霧の国
【この小説が収録されている参考書籍】 |
■報告関係 ※気になる点がありましたらお知らせください。 |
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.00pt |
■スポンサードリンク
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
チャレンジャー教授シリーズである本書ではドイル自身も晩年傾倒した心霊主義を前面にテーマにした作品である。 | ||||
| ||||
|
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
この作品、心霊小説的なSFとしては傑作の部類ですね。おもに心霊現象をあつかった小説で、読後は、「もう死は恐くない」と読者に感じさせずにはいないような描写力、説得力を持っています。しかも、冒険にも事欠かないストーリー性も備えています。 『失われた世界』でおなじみのエドワード・マローンと、チャレンジャー教授の娘イーニッド・チャレンジャーが、取材のために、二人して心霊教会へ出発しようとしているところから物語は始まります。ちなみに二人は恋人同士。 マローンもチャレンジャー教授も、相応に年を重ねています。かたや、教授の娘イーニッドは、お年頃です。なお、教授の妻はすでに他界しています。 さて、心霊教会についてはマローンは懐疑的であり、チャレンジャー教授にいたってはインチキ、イカサマと頭からバカにしている。しかし、その教授は妻を葬った(火葬にした)夜、不可解な体験をしているんです。 そして、そのことをマローンや娘イーニッドに話して聞かせる。 心霊教会でマローンとイーニッドは、さっそく不思議な体験をします。デッブス夫人の超能力!! ここで、やはり『失われた世界』でおなじみのサマリー教授(すでに故人)が出てくる。 つづいて、ハマースミスの食料品商ボルソヴァー家での奇怪な出来事と、畳みかけるように不可解な話が語られる。 すなわち、"ちいさな子"(ボルソヴァー家特有の小娘先達(ガイドさん))および、第六天球層から来たという"高い霊(先達)"ルーク、さらにはレッド・クラウドと呼ばれるインディアン支配霊などなど。 最初は胡散臭いものを感じていたマローンとイーニッドは、それらの非常にリアリティーのある実話に、内心かなり動揺します。 その後、善良なロンドンの霊媒トム・リンデン氏の交霊会での体験により、マローンとイーニッドの心は、ますます霊の存在を信じるほうへと傾く。と言うのも、マローンはこの交霊会で、自分の死んだ母親に会うことができたのです。霊媒としての過度の集中で、リンデン氏自身は疲れ果ててしまいますが。 ところが、上記の交霊会の翌日、疲れ果てているリンデン氏の家に二人の悩める婦人がやってきて、亡くなった夫との交霊を希望します。過労のためか、リンデン氏はうまく交霊ができずに混乱してしまう。 実は二人は婦人警官であり、交霊会のインチキをあばこうとするスパイだったのです。 この女性スパイ二人によるリンデン氏の告発、裁判、リンデン氏の敗訴、逮捕、投獄と、事態は急に悪いほうへと向かいます。 ここで物語はかわって、マローンは、上司マッカドールから、これも『失われた世界』でなじみのロクストン卿に会いに行くように勧められます。 ロクストン卿は新たな冒険をもとめ、チャールズ・メイソン牧師とマローンを引き連れて、悪霊が住み着き奇怪な事件(自殺など)が頻発していたマジョレ壮にひと晩滞在し、悪霊の正体をつきとめようとします。 時あたかも真冬。この部分、全編中でも一番スリリングな冒険の場面です。ハラハラドキドキです。 深夜、予想通り悪霊が現れるが、そのパワーたるや凄まじく、ロクストン卿ら三人は、悪霊の力によって、マジョレ壮から叩き出されてしまう。 だが、メイソン牧師だけは勇敢にもマジョレ壮に戻り、みごと悪霊を説き伏せて無害化することに成功する。こうして一夜の大冒険が成功裏に終わる。 次には、前に善良な霊媒として登場したトム・リンデン家の怪事件がくる。この怪事件にも、われらがマローンとロクストン卿が一枚加わる。 ことの発端は、善良な霊媒トム・リンデンの不肖の弟サイラス・リンデンの悪事である。 元ボクサーのならず者サイラス・リンデンが、生活にいきづまって、偽霊媒になってひと儲けしようとたくらみ、兄の善人トム・リンデンの家にやってくる。しかし、けっきょくサイラスの悪行計画は、マローンとロクストン卿の実力行使によって阻止される。これも非常に面白い物語でした。 場面かわって、ヴィクトリア駅で赤帽(駅で乗客の手荷物を運ぶ雑役夫)をしているターベイン氏による、メイリー家での心霊現象。この部分で、霊媒が苦しそうに、「ホーキン! ホーキン!……」と、もがく場面は後半の伏線として重要。 ほかにも様々な死霊がターベイン氏をとおして召喚される。 章が改まって、前に出た悪党サイラス・リンデン(偽霊媒)の最後が語られる。サイラスとその妻は、二人の可愛い子供(10歳くらいの男の子と7〜8歳くらいの女の子)を虐待していたが、隣近所の忠告や、子供たちの今は亡き実の母親の出現などが相次ぐ。そして、それらの果てに、悪党サイラス・リンデンは、希望していた職にありつけず、酒を飲んだあげくに地下蔵に落下して死んでしまう。 いっぽう可哀そうな子供たちは、亡き母親の霊に導かれて、トム・リンデン夫人の家の戸をたたき、慈悲深いリンデン夫人に保護される。 これ以降も、さまざまな摩訶不思議な心霊現象、交霊のドラマが畳みかけるようにつづきます。 最後には、頑固なチャレンジャー教授を心霊の世界へと開眼させるべく、マローンとイーニッドが協力して画策する。 そこでは、デリシア嬢という女性が重要な役割を演じます。 ウルスラという年若い女性を霊媒として召喚されたフェルキン博士によって、チャレンジャー教授の愛弟子ロス・コットン博士が、重い病気(動脈硬化症)から奇跡的に回復。 さらにトム・リンデンを霊媒とする交霊において、チャレンジャー教授が過去に犯した医療ミスによる患者の死が、実はそうではなく病死であることを教えられるいたって、ついにチャレンジャー教授は、心霊現象を心から信じるにいたる。 一読、心霊小説としては出色の作品だと感じました。心霊現象に興味のある方にはお勧めです。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
