャック・ヒギンズ死にゆく者への祈り についてのレビュー
No.54: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

SAS/セーシェル沖暗礁地帯の感想

SAS プリンスマルコのシリーズです。
シリーズの解説はこちらを参考に・・・
http://osudame.com/novel/N22646

創元文庫の扉から引用すると・・・
-------------------------
>>イスラエルが買い入れた「ヒロシマ」型原爆30個分の酸化ウラニウムを積んだ貨物船がインド洋で沈んだ。積み荷を追う各国の特務機関。CIAの特命を受けマルコはセーシェル諸島に。
-------------------------
言いたいことはわかるのですが、創元文庫は方針を誤っています。プリンスマルコシリーズを手にとってレジに向かう人は、上記のようなことを知りたいのではないです。
どういう女が登場するのか。そこがもっと重要です。要チェックポイントは以下を参考にしてください。

★イリヤ・イナリ フィンランド女 ルポライター
 アーモンド形の目をしており、錆色のアイシャドウをつけていた。彼女は見るからに、その道の経験は深いようだった。顔には皺が全くなく18歳くらいにも見えた。胸はかたく張りつめ、たるんではいなかった。二本の長い焼けた足の肌理のこまかい肌の下では筋肉の動きが良く見て取れた。仕草にも自信が満ちている。ただの性的魅力という以上のものが、彼女からは伝わってくるのだ。彼女の腰つきを見ていると、どんなお堅い人物でもいい加減おかしな気分にさせられるに違いない。

★ロンダ オーストラリア女 チャーター船の船員
 薔薇色がかったランニングから、こぼれ落ちそうな胸は、尻同様、この世のものとは思えなかった。縮れた赤毛が、角ばった顔を枠どっており、その顔は少々長すぎて、おまけに大きな近眼の眼鏡を掛けているときた。残念だ。こんな女神みたいな体の上に、こんな顔がのっているとは。

カーアクションあり、お色気あり、それから海中を探検するシーンもあって飽きません。
それからちょっとグロい拷問シーンもあります。


▼以下、ネタバレ感想
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SAS/セーシェル沖暗礁地帯 (創元推理文庫 197-1 プリンス・マルコ・シリーズ)
No.53: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

追撃の森の感想

Jディーバーは初めて読んだのですが、やはり多作の人気作家だけあって人物の描写はうまいです。
ぼんやり読んでいてもどのセリフが誰の言葉かすぐ分かるくらい上手にかき分けています。だから読むのに苦痛は無く、スラスラすすんでいきます。
ストーリーは大まかに言って、2人の女が森の中を逃げ回って2人の凶悪犯人が追いかけるというもので、全体の7~8割が題名どおりの森の中の追撃です。
逃げる方も追う方も相手を目くらましするためにトリックを掛けて欺きます。この知恵比べも面白いのですが、さらに面白いのは人物の描写です。
逃げる二人も追う二人もそれぞれが異なるタイプの凸凹コンビで、追跡劇だけでなくコンビの中の対立も起こって、単調になりそうな話を2転3転させて全く飽きさせません。
どの人物も魅力たっぷり、読者は逃げる方も追う方も知らず知らずに応援していることでしょう。おしまいにはドンデン返しもあるのですが、それより面白いのは連続して起こる小さなどんでん返しの方です。劇場で見せるような大掛かりなマジックではなくて、器用な手品師がテーブルで見せる鮮やかな連続技みたいな逸品です。

逃げる主人公ブリンは、頭が良く強い女なのに生き方が不器用で、私生活はへたくそと言っていいでしょう。もどかしくて応援したくなってしまいます。
追いかける極悪人ハートのセリフも大好きです。測るのは2回。切るのは1回。
完璧主義者が一人いると、話が引き締まりますね。


ところで、人物がせっかくリアルで魅力的だったのに、ストーリーが強引に人物を引っ張りまわしたため、全体でリアリティが壊れてしまっています。
どんでん返しの後には、それなら解るというところも出てくる半面、逆に余計に不自然なところもちらほらと。


▼以下、ネタバレ感想
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追撃の森 (文春文庫)
ジェフリー・ディーヴァー追撃の森 についてのレビュー
No.52: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

銃・病原菌・鉄の感想

面白い本でした。多方面から絶賛されている、言わずと知れた名著です。あまり説明すべきことも無いかとは思うのですが、まずは解説まで。
人類が現在に至るまで、どのように発展を遂げてきたか、現在に至るまでに進歩したかに見える文明と進歩が遅れて見える文明があるが、その差は何なのでしょう。
進歩していないかに見える文明は、人種的な優劣が差をつけたのでしょうか、それともそうではないのでしょうか。
こういった謎を農耕文明への移行期から近現代まで順を追って解説しています。謎を解き明かす過程が特に面白くて、歴史というのはそれ自体がミステリーに満ちていると感心させられた本です。歴史というのは、何々大王が隣国を攻めて滅ぼした、誰それが内政崩壊を引き起こした、何処そこで同盟が成立した、など、勢力の対抗ばかりが強調されがちですが、本書では歴史とはそればかりではないと教えてくれました。

