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(短編集)
息吹
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息吹の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.18pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全51件 41~51 3/3ページ
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全9作のうちの4作は過去にSFマガジンに掲載された作品ですが、いずれも今回初読。数年前にやっと読了した「あなたの人生の物語」以来、久しぶりのテッド・チャンです。 収録されている作品は、数ページほどの短いものから120ページをこえる長いものまでさまざま。個々の作品はどれも読みやすく、面白いのですが、読んでいる間も、読み終わってからも考えさせられることが多くて、どんどん読み進むことはできず、結局一冊を読み終えるにはずいぶん時間がかかってしまいました。逆に言うと、その間ずっと頭を働かせて楽しむことができたということでもあります。 第一短編集「あなたの人生の物語」と同等、あるいはそれ以上にレベルの高い作品集だと思いますが、破天荒という点ではちょっとおとなしくなった気がします。 なお、巻末に、前著と同様に著者自らが各作品について執筆の経緯などを記した作品ノートがつけられており、さらに訳者あとがきでも各作品について様々な情報が記載されていて参考になります。 評者自身、作品を読んだ後、著者の作品ノートを読んで、自分の解釈と違っている点を教えられ、また解説を読んで、別の観点があることにも気づきました。どの作品も多くのテーマ、アイデアを含んでおり、様々な切り口で読むことができるので、多様な視点(公式)の提供は有難いことです。 第一短編集を読んだ時にも思いましたが、とんでもない設定の話が多く、その発想と世界観にバリントン・J・ベイリーの短編を思い出しました。また、本書の収録作品には奇妙な器具や技術が登場するものが多いのですが、その説明を読んでいると、基本的な構造が古典的なガジェット・ストーリーと似ています。ただし、その後に語られる物語はパルプ小説の時代とは大違いで、そこがテッド・チャンたる所以。 冒頭の「商人と錬金術の門」。第一短編集で言えば「バビロンの塔」のような導入部。アラビアンナイトの世界。物語の中で語られる物語の中で語られる物語。迷宮のようなその物語で語られる人生の真実。形だけまねることはできても、これだけ深い話を語れるのは著者ならでは。古典的な趣があります。 「息吹」。読んでいるうちに設定がわかってひっくり返る。第一短編集の「72文字」を読んだ時の感覚に近い。ベイリーに最も近いと感じたのもこれ。特異な世界の説明とエントロピーの置き換えが最高。 「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。ビメイダー(作られしもの)との関係性を描いた作品の中では知る限り最上級。ライフサイクルの展開も実際のコンテンツを思わせて納得。感心して読み終えたのち、作者ノートのAI育成に関する意見を読んで改めて激しく同意する。 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」。新しい技術によって変わっていく生活。すべてが記録される時代。その中には不愉快な記録も含まれている。否応なくそれに向き合わなければならなくなった時、人はどうするのだろう。不都合な真実まで記録されるようになった時、政治家や詐欺師は?忘れっぽい世間やマスコミは?他人ごとではなく自分は?でも、インスタ、ドラレコ、動画投稿サイトなど世界は既にその方向に進んでいるのかも。一方で、正確な記録とは何なのか?ちょっと教科書的過ぎるような気がする。 短い作品はその分切れ味が鋭い感じ。「大いなる沈黙」。人間の言葉をしゃべる唯一の異種生物。わかっているけど、一瞬本当のことかと考えてしまった。 「オムファロス」。これも読んでいる途中に現れる世界観に驚愕。どこに着地するのかと思って読み進むが、最後はここに着地するのかと愕然。どんな世界であろうとも科学を志す者の道は厳しい。光瀬龍の「たそがれに還る」のユイ・アフテングリの言葉を思い出した。「そこからたとえ何が現れてこようとも…」 「不安は自由のめまい」。読んでいるときから設定の凄さに圧倒されるが、ストーリーは一回読んだだけでは理解できない。複数の主人公、主観の切り替え等、様々な技法が使われていてややこしい。改めて読み直してやっと何がどうなっていたのか理解する。先の見えない不安の中でも前を向いて生きるための、あなたの人生の物語。優しい世界。 | ||||
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面白かった! | ||||
