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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 21~40 2/27ページ

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No.518: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

胸熱度は抑制され、サスペンスはアップした新シリーズ登場!

「プロフェッサー」シリーズ、「ボー・ヘインズ」シリーズに続く新シリーズの第一作。殺人の犯人とされた姉を救うために36歳の民事専門弁護士・リッチが初めての刑事裁判に挑戦するリーガル・サスペンスである。
ハイウェイ沿いに顔写真入りの看板を並べ立て「看板(ビルボード)弁護士」と揶揄されるジェイソン・リッチ。高収入を得ながらアルコール依存症に苦しみ、所属する法曹協会からリハビリ施設に強制入院させられた。90日間の入院を終えて退院した直後、しばらく疎遠だった姉・ジャナから「夫殺害の容疑をかけられている。弁護してもらいたい」という電話が来た。民事での示談が専門で法廷に立った経験もないリッチだったが、いきなり両親を失うことになりそうな二人の姪を思うと弁護を引き受けるしかなかった。状況証拠や関係者の証言は圧倒的に姉に不利でリッチ自身もジャナを信じきれなかったのだが、それでも事務所仲間たちの助けを借り、事件の真相を明らかにしていくのだった…。
圧倒的に不利な状況から逆転無罪を勝ち取るというR.ベイリーお得意の展開になるのだが、これまでの作品とは違って主人公の弁護士が人格高潔、信念強固ではなく、ちょっと頼りない。その分、リーガル・サスペンスの要素が強められ、より読みやすくエンタメ性が強い作品と言える。
「プロフェッサー」、「ボー・ヘインズ」のファンはもちろん、リーガルもののファンならきっと満足できる傑作としてオススメする。
リッチ・ブラッド
ロバート・ベイリーリッチ・ブラッド についてのレビュー
No.517: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

技巧を凝らした倒叙ミステリーであり、優れた社会派ミステリーでもある

警察小説で人気を得ている英国女性作家の日本初登場作。殺人事件の謎解きを、事件前に遡って行くパートと事件後の経過をたどるパートを交互に並べて展開するという、不思議な構成の倒叙ミステリーである。
再開発の波が押し寄せ退去を強いられている、ロンドン中心部の貧しい地域の集合住宅で殺人が起きた。殺したのは、苦境にある住民を支援しているエラで、パニックになったエラが助けを求めたのが社会活動家でエラの母親代わりとも言えるモリーだった。見知らぬ男に襲われて殺してしまったというエラのために、モリーは男の死体を隠すことにした。という発端から謎だらけだが、そこから物語は事件の背景を探って行くエラの語りと事件発覚を阻止しようとするモリーの語りが交互に繰り返され、スリリングな展開を見せる。そして最後には…。
まず第一に極めて大胆な物語構成に驚かされ、さらに現在のロンドン、英国社会が抱える行き過ぎた新自由主義、経済格差、性差別などの課題にしっかり向き合った社会派のストーリーに唸らされる。重厚なイギリス・ミステリー界に期待の新鋭が登場した予感がする。
アイデア勝負の倒叙ミステリーとだけ判断するのは間違いで、読み応えある社会派ミステリーとして多くの読者にオススメしたい。
終着点 (創元推理文庫)
エヴァ・ドーラン終着点 についてのレビュー
No.516: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

