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機龍警察



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機龍警察の評価: 6.86/10点 レビュー 7件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.86pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

未来版『新宿鮫』と呼ぶに相応しい

シリアスな国際犯罪警察小説に少年たちの心をくすぐるパワードスーツを絡ませたらどんな物語になるか。
それを実証したのがこの『機龍警察』である。まさにこれこそ大人の小説と少年心をマッチングさせた一大エンタテインメント警察小説なのだ。

まず物語のガジェットとして強烈な印象を残す龍機兵、通称ドラグーンは以下の3機。

姿俊之の操る龍機兵は市街地迷彩が施されたアイルランドに伝わる原始の巨人の名に由来する『フィアボルグ』。
ユーリ・オズノフが操るのはイングランドに伝わる妖犬の名が与えられた漆黒の竜騎兵『バーゲスト』。
ライザ・ラードナーのそれは「死を告げる女精霊」である『バンシー』の名を冠せられた一点の曇りもない純白の龍機兵だ。
もうこういう設定だけでも少年心をくすぐって仕方がない。

また各登場人物の謎めいた過去もまた読者をひきつける。

まずは龍機兵に乗り込む雇われ警察官、姿俊之、ユーリ・オズノフ、ライザ・ラードナーの3名にどうしても興味が行く。

早々に苦い過去が判明するのがユーリ・オズノフだ。
元モスクワ民警の刑事でありながら在職中に殺人その他の容疑で指名手配になり、国外へ逃亡しアジアの裏社会を転々とした後、警視庁に雇われる。元警察出身者であるため、考え方は他の2人と比べて警察に対する仲間意識が高く、冒頭の突入作戦で殉職したSATの突入班長荒垣の葬儀に唯一人出席したりもする。
しかし忌み嫌われる特捜部では他の警察官からは罵倒と中傷を浴びされられ、さらに雇われ警察官という立場から特捜部でも白い眼で見られる存在であることが警察官の心を持つことで強いジレンマを抱えている。

姿俊之はかつて『奇跡のディアボロス』、『黄金のディアボロス』と評された超一流の傭兵部隊の生き残り。軽口を叩き、どんな状況においても動ぜず、冷静に物事を見据える男。本書は彼のかつての戦友王富国と王富徳が今回の敵として現れ、彼の過去が断片的に語られる。

そして名を変え、警視庁の雇われの身になっているライザ・ラードナーは元IRFのテロリスト。自身を落伍兵と呼び、特捜部に入ったのも自らの死に場所を選ぶためで、常に虚無感を湛えた表情をしている。

そして龍機兵の整備を担当する特捜部技術主任の鈴石緑は幼い頃に両親をIRFのテロ行為で亡くし、テロリストに対する憎しみを拭えないでいる。

さらに特捜部を仕切る沖津は外務省出身の謎めいた存在で常にシガリロを吹かし、冷静沈着さを失わない。

彼の許に城木、宮近の両理事官と夏川、由紀谷両主任が控える。この両理事官、両主任ともがそれぞれ対照的な性格と人物像を備えているのが特徴的だ。城木と由紀谷が独身でかつ痩身の優男であり、常に冷静に物事を見て判断する傾向がある。しかし由紀谷はかつて荒れていた過去があり、時折氷のような冷徹さが垣間見える。

宮近、夏川は感情を表に出す性格で、宮近は上昇志向が強く、特捜部に配置されたことを快く思っておらず、他の部署へひそかに情報をリークさせる、いわばスパイであり、またお堅い警察組織を具現化したような存在でもある。一方夏川は柔道を嗜む日に焼けた典型的な体育会系の男で、警察官であることに誇りを持つ熱血漢でもある。

これら個性的な面々が揃った特捜部とは実は警察内で仇花的存在となっている。
「狛江事件」という密造機甲兵装に搭乗した韓国人犯罪者によって起きた3名の警察官殉職と人質の男子小学生を亡くすという痛ましい事件。それも神奈川県と東京の県境で双方の縄張り争いも一因だったという不祥事ともいえる事態がきっかけとなって設立された外部の傭兵と契約し、最先端の機甲兵装龍機兵を供与され、銃の携行を許された特捜部SIPD。

