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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数538

全538件 181~200 10/27ページ

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No.358:
(8pt)

スガ(菅)ーリン独裁下の令和日本を予告した? 怖いお話

2015年に発売された書き下ろし長編。「平和警察」が安全を守るために市民に危険人物を密告させ、尋問(拷問)によって罪を自白させ、公開処刑によって市民の期待に応えるという、恐怖のパラレル日本を描いたディストピア小説の傑作である。
ジョージ・オーウェルの「1984年」の新言語ニュースピークの如き「平和警察」によって「安全地区」に指定された仙台では、住民の相互監視と密告が常態化し、告発された人物は必ず「危険人物」と認定され、ギロチンによる公開処刑が行われていた。そんな事態に反対する人々もいたのだが、平和警察の狡猾で強圧的な力の前にほとんど対抗できていなかった。ただ一人、全身黒づくめのコスチュームで現われる正義の味方を除いては。そして、黒づくめの男に業を煮やした平和警察とその指揮下の宮城県警は、彼をおびき出すために狡猾な手段をとるのだった・・・。
市民の弱さと従順さに付け入る、某国の秘密情報機関顔負けの平和警察のあり方がリアルで、背筋が寒くなるほど怖い。しかも、市民の相互監視というソフトな手段で効率よく管理するやり方は、SNSやテレビでの炎上、つるし上げを想起させ、まさに今の日本の社会を見ているような恐怖感を与える。さらに、登場人物が全員、正義を代表するような人物ではなく、ストーリーが展開するたびに善と悪の境目が曖昧になるところも不気味で、ニヒリスティックな世界観と言うしかない。それでも「ディストピアを望まないなら、社会はそこから出発するしか無い」という強いメッセージを感じさせる作品である。
ミステリーとしても面白く、誰が読んでも何かしら感じるものがあり、どなたにもオススメしたい作品である。
火星に住むつもりかい?
伊坂幸太郎火星に住むつもりかい? についてのレビュー
No.357:
(8pt)

二十年経っても変わらない怨讐のドラマ

イタリアのジュニア向け作品を書いて来た中堅作家のミステリー第一作。マフィアのボスたちが標的になった連続殺害予告事件をテーマに、犯罪組織で生きる男たちの怨讐を描いた傑作ノワール・エンターテイメントである。
ナポリ郊外の墓地で地元マフィアのボスが殺害されて墓穴に入れられているのが見つかった。しかも、そこには7つの墓穴とそれぞれに名前が刻まれた墓碑があった。つまり、残りの6人の殺害を予告しているのだった。同じ頃、七つ目の墓碑に名前を書かれていたミケーレが20年の刑期を終えて出所した。新進マフィアの若きリーダーとして伸し上がりながら勢力拡大の勝負に失敗し、仲間に裏切られて服役したミケーレは、その過去を清算するためにミラノの裏社会に戻って行くのだが、それは必然的にナポリのマフィア世界に激しい動揺を引き起こさずにはいなかった・・・。
20年前の裏切りの真相を暴力的に確かめようとするミケーレの行動がメインストーリーとなり、捜査側の話はサブの扱いとなっている。したがってタイトル「七つの墓碑」から想像される警察の捜査が主題のミステリーではない。むしろ、マフィアが支配する街で育ったチンピラが一人前のボスになるまでの姿を描いた成長物語であり、冷酷非常に復讐を遂げる凄絶なノワール小説である。著者が現役の刑務官ということから、イタリアの刑務所事情がリアルに描かれているのが興味深い。
タイトルから想定するようなサイコもの、連続殺人ものではなく、イタリアン・ノワールの傑作として手に取ることをオススメする。
七つの墓碑 (ハヤカワ文庫NV)
イーゴル・デ・アミーチス七つの墓碑 についてのレビュー
No.356: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