本書に最適な読者は、理系の本は好きだけれども今まであまり歴史に関心が無く、歴史とは事実と年表の暗記にすぎないと思い込んでいたような者でしょう。absintheもそういった一人でした。実は考古学や歴史学は理系のセンスが重要な総合科学なんだと気づかされるその瞬間に、本書の醍醐味があります。まるで、かつて星を継ぐもので感動したような・・・・
・ユーラシア大陸に自生していた特別な稲の話題
・家畜化に適した動物とそうでない動物の違い
・ユーラシア大陸人がすでに克服していた病原体
・大陸の形状
こういった一見無関係な材料が次第により合わさって文明に大きな影響を与えていく過程が丁寧に解説されます。以下のような批判はあるようですが、批判を知ったうえでも面白かったです。他の歴史本を読みなおしてみるきっかけにもなりました。

--注意--
本書には問題も少なくないようです。多くの称賛を浴びながらまた多くの批判にもさらされています。特に歴史を専門とする学者からは冷笑されており、absintheとしては批判を読むたびに複雑な気持ちになります。歴史学者の書物を読むと「鳥類学者ダイアモンド氏は・・・」「生物学者ダイアモンド氏は・・・」と歴史学者で無いことをいつも強調されてしまいます。批判の多くを反芻すると、以下のように読めます。
・まだ判断が到底下せないような問題を断定して解説している
・対象を単純化しすぎている
歴史を専門としない学者が解りやすい歴史をまとめてしまって、専門家としてはやっかみもあるのだろうと思ったのですが、そう単純でも無いようです。
残念ながらabsintheには、歴史に対する素養がなさ過ぎて本書に対する批判のどれとどれが妥当なのかもよくわからないので、単純に推薦して良いものかとの迷いもありますが。

--さらに--
absinthe は新書だけ読了し、まだ文庫版は読んではいないのですが日本に関する記述が増補されているようです。その部分がさらに問題を助長しているという批判がありました。
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
ジャレド・ダイアモンド銃・病原菌・鉄 についてのレビュー
No.51: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

黒い家の感想

怖いです。本当に怖い。読ませ方も秀逸です。
主観ではこれほど恐ろしいことが続くのに、客観的にはあまりにも断片的な証拠しかないので第三者に救いを求めることすらできない。その間に恐怖の方は確実に忍び寄ってくるのです。その恐怖はそこいらの日常にさりげなく溶け込んでしまう様な、あまりに自然で、ありふれていて、それでいて真っ黒ななにか。
今まで確かで確実だと思った地面が実は底なし沼で、少しずつ少しずつ知らないうちに潜っていて、気付いたらもう腰まで漬かっていた。そんな感じのストーリーです。
ホラー好きなら堪らない一冊になるでしょう。まさに情景が迫ってくるような描写力です。

最後まで目が離せません。久々に凄いのを見ました。

本作を読む前は誤解していて、ラヴクラフトのように架空のモンスターやおばけが出るのかと思ってました。でももっと怖いものが出ました。本当の人間です。
うれしい期待はずれでした。



----
映像化されているのは知りませんでした。
見る勇気は無いけど。
★本書未読で映像情報も知らない人は、何も情報を集めないでさっさと読んだ方がいいです。
(勘のいい人は映像作品のキャスト一覧を見ただけで、ネタに気付いてしまうかもしれません。)

▼以下、ネタバレ感想
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黒い家 (角川ホラー文庫)
貴志祐介黒い家 についてのレビュー
No.50: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(3pt)

永遠の0の感想

この特攻というテーマは大変に重く、これを選んだ点は大変な決断だったろうと思い、まずご苦労様と言いたいです。
どう書いても批判は必至のテーマともなれば、全力で下調べに取材を行ったに違いありませんし、そういった意気込みは伝わってはくるのですが、作品に生かしきれなかったようです。
世間の評は賛否両論のようで、反響の大きさをうかがわせますが、なぜ反響が大きいのか不思議に思いました。批判の多くはなぜか小説ではなく著者の政治姿勢に向いています。
本作を読んで戦争賛美だと解釈する人は、ちょっと読解力に難があるかまたは全部を読んでない人でしょう。
まぁ、これだけ心に響かない作品だとこれが右翼思想だろうと左翼思想だろうと、もうどっちだろうとかまわないと思いました。