しかし外部の、しかも素性が解らぬ犯罪者まがいの傭兵を招聘し、そんな彼らに警察官の誰もが乗りたいと願う最先端の機甲兵装を奪われ、さらには特捜部に入った警察官は無条件で階級を挙げさせられるため、警察内部では異分子扱いされ、特捜部に入った者はかつての同僚のみならず周囲から裏切者扱いされるという孤立した組織になっている。

特に本書では特捜部主任の夏川と由紀谷の2人が馴染みの店に飲みに行くと後から来た後輩や先輩からも疎まれ、さらには店の女将からも迷惑だから来ないでくれと云われるエピソードがあり、それが特捜部員の孤独感を一層引き立てる。

いわばこれは21世紀の『新宿鮫』なのだ。大沢在昌によって生み出された警察のローン・ウルフ、鮫島を組織として存在させたのがこの『機龍警察』における特捜部SIPDであるとも云えよう。

本書の敵は龍機兵の操縦者の1人姿俊之の元戦友、王富国と王富徳。かつての仲間が敵となる。姿はビジネスライクにそれが我々傭兵たちの仕事であり、珍しい事ではないと割り切って応えるが、挿入されるモノローグで語られるかつて同じ戦地で闘い、死線を潜り抜けてきた敵2人との関係はその自嘲的な言葉とは相反する感情を示している。それでも姿という男がぶれないことでこの人物の強さが非常に強く印象付けさせられた。

警察官でありながら、警察から白い眼で見られ、明らさまに罵られたり、行きつけのお店からも追い出される。そんな確執を抱えながらも日々過激化する機甲兵装を使ったテロリストたちと命がけの戦いを強いられる特捜部たちの姿が骨太の文体で頭からお尻まで緊張感を保ったまま語られる。
つまり本書は機甲兵装というパワードスーツが暴れる犯罪者たちを最先端の技術を駆使して生み出した警視庁のパワードスーツが打倒するという単純な話ではなく、このSF的設定が見事に組織の軋轢の狭間で額に汗水たらして捜査に挑む警察官たちの活躍と結びついた一級の警察小説なのだ。
更にその警察機構の中に外部から雇った傭兵、警察崩れ、そして元テロリストという異分子を組み込み、戦争小説の側面もあるという実に贅沢な物語である。しかもそれらが見事に絶妙なバランスで物語に溶け合っている。この1作に注いだ作者の情熱と意欲は見事に現れており、読者は一言一句読み逃すことができないだろう。

ただ嬉しいことに本書はまだシリーズの序章に過ぎない。

そして三人の雇われ警察官、姿俊之、ユーリ・オズノフ、ライザ・ラードナーたちと警察機構の中で忌み嫌われる存在特捜部SIPDの沖津部長、城木、宮近両理事官、夏川、由紀谷両主任、そして鈴石技術主任らのイントロダクションを果たすのに十分すぎる役割を果たす作品である。

さてこれからのシリーズの展開が待ち遠しくてならない。
『機龍警察』は21世紀の『新宿鮫』となるか。
この1作を読む限りでは十分その可能性を秘めて、いや既にその実力を持っていると断言しよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ロボットSFと警察モノの融合

ロボットSFとハードボイルド警察をミックスさせたストーリー。どちらも好物な私はとても楽しく読めました。姿が主人公っぽいけど、謎めいた沖津部長のキャラも負けていない。姿たち特捜部突撃班の活躍と曲者揃いの彼らを統率する部長の手腕が見どころ。最初から続編ありの流れだからみんなの過去はこれから徐々に明らかになっていくのでしょうね。今回は龍機兵の活躍は少なめだったので、そこは続編に期待したいと思います。

ひよこ
3LIR0NV9

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