老いてゆく自分への怒り、絶望、そして受容。ヴァランダーの最終章

現代北欧警察ミステリーの最高峰である「刑事・ヴァランダー」シリーズの第11作で実質的な最終作。娘・リンダの義理の両親の不可解な行方不明事件を解明するために、組織とは距離を保ちながら孤軍奮闘するヴァランダーの執念の捜査を描いた、傑作捜査ミステリーである。
かねてから憧れていた田舎暮らしを始め、娘のリンダは妊娠・出産して孫娘ができたヴァランダーだったが、ときおり発生する記憶喪失に悩み、肉体的な衰えを自覚するとともに、それに対する反発心、怒りの感情を持て余していた。そんな中、娘の相手であるハンスの父親で退役海軍司令官のホーカンが突然姿を消してしまった。自分のミスで謹慎中だったヴァランダーは、娘や孫のために事件の解明に乗り出したのだが、全く成果が上がらないうちに、今度はホーカンの妻であるルイースまで行方不明になってしまった。ホーカンが姿を消す前にヴァランダーに語った「国籍不明の潜水艦」の謎が関係しているのではないかと推測したヴァランダーは、事件の背景に冷戦時代の闇を見るのだった・・・。
冷戦時代のスウェーデンのスパイ活動から派生した事件の解明が本筋だが、それ以上に力点が置かれているのが、還暦を間近にしたヴァランダーの老いの現実と、それに対する戸惑い、怒り、反発、絶望と、否応無く受け入れざるを得なくなるまでの心理的な紆余曲折である。身体的な健康だけでなく、頭脳でも不具合を感じ出したヴァランダーが、どうやって老いとの共存を受け入れるか、その「苦悩する男」の姿が心を打つ。
社会性を帯びた謎解きミステリーであるとともに、仕事ひとすじで生きてきた男がいかにして仕事を終えるかという、終活の物語でもある。
シリーズ・ファンには必読。近頃増えて来た老人が主役のミステリー、ハードボイルドのファンにもオススメする。
苦悩する男 上 (創元推理文庫)
ヘニング・マンケル苦悩する男 についてのレビュー
No.355: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

既視感があるエピソードが多いが、読ませる

ホラー小説から出発したという新進作家の新シリーズ第1弾。連続殺人犯とベテラン刑事のスリリングな攻防を描いた、サイコ・サスペンスの傑作である。
シカゴを震撼させている連続殺人事件の犯人・四猿とおぼしき男がバスにはねられて死亡した。当初から捜査にあたっていた刑事・ポーターは事故現場に呼び出されたのだが、そこで見つけたのは片耳が入った白い箱だった。四猿はこれまで、監禁した被害者の耳、目、舌を順に切り取って白い箱に入れ被害者の家族に送りつけてから殺害するという残忍な手段をとっていた。四猿が死んだとしても、片耳がある以上は誰かが監禁されているはずだと判断した警察は白い箱に書かれた宛名から被害者がシカゴの不動産業界の大物の私生児であることを突き止めた。さらに、四猿は事故ではなく自らバスの前に飛び出した自殺だったことが判明した。四猿が犯行の途中で自殺したのはなぜか? 被害者はどこに監禁されているのか? 四猿が残した遺品にあった日記に謎を解く手がかりが見つかるのではないか? ポーターたちは時間との戦いに焦燥しながら犯人を追いつめて行く・・・。
サイコものは犯人のキャラクター次第という定説(勝手な基準だが)通り、四猿の存在感が強烈で、それだけで合格点。しかも、話の展開がスピーディーで最後までゆるみが無い。犯罪の背景、犯行態様、場面転換のどんでん返しなどに、これまで読んだことがあるようなものが多いもののトータルとしてはヒネリが利いた、サスペンス溢れる傑作サイコ・ミステリーである。なお、ホラー作家らしい残虐な描写が続くシーンがままあるのでご注意を。
サイコ・サスペンス、ホラー系ミステリーのファンにオススメする。
悪の猿 (ハーパーBOOKS)
J・D・バーカー悪の猿 についてのレビュー
No.354:
(8pt)

殺した男を生きさせ、新たな犯人を作り出せ!

フランスの女性作家の本邦デビュー作。成り行きで起きた殺人を隠蔽するために被害者の生存を偽装し、罪をかぶせる犯人を捜し出すという奇抜なアイデアのノワール・サスペンスである。
フランスの片田舎で夫、二人の娘と暮らすアレックスが営むペンションを、大物作家・ベリエがお忍びで訪れた。気さくな人柄で家族と親しくなったベリエだったが、若い頃に作家志望だったアレックスに興味を持ち、ある夜、アレックスを強姦しようとする。アレックスは必死で抵抗するうちに、弾みでベリエを殺してしまった。若いときに暴行事件を起こして精神科病院に入れられたことがあるアレックスは警察に届け出るのをためらい、死体を隠してしまう。さらに、ベリエが生きていることを偽装するために、パリに出てベリエの個人秘書を装い、ベリエの周辺人物の中から罪を着せられる人物を見つけ、その人物がベリエを殺したように偽装しようとする・・・。
40歳の主婦が、殺した男が生きていると思わせるための偽装、新たな犯人を見つけ出し、その人物に罪をかぶせるための計略、しかも自分自身も身分も人格も別のものに変えて行動するという、極めてトリッキーなアイデアが抜群。何重ものリスクを負ったアレックスがさまざまな危険に出会うたびに、読者はハラハラドキドキし、最後までスリルとサスペンスを堪能することになる。女性差別、都会と田舎の格差、ネット社会の罪悪など、現代社会が抱える問題も主要なテーマになっているのだが、それを抜きにして、ノワール・サスペンスとして十分に満足できる傑作である。
ジャンルを問わず、ミステリーファンならどなたにもオススメしたい。
念入りに殺された男 (ハヤカワ・ミステリ)
エルザ・マルポ念入りに殺された男 についてのレビュー
No.353:
(8pt)

