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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧

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レビュー数50

全50件 21~40 2/3ページ

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No.30: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

九月が永遠に続けばの感想

夜ゴミ出しに行ったまま消えた息子。必死で探す母親。警察に届、学校の担任にも相談しクラスメイトにもあたるが行方不明のまま時間が過ぎる。この辺は母親の不安な気持ちや焦燥感がこちらにも伝わってくるが残念ながらサスペンス感はあまりない。別れた夫にも相談して探すうちに少しづつ二組の家庭のもつれた人間関係が見えてくる。浮気相手の教習所の教官が駅のホームから転落し死亡する事故がおきたり、元夫の娘が消えた息子と会っていた事実を掴んだり、その娘が転落事故の男とホームで口論していた事実などを知ることになる。元夫は精神科医で再婚相手は、ある事件の被害者であり二度に渡って被害者になるなど異常な体験をした女。暗く焦燥感ばかりが募る展開をみせる物語だが、ホラーサスペンス大賞の作品としては、その括りは違和感がある。特異な愛と歪んだ愛の物語と感じた。ただ、文章は引きこむ力があり最後まで中だるみなく読み終えた。
九月が永遠に続けば (新潮文庫)
沼田まほかる九月が永遠に続けば についてのレビュー
No.29: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

鍵のかかった部屋の感想

「硝子のハンマー」の二人、防犯コンサルタントと称する榎本 径と天然ボケの弁護士青砥純子が登場する、密室殺人を題材にした短・中篇四編が収められた本である。
「佇む男」は死体の口に蛆がいたことなどからトリックを暴いていく過程が描かれている。

「鍵のかかった部屋」は自殺をする理由がないという肉親の訴えから背景を調べ動機を確認して、その後思考を重ねトリックを見破るまでを描いている。

「歪んだ箱」は欠陥住宅を施工した業者の社長を殺害した犯人と現場で密室の謎をやり取りしながら犯行方法を暴いていく内容になっている。

それぞれ背景や舞台を工夫して密室トリックを構築しているが、読んでいて退屈になってきた。
何故だろう・・・。すごく手の込んだトリックを考えて犯行を成し遂げた犯人に対して、榎本の思考のプロセスがどうも良く分からない、その為じゃあ無いのだろうか。まるで始めから答えを知っていたような解答の出し方をするそんな違和感がある。

もっと物語が読みたい。綾辻行人や有栖川有栖を読んでいるとき北村 薫の「空飛ぶ馬」は新鮮だつた。

そんな「新鮮」にもっと触れたい。

四編目の「密室劇場」は読む気が起きず本を閉じた。
鍵のかかった部屋
貴志祐介鍵のかかった部屋 についてのレビュー
No.28:
(6pt)

密室は眠れないパズルの感想

たまには冴えた頭で作者と知恵比べでも楽しもうか、という趣旨の本である。後半のところに読者への挑戦と宣戦布告するページがあり、これはもう本格推理小説以外の何者でもない。東大文学部卒の作者の頭脳に勝てるか否か。登場人物たちのミステリー談義や密室談義など楽しい趣向を織り交ぜながら、ひとつのビルそのものが外部から遮断され密室と化したなかで起きる殺人事件。さて、犯人は? これはもう論理の積み重ねで特定していくしかない。ハウダニットではない純粋にフーダニットを追求する内容である。手がかりはすべて提示した。あとは貴方の探偵としての能力しだいというフェアな書き方で読者に挑戦している。1997年 鮎川哲也賞の最終候補に残り、島田荘司の高い評価を得た「眠れない夜のために」を改稿改題した作品だが「真っ暗な夜明け」でデビューする以前の作品としては良く出来ていると思う。土曜の夜に夜更かしを楽しみながら読む本としてたまにはこんな本も賞味しては如何でしょう。
密室は眠れないパズル
氷川透密室は眠れないパズル についてのレビュー
No.27:
(5pt)

