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オラクル・ナイト



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【この小説が収録されている参考書籍】
オラクル・ナイト
オラクル・ナイト (新潮文庫)

オラクル・ナイトの評価: 4.22/5点 レビュー 18件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.22pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全18件 1~18 1/1ページ
No.18:
(5pt)

Austerが楽しめる作家だと知って………

Paul Auster(1947~)の著作を読むのは、本当に何年ぶりだろうか。以前読んだことがあるのは「Sunset Park」なのだが、それほど楽しむことができなかったことだけよく憶えている。そのためか、幾冊かあったAusterの本も、大分後回しになってしまった。だがそれは、幸福であったかもしれない。というのも、Austerが非常に楽しめる作家であることが分かったからである。

この作品は、2003年に発表されたそうだから、Austerが56歳になる年のことである。作品は、Frame Story(入れ子式)という方式を採用している。このFrame Storyで有名な小説は多くあるのだろうが、最近読んだ小説ではAnthony Horowitzの「Magpie Murders」(カササギ殺人事件)がこの技術を採用していたっけ。話は楽しめるのだが、登場人物が多くなる傾向があり、読者はやや混乱させられてしまう。けれども作家にとっては自分は楽しめるし、腕の見せ所というところなのかもしれない。

病み上がりのSidney OrrはNew York在住の作家だが、病み上がりで本格的な著作活動を再開していない。そんな彼がふと訪ねたのが、「Paper Palace」というChangという中国人が経営する文房具店だった。Sidneyはここで、ポルトガル製の青いノートを5ドルで購入して著作を再開する。そしてその青いノートは、Sidneyに著作の喜びを再び与えてくれるのだが、一方でSidneyと妻のGraceに多くの事件を巻き起こす。そして、Graceの旧友である著名な作家であるJohnも巻き込んでいく。

Austerはいろいろなエピソードを持ち込んでくるのだが、1981年にカンザス・シティで起こったHyatt Regency Hotelの話は、なかなか衝撃的であった。ダンス・コンサートが開かれていた同ホテルで、2階と4階にあった空中通路が崩落して114人もの命が失われたのである。またAusterがユダヤ人であることもあり、ホロコーストのエピソードも語られている。死んだ乳児を抱えた母親が、その子のためにミルクを求めるという姿はなかなか凄絶な描写である。

200ページくらいの作品なので、それほど労力をつぎ込まなくとも読める分量である。また語彙もさほど、難しいものはない。Austerも、もっと早く読んでおけばよかった、と悔いる次第である。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.17:
(4pt)

作中の作品の秀逸

マトリューシカみたいに、作家の作者が、小説を書いている。その作品がどきどきするような面白さ。

少し悲しく少しハッピーなエンディング。とにかく面白かった‼️
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4102451161
No.16:
(5pt)

読みたくないけれど、読みたくなる

久しぶりのポール・オースター。
よくもここまで残酷なことを思いつくものです。
残酷なので、目を背けてしまう気持ちと、読み進めたい気持ちが共存します。
物語のなかにいくつかの物語があり、こんがらがってしまいそうです。
注意深く読んでみてください。
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4102451161
No.15:
(5pt)

いつものオースター、しかし

ニューヨーク三部作、偶然の音楽など、いつものオースターの作品の特徴があり、安心して読めます。また、『実際の』登場人物も限られてるので何重にも折り重なる話も初めての方でも理解しやすいと思います。喪失と、再生その辺りに興味のある方は是非…。マルタの鷹も改めて読み直してしまいました
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.14:
(5pt)

繋がったり切れたりしながら、何かを感じ取って次に進む。

劇中劇とか小説内小説とかは時々出会うけれど、小説内小説内小説というのは本作が初めて(、たぶん)。
加えて、小説内シナリオ(のあらすじ)も出てくるし、もちろん登場人物たちのエピソードもある。
でも、それらの入り混じりによって読む側を幻惑させるとか新たなる言語世界を構築するとかいった手合いの小説ではない。

誰もが自分の中にいろんな物語を持ち、その物語から触発された物語を語ることもあるだろう、そんな感じ。
『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』を思い出したりもする。