今まで邦訳が出なかったのが不思議なベテランの力作

アメリカでは人気があるベテランなのに、これまで日本では1作しか邦訳されていなかったフェスパーマンの20年ぶりの邦訳作。1979年のベルリンと2014年のアメリカを行き来しながら、冷酷非常なスパイの世界を生きた女性たちの苦悩と誇りを描いた歴史スパイ・ミステリーである。
冷戦下のベルリンでCIA支局の末端職員として隠れ家(SAFE HOUSE)の管理を担当するヘレンは、点検のために訪れた隠れ家で聞いてはいけない会話を録音してしまった。さらに、支局の現場担当官・ギリーが情報提供者の女性をレイプする現場に遭遇、憤りを覚えたヘレンは出来事を上層部へ報告したのだが支局長はまともに対応せず、あろうことか規律違反としてヘレンを解職し、アメリカ本国へ送還しようとした。それから35年後、メリーランド州の農場で主婦として生活していたヘレンが夫とともに、知的障害者である息子に射殺されるという悲惨な事件が発生した。長く故郷を離れていて葬儀のために帰郷したヘレンの娘・アンナは「両親と弟に何があったのか」、真相を探るため、実家の隣を借りている失業中の男・ヘンリーに調査を依頼する。ところが実は、ヘンリーはある組織からヘレンを見張る仕事を受けて引っ越して来ていたのだった・・・。
冷戦下でCIAがもみ消そうとした不祥事が35年後の悲劇につながって行く。スパイ組織がかかえる闇を、35年の時空を超えてじわじわと暴いて行く物語構成が絶妙。1979年ではヘレンが主役となって活躍し、2014年ではヘレンは死んでおり、その娘のアンナが活躍し、なおかつ2つの出来事がしっかりと連結されているのが面白い。歴史スパイ・ミステリーの設定ではあるが、物語の主眼は女性蔑視の取り付かれたスパイ組織に対する女性たちの反乱に置かれており、極めて現代的な社会派ミステリーである。なおかつ謎解き部分も秀逸で、最初から最後まで緊張感を持って読み進められる。
スパイ同士の諜報戦ではないので、スパイ小説ファンというよりはミステリーファンにオススメしたい。
隠れ家の女 (集英社文庫)
ダン・フェスパーマン隠れ家の女 についてのレビュー
No.352:
(8pt)

88歳にして新たな挑戦をした意欲作

88歳にして現役作家として活躍するジョン・ル・カレの25作目の長編小説。得意分野であるスパイの世界が題材だが、単純な諜報戦に終わらせず、個人の忠誠心と組織の論理、祖国への愛憎、自律と信頼関係など、人間が誇り高く生きるとはどういうことかを追及した、味わい深いスパイ・ミステリーである。
ロシア対策で実績を残して来たイギリス秘密情報部員・ナットは、そろそろ引退を考えていたのだが、帰国したロンドンでロシア対策を担当する弱小部署の再建を依頼される。赴任してみるとそこは、使えないスパイを集めた吹き溜まりのような部署だった。それでもナットは自分で仕事の意義を見つけ出し、ロシアの新興財閥がらみの怪しい資金移動を調べ始めるのだった。プライベートでは趣味のバドミントンを続けており、所属クラブのチャンピオンとして、ある若者・エドの挑戦を受け、定期的にプレーする仲になる。そんなとき、あるロシア人亡命者から「ロシアの大物スパイがロンドンで活動を始めそうだ」という情報がもたらされ、秘密情報部全体で取り組む大きな案件として動き始めた・・・。
ロンドンを舞台にしたロシアとイギリスの諜報戦、と見せかけて、最後にはあっと言わせる構成が見事。読者は決して騙される訳ではなく、論理的に説得されて、どんでん返しを楽しめる。全体的に、昔の作品に比べてストーリー展開が分かりやすく、エピソードやキャラクターを十分に楽しむことが出来る。いつまでも殻を破り続けるル・カレの凄さに感嘆する傑作である。
古くからのル・カレのファンにはもちろん、若い読者にも自信を持ってオススメする。
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No.351: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

