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宿屋めぐり
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宿屋めぐりの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.95pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全22件 21~22 2/2ページ
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以下、感じたこと、考えたことを脈絡なく書きたい。 主人公である鋤名彦名は、偽名を用いては、嘘に嘘の上塗りを繰り返す。太宰の短篇「誰」によれば、名前が多ければ多いほど、大悪党であるそうだ。この説にしたがえば、鋤名彦名は、大悪党であるらしい。 町田さんは、〈自分〉を〈自分〉たらしめているもの、自己を証明するものとは、いったい、なんであるか、ということをこの作品の中で問うているように、自分には見受けられた。 一般的には、たとえば、指紋やDNAなんかを、ある人をその人たらしめる決定的な証拠としているようである。しかし、芥川龍之介の小説「河童」の一節にあるように、たとえそれが同一人物であっても、たとえば、その人が独身者であったときと、妻帯者となったときとでは、彼の存在意義と言うべきか、彼が問われている役割は異なるのではないか。つまり、科学的に彼が彼であることを証拠立てるのは不可能であり、科学的に不可能である以上、彼を彼であると証拠立てるのは不可能なのではないか。 〈自分〉を〈自分〉たらしめている根源とは何であるのか。それは、不滅の魂なのだろうか。魂は、人の体を宿として、宿から宿へと経巡っていく。では、魂は、何を求めてさまようのか。宿? 宿命と言い、宿業、と言う。肉体に魂が宿ってこその命、ということか。魂が肉体に宿すのは、前世からの業、ということか。業、カルマ、カラマーゾフ、キリスト、救い、…… 鋤名彦名の主、彼の発する言葉は、イエス・キリストのそれと似通い、彼の行動は、旧約聖書の神のように恐ろしく、いや、どころか、その残虐性はやくざそのもの。彼は自身を諦めたもの、と言いい、鋤名彦名を諦めないもの、と呼んだ。前者は完成されたもの(あるいは、死んでしまったもの)であり、後者は未完成であるもの(あるいは、生き続けるもの)ではないか。 以上、思いついたことを書いた。〈自分〉とはいったい、誰なのか、とことん突き詰めて考えたい人に、おすすめの一冊だ。 附記。町田さんは、太宰治「人間失格」の一場面を意識していた可能性がある。「人間失格」で、葉蔵と堀木とが<対義語のあてっこ>をして遊ぶ場面だ。 (前略)/「君には、罪というものが、まるで興味ないらしいね」/「そりゃそうさ、お前のように、罪人では無いんだから。おれは道楽はしても、女を死なせたり、女から金を巻き上げたりなんかはしねえよ」(後略/引用は、青空文庫による) 葉蔵にとって、<罪>とは彼自身と切っても切り離せない概念であり、堀木にとっては、他所事のそれだった。このように、<対義語のあてっこ>を通して、その人がどんなことに心をとらわれているかを知ることが出来るらしい。町田さんは本作「宿屋めぐり」において、<対義語のあてっこ>を<しりとり>にメタモルフォーゼし、登場させたのではないか。<しりとり>を終えた鋤名彦名は分析を始める。 男がごく自然にすらすらと世界にある物の名を口にするのに比して俺はつまりにつまったあげく、この世にまったくないものや概念としてしか存在しない言葉をようよう口にするのであった。若い男の目は澄んでいた。(後略) <この世にまったくないものや概念としてしか存在しない言葉>しか搾り出せない鋤名彦名の心の荒廃ぶりを、巧みに表現した一節である、と言えるだろう。<若い男の目>が<澄んでいた>のは、<若い男の>心の清さの現われだろう。聖書の言葉を借りれば、目は体の明かりであり、目が暗ければ、心も暗いのである。 | ||||
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「パンク侍」→「告白」→「宿屋めぐり」と、魂への洞察力はより深く、今までに増してよりグダグダの町田節から時折放たれる真実真正の言葉は今までに増してより鋭さを増し、読了後は心にズシリと相当の手ごたえを感じること間違いなし。 「パンク侍」では、斜に構え偽をなす主人公、「告白」では、ある種の無垢さから運命に翻弄される主人公を見事に描き切りました。そして今作では「主」に怖れをなし忠義を図りながらも、その真意を汲み取ろうとするあまり自分を見失う主人公が登場します。人生とは、生きるとはどういうことなのか。最後には、作者ははっきりと一つの結論を「主」の口より語らせています。しかしそれをどう解釈するか、それはまさにこの602ページの物語を読んだあなたの人生そのものにより大きく異なるものとなるでしょう。主人公が「主」に試されるが如く、読者は作者に試されることになるでしょう。 僕はこの物語を、これから何年かおきに繰り返し読むことになると思います。傑作! | ||||
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