ま、とにかく、いろんな話が出てくる。でも、ではそれぞれの話がまとまるなりオチがつくなりするのかというと、そうでもない。
世の中そんな風には出来ていませんよね。

人は人と接していろいろなことを感じるけれど一部分しか見ていないわけだし、それにより時に激昂したりふさぎ込んだりしたりもするけれど、全てがわかってのことではない。

しかし、一方でそこに愛やら平和やら希望も感じる。
不思議なもんだな、人って。
繋がったり切れたりしながら、何かを感じ取って次に進む。

とても読みやすい物語なのだけれど、いろいろと考えさせられてしまった。
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4102451161
No.13:
(5pt)

読み終えた後、涙する事の贅沢さ

"上質な室内楽の魅力がある”と柴田氏が評するように、この本は、全く"手の込んだ弦楽四重奏”である。破壊と回復の物語が何層にも重なり合い、"パズル的な面白さ”が万遍なく行き渡り、それらを上手くまとめ上げるオースターの手腕には全く脱帽する。
 物語の中に物語が組み込まれ、複雑多岐に渡る展開の中にも、多彩な技巧を暗に見せつけ、常に主人公のシドニー・オアの無垢で等身大の視点で語られる技法は流石である。頭の中で次々と起こりうる様々な"思念や種々の錯綜をそのままの形で再現した”このシドニー・オア物語は、脳内に蜂の巣のように入り組んだシナプス回路の構造とよく似てる。物語も細胞も破壊される事で新たに再生されるのだ。これこそが柴田氏がいう"上質の脳内リアリズム”という事になろう。
 物語の中に物語を創り、更にその物語を破滅させては再構築する。人は自分の物語と他人の物語を同時に構築し、進行させ、それぞれの物語を修正しながら、現実と虚構の錯綜した不条理な世界に身を浸していく。溢れんばかりの想像力と無尽蔵にも思える創造力に任せ、次々と登場人物に見合った物語を展開しては、自分の物語の中に織り込んでしまう。
 柴田氏が言うこの"物語内物語”は自分と世界を巡る幾つもの物語を更新し続けるとしてる。そのおぼろげで抽象的な展開の中にも、愛というものが中心軸となり、しっかりとオースター・ワールドを支え続ける。
 思いは現実であり、その思いの中に未来は存在する。思いは言葉になり、言葉は書かれる事で、未来を描く。つまり、言葉は書かれる事で物語を引き起こすのだ。この本の一番のテーマはこの"書く"という事だろう。事実、シドニー・オアが青いノートに書いた事が次々と現実になる。書く事で物語が未来が動き出す。彼は自分が描いた物語を受け容れる事が出来ず、青いノートを破り捨ててしまう。それでも、物語は止まらない。最後には彼も涙と共に、自分の書いた物語を受け入れてしまう。これほどの贅沢が何処にあろうか。オースターは"慰めも哀しみも超えた、世界のあらゆる醜さと美しさを超えた幸福感"と締めくくる。
 まさに、この本こそが豊穣な涙する野趣豊かな物語の詰合せであろう。いつまでも上質さを失わない彼の作品に触れるたび、これ以上の贅沢が何処にあろうか。熟成されたワインというより、野趣雑多な気質を持つバーボンの底知れない芳醇なる香りが漂ってきそうだ。
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4105217143
No.12:
(5pt)

重層的な物語

オースター作品に特有の劇中劇である。最初のうちはやや静かに始まったが、読み進むうちにどんどん引き込まれ、一気に読みきった。
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4102451161
No.11:
(5pt)

オラクル 思いつくままに・・・・・

で、「オラクル・ナイト」はどうなったの?っていう感じの結果オーライ的な「愛」の物語。オースターのストーリーテリングの巧さはさすがで、冒頭からぐいぐいと物語世界に引き込まれてしまう。
 で、いきなり読者は突き放される。
 〇〇に閉じ込められて・・・・・っていうとこまではいいけど、その先、どうやって、話しを展開していいのやらわからなくなったのか、「はい、ここまで!」って、感じで、とりあえず、この話はお・し・ま・い・・・・・にしてしまう潔さ。このあたり、「なんでやねん!」って感じ。

 リリースされたのが2003年で、これより後に出たスティーブン・キングのJFK暗殺ネタのモノと「ありゃりゃあ!いっしょ?」って感じのシーンもあるけど・・・・・・・さあ、読者は嬉しいやら、恥ずかしいやらで、興味津々。
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No.10:
(2pt)

上等な室内楽のようなラブストーリー(帯の言葉より)だと?

