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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数572

全572件 181~200 10/29ページ

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No.392: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

「グラント郡」と「ウィル・トレント」をつなぐ超大作

「ウィル・トレント」シリーズの最新作であると同時に「グラント郡」シリーズを締めくくる、カリン・スローターの転回点となるであろう力強い警察ミステリーである。
8年前、サラの元夫であるジェフリー・トリヴァー署長が捜査した事件で逮捕された服役囚・ネズビットが「冤罪である」と訴えてきた。事件は極めて残虐な連続レイプ殺害で、ネズビットが逮捕されてからは同じような事件が発生していなかったため警察は本気にしなかったのだが、同様の手口によるレイプ殺害事件が発生し、ウィルとフェイスたちは否応なく再捜査することになった。捜査が進むにつれ、トリヴァー署長たちの捜査には欠点があり、ネズビットは誤認逮捕ではないかと思われてきた。このことは、いまだにジェフリーを愛しているサラを傷つけ、それは同時にサラを愛するウィルを苦しめることでもあった。
捜査を進めるにつれて同一犯による犯行の疑いが濃くなる連続レイプ事件について、8年前のトリヴァーの捜査と現在のウィルたちの捜査が交互に展開し、しかも二つの時代をつなぐサラの動揺が激しく、ストーリー全体にきわめて緊張感がある。また、いつも通り事件の態様は暴力全開で読む側に緊張を強いてきて、740ページほどの長編を読み終えるとぐったりさせられる。読み終わってもカタルシスを覚えることはないのだが、確実に次作を読みたくなる不思議な引力を持つ作品である。
カリン・スローターのファンには必読。激しい暴力シーンに耐えられる警察ミステリーファンにもおススメだ。
スクリーム (ハーパーBOOKS)
カリン・スロータースクリーム についてのレビュー
No.391: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ヴァランダー・マニアは必読・必携

ヴァランダー・シリーズの最終作(書かれたのは最後ではないが)となる未訳の中編小説と、著者自身によるシリーズの説明と索引を併録した「ヴァランダー解題」である。
中編「手」は、田舎に引っ越したいと願うヴァランダーが候補物件を見に行き、庭で人骨の手につまずいたことから難解な過去の事件を解明していく正統派ミステリー。地道な捜査で真相に迫るヴァランダー・シリーズの特性が十分に発揮されるとともに、中年の危機を迎えたヴァランダーの人間臭さが色濃くみられるしみじみとした作品である。
後半3分の2を占める紹介、索引は実に細かく、ヴァランダー・シリーズの誕生の裏話などもあって、ファンには思いがけないボーナスである。
シリーズを何度も何度も読み返すような、ファンというよりマニアには必携の一冊としておススメする。
手/ヴァランダーの世界 (創元推理文庫)
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(8pt)

さらに深みを増した第3作。絶対に第1作から読むべし!

老弁護士「トム・マクマートリー」シリーズの第3作。前2作同様というか、更に更に胸を熱くするリーガル・サスペンスの傑作である。
アラバマ州タスカルーサの川岸で射殺死体で発見された男性は、トムとリックたちと因縁深い(第1作)元運送会社経営者のジャック・ウィリストーンだった。さらに、容疑者として逮捕されたのは、ウィリストーンの裁判で最後に証言を翻してトムたちを苦境に追い込んだ元ストリッパーのウィルマだった。パートナーのリックが父親を亡くし、残された母親のために故郷に帰っていたため一人で事務所を預かっていたトムは、「母の弁護をして欲しい」と依頼して来た14歳の少女ローリー・アンがウィルマの娘だと知って驚愕する。しかも、法廷で戦うことになるのが古くからの友人のコンラッド検事、リッチー捜査官であり、さまざまな証拠もウィルマの犯行を示唆するものばかりだった。トム自身に体調不安があり、しかも圧倒的に不利な状況だけに、周囲は弁護を引受けることに反対するのだが、ローリー・アンの情にほだされたトムは、最後の法廷に臨む決意でチャレンジすることにした・・・。
前2作も圧倒的に不利な状況からの逆転劇がカタルシスを呼ぶ情熱的なストーリーだったが、本作はさらにトムの癌の進行などもあり、さらにさらに老弁護士の不屈の精神が強調されている。また、謎解きミステリーとしても最後まで犯人が分からず、終盤のどんでん返しには驚かされる。加えて、これまでトムの周囲に登場した人物たちが再登場し、重要な役割りを果たしているのもシリーズ物としての読みどころである。しかも、第1作で中途半端な印象を残したエピソードが、実は伏線であり本作でしっかり回収されているのにも驚かされる。
リーガル・ミステリーのファン、情熱的なヒューマン・ストーリーのファンには絶対の自信を持ってオススメ。なお、第1作、第2作を引き継ぐエピソードが多いため、絶対にシリーズの順に読むことをオススメする。
ラスト・トライアル (小学館文庫 ヘ 2-3)
ロバート・ベイリーラスト・トライアル についてのレビュー
No.389: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