登場人物は歪んでいるが、ストーリーは堅牢

スウェーデンでは絶大な人気を誇りながら、何故か日本では1作しか翻訳されていなかった大物作家による新シリーズの第一作。猪突猛進型の警察官が奇怪な連続少女誘拐事件の謎を解く、サイコ・サスペンスであり、第一級の謎解きミステリーある。
15歳の少女が誘拐され、犯人側から何の接触も無く三週間が過ぎたとき、匿名の目撃情報が寄せられた。少女の姿を見たという廃屋に急行したベリエル警部たちが突入すると中は無人で、なおかつ仕掛けられたブービートラップで警官が負傷する被害を受けたのだが、地下室には明らかに誰かが監禁されていたあとが残されていた。この一年半ほどの間に15歳の少女が誘拐された、同じような事件が二件あることを突き止めたベリエルは連続少女誘拐事件として捜査しようとするのだが上司に否定され、無断で捜査を進めることにした。その三件の現場写真に同じ女性が写っているのに気づいたベリエルは、女性の身元を突き止め、取り調べることになったのだが・・・。
少女誘拐事件の犯人探しがメインなのだが、捜査を担当するベリエルと容疑者と目された謎の女性の間にある関係性が判明し、驚愕の展開を見せるようになる。その事件というか背景は陰惨きわまりなく、さらに凄惨なサイコ・シーンが続くのだが、物語の構成がしっかりしているので、ジェフリー・ディーヴァーに負けないジェットコースター気分を楽しめる。伏線の回収も納得できる展開で、最後まで飽きさせない。
北欧の警察ミステリーとしてはやや異色の作品だが、従来からの北欧ミステリーのファンにも十分に満足できる高レベルなエンターテイメント作品としてオススメする。
時計仕掛けの歪んだ罠 (小学館文庫)
アルネ・ダール時計仕掛けの歪んだ罠 についてのレビュー
No.350:
(8pt)

異なるものへの恐怖は時代も文化も超越し、暴力へと変化する

本国スウェーデンを始め北欧では大人気の「エリカ&パトリック事件簿」シリーズの第10作(表4解説)。30年前と同じ状況で発生した幼女殺害事件を巡る警察ミステリーであり、異端の者、弱者に対する暴力、恐怖を嫌悪に変換せずにはいられない人間の醜さと悲しさを描いた社会派ミステリーでもある。
フィエルバッカ郊外の農場で、その家の4歳の少女・ネーアが行方不明になり、警察、地元住民の捜索により死体で発見されたのだが、そこは30年前に同じ農場の4歳の娘・ステラが惨殺死体で発見された場所だった。ステラ事件では、ステラのベビーシッターを頼まれていた当時13歳の少女二人が取り調べられ、当初は犯行を自白したのだが後に否認、未成年だったこともあり逮捕されることはなかった。二人の少女のうちマリーはハリウッド女優として成功し、新たな映画撮影のためにフィエルバッカに戻って来たばかりだった。もう一人の少女・ヘレンは父親の友人だった年上の軍人と結婚し、地元で園芸店を営んでいた。ネーアとステラ、二つの事件の類似性に悩まされながらパトリックたちは30年前の事件も掘り起こして捜査を進めたのだが真相解明は遅々として進まなかった。そんな中、シリア難民の犯行だと断言するものたちが現われ、難民収容所が放火される事件が発生し、捜査はさらに混迷した。
幼女殺害事件の犯人探しが本筋だが、現在の事件だけでなく、30年前の事件の解明まで必要になりストーリーはどんどん複雑になる。それに加えて、外国人排斥、親子の断絶、学校でのいじめ、17世紀の魔女狩りも重要なテーマになっており、上下巻1000ページを超える大作なのだが、登場人物のキャラクターが立っていることと「人物関係図」が添付されていることで、さほど苦労することなくストーリーを追うことが出来る。
格差や差別化が激しくなり分断が広がる一方の社会に対する著者の怒りの熱量がひしひしと伝わる熱い物語だが、ミステリーとして、エンターテイメントとしての完成度が高く、読書の楽しみが損なわれることはない。
シリーズファンはもちろん、北欧ミステリーに限らない幅広いジャンルの現代ミステリーファンにオススメしたい。
魔女 エリカ&パトリック事件簿 上 (集英社文庫)
No.349:
(8pt)

個性が強い女と軟弱な男のありふれた、だが深い話(非ミステリー)

2004〜5年に雑誌連載された11作品を収めた短編集。平成の時代を漂う若い男たちが個性的な女たちと出会い、別れる、ちょっとおかしくて悲しげなラブストーリーたちである。
文庫200ページ余りに11作品が収録されており、1作品は20ページ弱。しかも、登場人物たちがキャラ立ちしていて話の展開が分かりやすいのでスイスイ読める。だが、作品に込められた女性たちの強さが印象的でリアリティがある。
ジャンルを問わず、面白さを求める読者にオススメしたい。
女たちは二度遊ぶ (角川文庫)
吉田修一女たちは二度遊ぶ についてのレビュー
No.348:
(8pt)