文具本で紹介されてるのを見て興味をもってしまったものの…
いやぁそんな記事読み飛ばせば良かった。
キーアイテムの”青いノート”を模した想定は、ちょっと期待させるものがあったんですけれど……。

作中作がバンバン出てくる中盤まではそれなりに面白かったんだけど、
それ以降の、負のジェットコースター展開はなんざましょ?

たまたま何発か本が当たった才能ない作家様(読む内だんだん嫌いになる)と
結局肉欲の奴隷でしかないその妻とのボタンを掛け違った日々。
これが上質というものなのか。

もし自分が件の文具屋だったとしても、シドニーには2冊めのノートを売らないね。
10ドル置いてくからだと?察しろよ。

というか、私は作中の”ニックのストーリー”を完結させて欲しかったですわ。
まぁ、あの状態で未完であることがストーリー上重要ってコトなんでしょうけどね。
当人の未来を示唆するモノとして。

最後に、”斬新だなぁ”と思った2点をあげて終わります。
・作中作中作から来てる本書の題名
・あり得ない程長い注釈
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4105217143
No.9:
(4pt)

上質な愛と不思議な雰囲気の物語

現実、物語の中、と複雑な構成だが優れた筆致に引き込まれる。ショッキングな結末も興味深い。
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4105217143
No.8:
(5pt)

間違ってるかもしれないが。

本書が本国アメリカで出版されたのが2004年の11月。
その頃、アメリカはどういった状態だったのか。

本書のテーマはズバリ、「罪」と「罪を犯した者への許し」であると思う。

神秘と謎を象徴させる東洋人から入手した青いノートは作家に強烈なインスピレーションを与え、
物語を次々と生み出させる。しかし、その神秘はいつまでもは続かない。やがて、青いノートが
生み出した物語は永遠に未完のまま終焉を迎える。

現実では、「ありきたりな」物語が進行する。まるで昼ドラマのような展開の物語が。

贖罪をテーマにしながら、主人公の友人の葬式が展開されるとき、「神を信じている者は誰もいなかった」
と、宗教をバッサリ切って捨てているところに作家P・オースターの「良心」を感じる(その当時のアメリカ
を思えば...)。

そして、「他者の罪をいつまでも許さない者」あるいは「罪を罪とも思わない者」の末路がどうなるのかも
この「物語」では「語られている」。

複雑な構成を持ちながら、物語のメッセージそのものは「熱い」何かを感じる。
そして、そのような「良心」が健在するアメリカという国の大きさを感じる。

神秘。才能。インスピレーション。それよりももっと大切なコト、「騙る」ことではなく、
「語る」こと、あるいは「語られずにはいられないこと」

作家、オースターはその当時そんな思いで本書を上梓したのではないか。
そんな気がしてならない。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.7:
(4pt)

オラクルナイトを旅して見た夢・・・ちょっぴりネタバレも含みます。

彼の小説の中には、物語の主観の中に文字通り本や映画として別の物語が登場することが多いです。この「オラクルナイト」でも、小説内物語が複数登場して併行しながら進んでいくのですが、それら別々の物語の中のいくつかのエピソードが、主人公の病み上がりの作家シドニー・オアの現実にいつの間にか重なっていき、まるでそれぞれの物語には初めから境目など存在しなかったかのように溶け合った・・・読む側としては幻惑されたのような感覚を覚えます。

人にはそれぞれの主観があって、その中で出来事は途切れなく続き、その途切れのない経験がそのまま「人生」という自分個有の意識に記録される時間となっていくわけですが、そこにはいつでも他者というものの存在もあって、その他者がやはり持っている主観の中にも自分というものが生きていて、それは自分が感覚しているストーリーとは微妙に、あるいは全く異なっていることだってあるかもしれません。自分の意識の中の自身が現実であることを疑わないの同じく、他者の意識の中に生きている自分も確かに現実であり・・・そうすると、ひとりの人間は複数の、じつは関わりのある人の数と同じほど幾つものストーリーの中で、独自の存在と役柄を演じ、かつ互いに影響の波を受け合いながら変化し続けているとも言えそうです。