衰え知らずなどとは失礼、脱帽するしかない

ロンドン警視庁ウィリアム・ウォーウィック・シリーズの第5作。ウォーイック警部と部下たちが王室警護本部の腐敗を暴き、ダイアナ妃へのテロに対応する警察ミステリーに、宿敵・マイルズとの知恵比べが加えられた、盛り沢山なサスペンス作品である。
王室の権威を笠に専横を続ける王室警護本部の腐敗を探れとの命を受けたウォーイックは腹心の部下たちを潜入させ、あの手この手で証拠を集めて行く。また、前作からメンバーに加わった元囮捜査官・ロスはダイアナ妃の専属警護官に任命され、奔放な妃の言動に振り回されることになる。さらに、ウォーウィックとロスが刑務所に連れ戻した詐欺師・フォークナーは悪徳弁護士・ワトソンと再び手を結び、それぞれの思惑を実現するために騙し合いと神経戦を仕掛けて来た。
という、微妙に絡まる3つの物語が破綻なく、並行して展開されるのだから面白くない訳がない。さらに、その構成の緻密さ、細部のリアリティはとても82歳の作品とは思えず、老大家の創作力に脱帽するしかない。
シリーズものなので1作目から読むのがベストだが、各作品ごとに完結する物語なので、本作から読み始めても十分に楽しめる。イギリス警察ミステリーの王道を行く作品として、どなたにもオススメしたい。
狙われた英国の薔薇 ロンドン警視庁王室警護本部 (ハーパーBOOKS)
No.515: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

警察ミステリーであり、国際陰謀ものであり、恋愛小説でもある

2022年のエドガー賞最優秀長編賞を獲得した、ハワイ在住弁護士の本邦初訳作。1941年から45年にかけての激動のハワイ、香港、日本を舞台にしたダイナミックなサスペンス・ミステリーである。
1941年11月、ホノルル警察の刑事・マグレディは白人男性と日本人女性が惨殺された事件の現場に赴いた。異様な状況に息を呑む間もなく、不審な男と遭遇し射殺した。さらに被害者の男性が米海軍提督の甥であることが判明し、警察上層部、州知事、地元有力者からプレッシャーをかけられる事態となった。地道な警察捜査で相棒のボール刑事とマグレディは、有力容疑者・スミスを割り出したのだが、すでにスミスはマニラ、香港方面に高飛びした後だった。後を追うマグレディは途中のウェーク島でもスミスの犯行を突き止め、香港で追い付いたのだがスミスの計略で香港警察に留置されてしまった。しかも、その日、真珠湾攻撃が行われ、香港は日本軍に占領され、マグレディは日本へと移送される…。
猟奇的殺人の犯人を追う警察小説で始まって、途中からは太平洋戦争時の香港や日本、アメリカを舞台にした国際陰謀ミステリーに展開し、最後は熱烈な純愛物語で締めくくられる。その大きく三つの物語のバランスが良く、各部の連続性もしっかりしているので読み応えがあり、満足感が高い大河ミステリーとなっている。まさにエドガー賞にふさわしい傑作である。
好みのミステリー・ジャンルを問わず楽しめる傑作として多くの方にオススメしたい。
真珠湾の冬 (ハヤカワ・ミステリ)
ジェイムズ・ケストレル真珠湾の冬 についてのレビュー
No.514: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

凝った構成だが、読みやすくて面白い!

テレビ脚本家出身の著者によるミステリー・デビュー作。女子高校生失踪事件をめぐるテレビ業界と地元の大騒動を関係者のインタビューだけで構成した、意欲的なサスペンス・ミステリーである。
2013年にメリーランド州の小さな町で発生し、全米を沸騰させた16歳の女子高校生失踪事件の真相は何か。10年後、作者(ダニエル・スウェレン=ベッカー)は事件関係者26人の証言を集めて事件の全体像を明らかにしようとするというのが、物語の構成。全編、短いインタビューを並べて行くことで、徐々に事件の様相が変化し、事件報道に熱狂する当時の世相の狂気を炙り出すのに成功している。
暴力と恐怖が主題の犯罪実話ものは昔からアメリカでは人気ジャンルだが、活字文化からテレビ、ネットの社会になって、その人気と影響力は高まる一方である。それは人間の本性に基づいたものではあるが、このままで良いのかという作者の問題提起は重要だ。しかし、それを抜きにしてサスペンス・ミステリーとしてのレベルが高く、一級品のエンタメ作品である。登場人物が多く、しかも人物表が無いのだがストーリーを追うのに何の問題もない。
予備知識なく、素直にストーリーを追うことをオススメする。
キル・ショー (海外文庫)
No.513:
(8pt)

何かが終わり、何かが始まり、生活は続く(非ミステリー)

