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らんちう
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らんちうの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.92pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全7件 1~7 1/1ページ
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「ある事件が起こり、犯人が仕掛けたトリックを見抜いて、真犯人を明らかにする」というミステリーではなく、犯罪を題材にして現代社会を描いた犯罪小説である。従業員の独白を通じて読者に支配人の人物像をイメージさせた後、望海楼を辞めた人々の独白によってそのイメージを覆す展開や、従業員の救世主的な人物が事件の発端を招いた人物であったといった展開は、大いに意表を突かれた。 ただ、この作品の魅力は現代社会の文脈を、独白形式に違和感なく落とし込んだところにあると思う。物語に織り込まれた文脈としては、パッと気づいただけでも、格差社会、相対的貧困層、違法労働、セミナー商法、マインドコントロールといったものがある。これらの現代社会の文脈を「月収が30万円を超えるんです。これは凄いです。そんなお給料、わたしたちみたいな人間が普通じゃ絶対もらえません」「プロとか職人とかが必要とされている時代じゃない。少なくとも中流以下では、です」といった何気ないセリフに落とし込むところに、作者の力量の高さを感じた。 読み直すたびに、現代社会の様々な暗部が浮かび上がる小説である。 | ||||
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千葉のリゾートホテルで、総支配人の男性が従業員たちに扼殺された。従業員たちは全員が犯人だと言う。 物語は取り調べを受ける従業員のと警察官の対話が折り重ねられて展開する。 事件の背後に見えるのは、従業員たちが受講していた自己啓発セミナーだった。しかし、警察は自己啓発セミナーの受講が事件の直接の原因とはならないと考え、殺された総支配人の妻や自己啓発セミナーの代表にも話を聞く。 この話の中に類型的な悪を見出すならば従業員にパワーハラスメントを繰り返していた総支配人・旅館のセミナーハウス化を目論んだ総支配人の妻、それに乗ったセミナー代表ということになるのだろうか。 しかし、受刑者となることが決まった、元従業員たちは、総支配人の妻が出所後にセミナーハウスで雇用するという発言に一人を除いて嬉々として従おうとし、そこに希望を見出そうとする… うんざりするほど希望のない終わり方だ。しかし、タイトルのらんちうが示すようにある種の奇形がそれにとっては至上の価値であるように、この結末の希望のなさは登場人物たちにとっての希望なのかもしれないと考えると余計に恐ろしくなる。 レビュータイトルに入れた蟹工船も、最後にもう一度ストライキをしようという不自然な結末になっていることに不快な符合を感じ取ったので、タイトルに入れさせていただいた。 ※蟹工船は当時の共産主義称揚の為のプロパガンダ的な意味合いが多分にあったと考えられる。 作者は、この作品が、私の物語でありあなたの物語であるという。その通りだ。だからこそ恐ろしく、解決しない異物感が心に刻み込まれるのだと思う。 | ||||
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これはもう本当に面白い傑作だと思う。とんでもない傑作。登場人物を把握するのに少し時間がかかったけど、どいつもこいつも根こそぎ面白い奴ら。ドラマ化したら受けると思うが、放送できないか…。 | ||||
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作者の小説は展開が読めず、満足感がたまりません。 | ||||
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冒頭のいきなりの切り口にびっくりしあわててしまう。 何が起こったのか、ページをめくるごとに真相が解明していく。 ミステリーというか、ホラーというのか。 コミカルな旋律にのって、不気味で、怒りがあらわになる。 現代の社会構造のなかに潜んでいる現場の実態を描いている。 強烈な労働条件でありつつも、そのループの中で生活せざるを得ない状況。 そんななかで出会ったマインドコントロールが乱舞する。 厳選された醜さに大枚をはたき、大切に育て上げる。 間引きをして。 社畜化なんて。 高級な醜さに求めるのは姿かたちなのか、こころなのか。 ラストの切り返しが見事に開花。 作りがうまい。 | ||||
