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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1136

全1136件 1121~1136 57/57ページ

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No.16:
(7pt)

〈俺〉も五十代になって変わったか・・・

ススキノを駈け抜ける〈俺〉シリーズも第12作になり、長寿作品に付きもののマンネリ感と安心感が強くなったようだ。熱は感じられないが、うま味は濃くなったような。細部を味わう作品とでも言えばいいのだろうか。本作だけを読む方にはオススメ度7、シリーズの読者にはオススメ度9という評価にした。
例によって、頼まれもしないのに犯人探しに奔走するのだが、今回は舞台がほとんどススキノに限られている上に、犯人の悪らつさや残虐さが抑えられているため、他の作品に比べるとストーリー展開のスピードに欠け、アクションシーンも少なくなっている。その理由は、作品中でも数ヵ所、五十代になった自分の衰えを嘆く部分が出て来るが、〈俺〉の年齢的な変化と言えるだろう。
〈俺〉シリーズの魅力の一つに、バカや田舎者に対する罵倒の辛辣さとボキャブラリーのユニークさがあると思っているが、今作品ではバカや田舎者にずいぶんやさしくなった印象を受けた。これも、〈俺〉が年を取って丸くなったせいかもしれない。
さらに、タイトルにもなっているように、今回は猫が主要な役割を果たしているが、猫とハードボイルドの相性はあまり良くないのではないか? パートナーの華と猫の二人に押されて、〈俺〉のハードボイルドな生き方が徐々に崩されかけている・・・さて、どうする〈俺〉?
猫は忘れない (ハヤカワ・ミステリワールド)
東直己猫は忘れない についてのレビュー
No.15: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

まさに全方位的エンターテイメント

カーソン・ライダー刑事シリーズの第二作は、解説者が書いている通りの“まさに全方位的なエンタテイメント・ミステリ”だ。
蝋燭と花で異常なまでに装飾された女性の遺体が発見され、それが30年前に殺された連続殺人犯につながっており、さらに現在の連続殺人とも密接に絡まって行く・・・・。
デビュー作に続くサイコミステリーとして、前作の印象を上手に生かしながら話が展開されて行く。しかし、前作が効果をあげているのは登場人物のキャラクターにまつわる部分だけであり、本筋は本作だけで本格派のミステリーとして完成しているので、この作品からライダー刑事シリーズに触れた読者もとまどうことはなく、面白く読めるだろう。特に、謎解きの上手さ、伏線の張り方の巧みさには舌を巻くしかない。読み終ったときに初めて気づかされる伏線の多さと答えの深さには、多くの読者が感動するしかないだろう。
それでもオススメポイントを「7」にしたのは、「百番目の男」、「ブラッド・ブラザー」に比べると技巧的な部分が勝ち過ぎていて、犯行動機や犯人像にやや物足りなさを感じたせいである。とはいえ、多くの方にオススメできる作品であることは間違いない。
デス・コレクターズ (文春文庫)
ジャック・カーリイデス・コレクターズ についてのレビュー
No.14: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

主人公の設定がユニークな本格ハードボイルド

主人公は引退したFBI捜査官なので何の目新しさもないが、心臓移植手術後わずか60日余りで捜査に乗り出すという設定が極めてユニーク。しかも、捜査を依頼してきたのが心臓を提供したドナーの姉というのだから、そのユニークさは飛びぬけているというしかない。
病み上がり(というか、まだ治療中?)なので激しいアクションはできないが、それでも格闘シーンなどもあって読者をハラハラさせる主人公だが、FBI捜査官らしいち密な分析で犯人を割り出していくのが基本で、この謎解きの部分も非常によくできている。また、FBIものによく見られる地元警察との軋轢に、退職した上に私立探偵のライセンスも持っていない(つまり、なんの捜査権もない)主人公が絡んで複雑なパワーゲームを繰り広げるのも面白い。さらに、ハードボイルドには欠かせない恋人や家族との葛藤も丁寧に描かれていて、実に素直に読むことができた。
多くのハードボイルドファンを納得させる傑作だと思う。
わが心臓の痛み〈下〉 (扶桑社ミステリー)
マイクル・コナリーわが心臓の痛み についてのレビュー
No.13: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

