■スポンサードリンク
iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
期待通りの社会派警察小説の傑作だ。多くの方が言及しているように、スウェーデンの警察小説といえば「マルティン・ベック」シリーズ。その1990年代版と呼ぶにふさわしい新シリーズの登場である。
スウェーデン南部、人口1万人にも満たない小さな田舎町のイースタ警察署の中年刑事・ヴァランダーが主人公。けっしてスーパーヒーローではない警察官が、生活にも、自分の体調にもさまざまなトラブルを抱えながら、それでも警察官であることの誇りを失わず、事件の真相究明に必至に頑張るところが、いたく共感を呼ぶ。第一作だけに、ヴァランダーのキャラクターを確立させようとしてさまざまなエピソードが盛り込まれているが、そのエピソードが錯綜し過ぎていて、いまひとつ、キャラクターが際立ってこない気もしたが、魅力的な主人公であることは確かだ。 イースタ郊外の片田舎の農村で老夫婦が惨殺され、被害者が最後に「外国の・・」と言い残す。犯人は外国人なのか? 人種差別的な人々を刺激することを恐れたヴァランダーは、このことを公表しないまま捜査を進めようとするが、警察内部からの情報洩れにより「犯人は外国人か?」という報道が流れ、移民排斥の動きが強まり、ついに移民逗留所への放火やソマリア人が射殺されるという事態を引き起こしてしまう・・・。スウェーデンといえば、移民や難民にはきわめて寛容な社会と思われていたが、90年代にはやはり外国人に対する反感が強まっていたようだ。そんな社会状況を敏感に反映したストーリー、エピソードはリアリティたっぷり。実に読み応えのある作品だった。 主人公を取り巻く警察仲間、家族のキャラクターも詳細に描かれており、シリーズとして成長していくだろうという予感がたっぷりで、第二作以降への期待が高まっている。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「悪人」より「横道世之介」に近いテイストの作品で、ミステリーではないが、作者の腕の確かさを感じる上質なエンターテイメント作である。
「猿蟹合戦」といえば、親を殺された子供の復讐を周りが助けるお話だが、それを平成の世にもってくるとどうなるか? まず、登場人物が歌舞伎町のバーテン、ホスト、ホステス、ママ、パトロン、ヤクザ・・・と怪しげなキャラクターになる。合戦の舞台はひき逃げ事故に絡む脅迫から衆議院議員選挙へと、微妙に変化していく。もちろん、蟹の親は殺されなければいけないので、殺人や犯罪、犯罪すれすれの悪事、悪事を平気で働く悪人も登場する。だからといって、人間の悪意が渦巻く重苦しい展開になるかといえば、そうでもない。キャラクターが非常に軽く、さわやかに設定されているので、ストーリーも軽やかに展開していく。元のお話が勧善懲悪であることからも分かるように、最後は読者をほっとさせる予定調和のエンディングに収められている。したがって、読後感が悪くないのが、この作品のよさだろう。 「悪人」の吉田修一を期待する人にはオススメしないが、「世之介」が面白く読めた人にはオススメしたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
百舌が登場しない百舌シリーズ作品。その意味では、公安警察シリーズとでも呼ぶべきだろうが、やはり百舌の印象が強烈なため「百舌シリーズ」になる。事実、本作のあとには「よみがえる百舌」が書かれている。本作も、シリーズの前2作を読んでから読むことを強くオススメする。
第3作の今回は、結婚した倉木警視と美希夫妻にとんでもない災難が降りかかることから、私怨をはらす壮絶な戦いが展開されるのだが、それが警察組織を揺るがす大陰謀と密接に絡んでいることで、スケールの大きな物語となっている。シリーズの前作品に比べると、アクション、ミステリーの要素が濃くなり、よりエンターテイメント性が高い作品といえる。作品の主人公は、シリーズキャラクターである倉木、美希、大杉の3人で同じだが、主役の座が倉木から美希へと移っている。ある意味、冷静沈着・ハードボイルドの倉木から激情型の美希に視点が移ったわけで、その分、ハードボイルドよりアクション味が強くなった印象だ。 シリーズ物としては、あっと驚くエンディングだが、そのハンディを乗り越えて、話を展開していけるという、作者の自信の表れだろう。実際、次の「よみがえる百舌」では、舌を巻くストーリーで読者を脱帽させてくれた。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
