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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数572件
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「村野ミロ」シリーズの第6作。前作「ダーク」から20年以上の時を経て還暦を迎えたミロが最後に愛した男や仇敵たちと、断ち切れないしがらみに終焉をもたらそうとするノワール・サスペンスである。
愛する男・ジンホが服役したことに加え、命に代えても守りたい一人息子を育てるために沖縄に移住したミロ。過去の全ての縁を切り、ひたすら子どもの安全を守って生きてきたのだが、還暦を迎える頃、刑期を終えたジンホが出所することになり、一緒に暮らすことを夢見て、その準備に勤しんでいた。健康な青年に成長したハルオは医学生でほぼ自立して生きられるだろうと安心していたのだが、突然、ハルオが刑務所のジンホに面会したことから、かつての仇敵たちに身元がバレ、親子二人の身辺に危険が迫ってきた…。 20年以上が過ぎ、ミロも還暦だというのに、やっぱりミロはミロ。生き抜くためにはどんな戦いにも怯まない。その壮絶な生き様を何の躊躇もなく描いていく桐野節も絶好調。読み始めるとあっという間にミロの世界に引き込まれて行く。女性が主人公のハードボイルドは、やはり桐野夏生が第一人者だと再認識した。 シリーズ愛読者には文句なしのオススメ。ハードボイル・ファンにも必読とオススメする。 |
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米国では一定の評価を受けているが、日本ではパッとしないマイクル・コリータ(A.ジョリー主演の「モンタナの目撃者」の原作者)の久しぶりの邦訳。カナダ国境に接する寂れた小さな島で起きた大量殺人とその背景にある社会不安を描いたハードボイルド・サスペンスである。
小型ボートに乗っていたイズレルが漂流する大型クルーザーに乗り込むと、船内は血まみれで7人の男が惨殺されていた。第一発見者になったイズレルは15年前に父親を殺害し、15年の刑を終えたばかりという過去があったため犯人視される。同じ頃、隣の島では父親から虐待されている12歳のライマンが密かに隠れ家にしていた廃屋で、大きな傷を負った若い女性を見つけた。女性は手斧を持ち、ライマンに気を許そうとしなかったが、ライマンは食べ物や薬を届けて心を開かせようとする。そんなライマンの行動を怪しんだ父親が、ある日、息子の嘘に気が付いた。イズレル、ライマン、傷付いた女性の3人それぞれが陥った苦境が明らかになるにつれ、犯行の裏にある醜悪な構造が暴かれて行く…。 落ち着いた語り口で凄惨な物語が繰り広げられる、緊張感のあるサスペンス。三人三様のハードボイルドな生き方が感動を誘う。ストーリーが進むごとに新たな衝撃が登場するので、何も前知識なしで読むことをオススメする。 |
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イギリスの売れっ子脚本家の小説デビュー作。都会に疲れた女性刑事が自分を立て直すために田舎に帰り、地元警察の一員として事件捜査に活躍する警察ミステリーである。
英国南西部の牧歌的な村で、裸で椅子に縛り付けられ、頭に鹿の角を付けられた死体が発見された。被害者は愛想が良くて人気者のジムという村のパブの店主。被害者と死体の異様さに誰もが驚いたこの難事件を捜査するのはリバプールから家族ぐるみで戻ってきた女性刑事のニコラで、転職時に聞かされていたのとは大違いのオフィス、人員、予算不足に悩みながら我武者羅に真相究明に突き進んで行く。それを助けるのがあまり期待されてなかった部下と、思いがけない証言者という、いわばお約束の物語構成だが、話の展開が早く、人物のキャラが明確なので最後まで飽きることがない。死体の猟奇的な姿とは裏腹に物語全体が柔らかい雰囲気なのは、代々住み続ける村人の気質や風光明媚な村が舞台だからだろう。また、ニコラを中心とした家族の愛情と葛藤というヒューマン・ドラマの側面も面白い。殺人の動機や謎解きに多少甘さがあるが、欠点と呼ぶほどではない。 読みやすく楽しめる警察ミステリーとして、どなたにもオススメできる。 |