そのすべてを把握して生きている人なんて多分この世にはいないし、そんな必要はもとよりないのですが、でもそれだけ幾つものストーリーの中に異なった自分の姿というものが演じられているのだとすれば、それを意識すること(つまりは時に客観的な視点を掘り起こすこと)は、自分という現実について、ある種の「慎み」(自分の限界を適度に認めることという意味で)を思い起こすことにもなり、完全に把握できるはずもないそれぞれの現実を踏まえて互いを許容し合う柔軟さにつながっていくことにもなると思いました。

「オラクルナイト」では、シドニー・オアが病後の散歩というごくありふれた自分の現実の中で見つけた、奇妙な文房具屋で買った青い表紙の不思議なノートに、ダシール・ハメットの小説の中の一場面をさらに広げて物語を構築して書きはじめるのですが、かつて語られ止まったままだった物語が動き出す場面に、僕はまるで突然生を受けて動き始めた絵画を見るように惹きつけられました。その瞬間、小説内物語の主人公で、今までを捨てて一気に人生を転換していくことを選んだニック・ボウエンは生きた存在となり、意図せず彼をその方向へと誘った(シドニーが魅力的な自分の妻の名を付して登場させた)グレース、そして既にこの世にはいない作家シルヴィア・マクスウェルもその著作「オラクルナイト」も、僕の中ではこの世界の何処にもないとは言い切れない・・・そんなリアリティを帯びはじめ、逆に、シドニー・オアにとっては紛れもなく現実の存在であり、最も把握し理解しあっていたはずの妻グレースは突然謎めいていき、彼ら夫婦の善き理解者であり親友である先輩作家ジョン・トラウズとの関わりには、これまでは見えなかった側面を感じるようになっていきます。

物語の主人公もその周辺の人々も、物語の中の主人公やその登場人物も、それぞれに直面する現実というものがあり、それらは現実・架空の境を越えて互いに符合し合い、いつしか示唆とも言える意味を醸しはじめ、この本の主人公であるシドニー・オアの人生に収束していくのですが、読み終えて感じるのは、実はこの世界というものはとても錯綜していて、でもその中の一見無関係の事々同士の関連を抽出していくと、そこには人間の想いから放たれた言葉や物語がいくつも伏線として潜んでいて、もしかしたらこの世界はそうやって形創られて(物語られて)いるのかもしれない・・・などと感じてきます。

ポール・オースターのこの小説から僕が感じる味わい深さは、物語の中に登場する幾つものイメージが、手にしたパズルのピースを考えも無しにはめ込んでみたところ、実はそこがそのピースの本来の場所であることを周りのイメージによって予め示唆されていたことに、はめ込んだ後になって初めて気づいたかのような驚きや痛快さであったり、二度と取り戻せない喪失への気づきであったり、涙がこぼれるほどの懐かしさや安堵であったり・・・そんな幾つもの心当たりを主人公とともに辿りながら、迷い、そして見出し、辿り着いていく感覚です。現実というものが何処から発生し、いつから形を成して現実とみなされるに至るのか?それはいつでも謎のままですが、もしかしたら、人が想い描けることのすべてはいつしか現実となって本当に姿を現すか、既に何処かに在るのかもしれない・・・なんて思わせてくれる読後感は、実はかなり真実に近いものを示唆しているような気がする・・・そんな風に思いながら読んでみると、ますますおもしろい物語かもしれません。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.6:
(3pt)

面白いことはおもしろいが。

ポール・オースターの翻訳版としては最新の本作。う〜ん・・・。人気作家なのにレビューが少ないですな。僕は本書の前に『鍵のかかった部屋』を読み、著者の自画像がぐんと押し出されたリアリズム作品に「ポール・オースターの素顔が見れたな」という印象を新たにしたばかりだ。で、本作なのだが、多彩なモチーフを持ち込み話を展開していくストーリーテラーとしての実力は認める。だが、他レビュアー氏の指摘にあるよう、表現したい切実さがどうも薄い印象をぬぐえない。それとともに物語内物語の構造を中心とした設計でネタを盛り込み過ぎ、どうも作品の『中心部』--(テーマといってもいい)--が、がしっとつかめなかった。本作の前に描かれた『幻影の書 (新潮文庫)』はあれだけメイン・モチーフが明確で傑作と呼んでいい完成度と著者のコアの熱さがあふれでていたのだが、どうも本作ではそれが弱い。面白いことはおもしろいのだが、そこだけが残念だ。
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4105217143
No.5:
(5pt)