舌を巻くデビュー作

カーソン・ライダー刑事シリーズの第一作というより、ジャック・カーリイのデビュー作。
いや、あまりの上手さに驚いた。これで本当にデビュー作なんだろうか? ジェフリー・ディーヴァーを追いかける作家という評価も買いかぶりではないと実感した。
残念なことに(?)第4作の「ブラッド・ブラザー」を先に読んでしまったので、兄・ジェレミーの存在がそれほど衝撃的ではなかったが、本作から読み始めた人にはこの兄弟関係が強いインパクトを与えただろう。ただ、このシリーズ全体を貫く重要な要素になっているカーソンにつきまとう家族、過去の重さや深さは「ブラッド・ブラザー」の方がよく描けていたと思う。
ストーリーは、サイコサスペンスの王道を行く、首無し連続殺人事件。このなぞ解きだけでも十分に楽しめるレベルだが、登場人物のキャラクターやエピソードがしっかりしているので、物語として非常に厚みがあり、たんなるサイコ物ではない面白さがある。シリーズとして成功しているのも、当然だろう。
百番目の男 (文春文庫)
ジャック・カーリイ百番目の男 についてのレビュー
No.12:
(8pt)

シリーズは続く

カーソン・ライダー刑事シリーズの最新作。シリーズものを途中から読んだので、シリーズの最初から読んでいる読者とは面白さが違うと思うが、それでも十分に満足できる傑作だ。
主人公が刑事で、その兄がシリアル・キラーのサイコパスという、かなりあざとい設定だが、しっかりした構成と緻密なストーリー展開で違和感なく作品世界に入って行けた。
連続殺人事件の犯人探しと警察内部での対立や人間関係の面白さなど、読みどころは沢山あるが、犯人判明のどんでんがえしが強烈で、これだけでも高く評価できるだろう。
さらに、今後のシリーズ展開への期待を高めるラストシーンも印象的だった。
ブラッド・ブラザー (文春文庫)
ジャック・カーリイブラッド・ブラザー についてのレビュー
No.11:
(7pt)

まっすぐな音道

女刑事・音道貴子シリーズの短編集第二弾。
表題作の「未練」は男同士の絆が壊れる様を描いているが、こういう話は作者は苦手なのか? いつもの切れ味の鋭さが無く、凡庸な印象。むしろ、サイドストーリーの音道の友人に紹介された男との付き合いの話の方が、音道らしさにあふれていて面白かった。
いつまでたっても大人になりきらず、不器用でまっすぐな音道の生き方は、読者をハラハラさせると同時に、こんなにぶれない人もいるんだという爽快感を与えてくれるが、本短編集では、それがいっそう強調されているように感じられた。
全体を通して、音道のファンには彼女の性格をより深く知って行く面白さがあるだろうが、初めての読者にはややストーリーの深みの無さが物足りなく感じるのではないだろうか。
未練―女刑事音道貴子 (新潮文庫)
乃南アサ未練 についてのレビュー
No.10: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

サーフ・ノワール、ねぇ?

ある書評では「サーフ・ノワール」と分類されたそうだが、サーフとノワールという、どちらかと言えば正反対の言葉をつないで表現されているところに、この小説の本質がよくあらわされている。
南カリフォルニア・サンディエゴを舞台にした、サーファーのPI小説とくれば、明るくノー天気な主人公かと思うが、ところがどっこい、ドン・ウィンズロウにかかると明るいだけでは終わらない。確かに、いつも軽口をたたき、仕事よりサーフィンが生きがいで独身という主人公は、一見、典型的な肉体派に見えて、実は知性的で深い洞察力を秘めている。彼を取り巻くサーフィン仲間たちも、軽薄な外見とは裏腹にそれぞれに悩みやトラウマや葛藤を抱えている。
片方には、これまでにない大きな波への挑戦というサーフィンの王道の話があり、もう一方では少女売春組織との戦いという人間の暗部をえぐるような話が展開される。しかも、場面展開が早いので、読む側の気分は上昇と下降を繰り返すジェットコースターに乗せられたようになる。
ただ、両方の要素が並び立ち過ぎているせいか、いまいち、話に深みが足りない気がした。
これが新シリーズの第一作ということなので、今後、どう展開していくのか期待したい。
夜明けのパトロール (角川文庫)
ドン・ウィンズロウ夜明けのパトロール についてのレビュー
No.9:
(8pt)