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読み放題で、モズクガニを読んで、すぐに鯖、本作らんちうを購入。 氷河期世代なので、共感。 殺人事件が起こり、犯人達の調書で話が進んでいきます。 自己啓発セミナー、非正規雇用、相対的貧困がキーワード。 蓋をあけてみたら、あの人が1番まともだったのが面白かった。 他の人たちは選別された、グロテスクならんちうってことなのかなあ 考えさせられた。 | ||||
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『君たちはどう生きるか』――この書籍は2018年、書籍売り上げランキング1位となったそうだ。大ヒットすることは素晴らしい、素直な気持ちでそう思う。内容に関しても間違ってはいない、むしろ正しすぎるくらいだ。だがその正しさが不安なのだ。誰が誰に読ませ、「言い聞かせる」ために買ったのか、それを想像するとスッと背中に氷を入れられたような気になる。これは洗脳とどう違うのだろうか。いじめに関して通報することもなく法的手段に訴えることもせず立ち向かうコペル少年たちは親にとって都合が良すぎではないか。洗脳とどう違うのかわからない――そういった不安が「清潔な不気味さ」をもって伝わってくる――1937年初版の、ベストセラーかつロングセラーであり、名作と謳われている。だが「自己啓発セミナーなんかに引っかかるのはそいつがバカだからだ」と言いたそうな親が手に掛からない子を望む、そんな親の本音に応えたからこそ大ヒットしロングセラーであり続けた子ども向け自己啓発本と言えなくもない。 さてここで本書『らんちう』である。 本書は自己啓発セミナーに関わった人々の悲劇を相対的貧困を背景に描く。詳細は省くがそのセミナーでは突き抜けたように行動させたい場合「突破」と叫ばせることで受講者たちを熱狂的な気分に浸らせる。それは一見愚かに見えるが嗤えるか嗤えないかというと嗤えない。むしろ嗤える人のほうが愚かだ。 現代のネット社会は洗脳が横行しているではないか。 「●●が出来ない人は△△も出来ない」という一文を載せる小説指南本がある。どのくらいの人数が「●●も△△も出来なかった」のか、具体的にどうすれば良いのかも書かれていない。不必要に言うことを聞かせようと煽っているのかと疑いたくなる。「女は外見を磨いて仕事のレベルをあげ、男にメリットを与えよ」と執拗にネットで配信する婚活ライターも存在する。人間の業の深さを知っているのかと訊きたくなる。それらと本書で描かれた自己啓発セミナーの共通点は「嫌なら辞めてもらって結構ですよ」。 あなたが小説家になれないだけ、あなたが結婚できないだけ、本書でいうとあなたが月給にして30万を(時給換算すると890円!)貰えないだけ、なのだ。最後のものは生活が掛かっているだけに他の選択肢はない。 『らんちう』の世界では愚かではないが他に選択肢がない人間が「自分の頭で考えて」「自己責任で」(これらは口は出すけど金は出さない卑怯者がよく使う言葉だ)セミナーに絡めとられてゆく。こういったテーマは既にノンフィクションで書かれているかもしれないが、一度フィクションで表現して欲しいかった。そういう思いに赤松利市は答えてくれた――このみじめさ、この遣り切れなさ、この後味の悪さ、そして未来へと続いて行く永遠の不安を描いてくれた。62歳とは思えない瑞々しい出来栄えで応えてくれた。 『君たちはどう生きるか』にも窮地に陥ったコペル君に伯父さんが「考えるのを止めてみてはどうか」とアドバイスするシーンがある。それは私の目から見るに「突破」と同じなのだけれど――『君たちはどう生きるか』をそういう目で見る人はまだ少ない。是非合わせて買って「笑う、ではなく嗤えない」恐怖の真髄を味わって欲しいと密かに願っている。 【追記】帯に「クライムノベル」と明記してあり、好感が持てる。(自分もミステリーだと思って読むとガッカリしてしまうので)そしてネタバレになるかもしれないが無敵に見えるセミナー塾長にも弱点があるという細部に神が宿っていた。私だけの神かもしれないが。 | ||||
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