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真冬に来たスパイ



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【この小説が収録されている参考書籍】
真冬に来たスパイ (ハヤカワ文庫NV)

真冬に来たスパイの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 -ランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

過ちは決して墓場まで持っていけない

今なお小説の題材として語られるキム・フィルビー事件。
イギリス秘密情報機関の切れ者であり、高官の座に一番近いと云われていた男がソ連のスパイだったという衝撃的な事件は恥ずかしながら私も最近になって知ったのだが、本書はこの稀代のスパイを育て上げた伝説のKGB部員オルロフが自身を暗殺しようとする謎の人物を追って国を跨って捜査をするという物語だ。
それは同時にKGBがイギリスに、いや世界各国の共産主義思想を持つ人物たちをどのようにスパイに仕立て上げたかを語ることにもなるのだ。

この虚と実が入り混じった物語展開は一方でフィクションと思いながらも、もう一方では実話ではないかと錯覚してしまう。この錯覚は物語の終盤でさらに加速する。

なんとキム・フィルビー本人が登場するのだ。一連の事件を捜査するオルロフは当時イギリスに潜んだモールたちを束ねていた自分以外にこの男が別の諜報部員を組織していたのではないかと疑って密会するのだ。しかしフィルビーはそれを否定しながら、事件を解くある重要なカギをオルロフに与えて退場する。

この作品にはフィルビー以外にもいわゆる「ケンブリッジ・ファイヴ」と呼ばれたスパイたちも実名で登場する。主人公オルロフが彼らを仕立て上げた伝説のスパイとされているため、彼らの為人を詳細に語るシーンが出てくるのだが、不思議なのはどうやってバー=ゾウハーはここまで人物を掘り下げることが出来たのかということだ。
まるで実際に逢ったかのようだ。それほどまでにリアルに描写している。

これは老境に入ったスパイたちが過去を清算する物語だ。イギリス政府上層部にスパイ網を作り上げた伝説のスパイ、アレクサンドル・オルロフはアメリカのフロリダで隠居生活を送っていたところをわざわざイギリスに赴き、彼が現役時に成した諜報行動を語ることにしたのはひとえに彼の前妻ヴァージニアの娘に逢うためだった。

しかしそれが眠っていたかつてのスパイたちの安寧を揺さぶる。忘れ去られようとしている各国間の情報戦の最前線にいた彼らが数十年も経って過去をほじくり返されることを怖れ、消し去ろうと躍起になる。当初それは秘密を墓場まで持っていくことを強要するKGBによる粛清かと思われたが、実はスパイであったことを知られたくない元工作員による過去の清算ではないかとオルロフは推理する。

しかし真相はさらにその予想を上回るものだった。

スパイ活動に時効はない。特にそれを今の政府高官が指揮していたとなると国の国際的信用を揺るがすスキャンダルに発展する。バー=ゾウハーは現時点での最新作『ベルリン・コンスピラシー』でも歴史の惨たらしい暗部に携わった人々の罪が決して時間によって浄化されることはないと痛烈に謳っているのだ。

しかしなんという深みだろう。
最後はオルロフが述懐する、この物語の本質を実に的確に云い表した言葉を添えて、この感想を終えよう。
“諜報活動のからくりは、じつに複雑怪奇だ”


▼以下、ネタバレ感想

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