傑作「百舌の叫ぶ夜」の続編、というか、そのままの流れで話が展開されるので、絶対に「百舌の叫ぶ夜」を読んでから本作を読むことを強くオススメする。
死んだはずの百舌がよみがえった? というのも大きなテーマだが、それよりも倉木警部を中心とする警察側が前作での悪の黒幕・森原大臣側を抹殺しようとする、一種の政治闘争がメインテーマである。したがって、推理や捜査活動より心理戦、読み合いが中心でストーリーが展開される。もちろん、アクションやサスペンスもたっぷりだが、文庫の解説にもあるように主人公たちのハードボイルドな生き方が読みどころになる。 物語の終盤に来て、「これは、ちょっと無いよな~~」という思いもあったが、よくできた物語といえる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
映画化されていることは知らなかったが、滝沢修と倍賞千恵子ならぴったりの配役といえる。
1960年ごろの世相を背景に、強盗殺人で起訴された兄の無実を信じて弁護を頼みに来た柳田桐子が、その依頼を断った大塚弁護士への復讐を果たす物語。大塚弁護士が依頼を断ったのは、当時多忙を極めていたことに加えて、桐子が高額な弁護料を払えないだろうということと、愛人との逢瀬に心が急いていたためだった。そのため後々、大塚弁護士は弁護を断ったことに良心の呵責を感じることとなる。 一方の桐子は、兄が一審で死刑を宣告され、控訴中に獄死したのは、大塚が弁護を断ったためだとして復讐に執念を燃やすことになる。 現在の常識からすれば(おそらく当時の常識でも)、大塚が弁護を断ったことと死刑判決を直接結びつけて大塚に復讐するのは筋違いである。しかし、桐子のサイコパスな性格は暴走する一方だし、そこに大塚の良心の呵責が絡むことで事態は壮絶な心理劇となってゆく。 物語の主眼は、法の限界や警察や裁判のありかたと個人の心情の衝突にあるのだろうが、個人的には、弁護士の正義感を妄信している桐子の素朴さと、弁護を引き受けなかったことを悩む大塚弁護士の倫理観に興味をひかれた。1960年前後には、まだまだ倫理や正義に対する確固たる信頼があったのだなと感じた。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
筆者お得意の警察小説だが、これまでとは趣を変えて、事件現場の街の特色を生かしたストーリー構成と事件の謎解きに中心を置いている。そう、まるで東野圭吾の加賀刑事が登場しそうな作品だ。
舞台となるのは、四ツ谷荒木町。知る人ぞ知る、かつての東京では有数の花街である。現在でも、入り組んだ通りや路地に一種の隠れ家的な飲食店が軒を連ねており、大人に人気の街でもある。その街で、バブル崩壊後に地上げ絡みと思われるアパート経営の老女殺しが起き、15年の時効を迎えたのだが、時効の廃止を受けて再捜査することになる。 捜査を担当するのは、警視庁捜査一課の警部補ながら、上司と衝突して謹慎中だった水戸部裕と、退職した所轄の四谷署刑事で現在は相談員の加納良一。この訳ありコンビが記録と記憶を再調査し、街の深部を掘り起こして行く。そこで徐々に明らかになるのは、一筋縄の解釈では測れない、花街の複雑な人間関係だった。 街の特性とそこに根差した物語づくりは、まさに刑事・加賀シリーズとそっくり。ただ、本作の方が、人情ばなしより刑事物の謎解きに重点を置いている印象を受けた。 今後、シリーズ化されるようなので、佐々木譲の新境地として期待したい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
名作「警官の血」の続編に位置づけられる作品だが、大河ドラマ風だった「警官の血」とは趣を異にした、正統派の警察小説だ。