Every Lives Matter

韓国系アメリカ人女性作家の本邦初訳作品。アメリカでの人種間対立と犯罪に巻き込まれた家族の葛藤を描いた、社会派の犯罪エンターテイメントである。
27歳の韓国系アメリカ人の薬剤師・グレイス、41歳のアフリカ系アメリカ人のドライバー・ショーン。L.A.で暮らしていること以外には共通点が無さそうな二人だが、グレイスの母親が駐車場で撃たれた事件をきっかけにお互いの家族にまつわる過去と現在がぶつかり、それぞれのアイデンティティをかけて衝突することになる。通りすがりの犯罪と思われたのだが、被害者であるグレイスの母親に、ある過去があったことからL.A.の韓国系、アフリカ系社会に緊張を呼び起こし、街は暴動寸前の状態にヒートアップしてきた・・・。
物語は、1991年と2019年を行き来し、ショーンとグレイスの視点が交互に入れ替わることで事件の様相がさまざまに変わり、徐々に問題の深刻さが増してくる。事件の背景には韓国系とアフリカ系だけではない、さまざまな人種間対立があり、さらに犯罪被害者の報復感情、家族間での愛情と反発などが重なって深みがあるストーリーになっている。
あまり話題になっていない作品だが、社会派のミステリー、犯罪小説に関心がある方にはぜひ読んでいただきたい傑作である。
復讐の家 (集英社文庫)
ステフ・チャ復讐の家 についてのレビュー
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(8pt)

戦争の傷痕と恐怖政治。血の凍る恐怖小説である

イギリスの二人の合作者によるデビュー作。第二次大戦から6年後、スターリンによる恐怖政治時代のレニングラードを舞台に、いつ粛正の対象になるかという不安をかかえながらも難事件の解明に邁進する刑事の苦悩に満ちた捜査を描いた歴史警察ミステリーである。
吹雪のレニングラード郊外の線路上に整然と並べられた5人の惨殺死体が発見された。遺体はすべて顔の皮膚をはぎ取られ、歯を砕かれ、喉にガラス器具が差し込まれていたのだが、それぞれに異なる衣装を着せられていた。あまりにも奇怪な状況に、事件を担当する人民警察のロッセル警部補は頭を悩ませたのだが、病理医の話から身元解明の手がかりをつかんだ。かすかな手がかりをもとに身元を判明させてきたロッセルは、被害者の間にありえない共通点を発見し驚愕する。さらに、被害者の一人がスターリンの恐怖政治の手先・国家保安省の職員だったこともあって、捜査を担当する人民警察官たちには陰に陽に厳しい圧力がかけられたのだった。
レニングラード包囲戦の傷痕も癒えていない街、いつ、だれが逮捕・追放されるかも分からない密告社会という重苦しい時代に、それでも捜査を続けようとする主人公・ロッセル警部補だが、自身もかつて国家保安省に逮捕・拷問されて左手の指を失い、将来を嘱望されていたバイオリンの道を絶たれたという経歴の持ち主であり、作品全体が異常な恐怖感に包まれている。それは、最後に事件の動機や犯人が判明しても解消されることはない。
それでも、捜査プロセス、事件の謎解き、伏線の張り方と回収、キャラクター設定が巧みで第一級の警察ミステリーだと言える。
「チャイルド44」、「ゴーリキー・パーク」などが楽しめた方、北欧警察ミステリーのファンの方にはオススメする。
血の葬送曲 (角川文庫)
ベン・クリード血の葬送曲 についてのレビュー
No.387: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