完全なる首長竜の日の感想

「このミステリーがすごい!」第9回の大賞作品。 こういったバックボーンがあると読む人も大勢居ると思う。私自身もそのうちの一人だ。さて、読後の感想は面白かったか否か?単純な比較で前年の大賞作の「さよならドビュッシー」と比べると、100%私個人の好みと感想だが「さよならドビュッシー」の方がミステリーとして面白かったと思う。この「完全なる首長竜の日」は作者としてのセンスの良さは解かる。読み易い文章で読者を引き込む筆力は並ではないと感じる。植物人間のような意識のない人と会話が出来るインターフェースが開発され、自殺を図った弟と会話をしてその真相というか自殺の理由を探り出そうとする姉。プロローグでの島の出来事との関連とか、あやふやで謎めいた昔の話などがどう絡んでくるのかと思い読み進む。だが、「胡蝶の夢」の話しを主人公から語られるのはどんなものか。そのあたりから興味が半減する。何故それを口にするのか?ストーリーの核心を突く言葉は要らなかった。このためにミステリー要素が消えてしまった。犯人探しのミステリーでは無い以上もっと読者を謎めいた世界に彷徨い続けさせて欲しかった。日常や会話など筆力のある文章で期待させる人と思うが、この作品では今一歩と云った印象だった。

完全なる首長竜の日
乾緑郎完全なる首長竜の日 についてのレビュー
No.26: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

トラップ・ハウスの感想

始めに記しておかなければいけないのは、やはり「扉は閉ざされたまま」のようなキレが足りない
と云う事。他の二番煎じ、三番煎じのような印象を持ってしまう事。シチュエーションから導き出される
内容はこれまでの他の作品とダブってしまうのは避けられない。そこを打破するには斬新な眼で常識破りの
プロットを工夫しなければいけない。こういった観点からみればスタートの出来事が弱い。閉じ込めて当事の状況を吐き出させようとする(犯人)の意図もあまり共感を呼ばない。しかし、相手がAと間違えてBに何故あの時あんな事をしたんだと詰め寄ってもBには何のことかさっぱり分からない。そんな状況下でBに該当する男女9人が仕掛けられた罠に隠されたメッセージを読み、論理的に思考を重ねてジワジワと(犯人)の狙いとこういった行為の動機を探り出していく過程は読ませる部分だった。トレーラー・ハウスの中で男女9人が会話のみで白紙の状態から過去の出来事と今の状況、そして当事居た影の第三者まで特定していく推理の積み重ねはミステリーとしては及第点だと思う。しかし、この手のシチュエーションで書くならもっとこれまでにないあっと驚く仕掛けと斬新な手法が欲しい。もっと読者をうーんと唸らせることが出来る作家だと期待しているのだから。
s

トラップ・ハウス (光文社文庫)
石持浅海トラップ・ハウス についてのレビュー
No.25:
(6pt)

名探偵はもういないの感想

この人の『開かずの扉研究会』シリーズ四作を読んでいる。これは、そのスピンオフと云える作品。
孤立した雪の山荘、怪しげな客達、そして起きる謎めいた事件。解決するのはアノ人だった。最後の探偵の謎解きの前に「読者への挑戦状」がある、もうミステリーの王道を貫いた体裁のこの作品。たまには作者に挑戦とデータを整理して暫し一考。結果、池で発見された死体の意味は正解だったが、ひとつ大事なファクターを忘れていて一連の流れにはならず正鵠を射たとは云えないためにこちらの負け。いろいろな手がかりをキチンと見せ、そのうえで物語を作り上げなければならないので、こういった趣向のモノは書き上げるのには骨が折れることだろう。ともすれば技巧にばかり神経が行き物語りがおざなりになるが、これは多様な登場人物がいてその辺のところは回避されていると思う。こういったゲームが好きな人には楽しめる一冊。
名探偵はもういない (講談社文庫)
霧舎巧名探偵はもういない についてのレビュー
No.24: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

謎解きはディナーのあとでの感想

有名な本?なのでミーハー気分で読んでみた。簡単に云うと俗に言うライトユーザー向けの本で、中高生などにはウケル内容の短編集だ。推理ありきの事件で物語の深みも無ければ、言葉使いも古く、ただ単にテクニックだけで書かれた謎々遊びのような本である。

短編集なら他にもっと面白いものが沢山ある。
謎解きはディナーのあとで (小学館文庫)
東川篤哉謎解きはディナーのあとで についてのレビュー
No.23: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