主人公は、前作で三代目警官としてエピローグを飾った安城和也(現在は昇進して警部になっている)と、彼が告発したことで警視庁を追われた悪徳警部・加賀谷仁。東京の麻薬密売組織で何かが動き始めている・・しかし、規律重視で組織を変更し、捜査態勢が硬直化しセクショナリズムの弊害に悩む警察は、その動きを深く把握することができず、捜査の実を上げることができないでいた。そこで警視庁は、かつては切り捨てた丸暴担当のエース・加賀谷に復職を依頼する。おりしも、安城警部が指揮した捜査で密売組織に潜入していた警官が殺されるという事態が発生。責任を問われた安城は、なかなか成果があげられず焦りを募らせていく。それに引き換え、裏社会の組織に食い込んだ加賀谷は重要な情報を次々に手に入れ、ぐんぐん真相に迫っていく。密売組織摘発の栄誉を最後に手に入れるのは、加賀谷か、安城か? ストーリーの本筋は、麻薬密売組織の正体を追いかける警察小説だが、その過程で、警察組織がもつ官僚機構独特の問題点や自分の父親に対する安城の愛憎などが絡んできて、単なるミステリーではない厚みが感じられた。 「笑う警官」以来の作者の積み重ねを背景に、「警察官にとっての正義とは何か?」、「警察組織の本音と建前」を追求した、意欲的で読みごたえのある作品だった。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
最近、ドラマにもなって注目を集めている本作、巻末の解説によると作者は「ポケミスみたいな作品を書きたかった」と語っているようだが、なるほど、猟銃が出てくるは、美女が派手な犯罪を企むは、車の追っかけっこ(ただし、派手なカーチェイスではなく、高速道路のSAで休みながらの追跡劇だ)があるは、なかなかに派手な道具立てで、しかもすべてが日曜夜から月曜午前までのワンナイトの出来事というスピード感がいい。
冒頭、猟銃を持った美女が復讐のために結婚披露宴会場に乗り込むという、派手なシーンから読者を引き付ける。しかも、これが本作の本筋ではなくサイドストーリーだというところも心憎い構成だ。 メインストーリーは、何の罪もない妻と娘を殺された男が、まったく反省の色を見せない犯人たちに自力で報復しようとする、まあ、よくあるお話。裁判制度が十分に罪を償わせることができないとき、私刑(リンチ)は許されるのか? 重いテーマではあるが、本作ではこのテーマの追求より、登場人物たちの人物像、人間関係、追跡劇のアクションの方に重点が置かれているので、非常に読みやすいエンターテイメントに仕上がっている。 宮部みゆきの初期作品の中では、傑作だ。超能力やエスパーに頼った作品ではないところが、個人的には気に入った。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
「百舌」シリーズの第4作。
これまで、「百舌」シリーズはずいぶん前に第一作を読んだだけだったので、いきなり「よみがえる」を読んだのはちょっともったいなかった。間の二本の作品のエピソードを知っていた方が、数倍面白かったと思う。 死んだはずの伝説の殺し屋「百舌」が現れたのをきっかけに、どんでん返しの連続の捜査活動が繰り広げられる。「百舌は、誰か?」がキーポイントだが、それらしき疑いをもたれる人物が続々と登場し、しまいにはヒーロー、ヒロインも疑わしくなってくる。このあたりのストーリー展開は実に上手い。 最後は壮絶な殺し合いの場面になるのだが、主人公側と犯人側の秘術を尽くした戦いがスピーディーに繰り広げられ、一気に読ませてくれる。 時代状況を巧みに取り入れた社会派小説としても、良くできている。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
前作「犯罪」で衝撃のデビューを飾ったシーラッハの第2短編集。刑事弁護士が現実の事件に材を得て書き上げたというのがシーラッハの売りだが、この全15編の異様な物語を読んでの印象は「果たして、こんなことがあるのだろうか?」という驚きに尽きる。
もちろん、理解しやすい動機の犯罪もあるのだが、ほとんどは常人の常識を越える理由や動機から発生した犯罪であり、犯人や被害者の特異性に驚嘆させられる。が、しかし、実は常識にちょっと目をつむって見れば、それほど奇異な現象ではないのかも知れないという気にさせられた。人は他人を完全に理解することは不可能なのだと思う。 15作品の中では「解剖学」と「秘密」が、どちらも超短編ながらひねりが効いていて面白かった。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