いろいろとアラフィフになった「俺」

「ススキノ探偵」シリーズの第8作。50代に突入した「俺」が、知り合ったばかりの友人たちのために単身で暴れまくる、痛快ハードボイルドである。
地下鉄の中で酔っ払って喧嘩しているのを助けたのが縁で仲良くなった「俺」とイラストレーターの近藤は、二人で立ち飲みしていて近藤のファンだという老婆に出会った。痴呆の兆しが見える老婆を気遣った二人は、老婆を送る届けようとして地下鉄のホームに立ったとき、いきなり老婆が線路に飛び降りた。すぐさま近藤が線路に降り、老婆を助けた二人は一躍地元のヒーローになった。そんなこともあって飲み友達となった近藤が、真夜中の駐輪場で刺殺されるという時間が発生した。日ごろからトラブルを招き勝ちな近藤だったが、事件の状況に納得がいかない「俺」は誰に頼まれた訳でもなく、近藤のために、自分のために調査を開始する。すると何ものかが尾行に付き、突然襲撃された・・・。
ついに50代になった「俺」の、生活スタイルは全く変わっていないものの、体を始めいろいろと老いが忍び寄って来ているようで、感情の揺れが大きくなっているのが味わい深い。また、社会全体の精神的退行、馬鹿な若者や自律していない大人たちへの怒りが一層強く、直接的になっているところも「俺」が歳をとってきたことがうかがえる。あらゆる意味で、ススキノ探偵シリーズは円熟して来たのだろう。
シリーズ読者には文句無しに楽しめる作品としてオススメ。日本のハードボイルドもののファンにもオススメしたい。
探偵、暁に走る (ハヤカワ・ミステリワールド)
東直己探偵、暁に走る についてのレビュー
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(8pt)

エンタメ度の高さはシリーズでも最高の傑作アクション・ミステリー

スウェーデンの大人気ミステリー「グレーンス警部」シリーズの第8作で、共著者のヘルストレム亡き後、ルースルンドが単独で書いた最初の作品。シリーズ内シリーズとも言える「潜入者・ホフマン」シリーズの第3作でもある。
ある朝、ストックホルムの病院の遺体安置所に係員が出勤すると、死体が一体増えていた。遺体が搬入された記録はなく、遺体は健康そうに見えるアフリカ系の若い男性で、致命傷も見つからなかった。残された遺品や指紋などからも身元が判明しないうちに、さらに、今度は若い女性の遺体が増えていた。この人たちは誰なのか、なぜ死んだのか、どうやって安置所に運び込まれたのか? 闇の中を手探りするようなグレーンス警部たちの捜査が行き着いたのは、放置されたコンテナの中に73人の死体が詰められているという、想像を絶する悲惨な犯罪現場だった。そこでグレーンスが見つけた携帯電話の指紋から割り出されたのは、前作で南米麻薬組織から脱出し、スウェーデンで平穏に暮らしているはずのピート・ホフマンだった。ホフマンの家族を守るために二度と関わりを持たないと決めたグレーンスだったが、この悲惨な事件を解決するには、再びホフマンを訪ねるしかなかった・・・。
冒頭のインパクト、スピーディーな展開、事件の背景の深刻さと謎解きの妙味、潜入者・ホフマンの戦いのサスペンス、そしてガンコ親父・グレーンスが見せる人間的な激情など、エンタメ要素が満載。しかも、全部の要素がこれまでで最高の完成度で、まさに傑作である。
シリーズ最高傑作として、グレーンス警部ファンは必読。シリーズ未読の方なら本書をきっかけに遡って読みたくなること間違い無し。オススメである。
三時間の導線 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド三時間の導線 についてのレビュー
No.385: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

多彩な技巧が光る、ヴァラエティに富んだ短編集

史上初の三冠で話題になった短編集。収録された6作品はすべて高レベルで、しかもそれぞれにジャンル・テイストが異なるというヴァラエティ豊かな短編ミステリー集である。
これだけ完成度が高い、しかもジャンルが異なる短編集は初めて読んだ。すべてのミステリー・ファンに先入観無しに読むことをオススメする。
満願 (新潮文庫)
米澤穂信満願 についてのレビュー
No.384: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