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今、フランスで一番売れているというミュッソの2022年の作品。コロナ禍の混乱に乗じて謀られた殺人を、被害者の17歳の娘と元警視の珍コンビが調査・解明するバディ・ミステリーである。
持病の心臓発作で緊急搬送され入院中の元パリ警視庁警視・マティアスの病室に現れた17歳の医学部生・ルイーズ。患者の慰問のためにボランティアで演奏活動をしていると言いながら、マティアスに「元ダンサーだった母・ステラの死を調査してもらいたい」と依頼してきた。気乗りしないマティアスだったが、ルイーズから渡された資料を読むうちに、事故か自殺で処理されたステラの死に不可解な点があることに気付き、生来の刑事魂を刺激された…。 17歳の女子医学生と持病を抱える退職刑事の異色コンビが衝突しながら協力して事件の謎を解くバディもので、利発な少女と頑固な刑事という定型的パターンで物語は進むのだが、途中で犯人視点のエピソードが加わり、そこからは一気読みの展開になる。ミュッソ作品にしては構成がシンプルで主要人物のキャラも立っているため読みやすい。文庫で300ページを切る短さも良い。 あまり深く考えずにミステリーを楽しみたい方にオススメする。 |
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著者の江戸川乱歩賞受賞後の第一作。通訳捜査官という珍しい警察官を主人公に正義のための嘘は許されるのかを問う、警察ミステリーである。
新宿署で唯一の中国語通訳捜査官の七崎は、歌舞伎町で起きた中国人殺害現場から逃走した少年が着ていたジャンパーと酷似し、血が付いているものを息子の部屋で発見し、戦慄する。さらに、息子がネットで知り合った仲間と中国人狩りを繰り返していた証拠も見つけてしまった。犯人は息子なのか、動揺した七崎は誰にも相談できず、ひとりで真相を探ろうとする。しかも、通訳として取り調べに立ち会った際、捜査の目が息子たちに向かないように中国人証人の証言を曲げて通訳してしまったため、さらに窮地に陥った。自縄自縛状態で孤独な捜査を進めた七崎は事件の背後に外国人研修生制度の闇があることを突き止めたのだが、凶暴な闇組織に一人で立ち向かうことになる…。 通訳捜査官という存在を初めて知ったが、この職業自体が正義と捜査の間で苦しむ定めだということがよく分かる。さらに、家族を守るために咄嗟に吐いた嘘に縛られ、正義を求めながら嘘を重ねてゆく主人公の苦悩が重いリアリティを持って迫ってくる。警察捜査ミステリーとしての構成も素晴らしい。 単純な善悪で終わらせない、読み応えある社会派ミステリーとして多くの方にオススメする。 |
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ウェスタンものでデビューしたレナードが1969年に初めて書いた現代物ミステリー。本邦初訳でようやく読める喜びを感じさせる「レナード・タッチ」のクライム・ノベルである。
元野球選手で流れ者の農園労働者のジャック、農園主に囲われているハイティーンのナンシー、リゾートヴィレッジの経営者で町の判事でもあるマジェスティックの三人が出会い、行き当たりばったりに小さな悪事や騙し合いを重ねて行くストーリーは、多少のテンポの悪さはあるもののレナード・タッチの萌芽を感じさせる。大きな犯罪物語ではなく、いかにも小悪人がやらかしそうなエピソードの連打で最後まで飽きさせない。 記念碑的作品としてレナードファンは必読。現代ノワールのファンにも期待に違わぬ面白さでオススメできる。 |
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1970年代、ピンク・ヘルメットと過激な抗議活動で話題を呼んだ「中ピ連」。日本のウーマンリブの一潮流を作り出したこの組織のリーダーの真の姿を、周囲の人物へのインタビューから描き出そうとした意欲作。あえてピエロになって社会の壁を突き破ろうとした先駆者の蛮勇に敬意を払いつつ、時代から先走りすぎた者の悲しさをも容赦無く暴いていく。