未熟/未完であるということは、生きているということなんだ。

作者の他の作品と同じように、「書くこと」に対する愛情、偶然が人生を半ば必然的に作り出していく運命、といったものが編み込まれた小説である。

 本書では幾つものストーリー(小説や脚本)が語られるのだが、全てそれらの扱いは未完で熟しておらず、中途半端である。他のレビューの方々の意見を見る限り、この中途半端さが気持ち悪い方もいたようだが、様々なストーリーや謎の断片がキラキラと舞いながら一つの時間の流れに沿って本書のラストに連なっていくこの小説世界は、作家という生き物が小説を書くという創作過程の営みそのものを表していると同時に、生きている人間の精神の流れそのものを表しているのだと思う。一つ一つのストーリー/イメージは未完成だが、各々が部分(パート)として全体の時間の流れを構成した時に一つのストーリー/主人公の人生を構成する様は、確かに作家自身が本書を弦楽四重奏に喩えただけのことはあるだろう。

 さて、主人公がラストで受け入れるキツイ物語も未完なのだが、この小説自体が回想仕立てだということを前提とするなら、主人公の人生は本書のラスト以降も続いたということである。生きている限り、ストーリー/人生は未完なのであり、そして、そのように運命が開かれているということ自体がポジティブであり得る。全ての生きている人々に当て嵌まるこのメッセージは僕にとって温かかった。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.4:
(3pt)

それぞれの物語

赤には愛と憎しみ、青には忠誠と憂鬱、色にさまざまな暗喩があるように、人にもそれぞれの物語があり、それらが偶然出会うことでさらなる物語が生まれる。オースターお得意の偶然の物語を、詳細な注釈や小説内小説でさらに深く掘り下げた一品。

とはいえ話の支柱になる部分と顛末に、小説の半ばで感づいてしまったのが痛かった。引き込まれる語りの持ち主なので退屈はしないものの、ストーリー自体はありがちなものだったので、読み終えたときに冷めてしまっていたのがもったいない。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.3:
(3pt)

物語四重奏

ポールオースターの新作(原書は2003年なのでずいぶん時間は経っていますが)。

80年代のNYを舞台にした作家の物語。それに、著者得意の物語の中の物語3つが絡む、
ややっこしい話です。奇想天外な話(『ミスター・ヴァーティゴ』みたいな話も好
きなのですが)はないけどどれもなんとなくありそうな話。それが複雑に絡むとこ
ろは著者の真骨頂でしょう。

物語がクロスするのでちょっと判りづらいかも。これを原文で読むのは僕の英語力
では厳しそうです。それでも、スケールは小さい目だけど良くできた物語です。

「想いは現実なんだ」
「言葉は現実なんだ」
著者の言葉を大事にする姿勢を感じる本でした。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.2:
(4pt)