通常のミステリーや戦争物を想起して読み始めると違和感があると思うが、途中からきっとそんなことは忘れて、物語の世界に引き込まれるだろう。
終戦から60年目の夏、司法試験に失敗してニート状態にある26歳の男が、ゼロ戦パイロットとして特攻作戦で戦死した祖父の軌跡を、当時の戦友達へのインタビューでたずねるというのがメインストーリー。写真の一枚すら残されていない祖父の実像を探ろうとする旅は、いきなり「奴は海軍航空隊一の憶病者だった」という衝撃的な証言からスタートすることになる。ひたすら「生きて帰る」ことを願っていた憶病者が、なぜ最後は「十死零生」の特攻機に乗り込んだのか。読み進むほどに祖父の人間性が明らかになり、同時に、戦争や軍隊の非人間性があぶり出されてくる。 フィクションとノンフィクションを入り交じらせながら、現在の視点から戦争の病理や戦時を生き抜く人々の葛藤を描き出した筆者の物語構成力は“素晴らしい!”の一言だ。とてもデビュー作とは思えない。 あの戦争を引き起こし、最後は日本を破滅に追い込んだ軍部、官僚、政治家の愚かさ、頑迷、思い上がりには絶望的になる。だがしかし、それはあの戦争とともに終ったことではない。今回の原発事故をみるとき、我々日本人はあの失敗から何も学んでこなかったのかと、暗澹たる気持ちにさせられる。 新しい日本への歩みを始めるためにも、多くの人に本書を読んでいただきたい。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
予告された連続殺人事件を防ぐのため、次の現場と目されるシティホテルに刑事がホテルマンに化けて潜入する・・・。果たして、犯人は予告通りの事件を起こすのか? はたまた、警察・ホテルは通常の営業を続けるホテルの中で、無事に犯罪を防止することが出来るのか?
はっきり言って、ミステリーとしては犯行の動機、手段などに?マークのところがいくつかあって、さほどの傑作とは思わない。しかし、「新参者」、「麒麟の翼」の流れの作品として読むと、なかなか良くできている。人と人が出会い、かかわり合って、別れて行く「ホテル」を舞台に選んだことが、人情ドラマとしての成功のカギになったといえるだろう。 本筋の犯人、動機の追求と、ホテルを利用する人が作り出すドラマとが並行して進行し、ときには「これは、ミステリーじゃないよな〜」と思うこともあったが、最後にはちゃんと見せ場が用意されているので、ミステリーファンにもオススメできる。 作品紹介には、新ヒーロー誕生と書いてあるが、どうだろう? あまりにも加賀恭一郎と重なるところが多いので(実際、主人公が加賀であってもまったく問題ない)、シリーズ化することがよいことかどうか、難しいところだと思う。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
薬物(鎮静剤)中毒のリハビリで一年以上、弁護士業務から離れていた弁護士ハラーが復活した途端に、きわめて厄介な(しかし、金になる)弁護を引き受けて・・という、リンカーン弁護士シリーズの第二作。
ゆっくりしたペースで業務に慣れて行こうともくろんでいたミッキー・ハラーだったが、射殺された友人の弁護士のケースを引き継ぐことになったことから、いきなり全米の注目を集める映画スタジオ経営者の事件(経営者が妻と、妻の愛人を射殺したとして起訴されている)を担当することになり、その訴訟準備の間に自分も命を狙われることになる。果たして、スタジオ経営者は有罪か、無罪か、はたまた友人の弁護士を殺し、自分の命を狙っているのは誰なのか? 二転、三転して手に汗握るタイプのストーリーではないが、読み応えがある法廷ミステリーであるとともに、殺人事件の謎解きミステリーとしても良くできている。 しかも、マイクル・コナリーのもう一人の人気シリーズ・キャラクター、ハリー・ボッシュが登場するという、マイクル・コナリーファンにはたまらないオマケ付き。最後の最後には、ボッシュとハラーの超〜〜意外な関係が明らかにされ・・・シリーズの三作目、四作目への期待はいやが上にも高まって行く。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ひと言では言い表わせない、複雑な味わいの作品だ。
