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死刑執行のノート
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死刑執行のノートの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.67pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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コラン・ニエルの『悪なき殺人』やホレス・マッコイの『彼らは廃馬を撃つ』を読んだ直後に、その二つを取り混ぜたような雰囲気の本書を手にして、三つがごっちゃになりそうだとの不安を感じつつ、読み進める。三作とも毒が仕込まれたような作品なのだが、結局、毒性の強さは三作中では本書が一番深かったという気がする。 ちなみに『悪なき殺人』はそれぞれ繋がりがなさそうな五人のキャラクターの短編小説が全部語られ終わって初めて全体像が見えるというような構成の妙。しかも各キャラ間の距離感が大きいのでダイナミックな展開が楽しかった。『彼らは廃馬を撃つ』は、章ごとに挟まれる裁判官の言葉が、本書の死刑へのカウントダウンの構成と何となくダブるのである。 さて本作のダニヤ・クカフカ。あまり知られていない作家だが、本作は何とエドガー賞受賞作とのこと。本書はエドガー賞というより、むしろ純文学とも取れそうな極めてシリアスな作品なのだが、扱っている題材は確かに連続殺人事件。その複雑な事件の真相に至る娯楽色よりヒューマンな問題意識の部分を強く感じさせる物語で、クライムノベルであることを否定するほどではないが、謎解きの好きな読者には肩透かし感を与えてしまうかもしれないか。 時制のスタート地点は、凶悪犯が刑に処せられる12時間前。前述したように刻々と迫る死刑執行への時間を待つ囚人の様子、その合間を、三人の女性たちの過去現在の物語で交互に語ってゆくという少々独特な構成である。 時間軸も二世代ほど過去へ遡るので、死刑囚の幼少時の事件、死刑囚が青年になってからの事件へと遡行せざるを得ない構造となる。現在の事件に繋がる過去数世代の殺人や暴力の連鎖というところが本書のテーマとなるのである。例えば読者の眼となって捜査する女性警察官サフィは彼女自身、死刑囚との間に幼少時からの因縁を持っている。 死刑囚の手にかかった複数の被害者が子供たちなので、中心となる事件は陰惨である。死刑囚自体もその父の犯した事件の被害者として遺棄されかろうじて生き残った幼児であった事実は、早い時点で読者に曝されている。悲惨な運命を辿った子供たちの死。死と暴力は、果たして繰り返され伝えられる遺伝子なのだろうか? そんな疑問を抱きながら、登場人物それぞれの生と死の物語が淡々とタペストリーのように縦横に綴られる。最後には死刑囚の最後の一日が一枚の絵として完成する。不思議な読書感覚をもたらす作品である。構成の妙という形の凝ったストーリーテリングと言えよう。 謎解き要素を追求する類いのいわゆるミステリー作品ではなく、死刑執行の迫る囚人に残された12時間の描写を軸に、過去の三人の女性による切れ切れの小編のパッチワークで完成してゆく世界である。内容は娯楽小説というよりは、純粋に社会派小説であり、さらに文学的で硬質なイメージを感じさせるものである。多くのミステリと異なるのは、事件に関わってしまった三人の女性を軸にして、家族や社会が見過ごしがちな家庭内暴力をエキセントリックなまでに、しかもリアルに浮き彫りにしたというところだ。 現代アメリカの病巣を抉った本書。三人の女性たちの視点で切れ味鋭く描写された長大深淵な物語。最後まで気が抜けない現在パートの描写と言い、カバーにもなっている小道具の使い方といい作者の繊細さが多分に伝わってくる相当にセンシティブな印象であった。 | ||||
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. 舞台はニューヨーク。主な登場人物は4人。 複数の女性を殺害した罪で、死刑執行を待つ囚人アンセル・パッカー。夫の暴力に耐えきれず幼いアンセルを残して家を出た母ラヴェンダー。アンセルの妻ジェニーの双子の妹ヘイゼル。そして、アンセルと同じ里親のもとで育った後、州警察の捜査官となって彼を追ったサフィ。 2023年度のアメリカ探偵作家クラブ・エドガー賞最優秀長篇賞を受賞した作品です。 ミステリーとはいえ、巧妙な犯罪トリックを解明するでもなく、複数の容疑者の中から真犯人をあぶり出す物語でもありません。死刑執行を待つアンセルと、犯罪を通じて彼とつながる家族的存在の三者が、奥歯を噛み締めながら自らの来し方を思い返し、そして行く末に思いを巡らせる、人生模様が展開します。 頁を繰りながら、女性が女性であるゆえの痛ましさを強く感じました。 母ラヴェンダーの人生。DV被害者として、子どもを置いて出奔せざるをえなかった彼女の心の内が、読む者の胸を打ちます。 「そうか、昔からずっとこうだったんだ。いままでずっと、女はみんなこうしてきたんだ。洞窟で、テントで、幌馬車で。どうしていままで太古から変わらない事実について考えたことがなかったんだろう。本来、母親とはひとりでなるものなのだ」(30頁) また幼馴染サフィの人生。実の親と暮らすことが叶わなかった彼女の、母との思い出もまた、苦い思いとともに読みました。 「わたしたちはわたしたちだけでやっていくのよ、と母親はいつも言っていた。【中略】あなたとわたしでね、サフィちゃん。わたしたちは戦士なんだから」(91頁) また彼女を取り立ててくれた女性上司もまた、女性であるからこそ、男の同僚に伍して生きることの厳しさを噛み締めて生きていることがそこはかとなく描かれます。 女であるだけで閉塞感を抱えざるを得ない登場人物たちにとって、この人生はどこか違う、本当の人生がどこかにあるのではないかという思いに駆られるのは無理からぬこと。しかしその思いがいき過ぎると、どこかに平行宇宙があって、そこにいる自分の分身への嫉妬の念を抱くばかりの人生になりかねません。 まだ若いブルーがこう語ります。 「もしも小さなことひとつでも違う選択をしていたら、いまいるこの世界とは別の世界があったかもしれないって」(385頁) その思いはまた死刑囚アンセルも同じようですが、彼は次のような感慨を持つに至るのです。 「いまこの瞬間から、魅力的な別世界の可能性など忘れるのだ。存在するのはいまここだけ、はかなく不完全な、たったひとつの現実だけだ。その現実を生きるすべを探さなければならない」(375頁) 人生にはリセットボタンがない。自らの選択の積み重ねで作り上げきた人生をどう生き続けるのか。 「なにもかも手に入れる必要はないの。どれだけあれば充分なのかわかればいいだけ」(401頁) サフィが語るこの気持ちに果たして読者は到達することができるのか。そのことを厳しい形で突きつける小説です。 . | ||||
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エドガー賞受賞作! | ||||
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