元々は朗読会用に書かれた後、雑誌掲載された作品と雑誌用の連作短編、書き下ろしを集めた短編集。全13編、それぞれに味があり、ショート・ストーリー作家としての才能を感じさせる傑作エンターテイメント作品である。
中でも中年から初老に差しかかる年代の男女を描いた作品は人生の苦味や切なさが隠し味となり、展開やオチにツイストが効いていて唸らせる。
警察ミステリー、時代ミステリーの名手・佐々木譲の意外な一面が楽しめる一冊として、多くの人にオススメしたい。
降るがいい
佐々木譲降るがいい についてのレビュー
No.512: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

難事件の捜査中にカールが麻薬捜査の対象に??

デンマーク発の人気警察小説「特捜部Q」シリーズの第9作。犯人はもちろん犯行動機、犯行日時、さらには犠牲者すら不明という難事件に取り組むメンバーたちに、さらにチームの中心であるカールが麻薬事件の捜査対象になるという大惨事が降りかる疾風怒濤、ハラハラドキドキの警察ミステリーである。
60歳の誕生日に自殺した女性は32年前に車の修理店の爆発事故に巻き込まれて一人息子を亡くした母親だった。爆発時に偶然近くにいて現場に駆けつけた現殺人捜査課課長のヤコブスンは当時に抱いた不審感を思い出し、調査報告書を再読した結果、現場に食塩が残されていた事実に疑問を持ち、同じような事件がないか、特捜部Qに調査を依頼した。事件性などないと疑っていたカールだったが、調べを進めるうちに事故や自殺に見せかけた不審死が二年おきに起きている連続殺人ではないか思い始める。犯行の日時、被害者すら分からない五里霧中の捜査を続けていると、次の事件が近いうちに起きるだろうという結論に達し、特捜部Qは焦りを募らせてる。そんな折り、ヤコブソンはカールが麻薬関連事件で重要参考人になったと知らされる…。
シリーズでも屈指の難事件に加えて、カールが逮捕寸前に追い詰められるという波乱万丈の物語。読後はサスペンスとミステリーの満腹感に満たされる。デンマークのクリスマス事情やコロナ禍のデンマーク社会など背景エピソードも興味深い。シリーズは10作目で完結ということで、本作のクライマックスは強烈なクリフハンガーで終わっている。次作も必読。
シリーズ愛読者は必読!とオススメする。
特捜部Q―カールの罪状― (ハヤカワ・ミステリ)
No.511: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

久しぶりの力が入った法廷サスペンス!

リンカーン弁護士シリーズの第7作。ハラーの調査員としてボッシュも大活躍する、読み応えある法廷サスペンスである。
冤罪を訴える囚人の力強い味方との評判を得たハラーのもとには助けを求める手紙が殺到し、ハラーの調査員としてそれを選別していたボッシュはルシンダ・サンズという女性からの手紙に目をとめた。元夫である保安官補を射殺した罪に問われたルシンダは一貫して犯行を否認していたものの、発射残渣検査で陽性だったため裁判を避ける「不抗争の答弁」を選択して服役していたのだった。しかし凶器の銃が発見されていないなど不審な点があり、冤罪を確信したハラーとボッシュは調査を始めた。すると、何者かがボッシュとハラーの家に侵入し、警告を発してきた…。
結論が出ている裁判をひっくり返すためにハラーのチームが繰り出す法廷戦術は多彩かつ緻密で唸らされるのだが、それ以上に検察側の防御は固く、その壁を突破するためにハラーは捨て身の作戦を連発する。有罪か無罪か、静かなドンデン返しが繰り広げられる法廷シーンは実に力強い。日本とは全く異なる法廷の様相が極めてエキサイティングで最後まで面白く読める。さらにコナリー・ファンには見逃せないボッシュの健康状態のエピソードも印象的。ハラーのみならずボッシュ、ボッシュの娘・マディも、まだまだ主役を勤めそうである。
リンカーン弁護士シリーズ、ボッシュ・シリーズのファンには必読。法廷ミステリーのファンにも絶対のオススメだ。
復活の歩み リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
No.510:
(8pt)