思い込みは生きる力である(非ミステリー)

2004年文芸誌に掲載された恋愛小説。ものを思うことが生きる力になることを、若い女性の恋心で表現した文芸ロマンである。
小さな港町でOL生活を送る小百合は、自分の町をリスボンだと夢想することで、非日常の世界を楽しんでいた。地味で目立たず、無理をしない、臆病な小百合を支えているのは弟が、女子なら誰もが憧れる超イケメンであることだった。それが、高校の同窓会に無理やり誘われて参加したことから、現実世界でも過去と現在が入り交じる非日常な展開に巻き込まれることになった。さらには、弟が恋した相手が、自分以上に地味で臆病そうな女だったことにも動揺し、アイデンティティの危機に陥った。そんなさなか、恋の予感を感じさせる出会いがあったのだが・・・。
全体構成が抜群に上手い。田舎の港町をリスボンだとして生きる地味なOLという設定が物語が上滑りするのを防いでいて、しみじみと面白さが沸いて来る佳作である。
性別、年齢を問わず、人生の迷い道に差し掛かっている人にオススメしたい。
7月24日通り (新潮文庫)
吉田修一7月24日通り についてのレビュー
No.347:
(8pt)

サイコ、ヘイト、カルト。アメリカの宿痾を凝縮した暴力の爆発

ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレント・シリーズの第9作(巻末解説による)。女性が主役となる暴力事件を描き続けているカリン・スローターが本領を発揮した、全編凄まじい暴力のアクションサスペンスである。
アトランタのショッピングモールで疾病予防管理センターに勤務する女性疫学者が拉致・誘拐されてから一ヶ月後、市の中心部で大規模な爆発事件が発生した。被害者救助のため現場に駆けつけたウィルとサラは、車の衝突事故に遭遇し、けが人を助けようとしたのだが、被害者のはずの車に乗っていて負傷した男たちから銃を突きつけられ、ウィルは負傷、サラは誘拐されてしまった。車に乗っていたのは逃走中の爆破犯たちで、しかも一緒にいたのは拉致されている疫学者だった。爆破犯である白人至上主義者のキャンプに監禁されたサラを救うために、ウィルと相棒のフェイス、上司のアマンダはFBIとの確執もありながらも連携し、犯人たちの目的、組織、キャンプを解明しようと必死に駆け回るのだった・・・。
全編700ページ弱、いたるところに凄まじい暴力が横溢し、読み続けるのにかなりの精神力が要求されるハードな作品である。当たり前のように身の周りに銃があり、当たり前のように市中で銃撃戦が発生する病んだアメリカ社会は、絶望的といわざるを得ない。そして、アメリカのみならず世界が同じような崩壊への道を歩んでいるとしたら、法や秩序はどこに存在するのだろうか?
シリーズ最新作だが、これまでシリーズ未読でも十分に楽しめる。サイコ・サスペンス、現代社会に材をとったサスペンスのファンにオススメする。
破滅のループ (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター破滅のループ についてのレビュー
No.346:
(8pt)

警察小説で始まり、最後はサイコ・ミステリー

イギリスの女性作家のデビュー作。ひき逃げ殺人事件の捜査から始まった警察小説が、いつのまにかサイコ・サスペンスに変化している、不思議な構成のミステリーである。
ブリストル市の住宅街の雨の夕刻、5歳の息子を学校に迎えに行った母親が自宅を目前にしてちょっと手を離したすきに子供が駆け出し、猛スピードで走ってきた車にはねられた。道路に倒れた息子に駆け寄り半狂乱で助けを求める母親を無視して、車はその場で方向転換し、街路樹に車体をこすりながら猛スピードで逃げて行った。事件を捜査することになったブリストル警察犯罪捜査課のスティーブンス警部補たちは、犯行の悪質さに怒りを募らせ必死んで捜査を進めたが、一向に手がかりをつかむことが出来なかった。それから半年後、警察上層部は捜査を打ち切るようにスティーブンスたちに命じたのだが、納得がいかない若手女性刑事・ケイトはこっそり捜査を継続し、スティーブンスもそれを黙認した。
一方、忌まわしい事故の記憶から逃れるためにウェールズの鄙びた寒村に来た、謎の女性・ジェナは親切な地元民に助けられ、徐々に海辺の村での生活を築き上げていたのだが、常に何かに怯えながら暮らしていた。
物語の前半は捜査の進行とジェナの動向が交互に語られ、事件の全体像が見えてきたと思われたのだが、スティーブンスたちとジェナが交差したとき、物語は急展開し、さらに複雑に、ミステリアスになって行く。
ひき逃げ犯を追いかける警察小説に、捜査陣内部の人間ドラマを加味したものだと思っていると、途中から一気にサイコ・サスペンスの恐怖に引きずり込まれている。新人のデビュー作とは思えない、なかなかに歯ごたえがあるミステリーである。
警察ミステリー、サイコもののファンにオススメする。
その手を離すのは、私 (小学館文庫)
No.345:
(8pt)