まず、獄中の連続殺人鬼の軌跡を追いながら事件が発生して行くという「羊たちの沈黙」を思い出させる、サイコスリラー系のミステリーとして読める。さらに、主人公の売れない中年作家の心情をユーモラスに描いた都会派の人情小説でもある。さらにさらに、ミステリーを始めとするエンターテイメント小説論でもある。しかも、途中途中に挟まれている、主人公が書いたSFポルノやヴァンパイア小説まで楽しめる。 なによりも、これだけ盛りだくさんでありながら構成が破綻しておらず、構成要素のすべてがかなりの水準であるところがすばらしい。また、登場人物のキャラクターが生きているので、読みながら人物の顔や服装がありありと浮んできた。まさに、様々な味わいで最後まで楽しませる「幕の内弁当」とでも言えばよいのだろうか。かなりの技巧派である。 これがデビュー作というので、今後が大いに期待できる新星が誕生したといえるだろう。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
カンヌ映画祭で監督賞を受賞した映画の公開に合わせて復刊されたという、クライムノベル。恵まれない環境で育った少年がロサンゼルスに出てきて、ドライヴ(運転)の才能を頼りに映画のスタント・ドライバーになり、その腕を見込まれて強盗たちの逃走車両の運転手を努めるようになる。で、当然のように仲間の裏切りで窮地に追い込まれ、復讐のために孤独な戦いに立ち上がる・・・。
約200ページというコンパクトな作品で、しかも派手なアクションシーンやカーチェイス、容赦ない殺人シーンがテンポ良く展開されるので、バイオレンス映画ファンには大いに受けるだろう。さらに、主人公のドライバー(最後まで本名を明かさず、この名前で通してしまう)は運転や復讐にはきわめてクールで機械的ながら、数少ない心を許し合う友人や恋人とは細やかな情を見せるところもある、なかなか魅力的なキャラクターに描かれているので、単なるバイオレンス映画としてだけではなく、一種の青春ロードムービー的な人気を得るのではないだろうか。 小説としても、読後感がすっきりした傑作だと言える。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
およそ半世紀も前の作品だけに評価がむずかしいが、松本清張のロマンチックな一面がよく現れたロマンチックミステリーの傑作といえる。
ストーリーの中心は、第二次世界大戦末期に欧州の病院で死亡したとされる外交官が生きているのではないか、日本に帰ってきているのではないかという謎を、当の外交官の娘の恋人である新聞記者が追求して行く話。そこに、真相判明を阻止しようとする謎の人物や組織が現れて、殺人や発砲事件にまで発展して行く・・・。この謎解きミステリーだけでも十分に面白いのだが、話のテーマとしてはむしろ、親子、家族の情愛の方に力点が置かれているように思われた。作品全体を通して、しみじみとした風景描写、日常生活への優しい視点が印象的で、ごりごりの社会派という松本清張のイメージを変えさせるような読後感を持った。 テーマ、ストーリーについては、現在の日本のミステリーのレベルから見るとやや物足りなさを感じるが、これはフェアな評価とは言えない。発表当時(1960〜61年)には、かなりのインパクトを与えただろう思われる。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
ジェームズ・ボンドといえばショーン・コネリーを思い浮かべるオールドファンにとって、セクハラ発言を咎められたり、政治的に正しい言葉遣いに気を配る007というのは、妙におかしみがあった。殺しのライセンスを持つ凄腕スパイといえども、21世紀にあっては社会的に正しくないとつまはじきにされるということだろうか(笑)
それはともかく、あの007がジェフリー・ディーヴァーで復活するとは想像もしなかっただけに、どういう仕上がりか、非常に興味深く読んだ。結論から言えば、やはり多少の違和感が拭いきれず、絶対的なオススメ作品ではなかったという評価になった。 なにしろ、論理と科学の権化のようなリンカーン・ライムから荒唐無稽の頂点みたいなジェームズ・ボンドへの飛躍なので、読む側(小生)が付いて行けなかったということでもある。なんの先入観もなく読めば、まずまず面白い現代スパイアクションであるのは間違いない。 スマートフォンとGPSが主役になったとはいえ、相変わらずのスパイガジェットのアイデアは秀逸。さらに、ジェフリー・ディーヴァーの本領を発揮したどんでん返しの連続など、読者を飽きさせないエンターテイメントと言える。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
