雲
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| 奇妙で時にグロテスクな描写で知られるエリックマコーマックの、ある意味で真っ当な青春小説である。主人公のスティーン・ハリーが、その幼少期から青年期、結婚を経て、息子が成人する時期までの人生を、記憶をもとに一人称で語っていく。 スコットランド出身の文系で現在はカナダに住んでいる主人公は、作者の写し鏡といえそうだ。よくある物語と違い、主人公は主体的に何かを決定し、意欲的に行動するタイプではない。どちらかというと、状況に流され、対応していくうちに、様々な不思議な人々と出会い、様々な不思議な体験をする。 明確なプロットや起承転結のある筋立てではなく、いくつものエピソードが重層的に語られていく。粗筋が要約できないことは、自分の人生を要約することが難しいことと同じであろう。要約はできないのだが、ぼんやりとしてはいるが強い印象がいくつも読者の心に残っていく。 グロテスクで奇異なエピソードも多いのだが、妙な温かさやユーモア、心地よさを感じることのできる作品だ。長編ではあるが、いつの間にか読み終わってしまうことが寂しく、いつまでも「雲」の世界に留まっていたい気持ちになる。 これまで翻訳されている4冊のマコーマック作品の中でも、最高傑作だと思う。一人称の語りは村上春樹氏の一連の作品と同じだが、作品の質は最近の村上作品よりもずっと上だと感じる。お勧めです。 | ||||
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| タイトルの「雲」からして、本にまつわる謎解き、または黒曜石雲の事件を巡るストーリーか、と期待に胸踊らすも、主人公にまつわるストーリー展開。本との出会いは閉じられた過去への追憶のきっかけという事か。 ストーリー展開は一筋縄ではいかずバリエーションがあって面白かったが、黒曜石雲のエピソードが謎めいてこちらに期待が膨らんだ分、結末を迎えてなんだか肩透かしをくらった感がある。あの黒曜石雲は一体何だったのだろうか。そういう意味ではこれもリドルストーリー? | ||||
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| 昔、伊那地方?を扱った民族学関係の二巻本を読んで、しばらく spellbound の状態に陥ったことがある。この本を読んでそのことを思い出した。読者を魅するのにも似た型があるものだとの思いに至った。無理矢理の出会いから始まる恋愛要素だけ取り出せばはハーレクインかというような平凡極まるもので、その他も一応筋書きがあるようで、実はそれには重きが置かれているわけではないのではないか。民俗学的妄想・素材が適当に配置されるよう組み立てているだけではないか。そのためだとすると人物は話型を構成する単なる駒に過ぎないゆえ、妙に肉感をを伴って迫ってこないのも納得できる。この作品の魅力は folktale 風味付けのそのやり方にある。これは一種の発明である。 まあ、そうなのではあるが、優生学の延長上にあるようなエピソードも不快だし、「黒曜石雲」も落ちのないまま最後まで「黒曜石雲」だったし、終盤に近づいて表現がやけに回りくどくてやや失速を思わせるし。 ということで馬鹿高い原書や翻訳書を買わずに図書館で借りて大正解だった。 | ||||
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| この本の煽り文句に『幻想小説、ミステリ、ゴシック小説の魅力を併せ持つ』とあるが、この小説はそのどれでもない。特に、ゴシック小説的な部分は皆無といって良い。たとえ、謎の稀覯本、打ち捨てられた屋敷、暗く荒涼とした自然/街、異常な気象現象、ロボトミー手術を受けた怪物染みた女といったゴシック的要素が散りばめられていたとしてもだ。 なぜなら主人公および主要な登場人物のなかに『ゴス』な人物が一人としていないからだ。 この小説をあえて評するならば、「家族」をテーマとしたロードノベルといったところか。 まあ、小説としては巧みで十分面白くはあるのだが、私のように最初に提示した煽り文句に惹かれた読者にとっては物足りない感も否めない。 実は、マコーマックは初読ではなく、『隠し部屋を査察して』と『ミステリウム』は読んでいるのだが、だからこそ、あの作者でもってあの煽り文句とくれば、これは読まざる得ないなと思ったわけだ。 あと、たしかに読みやすいと言うか、リーダビィリティは良い。小説好きの人にも、この点を評価する人が多いと思われるが、通常の小説においては、それは称賛されるポイントになりうるだろうが、怪奇・幻想を旨とする小説においては、欠点とまで言うと明らかな言い過ぎだが、少なくとも評価のポイントにはなりえないと思う。 | ||||
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| 長いお話は4部構成になっており、愛する人にダンケアンという街で捨てられた所から、傷心の旅に出て、再び戻ってきて、愛する人の謎にせまっていきます。 どこまでが本当の知覚で、どこまでが幻覚なのか、入り混ざって独特の世界観が繰り広げられていました。 途中のグロテスクな描写など、評価は分かれると思います。 | ||||
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