黒い錠剤 スウェーデン国家警察ファイル
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点9.00pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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スウェーデンからまた登場した新星の本邦デビュー作。現代社会の病理である憎悪犯罪、差別、暴力肯定などのテーマをスリリングなストーリーで描いた、傑作サイコ・サスペンスである。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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強烈な劇薬のような作品が登場。1986年の若手作家だが、スウェーデンの警察小説らしく実際に起こった事件をモデルにした社会的に無視し難い特別なテーマを題材にしたショッキングとも言える作品である。章立てが短く猫の眼のように切り替わる視点が最初はとっつきにくいが、徐々に数多い登場人物たちの個性が際立ってきて、それぞれがこの作品中で果たす役割がページを進めるにつれ明らかになってゆく頃には、一気読みできるほどの酩酊感と疾走感で脳がいっぱいの読書を体験できるのではないかと思う。 聴き慣れないであろうスウェーデンの名前の登場人物たちだが、主たるキャラクターは女性捜査官ヴァネッサとその友人で元軍人、本書では組織には所属していないが腕っぷしではとても頼りになるニコラス。またジャーナリストのグループも本書では重要な役を果たす。 そして市井の人々がなぜか描かれるが彼らがどう関係してくるのかは、ページを進めるにつれ明らかになってゆく。主に事件の加害者たちだったり、被害者であったり、証人や目撃者であったりもするが、刑務所の様子や、女性関係で何かと物議をかもすTV司会者など、随所の軋轢が断片的に登場することにより、真相は多くのオブラートにくるまれてとてもわかりにくくなっている。ミスリードたっぷりの迷路のような作品とも言える。 各人が各所で小さなエピソードを積み上げてゆくような描写によるいわば群像小説と呼べる一面もある。いわばエド・マクベインの87分署のようなイメージである。そういえばスウェーデン版『87分署』と言えば、シューヴァル&ヴァールーのマルティン・ベック・シリーズであった。デンマーク版87分署とは言い切れぬものの『特捜部Q』などデンマーク版北欧ミステリの警察シリーズとしてぼくは今も楽しんでいる。本書もまた、未だ一作の邦訳ではあるが、スウェーデン・ミステリのお家芸のような作品である。 ただ、本書のテーマは少々掴みにくい。親しみにくいとも言えるテーマである。そのテーマは<インセル>。女性と関係が持てぬばかりか女性から蔑視され女性に近づけない人生を送るうちに女性という性そのものを激しく憎んでゆく男性の存在であるらしいことが読み進むにつれわかってゆくが、彼らがグループ化して女性に対する銃撃など、見過ごせぬ重犯罪が実際にスウェーデンでは発生しているらしい。女性という性だけを対象にした無差別犯罪である。日本では考えにくいが、個別にはこうしたサイキックとも思える性差別犯罪は認定されないだけであって発生していないとは断言し難い。 本書では上記のテーマであるが、作品毎にこうした社会的テーマを扱いながら警察組織やジャーナリズムなどを主としたレギュラー・キャラクターを軸に本シリーズは本国では人気シリーズ化しているのだと言う。作者は1980年代生まれの若手作家と見えるがジャーナリズム出身者ということもあり、活気ある記者たちが捜査キャラたちとは別の動きで現場に登場し、さらには事件被害者ともダブルリンクしてゆくなど、誰がいつどこで巻き込まれるかわからぬ一大犯罪迷路のような作品にも見える。 最後の銃撃シーンが派手過ぎるきらいはあるが、そのうち映画化やドラマ化も有りかと思わせる過激さとスケール感に満ちていながら、現実に起きた事件に材を取っているところなど如何にも北欧ミステリらしい。一作目も続編もこれから邦訳される可能性があるならば、是非読みたい。そんな注目すべき作家の一人が登場してくれた本書である。 | ||||