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中国SFの作品を読みたくて本書を購入した。第二話「息吹き」を読む。この短編は本初の表題作であるが、あまりSF小説という実感が湧かない。 ①肺と肺に空気を補給するための給気所が登場し、空になった肺と満杯の空気を交換する。そこは社交場となっていて、人々はそれぞれに会話を頼む。 ②ここから鈍なストーリーが生まれてくるかと思いきや、今度は著者が従事している解剖学の話に転換する。肺の交換により呼吸機能が維持されることによって、人々は不死になって、解剖に適した肢体が入手出来ないのだという。 ③どうやら余りSF小説という実感が湧かない。これは半世紀前の科学小説ではないか? ④科学の先端をいくSF小説はどこにあるのか?このレトロ感が小説の面白さなのかもしれない。身近に場面がイメージ出来るように配慮されている。読者に分かりやすさを提示している。現実にできるだけ近くして、読みやすさを狙う。肺の交換と解剖学はSFの世界ではなく、現実的・近未来の世界に属する事柄である。したがって本書は近未来のSF小説なのである。しかし、こうした描写は現実の世界と異なる側面がある。この違和感が増幅されることによって、仮想現実(SF)小説が生まれてくる。このプロセスを読者はどこまでも楽しめば良い。現実との距離を出来るだけ短く(微分化)し、やがてその距離をマックスまで拡大すること。これが、著者が採用したチャレンジである。云わば、「差異と増幅」である。この世界を楽しめば良い。 こんなSF小説があっても良いのではないか? お勧めの一冊だ。 | ||||
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私も『あなたの人生の物語』を刊行当時に読んで、すごく感心した読者の一人なので、17年ぶりとなるこの第二作品集に期待する気持ちなら、他の人と変わらないはずなのだが、なぜだか「物足りない」という印象につきまとわれた。 この作品集について、出来が悪いと言いたいのではない。 そもそも、十数年前に読んだ『あなたの人生の物語』について、何にどのように感動感心したのか、まったく記憶していないので、それとの比較も不可能であり、はたしてテッド・チャンが変わったのか、読者である私の方が変わったのか、そこも今では定かではない。 いずれにしろ、十数年という歳月は、人を多少なりとも変えていて当然なのだから、それ自体は問題ではないのだが、それにしても何が変わったのかが、個人的には気になるところだし、そんな気分なのに、何も変わっていていないような顔をして、皆と同じように盛り上がるなんてことは、私には到底できない相談だったのである。 私が、本作品集収録作品について、一貫して感じたことは「良くできているが、引き込まれない」といったような不満だった。「非常に知的な、良く出来た作品」であるという評価は、たぶん多くの読者に共通するものだろう。私もそれには同感なのだが、しかし、それだけでは、私には不満だった。 本作品収録の作品が、単なるエンタメではなく、ハッキリとしたテーマ性を持って読者に思考を求めるものだという点で、それらはいずれも「文学的」な作品と呼ぶことができるだろう。 しかし、そのいかにも「文学的」な造りをはみ出すところのない、まとまりの良い完成度の高さが、その優等生的な行儀の良さが、私には物足りなく感じられた。もっと「著者の思考や倫理からはみ出していくような過剰性」を私は求めていたようであり、それが本作品集の作品には感じられなかったのだ。 例えば、本作品集冒頭の短編「商人と錬金術師の門」にも、そうした特徴がそのまま表れている。 私はSF者ではないので、本作のタイムマシンのアイデアの新しさという点については、もとから興味もなく、そこで感心することもなかった。だから、問題となるのは、そこに描かれた「人生」というものへの著者の「考察」、と言うよりは、「態度」ということになるのだろうが、いずれにしても著者のそれは、いたって真っ当で納得がいくものだと感じはしたものの、言わば、ただそれだった。 つまり「納得」はしたが、特に「驚き」もしなければ「打たれ」もせず、だから「深く考えさせられることもなく」、ただ「なるほど、そうだよね」と同意させられただけだったのである。 そしてそこが、私が「文学作品」に求めるものとしては、少々物足りなかった。評論やエッセイを読まされたのではないのだから、そんなにあっさりと納得できるような「理屈=人生論」を読みたいのではない。 むしろ、そうした真っ当なものを揺るがせるようなものを、私は読みたかったのだと思う。そして、自分の価値観を揺るがされたがために、嫌でも思考を強いられるような、そんな「嫌な作品」を読みたかったのであろうが、残念ながら、本作品集所収の作品には、そういう「文学的な嫌らしさ」が微塵もなく、非常に「上品に完成している」という印象ばかりが強かった。 