マンネリ感は否めないが、十分に面白い

リンカーン・ライム・シリーズの第16作。ライムを殺すためにニューヨークに戻ってきた宿敵・ウォッチメイカーと最後の戦いを繰り広げる、おなじみのドンデン返しミステリーである。
N.Y.の高層ビル建築現場で大型クレーンが倒れ、複数の死傷者が出た。単なる事故かと思われたが、ネット上に市当局に宛てた脅迫状が公開され、24時間以内に要求が容れられなければ次々とクレーンを倒すという。市民の安全を憂慮した市長はライムに捜査を要請、ライムが率いるおなじみのチームは脅迫の裏に宿敵・ウォッチメイカーがいることを突き止めた。しかも、ウォッチメイカーがN.Y.に戻ってきたのはライムを殺す目的だったことを知る。こうして二人の頭脳戦が始まった…。
大型クレーンを倒壊させるという、恐怖感を煽るアイデアが秀逸。だが、事件全体の構図というか、ウォッチメイカーによる犯行計画がぶっ飛んでいるし、当然、それを防ぐライムの計略も凄すぎてリアリティが乏しい。それでも次々に繰り広げられるドンデン返しはいつも通りで、最後まで面白く読める。
マンネリ感は否めないが、安定のディーヴァー節が好きという方にオススメする。
ウォッチメイカーの罠
No.509: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

表紙のイメージとは異なり、骨太の戦争エンタメ作品だ

著者のデビュー作にして2021年のアガサ・クリスティー賞受賞作。選考委員全員が満点をつけたという高評価も納得の傑作戦争エンタメ作品である。
1942年、モスクワ郊外の小さな農村に侵攻してきたドイツ軍に目の前で母親や村民を皆殺しにされた18歳の少女・セラフィマは自らも殺される寸前、赤軍兵士に助けられた。赤軍部隊を率いていたのが元狙撃兵で狙撃訓練学校長のイリーナで、虚脱状態のセラフィマを「戦いたいか、死にたいか」と一喝し、母の遺体もろとも村全体を焼き尽くした。ドイツ軍はもちろんイリーナにも復讐心を抱いたセラフィマは誘われるままに訓練学校に入り、一流の狙撃兵になることを決意する。同じように家族を失った同年代の少女たちと共に厳しい訓練を経て、イリーナをリーダーにした女性だけの狙撃小隊を構成し、祖国防衛戦争の最激戦地となったスターリングラードに派遣された…。
18歳の少女が辣腕の狙撃兵に作り上げられ、独ソ戦終結までを戦い抜く冒険と成長というのが物語の骨格で、そこに祖国愛、敵に対する憎悪の深さ、さらに敵味方を超えた戦争の悲惨さ、戦場で露わになる性差別が重ねられ、重厚で斬新な戦争小説が出来上がっている。主人公たちの心理描写、アクションシーン、歴史の流れの解説も適切で500ページ近い長編ながら読みやすい。
戦争小説、冒険アクション、成長物語のファンに、表紙のイラストに惑わされることなく手に取ることをオススメする。
同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)
逢坂冬馬同志少女よ、敵を撃て についてのレビュー
No.508: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

つかみどころのない悪に、全身で怒りを爆発させる畝原!

