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封印の島
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封印の島の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点5.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全1件 1~1 1/1ページ
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思い出の中で父親は何故暗い顔をしていたのか。 自分の意志で島に渡ったピプル。いつもは異民族の事件など厄介事を片付ける能力を買われて、 ぎりぎり警視庁内部のその地位を維持しているであろう、ピプルが今回は自分のために島に行きます。 いつも以上の厄介が待ち受けているのはわかっているのに。 臭いものには蓋で各省庁が異物を廃棄し目を臥せて先延ばししていた島でとうとう起こる崩壊劇。 緊迫しているとはいえ、ほとんど不可避的に起こる崩壊とその後の冒険行。 ミステリー的には推理らしい推理もない地味な物語に見えますが、実は全て読み終わって本を閉じたところから話は始まるのです。 ピプルは何故島にいったか。 語られざるその謎こそ、この本の本当の謎なのです。 暗い顔をしていた父親。 少年のピプルにいつも暗い顔をしていた父親の謎でもあるのです。 麻耶雄嵩氏も父親とピプルの関係がわからないと書いてます。 博士と父親。ノーベル賞を多数輩出したかつての黄金の英国化学界を彷彿とさせる研究室で何があったか。 悪魔的な博士はしかし、その立ち居振る舞いでひとつの真実を告げます。 父親のことを憎んでいないことを。いや、愛していたことを。 悲しい真実です。あまりにも悲しい真実です。ですが全てはじめからピプルにはわかっていました。 二人の間で同性愛的なことまで含めて何があったか。正確なところはわかりません。 しかし、確かなこと。 そこは若い技術者だった父親にとって楽園だったこと。 この物語は楽園喪失をめぐる二つの物語であり、一つは現在の島の崩壊。 もう一つは父親もその一員であった博士を中心とした楽園であり、 その楽園から父親を追放したのは他ならぬピプル本人なのです。 愛していたから。 父親自体は楽園にずっといたかった。金などいらず研究できていれば良かった。 しかし、愛する妻とそのお腹にいた愛する息子、ピプルのために、博士と研究の成果を分け合うことを求めた。 結果、妻子を養う金を得られたが、研究室に止まることはできなくなってしまった。一緒にいるわけにはいかなくなった。 愛のため。楽園にいることはかなわなくなった。 それがピプルです。 ピプルに焼き付いた父親の暗い顔。 それは愛するもののために夢を閉ざさざるを得なかった、楽園を追放された男の顔です。 知らずして犯した罪。 原罪。 自分で知らずに、自分が生まれてきたことが罪であり、父親を苦しめ、少年時代のピプルに暗い影を投げかけ。 父親の死後も大学に行かせ、今の地位を築かせた。 そのことを博士もピプルも出会う前から知っていた。 二人はそのことを話しません。わかりきったことですから。 その話されなかったことを推理するのがこのミステリーです。 官僚機構は余計なことをやったとピプルに罪を転嫁するでしょう。 自分たちもただ先送りして事態を悪化させ解決する術を知らなかったにもかかわらず、自分たちの罪はほうりすて。 勝手に島にいったピプルが爆発させた。そうじゃなければ、うまく収拾することは可能だったhずだ。自分たちに罪はない。 ピプルは罪でない罪を引き受けさせられる。ピプルの将来は明るくありません。 しかし、ピプルはそれを受け入れます。そうするしか、罪を償うことはできませんから。 それが原罪なのですから。 知らずして犯した罪を償うために。犯したわけでない罪を引き受ける。 この話しはそういう悲しい運命を描く話しです。それを推理させるミステリーです。 父親のことを誰よりも愛していたピプル。その父親に哀しい顔をさせ、父親から運命を奪ってしまったもの。 それは他ならぬ自分であること。父親から愛されていたがゆえに、父親の夢も将来も奪ってしまった自分。 島に行く前から全てはわかっていて、それでもあえて島に行ったピプル。 全てはこの作品の書かれる前に終わっていたのです。 そのことを読み推理し理解する。本作はそういうミステリーなのです。 | ||||
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