賑やかで楽しい、ブンと総長コンビの登場作

大阪府警シリーズの第3作。ベテラン刑事部長・総田と平刑事・文田の新コンビが主役の警察ミステリーである。
名神高速道路を走行中の乗用車がダイナマイトで爆破されるという派手な事件が起き、乗っていた男女二人が死亡した。捜査を担当することになった府警捜査一課の深町班では、ベテランの総長こと総田とブンこと文田のコンビは、年下の上司である東大卒のキャリア・萩原警部補と一緒に行動することになった。何かにつけ東京を持ち出して大阪を見下すような萩原に対し反感を覚えるブンだったが、総長は案外寛容な態度で接していた。死亡した二人の身元が分からず苦戦していた捜査陣だったが、ほどなくしてマンションで爆発があり死体が発見されたことから、二つの事件の関連性を見つけ、被害者の身元を特定することが出来た。さらに、高速上で死亡した女性の背景を調べるために出身地の高知に赴いたブンと総長は、事件の背景に保険金目当ての偽装海難事故があるのではないかと疑った。足を棒にして聞き込みを続ける二人を尻目に、時々行方をくらませていた萩原だったが、ある日、周囲をビックリさせる捜査見立てを持ち出した・・・。
本筋は偽装海難事故の真相解明の警察ミステリーだが、サブストーリーとしてブンと総長の新コンビの掛け合い、大阪人と東京人の文化摩擦がちりばめられている。作者本人もあとがきに「東京と大阪の文化の比較を試みた」と書いている通り、すれ違いの面白みが加わっているところが、本シリーズでの中では特色的である。もちろん、大阪の刑事ならでは緩いユーモアは健在で、謎解きミステリーとしてもきちんと納得できる起承転結である。
黒川博行ファン、大阪府警シリーズのファンには安心してオススメする。
海の稜線 (角川文庫)
黒川博行海の稜線 についてのレビュー
No.344: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

シリーズの感動が戻ってきた

ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズの邦訳第12弾(シリーズとしては13作目)。今回から版元が代わったが訳者は同じなので安心して楽しめる、冒険サスペンス・アクションの傑作である。
ジョーの知人である地元の建設業者・ブッチが所有する住宅建設予定地で、武装した政府の環境保護局の職員2人が射殺されているのが発見された。2人はブッチに住宅建設を禁止する環境保護局からの通達を渡す目的で派遣されており、ブッチは姿を消していた。ブッチを逮捕するために、環境保護局は特別捜査官チームを送り込み、地元保安官事務所を押しのけて強引に捜査を進めようとする。パトロール中に偶然、逃亡中のブッチと会っていたジョーは、新任の上司の命令で捜査班を案内することになる。ブッチの人柄を知るジョーは事件のストーリーに納得がいかず、メアリーベスの助けを借りて背景を探ってみると、過去の因縁を引きずった暗い陰謀が見えてきた・・・。
殺人の動機の解明と、険しい大自然の中で繰り広げられる逃亡と追跡のアクションが主題のサスペンス作品である。ジョーが自分の生活圏とするワイオミング州の山の中でのアクションは、まさに本シリーズの真骨頂、いつもながら読み応えがある。さらに、事件の真相解明のプロセスもミステリーとして合格点で、家族の愛情を素直に歌い上げるところと合わせ、ジョー・ピケット・シリーズの真価を発揮した作品と言える。
シリーズ愛読者には必読。シリーズ未読のアクション小説、ミステリー小説のファンにも自信を持ってオススメする。
発火点 (創元推理文庫)
C・J・ボックス発火点 についてのレビュー
No.343: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

まさにイタリアンな警察小説!