「探偵・畝原シリーズ」の第2作。素性を隠して暗躍する詐欺グループと新興宗教のつかみどころのない悪に戸惑いながら、絶対に許せない所業に全身で怒りを爆発させる熱いハードボイルド・サスペンスである。
女子高生を出入りさせているマンション住人・森の調査を依頼された畝原は事実関係を調べ上げ、役割を果たしたのだが、森の父親が息子を説得する場に立ち会うように求められた。乗り気しないまま出かけた畝原は、教育者である父親が息子を殺害し、その場で自殺するのを目撃することになった。その後、事件の情報をつかんだテレビ局から「行方不明になった少女・本村薫の家族と森が関係があるらしいので、調べて欲しい」と頼まれる。本村一家は生活保護を受けているのだが、森は福祉担当だったとは言え、区は異なっており、不自然さは明らかだった。さらに、畝原が調査を始めると同時に、森親子の事件関係者が放火で死亡し、畝原に仕事を発注したテレビ局員が自殺するという異変が起き、しかも畝原自身も何者かに狙われるようになる…。
本作で畝原が相手をする悪は実体が見えず、その狙いや犯行動機も不明で事件の構図が掴めない不気味さが圧倒的。また、それに対する畝原の怒りの表出が強烈で、シリーズの中でも異彩を放つ作品である。シリーズ作品としては、周辺人物のキャラクターが揃ってきて家族思いの探偵という畝原の立ち位置が固まってきた、展開点の作と言える。
社会派のハードボイルドのファン、東直己ワールドのファンにオススメする。
流れる砂 (ハルキ文庫)
東直己流れる砂 についてのレビュー

No.507:

熾火 (ハルキ文庫)

熾火

東直己

No.507: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

畝原の怒りが爆発! シリーズでは異色の暴力的ハードボイルド

「探偵・畝原シリーズ」の第4作。血まみれで足に縋り付いてきた少女を保護したことをきっかけに、畝原が狂った犯人グループと警察に怒りを爆発させるハードボイルド・サスペンスである。
真夜中の街中で突然、畝原の足に縋り付いてきた少女は着ていたTシャツが血まみれで、裸足で、悪臭を放っていた。成り行きで病院まで付き添い、児童相談所に保護されるのを確認した。翌日、畝原の親友で児相の依頼を受けたコンサルタントの姉川と、少女が入院中の病院で待ち合わせたのだが、そこで少女を奪おうとする集団に襲撃され、姉川が連れ去られてしまった。ところが、警察の対応は鈍く、真剣に捜査する様子がないばかりか、何かを隠しているようだった。姉川の身を案じる畝原は、元警察官の玉木、旧友の探偵社社長の横山などの助けを借りながら、サイコパスとしか思えない犯人たち追う。そこに立ちはだかったのは、北海道警察の上層部、悪徳キャリア官僚たちだった…。
本作は腐敗した警察への怒りが凄まじい。これまでも警察には批判的なテイストだったのだが、それが極点まで達したようで、全身で怒っている。さらに、犯人たちの犯行、それに対する畝原の反撃がアメリカン・ノワール並みの激しさで、気の弱い読者には刺激的過ぎるかもしれない。家族想いで温厚な畝原の激変が強いインパクトを残す、シリーズでは異色の作品と言える。
シリーズ愛読者はもちろん、ハードボイルド、アクション・サスペンスのファンにもオススメする。
熾火 (ハルキ文庫)
東直己熾火 についてのレビュー
No.506:
(8pt)

良くも悪くも「目的は手段を正当化する」国だ、アメリカは。

日本での刊行は15年ぶりになるという英国人作家の長編ミステリー。ジョージア州北部、山間の町の保安官が疎遠だった弟の死をきっかけに家族の絆、自分の生き方を再生する人間くさいミステリー・サスペンスである。
12年も連絡を取り合っていなかった弟の訃報を受け取ったヴィクターは、気が進まないまま葬儀に参列した。町は違えどヴィクターと同じく保安官だった弟のフランクは、意図的に車に轢かれて殺されたという。兄弟は喧嘩別れになっており、ヴィクターはフランクが結婚したことも、離婚したことも、残された娘がいることも知らなかったのだが、葬儀で初めて会った姪のジェンナに「なぜパパは死んだのか、調べて欲しい」と懇願された。管轄が異なるために積極的にはなれなかったヴィクターだが、事件を担当する市警の消極的な態度に苛立ち、自分で捜査を開始した。すると、フランクが管轄する町の裏社会からフランクに関する悪い噂が流れてきた。果たして、フランクは不正を働き、仲間割れで殺されたのだろうか?
作品の基軸は憎み合って別れた弟との関係を築き直す、孤独な男の再生の物語である。そこに連続少女殺害事件を絡ませ、さらに捜査側とギャングとの闇を重ね、複雑で精妙なミステリーが展開される。主人公のヴィクターは我が道を行く狐狼タイプで、「目的は手段を正当化する」を体現した男なのだが、その根底には家族愛があるというヒューマン・ドラマに重点が置かれていて、単なる謎解き、アクションではない味わい深さがある。
警察ミステリーのファンはもちろん、ヒューマン・ハードボイルドのファンにもオススメする。
弟、去りし日に (創元推理文庫)
R・J・エロリー弟、去りし日に についてのレビュー
No.505: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

