(短編集)

陸の海賊



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初公開日(参考)2008年03月
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陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)

2008年03月31日 陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)

医学生が学費を得るためリングに上がる「クロックスリーの王者」、クリケットの国際試合に投入された秘密兵器「スペディグの魔球」といったスポーツに材を採る作品をはじめ、七つの海を荒らし回るシャーキー船長の非道ぶりを描く三編、堕落しかけていた若き地主が狐狩りを境に更生する「狐の王」や、名だたる勇将ジェラールの微笑ましい逸話「准将の結婚」など、挿絵も豊富な十一編を収める。英国紳士のたしなみとも言うべき主題に彩られた、ドイル・コレクション第四集。 (「BOOK」データベースより)




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陸の海賊の総合評価:8.25/10点レビュー 4件。Cランク


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全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(7pt)

もはやホームズの影は見えない、好短編集

東京創元社によるドイルコレクション第4集。
今回は非常にバラエティに富んだ内容となっているのが特徴だ。それぞれテーマがボクシング、狩猟、クリケット、海賊物とに分かれている。
順を追って各編に触れていこう。

まず最初の4編はボクシング小説。「クロックスリーの王者」は苦学生が学費を稼ぐためにボクシングの野試合に出るというもの。
次の「バリモア公の失脚」は同じボクシングを扱いつつも、ちょっと毛色の変わった内容だ。
ドイルのホームズ物を除く短編の特徴として怪奇譚が多いのが挙げられるが、これにボクシングをブレンドしたのが続く「ブローカスの暴れん坊」。
最後の「ファルコンブリッジ公―リングの伝説」はボクシングに男女の憎悪を絡めたもの。

ドイルの手によるボクシング小説というのは意外に思えるが、この手の格闘小説を書くというのは実はホームズシリーズにおいても第2部の事件の背景を語る物語でこのような話はあったから、なんら不思議には感じなかった。むしろそっちの方が水を得た魚のような躍動感溢れる筆致で書いていた印象がある。
「クロックスリーの王者」もボクシングに試合に出るまでの顛末から、ボクシングの試合描写の詳細さまで、手を抜くことなく書いている。結末もモンゴメリーの男意気を上げるようなもので爽快だ。
2編目の「バリモア公の失脚」は宿敵を失脚させるために甥が選んだ方法というのが女装して、バリモア公ならびにその用心棒を打ちのめすという趣向がウィットに富んでいる。
「ブローカスの暴れん坊」はやはりこれはよくあるパターンであると思わざるを得ない。
「ファルコンブリッジ公」も謎で引っ張るだけになかなか面白かった。

これらに共通しているのが減量・トレーニングの様子、そして負けても相手を讃えるフェアプレイの精神、倒れた相手には手を出さない騎士道精神といった英国紳士の気高さが表されていること。これらが選手の内面にも掘り下げられており、登場人物とともに試合前の緊張感、不安感を感じることが出来る。特にボクサーの肉体美を讃える描写が必ず挟まれており、ボクシングに対する思いがなみなみならない事を行間からも窺わせる。そして各編ともテーマはボクシングなれど設定はヴァラエティに富んでおり、逆にこういうのがドイルも書けるのかと新たな発見をした思いがした。

続く「狐の王」は狩猟小説。
狐狩りという狩猟をモチーフに有閑青年の教訓話が繰り広げられる。作品のプロットは凡百のものと云えるものだが、当時イギリスで行われていた狩猟シーンの描写が白眉で非常に写実的。また狩りのためなら他人の敷地に入ることも辞さず、またそれが許されていたというのも時代を感じさせ、面白い。

「スペティグの魔球」はなんとクリケット小説。
一介の無名の素人選手が、特異な球を投げられるというだけで、国際試合の投手として抜擢されるドリーム・ストーリーで、非常に映画に向いている話だ。クリケットについては無知であったが、それでも十分楽しめる。定番だが、やはりこういう話は面白い。

「准将の結婚」は短い喜劇のような話。プライドの高い軽騎兵隊の准将が遠征に訪れたフランスの自作農の娘に惚れ、結婚する話。とはいえ、兵士である彼は明日の命を知れぬ自分の職業柄、結婚には前向きではなかったのだが、逢瀬の帰り道に出逢った巨大な牡牛から逃げることで偶然にもプロポーズに至るという、笑い話。イギリス人、軍人のプライドの高さが他のストーリーでは登場人物らに一種の崇高さを与えているのに、この話では逆にユーモアを助長しているというのが面白い。