イタリアではすでに8作が刊行され、テレビドラマとしてもシリーズ化されているという大人気の警察小説シリーズの第一作。「イタリア発 21世紀の87分署シリーズ」という帯の惹句通り、シリーズとしての邦訳を期待したい傑作警察ミステリーである。
ナポリでもとりわけ治安が悪い地域を担当するピッツォファルコーネ分署は、捜査班の4人の刑事が押収したコカインを横領したことで逮捕され、分署は存続の危機を迎えていた。そこに送り込まれてきたのが、切れ者ながら上司との折り合いが悪くて放出されたロヤコーノ警部、捜査中に暴力事件を起こしたロマーノ巡査長、署内で発砲したアレックス巡査長補、アメリカ刑事ドラマかぶれのスピード狂のアラゴーナ巡査という、いずれも癖があり過ぎて、前任署で持て余しものになっていた刑事たちだった。それを統括するのは人格者で新任のパルマ署長、さらに従来から分署にいた二人のベテランを加え、7人の捜査班が結成された。彼らが着任そうそうに直面したのが、スノードーム収集が唯一の趣味という資産家の中年女性の殺害事件だった。ロヤコーノたちが事件を伝えるために被害者の夫の事務所に行くと夫は不在で、連絡が取れなかった。後で夫に会うと、最初に伝えた出張という不在の理由は嘘で、愛人と泊っていたことを告白する。にわかに重要参考人となった夫だったのだが、犯行を裏付ける証拠は何も見つからなかった・・・。
本書冒頭の「謝辞」で筆頭にエド・マクベインの名を挙げていることからも明らかなように、87分署シリーズを意識して書かれた作品である。87分署をリスペクトするシリーズは世界中で書かれているが、本作はその中でも傑作に挙げられる完成度を達成している。本筋の事件解明プロセス、事件の背景となる社会状況、警察内部の事情など、警察ミステリーに必要な要素はきちんと押さえられている。さらに、7人の捜査班メンバーの個性、それぞれの生活、個人的な悩みなどが彩り豊かに描かれ、現代イタリアのヒューマン・ドラマとしても楽しめる。
すべての警察ミステリーファンに今後の展開が楽しみなシリーズが登場したと、自信を持ってオススメする。
集結 (P分署捜査班) (創元推理文庫)
No.342: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

憎悪の極限まで突っ走る男の生き様を描いた、傑作ノワール

「虎狼の血」シリーズ三部作の完結編。ヤクザ以上にヤクザな暴対刑事を描いた前二作とはやや異なり、自分の腕力一つでのし上がって行く野良犬を主人公にしたノワール色の濃い警察サスペンスである。
組織暴力がそれなりの態勢を整えた昭和後期の広島で、無類の喧嘩度胸で愚連隊「呉寅会」を引っ張る沖虎彦。ヤクザをも恐れぬ無鉄砲さと人を引きつけずに置かないカリスマ性で仲間を集め、ついには地元の暴力団と全面対決するハメになった。沖の破壊力を、ヤクザの排除に利用したいと考えていた大上刑事は、愚連隊がヤクザと全面対決して勝てる訳がないと判断し、呉寅会が行動を起こす直前に沖たちを逮捕する。その18年後、服役を終えた沖は広島に戻り、昔の仲間を集めて「広島で天下を取る」ために再び行動を起こそうとする。しかし、時代は変わり、暴対法でがんじがらめにされているヤクザの行動様式は沖の想像とは異なっており、沖は満たされない思いに苛まれながら、自分が信じる唯一の手段「暴力」で野望を遂げようとする・・・。
警察小説シリーズの形式は踏襲しているものの、本作は時代に乗り、時代に取り残された男の悲哀を描いたノワール小説である。暴対デカ・大上刑事の破天荒な捜査、大上の薫陶を受けた日岡刑事の剛直さなど、前二作の面白さを継承した部分以上に、沖という男の無頼な生き方が強い訴求力を持っている。暴力が主役のエンターテイメントとして一級品である。
シリーズ読者は必読。警察小説ファン、ノワール小説ファンにも自信を持ってオススメする。
暴虎の牙
柚月裕子暴虎の牙 についてのレビュー
No.341:
(8pt)

絶対に「ザ・プロフェッサー」から読むべし

新たに誕生したリーガルミステリーの傑作「トム・マクマートリー」シリーズの第2弾。KKK誕生の地・テネシー州ブラスキを舞台に、人種差別犯罪に立ち向かうトム、リック、ボーの戦いを描いた熱血法廷ミステリーである。
前作でトムに協力した黒人弁護士・ボーが逮捕された。45年前、5歳のときにKKKによって自分の面前で父親をリンチ殺人されたボーが、父の命日に当時のKKKのリーダーで主犯と思われた地元の有力者・ウォルトンを殺害したという。遺体はボーの父と同じように木に吊るされ、火をつけられており、復讐犯罪なのは明白だとして死刑を前提にした裁判にかけられたボーは、恩師であるトムに弁護を依頼する。トムと相棒のリックは地元を離れ、ブラスキまで駆けつけて弁護を始めるのだが、今なお露骨な人種差別がはびこる町で、しかも相手は就任以来負け知らずの女性検事長・ヘレン、さらに目撃証言や物的証拠も不利なものばかりという逆境で、いかにして活路を見出すのか。トムとリック、ボーはわずかな可能性にかけ、不屈の粘りで戦うのだった・・・。
本作も、人間のつながり、不屈の精神、貫き通す正義など、感情を揺さぶる要素が満載のヒューマンドラマである。がしかし、前作に比べるとミステリーの側面が強くなっている。反面、主役以外の人物、特に悪役がやや類型化されている印象である。
前作の主要登場人物が揃って登場し、前作のエピソードに関連するストーリー展開もあるので、絶対に前作「ザ・プロフェッサー」から読むことをオススメする。
黒と白のはざま (小学館文庫)
ロバート・ベイリー黒と白のはざま についてのレビュー
No.340:
(8pt)

大阪府警にも働き者のデカがいる!