犯罪を消し犯人を作り出す、マジシャンのような辣腕(?)弁護士

1976年から書き継がれている12本の連作短編を一冊にまとめ、新たに翻訳した短編集。どんな依頼人であっても、無罪判決を得るのではなく無実にしてしまうエイレングラフ弁護士の魔術的弁護活動をユーモラスに描いたノワール・ミステリーである。
エイレングラフ弁護士のポリシーは「裁判に持ち込まずに依頼者を自由の身にする」こと。それが実現できなかった場合は報酬はもちろん、必要経費まで受け取らない。ただし、弁護料は法外なまでに高額で、一切値切ることはできない。という極めて特異な弁護士である。たとえ本人が犯行を自供していても、裁判が始まる前にいつの間にか別の犯人が名指しされる、その手練手管は魔術のようで、その実際はかなりの悪辣さである。弁護士ものと言えば、圧倒的に不利な被告を正義の熱弁で救う法廷シーンが読みどころなのだが、本短編集では法廷シーンは皆無で、容疑者から無実の人へのドンデン返しはエイレングラフの頭の中で展開され、読者はそのシナリオと結果を見せられるだけである。しかし、その技巧が切れ味鋭く機知に富み、12作品それぞれにインパクトがある。
弁護士もの、法廷ミステリーというよりノワール、コン・ゲーム的な味わいが濃い特殊な作品群だが、短編集ならではの軽妙さもあって、多くの人を満足させるエンタメ作品としてオススメしたい。
エイレングラフ弁護士の事件簿 (文春文庫)
No.504: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

人は見たいものを見、聴きたい声を聴く(非ミステリー)

自分に自信が持てず、鬱々とした日常に埋没していた40代独身の瀬戸口優子は、通勤途上の国道で出会った黒馬と目が合った瞬間から「心が通じ合」った。その黒馬・ストラーダは乗馬倶楽部の馬で、優子は試乗から始まり馬主になり、ストラーダの栄光を取り戻させようと、どんどんのめり込んでいく。優子は高額な出費を賄うために「一時的に公金を借り」始めたのだが、その総額は一億円を超えてしまった。そしてついに横領がバレたとき、優子はストラーダとともに逃げようとする。
言葉を介さない心と心の繋がりという幻想。その美しさと残酷さを、ほんの少しのユーモアと共に描いたファンタジック・ロマンである。
私の馬
川村元気私の馬 についてのレビュー
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(8pt)

完全犯罪を成し遂げた女が自首してきたのは、なぜか?

2022年のコニャックミステリー大賞を受賞し、人気上昇中のフランス女性作家の日本デビュー作。男を殺害して焼いたとして自首してきた女の自白に始まった捜査が、焼かれた遺体の残骸はもちろん周辺証拠さえ発見できず迷宮入りする一方、さらなる犠牲者が発見され、想像を超える展開を見せていく、警察小説であり謎解きミステリーでありノワール・エンタメ作品である。
レイプされそうになって男を撲殺し、証拠隠滅のために死体を焼いたと言って、24歳のローラが自首してきた。自白に基づいて捜査を開始したダミアン警視のチームは死体を焼却したという現場で何の痕跡も発見できず、たちまち捜査は行き詰まる。さらにローラは「必要なことは全部話した」として黙秘するばかりだった。犯行は事実か狂言か、捜査陣は確信を持てないまま地道な聞き込みと証拠調べを続け、わずかな手掛かりから事件の構図を掴んだと思ったのだが、次々と想定外の事態に遭遇し、迷路に誘導されるのだった…。
ダミアン警視を中心に物語が進むため警察小説だと思っていると、あっと驚く仕掛けが登場し、ノワール・サスペンスに変身する。そこが本作の新しさ、面白さと言える。事件の真相、結末は警察ミステリーというよりイヤミスで、読者の評価が分かれる作品である。
警察ミステリーファン、イヤミスファンのどちらからも絶大な評価は得られないだろうが、読んで損はない作品としてオススメする。
あんたを殺したかった (ハーパーBOOKS)
No.502: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