シャーロックホームズの作者、コナン・ドイル卿の作品。コナン・ドイルは実は心霊研究、スピリチュアリズムに傾倒していたことはあまり知られていない。この作品は小説であるが、心霊研究という実際に当時のイギリス社会を席巻していた科学的霊魂研究や、そこに関わった霊媒達が登場する。主人公は取材のために内心ばかにしつつも降霊会に入り込むが、そこで起こった現象を目の当たりにし、次第にその正しさを知っていくことになる。内容がとてもリアルで、おそらくはドイル卿の実体験をもとに書かれているであろう事は容易に想像できる。小説だからこそ、逆にリアリティーを持つ作品。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
「シャーロック・ホームズ」の生みの親コナン・ドイルが 晩年に記した心霊現象にまつわる啓蒙小説。 「啓蒙」といってもそこはドイル卿、例によって ユーモアたっぷりの表現や、チャレンジャー教授の 勇猛ぶり、ピリッとした皮肉もあり、お説教めいた ところはありません。 本書のチャレンジャー教授はラスボス扱いで、おもに 彼の若き親友にして助手(ついでに娘婿)のエドワード・ マローン記者が主人公。 心霊現象には懐疑的だが公平な考えの彼が、数々の驚異的な 出来事を目の当たりにし、到底否定できないばかりか、人類の 行く末を左右する重大な事柄であるのを理解する。 そして紆余曲折を経てチャレンジャー教授さえも認めざるを得 なくなる…というもの。 発行年が1925年ですが、当時の心霊主義(スピリチュアリズム) にまつわる数々のエピソードを網羅しています。 実際の交霊会がどのようにして行われ、かつまたインチキも行われるのか。 警察や社会がどうのように見、迫害するのか。 かと思うと悪霊のこもる家でエクソシストが活躍するなど、非常にバラエティに 富んでいます。 タイトルの「霧の国」の霧とは、こうした懐疑的な物質主義の無知蒙昧さの ことであり、その向こうにとてつもない広がりを持った世界がある…という。 本書を読んで最も驚いたのは、あとがきのある一節です。 「ドイルが初めて心霊術についての話を聞いたのは…1887年(28歳)の 時で、自分の患者からであり、同じ年に霊媒を通して死者の言葉を…」 これが本当なら、あの唯物主義の権化のような(正確ではありませんが) シャーロック・ホームズを書きながら、その裏では熱心に心霊研究へ 打ち込んでいたということ。つまり、ホームズ物は本当に「副業」に 過ぎなかったわけで、それなのに、あるいはそのためか、ホームズの 冒険譚が大変優れたもので、大人気となってしまった。 けれども、シャーロック・ホームズの一人歩きが著者にとってどれほど 迷惑だったか想像でき、大変面白いです。 本書の末尾、第二次世界大戦をすでに予感していたのか、暗雲を思い つつ一筋の希望を見出すマローン夫妻。 「個人なり国家なりにとって最大の危機は、その知的な面が 精神的な面より発達したときにある」という警句は、100年近く 経った今日でもまったく変わらず、それどころかますます重要味を 帯びてきていると言わざるを得ません。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
コナン・ドイルが、その死の5年前に発表した作品。 スピリチュアリズムの伝道旅行に晩年を費やしたドイルが、友人への手紙のなかで「この作品は私にとってたいへん重要であり」と、言っている。 作中人物に「(物理的心霊現象は)粗末な基礎工事のようなもので、・・・あの世から送られてくるもっと程度の高いメッセージ(の内容)」に価値がある、と言わせている。 コナン・ドイルの本音を、小説という形で表現している作品である。 訳書は1971年の初版の為、「心霊術信者」「心霊具現化」「先達」「題目」の訳語が古くさい感じがした。 頑迷なチャレンジャー教授の考えを、ドイル自身のそれと置き換えて読んでみると興味深い。 心霊の知識は当時の社会には受け入れられなかったとは言え、優れた心霊関係の書が広く公刊されている現代の私たちの目から観るとコナン・ドイルの鋭い炯眼に驚かされる。 ミステリー小説・SF小説ファン以外の幅広い読者にも読んでもらいたい作品である。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
チャレンジャー教授シリーズの1冊であり、また邦訳は創元文庫のSFシリーズから出版されているにもかかわらず、心霊現象を信じていたドイルにとっては、本作は空想的なSFでもファンタジーでもなかったのではないだろうか。とは言えあくまでフィクションなのだから、研究書としての厳密さを求めるべきではあるまい。ただし、心霊解釈にキリスト教的な道徳臭が強いのは、少々気になった。 チャレンジャー教授は心霊現象を頭から否定してかかる人物として最初登場するが、その後は『失われた世界』等でもおなじみの新聞記者マローンが、チャレンジャー教授の娘イーニッドと一緒に様々な心霊現象を体験する様子が描かれる。さらにロクストン卿も幽霊屋敷の挿話で登場し、最後はチャレンジャー教授が交霊会に立ち会うことになる。この決着部分の伏線が最初から張ってあるのは、ミステリ作家らしいところと言えるだろうか。 | ||||
| ||||
|
その他、Amazon書評・レビューが 5件あります。
Amazon書評・レビューを見る
■スポンサードリンク
|
|