セレブ・ストーカーものの傑作

多彩なミステリーを描くスチュアート・ウッズによる、ストーカーをテーマにしたエンターテイメント・サスペンス。ハリウッド女優がヒロイン(被害者)だけあって華やかでスリリングな作品である。
大作のヒロインまであと一歩という地位にあり、普段からプライバシー管理には神経を使っているクリスだったが、ある日、自宅ポストで消印の無い封筒を受け取った。手紙には「賞賛者」という署名があり、これからも手紙を書くと書かれていた。クリスはプライバシーが侵害された不快感と気味悪さを感じたものの無視しようとしたのだが、クリスの行動を監視しているとしか思えない内容の手紙や花束が次々と届いた。さらに、自宅の新築現場を訪れて事故に遭い視力が失われたあと、現在の住まいに誰かが侵入したため地元警察に助けを求め、ストーカー対策専門刑事・ラーセンが派遣されて来た。身元につながるようなものは一切残さない、狡猾なストーカーに対しラーセンは奮闘するものの、ストーカーの行動はエスカレートするばかりで、ついにはクリスの秘書や親友のダニーまで命の危険にさらされるようになった。あらゆる手段で犯人を暴き出そうとしたクリスとラーセンだったが万策尽き、最後の手段としてクリス自身が囮となって罠を仕掛けることになった・・・。
攻撃がエスカレートするばかりで最後まで正体が判明しないストーカーの恐怖、果敢に反撃しようとするクリスの強さ、わずかな証拠から犯人像を突き止めようとするラーセンの執念がダイナミックでスリリングなストーリーを生み出している。さらに、ハリウッドという華やかな舞台で踊る個性的なキャラクターも魅力がある。
ストーカーものとは言え、残虐な要素が排除されているため、多くのミステリー・ファンに安心してオススメする。
デッド・アイズ (角川文庫)
スチュアート・ウッズデッド・アイズ についてのレビュー
No.383:
(8pt)

続編も、期待を裏切らない「エンタメ満載」

「用心棒」のジョー・ブロディーが帰って来た。ニューヨークの裏社会の保安官に任命されたジョーが再びテロ組織を壊滅させるべく立ち上がる、アクションミステリーであり、マカロニ・ウェスタンであり、現代ノワール小説である。
アルカイダ系組織の代理人がニューヨークで大量のヘロインを売りさばこうとしているという情報が裏社会のボスたちにもたらされた。問題のヘロインはニューヨークの組織と関係がある麻薬密売組織から奪ったもので、テロ組織側は活動の資金源とするために代金400万ドルにはダイヤモンドを要求しているという。このままではニューヨークの裏社会のバランスが崩れ、街が深刻なテロ被害に遭うと恐れたボスたちは、裏社会の保安官・ジョーに「囮となって接触し、ヘロインを買い取ったら代金を奪い返せ」という任務を課す。つまりジョーは、厳重に警備されているダイヤモンド会社から400万ドル相当のダイヤモンドを盗み出し、テロリストと交渉をまとめ、さらに相手に渡したダイヤモンドを再び奪い取るという、三つの極めて困難なミッションに挑むことになったのだ。ニューヨークの裏社会を牛耳る各組織からのバックアップを得て個性的なメンバーを揃えたジョーは、知恵と度胸でテロ組織、警察に対峙し、手に汗握るクライム・アクションを繰り広げるのだった…。
ダイヤモンドの強奪、テロ組織との血みどろの戦い、警察との攻防など、エンタメ要素が盛りだくさんで息つく暇も無い、ジェットコースター・クライムノベルである。それに加えて、前作から引き継ぐ複雑な人間関係、登場する悪党たちの人間くさいドラマ、ジョーの人情味と恋のゆくえなど、サイド・ストーリーも華やかで、まさにハリウッド映画顔負けの賑やかさである。
前作でジョーにハマった人には絶対のオススメ、また現代ハードボイルド、ノワール、クライムのファンにも自信を持ってオススメする。
続・用心棒 (ハヤカワ・ミステリ 1966)
デイヴィッド・ゴードン続・用心棒 についてのレビュー
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(8pt)

たった一晩に全部を盛り込んだエンタメのメガ丼!

