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模造人格



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【この小説が収録されている参考書籍】
模造人格
模造人格 (幻冬舎文庫)

模造人格の評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

あなたをあなたたらしめているのは本当はあなたではないのでは?

ある日目覚めると女になっており、しかも5年の月日が流れていたというトリッキーな作品『僕を殺した女』でデビューした北川歩実氏の3作目が本書。デビュー作同様に「自分探し」、即ち自分の存在意義そのものがミステリという作品になっている。

本書の謎は1点に尽きる。
それは木野杏菜と名乗る女性は本物なのか?

この木野杏菜という女性は4年前に殺害されたはずの女性なのだが、再び娘を殺された親たちの許に姿を現す。しかもその登場の仕方は10年前と同じで、彼女の育ての親、木野茜によって指定のホテルのレストランで待ち合わせる。

しかし彼女は連続婦女暴行犯江尻静夫によって彼女の友人森島美緒、日田麻夜らと共に殺害されたはずだった。しかし過去を調べていくうちに木野杏菜は江尻の恋人であり、それが原因でクラスの中でも孤立し、親しかった美緒と麻夜たちから避けられていた節があり、彼女はそんな2人に対して復讐するために江尻と狂言誘拐を図り、そして江尻と共に2人を殺し、自分の身代わりを仕立てて杏菜自身も殺されたと見せかけようとしたとの疑いが出る。

しかし一方で事件の4年後に再び木野茜によって美緒と麻夜の親である森島とその息子政人と日田、そしてかつて杏菜が養子として世話に預けられた外川家の長男大樹らに引き合わされた木野杏菜は交通事故で記憶を亡くした別人の三原理香子という女性であると彼女の親で精神科医の西浦義明という人物が出てくる。彼は娘を亡くしたショックで心神喪失状態だった彼女の生みの親、外川円夏の依頼で自分の娘理香子を円夏に与えて彼女を第2の杏菜にしたのだという証言まで出てくる。

そのどれもが信憑性があり、そしてそのどれもが疑わしい。
この1人の女性、木野杏菜の正体が本人なのか、それとも木野杏菜の記憶を刷り込まれて作られたコピー、即ち模造人格を植え付けられた別人なのかがはっきりしないのは渦中の人物である木野杏菜が記憶喪失であるからだ。

謎自体はシンプルながらデビュー作同様、とにかくこの北川歩実という作家はこの1つの謎をこねくり回す。

再び現れた木野杏菜、即ち外川杏菜は本人ではなく、木野茜が外川の遺産を横取りするため外川杏菜の記憶を刷り込ませた別人だ。

いや、4年前に殺された杏菜は別人で、彼女こそは交通事故で記憶喪失になった本当の外川杏菜だ。

この2つの選択肢を行ったり来たりする。

上に書いたようにこの2つの選択肢をそれぞれ真実として補強するために関係者が現れ、新たな事実が判明していく。

しかし驚かされるのはたった1人の女性の正体を突き止めるのにかなり多くの人物が関わっていることだ。

最初は子供に恵まれない夫婦木野茜と鹿島幸平の2人に杏菜という赤ん坊が授けられた。

この赤ん坊は木野茜が懇意にしていた小学校時代の先生だった山内ミサと夫で診療所を経営する順次から紹介された。未成年の少女が身ごもって生んだ子供がその赤ん坊だった。

しかし夫と別れた茜に代わって杏菜を育てる人物が現れる。その人物外川円夏は実は山内夫妻の娘で杏菜の実の親だった。

木野杏菜は外川仁という医者と彼の連れ子である大樹を加えた4人家族の一員となり、外川杏菜となる。

そして外川家と親しい同じく医者の日田昭夫とその娘麻夜、弁護士の森島治郎とその息子政人と娘の美緒が加わり、杏菜は政人に恋をし、麻夜と美緒と友人になる。

そしてこのグループに亀裂が入る原因となったのが森島が弁護を担当していた連続婦女暴行犯江尻静夫が杏菜と美緒と麻夜を誘拐して殺害することで狂ってくる。そしてその中には会田由紀子という別に誘拐された少女もいた。

更に西浦義明という精神科医が加わり、彼の娘で交通事故で記憶喪失になった三原理香子という女性が木野杏菜のコピーか否かという謎へと展開する。

1人の人物の記憶を巡り、その波紋がどんどん大きくなり、そして影響を及ぼしていく。

それは単純に人助けではなく、外川家の資産を巡る金儲けの側面を孕んでくる。

さてこれほどまでにこねくり回された木野杏菜を巡る事の真相は一応解決されるが、我々の記憶というものは何とも薄弱なものだろうかという思いが残る。
これは単に物語の上での話ではない。
例えば仕事でも自分のミスを認めようとしたくないがために、やっていないことをやったと記憶をすり替える。

また声の大きい人が語った根拠もない話を事実だと受け止めようとする。

それほど我々の記憶というのは薄くて弱くて脆いものなのだ。

では自我を形成する人格とはいったい何によって立脚しているのだろうか?
自分が自分であることの根拠はそれまで歩んできた人生という記憶ではないか。

しかしその記憶が薄くて弱くて脆いものであるならば、いとも簡単に人の人格は変えられてるのではないか。

これが本書の語りたかったことだろう。

もし貴方が貴方であると訴えても周囲が信じようとしなかったら、貴方は貴方であることを自分自身が信じていられるだろうか?

結局我々の現実というのは自分だけの確信だけで成り立っておらず、それを支持する他者の意見によって補強され、そして確立しているのだ。

どれだけ自分を信じてもそれを他人が受け入れなければ、そして他人が頑なに信じたことを押し付けれれば、そしてそれが多数を占めれば我々一己の存在などすぐにでも上書きされてしまう。

なんともまあ、恐ろしいことを見せつけてくれたものである、北川歩実氏は。
この作品を読んだ後、貴方は確かに貴方自身であると胸を張って証明できるだろうか。
正直私は自信が無くなってきた。

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