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金木犀とメテオラ
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金木犀とメテオラの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点2.50pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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二人の優等生、宮田と奥沢。しかし二人の家庭環境は悪く、いわゆる「毒親」を持つ。互いが存在するだけで、コンプレックスを強く刺激されるから、直接会話することはほとんどない。そんな彼女らの高校生活を繊細に描いている。 私は以前この作者のデビュー作を読み、今作も期待していた。 描写が細かいうえに、主人公の二人の境遇が私自身と重なって見えてきて、かなり感情移入して一気に読んだ。 だからこそ、読後の違和感は長い間残った。 宮田は母親のトラウマを持っているが、いたってクールだ。死んだ母の言いつけ通り、東大に入るために勉強する。 ある事情で、寮母さんに「迷惑を掛けたから退寮する」と申し出るところ。宮田はどこにいくというのか? 土下座してでも「ここに居させてください」と頼むところではないだろうか。 そもそもピアノの講師に対して、ふてぶてしい態度を取る。しかし、母親のトラウマは再起する。大人とか、ピアノとかに、それほど怯えることはない。序盤で寮母さんに叱られるシーンがある。私なら、そんな状況で冷静にいられず震え上がってしまう。 しかも寮母は自分の話をし始めて、前作のテーマでもあった「呆れた希望」の変化形を持ち出して励ます。それがまるで、「不眠症の患者に『よく眠りなさい』という医者」のように思えた。安心できる場所の無さが、他者を知り肯定することで克服できるという話を、私は聞いたことが無い。他者と自分の立場を置き換えて考えることは不可能だと思う。 前作の主人公は、きつい仕事をしていたけれど、精神的には一応健康だった。理不尽な仕事を続ける人には、過剰な義務感を持つ人も多い(ワーカホリック)。「呆れた希望」はいつでも通じるものではない。 後半で、合唱コンクールの間に、ライバルだった宮田と奥沢は一瞬だけ心を通わせる。感動的な言葉のようであるが、それは何の救いにもならない。宮田にとって、奇跡を起こすためには、身を削るような努力が必要なのだ。 しかも序盤で、宮田はプロのピアニストになることを諦めている。コンクールが終わった後には、やはり絶望しか感じられないだろう。音楽に光が感じられても、自分の内には光が無いのだ。 もう一人の主人公・奥沢は美少女だと周囲からもて囃される。しかし、それを武器にしようとはしない。女子校でも、顔が良いというのは一つのステータスになりうるのではないか。奥沢の母親が、既婚の男にお金を頼っていることの反動だとも考えられる。けれども大学に行くお金を工面するには、顔を使いたいという気持ちに駆られてもいい。そうでないならば、性的なものを極端に避け、男に恋などしないだろう。 ある場面で、彼女は美人なのだから、自信をもってもよいと思える。しかし、そうしない。そこで葛藤があってもいいのだが、子どもの割に物分かりが良すぎる。それは作者の価値観の表れではないだろうか。 そもそも、親にお金がない事は本人のせいではないし、周囲もそのことで奥沢を責めたりしない。コンプレックスがあるとしても、宮田のそれと対にはならない。 少女小説が出てくるものの、絵を模写するばかりで、その小説の内容にはほとんど触れない。奥沢はまったく心のないまま小学生時代をすごしたみたいだ。 地元出身のみなみは勉強に対してやる気がない。たとえ都会の大学に受かっても、大学卒業後は田舎へ帰らねばならないという。あるとき、みなみは宮田を非難する。しかしそれはおかしいと思う。 みなみの東京への憧れは、むしろ宮田という同級生に自分の一部を預け、その境遇にも才能にも一目置き、宮田の孤独に対する尊敬になるのではないか。みなみと宮田が対等な関係を築くことは普通考えられない。もしそうなら、みなみが本当に人生を諦観しているということだ。 全体的に、田舎出身の子どもたちが、都会の子のように振舞う。田舎と都会では、ネットが普及しているとはいえ、価値観は異国のように違う。他の友人は「奥沢が有名人になったら、私が自慢できる」という。なぜみなみはそう言わないのだろうか。 おそらく作者は『スクールカースト』を意図的に避けたのだろうと推測する。その結果、非常に不自然な人物ばかりになってしまったのだろう。宮田も奥沢も「マウントをとる」ことをほとんどしない。このような世界には、「呆れた希望」はあっても「希望」は無い。 | ||||
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