■スポンサードリンク
ドーン
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
ドーンの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.04pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全33件 21~33 2/2ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
この作家の作品は芥川賞の「日蝕」以来だが、今回の方がはるかに楽しめた。ところどころ、情景描写の重々しい文体が、近未来小説という軽い感じの設定と不釣り合いな感じだが、そのあたりは単なるSFミステリーじゃないんだという主張が出ているのかな、と思って読んだ。 ディヴィジュアリズムという人間のあり方が普通に受け入れられている社会が舞台になっている。ディヴィジュアリズムは考えてみればすでに自分たちの内面で起こっていることのように思うが、近未来にはそれが「主義」として表面化しているというわけだ。いくつものディヴィジュアルを使い分ける人物たちには何やら得体のしれない不気味さを感じるが、主人公とその妻はその流れについて行っていないようで、読んでいてほっとする。いくつものディヴィジュアルを使い分けるという発想は頭でわかっても、実際にそんなことができるほど少なくとも私は器用じゃない。 話の筋は、現代の国際情勢を風刺的・批判的に扱ったもので、決してコメディーではないのだが、わりと気楽に面白く読めた。それほど先の未来でもないので、かなり現実感がある。「無領土国家」がクレジット会社から発展しているとか、物語のかなり重要なエッセンスを「ウィキノベル」なる媒体に語らせるなど、なるほど、いかにもありそう、というアイデアが面白い。老いたブルース・スプリングスティーンが車椅子で登場する場面ではその様子を想像してちょっと笑ってしまった。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
SFっぽいネタ(人類初の火星探査。そこではやっぱりある問題が発生)や時事ネタ (未来のアメリカ大統領選、そこでも海外派兵が問題になっている)を盛り込みつつ その真は自分と他者との関係、それも人は相手によって自分を使い分けるという (著者の言葉を借りるなら「分人主義」)人の営みそのものを描いております。 先の点を横軸とするなら、縦軸には高度に進化したネット社会(此処では独立している 防犯カメラが、ネットにより有機的に結び付けられている)との関係を持って来ることで 他者との関係はどうなっていくのか・・・という点をより深く抉(えぐ)っています。 純文学に属する作家らしく、純文学が昔から考えていた、人の内面(含む他人との距離) については、著者なりの思考結果が述べられております。そこに文頭に書いたような 味付けを行うことで上質なエンタテインメントと純文学の並立、いや、純文学の正統進化と 言える一作を著者は作り上げてしまったのです。 映像化出来そうなくらい構築された世界に酔うも良し、著者と一緒に自分と他人との 関係について思索の旅に出るも良し、何度読み返しても飽きない面白さ(知的興奮)が 満載です。 その上、本文約500pというボリュームにも関わらず、ソフトカバー製本なので1,800円と いう財布に優しい価格です。文庫化を待って読み逃すのは勿体無い。 附:エンディングには救われました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
そうか、純文学なのか。近未来のアメリカが舞台のSFとして読んだが・・・。 設定が非常に精緻であり、その中に現代につながるキーワードをちりばめられており違和感無く世界観を堪能することができた。 東京では大震災があり、主人公明日人は息子を亡くしている。アメリカは大統領選の終盤に差し掛かっており、野党民主党は選挙で挽回を図るべく民間エージェントにキャンペーン映像を委託しているが芳しい出来にならない。そんな中、与党共和党が武力介入し泥沼となっている東アフリカで禁止されている生物兵器が使用され、あろうことか国内でもその被害が出ているとの情報が入ってきた。 巻き返しの切り札として情報収集を進めているうちに、有人火星探査「DAWN」との関係が次第に判明してきた。世界に公開されていないある事件とは?東アフリカとの関連は?大統領選との関連は? というお話。 プロットはしっかりしており、さらに表現に無駄が無い。舞台は近未来だが、人間のドラマがしっかりと描かれている。結末はやや物足りなさを感じたが自信を持ってお薦めできる作品である。 ひとつ難点を挙げれば、表紙のデザイン、なんとかならなかったのでしょうか? これじゃ、効果音ですよ・・・せっかく良い作品なのにこれで引く人もいるのでは。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