骨髄移植のドナーとなるはずの男が謎の連続殺人に巻き込まれ、東京中を逃げ回るアクション・エンターテイメント作品。何も知らない男の逃亡アクション、警察による犯人探し、権力の陰謀など、冒険ものの面白さをたった一晩のできごとにてんこ盛りにした密度の濃い物語である。
生まれた時からの悪党を自認する八神が一生に一度の善行として骨髄移植のドナーとなることになり、入院準備のために悪党仲間である島中のアパートを訪ねると、島中は殺害されており、八神も謎の三人組に襲撃された。辛うじて逃げ出した八神だが、襲撃者たちは執拗に追跡し、八神は訳も分からず約束の時間までに入院予定の病院にたどり着けるように夜の東京中を駆け回ることになる。同じころ都内で一人住まいの女性の殺人事件が発生したのだが、被害者には奇妙な細工が施されており、同じような細工は島中にも施されていた。同一犯による犯行を疑った警察だったが、発生時刻と現場の位置関係から一人では実行不可能と判断し、犯罪者グループの存在を疑った。さらに、今度は八神を襲撃したグループのメンバーが殺害され、謎のグループを狙う別の犯罪者の姿まで垣間見えてきた。必死で逃げる八神、それをチームプレーで追い詰める犯人グループ、そしてある目的を秘めて神出鬼没の動きを見せる謎の男、連続殺人を防止するため懸命の捜査を進める警察・・・夜の東京に四巴の戦いが繰り広げられた…。
事件の背景になる要素がやや貧弱な印象だが、物語の展開がスピーディで登場人物のキャラクターが立っているので最後まで面白さが緩まない。現在の日本のミステリー、冒険小説の面白要素を全部盛り込んだ痛快な作品である。
アクションもの、警察もの、社会派ものなど、どのジャンルのファンでも楽しめる一冊としておススメする。
グレイヴディッガー (角川文庫)
高野和明グレイヴディッガー についてのレビュー
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(8pt)

これぞ、ハリウッド!

ハリウッドを舞台にアメリカン・ドリームを実現しようとする若者の野望を描いた、1993年発表の作品。マフィアのチンピラから映画界の寵児に伸し上がる若者のジェットコースターのような生き様が読者を引きつけるエンターテイメント・ミステリーである。
ニューヨークマフィアの幹部の下で高利貸しの取り立て人としてすご腕を発揮するヴィニー・カラプレーゼは、ニューヨーク大学の映画学校に通うほどの無類の映画好きだった。そこで出会った監督志望の男の脚本に惚れ込んだヴィニーはプロデューサーを買って出て、一本の素晴らしい映画を完成させ、ハリウッドの映画会社の大物社長・ゴールドマンに見てもらうというチャンスをつかんだ。同じ頃、取り立てのトラブルが原因でマフィア幹部の怒りに触れたヴィニーは衝動的に幹部を殺害してしまい、同じ幹部の経理係を務めていた親友・トミーの手助けを受けてニューヨークを離れることになった。殺した幹部の金を行き掛けの駄賃としてトミーと山分けし、マイクル・ヴィンセントと名前を変えたヴィニーは、ハリウッドでの成功を夢見て、ゴールドマンを訪ねるのだった。映画への限りない情熱と、それ以上に成功への情熱を持つヴィニーは、口八丁手八丁の頭の良さと目的のためには手段を選ばない非情さで、一躍ハリウッドの寵児となるのが、そのために重ねた無理が積み重なり、予想もしなかった事態が訪れることになる・・・。
絵に描いたようなアメリカン・ドリームと、野心的な若者が陥る奈落の世界。まさにハリウッド映画以上に映画的なエンターテイメントである。ストーリー展開もキャラクターも簡潔明瞭、最初から最後まで物語に身をゆだねる楽しさを堪能できる。
ミステリー・ファンに限らず、軽快なアクション映画ファンにもオススメしたい。
LAタイムズ (文春文庫)
スチュアート・ウッズLAタイムズ についてのレビュー
No.380:
(8pt)