半世紀以上経った今、中ピ連の成果は受け継がれているのだろうか? 国家や家や家族が女性の体を縛る状態は、多少なりとも改善されているのだろうか? 問題意識を喚起される作品である。 |
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控訴審で逆転無罪を喰らった高検検事が、自分は間違ったのか、運悪くひねくれ者の裁判長に当たってしまったのか苦悩し、事件の裏側を探る事件捜査が一方にあり、他方に念願の医学部入試を突破したのだが成年後見制度が壁になり入学金が払えないという若者のトラブルが置かれる。一見、無関係な二つのストーリーが人物関係が分かってくるとともに、二重三重に繋がっていく展開は見事。サブストーリーのヤクザの跡目争いも巧みに組み込まれ、良質なリーガル・エンタメ・ミステリーに仕上がっている。
終活で話題になる成年後見制度の落とし穴がくっきり見えてきて深く考えさせられた。 高齢者はもちろん、家族に高齢者がいる方々にもオススメしたい。 |
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英米を代表する現代ミステリーの巨匠・バークのゴールド・ダガー賞受賞作。デイヴ・ロビショー刑事シリーズの第10作である。
ルイジアナの地元保安官事務所の刑事で釣り用貸しボート屋も営み、妻と養女の三人で平穏に暮らしていたロビショーを、著名なフォトジャーナリストとして活躍しているミーガンが訪ねて来た。拘置所にいる黒人男性・ブルサードが看守から虐待されているというのだ。ロビショーが調べてみると、ブルサードはFBIの情報源として使われてるらしく、FBIが捜査の邪魔をしているのではないかと疑われた。さらに、過去に起きたブルサードの妻の自殺、白人のレイプ犯への私刑、ミーガンの父親が磔で殺された事件までもが絡んでいるようだった…。 物語はかなり複雑で登場人物も多くて読みやすいとは言えないが、ストーリーははっきりしている。主人公のロビショーのキャラも明快。落ち着いて読めば地味深いハードボイルドである。いつもながらアメリカ深南部の体に巻き付くようなドロドロした人間性にはうんざりするが、そこもまた読みどころである。 刑事、警察ものというよりハードボイルド・ミステリーとして読むことをオススメする。 |
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大学で諜報史を研究してきたという若き俊英の長編三作目。冷戦時代のイギリス、ロシア、アメリカ、MI6、MI5が入り乱れる諜報戦を生き抜いた伝説のエージェントが書いた暴露文書の出版を巡るスパイ・サスペンスである。
冴えない諜報史学者のマックスのもとに、MI6伝説のエージェントであるスカーレット・キングから手記の執筆の依頼が届く。もし本物であればイギリス政府はもちろん、アメリカをも巻き込んだ大変な話題作となり、映画化もされるだろう。期待に胸膨らませたマックスだが、学者として手記の真贋に疑問を持ち調査を始めた。するとマーガレットが殺害され、マックスは犯人としてMI5に追われることになる…。 とにかくストーリー展開が秀逸。第二次大戦末期から現代に至るまでのイギリス情報部の極秘作戦が圧倒的な知識で裏付けされたリアルなエピソードで明らかにされる。かつてのスパイ小説の王道を行くル・カレ、グレアム・グリーンと同じ迫真性で、しかも徹底的に良いやすさとエンタメ作品にこだわっているのだから面白くない訳がない。 古くからのスパイ小説ファンはもちろん、スパイ小説は難しくて苦手という人にこそオススメしたい傑作である。 |
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2021年に亡くなったル・カレの2006年の国際陰謀ミステリー。75歳の老境にありながら少しも衰えない世界の裏を見通す眼と鍛え上げられた技巧で、資源国を食い潰すイギリスの罪深さを糾弾する熱いサスペンス・エンタメである。