最後まで女性が本心を明かさない愛の形が如何にも著者らしいなと感じました。

前作「幻影の書」の翌年に書かれた邦訳としては2年振りとなる米国文学作家オースターのファンにとって待望久しい新作長編小説です。本書をジャンル分けすると大きくは幻想ファンタジー風のラヴ・ストーリーで、そこにミステリー・時間旅行SF・政治小説の要素が物語内物語として詰め込まれた構造になっていると思います。物語の出だしが主人公である作家シドニー・オアの病気からの回復の場面ですので、彼の一度下降した運気が再び上昇に転ずる明るい展開のストーリーを予想しますが、そこは著者の芸風でやはり一筋縄では行かず次第に雲行きが怪しくなり俄然翳りを帯びて来ます。
長い闘病生活を終え退院した私は何とか夏を乗り切り、或る9月の朝に散歩して偶然見つけた文房具店「ペーパー・パレス」に立ち寄って中国人店主のチャン氏と親しくなりふと目に留めたポルトガル製の青いノートを買って帰る。帰宅した彼はかねてより友人の作家トラウズから勧められていた「マルタの鷹」の作中エピソードをモデルにした物語の構想を練って早速青いノートに書き込んでゆく。やがて彼の元にウェルズの「タイム・マシン」を下敷きにした映画シナリオ執筆の話が舞い込む等仕事も軌道に乗りかけ順調に思えたが、その頃から今までずっと彼を支えてくれた最愛の妻グレースの様子がおかしい事に気づき始める。
まず本作の物語内物語については即興的で軽い内容である点が一番良いと思います。時間旅行SFと政治小説は単純過ぎてイマイチでしたが、架空の小説「オラクル・ナイト」が出て来る最初の話は波瀾万丈でスリルに溢れ大いに楽しめました。唯一心残りに思うのはこの物語が未完である事で続きが気になって仕方ないのに読めないのが非常に残念です。また、別の部分で最初の方に出て来る、ナチスドイツの被害者女性と現代社会の街娼の赤ん坊に対する心情を対比させたエピソードが強烈に心に刻まれました。さて、本書にはさまざまな読み所満載ですが、やはり一番の肝はグレースの心理の謎の部分でしょう。けれど著者はミステリーを書く事を意図されておらず、本書で明かされる真相も勘の鋭い読者ならば事前に察せられる内容だと思います。私が謎の部分よりも注目するのは、最後まで女性が本心を明かさない愛の形が描かれている点で、素直に打ち明けずに神秘性を残したままでそれでもお互いに愛し続ける姿が著者の考える理想の愛なのではないかと想像します。本書にもやはり後半に著者らしい悲劇が雪崩れの様に襲い掛かるストーリーが描かれますが、今回は幸い最悪には至らせず望みを残すのが前作とは違う光明だと言えるでしょう。やはりよく考えると、この暗い陰りを帯びた悲劇性こそが著者の持ち味であり、単純なハッピーエンドではオースターの良さがなくなってしまうのも事実だと思います。前作から本書への流れの中で著者は自身が追い求める理想の愛の形へと更に近づいていると感じますので、今後の作品がどう変わって行くのか興味深く読み続けたいと思います。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143
No.1:
(4pt)

語られねばならない必然性が薄くなったとおもいます。

”偶然の音楽”(1990)以前の作品に強く感じられた、語られなばならない必然性が、本作品でも、やはり薄いままであることがとてもきがかりです。たしかに本作品”オラクルナイト”は、まずストーリーテリング的に読者はぐいぐいと引き込まれていきます。物語の中に物語を持ち、またその物語のなかに、別の物語が始まり、自分を見ている自分があり、またその自分を見ている自分が、というポールオースター得意の展開の元に、さまざまなエピソードが語られます。地下室の電話帳図書館(村上春樹のピンボールの集められた元養鶏場をすこし連想させます)、死んだ赤子を抱えた収容所の女性の話、3Dビュワをみてしくしく泣く男の話、豹変激怒する怪しげな中国文房具店主、タクシーの中でいつもと様子の異なる自分の妻、これら連鎖のみえない各イメージ、各エピソード、各事象が、すべて最後の結末に収斂していく様は、さすがというわざるを得ません。
 しかし、この本は、ミステリーではないし、ポールオースターの本を手にする人は、ミステリー好きかもしれないが、ミステリーを期待して本を手にするわけではないと思います。おそらく詩人であるポールオースターだからこそ持ちえた、多義的なイメージ、連想の連鎖を触発するエピソードの集合と、それらを次々に紡ぎだし、読者の前に提供するストーリーのおおきな流れ(それは、ひょっとしてある種の”力”?)に、ひきよせられるようにして、本を手に取るのだと思います。冒頭のべたエピソードの語られねばならない必然性 − おそらく彼がどうしてもどうしてもそれを書かねばならないという内的必然性のようなもの − こそが、このような形態をとって、読者に提供されるのであると思うのですが、肝心のその語られねばならない内的必然性が薄くなってきているのかもしれません。
 ストーリの力は、強くたくみになってきているので、読まされてしますし、おのおののエピソードもよくできているのですが、そのエピソード自体の力が弱くなってきているのでしょうか。”鍵のかかった部屋”で、姿を消したファンショーという友人の残した作品のことを編集者が言います。”不思議な作品だ、今までに一度も体験したことのない。おそらくひと時もその作品が頭から離れていないんだろう。普段の生活のなんでもない瞬間に思い出す。ベッドで寝がりを打った時、ふと誰かに呼び止められた時。”
 そのような強烈な体験が、リヴァイアサン後のポールオースターの作品からは、すくなくとも個人的には少なくなってしまいました。残念に思います。
 けれども、本としては、良い本だと思います。少なくとも、いろいろなことを読者に考えさせてしまう本です。読むことをお勧めします。
オラクル・ナイトAmazon書評・レビュー:オラクル・ナイトより
4105217143

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