ミステリー、ロードノベル、成長物語、そして家族の物語

文芸誌の編集長を経て作家デビューしたというアメリカの女性作家の第三作。長編では本邦初訳となる本作は12歳の少女の成長物語であり、父と娘の絆の物語であり、父の過去と母の死の謎が明らかにされるミステリーでもある。
12歳になったとき、ルーは父親であるホーリーとともにニューイングランドの小さな漁村に移ってきた。ここは亡き母の故郷でもあり、父が娘のためにそれまでの転居を繰り返した生活をやめ、落ち着いた暮らしを始めようとして選んだ土地だった。そこで漁師となったホーリーはいつも複数の銃を持ち、体には12個の銃痕があるという謎めいた存在だった。しかも、父娘が亡き母の母親、ルーの祖母であるメイベルに会いに行くと、メイベルは二人を家に入れるのを拒否した。そこには、母の死と父の隠された過去を巡る深い話があったのだ。
12歳のルーが新しい環境でいじめにあいながらも自分を確立し、17歳の少女になっていく成長物語と、父の体に銃痕が刻まれた理由が交互に語られる構成で、そこに母が死んだ事件の謎が重なっていく。三つのストーリーがそれぞれに独立した重みをもちながらも、重なり合うことでさらに深さが生まれ、複雑で味わい深い物語になっている。さらに、アメリカ各地の大自然が生み出すドラマがスケールの大きさで強く印象に残る。
昨年話題になった「ザリガニの鳴くところ」に心ひかれた方には絶対のオススメ。さらに、叙情ミステリーのファンにもオススメする。
父を撃った12の銃弾
ハンナ・ティンティ父を撃った12の銃弾 についてのレビュー
No.379:
(8pt)

展開の意外さに感心した

雑誌連載に加筆訂正した長編小説。著者お得意の警察ものだが、主人公が刑事ではなく一般職の女性職員というのがユニークで、ストーリー展開も意表をつく捜査ミステリーである。
若い女性がストーカーに殺害される事件が起き、所轄署が事件前に被害者家族から相談されながら被害届の受理をしぶっていたことが発覚した。さらに地元紙に、被害届を放置したまま担当部署の職員が慰安旅行に出かけていたことまですっぱ抜かれ、警察は県民からの激しい非難の嵐に見舞われた、県警広報課に勤務する森口泉は、慰安旅行の件が漏れたのは、親友である地元紙の記者・千佳に洩らした自分の不用意な一言が原因ではないかと悩み、記事にはしないと約束した親友を信じられなくなっていた。ところが、自分が記事にしたのではないと断言して「名誉を回復する」と語り、すっぱ抜きの背景を探っていた千佳が不審死をとげ、泉は激しく動揺する。千佳は何を見つけ出したのか、なぜ殺されなければいけなかったのか、泉は友人である刑事や上司の助けを得ながら真相を探ろうとする。しかし、彼ら二人の前には得体の知れない闇が広がっていた・・・。
現実に起きた事件のあれこれを想起させる舞台装置だが、話の筋書きは独創的でスピーディーに展開され、ワイダニットの警察ミステリーとしてよくできている。殺人事件が次々に発生するのだが事件そのものよりも背景の解明に力点が置かれた社会派ミステリーである。
警察ミステリーのファン、社会派ミステリーのファンにオススメする。
朽ちないサクラ (徳間文庫)
柚月裕子朽ちないサクラ についてのレビュー
No.378:
(8pt)

「噂が身を滅ぼすこともある」のは古今東西を問わない

2019年のサンデータイムズのベスト10入りしたという、イギリスの新人作家のデビュー作。ママ友が暇つぶしに話題にしただけの噂がどんどん成長し、やがては悲劇を招いてしまうという妙にリアリティのある心理サスペンスである。
海辺の小さな田舎町で、子供を送り迎えするママ友の間で交わされた「有名な幼児殺害犯の女・サリーが名前を変えて、この町に住んでいる」という噂を耳にした、シングルマザーのジョアンナ。それを信じた訳ではなかったのだが、その夜の読書会でつい口にしてしまった。さらに、一人息子のアルフィーが学校で仲間はずれにされていることを気に病み、アルフィーが同級生たちに溶け込めるように自分からママ友の輪に入るために噂を使ってしまう。さして根拠のないゴシップだったはずの噂は一人歩きし、犯人ではないかと目された女性が被害を受けるようになってしまった。最初は根も葉もない話だと思っていたジョアンナも徐々に噂に囚われ、やがて周りの人々がみんな怪しく思えて来るのだった。そして、否応なく真相が明らかにされたとき、最愛の家族を襲う悲劇に見舞われるのだった・・・。
ほんの些細な噂が多くの人の人生を変えるまでの影響力を持つまでの淡々とした、それだからこそ不気味なサスペンス。日々、SNSの混沌と醜悪さを体験している我々には実にリアリティがあり、鳥肌が立つ怖さがある。さらに、幼児殺害犯のサリーは本当にこの町にいるのか、いるとしたら誰なのかという謎解きも、容疑者候補が二転三転してスリリング。最後までサスペンスを盛り上げる。
心理サスペンスのファンには絶対のオススメである。
噂 殺人者のひそむ町 (集英社文庫)
レスリー・カラ噂 殺人者のひそむ町 についてのレビュー
No.377:
(8pt)