absintheは、以下では小説としての問題だけ書いてみます。
小説としては、全くつまらないものだと思いました。

小説として駄目な点は、戦闘の体験者としての視点に全く臨場感が無いことです。
著者の書きたかった本来のストーリーは「戦争体験者の話を取材する、戦争を知らない若者の話」だったはずが、「戦争を知らない第三者に取材する、戦争を知らない若者の話」のような内容になっています。戦争体験者を登場させたなら、読者は「戦場で見たこと」を期待するでしょうに、当の経験者に「戦場で聞いたこと」と「戦後に調べた事」ばかりを語らせています。
戦場の体験談と称して戦後の読書体験ばかり語っているのですが、そうまでしてわざわざ記述された読書体験、ここで何人が死んで、何隻が沈んで・・と延々と書かれるあたりも、少し戦記物を読んだ経験のある人なら知っていることばかりです。しかも、戦争の始まりから終わりまでを無理にカヴァーしようとしたため、それぞれの戦闘の印象もますます薄められてしまっています。

パイロットの描写するゼロ戦が、外からみた目線でしかリアリティを感じないのも気になります。飛行甲板に立って着艦を見届ける話、飛行場から飛び立つ飛行隊を見送る話には少しリアリティがあって情景も浮かぶのに、操縦席に座った話になるととたんに情景が浮かばなくなっています。着艦が難しいというエピソードを一生懸命述べるのですが、飛行甲板からゼロ戦を見た目線にこだわってばかりで、操縦席からの目線を語りません。パイロットは操縦席に座り風防を通して戦場を見たはずなのですが、地図上を進む戦闘機を駒として見下すように語ります。
absintheは、大戦中の戦闘機パイロットの戦記を読んだことがあります。日英米独の書籍(の和訳)を最低1冊は読んでいるのですが、操縦者が書いただけあって操縦席の情景はさすがに臨場感があったのを覚えています。本作は小説で、ドラマチックにするためなら多少の創作が許される立場にありながら、淡々と描写された戦記に劣っているのです。これではわざわざ小説にした意味もわかりません。パイロットの目線ならもっと他に書くことがあったはずです。本書には、操縦席の居心地、操縦席の臭い、操縦席の寒さ、操縦桿やペダルの重さ、エンジンの騒音や振動、肩にかかる荷重といった、体験者ならではの話がありません。主人公の青年が取材したのはただの自称パイロットだというオチなのでは?と余計に勘繰ってしまいました。
坂井三郎さんの敵飛行場の宙返りのエピソードを始めとしてノンフィクション戦記の引用が多いのですが、それぞれのネタ元の著作では体験者が主観で描写しているエピソードを本作ではせっせと伝聞に置き換えて「これは聞いた話だが」と語ってしまうので、当然のことならがネタ元よりもずっと臨場感の乏しいものになっています。小説というメディアは聞いただけの話を見た話のように嘘をつくのが許されるメディアだったと思うのですが、本書ではわざわざ見た話を聞いた話に翻案しているのです。
どうしても集めたネタを列挙しただけような印象がぬぐい切れず、登場人物の語りに最後まで命がこもりませんでした。

逆に情景がリアルに感じられたのは、少佐と下士官が碁を打つあたりを描写した整備兵の話だったり、戦後の航空ショーで日米のパイロットが互いの勇気を讃えあった話など、戦闘とは関係ない話ばかりです。せっかく苦労して集めてきた素材を著者の中で消化できなかったようです。百田さんは、もう少し想像力をもって戦闘の様子を描写してほしかったですね。

映像作品はまだ見てないのです。でも主人公が操縦席に座っているシーンをコマーシャルで見ました。期待はしてないのですが、こっちはマシかもしれません。


▼以下、ネタバレ感想
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永遠の0 (講談社文庫)
百田尚樹永遠の0 についてのレビュー
No.49:
(4pt)

TENGUの感想

おしいです。
スケール感や謎の出し方、どれも大好きなパターンでした。
不満は、ストーリーが動き出すまでにやや時間がかかったことでしょうか。
もう一つの不満は、ネタに関係するのでここまで。

次回作に期待です。


▼以下、ネタバレ感想
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TENGU (祥伝社文庫 し 8-4)
柴田哲孝TENGU についてのレビュー
No.48:
(7pt)

クトゥルフの呼び声

これをラヴクラフト代表作に挙げる人も多いと思われます。
他の小説よりもスケールが大きく、また本当にラヴクラフトらしい作品でもあります。



▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
No.47: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ループの感想