マリアビートルの感想

『グラスホッパー』も読んでいるけど、その続編のような設定での話し。舞台は新幹線の中。東京から盛岡までの車中を舞台にドタバタ劇を繰り広げる殺し屋達の物語。まぁ、良くも悪くもタランティーノの映画みたいなお話で、鼻につく言葉やレモンだのミカンだのてんとう虫だのと如何にもといったキャラクターと、王子というあざとい少年まで出てくる。脇役と思われた人物が実は・・・。と云ったいつものパターンがあり他の作品と何ら変わらないスタイル。ラストのオチもどうってことなく、伊坂幸太郎ブランドを信じて手に取った読者としては、もう少し引き出しの広さを見せてもう一段上の質の高い作品を提供して欲しい。本を閉じて著者名を見て赤川次郎とあってもそれほど違和感はない。
マリアビートル (角川文庫)
伊坂幸太郎マリアビートル についてのレビュー
No.22:
(5pt)
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夏の名残りの薔薇の感想

この人の作品はわずか二、三冊しか読んでいないが、どれも話の境界がハッキリしなかったり、結末も曖昧なまま終えると云ったスタイルが多いようだ。この物語も、辺鄙な山奥に建つグランドホテルに毎年集まる人たちと、招待をする大きな力を持つ企業の創業者の娘三人。この三人姉妹がディナーの席で語る不思議な話を聞かされるのが通例だった。一人ひとりの人物の目線で物語が語られるが、少しずつ物語が変化していく。記憶の底に沈殿した過去の犯罪を掘り起こす物語だが、陰湿で最後の解決も曖昧模糊として不確かなままで終わる。こういった恩田ワールドが好きな人には良いだろうが一般的とは言い難い。でも雰囲気のあるなかなか読ませる作家ではある。

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)
恩田陸夏の名残りの薔薇 についてのレビュー
No.21:
(6pt)

わたしを離さないでの感想

ヘールシャム出身のキャシーの回想で物語は始まるが、テーマと云うか内容の割には少し長いと思う。
へールシャムでの生活と出来事を淡々と綴り、少しづつキャシーやその仲間たちとの勉強と生活を見守る保護官との会話で裏側にあるものが見えてくる。彼女たちの存在意義が浮かび上がってくる書き方だが、初めに出てくる提供者という言葉に違和感を覚えるがこれは無かったほうが良いと思う。ほとんどすべてが明らかになっても、キャシーと仲間たちはその運命を受け入れ提供者と看護人として全うする様子が描かれていて、最後のページのキャシーのモノローグには胸打つものがある。個人的にはもう少し切り口を変えてまとめれば面白かったのにと思うところで、さて、これはミステリーなのかと問われると少し違うと云わざるを得ない。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロわたしを離さないで についてのレビュー
No.20:
(5pt)
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騙し絵の館の感想

館に住む少女と執事。ミステリー作家。そして謎めいた女。勃発する連続少女誘拐殺人事件。だがそれは支線であり本線は別にある。最初から散りばめられた伏線。ひとつひとつが集まり一枚の絵になる時、隠されていた犯罪が明らかになる。一言一句ムダのない言葉で綴られるモノローグと行動が騙し絵となっている。

だけどこの文体と作風では読者を選ぶのではないだろうか。計算された一言一句の言葉で書かれているので多少無味乾燥なところはあるし、とっつきにくい印象で、平坦な言葉で書かれたミステリーなど読みなれた人には敬遠されるのじゃないかと思う。劇的な展開の物語ではないし、最後に明らかになる犯罪もピースを拾い集める段階で読めてしまう。多分に作家の自己満足的な形式を楽しんで作り上げたひとつの作品と云う色合いが強い。エンターティメントな作品ではない。そこをどう評価するかだろう。
騙し絵の館 (創元クライム・クラブ)
倉阪鬼一郎騙し絵の館 についてのレビュー
No.19: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

首挽村の殺人の感想


▼以下、ネタバレ感想
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首挽村の殺人 (角川文庫)
大村友貴美首挽村の殺人 についてのレビュー
No.18:
(5pt)