祖国とは血なのか、地なのか

2年半にわたる週刊誌連載を加筆改稿した、単行本上下で1200ページを越える超大作。太平洋戦争の開始をハワイとロスで迎えた日系人青年たちの苦悩と生き方をダイナミックな構成で描いた社会派の大河ドラマである。
ロスのリトルトーキョーに住む日系二世で、同じ女性を愛してしまった二人の青年。片や比較的恵まれた環境にあり優等生の好青年として知られたヘンリー、それとは対照的に環境に恵まれず社会をすねた生き方を貫いていたジロー。その微妙な関係は、日本による真珠湾攻撃をきっかけに後戻りできない亀裂を抱えることになった。ある事情で殺人を犯したジローは、日本語能力の高さを買われて米国陸軍情報部に語学兵としてリクルートされてロスを離れ、太平洋戦線に送られる。アメリカ政府による日系人強制収容に遭遇したヘンリーは、日系人の権利・立場を主張するため兵役に志願し、陸軍に入隊する。
一方、奇襲を受けたハワイでは、大学生活を満喫していた日系二世のマットが父親とともにスパイ容疑で拘束され、マットはすぐに釈放されたものの父親は拘束され続けた。自分はアメリカ人であることを証明したいという思いに駆られたマットは、父の釈放の助けになれればとの願いもあり、同級生たちと日系人部隊に加わることにした。
この三人を中心に、祖先の国・日本と戦火を交えるアメリカ軍に加わった日系人たちの苦悩と戦場での活躍が描かれて行く。自分が背負うべき祖国とは父母の国・日本なのか、生まれ育ち国籍があるアメリカなのか、永遠に正解が見つからない難問が若い日系人を苛み、疲弊させて行く。そして終戦。圧倒的な勝利を収めたアメリカで勝ったといえるのは国家なのか、国民なのか。国民の中に日系人は含まれるのか。
非常に重いテーマを真摯に、しかも高度にエンターテイメントとして仕上げている作者の力量に感嘆した。週刊誌の連載故にやや冗漫な説明が重なるところがあるのだが、そんな些細なことは忘れさせる力強い作品である。
国家と国民の関係に少しでも関心があれば、ぜひ読むことをオススメする。
栄光なき凱旋 上
真保裕一栄光なき凱旋 についてのレビュー
No.376:
(8pt)

詐欺は楽しい! 被害者にならなければ。

著者お得意の美術骨董の世界での騙し合いをテーマにした、連作短編集。6作品すべてにニヤッとさせられる仕掛けがある、良質なコンゲーム作品である。
登場人物はいずれも、欲にまみれた、一癖も二癖もある小悪人で、しかもそれぞれが「騙すことは騙されること」と自覚しているので、犯罪というよりゲームを楽しむような軽やかさがある。さらに、豊富な知識に裏付けられた詐欺の仕掛けの精緻さがリアリティを持っていて、古美術や骨董の門外漢でもすんなり楽しめる。
肩肘張らない、面白いエンターテイメント作品を読みたい、という方に絶対のオススメである。
騙る
黒川博行騙る についてのレビュー
No.375:
(8pt)

ドジで間抜けで、だから憎めない詐欺師の大活躍

アメリカミステリーの巨匠がウェストレイク名義で妙技を披露した、軽やかな詐欺物語。保険金目当てで自らの死を演出するために南米の小国に出かけたダメ男のコミカルなエンターテイメントである。
金に行き詰ったバリーとローラの夫婦は保険金目当てに、バリーが死んだことにする計画を立てた。事故死すれば保険金が二倍になるというので、事故を起こす場所に選んだのがローラの故郷である南米の小国。そこに住むローラの兄や親族の助けを借りてレンタカーで崖から転落する事故を作り出し、葬式まで演出し、見事に周囲をだまし切った。あとは、アメリカに帰ったローラが保険金を受け取るだけ・・・のはずが、地元の悪徳警官、欲深いいとこ、口が軽い親族などが絡んできて、思いもかけない事態が出現し、完璧なはずのプランは徐々に破綻し始めるのだった…。
自分の死を演出する保険金詐欺というありがちな設定だが、舞台を規律が緩い南米の小国に設定したことで生まれるユーモラスなエピソードがドライで軽やか。悪党のはずのバリーに思わず肩入れしてしまう。堅苦しいことは抜きに、最初から最後まで笑っていられる作品だ。
レナードやハイアセンなど、ニヤッとさせる犯罪小説のファンには絶対のおススメである。