さらにスケールアップした、警察ミステリーの大傑作

一作ごとに評価が高まる「ワシントン・ポー」シリーズの第4作。部長刑事ポーと分析官ティリーのコンビの殺人事件捜査にMI-5とFBIが絡んでくるという、国際謀略小説のテイストが加味された本格警察ミステリーである。
貸金庫を襲った強盗団は何も盗らず、仲間の死体とネズミの置物を置いて立ち去った。その3年後、先進国首脳会議が行われる町の場末の売春宿で、首脳の搬送を委託されているヘリコプター会社の経営者が殺害され、政治的テロを警戒した英国政府はMI-5を通じポーに捜査を命じた。首脳会議が始まるまでに解決することを要求されたポーたちはMI-5やFBIが口を挟む、難しい捜査を強いられて苦戦するのだが、売春宿の現場にもネズミの置物があり、誰かが持ち去ったことを発見、そこから捜査はアフガニスタン戦争にまで遡る戦争謀略を背景にした壮大なスケールの犯罪に直面することになる…。
貸金庫強盗と売春宿での殺人、無関係に見える二つの事件がネズミの置物から繋がって驚くべき真相が明らかになる。舞台と展開の華やかさは007ばりのスパイ・冒険小説だが、ミステリーとしての核心はデータ分析を主体とした王道の警察小説で、ポーの直感と行動力、ティリーの恐るべきITスキルが遺憾なく発揮される。フーダニット、ワイダニットは壮大かつ破綻がない構成で、クライマックスへの持っていき方も上手い。今回、フリン警部はお休みだが、ポーとティリーの奇妙なバディ関係は健在で、シリーズとしての円熟度はますます高まっている。
700ページを超える長編だが、中だるみなく読み進められる傑作であり、シリーズ愛読者はもちろん、警察小説ファンに自信を持ってオススメする。
グレイラットの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
M・W・クレイヴングレイラットの殺人 についてのレビュー

No.501:

鈴蘭

鈴蘭

東直己

No.501:
(8pt)

探偵・畝原がジョー・ピケットに見えた

「探偵・畝原」シリーズの第8作。2010年の作品だが、それ以降は新作が出ていないのでシリーズ最終作なのだろうか? ゴミの山に埋もれて暮らす変人と同居していた女性、ヤクザの高校時代の恩師という二人の行方不明者探しを基軸に、今の時代が抱える問題と真摯に向かい合う畝原の熱い思いを描いた社会派ハードボイルドである。
テレビ局からの人物調査依頼で札幌郊外のナチュラルパークに出向いた畝原は、大音量と共に現れた車から飛び出した男が暴れるのを制圧し、警察に引き渡したのを機にパーク経営者の早山と知り合った。早山によると男は嶺崎という老人で、パークと山を隔てた土地を不法占拠し、ゴミの山と痩せこけた多数の犬猫と暮らしているという。そこで、2年ほど前から嶺崎のところで暮らしていた女性が最近、姿を見せないので、その女性の行方を探してほしいと依頼された。同じ頃、知り合いのヤクザ関係者・兼田から「高校時代の恩師が消息不明になったので理由を調べてもらいたい」との依頼があった。二つの調査を進めた畝原は、その背後にある社会の病理、過去に縛られる個人の苦悩、懸命に生きた末に辿り着く老人の孤独の深さに震撼する。それでも畝原は人間の善性を信じようと前を向くのだった…。
家族を愛し、人間の善性を信じ、損得なしに正義を貫いて行く。畝原シリーズの集大成とも言える作品で、札幌の私立探偵・畝原がだんだんワイオミングの猟区管理官・ジョー・ピケットに見えてくる。熱くてハートウォーミングなハードボイルドの完成形が、ここにある。
派手なアクションや銃撃戦はなくてもハードボイルドの面白さを堪能できる傑作として、多くの人にオススメしたい。
鈴蘭
東直己鈴蘭 についてのレビュー
No.500: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

