■スポンサードリンク


チックタック



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

チックタックの評価: 7.00/10点 レビュー 1件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

ところどころおかしな訳が気になった

とにかく今回の作品は、いきなりクライマックスから始まる。今までのクーンツ作品と違い、今回はなぜトミーの許に呪術を施されたような人形が送りつけられ、彼を襲うのか、その経緯がまったく解らないまま、最終章の前章まで逃亡劇・闘争劇が続く。
訳が解らない物ほど怖い物はないということだろうか、今回のテーマは。

さて今回の主人公トミーは両親と2人の兄と共にヴェトナムから逃亡してきた移民だが、歳の離れた彼らと違い、ヴェトナム人であるアイデンティティを固持せず、あえてアメリカ人として同化しようとしている。ファン・トラン・ツォンから改名し、アメリカ人的な名前、トミー・ファンと名乗り、家族の経営するベーカリーを手伝わず、医者にしたいという親の期待を裏切り、大学でジャーナリスト科を専攻し、新聞記者となり、作家業へと転身する。しかし、そうやってヴェトナム人であることを捨てようとすることで、家族と疎遠になることもまた寂しく思っている、そんなありきたりな移民系アメリカ人だ。
クーンツはかつて日本人を作品に登場させた事があり、日本人の描写、日本文化に関する叙述の詳細さに驚嘆した覚えがあるが、今回のヴェトナムに関しても恐らくその辺の詳細さに関しては同様だろう。ヴェトナム人が好むソウル・フードに関する叙述はそのまま日本人が抱く感覚でもあるし、またヴェトナム人が非常に勤勉な民族であること、また圧政からの反骨精神から根っからの闘士である点など、凡百の移民と思われたトミーが何故この物語の主人公に選ばれたのか、つまりこの訳の解らない苦難に打ち克つための根拠がこのヴェトナム人という設定に込められている。
またこの怪物がなぜトミーの許に送られることになるのかも、この設定に拠っているところが大きい。

また物語の前半でトミーの相棒となるデラ・ペインなるエキセントリックな女性も、なかなか魅力的ではある。最初はその飛躍した会話、性格から作りすぎている感が強かったが、トミーが彼女の一見突拍子のない会話の中に彼女特有の哲学と真実を見通す目から話されている的確さを悟るあたりで、彼女の人と成りが腑に落ちてくる。
このデラ・ペインは先に読んだ『対決の刻』に出てくるスペルケンフェルター姉妹の原形のような人物像である。なぜこのような“作られた”ようなスーパーウーマンが出てくるのか、それは最後に明らかにされる。

そして犬好きのクーンツ、本作でもまた犬が出てくる。スクーティーというデラが飼う黒いラブラドール・レトリーバーだ。
しかし、本作では『ウォッチャーズ』や『ドラゴン・ティアーズ』、『対決の刻』のように主役、もしくはキー・プレイヤーのような役回りではなく、あくまで物語にアクセントを加える道化役に留まっているように感じたが、やはりクーンツ、最後にとんでもない設定を用意してくれた。

ところで作中、日本人は毎日豆腐を食べるから前立腺癌の発症率が低いという叙述があるが、本当だろうか?
確かに日本人は前立腺癌に罹って死ぬという話はあまり聞かない。本書に拠れば男性の死亡原因の3、4番目ぐらいに位置するらしい。アメリカに限った話か、国際的な統計か解らないが、なかなか面白い挿話である。

しかし、今回の訳はところどころ首肯せざるを得ないおかしい箇所があった。まずトミーの購入したコルベットの色を“明るいアクアメタリック”と訳すのはどうかと思う。これはそのまま英語をカタカナ表記すべきだろう。
“フーティーやブロウフィッシュ”は明らかに”Hootie&The Blowfish”のことだし、“ショウガクッキー”も“シュレック”に出て来た“ジンジャークッキー”のことに違いない。
訳者は誰かと思ったら、なんと海外文学に造詣が深い風間賢二ではないか!取材を怠ったか、さらには下請けに出したとも誹られてもおかしくない怠慢さである。
またこれを校正した上で出版した扶桑社の姿勢もまた眉を潜めざるを得ない。出版不況・海外ミステリが売れないと嘆かれているが、訳者・出版社がこんな調子では、現状打破は望めるべくもなく、それも無理からぬと気がせんでもない。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!