弱気な死人 (ヴィレッジブックス)
ドナルド・E・ウェストレイク弱気な死人 についてのレビュー
No.374: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

犠牲者の身元探しと犯人捜しという二重構造の謎解き

1954年、ヒラリー・ウォーの初期の警察ミステリーとして発表された長編第5作。アメリカ東部の閑静な町の警察が地道な捜査で難事件を解決する、オーソドックスな警察捜査ミステリーの傑作である。
小さな町の公園で頭を砕かれた若い女性の死体が発見された。ベテランのダナハー警部と若いマロイ刑事のコンビは失踪人届を調べ、被害者が身に着けていた指輪の写真を公開するなどしたのだが確たる情報が得られず、マロイ刑事の発案で砕かれた頭蓋骨から顔面を復元する手段をとった。すると、5年前に女優を夢見てN.Y.へ家出した少女・ミルドレッドであることが判明した。しかし、ミルドレッドは家出してから一切家族に連絡を取っていなかったため、殺されるまでの5年間は完全な空白になっていた。彼女がなぜ故郷の街にいたのか、そして、だれが、なぜ殺害したのか? 5年の空白を埋めるために、ダナハーとマロイのコンビは聞き込み、推理、確認作業を繰り返し、ミルドレッドの悲劇の真相を解明していくのだった…。
事件の背景解明、犯人捜しの謎解きが複雑かつ巧妙で、しかも論理的。顔の復元から始まって被害者の激動の5年間を再現していくプロセスは実にスリリングで、これぞ警察捜査の王道といえる作品で、いささかも古さを感じない。主役の二人の刑事のキャラクターも魅力的で、なぜこのコンビがシリーズ化されなかったのか、疑問になった。
フェローズ署長シリーズのファンはもちろん、リアルな警察ミステリーのファンには絶対のおススメだ。
愚か者の祈り (創元推理文庫)
ヒラリー・ウォー愚か者の祈り についてのレビュー
No.373:
(8pt)

老カウボーイがかっこいい、まさに現代ウェスタン

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズで知られるボックスのシリーズ外作品。カナダ国境に近い森林地帯で牧場を営む男の自分の信念をかけた戦いを描いたサスペンス・アクションである。
アイダホ州北部の小さな町に住む12歳のアニーと弟のウィリアムは、森の中で二人だけで釣りをしていて、集団によるリンチ殺人を目撃した。姉弟が目撃したことに気づいた犯人たちは二人を捕まえようとしたのだが、二人は追跡を逃れて森のはずれにある牧場に逃げ込んだ。老牧場主・ジェスが一人で切り盛りする牧場で、ジェスは二人をかくまってくれる。殺人事件を起こしたのは退職して移住してきたL.A.の元警官たちで、姉弟の口封じのために地元保安官に協力を申し出て捜査陣に加わり、捜査の権限を奪ってしまう。丁度その時、8年前にロサンゼルス郊外で起きた強盗殺人事件の捜査に執念を燃やす元刑事・ヴィアトロが町に入り、じわじわと犯人に近づいていた。犯行を隠すためになりふり構わずアニーとウィリアムを追い詰める元警官たちに対し、二人を守ることを決心したジェスは誇りと命を賭けて戦いを挑むのだった。
これはまさに、襲ってくる敵に正面から挑んでいく正統派のウェスタンである。家族を失い、代々受け継いだ牧場も人手に渡る寸前まで追い込まれた老カウボーイが、信念と正義のために戦う一徹さが心を打つ。また、個性豊かな主要登場人物たちもきちんと書き分けられているので非常に読みやすく、感情移入を容易にしている。さらに、ワイオミングと同じ大自然の豪快さも魅力的で、ジョー・ピケット・シリーズに負けず劣らずのすがすがしい読後感が得られること間違いなし。
ジョー・ピケットのファンはもちろん、ウェスタン小説のファン、爽やかなアクション・サスペンスのファンに自信をもっておススメする。
ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)
C・J・ボックスブルー・ヘヴン についてのレビュー