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幻影城市



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【この小説が収録されている参考書籍】
幻影城市 (講談社文庫)

幻影城市の評価: 4.00/5点 レビュー 3件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.00pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(4pt)

なかなかの出来だが凝った工夫が活きたかどうか微妙

時は康徳九年、日本では昭和17年、ミッドウェー海戦敗北の寸前の六月二日。場所は新国家満州帝国の全く新しい首都の「新京」。建国十年を祝うために「五族協和、王道楽土、大東亜共栄圏」のスローガンが高く掲げられるなかで、満州映画協会の「東洋一」の映画スタジオが舞台。登場する主役の朝比奈英一は京都の名門出身だが慶應大学在学中に治安維持法違反で検挙され直ぐに転向して釈放・退学し、少年期に京都の映画撮影所で遊んだ経験から脚本家を志望して映画界に入ろうとして満州へ。

対するのは「小憎らしい、辛辣で、口の悪い、愛想なしだが、映画センスは抜群のドイツ帰りの若き」女流映画監督の桐谷サカエ、満映と言えば無論その理事長の甘粕正彦、関東大震災の際に無政府主義者の大杉栄と妻と甥を殺害した人物。さらには関東軍防疫給水部第731部隊長石井四郎軍医少将、「生まれつきの騒動者」とか「根っからのペテン師」と地元千葉で囁かれていたらしいが。英一の回りには満映脚本養成所の中国人学生の陳文、その妹で美貌の陳桂花、満映スタッフの山野井啓太、フィルム倉庫の管理人の老人渡口大学。無政府主義者とか抗日組織とか阿片販売の秘密組織とかも背後に蠢く。

英一と陳文と桂花の三人で『怪人二十面相』を叩き台に探偵物の映画シナリオを作ろうとするのだが・・・

プロローグで童謡をモチーフにした映画の脚本らしきものを<入り子式>に組み合わせた凝った工夫を見せたところはいいが果たして成功しただろうか、が評価のポイント。終章で「満洲国には国籍法がない。満州国民という存在は幻。日本人はあくまでも日本人。中国人はあくまでも中国人」と知られざる歴史を明らかにしているのだからもう少し物語の展開があってもよかったのではないか。
幻影城市 (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:幻影城市 (講談社文庫)より
4065132908
No.1:
(5pt)

タイトル通り、この小説自体が「幻影城市」

この作品は『楽園の蝶』という単行本を文庫化にあたり全面改稿したとオビにある。
単行本を読んでいないから、どこがどう変わったかは分からないが、スピード感のある展開で一気に読んだ。

タイトルの「幻影城市」は地元(満州)の人たちが、満映(満州映画協会)のことを呼ぶ呼び名のこと。
「そこでは見えているままのものは何ひとつない。すべてが見かけとは違う。すべてが欺瞞。すべてが幻。すべてが嘘ーー」そういう意味があるらしい。

とすると、このタイトルは正にこの作品そのままではないだろうか。
ミステリーならば当然だろうという人も多いかもしれないが、
よくあるようなオチもそこに至るまでの描写が秀逸なので、すごく腑に落ちた。
読んでいたはずの箇所、それがそのままということは決してないのである。

また、満映ときたならば当然の如く、甘粕正彦が早々に登場。
さらには731部隊の石井四郎もかなりの存在感を放つ。
柳作品には数多くの実在の人物が登場するが、今作でもその活写ぶりの見事さといったら素晴らしい。
どこまでが本当なのかーー。すべては嘘かもしれない。
そんな小説だからこそ描けたこの昏い世界観にどっぷりと嵌まってみるのもいいと思う。
そこから、満州が、そこに住んでいた人たちが辿った辛い歴史について学んでみようと思う人もいるかもしれない。

欺瞞や幻や嘘から始まる未来があっていい。
それこそが「小説」を読む楽しさのひとつであるはずだから。
幻影城市 (講談社文庫)Amazon書評・レビュー:幻影城市 (講談社文庫)より
4065132908

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