怒り

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怒りの評価:

3.68/5点 レビュー 203件。 A ランク

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平均点3.68pt

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全405件 401〜405 21/21ページ
No.5
(5pt)

怒り

ある人を疑っていると言うときは、その人を信じているとき。ある人を信じたいと願うときは、その人を疑っているとき。
信頼と疑念が打ち消し合ってゼロになったときに、はじめて人が人を受けいれている関係と言えるのだろう。たとえば
母と娘、母と息子、そして父と娘。この小説に出てくる親と子の間にはことさらの信頼や疑念はなく、わからないことは
わからないままに。言われないことは聞かないままに。自分の親、自分の子供。そこには良くも悪くも確固たるメタがある。(それが故に
悲劇が起こることも往々にしてあると思うが)対照的に、他人との関係をそういった関係に昇華させることは難しい。
特に、メタの不確定な人間が現れたときに、人は不安、恐怖を感じる。
その相手の本質に対して、愛があり、期待がある場合はなおさらその不安や恐怖は大きくなる。故にメタを自分の思うように一致させようとする。
結果、「一致させたい」と思う感情に支配され、相手の本質が見えなくなっていく。そんな人間の有り様を吉田修一は書いているのであって
事件そのものは装置でしかない。そう感じた。
また、彼の筆致にはそういった人間のパラドキシカルな行動、心理に対して、全くジャッジがない。それもまたこの小説の秀逸なところだと感じた。
怒り(上) (中公文庫) Amazon書評・レビュー: 怒り(上) (中公文庫)より
4122062136
No.4
(4pt)

「吉田修一の新たな代表作」と言えるだろうか

殺人現場に残された「怒」の血文字。犯人・山神一也を警察が追うが、彼は顔を整形して逃げていることが判明する。事件から1年後に物語は始まる。世田谷に住むゲイの前に現れた男。房総の浜崎の父娘に近づく男。沖縄の離島に流れ着いた男。3人の男はいずれも前歴を隠してひっそりと生きている。まわりは彼らを受け入れて新しい生活を始めようとする。しかし、懸命の捜査が山神を一歩一歩追い詰めていく。上巻は犯人らしい男とそのまわりの人々を描く。下巻は、「男」を信じるか、疑うか、まわりの者が葛藤する様を描き、意外な結末へと進む。

実際の事件を彷彿させる犯罪を主軸に据えて、ワーキングプア、性的少数者、沖縄問題、闇金融など現代のトピックが扱われる。しかし、作者の狙いはそこにはない。犯人探しと動機の究明を主題としていない。「怒」の血文字の意味も最後まで明らかにされない。つまり吉田修一氏はミステリーを書こうとはしていないのだ。彼が執拗にこだわるのは、その男を信じたいのだが信じきれないというまわりの人間の葛藤であり、人間の弱さである。だから人間の怖さと優しさ、信頼と裏切りが描かれる。犯人かもしれない男をめぐって揺れ動く心理を克明に記していく。タイトルの「怒り」とは犯人ばかりか、普通の人間も心の奥に秘めている「怒り」ではないのか。読み終わってそんな思いにとらわれた。

帯に「『悪人』から7年、吉田修一の新たな代表作」とある。吉田修一氏はこの7年間に「静かな爆弾」「さよなら渓谷」「横道世之介」「路」「愛に乱暴」と優れた著作を送り出してきた。いずれも佳作であったと思う。しかし、私はどの作品からも「悪人」のヒリヒリと胸が痛むような焦燥感は得られなかった。作者の「これを書かずにはおれない」との切羽詰った意気込みを感じ取ることは出来なかった。本作品にはいくつもの新しい試みが施されており、厚みのある小説に仕上がっているが、「悪人」に並ぶ傑作と呼ぶには足りないのではないか。私の吉田修一氏への期待は高いのである。
怒り(上) (中公文庫) Amazon書評・レビュー: 怒り(上) (中公文庫)より
4122062136
No.3
(5pt)

描かれていないストーリーの予感を与える意欲作。

意欲作であると思いました。ネタバレになってはいけないので詳しくは書けませんが、ある凶悪な殺人事件のために、ここに描かれた人びと以外にもいくつか同様の事柄が起きていたのではないかと読者に感じさせるところが、この作品の最も特筆すべき点ではないかと思います。様々な生が丹念に描かれ、リアリティがあるため、小説に描かれた事象は一部であり、描かれていない人物やストーリーが同じようなかたちで他にも存在したのではと感じさせてくれるのです。気になる点としては、仮に閉じた店舗等であっても検索にまったくかからないことはほぼ有り得ないので、そこは違和感がありました。誰のブログ等にも出ておらず、キャッシュにも残ってないというのは考えにくいです。しかし、これもリアル感のある小説だからこそ感じられたことかもしれません。
怒り(上) (中公文庫) Amazon書評・レビュー: 怒り(上) (中公文庫)より
4122062136
No.2
(5pt)

普通のエンタメ小説ではない。

殺人を犯し、整形をして逃げる犯人の男といえば、誰もが実際に起きた事件の容疑者を思い浮かべるだろう。
沖縄の離島や、千葉の漁港で働き、はたまたゲイの居候をしていたと聞けば、より上記の事件の犯人の足取りと結びつく。
殺害現場に残された怒りの文字。犯人は怒りを体現し、それを示したかったのか、それとも何か別の理由があるのか。
この三人の男たちは同一人物なのだろうか。「怒り」はどこにあるのか?
読み終えて最初に思ったのは、ある意味で肩透かしの部分はあるし、掘り下げるべきテーマがもっとあったのではないかということだった。
しかし、それをやってしまえば他のエンタメ小説と変わらないし、作者が書きたかったのは、ワーキングプアの実態とか同性愛者の差別とか、そんな世俗的なものではないと思い直した。
誰の心にも潜み、そして時折抑えられない衝動として湧き上がる、怒り。
けれど、それさえも本当のテーマではない。激しい怒りのあとに訪れる虚しさや哀しみ、そして虚無。
ラストには救いがある。同じく、救いはない。
怒り(上) Amazon書評・レビュー: 怒り(上)より
4120045862
No.1
(5pt)

普通のエンタメ小説ではない。

殺人を犯し、整形をして逃げる犯人の男といえば、誰もが実際に起きた事件の容疑者を思い浮かべるだろう。
沖縄の離島や、千葉の漁港で働き、はたまたゲイの居候をしていたと聞けば、より上記の事件の犯人の足取りと結びつく。
殺害現場に残された怒りの文字。犯人は怒りを体現し、それを示したかったのか、それとも何か別の理由があるのか。
この三人の男たちは同一人物なのだろうか。「怒り」はどこにあるのか?
読み終えて最初に思ったのは、ある意味で肩透かしの部分はあるし、掘り下げるべきテーマがもっとあったのではないかということだった。
しかし、それをやってしまえば他のエンタメ小説と変わらないし、作者が書きたかったのは、ワーキングプアの実態とか同性愛者の差別とか、そんな世俗的なものではないと思い直した。
誰の心にも潜み、そして時折抑えられない衝動として湧き上がる、怒り。
けれど、それさえも本当のテーマではない。激しい怒りのあとに訪れる虚しさや哀しみ、そして虚無。
ラストには救いがある。同じく、救いはない。
怒り(上) (中公文庫) Amazon書評・レビュー: 怒り(上) (中公文庫)より
4122062136