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クレィドゥ・ザ・スカイ



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クレィドゥ・ザ・スカイの評価: 3.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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(3pt)

文庫の表紙の色は飛ばないキルドレの話だからか?

スカイ・クロラシリーズ第5作目にして最終巻の本書は飛ばないキルドレの話だ。
主人公僕の第一人称で語られる本書は病院から脱け出した僕の逃避行が主に語られ、本書の専売特許である空中戦はなかなか出てこない。

さて主人公の僕は薬の影響で記憶を喪い、ぼやっとした印象で覚えのある人物を頼る。

最初に頼るのはフーコだ。病院を抜け出したクリタは前作でも親しい仲であった彼女を頼って匿ってもらう。そして彼女の提案で旅に出るのだが、彼が記憶を思い出して連絡を取る相手は相良亜緒衣。キルドレの秘密を研究する医者だ。

しかし主人公の僕は薬の影響下にあり、自分の名前を思い出せないでいる。そして薬の効果が薄れるにしたがって、記憶が断片的に戻り、自分を取り巻く人々の名前を徐々に思い出す一方で、時折フラッシュバックのように幻覚が現れる。

それは脱走した彼を追ってきた草薙水素の姿であり、彼は幻の草薙に撃たれたり、もしくは逆に幻の彼女に撃ってほしいと頼まれたりする。主人公の僕が望んでいるのは死。

そして幻覚の中では彼はカンナミ・ユーヒチだったりと一向に存在が定まらない。

本書の最たる特徴は上にも述べたように空中戦のシーンがなかなか出てこないことだ。逃亡中の彼の夢想の中で空を飛ぶシーン、ティーチャと戦うシーンが断片的に語られるが、実際に主人公の僕が操縦桿を握って空へ飛び立ち、敵機と戦うのは2回。

まずは相良亜緒衣の家を急襲してきた追手たちから逃れるために彼女の持っていた飛行機で逃げ、追手のヘリコプタを振り切るシーン。これが何と239ページで登場する。

次は相良亜緒衣の同志たちのアジトを追ってきた会社の戦闘機と戦うために彼らが所有していた散香を操縦して迎え撃つシーン。これが293ページ目だ。

つまりキルドレという永遠の子供である飛行機乗りを主人公に据えたシリーズの最終巻が最も飛行シーンが、空中戦が少ない作品となったのである。

また相良亜緒衣はキルドレ達が属する会社にとっては危険人物であることが本書では強調される。彼女は初めてキルドレの謎を解き明かした科学者であるとされており、永遠に子供であるキルドレ達から呪縛を解き放して普通の人間にしてあげようと思っているのだ。その彼女の考えに同調する人物たちがいたことが本書では判明する。

さて今までこのシリーズの文庫版の表紙は単色で飾られており、その色を実際の空の色に擬えてそれぞれの作品への思いを馳せてきたが、本書の表紙の色は黄土色だ。

これは即ち空ではなく、土の色だ。
上に書いたように本書は空ではなく、大地を駆けるキルドレがずっと描かれている。つまり飛ばない、いや飛べないキルドレの物語だった。従って本書は今まで空を飛んできたキルドレが長く移動してきた大地の色に擬えているのだろうと思う。

そして題名の“Cradle the sky”。ここで使われるCradleは通常ならば「ゆりかご」という名詞として使われるが、skyという目的語があるため、動詞扱いになる。従って直訳すれば「空をあやす」となろうか。
しかしそれは何ともおかしい。やはり「空のゆりかご」と訳す方が正しいのだろう。

薬によって記憶が曖昧になった主人公の僕は散香に乗って空に飛び立ち、再び戦闘機乗りとなって復活する。つまり空に飛び立つことで彼はまた生まれ変わったのだ。本来の戦闘機乗りのキルドレとして。つまり空こそ彼が生まれ変わるゆりかごであった、そう捉えるのが妥当だろう。

そしてこの永遠の子供であるキルドレという設定をなぜ作者が盛り込んだのか。その理由を垣間見えるエピソードがある。

早く大人になりなさいと云われる常識は即ち大人こそが人間の完成形のように云われているが、それは大人にとって子供が目障りな存在だからだ。子供は大人の大事にしている原則を覆すからだという件だ。
これは恐らく今なお趣味に没頭する子供のような作者自身の思いを反映したエピソードだろう。なぜ子供っぽくてはいけないのだと抗議しているように思える。

また興味深かったのが年を取るにつれて忘れっぽくなることについて述べられた部分だ。それは単純に脳が退化しているのではなく、同じルーチンが増え、無意識に処理するようになり、脳を介さずに短絡的に処理しているから記憶に残らないのだ、と。つまり朝を起きたら顔を洗う、ご飯を食べる、歯を磨くなどが無意識で行っていることで記憶されず、時にあれ、顔洗ったっけ、ご飯食べたっけと思い出せなくなるというのだ。
これはかなり納得した。正直このように思うことが多々あるからだ。次のことや他の事を考えて行動するから、寧ろそのことを意識せずに他のことを考えながらルーチンが出来るからこそ忘れてしまうのだ。
いやあ、この考えは面白い。いつかどこかで使いたい論理である。

さて本書はスカイ・クロラシリーズの最終巻であるが、1冊だけ実は残されている。短編集の『スカイ・イクリプス』だ。それは恐らく外伝的な内容かと思われるが、そのような短編集は本編では語られなかったエピソードである傾向が強く、従って本編を補完する内容であると思われる。

本書で抱いた謎について補完されることを期待して、正真正銘の最後の1冊に臨むことにしよう。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S

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