火星有人探査なんてSFはパス、という方もいるのではないかと思いますが、メインは「分人主義」。人は一個のアイデンティティのみで生きるのではなく、家族や職場、友達それぞれとの社会/人間関係で、異なった人格を使い分ける、というような考え方が「分人主義」で、この考え方をある程度社会的に受け入れた未来のアメリカが舞台です。テクノロジーを背景にした新しい人間認識!というところではフィリップ・K・ディック的な面白さがあり、思考実験を小説に結実させているところは高橋和巳を想起しました(古いか)。 理屈っぽいし、ガイジンがわんさか出てくるので、洋モノ推理小説の「主な登場人物」一覧が欲しくなる感じで、読みにくい本です。「分人主義」にある程度共感できなければ読み進むのはつらいかもしれませんが、アメリカ大統領選の話を軸に挿話をつなげ、そこそこ面白い話になっています。読む価値ありです。今後も平野啓一郎の作品は読みたいな、と思わされました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「ドーン」とは有人の火星探査船のことで、舞台は2033年からその帰還後、大統領選挙のアメリカ。主人公は探査船のクルーの日本人男性。凡人には想像ができない、緻密な時代設定と技術革新。近未来物語を単に楽しむだけでなく、著者の非凡な構築力と文才により人間の生きる道しるべを提示している作品だ。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
平野氏はデビュー作の「日食」以来注目していた。この「ドーン」は近未来、NASAが打ち上げたロケット内での人間模様を、現実のアメリカ大統領選や人種問題を絡めて描いた人間讃歌の作品である。平野氏の新境地を切り開く傑作と思う。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ひねくれ者から一言。 近未来SFの体裁をとっていますが、極めて単純なブッシュ(共和党)批判ですね。 それ自体は全くの「正論」で、私としても同感ではありますが、カルト宗教の信者に対して正気に戻れと説得するようにも見え、無力感は禁じ得ません。 右翼(的)ならざる日本人には受け入れられやすい内容で、エンターテインメントとしても一定の水準に達しており、感動的でもありますが、楽観的という誹りは免れないでしょう。 むしろ、翻訳して米国人にこそ読んでもらいたいと思いますが、村上春樹さんのように受け入れられるとは考えられません。 本書に限ったことではありませんが、散見される「ら抜き」等の文法的誤りは、校正者、編集者が正すべきです。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「1Q84」が携帯電話やネットのない時代を描いていたのと対照的に、ありとあらゆる未来のメディアが登場して、それはもう博覧会のよう。ただ、それは希望に満ち溢れた輝かしい世界のものではなく、現代にもあるメディアの負の要素を背負っている。彼ならではの想像力と取材力が駆使されていて、共著に続く「近未来メディア論」のような論文がこの本を元に簡単にできあがりそうなほど。 そんな贅沢な内容を、論文ではなく、最高のエンターテーメント小説にしたてたのがこの本。平野氏はオピニオンリーダーというだけではなく、間違いなく文学者。 候補者の言動に直前まで結果が左右されるアメリカの大統領選、そして誰もが心浮き立つ火星への宇宙旅行。こんな壮大な舞台が用意されているから、いっきに読めてしまう。 「私たちの側に立つのかテロリストの側に立つか」というブッシュ元大統領のセリフにカチンときた人には爽快な内容になっている。 では絶望的に提起された、自分自身と向き合うと、分化していく果てのない自分、そして夫婦間や親子のような最小の、核となる人間関係には、ここで夜明けが用意されているから、の続編として読まなければ、救われない。 1984年から今を見据えても、状況は一層困難に、複雑になっているだけで、夜明けは見えてこない。30才代・・・携帯やネットのある社会に違和感のない世代、進化していくメディアにそれでも明るい側面を見出そうとする世代には、ぜひこちらを薦めたい。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
このタイトルからオクタヴィア・バトラーの同名SF小説を思い出した。本書では様々な小説、映画などに少しずつ触れているので、もしかしたらバトラーの作品のオマージュにもなっているのか?とも思う。ただ、内容に関しては地球外が背景、そこで起きることに多少の共通項があるだけで、テーマなどは違う。本書では冒頭から不穏な過去が示唆され、それが次第に明らかにされていく。 本書のテーマは著者の造語の「分人主義(dividualism)」。個人は分人の集合という。時代はちょっと将来のアメリカ。2033年の「ミッション・トゥ・マーズ」が中心となる。主人公の佐野明日人(あすと)は息子の太陽を東京大震災で失くし、医者から宇宙飛行士に転職する。地球の人口が80億を超えたため、火星移住をにらんだミッションに加わったのだが、そのミッションである出来事が生じる。そのため、「ドーン」というこのミッションが過小評価されてしまった・・・。 それにしてもよくアメリカの現状などを反映させ、いかにもありそうな近未来(エコバブル、ウィキノヴェル、ニンジャ・マラリアなど)を巧みに作り上げている。以前、青木淳悟の小説がピンチョン的というのをどこかで読んだが、この『ドーン』の方が、舞台がアメリカなせいか、ピンチョン的、と感じた。現実の問題と架空の事件、男女の問題がうまく配分されている。でも一番印象に残ったのは、こうした未来でも人は物語を必要としているというところ。物語の形式は必ずしも小説、ではないかもしれないが、物語るという行為自体はなくなりそうにない。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