強姦・強盗目的の17歳の少年に妻と娘を殺された男と、警察官である夫のDVから逃れるために息子を連れて家出した女が、妻に逃げられた工務店のオヤジと出会い、それそれが抱える問題に悩み、葛藤しながらそれぞれの過去を清算し、生き方を変えて行こうとする話。
少年犯罪の被害者と加害者、DV、生き甲斐がすれ違ってしまった中年夫婦の悲哀など、今の社会状況を反映した奥の深い問題を背景にした3つのストーリーが重複しながら展開される構造となっている。これらの問題は、ひとつずつが何度も小説の主題に取り上げられているものばかりで、問題が三重に絡まった本作はきわめて社会性の濃い内容となっている。作者は、これを良質なエンターテイメント(サスペンス小説)にして見せてくれる。 加害者が犯行時に18歳未満の少年だったことから7年で仮出獄になったことを知った被害者が、報復のために加害者を殺害しようとするストーリーは、殺されかけた加害者が逆に被害者に報復しようとするところから、がぜん面白くなる。また、執拗に妻の行方を追いかけるDV警官の夫が徐々に狂人となって行くところもサスペンスがあって面白い。 しかし、最後の最後、関係者が集合して一気に問題解決になだれ込むクライマックスシーンが、残念ながらちょっと弱い。社会正義を貫くにはこの方法が一番妥当だろうなという方法で話が終わるし、かなりご都合主義的な話の持って行き方が、そこまで続いてきたサスペンス性を弱めてしまった気がしてちょっと物足りなかった。作者は、こういうシーンがあまり得意ではないのかも知れない。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
米倉涼子主演のドラマが人気を呼んだので、あらすじはよく知られていると思うが、頭と度胸で銀座の夜をのし上がってゆく女の浮き沈みを描いた、一級のサスペンス作品。30年以上前の作品のため、時代背景には古さは否めないものの、そんなことは気にならないほど面白かった。
平凡な(平凡以下の扱いしか受けていなかった)女子銀行員のヒロインが、堂々と銀行の金を横領して銀座に店をオープンする幕開けからスリル満点。店の運転資金や、より大きな店を手に入れるために、脱税している医者や予備校経営者を陥れて行く手順も、良質なコンゲームとして抜群に面白い。 しかも、ラストに待ちかまえる衝撃の展開に向けて、要所要所で周到な伏線が張られているところも見事としか言いようが無い。最後の最後、“落ち”まで強烈なインパクトを残し、さすがに松本清張と感嘆した。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
北海道東部、人口6000人ほどの農村の駐在所に移動してきた川久保巡査部長が出会う、5つの事件を描いた連作集。駐在所の警官にとって本当に果たすべき任務とは何か? 警察と閉鎖的な地域社会とのもたれ合いやあつれきの中で苦悩する制服警官の厳しさが丁寧に描かれていて、読み応えのある短編集だ。
浅学非才につき、本書を読むまで知らなかったのだが、駐在所の制服警官には捜査権は与えられていない。そのため、所轄署から出張ってきた捜査官が見当違いの捜査をしていると感じても、川久保巡査部長はそれをただすことが出来ない。そこで、悪く解釈すれば、一種、意趣返しとも言えるような屈折した方法で正義を貫こうとする(特に、第一話「逸脱」ではほとんど犯罪といえるような手段がとられる)。これは、駐在さんに対して、さまざまにプレッシャーを掛けてくる地域社会に対しても同様で、従来の警察小説とは異なる問題解決手法になっている(「制服捜査」という書名の由縁)。このあたりを、どう考えるかで、本作に対する評価が異なってくるだろうが、個人的には(小説としては)面白いと思った。 「笑う警官」や「警官の血」とは異なるが、佐々木譲の警察小説の傑作であることは間違いない。 |
||||
|
||||
|