また、私が本作品集所収の作品に感じたのは、そのいずれもが「寓話」的であるということだった。そして、ここで言う「寓話」とは、「現実」そのものと格闘するものではなく、「現実解釈」を変形して「象徴的に語った物語」というほどの意味である。だから、私が求めていたものはきっと、もっと生々しい「ワン・クッションおかない物語」だったのだろうと思う。 その意味で、「商人と錬金術師の門」を読んで、即座に芥川龍之介の「杜子春」を連想したのは、けっして的外れではなかったはずだ。そして、「杜子春」にかぎらず、芥川の「蜘蛛の糸」「鼻」「羅生門」といった多くの作品は、いずれも「寓話」的であり、かつ極めて「知的」であって、完成度の高い作品である。 私は、それらの作品に、とても感心するのだけれども、しかし、そういう作品が「小説として好きか」と問われれば、すこし違うように思う。 また、テッド・チャン自身、ボルヘスの名前を挙げているが、ボルヘスもまた芥川龍之介と同様の、「寓話」的で「知的」な作家であったことは周知のとおりであり、テッド・チャンは、こうした系譜に属する、SF作家の中では、極めて洗練された「文学的」作家なのであろう。しかし私は、その「洗練」が、どうにも物足りないと感じられたのである。 では、かつての私は、『あなたの人生の物語』の頃のテッド・チャンの、いったい何に感心したのであろうか。 私が変わったのか、テッド・チャンが変わったのか。それとも二人とも変わったのか。 それはよくわからないが、変わっていないということはない、ということだけは確かであろうと、私は思う。 . | ||||
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作品数が極端に少ない作家なので、SFマガジンに掲載されるたびに雑誌を購入して読んでいたのだけれど、当時から何年も経過して改めて読み返しても本当に素晴らしい作品群だった。 初読の物も含めて本当に、待ち続けた甲斐があった1冊。個人的には「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」を大勢の人に読んで欲しい。アプリゲームなどを追い掛けている人なら、見につまされる部分も多いと思うので。 | ||||
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テッド・チャンの創作のありかたについて軽く分析してみます。あくまでもわたしの勝手な見方ですので、適当に読んでください。まず、彼の作品のおおかたに目を通して思うのは、作家自身の独白を覆うようにして物語ができているということ。 彼自身の独白は、文系と理系の知識の微妙なバランスのなかで構築されています。そもそもなぜ作家自身の独白と見るとかいうと、全ての作品のモチーフに共通項があって、それはあまりにも分かりやすいからです。 すなわち、自由意志の肯定、物理法則に支配されない現実の描写、宗教が現代科学に圧されて力を持ちえなくなった現代で、人間の生死を意味のあるものとして伝えること、といったテーマです。ようはヒューマニズムです。 面白いことに、主人公はたいてい女性なんですね。オウムが主人公の短編もあります。それから、身内の死、喪失というのが何度も出てきます。 わたしの勝手な推測では、やはり自身の思想を物語に包んで伝えようとしてそうなったのではないかと思います。必ずしも、作家のすべてのタイプがそうではありません。むしろ、自分をまったく出さない作家も多いですから。 独白の気分がまず前提としてあって、その上で、それを効果的に伝える場面設定をする。そうやって創作していったのではないかという痕跡があります。だから、文字量としても主人公の独白の部分が多く、どちらかというと人物造形や風景描写は至ってシンプルな印象を受けます。わたしはものすごく洗練されていて好きです。 作り手の目線でいろいろ考えながら読むと面白いです。参考になります。 | ||||
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長い間待っていた本だ。 SFマガジンで読まれた作品以外にも傑作が満載、思考実験の最先端にあるSFの楽しさに久しぶりにのめり込んだ。 個人的に一番良かった作品は「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」だった。 これは日本のSFファンの郷愁を刺激する、未来的な物語だったな。 | ||||