パーフェクト・プランの感想

身代金ゼロ、せしめる金は5億円。誰も傷つけない誘拐ミステリー。 う~~ん。面白そう。しかし、問題は先に読まれた諸兄氏のレビュー。なぁ~に、読解力の問題だろう、と思ってたのも事実。だがしかし、読み終えて時間を置いて考えると、未完成さが目に付いた。特に人物の造形が浅い。単にプロフィールを記しただけの印象なのでその人の人間性が見えない。例えば「小田切 良江」。代理母を生業にしている中年女。若い頃は美人でどうのこうのと仲間が話していたが、どの様な人物なのかさっぱり掴めない。登場人物はみんなそんな感じなので共感出来ない。そして、不可思議なのはJoshuaと名乗るハッカーにしてクラッカーという人物。何故こんな人物が事件ではなく出来事、(誘拐事件とはならないようにしている計画のため。)の中に入り込んでくるのか?意味が不明。オーソドックスでありきたりでも、日本ジェノックの裏の顔の部分から危ない連中が彼らを追い詰め襲う、としたストーリーの方がベターだと思うが。Joshuaが絡んで物語に起伏が生まれると計算したのなら違うと思う。
何か焦点が無く拡散したような印象の物語だった。
パーフェクト・プラン (宝島社文庫)
柳原慧パーフェクト・プラン についてのレビュー
No.17: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)
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追想五断章の感想

伯父の営む古書店に居候する大学生。とはいっても休学中で鬱屈した毎日を送り怠惰な気分の日々。ある日若い女性が店に現れ、生前の父が書いた五つの掌編を探して欲しいと頼まれる。いってみれば大学生と若い女性ふたりの一時期の挫折感から立ち直る様子を絡めたミステリといえます。五つの掌編を探す理由。過去の事件を探る意味もあるのですが、真実と向き合える年齢になった自分の背中を押してくれるきっかけが欲しかったのでしょう。高額の報酬が動機としても大学生も今の生活には後ろめたさもあり、一歩踏み出すきっかけとして彼女の依頼を受けます。幼いころのおぼろげな記憶が五つの掌編に込められています。両親の愛情を再確認する彼女ですが、その道筋が手の込んだ掌編というアイテムを使ってミステリに仕立てる作者のセンスの良さといえます。小市民シリーズなどとは一味も雰囲気もトーンも違う作者の違った一面を見れる内容です。
追想五断章 (集英社文庫)
米澤穂信追想五断章 についてのレビュー
No.16: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

葬列の感想

世の中の片隅に住む、負け犬4人が出会って無茶苦茶な計画を企て実行して大金をせしめるが・・・。
簡単に書くとそんな話だ。うだつのあがらないヤクザ。妻に逃げられ小さな女の子と二人暮らし。夫が障害者で必死に働く中年女。その障害は自分が原因だった。何をやっても上手く行かず家族に見放されて、ねずみ講のマルチ商法に嵌まり更に転落していく女。自分の存在にリアルさを感じられない帰国子女の若い女。その過去には家族を惨殺され自身もレイプされた暗い出来事があった。ひとつのきっかけで動き出した計画。
だが、最後の最後で思い込みをひっくり返される別なエピソードが明らかになる。
横溝 正史賞を受賞したデビュー作だが文章は上手い。「これは戦争だ」と言い武装した4人がヤクザの幹部の別荘を襲うところは、銃の細かな説明の描写など大藪 春彦のハードボイルド小説を思い起こさせる。
選評にもあるように最後の一行がこの話の全てで結局彼女の物語だったということか。テンポのよい展開とスピーディさで一気に読み進めることが出来る面白さはある。
葬列 (角川文庫)
小川勝己葬列 についてのレビュー
No.15: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

晩餐は「檻」のなかでの感想

密室物の変形だが、細かい点は問わずの姿勢を保つため架空の制度を設定している。この辺はアイデアの良さを感じる。つまり合法的な復讐である、あだ討ち制度が設けられている社会という設定だ。だが、これも売れない作家が担当者に言われてミステリーを書くために考え付いた作中作という体裁をとっている。メインは売れない作家の独白や、周りの人物が絡み合って思いがけない方向に展開する日常が描かれている。でも、出版業界の内幕や作家としての苦労などが妙にリアルに書かれていて面白い。作中作の事件と作家の現実とが交互に綴られ終盤に交差すると読者はフェイクに引っかかっていたことを知る。悪くはないが、そう驚きもしない。そんな程度のトリックだろう。軽い文体と軽妙な語り口の、例えは適切か分からないが赤川次郎の本を読んでいるような感覚がある。密室殺人もこの設定だから可能なものであるが、まぁ肩の凝らないミステリーとして読んで見るのもいいかも。メフィスト賞でデビューした人である。
晩餐は「檻」のなかで (ミステリー・リーグ)
関田涙晩餐は「檻」のなかで についてのレビュー
No.14:
(6pt)

