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霧の国



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【この小説が収録されている参考書籍】
霧の国 (創元SF文庫)

霧の国の評価: 3.00/10点 レビュー 1件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.00pt

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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

貴方は霊を信じますか?

チャレンジャー教授シリーズである本書ではドイル自身も晩年傾倒した心霊主義を前面にテーマにした作品である。

自分の見た物しか信じなく、持論を疑おうとする人物を徹底的なまでにこき下ろすチャレンジャー教授はもちろん本書では心霊術を疑っており、頭ごなしに非難する。心霊術を肯定するドイルが真逆の人物を主人公に据えて心霊術をテーマにしたことが実に興味深い。

また本書では1920年前後の心霊術に対するイギリスの冷たい反応と司法による魔女狩りさながらの弾圧裁判の様子が描かれているのも当時の世相を反映した貴重な資料となっている。

新聞記者マローンの目を通して本書では恐らく当時方々で行われた心霊術の会合やエクトプラズムの実体化の有様が語られていく。それらは心霊の存在とそれを視認できる霊媒師の特殊な能力が実在したかのように迫真性をもって描写させられる。
シャーロック・ホームズシリーズにおいては不可解事を論理的な解明がなされるのに対し、このチャレンジャー教授シリーズでは超常現象はそのまま超常現象として語られる。

そしてこのシリーズの進行役である新聞記者エドワード・マローンがチャレンジャー教授に霊媒師に引き合わせ、霊の存在を信じさせようと決心してからが実に長い。142ページでマローンが決心した後、ようやくチャレンジャー教授が重い腰を挙げるのが264ページと、実に120ページが費やされる。
この幕間に何が書かれているかと云えば、マローンが重ねる交霊会の模様と心霊術信者たちが当時被った警察による不当な逮捕の数々である。キリスト教やカトリックと云った神の存在を信じる一方でイギリス人は霊の存在を否定し、詐欺だとして魔女狩りめいた弾圧を行うのが矛盾しているのだが、見えない何かを信じる事、また産業革命以来、科学の最先端を行く時代において、いかがわしい物を信じることが異端であり、また潜在的に恐ろしく思っていたのだろう。

さてこの120ページ強の話を経てようやくチャレンジャー教授のお出ましとなるのだが、実は彼の登場こそがこの物語のクライマックスであったのだと気付かされる。

正直物語としてはこれだけの話なのだが、ドイル作品の中では文庫本にして約340ページとかなりの分量を誇る。
これはドイルがいかに世間一般に交霊会を信じさせることに腐心したかを思い知らされる。つまり本書はドイルにとって心霊術布教の書であるのだ。

そして頑なに心霊術を信じず、撥ね退けてきたチャレンジャー教授こそ作者ドイル自身を投影させたキャラクターだったと気付かされる。つまりチャレンジャー教授のようにドイルもまたなかなか霊の存在を信じようとしなかったのだろうか。

このチャレンジャー教授シリーズは超常現象を題材にしたSF古典とジャンル分けされている。
しかしホームズシリーズと違って、謎が論理的に解明されるカタルシスに欠けている。ただ頑迷な教授が霊の存在を信じるに当たり、娘のイーニッドが霊媒になるという展開は予想外であり、また心変わりするのに十分説得力のある設定だった。

しかしながら―シリーズ第1作目が未読なので正しい理解とは云えないだろうが―このシリーズは物語の構成として起承転結の結が実にすっきりせずに終えてしまうのが実に残念だった。
ただ題材は面白いので、誰かが設定を借りて新しいチャレンジャー教授物語を映像化してくれることを願いたい。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
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