年齢が近い部分もありずっと期待させて頂いていた作家さんでした。 前作の決壊から今作は出版も早くどんな小説になるのか期待して読みましたが、想像以上に話しが面白く映画等を越え ページを終えるのがとても残念でした。今読まれるべき小説だと思うしなにか普遍的なものが誰の心にも届くのではないかと思います。そして平野さんの作家としての今後の活動がまたとても楽しみになりました。ありがとうございます。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
本書は、『日蝕』で芥川賞を受賞し、 最近は読書論など幅広い活動を行う著者による長編小説。 舞台は人類が火星に降り立った近未来。 東京大震災で、息子を失った宇宙飛行士を主人公に、 宇宙船クルーに沸き起こったスキャンダル 東アフリカで繰り広げられる戦闘 猛威を振るうなぞのウィルス そして、白熱するアメリカ大統領選挙― 一見、無関係に思われるそれぞれの事件が やがて大きなうねりとなり、人類の未来を変える様子を描きます。 物語そのものや入念な人物造形は言うまでもなく、 それにも劣らない本書の大きな魅力は、 領土を持たない国家「プラネット」 個人の人格を分割可能なものと考える分人主義 防犯カメラのネットワーク化と防犯率 ―など、現代を考える上でもとても示唆に富む思想や世界観。 これらがスリルと躍動感に満ちたストーリーが相まって とても読み応えのある作品となっています。 個人的に印象深かったのは、 現実さながら、両候補者による激しい討論や 入念なミーティングがなされる大統領選挙の様子。 選挙終盤には、とても象徴的なある人物まで登場し 思わずニヤリとしてしまいました 夫婦愛、国際政治、社会問題、そして人類の未来― さまざまなテーマを含みつつも エンターテイメント性を失わない本作。 著者のファンはもちろんのこと、 一人でも多くの方に読んでいただきたい著作です | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
前作「決壊」は確かに衝撃的だった。極々私的で非常に狭い世界観で完結する小説が多い中、積極的に社会とリンクし世界にメッセージを送ろうとする意欲が感じられ、なおかつ小説としての力を持った作品でもあった。 しかしその問題提起は、現代社会の有り様を反映して暗く絶望的な結末で読者の賛否を呼んだ。今作は、作者自らによる前作に対するアンサーと言える。 今作は海を越え、さらに宇宙に飛び出し、近未来が舞台である。特にアメリカの行く末が非常にリアルに語られ、人々を取り巻くテクノロジーや世界情勢が事細かに、且つ予言的に描かれている。 展開はオーソドックスで、今回も登場人物が類型的な面もあるが、前作以上に文体が読みやすく飽きさせない。しかも火星への有人探査に大統領選挙をからめた大きなスケールでありながら、テーマは徹底して個人の「愛」である。その個人の「愛」が結集して未来を変えてゆく奇跡が、他人同士である夫婦の結びつきとともに、説得力を持って読者の胸を打つのである。 ところで、時々説明的で長く読み取りづらい文章が出てくるが、かのノーベル賞作家に似ている気がしない? | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
まさに衝撃的な作品でした。 読んでいて現実と仮想、過去と現在と未来を行き来している感覚に襲われます。 はたして、自分が生きている今の時代とはどういう時代なのかを、この小説によって 深く考えさせられました。 時代は、2033年。今から24年後の近未来。コンタクトレンズ型モニター、AR(添加現実)、散影、ディビジュアル などなど この小説には、人類の進化によってもたらされたさまざまなツール、考え方が登場します。しかし、決して荒唐無稽な話には感じず、まさに24年後には存在していそうなものばかりで、最初聞きなれなかった言葉も、次第にリアリィティを増していき、この小説のうみだすうねりにのまれていきます。 さらに、テロ、大国アメリカ、ジョージ.W.ブッシュ、大量破壊兵器、情報操作、金融危機、GM破綻、NASA、JAXA、人種差別、同性愛問題、人工中絶問題、エコバブル、水、食糧の不足、燃料資源の枯渇、、など、まさに現代の私たちが直面している様々な問題が、平野氏の筆力によって核心に迫っており、未来を通して、現代の地球、そして自分のいきる日本について考えさせられます。 ただ、複雑な問題を扱っている小説の反面、すごく単純なひとひとのつながりの大切さ、 今の時代にあっても変わらぬものを、この小説「ドーン」を通して強く感じることができました。 「自分の好きなことを一生懸命にがんばる。うまくいかない時には助けあう。この二つのことだけは、どうか、忘れないでください。」(本文P.9) すてきなひとは、いつの時代もいる。 時空を超えて、そうこころに語りかけてくれるこのやさしい小説にはげまされ 今年の初夏を迎えれてうれしいです。 追伸:出版社の方、ぜひ、この「ドーン」を海をこえ、世界で出版していただければ 幸いです。種種の問題をとびこえて、世界中のかたに読んでいただきたい と純粋に思います。 2009 at Karuizawa Pioneer man | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!