音道ファンにはおすすめ

女刑事・音道貴子シリーズの短編集、第3弾。
表題作の「嗤う闇」は犯人と被害者の関係、音道の恋人が犯人と間違えられる設定にちょっと違和感があり、いまひとつ満足できなかったが、シリーズの精神はしっかり受け継がれているし、音道のキャラも全開で、ファンには楽しめるだろう。
それよりも、よき相棒?滝沢が登場する「木綿の部屋」が、ストーリーも人物描写も上出来。滝沢のキャラクターに深みを加えて、秀逸。これまた、音道シリーズの愛読者には必読の一作と言えるだろう。
嗤う闇―女刑事音道貴子 (新潮文庫)
乃南アサ嗤う闇 についてのレビュー
No.8:
(7pt)

エルロイ・ワールド全開

上下2巻、800ページを読み終えての感想は、一言でいえば、重くて複雑な小説だった。
ケネディ暗殺からベトナム戦争終結までの時代のアメリカの暗部でうごめいた、有名、無名の人物たちが織りなす、きわめて重層的で精緻に構成された政治的ノワールの世界。つまり、エルロイ・ワールド全開の物語だ。
物語の第一印象として、いわゆる「善人」が登場しない。もちろん、そんなことはないのだが、続々登場する悪人たちの存在感が強すぎて、善人は吹っ飛んでしまっている。それだけキャラクターの立った人物が続々登場し、複雑に絡み合ってストーリーが展開するため、読者側が強いられる緊張感も半端ではない。エルロイ・ワールドを楽しむことは、知的興奮はあるものの倫理的、情緒的に非常に疲れることは間違いない。
反則技かもしれないが、巻末の「訳者あとがき」を先に読んでから本文を読めば良かった気がしている。
アンダーワールドUSA 上
No.7: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

真打ちの噺を堪能するような

加賀刑事シリーズの最高傑作かどうかは別にして、「いよ、名人芸!」と掛け声をかけたくなるような、上手くて楽しめる作品だ。
メインの犯罪とその背景はまったく奇をてらったものではなく、加賀刑事の犯行解明の筋道も適度に論理的で、適度に予定調和的で、サイコパスものや鑑識もの(リンカーン・ライムなど)に疲れた心を優しくいたわってくれる“人情推理”が冴えわたり、読後感がすこぶる良い。
犯人および犯行動機に全面的に納得できない部分を感じたが、これは人それぞれの受け止め方で、十分に納得できると言う方も大勢いるだろうし、この作品の欠点というほどのものではない。
日本橋、人形町周辺に土地鑑が無い方は地図をご覧になりながら読まれると、一段と興趣が深まるだろう。前作「新参者」を先にお読みになった方がベターである。
麒麟の翼 (講談社文庫)
東野圭吾麒麟の翼 についてのレビュー
No.6:
(8pt)

暗殺を阻止するために暗殺者を暗殺者が暗殺する

下手な回文みたいな見出しですが、そういう内容なんです。ただし、暗殺者同士がお互いに自分自身の投影を見るところが、小説として新しいかな。
恐ろしく腕の立つ現暗殺者の行動を推理するために、FBIが同じような経歴を持つ元暗殺者を連れてきて、大統領計画を推理させ、先回りしようとするという、謀略国家・米国ならではのストーリーです。これが他の国であれば、「ありえない話」になって、一気に読む気が薄れるのですが、中南米、アフリカ、中東での歴史から考えてリアリティのある話になっています。ただし、大統領を暗殺しようとする動機などはあくまでもミステリーの筋立てで、リアルな政治的な小説ではないですね。
しかし、ヨーロッパを舞台にした時代の暗殺者に比べて、こちらの暗殺者たちは強靭な体力のサバイバリストですね。
硝子の暗殺者 (扶桑社ミステリー)
ジョー・ゴアズ硝子の暗殺者 についてのレビュー
No.5: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