コンゴでアイルランド人宣教師の父とコンゴ人の母のもとに生まれたサルヴォはイギリスの大学を卒業後、多数の言語を操る類まれな言語能力を駆使し、アフリカ関連の通訳として活躍していた。ある日、国防省役人のアンダーソンから高額の報酬で秘密会議の通訳を依頼される。会議の目的はコンゴを安定させ、豊富な鉱物資源を活用して民衆を豊かにするために民族和解を進めようというものだった。しかし、会議の通訳だけでなく、参加者の部屋に仕込んだ盗聴マイクで内密の会話を盗聴する仕掛けに加担させられたサルヴォは、会議の真の目的がコンゴの鉱物資源を略奪する国際シンジケートの陰謀であることに気付き、それを阻止するために密かに行動し始める…。 植民地から独立を果たした後に続くアフリカの混乱、それに乗じて利権を拡大する国際資本の悪辣さを、これでもかと見せつける。その怒りのエネルギーに圧倒される。東西対立が終わっても世界が平和にならないのはなぜか、国際正義の理想が脆くも崩れ行くのはなぜか。巨匠は戦うべき相手をしっかりと描写してみせた。 ル・カレの陰謀ミステリーにしては読みやすいので、ル・カレ・マニアを越えた幅広い読者にオススメしたい。 |
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2021年〜23年に雑誌連載された連作短編6作で紡ぐ表現者の女性の物語。アイヌ民族の誇りも悲哀も全て引き受けて生きるヒロインの靭さが感動的なヒューマン・ストーリーである。
アイヌとして生まれた赤城ミワは、アイヌの伝統を受け継ぎながら革新するデザイナー、表現者として高い評価を確立した。生まれながらに差別に晒され、にもかかわらずというか、故に民族の誇りを持ち、揺るぎない生き方を貫く。その中でミワに関わってきた人々はミワの真性を掴むことができず、幸せになったり落ち込んだり、さまざまな空回りを繰り返す…。 桜木紫乃らしい靭い女、自律する女のロールモデルがここにある。背景となるアイヌ民族問題の扱いも上手い。 桜木紫乃ファンはもちろん、女性の生きづらさ、民族差別に関心がある方にオススメする。 |
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ご存知、2025年度CWAインターナショナル・ダガー賞の栄誉に輝いたバイオレンス・アクション小説。
文庫で200ページほどの中編だが、そこから溢れ出る怒りと暴力は圧倒的。ここまで徹底した暴力は日本のバイオレンスものでは珍しいが、それぐらいの熱量がないと不条理な世の中に対抗できないという女性たちの怒りの表れだろう。 とにかく、読め! 読めばすぐに文句なしの面白さが分かる。 |
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パトリシア・ハイスミスの1965年の作品。1966年に邦訳されたものを同じ訳者で改訳したという珍しいケースである。
イギリスの片田舎に暮らす作家のシドニーと画家のアリシアの若夫婦。ちょっとした夫婦喧嘩からしばらく距離を置くことになり、どうせなら「あなたが私を殺して埋めた」ということにしようと意見が一致し、アリシアは家を出た。作家としてそんな状況を楽しもうと、シドニーはアリシアの死体をくるんだつもりの絨毯を森に埋め、友人・知人には妻の行方について曖昧な発言を繰り返した。アリシアの行方についてさまざまな憶測が飛び交うなか、隣人のリリバンクス夫人はシドニーが絨毯を車に積み込むのを目撃しており、夫による妻殺害の疑いを深めていた。そこにアリシアの両親が捜索願を出し、警察が本格的にアリシアを探し始めた。アリシアの行方や家出の動機の説明に辻褄が合わなくなってきたシドニーは、徐々に追い詰められて行く…。 やってもいない犯罪、冗談のはずの「妻殺しごっこ」がのっぴきならない疑惑に成長していくプロセスが面白い。特に主人公がやってもいない犯罪の罪悪感に追い詰められる心理サスペンスは迫力がある。 半世紀以上前の昔話だが今読んでも少しも古びておらず、ハイスミスの魅力を堪能できる作品として、多くの方にオススメしたい。 |
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インド生まれ、アメリカ育ちの女性内科医の手になる医療ミステリー。南北戦争後のフィラデルフィアを舞台に、女性医師のパイオニアが周囲の偏見、ミソジニーと戦いながら殺人事件の謎を解く社会派色の濃い、良質なエンタメ作品である。