面白い。
びっくりしました。「リング」「らせん」という2作品の続編なのですが、前2作とまったくことなる作風なのに深い関係があるという。この手があったかとうならざるえません。作風は完全に前2作と異なっています。
これまでが、ホラー風、ミステリー風、と続いてきたのに本作はSFでした。
(★それでもSFとしては破たんしています。登場するコンピュータが能力強すぎです。しかし、それはこの作品の魅力と無関係です。)
しかもテンポもアイデアもよくて、冒険ものに移行しつつ最後には意外な展開もみせてくれます。
前2作は恐怖から逃れることが目的であったのに対して、本作では主人公の進行方向に自らの目標が見えるのが良いです。
それでいて、最後にまた意外な展開まであります。
ケレン味たっぷり、アイデアたっぷり、いいんじゃないでしょうか。
リングやらせんは好きになれなかったけれど、ループを読んだことが無いという人で、SFが好きな人は、騙されたと思って読んでみては?
本小説は、面白い遊園地を与えてくれて、詳細は遊んでたしかめてね、と言われて遊びまくって十分に満喫してきた気分になれました。

---------
他のレビューを見てやはりと思ったのですが・・・・
どうも「リング」や「らせん」の世界観が好きな人は、どうも本作を低評価にするようです。まぁしょうがないとは思います。続きとして読みたい方は避けた方がいいでしょうね。
良くも悪くも、前二作の世界観は完全に壊され、しかも無かったことにされています。


▼以下、ネタバレ感想
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ループ (角川ホラー文庫)
鈴木光司ループ についてのレビュー
No.46:
(9pt)

チャールズ・ウォードの奇怪な事件

ラヴクラフト全作品の中でも屈指です。
ここに出てくるギミックは、どれもここに書けません。先入観持たずに読んでくださいです。
アイデアがてんこ盛りで最後まで一気にに読めます。


▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
No.45:
(8pt)

エーリッヒ・ツァンの音楽

主人公は、ヨーロッパのオーゼイユという街でヴィオールを弾く老人と出会います。
老人の部屋にはなにやら恐ろしい秘密が隠されているようですが・・・というお話です。
短いので通勤時間内に読めてしまいます。
でも、密度が濃くて面白い話でした。

老人の雰囲気、怪しげな部屋の雰囲気、そしてラストの衝撃、どれも面白いです。




▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (2) (創元推理文庫 (523‐2))
No.44:
(9pt)

ダニッチの怪

ラヴクラフトの小説でも屈指です。
訳によって、ダニッチの怪とかダンウィッチの怪と呼ばれます。
超常能力を持った薄気味悪い子供に、恐ろしい出生の秘密があって・・・・
そして、大学教授たちがその陰謀を阻止しようと力を合わせて立ち向かっていくというお話です。




▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫)
No.43:
(9pt)

宇宙からの色

読んだのはもうずいぶん昔で、細部は忘れてしまいましたが。
ある長閑な丘陵地帯に隕石が落ちまして、有名な大学教授にもそれがなんだかわかりません。
隕石が落ちた周辺は奇怪なことが起こります。だんだん植物の色が失われて灰色に染まり始め、しかも動物もなんだか奇形になって・・・何があったのでしょう?
というお話です。謎が謎のままのところも含めて、とても面白いです。

最近、Jヴァンダミアの「全滅領域」を読んだのですが、真っ先に本作品を連想しました。

ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
No.42:
(9pt)

狂気の山脈にて

ラヴクラフトの全話の中でも屈指です。
南極大陸に向かった探検隊は、謎の生物の痕跡を地層に見つけるのですが、どうもそれは生物学の常識を覆すものなのです。
こういう展開ではお約束ですが、そうこうしているうちに、別れた分隊との連絡がつかなくなってしまいます。
さてそのモンスターともいえる生物の痕跡と行方不明は関連があるのでしょうかそれとも・・・

ラヴクラフトは自然科学に造詣が深かったのか、地層に含まれる生物の痕跡を調べていくあたりの描写はとても面白いかったです。


ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4))
No.41:
(5pt)

闇に囁くもの

ラブクラフトの面白さは、恐怖の存在をしっかり描写せず、恐怖の本体をほとんど全部壁の向こうに隠れたままにしておいて、その声とか気配とかそういったもので創造させるところにあります。でも、本作品は割とはっきり相手を見せてしまいます。

書かれた時代の分を差し引いて評価しないと高評価はしにくいですよね。


▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))
No.40:
(8pt)

インスマウスの影

片田舎の小さな町に、恐ろしいけど非現実的なお話をする酔っ払いの爺さんがいます。
どこかとんでもなく夢想的でとても本当とは思えないお話なのですが、そのお爺さんは本気で何かに脅えているようでもあります。
たまたまの?車両故障でその町で一夜を過ごすことになるのですが・・・・・というお話です。

いや、これは何かの勘違いで何も怖いものは無いんだ、ただの思い過ごしだ。明日になればみんな笑い話さ。そうにきまってる。
といいながら、少しずつ、少しずつ、恐怖の存在が明かされていきます。

怖いというより、薄気味悪いお話です。
ラブクラフト節炸裂です。


▼以下、ネタバレ感想
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ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))