大阪府警シリーズの第8作。新登場のコンビが、若い女性の連続猟奇殺害事件を追うサスペンス・ミステリーである。
殺害された若い女性はセーラー服に着替えさせられ、なおかつ全身に剃毛が施されていた。大阪府警捜査一課のベテラン刑事・谷井と若手の矢代のコンビは制服マニアか、コスプレマニアの犯行を疑って捜査に取りかかったのだが、今度は女子大生の格好をさせられた若い女性の遺体が発見され、連続殺人事件の様相を呈してきた。さらに、ほどなくしてOLの格好をした女性の遺体が発見された。女性を着せ替え人形のように扱う犯人はサイコパスだと推測されたが、被害者はなぜ選ばれたのか、谷井と矢代は被害者に共通する背景を必死に追及し、女性の恋愛感情を利用して高額な宝石や呉服を売りつける恋人商法が関係しているのではないかと結論付けた。同じ頃、府立高校の教員・足立由実は知り合って間もないファッション・メーカーの社員・大迫との仲を徐々に深めつつあった・・・。
今回主役の刑事コンビは、このシリーズには珍しく仕事ひとすじである。それでも、大阪府警らしいとぼけた味わいは忘れておらず、要所要所でクスりとさせる。さらに、メインとなる事件がサイコ・ミステリーとしてしっかり構成されていて、真犯人解明までのプロセスも破綻が無い。また、被害者予備軍の女性教諭の視点からのサスペンスも読み応えがある。
大阪府警シリーズではやや異色の作品だが、シリーズファンには必読。さらに、サイコ・サスペンスや警察ミステリーのファンにもオススメする。
アニーの冷たい朝 (創元推理文庫)
黒川博行アニーの冷たい朝 についてのレビュー
No.339:
(8pt)

人種差別と、女性蔑視と、二日酔いと。戦い続ける生きのいいヒロイン!

現役の女性弁護士でもある作者の本邦初訳で、MWA最優秀長編賞にノミネートされた作品。型破りではあるが憎めない、生きのいい女性弁護士が奮闘する社会派リーガル・ミステリーである。
ユタ州ソルトレイクシティで刑事弁護士を開業しているダニエルに持ち込まれたのは、知的障害者の黒人少年・テディが麻薬密売を行ったとして逮捕された案件だった。本人に会ってみれば「幼児レベル」の知性しか無く、しかも未成年であるため、容易に不起訴に持ち込めると思ったのだが、なぜか検察も判事も成年犯罪として扱うことにこだわっていた。テディは当日の行動を理路整然と説明することが出来ず、しかもテディに同行したという3人の白人少年たちの証言まであった。圧倒的に不利な状況にもかかわらず、弱者が人権を踏みにじられるのが許せないダニエルは、テディを守るために自分が持てる力のすべてを発揮して権力への戦いを挑むのだった・・・。
ヒロインのキャラクター設定が最高に面白い。自分が浮気したことが原因で別れた元夫に(夫と一緒に暮らしている息子にも)執着し、元夫の再婚話が進むと酒浸りになり(毎回のように二日酔いで法廷に出て、判事や検察に嫌がられている)、ほとんどストーカー行為を繰り返すという、性格破綻者レベルのダメ人間なのだが、一旦、理不尽なことに直面すると何ものをも恐れぬ火の玉となる激しい女性でもある。さらに、ダニエルを支えてくれる調査員、友人などのキャラクターも秀逸で、シリーズ化を期待したい。また、悪人側になる判事や検察もキャラ立ちしていて、波乱万丈なストーリー展開が無理なく頭に入って来る。
作者はアフガニスタン出身の人権派弁護士ということもあって、アメリカ社会の様々な差別に対する強烈な批判がビシビシ伝わって来る。がしかし、ヒロインの魅力を十分に引き出したユーモアのあるエンターテイメント作品でもある。
社会派のリーガル作品ではあるが、予備知識なしで十分に楽しめるエンタメ作品として多くの人にオススメしたい。
弁護士ダニエル・ローリンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)