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北欧の社会派ミステリーの新たな旗手ということで、本作を読んでみた。 描かれているのは女性に対する様々な虐待、レイプ、とりわけ憎悪犯罪である「インセル」である。 実は「インセル」という言葉には初めて接するが、“Involuntary Celibate”の略語で、本書では「不本意な禁欲主義者」と訳されている。#Me-too運動による女性からの告発に対抗するように、女性に対する憎悪を募らせる男性たちがネットを通じてつながり、行動がエスカレートして無差別テロへとつながる事件が実際に欧米では起きているというが、日本ではどうだろうか。 ミステリーとしては、複数のストーリーを並行的に展開していき、それが最終的に交錯していく巧みな構成となっているが、登場人物が多すぎて途中まではかなり戸惑う。冒頭に登場人物一覧があるが、いちいち戻って調べるのは煩雑である。 ただ、レイプや殺人の描写がどぎついし、人がたくさん殺されすぎる。それだけ凶悪犯罪とテロが身近な社会になっているということかもしれないが。 なお、本書の原題は“Råttkungen”(ネズミの王)で、本文中に登場する言葉だが、多数のネズミの尻尾が強く絡まりあって動けなくなった状態のことを言うらしい。これに対し、本書の表題「黒い錠剤」は訳者解説を読まなければわからず、本文中には全く出てこない。このような表題の付け方は疑問であり、「ネズミの王」でよかったと思う。 | ||||
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予備知識なく読み始めましたが、今更「ミレニアム」シリーズやダヴィド・ラーゲルクランツを引き合いに出すまでもない<スウェーデン・スリラー>の層の厚さ、その凄みを感じさせる秀作でした。 主人公は、国家警察殺人捜査課の女性警部、ヴァネッサ・フランク。ストックホルムの或る場所で女性の刺殺体が発見されます。交際相手の男は服役中でしたが、事件発生時は仮釈放されていました。証拠も発見され事件はそれで収まるかに思えましたが、ヴァネッサの元に「彼は殺していない」と訴える女性が現れます。一方、TV司会者の同僚でもあり愛人でもあった女性の失踪事件が発生します。果たしてその二つの事件はいかに結びついていくのか?それともそうではないのか?(笑) 物語はスウェーデン国家警察側の捜査に加えて、<クヴェルスプレッセン>紙というジャーナリズム側、得体の知れない路上生活者たち、そしてトムという名前は判明しているものの正体不明の男の側からの複数の視点から描写されていきます。そして、読者はその畳み掛けるような小刻みなシーンの連続に惑わされながらも小出しにばら撒かれた伏線が物語が進むにつれ次第に巻き取られていく快感を味わうことになります。尚且つ、このスリラーの背景にはアクチュアルなテーマが厳然と存在していますが、私にはそれを言うことができません。何故ならそれは”Involuntary”なことだから(笑)。 清水由貴子さんによる<訳者あとがき>によるとシリーズ二作目ということですので、一作目の名残が物語の歴史の中に確実に潜んでいるような気もしますが、それはそれとして、特筆すべきは警部・ヴァネッサとそのバディと呼ぶべき元軍人、ニコラスとの関係性にあると言っていいでしょう。そこには「ミレニアム」のミカエルと彼を補佐するリスベット・サランデルのそれぞれの性別を逆転させて、より成熟させた関係性を垣間見ることができます。また、ニコラスとその隣人のセリーネの間には「レオン」とマチルダを彷彿とさせるような「心のよきもの」が隠れています。我ながら何と隔靴掻痒感満載とでも言うべき言い回しなのでしょう(笑)。仕方がありません。スリラーを少しでもネタバレなく語ろうとするとこうなってしまいます。 物語の終盤、ヴァネッサは「人生は映画のようにはいかない」と独白します。私はそんなシリーズをひたすら待ち望んでいました。 □「 黒い錠剤 スウェーデン国家警察ファイル」(パスカル・エングマン 早川書房) 2023/11/8。 | ||||
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