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古き良きSFを想わせるシンプルなアイデアの短編集。 近年、こうした読み手を唸らせてくれる樣な作品があのりなかったのだが、本書の中はそうした作品で満ちている。 ●「商人と錬金術師の門」 アラビアンナイト風で寓話的なタイムトラベルもの。 お伽噺旳でありながら、新しめのタイムトラベル理論を応用しているのがミソ。職人芸と云った感じに纏められている。 ●「息吹」 人格を持つロボットだけが暮らす閉鎖空閒を舞台にした作品で、ロボットたちが現代工学の産と云うより異質な、どちらかと云えばスチームパンク的な存在でである処が面白い。 ●「予期される未来」 人は何かを選択する時、本当に自由な意思でそれを行っているかどうか・・・逆説的に云うならば、自由な意思に依る選択でなければ豫言も可能と云う事に成るのだが・・・。哲学の方向へ向かいそうだ。 ●「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」 AIで人との会話可能な人工動物を作成販売する会社に入ったヒロインの眼を通して、人閒の友としてのAIの成長と、それを巡る社会の在り方を描いた作品。特に成長したAIのセックスドールへの応用についての議論は現実的でリアル。 ●「デイシー式全自動ナニー」 トンデモ発明を巡る何処か懐かしいタイプの作品。 ナニーとは乳母の樣なものだが、それを機械にやらせようとした者が嘗て居た・・・と云う設定で、その過去を今日から振り返る | ||||
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実店舗で予約し、刊行を楽しみにしていたチャンの短編集。やはり今回も素晴らしかったです。 実現可能な理論やSF的近未来論をベースに、それがどのような世界をもたらすのか--テッド・チャンの思考の過程はいつもとても現実的・実際的に思えます。それでいながら思考の結果については過去の常識や感情・感傷に決してとらわれない...そのため、チャンの作る物語はどんなに感動的なものであっても、安っぽいセンチメンタリズムのかけらもないのです。 この作家らしいオリエンタリズムや旧弊な文明へのアイロニーを感じる作品群も、もちろん表題作も非常に良かったのですが、中編「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」には上に書いた現実的・実際的な面がよく出ていて、展開のブレのなさに感心しました。妥協のない物語、という印象です。 ところで、帯や作品紹介によると、チャンは映画「メッセージ」の原作者として一般にも名を知らしめたとのこと...いやいや、あの映画そのものは悪くない内容とはいえ、原作のメインアイデア--あの感動的な「あなたの人生の物語」の核となるアイデア--を取り去ってしまった映画から判断してしまっては、この作家の良さはほとんどわからないと思うのですが... 映画「メッセージ」経由でもいいので、「あなたの人生の物語」かこの「息吹」で、テッド・チャンの本来の作品を堪能してください。 | ||||
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近い未来に私たちの生活の中に起こりうる問題を題材にしていて、考えさせられることがたくさんありました。 最後のストーリーは終わりに胸が熱くなりました。 たくさんな人に読んで欲しい作品です。 | ||||
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各編の印象をいくつか記すことにする。”商人と錬金術師の門”、SFマガジンですでに読んでいたが再読。どこでもドアみたいなTime Machineの話だが、過去と未来について、つまり人生の意味について考えさせられるいくつかのエピソードの集まり。読後感は悲壮の中にあってもとても良い。”息吹”、宇宙の熱的死についての考察と機械人間の絡まる話。諸氏絶賛の一編だが、評者はそれほど乗れなかった、機械人間のイメージが19世紀的で少し古めかしいからだろうと思う、ハヤカワ文庫アンソロジーで既読。”ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル”、かなり長いが、読書中一種の違和感を伴うスリリングな感覚を味わった。本短編集で一番心を揺さぶられた。主人公は普通に見えるが、評者には一種の2次元に心奪われた壊れた人物に見えてしまった。しかし、このような偏愛は対象こそ違え、評者も含め多くの人にありうるかもしれない。PCやwebがどんどん改良される時代、便利ではあるが古いfileが読めなくなる問題を感じている諸氏も多いだろう。主人公は、その点について半端ない問題を抱えてしまう。”偽りのない事実、偽りのない気持ち”、父と娘の相克を扱うが、ある種残酷な結末に心震えた。”不安は自由のめまい”、全体に救いのない感じが多い本短編集作の中では、心温まるちょっといい話風なオチで救われた。残りの3作品は、10ページに満たない掌編でアイデア一発勝負という感じ。"オムファロス"評はSFマガジン掲載時のレビューで記した。 作者も前短編集の時よりも歳をとり、人生に対する見方が少々厭世的と言えるトーンを帯びてきているかのように感じた。SF的枠組みは、人生を考察するためのものというわけだろうか。 | ||||
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