クズで落ちこぼれの八目(主人公)は成長したのだろうか?

久しぶりにリーダビリティが良い桐野ワールドが堪能できる、2021年刊行のダーク・ノワール。何をやってもダメな派遣社員が、唯一の拠り所としてきたカリスマ性を持つ親友を探してカンボジアの闇の奥に分け入って行く冒険小説風エンタメ作品である。
何ら誇れるものがなく、その反動で周囲に無益な反発をして自分の首を絞め、ゲームにしか生きがいを見出せない八目晃。高校時代にそのハンサムな姿で学校中のカリスマとなっていた野々宮空知と仲が良く、彼のウチに遊びに行っていたことだけが、密かな誇りだった。だが野々宮の父親の葬儀の日、空知がカンボジアで消息を絶ち、美人で評判だった姉と妹も行方が分からなくなっていることを知らされる。さらに、空知の母親や姉妹の関係者を名乗る男たちから「カンボジアで3人を探して欲しい。資金は出す」と依頼されたことを、職場を離れる絶好の口実にして、半分遊山気分でカンボジアへ旅立った。海外旅行経験は皆無、社会的な常識にも欠ける八目はカンボジアに着いた初日から、様々な災難に見舞われることになる…。
あれこれありながらも東南アジアの過酷な現実を生き延び、それなりに逞しくなった八目は3人の所在を確認するのだが、それは想像もしなかった壮絶な現実を見せつけるものだった。そのプロセスはダメ人間の成長物語ではあるが、その成長は果たして善きことなのか。なかなかにダークな幕切れが衝撃的である。
最近の桐野作品では最もエンタメ性がある作品であり、多くの方にオススメしたい。
インドラネット (角川文庫)
桐野夏生インドラネット についてのレビュー
No.499: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

味わい深くなってきた、ポーとティリーのバディ物語

「ワシントン・ポー」シリーズの第三作。クリスマス前後に3件、立て続けに発生した切断された指2本が見つかる事件をきっかけに、想像を超える残虐な犯罪を暴くことになる警察ミステリーである。
クリスマスイブからクリスマス翌日にかけて、クリスマス・プレゼントの箱の中、ミサが行われた教会の洗礼盤、ショッピングモールの精肉店のカウンターで切断された指2本が発見された。3人の被害者は男性1人、女性2人。年齢も職業もバラバラで唯一の共通点は現場に「#BSC6」という謎の一文が書かれていたことだった。フリン警部の指揮のもとポーを始めとするSCASメンバーは被害者の身元確認から捜査を始めたのだが、現場検証でも検視解剖でも、動機や犯人像を示唆するものは全く見つからなかった。それでも分析官・ティリーのIT技術とポーの鋭い直感が反響し合い、ネット社会の裏に蠢く怪しいシステムを突き止め、犯人を絞り込んでいった。だが、最重要容疑者の背後には、更なる巨悪が潜んでいたのだった・・・。
謎解きのプロセスに説得力があり、読者はリアルタイムでポーと一緒に捜査を進めるサスペンスが味わえる。真犯人と動機については賛否が分かれるだろうが、最初から最後までストーリー展開に緩みはない。また、上司のフリン警部、分析官・ティリーなどお馴染みのメンバーとのやり取りがこなれてきて、前二作より遥かに味わい深くなった。特にティリーとの独特の関係は、これまでのバディものにはない新鮮さで印象に残る。
英国警察ミステリーの王道を行く傑作として、多くの方にオススメしたい。
キュレーターの殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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