設立まもない女子医学校を卒業し、臨床医として現場に出ると共に教壇にも立つリディア。女性は医師に相応しくないとの偏見や男性同僚からの見下し、嫌がらせに屈せず、自分の信念を貫いていた。ある日、患者であり、友人だったアンナの溺死体を検視解剖することになった。警察は自殺と見ているのだが、アンナを知るリディアには自殺が信じられず、さらに解剖結果からも他殺を疑い、独自の調査を進めることになった。すると、自殺説にそぐわない証拠や証言が見つかり、リディアはどんどん調査にのめり込んでいく。そして犯人につながる証拠を見つけたと思ったとき、リディアを肉体的暴力が襲ってきた…。 洋の東西を問わず、偏見との戦いを余儀なくされる女性医師のパイオニアたちの物語はいくつもあるが、本作はそれを見事なミステリーに仕立て上げたところが素晴らしい。医学的正確さを重視した描写がやや重苦しいものの、ミステリーとしての展開は巧みで、誰もが満足できる作品である。 世のレビューに惑わされず、一度手に取ることをオススメする。 |
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1930年代に獄中作家としてデビューしたもののパッとせず、50年代にフランスで人気が出た黒人作家の1959年の作品。酔っ払った白人警官に同僚を殺され、さらに証拠隠滅のために命を狙われる黒人青年の逃走と白人警官による執拗な追跡のハードボイルド・ノワールである。
年の瀬のニューヨークの深夜、酔っ払った警官・ウォーカーは停めたはずの車がないことに気付き、そばにある食堂の黒人清掃員が盗んだと思い込む。身に覚えがない3人の清掃員たちは銃に怯えながらも事態を落ち着かせようとするのだが、ウォーカーは2人を射殺し、現場を目撃したもう一人の清掃員・ジミーも殺そうとする。ウォーカー自体が銃を撃った理由が分かっておらず、ましてやジミーは訳も分からず、ただ逃げなければ殺されると逃走する。かくてウォーカーとジミーは必死の追走劇を繰り広げるのだった…。 図式化すれば人種差別主義の白人警官と無実の黒人青年の間のヘイトクライムであり、善悪がはっきりした物語なのだが、1950年代のアメリカ、中でも差別反対の意識が強いニューヨークが舞台とあって、登場人物たちが差別に複雑な反応を示すところが読みどころ。ここのところの微妙なズレ、建前と身体的反応との矛盾が不気味である。 黒人が主役のノワール、ハードボイルドの系譜を知る貴重な作品として、ブラック・ノワール、ハードボイルドのファンにオススメする。 |
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毎回、新しい趣向で読者を迷わせる(楽しませる)スワンソンだが、その期待は今回も裏切られない。
自分を含む9名の名前が書かれた1枚のリストを受け取った9人の男女。リスト以外に同封されたものはなく、何のためのリストかさっぱり分からず、疑問に思うこともなく捨ててしまった人もいた。しかし、リストに載っているホテル経営者の老人が海岸で溺死し、さらにもう一人の男性がランニング中に射殺された。自分も名前が載っていたFBI捜査官のジェシカは9人の関連性を調べるために所在を確認し始める。一方、ホテル経営者の事件を捜査する地元警察の刑事ハミルトンは被害者の背景から動機を探ろうとする…。 ミステリーの不朽の名作「そして誰もいなくなった」へのオマージュ作品だが、舞台設定、話の構造が全く違っている。一人ずつ殺されるのは同じだが、9人が同じ場所にいるのではないため、連帯感もなければ襲われる恐怖や危機感もない。隠された共通点を知るのは犯人だけというのが、極めてスリリング。動機・真相が明らかにされると、事件の規模に対してこれ?っという違和感があるかも知れないが、犯人探しや犯行様態の解明に主眼を置かず、サスペンスを楽しむ物語として読めばなかなかの傑作である。 スワンソン・ファンの方はもちろん、ミステリー名作マニアの方にもオススメする。 |
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競馬ミステリーの金字塔「競馬シリーズ」が見事に蘇ってきた。父の跡を継いだフェリックスならではの、これぞ血統書付きの競馬ミステリーである。