続く3編は海賊シャーキー物の短編が収められている。
「セント・キット島総督、本国へ帰還す」は悪名高いシャーキーが処刑される事になり、その採決を下した総督をひょんなことからロンドンまで乗せて帰ることになったジャック・スカロウ船長、最初はいやいやながら引き受けたが、次第に総督の人となりに他の船員達も打ち解け、また船長も総督に親しみを抱くようになっていくが・・・という話。
「シャーキー対スティーヴン・クラドック」は傾船手入れをしているシャーキーを彼の似た船を使って騙し、一網打尽にしようと企む元悪党スティーヴン・クラドックとシャーキー船長の騙しあいを描く。
「コプリー・バンクス、シャーキー船長を葬る」はタイトルどおり、かつての豪商コプリー・バンクスが妻と子供をシャーキーに殺され、復讐を企てる話。
スティーヴンスの『宝島』に代表されるようにかつては一大ジャンルを築いていた海賊物。いわゆる悪漢小説の類いとなるが、それが一時期隆盛を誇ったのも解る気がする。
ルパンに有名な怪盗物とならび、文字通り海千山千の強者が鎬を削り、騙し合いが日常茶飯事に行われる荒くれ者の日々、これが小説の題材として非常に魅力的なのは間違いなく、本作品もその例に洩れない。確かに小説のストーリー、プロットには斬新さは見られないものの、そこはかとないロマンが作品には漂う。男はやはり海が好きだということかもしれないが。

最後は表題作「陸の盗賊」。小村の野道を訪れる車を次々と襲う追い剥ぎの目的とは?といった内容。
この真相はいささか無理がある。ちょっとこれは意外性を狙いすぎだろう。

短編集も4集目を迎えて、さらにドイルの作家としての奥深さが解ってきた感じがする。ボクシング、狩猟、クリケットはまさにドイル自らが趣味として嗜んでいたものだからだ。
つまりこれらの短編を読んでいく事で作家ドイル自身の人となりが詳らかになっていくことになるのだ。

そして昔の英国紳士が持っていた騎士道精神なるものが作品には通底しており、これがまた非常に清々しい。更に今回気付いたのはドイルの風景描写の精緻さである。特に「狐の王」では姿の見えない狐を追っていくシーンが延々と綴られるが、その流れるような英国の田舎風景は正に写実的かつ映像的で、主人公とともに馬を駆って野山を一緒に駆け巡っている錯覚を覚えた。
更には当時の英国風俗・慣習を知ることにもなり、それらを補完する原書の挿絵が詳細で、資料的にも価値が高いように思える。

確かにストーリー・プロットは現代小説に比べれば、一昔も二昔も前の古めかしさを感じるのは否めないが、それ以外の付加価値が高い短編集だと思った。
予定で行けば次の第5集が最後らしい。次はどんな作品が読めるのか、楽しみになってきた。


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Tetchy
WHOKS60S
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No.3:
(5pt)

ドイルの作品発掘

ドイルはほかにも作品を書いていたのですね。安心していたら、発見して、購入。すらすらと読めました。
陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)より
4488101135
No.2:
(4pt)

「勝敗は神のみぞ知る」とある帯の推奨どおり・・・

テンポよく展開の速い、しかし古風な短編ストーリー作品集です。海賊の子孫である気質を備えた主人公らの勝負はどれも私たちの想像を超える舞台仕立て。
「言うな!この俺は、今まで何があろうと、たましいまでは売らなかったのだ」と海賊シャーキー船長に命乞いしない登場人物の台詞に共感するかたは一読してみては。
ストーリーテラーとの評価高いコナンドイルの他作品にも手を伸ばしてみるつもりです。
陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)より
4488101135
No.1:
(4pt)

スポーツ

コナン・ドイルの「ホームズ正典」以外の短篇を集めた傑作集。
 第4巻の本書は、スポーツを扱った小説を中心に編まれている。
 収められているのは、「クロックスリーの王者」、「バリモア公の失脚」、「ブローカスの暴れん坊」、「ファルコンブリッジ公−リングの伝説」、「狐の王」、「スペディグの魔球」、「准将の結婚」、「シャーキー船長行状記」「陸の海賊」の9篇が収められている。
 物語として純粋に面白い。ストーリーテラーとしてのドイルの魅力が存分に伝わってくる。
 それ以上に興味深いのは、ここに収められた作品たちが、19世紀後半から20世紀初頭にかけての、イギリス文化を色濃く写し出している点だ。スポーツというものが文化として成立する時期であり、そのなかでアマチュアとプロが生まれ、「フェア」という概念があらわれた。ボクシングの小説を多く取り上げた本書では、それが如実に見られるのだ。
 「准将の結婚」は、ジェラールものの未訳。
 「クロックスリーの王者」、「バリモア公の失脚」、「狐の王」は、翔泳社の『ドイル傑作集1』からの再録。
陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:陸の海賊―ドイル傑作集〈4〉 (創元推理文庫)より
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