音道の成長か、滝沢の円熟か

音道貴子シリーズの長編第3作。実は、長編第2作の「鎖」を未読なため、いきなり音道が所轄の刑事になっていたので驚いたが、音道は音道、音道ならではの道をしっかり疾走していました。
今回は何と言っても、あの滝沢刑事とコンビを組むところが見もの。相変わらずの小競り合いを続けながらでも、お互いに無くてはならない相棒として認めるところまで、二人の関係が深化していく。といっても、けっして二人で居酒屋でしんみり酌み交わすなどという関係にならないところが、またニヤリとさせる巧さだ。この二人の関係性の変化は、音道が成長したのか、滝沢が円熟してきたのか? さまざまな解釈が成り立つところに、筆者の人物造形のうまさが感じられた。
ミステリーとしてのストーリー立てもよくできていて面白いが、それ以上に、江戸人情捕り物帳のような味わい深い人間物語として面白かった。
風の墓碑銘(エピタフ)〈上〉―女刑事 音道貴子 (新潮文庫)
乃南アサ風の墓碑銘 についてのレビュー
No.4:
(8pt)

頑張れ! キゼツ

札幌方面中央警察署南支署シリーズの第二弾。北海道全体を覆うような利権構造に立ち向かう、気概と気骨にあふれた「枝」のメンバーの意地が、読みどころ。前作で「キゼツ」という不名誉なニックネームをもらった梅津巡査の成長物語としても面白い。鬼教官役の早矢仕警部補の人情味がよく描かれているのも、好感度を高める。
ストーリーは、著者お得意の北海道の警察、行政、ヤクザの暗闘で、最初から最後まで、ダレルことなく読むことができた。
しかし、東直己作品を読むといつも思うのだが、著者は「テイノーを罵倒する天才」だ。馬鹿に対する観察眼の鋭さ、適切な比喩、厳しいユーモア・・いやまったく笑わせてくれる。
札幌方面中央警察署 南支署 誇りあれ (双葉文庫)
No.3:
(7pt)
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重い本でした

高校教師が不倫相手である主婦(生徒の母親)を殺害した事件(前作の「風紋」)から7年後、加害者、被害者双方の遺児と家族のその後を描いた大河小説。お話の中身も重いし、本自体も上下2巻で約1400ページの重量級で、久しぶりに力技で読み通した感じです。
「殺人は、加害者(犯人)以外の関係者全員が被害者」という作者の視点がよく表現されている。ミステリーとして見れば、前作「風紋」の方がよくできているが、哀しみや憎しみから逃れられない人間性の悲劇としては、こちらの方が面白い。
ぜひ「風紋」を読んでから読むことをオススメします。決して、逆の順番にならないように。
晩鐘〈上〉 (双葉文庫)
乃南アサ晩鐘 についてのレビュー
No.2:
(7pt)

音道シリーズのガイドブック

刑事・音道貴子シリーズの短編集の表題作。これ一作だけだと、オススメにはならないが、音道シリーズ、なかでも音道貴子のキャラクターを知るという点では、オススメ作だと思う。
ストーリーはありがちというか、通俗的な人情小説の趣だし、半分ほど読み進めば結論が見えてしまう。謎解き、サスペンスの面白さはない。しかし、ところどころにちりばめられたエピソードが主人公・音道のキャラクター作りに貢献していて興味深い。
女刑事音道貴子 花散る頃の殺人 (新潮文庫)
乃南アサ花散る頃の殺人 についてのレビュー
No.1: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

日本のヒロインもかっこいい

ファミレスで突然、人間が発火するというプロローグもすごいが、狼犬の連続殺人というストーリーも破天荒で、途中から「どうなることやら・・・」と心配したのは、私の杞憂でした。見事な小説に仕上がっていました。
狼犬に感情移入し過ぎるところは、確かに?な部分もありましたが、刑事という男社会に立ち向かうヒロインが印象的かつ魅力的なキャラで引き込まれました。
アメリカの女性ディテクティブには魅力的なヒロインが多くいますが、日本のヒロインもなかなかやりますね。
凍える牙
乃南アサ凍える牙 についてのレビュー