探偵業から引退し、株取引や投資で生活しているシッドを訪れたスチュアート卿(英国競馬統括機構会長)はレースで不正が行われていると確信したのだが、自分の組織の保安部から相手にされなかったため、シッドに調査を頼みたいと言う。シッドはもう探偵は止めた、関わりたくないと断ったのだが、不正を示唆する資料を押し付けられた。その翌日、スチュアート卿の変死が知らされ、シッドの心が揺れた。妻には反対されながら気になることを調べ始めたシッドは、すぐに家族が危険にさらされる事態に巻き込まれた。不正の黒幕と思われる男から卑劣な攻撃を加えられたシッドは生来の正義感と反骨精神に駆られ、捨て身の戦いを挑むことになる…。 もう最初から最後まで競馬シリーズの醍醐味に溢れ、ディック・フランシスの作品を読んでいる気持ちにさせられる。ストーリー展開、キャラクター設定、競馬界の内情など全てが文句なし。さすがシリーズの終盤の作品を父と共著してきたフェリックスである。 新シリーズは翻訳者も出版社も変わったのだが、漢字二文字のタイトル、表紙デザイン、グリーンの背表紙など、これまでのシリーズをリスペクトした姿勢も好感度大。 競馬シリーズを読んできたオールド・ファンはもちろん若い読者にもオススメしたい傑作ミステリーである。 |
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北海道警大通署シリーズの11作目か(サイトによって数が違う 笑)、第一シーズンの完結作のようである。
相変わらず閑職に追いやられながらも実績を挙げ、ついに上層部が引き上げを考え始めた佐伯警部補、少年係ながら刑事事件につながる兆しを見逃さない小島巡査部長、現場復帰を果たし、機動捜査隊で充実した日々を送る津久井巡査部長。三人がそれぞれの職務に専心していたある日、闇バイト四人組が牧場に強盗に押し入り、弾みで牧場主を殺害する事件が発生。強盗の一人は奪った散弾銃で仲間を殺害し、さらに指示役の男から金を奪い返すために札幌に潜入してきたようだった。絶対に次の殺人を防ぎたい道警本部が札幌市内を隈なく捜索するも、犯人の所在さえ掴めないでいたのだが、佐伯が追いかけた置き引き事件、小島が担当した女子高生のスマホ強奪事案が、津久井たち機動捜査隊の強盗犯人追跡と関連することが判明し、捜査の網は絞り込まれていった。そして最後、追い詰められた犯人は人質立てこもり事件を起こす…。 いつも通りと言えば、その通り。安心して読める警察ミステリーである。本作は「シリーズ第一シーズン完!」という宣伝文句もあり、どういう結末をつけるのか注目したのだが、どうやら佐伯も津久井も警察を辞めるようで、佐伯の部下の新宮は新たな部署に引き上げられ、小島も人生の決断を迫られる。さらに警官の酒場「ブラックバード」も代替わりする模様。次作からどんな展開になるのか、首を長くして待ちたい。 |
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「道警シリーズ」の第3作。洞爺湖サミットを前に緊張の度を高める北海道警で制服警官が失踪した事件をメインに大臣警備、2年前の覚醒剤密輸おとり捜査を絡め、警察組織の悪弊と戦う警官たちの矜持を描いた警察冒険小説である。
1週間後にサミット警備体制の結団式を控えた日に一人の制服警官が拳銃を所持したまま失踪した。万が一を危惧する道警上層部は「何がなんでも探し出せ」と号令し、津久井刑事は捜索の専任を命じられた。ストーカーを撃って逮捕した小島百合巡査はその手柄を評価され、結団式に出席する女性大臣のSPに抜擢される。道警全体の信頼を失い、閑職に追いやられた佐伯警部補は消化不良のまま終わらせられた密輸入おとり捜査に疑念を持ち、一人で再捜査を始めた。使命感と任務に導かれた三人の捜査はやがてサミット警備でギリギリまで高まった道警の緊張を一気に爆発させる事態へと突き進んで行く…。 シリーズ3作目とあって主要な登場人物のキャラクターがより鮮明になり、役割分担も滑らかで、シリーズものならではの円熟味が出来上がってきた。プロローグから結末までの展開も無理なく、説得力がある。 日本の警察小説では、現在ナンバーワンのシリーズとして強くオススメする。 |
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