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傷を抱えて闇を走れ



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【この小説が収録されている参考書籍】
傷を抱えて闇を走れ (ハヤカワ・ミステリ)

傷を抱えて闇を走れの評価: 4.00/5点 レビュー 1件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(4pt)

「女性嫌いの系譜」へと連なる米国らしいノワール

米国。バイブル・ベルト。アーカンソー州、マクドナルドが一軒しかない土地、デントンが舞台。アメリカン・フットボールのランニング・バック、パワー・プレイヤーのビリーが主人公。
 彼はトレーラーハウスで母親のティナ、弟のスティーヴン、そして母親の「男」でもあるトラヴィスと暮らしていますが、或る日の練習試合でディフェンスのラインバッカーにラフプレイをしてしまいます。それが原因で大事な試合を欠場する羽目になり、尚且つそのことをトラヴィスに詰られ、堪忍袋の緒が切れたビリーはトラヴィスを殴り飛ばして、その場を逃げ出してしまいます。そして翌日、トレイラーハウスに戻ったビリーが見つけたものは、殺害されたトラヴィスの凄惨な姿でした。
 一方、別の場所で成績不振を理由にコーチを退任させられ、デントンに流れ着きビリーが所属する<デントン・パイレーツ>の新コーチになったトレントはビリーの才能に目をつけ、その力で再起を図ろうと試みます。しかし暴力的な、あまりに暴力的なビリーを試合に出場させることができなくなってしまい、何とかビリーに謝罪させようとトレーラーハウスを訪れますが、そこで彼はトラヴィスを殴り倒すビリーの姿を目撃してしまいます。果たしていかに物語は収束するのか、或いはどう変転するのか?書いていいのはここまでと誰か言ってください(笑)。
 予備知識なく読み始めて、米国南部とスポーツと言えばロバート・ベイリーの著作を想起しながら、暗さがいずれ明るさへと転じるのではと期待しながら読み進めましたが、物語は夜より暗く、デスペレートに進行していきます。
 ビリーとビリーの家族、トレントとトレントの家族が入り乱れるように登場し、まるで<ギリシャ悲劇>のような様相を呈しながら、南部の閉塞社会、貧困、DV、人種差別という米国に巣食う根源的な病をかなり直接的に描写しながら、一方ではその混乱に乗じてその病を昇華させようと試みています。
 ページを捲る手が止まらなくなる要因は、ビリーの母親・ティナ、トレントの妻・マーリー、トレントの娘・ローナという三人の女性たちの存在にあります。彼女たちが男たちの独りよがりな思考を受け止め、踏み潰し、より現実的な解決を模索しながら、より強く、タフに行動していくことによってそのことが物語がメタモルフォーゼを繰り返す要因となっているからに他なりません。彼女たちは男たちに向かって”Don’t know tough”を繰り返し叫び続けます。そういう意味で、この物語はハメット以来の「女性嫌いの系譜」へと連なる米国らしいノワールと言えるのかもしれません。
 トレントの娘・ローナは、まるで都会生まれで何不自由なく育った娘として現れ、ビリーにヘミングウェイの或る有名な小説を読むことを薦めたりもしますが、そのローナですらが次第に暴力を超えた<魔性>へと搦め取られていくように思えます。それは何よりおそろしい。アカデミズムなどアーカンソー”デントン”では何の役にも立たない。
 □「傷を抱えて闇を走れ “Don’t Know Tough”」(イーライ・クレイナー 早川書房) 2023/12/6。
傷を抱えて闇を走れ (ハヤカワ・ミステリ)Amazon書評・レビュー:傷を抱えて闇を走れ (ハヤカワ・ミステリ)より
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