サウスポー・キラーの感想

このミステリーがすごい大賞受賞作。洒落たセリフと魅力的な主人公を上手く書いているので、その作品世界に入り込み易い。ディック・フランシス的なタッチのストーリー展開で、登場人物がみんな大人であるため落ち着いた感じがする。試合のところの描写も充分資料を研究して書かれており、迫力と緊迫感があり楽しめる。単なる野球バカでない主人公の思考と行動に共感してページをめくる手が止まらない。つまり、それだけ文章が巧みと云えるのだろう。いまどき野球ミステリーとはちょっと古い、と選評にあったが確かにそうかも知れないが、この作品に限って云えば面白く読み終えた。センスのある作家と思う。他の作品にも触れてみたい。
サウスポー・キラー (宝島社文庫)
水原秀策サウスポー・キラー についてのレビュー
No.13: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

灰色の虹の感想

冤罪をテーマにした物語だ。気弱で内気なタイプの男が殺人者として逮捕され、過酷な取調べに負けて自白してしまい裁判で無実を訴えても状況を覆すことが出来ず刑が確定する。昨日まで平凡な一市民だった人間が刑事事件の犯人として逮捕、起訴されるとどうなるか。世間はその家族までも容赦しない。例え冤罪と訴えても誰も聞く耳を持たない。大勢の人の人生が滅茶苦茶になる。このあたりの残酷さを作者は徹底的に描く。壊れた人生、壊れた家族。やがて主人公は決意を胸にただ一人の味方である母の元から姿を消す。そして刑事、弁護士、裁判官と事故や事件に合って死んでいく。一本の線で繫がることに気付いた一人の刑事。その彼も恋人をわずかな金を取る目的のために襲った男達に殺された過去を持っていた。復讐は是か非か。ラストの意外性はミステリーとしては弱い。つまりミステリー要素のある犯罪小説と云うところだろう。
むかし、上前 純一郎氏の書いた「支店長はなぜ死んだか」を読み冤罪の怖さを実感したことがあるが、この作品もその辺のところはうまく描かれており読み応えがあった。心情を表わす文章の使い方がうまい作家といえる。
灰色の虹 (新潮文庫)
貫井徳郎灰色の虹 についてのレビュー
No.12: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

ユグノーの呪いの感想

ヴァーチャル記憶療法士という職業がある。仕事は精神的なことがらが原因で身体の疾患等を抱える人たちを治療のため、そのトラウマとなった心の傷を取り除き新しい記憶を植えつけること。本人の記憶の中に入りそのトラウマを排除し記憶を上書きすることが任務となる。主人公は以前の任務中に危うく現実世界に戻れなくなる事故に合い仕事から遠ざかっていた。だが、勝手の相棒 長谷川礼子からの連絡で高額報酬の誘いに自分自身の再起を賭けて挑む決心をする。だが、被験者の記憶世界には恐ろしい罠が仕掛けられていた。
メディチ家の末裔アントニオ・メディチ。その娘ルチア。彼女の記憶の中は16世紀のフランス。1572・8・24サン・バルテルミーの虐殺とユグノーとの宗教戦争をバックにしたその世界。二人の活躍と謎の出来事。そして明かされる意外な犯人。ちょっと毛色の変わったミステリーとして、そう、梅原克文の二重螺旋の悪魔などを読まれた人には楽しめると思います。人物描写や全体の構成が良く作品世界に浸れました。
ユグノーの呪い (光文社文庫)
新井政彦ユグノーの呪い についてのレビュー
No.11:
(5pt)

リスの窒息の感想

新聞社に誘拐の身代金請求のメールが届く。何故新聞社に?理由は始めに読者に示してある。
この辺はいい。読み流す。だが、新聞社の対応が何かおかしい。理詰めでの各人の思惑で社の意思を決めて対応する事になっているが、ちょっと甘くないか?新聞社がひとり勝手に踊っている印象である。
ありきたりの常識的な対応をされてしまえば、そこでこの身代金請求も何もかも終わってしまう。
そうさせない為に新聞社を縛る仕掛けが施されているが、あくまでストーリーを成立させるためのご都合と見えてしまい、ストーリーに乗っていけない。好きな作家だがちょっと残念な結果の作品。
リスの窒息
石持浅海リスの窒息 についてのレビュー